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フェデラーのガリア戦記2009 (全仏スペシャルエディション)

 

2009年05月26日 城壁・皇帝・鷲

去年の全仏では、フェデラーはATPエントリーランキングNo1で第一シードとして全仏オープンに乗り込んできた。去年の全仏の段階では、男子主要選手の中で生涯グランドスラムに後一つと迫っていた選手はフェデラーだけだった。去年の欧州赤土戦線では赤土の上の要塞ナダルを倒す可能性を最も持ちうるのは「皇帝」と如空が呼んだフェデラーだった。
今年は違う。
去年の夏、フェデラーの長期政権は崩れ、ナダルがエントリーランキングNO1となり、ナダルはATPツアーに君臨する新しき覇王となった。政権交代が行われる直前のウィンブルドンで、フェデラーはウィンブルドンで六連覇をナダルに阻まれた。そして今年年頭の全豪でも両者は決勝で対決、ナダルが勝利した。ナダルは赤土だけでなく、芝、そしてハードコートと異なるサーフェイスのグランドスラムタイトルを手に入れた。ナダルは残す全米タイトルを取れば生涯グランドスラムを達成する。フェデラーの他に生涯グランドスラムに王手をかけた現役選手が男子でもう一人生まれたのだ。それだけではない。フェデラーが長年目標にしていた北京オリンピックで男子シングルス競技の金メダルを手に入れたのはナダルだった。今ナダルはフェデラーが達成するには後3年待たなければならないゴールデンスラム、つまり四大大会制覇+オリンピック金メダルの偉業に王手をかけているのである。
そんな状況下で、今年もフェデラーは生涯グランドスラム達成をかけて、かつてガリアと呼ばれた地、フランス・パリのローランギャロスにやって来た。
フェデラーの状況は過去数年間の全仏タイトル挑戦の中で最も厳しい状態ではある。それはフェデラー自身の状況が直前のマドリッド大会の優勝まで今季無冠であったことにからもうかがえる。クレーコート大会であるマスターズ1000シリーズのマドリッド大会決勝でナダルをストレートで破ったという事実は、本来ならば全仏制覇に向けて好材料ととらえられるべきところだ。難攻不落の要塞、赤土の上に聳え立つ高い城壁、それがナダルだ。そのナダルに今季クレーで勝利しているのはフェデラーだけなのだ。だがこの勝利はそのまま好材料となるほど簡単ではないようだ。
一つには会場の問題、開催地であるスペインの首都マドリッドは標高の高い都市とてして知られる。空気が薄く、空気抵抗が通常より低くなる。それゆえにスピンボールの回転がかかりにくく、逆にフラットボールのスピードが増すと言われていた。そのことを理由にナダルは地元スペインの大会であるにも関わらず、このマドリッド大会の出場をためらったと言われている。空気の薄さがテニスの内容にそれほど大きく関わるのか、如空は疑問視していたが、実際GAORAで中継されていたマドリッド大会の模様を見ると、確かにナダルやジョコビッチなどのスピンボールの使い手は、ストロークやサーブのコントロールに苦しんでおり、逆にフェデラーの高い打点からの叩き込みはいつも以上のスピードがあった。高地環境がナダルに不利、フェデラーに有利に働いたのは程度の差こそあれ、事実のようだ。
二つ目はナダル側のスケジュールの問題である。ナダルは全仏初優勝した2005年より全仏を含む欧州赤土戦線、ヨーロッパクレーコートシーズンで圧倒的な好成績を残している。全仏の他にモンテカルロとバルセロナで5連覇、ローマは4回優勝、去年までマドリッド大会の時期に行われていたハンブルグ大会でも優勝を遂げて、ヨーロッパクレーを完全制覇している。だが完全制覇とはいえ、毎年全戦フル出場の全戦常勝無敗であったかというとそうではない。2005年と2006年は天王山というべきローマ大会の決勝でフルセットマッチ(当時はまだMS決勝戦はベストオブ5セットマッチだった)の死闘を繰り広げ、その疲労から直後のハンブルグ大会を欠場している。2007年はついに欧州赤土戦線全戦フル出場を果たしたがハンブルグの決勝でフェデラーに敗れた。そして2008年も全戦フル出場したが、ローマ大会では二回戦で敗退し、赤土戦線全戦全勝は果たせなかった。だが全仏への道のりという視点でこの経過を見ると、全仏までの一連のクレー大会のどこかで欠場・或いは敗退があり、それがナダルに適度の休養を与えているのではないかと思えなくもない。特に今年は直前のマドリッド大会で決勝まで進んでいるので、欧州赤土戦線の全試合にナダルは出場していたことになる。ちょうどハンブルグでフェデラーに負けた2007年と同じ状態だ。だがこのマドリッドの決勝戦、ナダルは無理をしなかった。手を抜いたわけではないが、淡々としたプレーに終始して、後に影響の出るような疲労や怪我を上手く避けることができた。これでナダルは肉体的だけでなく精神的にも適度に余力を持って全仏に乗り込んでこられたのではないだろうか。つまり、去年同様、全仏二週目から一気にギアを上げて相手を圧倒したあの力を温存しておくことに成功しているのではないだろうかという予測である。その予想が当たっていれば、マドリッド決勝での敗退はナダルにそれほど悪影響を及ぼしているわけではないととらえられる。何よりマドリッド大会の決勝の前日、ナダルは3セットマッチでは男子ツアー史上最長の4時間を越える激戦を戦っているのである。翌日の決勝で無理をしていれば全仏での影響は必至であったろう。
そのマドリッド準決勝で覇王ナダルを最も苦しめた男、それがジョコビッチである。去年のローマ大会優勝者、そして今年もモンテカルロ、そしてローマで決勝まで勝ち進んだ。マドリッドでは準決勝敗退に終わったが、マッチポイントを握るところまでナダルを追い込んでいる。ジョコビッチもスピン系のストロークが主体であるので、マドリッドでコントロールに苦しんだのはナダルと同様である。それでもあの強さである。芝のコート、ウィンブルドンでナダルがフェデラーに徐々に近づいていったように、今ジョコビッチはナダルに赤土の上での差を徐々に埋めつつある。マドリッドでナダルに勝ったフェデラーよりも敗れたものの善戦をしつつ前進しているジョコビッチの方が、打倒ナダルの可能性をより多く持っているのではないだろうか。ジョコビッチのクレーシーズンでの活躍を見るにそう思わないでもない。
ハードコートだけでなくクレーコートでも覇権を目指す「双頭の鷲」セルビアのノバック・ジョコビッチ、数年前からナダルとフェデラーの二強関係に大きな影響力を見せ始め、運命の鍵を握る人物ともいえるこのジョコビッチが、この全仏でフェデラーの山に入った。順当に行けばSFで当たるのである。フェデラー優勝するためには準決勝でジョコビッチを破り、そして決勝でナダルを破らなければならない。過去の全仏挑戦の中でも最高にタフなドローとなった。
そんな厳しい状況下で、フェデラーはしかし淡々と開戦した。

