フェデラーのガリア戦記2005 (全仏2005スペシャルエディション)
2005年05月22日 フェデラーのガリア戦記2005 序幕
制度疲労を起こしていたローマ共和国の元老院主導政