2009年全仏オープン一回戦
フェデラー 64 63 62 マルティン

強打!強打!強打!フレームショットなど気にしない、先にブレークされても気にしない。とにかく速いスイングでハードヒットしろ、強打をコートに叩きつけろ。マドリッド決勝でハードヒットの威力が増したのは空気が薄かったからだけではない。ショットそのもの力がさらに強くなったのだ。それをその目で見よ。強打でウィナーを取るのだ。これがフェデラーだ。皇帝のテニスだ。
そういているかのような、嵐のような3セットであった。マルティンは片手打ちバックハンドでスピン主体のストローカーである。そのテニスの内容は決して悪くなく、フェデラー相手によく善戦したと言える。だがそれをパワーとスピードでフェデラーは上回り、圧倒した。特にサーブとフォアハンドストロークで明らかに今まで以上のオーバーパワーのショットを打ち続けた。スイングがとにかく速かった。そして打点が高く、強かった。バックのドライブは堅実、スライスはよく伸び、フォアハンドのドロップショットが強打に対する絶妙の緩急となってマルティンを揺さぶっていた。久しぶりに強いテニスを展開してフェデラーは初戦を突破した。
今までに比べればフェデラーの優勝を期待する声も生涯グランドスラム達成を望む声もそれほど大きくはない。注目度が下がったほうが仕事はしやすかろう。今年もまたフェデラーの挑戦が始まった。その過程に注目し、今年もまた書き記していく。あくまで如空の個人的視点から見たフェデラーの全仏タイトル挑戦記である。

過去の記事はこちらから

フェデラーのガリア戦記2008
フェデラーのガリア戦記2007
フェデラーのガリア戦記2006
フェデラーのガリア戦記2005

 

2009年05月29日 攻めの姿勢

この試合、見ている如空はフェデラーが勝った気がしなかった。

2009全仏 男子単二回戦
フェデラー 76 57 76 62 アカスソ

第一セットは1ブレークを取り合いTB、先にセットポイントを握ったのはアカスソ、何度もセットポイントを握ったのはアカスソ、しかしセットポイントを決めたのはフェデラー、見事な逆転であった。だがフェデラーは逆転で第一セットを先取したにも関わらず試合の流れを掴むことが出来なかった。チリのゴンザレスやスペインのアルマグロによく似た豪打で相手を押すタイプのアルゼンチンのアカスソ、彼はこの日好調で自分の力量をよく発揮していた。第二セットで先にブレークしたのはまたもアカスソ、そしてフェデラーがブレークに成功することはなかった。第三セット、アカスソがまたもブレークで先行する。アカスソリードで4-0となった。その第五ゲームでアカスソが足を捻った。その影響なのかどうか、5-1まで行ったが、そこからフェデラー怒涛の5ゲーム連取でまたも追いつき、TBを今度はシッカリと取りきった。そして第四セットはフェデラーらしく6-2で決めて、三回戦進出を確定した。
第一セットのTB、第二セットの終了直後、そして第三セットの0-4とされた瞬間、それぞれのシーンで如空はフェデラーの敗北が脳裏をよぎった。だがそれぞれのピンチを見事に逆転で乗り切った。相手のアンラッキーにも助けられたが、フェデラーにもミスが多かった。この試合は攻めているにもかかわらず、試合の流れを握ることが出来ていないような展開であった。それでもフェデラーにとって攻めの姿勢が終始貫かれていたことはよかった。この形でしか、彼が全仏タイトルを取ることは出来ないであろうから

 

2009年05月31日 黄金世代の黄昏

今年の全仏が始まる前にアルゼンチンのギジェルモ・コリアが引退を表明した。1982年生まれのコリアは今年27歳、年齢だけ見ると早過ぎる引退に見える。しかし、彼の長い苦闘の歴史を思うとここが限界とも思える。アルゼンチンテニス界の英雄ビラスと同じ名を与えられたコリアはジュニア時代から活躍していた。ツアーでもめきめきと頭角をあらわしていた。若くして幼い妻を娶り、その老獪な戦術からも、彼の早熟さが伺える。ドーピング疑惑をかけられて苦しんだ時期もあった。彼は疑惑後、アスリートとして当然取るべきサプリメントも何も取らずに、ひたすら水と健康食だけで体を作った。そしてクレーを支配するスペイン勢を押しのけ、アルゼンチン勢筆頭として2004全仏決勝まで勝ち上がった。2セット連取してリードして勝利をほぼ手中におさめかけていた。だが1セット戻された2-1で、突然の足の痙攣が起こった。一説には皮肉にもドーピング疑惑を避けて水だけの水分補給に頼ったために痙攣が起こったとも言われている。だがコリアはあきらめなかった。第四セットを捨て、足の回復を待ち、不完全な足を引きずりながらファイナルで猛攻を見せ、マッチポイントまで追い上げた。だがそこで決めることが出来なかった。ファイナル6-6まで行きながらその後2ゲームを連取され、念願の全仏タイトルを目前で逃した。翌年も彼がツアーでクレー最強の選手であるとの評価に変わりなかった。だがMSモンテカルロ・ローマで連続して決勝で敗れた。相手はスペインのナダルである。2005年MSローマ大会の決勝は5時間を超えるフルセットマッチの死闘で、クレーのテニス史に残る名勝負であった。そしてその試合こそ、クレーキングの称号がコリアからナダルに譲渡された瞬間となった。そしてその後、コリアは沈んだ。大きな大会で上位まで勝ち進むことはなく、やがて怪我にも苦しみ、今年の冒頭など日本の京都のチャレンジャー格の大会にエントリーしたりしていた。そしてついにモチベーションを維持できずに引退を表明した。いつか、あの2004全仏決勝での悲劇を取り返すチャンスが訪れる日が来ると信じていただけに、引退の報に接してとても悲しかった。
このコリアの悲劇となる2004全仏決勝の相手は皮肉にも同じアルゼンチンの選手でノーシードから勝ちあがってきたガストン・ガウディオであった。このとき波の激しい対戦相手コリアの起伏に付き合うことなく、淡々と自分のテニスを押し通し、相手にマッチポイントを握られるピンチを脱し、全仏タイトルをその手で掴んだのである。その運命論者とも言うべきおおらかな心構えが彼にチャンスを与えたのだろう。翌年、ガウディオはツアーでクレー大会5勝を上げる大活躍を見せる。だが彼もまた、新たに現れた赤土の覇者、ナダルの輝きの前に霞んで行った。1978年生まれのガウディオは今年30歳である。今ではツアー下部の大会を回っている。シーズン直前には引退を考えているようなことも発言していた。この全仏ではワールドカードをもらい、久々にツアーにその勇姿を見せたが、一回戦でステパネックと対戦、ストレートで敗退していった。
コリアやガウディオと共に2004年からのアルゼンチン勢台頭を牽引したナルバンディアンもまたコリアと同じ1982年生まれである。ジュニア時代には大活躍でフェデラーのライバルであった。フェデラーのキャリアの序盤はこのナルバンディアンに負け越していた。また2005年最終戦マスターズカップ決勝でフェデラーをフルセットの末に破り、一躍トップ選手の仲間入りを果たした。だがそれ以後はなかなかフェデラーの壁を突破できなかった。2007年のMSマドリッド・パリではナダルやフェデラーを倒して連勝したが、それ以後、低迷し、27歳となった現在は故障のために手術を余儀なくされている。
ロシアの大砲マラット・サフィンも1980年生まれで今年29歳となる。今年を現役最後のシーズンにすると言っている。エントリーランキングでNo1にもなり、全米・全豪とグランドスラムタイトルを二度もとった。しかも全豪はフェデラーがNo1となり圧倒的強者、如空が「皇帝」と呼ぶ状態になってからの打倒フェデラーを果たした上での優勝であった。おそらくこの数年の内で、ナダル以外にもっとも充実したテニスのドラマを体現した男であろう。そんなサフィンも最後にすると言っているこの全仏で二回戦で地元フランスのウィアンナと対戦、67 67 63 64 810 という壮絶なフルセットマッチを戦った末に敗れていった。
サフィンはジュニア時代にスペインにテニス留学している。そのときのテニス仲間で幼馴染であったのが2003年の全仏チャンピオン、スペインのフェレーロである。1980年生まれのフェレーロはサフィンと同じ29歳である。サフィンに刺激されたのか、フェレーロもまた引退をほのめかす発言を今年の初めにしている。今年の4月には久しぶりにクレーの大会で優勝して、復活の兆しを見せたが、この全仏はスペインの同胞ロペス相手に一回戦で67 46 76 75 62 というこちらも激闘の末に敗退していった。
全米・全英のタイトルホルダーで2001年2002年の年間最終ランキングNo1であるオーストラリアのヒューイットは1981年生まれで今年28歳である。彼もこの数年苦しんでいる。フェレーロ同様に今年4月にクレー大会で優勝していて、期待がかかっていたが、三回戦でナダルと対戦、 61 63 61 と、ナダルに圧倒され、ストレートで敗退して言った。正直、ナダルとの差がこれほど開いているとは思いもよらず、如空は試合をTVで見ていて少しショックであった。
同世代の選手が沈み行く中で、気を吐くのがアメリアのロディックである。全米タイトルホルダーにて2003年の年間最終ランキングNo1である彼は1982年生まれで、まだ全仏時点で26歳である。ウィンブルドンの決勝で二度、全米の決勝で一度、フェデラーにグランドスラムタイトルを阻止されている。2007全豪SFの対フェデラー戦の敗北は「公開処刑」とも言うべきひどい敗北であった。それでもロディックは沈まない。フェデラーに喰らいつき、何度でも何度でも挑戦する。ヒューイット・サフィン・フェレーロらが沈んでいく中で、彼だけは沈まずにまだトップ10を維持している。そして、第二週に残ったことがないこの苦手の全仏でも今年は三回戦を突破、四回戦第二週へと勝ち進んだ。彼の悩みながらも、それでも前に進むその姿勢は大いに評価されるべきだろう。
しかし、ロディックに牽引されているともいえる、アメリカの同世代、ブレーク、フィッシュ、ジネプリには徐々に輝きを失ってきている。またドイツの二枚看板ハースとキーファー、スペインの実力者ロブレドにも徐々に厳しい環境になりつつある。
アガシ・サンプラスの世代以降、なかなか後継者と呼べる新人が台頭してこなかったATPでは「ニュー・ボール・プリーズ」というキャンペーンを行い、1980年生まれを中心とした世代の選手を後援した。そしてサフィンを先頭にしてヒューイット、フェレーロ、フェデラー、ロディックとグランドスラムタイトルホルダーにしてエントリーランキングNO1を経験する「王者」が立て続けに生まれた。まさに彼らの世代は「黄金世代」と呼べるだろう。
その「黄金世代」に今、静かに黄昏が訪れようとしている。
ラケットとストリングの性能の向上は、サーブだけでなくリターンとストロークにもレベルアップを可能にした。もうネットに出なくてもベースラインからガンガンハードヒットしてウィナーが取れるのである。アガシやサンプラスが台頭し始めた頃から比べても、更にボールは速くなり、かつ回転かかかるのでネットを越えてラインの中に納まる。テレビゲームのようにベースラインを左右に動いてガンガン左右に打って打ちまくる。そのボールをあの広いコートで一人で拾うためには、世界でも屈指のアスリートとしてのフィジカルが要求される。100mの全力疾走を数時間何度も繰り返し、更にそこでコントロールと速さを要求されるショットを打たなければならない、そんな過酷なプレイ環境。それを可能にするのは世界で一握りの超人達だけであり、さらにその実働期間は男子でも短くなってきた。もはやゴルフや野球や、サッカーですらも参考にはならない。現役を続けることだけなら30歳を超えても可能かもしれないが、30歳を超えてアガシのようにグランドスラムで優勝し、かつNo1になるなどはほぼ不可能だろう。アガシが最後のオーバー30の王者になってしまう、それが今のテニスの現状ではないだろうか。それが事実ならば、さすがに「黄金世代」である「ニュー・ボール・プリーズ世代」の各選手のこれからは厳しい現実が待っているといえる。
そんな状況下で、1981年生まれの27歳、フェデラーは生涯グランドスラム達成とグランドスラムタイトル最多タイ14勝に挑んでいる。後一勝である。簡単なように見えるが、実は相当高い壁になってきているのではないだろうか。全仏3回戦も突破したが無事ではなかった。

2009全仏男子単三回戦
フェデラー 46 61 64 64 マチュー

フェデラーまたしてもセットダウン、この評価は難しい。まだ三回戦だし、少々もたついても勝てばよいかという状況かもしれない。逆にここで相手に圧倒できない状況下では打倒ナダルなど無理だという人もいる。とにかく第一週を突破した。今のフェデラーは決勝まで行って当然という去年までの状況ではないので、一安心である。またナダル以上の障壁になるかもしれないと恐れていたジョコビッチが三回戦で敗退した。これでフェデラーは対ナダルにフォーカスできる。その上で四回戦、QF、そしてSFでフェデラーらしい攻めのテニスで勝ち進んで欲しいものである。
「ニュー・ボール・プリーズ」の世代を黄金たらしめいているのはフェデラーの存在があればこそだろう。史上最強のオールラウンダー、史上最高の圧倒的強者、幾多の王者を生み出した世代の中でも、その王者たちを超える、如空が「皇帝」と呼んだその素晴らしい存在があればこそだ。それゆえに黄金世代は黄金の輝きを放っているのだ。残り時間はけしって長くはない。その輝きを少しでも長く、見せて欲しいと思う。

 

2009年06月02日 逆境の中の好機

絶好のチャンスは最悪のタイミングでやってくる。
フェデラーの全仏制覇にとって最大の障壁であったナダルが四回戦で敗退した。またナダルと同じ高さを持つハードルと思われたジョコビッチも三回戦で既に敗退している。去年までのフェデラーであれば、この時点でもうほとんどタイトルを手中に収めた状態といってよかっただろう。だが今年のフェデラーは不安定である。不調であった去年よりも波が激しく、自分でそれをコントロールできていない。強いときは全盛期おも超える強さを発揮する、そうかと思えば、もうこれはランキング下位の選手に負けてもしかたないと思えるようなもろさを時に露呈する。そしてその上下差の激しい波が一試合の間に何度か押し寄せ、フェデラーのテニスを不安定なものにしてしまっている。この絶好のチャンスを、フェデラーは最悪のタイミングで迎えた。

2009全仏四回戦
フェデラー 67 57 64 60 62 ハース

二回戦の対アカスソ戦はフェデラーがストレートで負けたかもしれないという印象が残る試合だった。この試合は逆だ。なぜ、フェデラーはストレートで勝てなかった。2セットダウンという大ピンチになぜ陥ったのか。
第一セットのフェデラーのサービスゲームは完璧であった。ハースにポイントをほとんど取らせなかったばかりか、ポイント自体が短いショートポイントであった。ハースにストローク戦持ち込ませず、ラリーをさせなかった。ここは球足の遅くなるクレー・コートである。そこでほとんど芝かハードコートでテニスしているかのように早い展開でフェデラーはポイントを取っていく。こういう時のフェデラーは強い、何度もラブゲームキープでハースを圧倒した。が、サービスゲームが好調であったのはハースも同じである。フェデラーほど圧倒的ではなかったが、それでも比較的簡単にサービスゲームをキープして言った。キープ合戦の末、当然のごとくTBに突入した。TBに突入したとたん、力関係は逆転した。フェデラーはサーブを破られ、ハースは強い攻めでポイントを取り切った。きれいなウィナーもハースは連発し、7-4でTBを取る、第一セットはハースが先取した。
第二セット、先にブレークしたのはフェデラーである。強気の攻めが実を結んだ。第一セットまでのサービスゲームの出来からすればこの1ブレークで十分だったはずだ。だがハースもまたフェデラーのサービスゲームを破った。二度も。特に二回目のブレークは致命傷だった。第二セットは7-5でハースが連取する。
第三セット、キープ合戦、4-4、第九ゲーム、ハースがブレークポイントを握った。フェデラー絶対絶命のピンチである。だがフェデラーは乗り切った。そしてここからハースの方がおかしくなった。気の短いことで有名なハースだがこの日はよく集中して、堅実なテニスでフェデラーの猛攻に対抗していた。だがこの後、ミスが多発し始めた。ピンチの後にはチャンスが来る。キープに成功して5-4とした第十ゲームでハースのサービスゲームをブレーク。6-4で第三セットを取った。
そしてフェデラーはようやくギアをさらに上げた。第四セット途中でWOWOWの中継が終わったので、フェデラーのセットを取ったプレーは映像では完全に確認できない。とにかく結果は第四セット6-0で圧倒、ファイナルセットも2ブレークで6-2、2セットダウンからの逆転勝利であった。
フェデラーの調子はよかったシーンの方が多かった。第一セットのTB突入時、そして第二セットで先にブレークした時、このセットはフェデラーが取る、そして勝つと思った。だが結果は逆、フェデラーは大事なところでミスをして、ハースは逆に好プレーを連発した。競り合いの試合ではサービスゲームを堅実にキープしながらついていき、後半のリターンゲームとTBにて一段ギアを上げ、ブレークを取るあるいはTBを取り、一気にセットをものにする。これが競り合いの必勝パターンだ。それを第一・第二セットで成功したのがハースであり、失敗したのはフェデラーである。そして第三セットもほとんど同じパターンに陥ろうとしていた。後半怒涛のセット連取を割り引いて見ても、やはり薄氷を踏む思いの勝利であった。
勝負の行方のかかった大事なポイントでギアを上げられず、逆にミスがそこででてしまう。大事な場面で調子の波の下の方が来たのが第一・第二セットで、調子の上の方が来たのが第四・第五セットだった。そして第三セットはどちらかというとその主導権はハースに握られ、命運を相手にゆだねていた。危なかった。勝ったとはいえ、状況はよろしくない。
QFの相手はモンフィス、そしてSFはデルポトロ対ロブレドの勝者である。過去の戦績から見ればほぼ安心していいドローである。問題を抱えているのはフェデラー自身だ。大事なところでギアを上げて、調子の波の上の部分を持って来られるか。下の波が来れば、厳しい結果が待っている。それはジョコビッチやナダルの敗戦を見ても明らかだ。最悪のタイミングで訪れた、この絶好のチャンスを、フェデラーは生かすことが出来るだろうか。全仏タイトル、生涯グランドスラム達成という覇業まで、残り三試合。フェデラーの挑戦の結果はいかに。

 

2009年06月04日 美しいテニス

2009全仏男子単QF
フェデラー 76 62 64 モンフィス

フェデラー快勝、相手をオーバーパワーで上回ろうという、マドリッドからこの数試合見られていた展開ではなく、相手より少しだけ上回るだけで、勝利を手にするという、堅実にして実は圧倒的な展開で、フェデラーは勝った。調子の上の方が来なかったが、下の方が来て崩れることもなかった。高いレベルでの安定を見せた。これは今後に向けて好材料である。
ポイントはやはり第一セット、6-6となってTBとなる。モンフィスもいいテニスをしていた。フォアハンドの緩急のつけ方が見事であった。第一セットTBを落としていたら、四回戦対ハース戦同様にもつれたかもしれない。四回戦は一歩間違えば敗退するところだった。この試合もあるいはそうなっていたかもしれない。だからこそ、不安の芽は小さい時に摘んでおく。それが大事だ。TBも6-6となった。二ポイント連取して8-6でTBを取った。ここで勝負が決まった。リードしたからといってギアを極端に上げずに、高いレベルでの安定したテニスで第二・第三セットを取る。強いテニスだ。いいテニスだ。堅実ではあるが、けっして守りに入ったわけでなく、攻めの姿勢は大事なところで貫かれていた。圧倒的に強いわけでなく、ミスもやや多かったが、致命傷はなかった。かつて「美しい」と自画自賛していたフェデラーのテニスに少し近づいている。
3回戦でジョコビッチ敗退、4回戦でナダル敗退、準々決勝でマレー敗退、順番からすれば四強最後の一人フェデラーが敗退するのは準決勝となる。フェデラーのキャリアを見ても、彼の鬼門となるのは決勝ではなく準決勝になることが多かった。SFの相手はデルポトロである。大丈夫だとは思う。このQFでの「美しいテニス」を展開して、鬼門であるSFを突破して欲しい。全仏タイトル、生涯グランドスラムという覇業達成まであと二つである。

 

2009年06月06日 鬼門を越えて

やはり、準決勝は鬼門だった。それでもフェデラーは乗り越えた。

2009全仏男子単準決勝第二試合
フェデラー 36 76 26 61 64 デルポトロ

第一セット、フェデラーは調子よくゲームに入り、デルポトロは苦しみながらのサービスキープとなる。フェデラーの方が調子がよい、と思われた矢先の第五ゲーム、デルポトロがあれよあれよという間にフェデラーのサービスゲームをブレークしてしまった。そこからフェデラーのサービスゲームは3連続で0−40のピンチを迎える。第七ゲームは切り抜けたが、第九ゲームではデルポトロのショットの圧力に押されてブレークされてしまった。2ブレークでデルポトロが6-3、第一セットを先取した。
第二セット、デルポトロはその長身を生かして、サーブでもストロークでも高い打点から角度をつけてコーナーに叩き込んでくる。フェデラーもサーブの威力が増して、ファーストサーブの確率も上がる。両者共にサーブの力でキープ合戦を続ける。6-6でTBになった。最初のポイントはデルポトロのサーブ、デルポトロがサーブとストロークで押す、フェデラーは押されてロブを上げた。それが、ベースラインぎりぎりに入る、デルポトロはそれをフォアで返球しようとしたが、ネットしてしまった。これでデルポトロが崩れた。ボールをネットにかけることが多くなり、ポイントをフェデラーが連取する。会場の大声援がフェデラーの背中を後押しする。最後にデルポトロのフォアがラインを割り、TB7-1でフェデラーが第二セットを取った。
第三セット、第一ゲーム、いきなりデルポトロがフェデラーのサービスゲームをブレークしてスタートした。フェデラーのサーブの調子はいいのだが、デルポトロのリターンも調子がよい。そしてストロークではデルポトロが押している。第七ゲームでもブレーク、サーブイングフォーザセットでサーブの力でラブゲームキープ、デルポトロが6-2で第三セットを取った。
第四セット、第二ゲーム、久しぶりにフェデラーがブレークポイントを握った。一進一退の攻防の果て、デルポトロがキープに成功した。だが第四ゲームでもブレークポイントが来た。またデュースが繰返される。フェデラーのドロップショットが冴える。そして最後はフェデラーの短いリターンをデルポトロはすくい上げることが出来ずに、ミスした。ついにフェデラー、この試合初のブレークである。デルポトロはここで緊張の糸が切れたのか、疲労が一気に出てきたのか、フットワークが雑になってプレーに粘りがなくなってきた。まともにサーブも入れることができない。第六ゲームでもデルポトロはダブルフォールトでブレークを許し、そのまま次のサーブイングほーザセットを決めて、フェデラーが第四セット6-1で取る。セットオールで試合はファイナルセットに突入した。
第五セット、サーブに力がない、ストロークにも力がない、デルポトロは衰弱状態から脱することが出来ない。第一ゲームをデルポトロはブレークされた。フェデラーはギアを上げた。長いラリーを見事なショットで奪う。コートでの動きで相手を上回る。だがデルポトロの足が、腕が、徐々に回復し始めた。第六ゲームで攻勢にでるデルポトロ、豪打が復活し、フェデラーのサービスゲームをブレークした。3-3となった。デルポトロはそれでも、ストロークの威力は回復したが、サーブの威力と確率が回復しない。回復しないどころか、第七ゲーム、ブレークポイントで痛恨のダブルフォールトを犯す。フェデラーブレークバック、再びリードした。フェデラーは先にキープして、次のデルポトロのサービスゲームでブレークポイント、イコールマッチポイントを握るが決め切れなかった。だがサーブイングフォーザマッチを決めて、ファイナルセット6-4、フェデラーが決勝進出を決めた。
デルポトロ自滅、体力的に厳しくなって後半苦しい展開になっただけでなく、精神的にも集中できずに第二セットのTBを落とした。一方フェデラーの出来は良くなかった。いいショットが随所にあったが、連続していいポイントを連取する形が少なかった。そしてミスも多い、後半めろめろのデルポトロに逆襲され、押さえ込めなかった。今日は勝ったが、このテニスでは決勝の相手には勝てないだろう。

第一試合
ソーダーリン 63 75 57 46 64 ゴンザレス

いやあ・・・・見入ってしまった。素晴らしい好ゲームだった。競り合いながらも2セット連取したソーダーリンも見事。2セットダウンからセットオールに戻したゴンザレスも見事。ファイナルセットはゴンザレスが勢いを維持して先にブレークした。3-0とし4-1まで来た。そこでソーダーリンが追いついた。ブレークバックし、更に4-4にまで押し戻した。完全に五分と五分、これからは集中力がモノを言う。このプレッシャーのかかる場面で、互いに深い、ライン際の際どいショットを繰り出すその勇気が素晴らしい。際どいボールに、判定も微妙なジャッジが繰返され、ゴンザレスも会場も揺れる。だがソーダーリンは揺れなかった。運命の第九ゲームをブレーク成功、サーブイングフォーザマッチをきっちりキープして、勝利を決めた。その瞬間、彼は静かにしゃがみこんだだけだった。
ハードヒットの応酬にはなると予想していたが、ショットの威力以上に、両者の配球の妙、戦術の駆け引きが見事であった。両者共に力と技と、そして頭脳を駆使しての総力戦での競り合いであった。互いに強い気持ちを維持しながらも、ゴンザレスは熱く、ソーダーリンはクールにそれぞれプレーをしていた。闘志をそれぞれの表情に表し、果敢に自分のテニスを押し通した。2セットアップした後、ソーダーリンにやや落ち着きがなくなった様子が見られたが、それもファイナルセットで取り戻している。精神戦で苦しみながらも立て直して復活した見事な勝利であった。
男子準決勝は両試合とも同じフルセットマッチだが内容がまったく違う。強く安定した相手と打ち合い、最初は上回り、中盤反撃に耐え、後半に追いつき追い越した、見事なテニスを展開したソーダーリン。最初は相手に圧倒され、何とかついていくも危うく突き放されかけ、最後に相手が崩れても一気に畳み掛けることが出来なかったフェデラー。準決勝と同じテニスで両者がぶつかればソーダーリンが勝つ。たとえ相手がナダルでなくても、フェデラーはやはり最後の決勝の舞台では最高レベルのテニスを展開しなければ勝てないという運命の中にいるのだろう。自らが「美しい」と自画自賛していたテニス、如空が「皇帝」と呼んでいたテニスをしなくては、勝利はない。鬼門の準決勝を乗り越えたフェデラー、しかし最大の障壁はやはり今年も決勝戦の相手になりそうだ。美しくそして強いテニスをフェデラーはコートの上で発揮することが出来るだろうか。皇帝のテニスを取り戻すことが出来るだろうか。
いよいよ明日、男子全仏決勝戦である。
フェデラーよ強くあれ、自らの力で扉を開け!

 

2009年06月08日 開かれた扉

目の前に閉ざされた扉、その扉を叩く資格は誰にでも与えられるものではない。2003年にウィンブルドンを優勝し、2004年に連覇しただけならその扉の存在を意識することはなっただろう。だが、彼はその年、全豪と全米を取り、リトルスラムを成し遂げ、ATPに君臨する圧倒的強者になった。なったがためにその扉を叩かなければならない立場になった。四年間、開くことの出来なかった扉、三度決勝に進みながらも挫かれた挑戦、扉は閉じられたままだった。そして彼は圧倒的強者ではなくなった。No1でもなくなった。だが最大の障壁だった後継の覇王ナダルが途中敗退した。最大のチャンスに不完全な状態で彼は挑んだ。
そして扉は開かれた。

2009全仏男子単決勝
フェデラー 61 76 64 ソダーリング

第一セット、ソダーリングのサーブで決戦は始まった。ストローク戦が展開される。ソダーリングにはやや固さが見られる。フェデラーはいつも通り、そしてフェデラーを後押しする観客の声援はいつも以上である。ソダーリングはファーストサーブの入りが悪く、フォアがやや長く、そこをフェデラーがついて、第一ゲームからいきなりフェデラーはブレークした。第二ゲームをキープした後、第三ゲームでもフェデラーはブレークした。一度はソダーリングがキープに成功したが、5-1となった第七ゲーム、またもソーダーリンはブレークポイントをフェデラーに握られた。ソダーリングのファーストサーブの確率が良くないだけでなく、ファーストが入ってもフェデラーが見事なレシーブで返球し、ソダーリングからの攻撃を完全に防いでいるのだ。最後はバックハンドのウィナーでブレーク成功、第一セットを6-1でフェデラーが先取した。わずか21分である。
第二セット、両者共にサービスゲームをキープし合う。第四ゲームの途中で赤い布を振る乱入者が現れ、試合は中断したが、すぐに乱入者は取り押さえられ、試合は再開した。小雨が少し降り始めた。その間にソダーリングが落ち着きを取り戻した。ナイスサーブが入り始めた。フォアのウィナーが出始めた。フェデラーに一方的にやられるだけだったドロップショットを上手く切り返せるようになってきた。ラブゲームでサービスゲームをキープするようになって来た。ソダーリングが目覚めつつある。ここは押さえなければならない。フェデラーもギアを上げた。バックハンドダウンザラインのウィナー、ハードヒットの打撃戦、そしてフォアハンドの鋭いパス、デュースまで追い込んだが、ソダーリングはこのピンチを切り抜けた。6-6でTBに突入した。誰の目にも、このTBが鍵になることは明らかだった。サービスエースの応酬でTBは始まった。そこでフェデラーが更にギアを上げた。一気に6ポイント連取、最後はまたもサービスエースで決めた。TB7-1で第二セットもフェデラーが連取した。
第三セット、ソダーリングはまたもミスでサービスゲームを落とした。WOWOW解説の柳恵志郎氏いわく、フェデラーの緩急の前にソダーリングはミスさせられているという。第四ゲームでソダーリングにブレークポイントを握られたが、攻めの姿勢を維持してキープ成功、フェデラーが行く。フェデラーが進む。キープし合って5-4、第十ゲーム、サーブイングフォーザチャンピオンシップである。ソダーリング最大の武器だったバックハンドのリターンがラインを割った。15-0、リターンが深くてフェデラーのフォアがネットした。15-15、今度はソダーリングのリターンがラインを割った。30-15、バックの攻防の末、フェデラーのストレートがラインを割った。30-30、サーブの後のスイングボレーがアウトした。30-40、なんとここでソダーリングのブレークポイント。だが次のラリー、緊迫した状況でフォアをフレームショットしたのはソダーリングだった。40-40、デュース。観客席でフェデラーの妻ミルカが手を合わせて祈っている。世界中の様々な人々が祈っている。フェデラー渾身のスライスサーブがソダーリングをラインの外に追い出した。バックでオープンコートに切り返す、ソダーリングは必死でくらいつき返球したが、それをネットに詰めたフェデラーがボレーで決めた。会場が拍手とどよめきで揺れる。あと一ポイント、フェデラーがサーブを打つ。ソダーリングのリターンがネットにかかった。第三セット6-4でフェデラー、決勝戦をストレートで勝利した。
フェデラー全仏初優勝、かつ生涯グランドスラム達成、かつグランドスラム優勝回数最多タイの14回目のグランドスラムタイトル奪取である。フェデラーがフランスはパリ、ガリアの地の制圧についに成功した。
小雨でクレーコートの球足が伸びず、バウンドも低かった。ただでさえ立ち上がりの悪かったソダーリングには武器である強打が生き難い状況であった。そして会場はフェデラーに大きな声援を送っていた。だがそれらを差し引いても、今日のフェデラーは見事であった。序盤からシッカリと自分のテニスをして、相手を圧倒した。中盤ソダーリングの復活の目を早めに摘み取った。特に第二セットTBでギアを上げて一気にポイントを連取したことが大きかった。終盤で失速せず、勢いを維持したまま、最後のマッチポイントを一発で決めた。素晴らしい勝ち方である。この大会を通じて不安定な状態であったが、最後の最後で強いテニスを取り戻した。美しいテニスがコートで表現されていた。それは如空が「皇帝」と呼んだスイスのロジャー・フェデラーのテニスであった。
1999年に生涯グランドスラムを達成したアンドレ・アガシが優勝杯のプレゼンターとして現れた。アガシも全仏の決勝に二度阻まれ、三度目で優勝した。あれから10年経った2009年、フェデラーの生涯グランドスラムが達成された。四度決勝に進み、三度阻まれた。四度目の決勝戦で達成した全仏制覇による生涯グランドスラム達成であった。覇業ナル。こうして苦しい挑戦は金字塔となって歴史に刻まれた。

フェデラーのガリア戦記 完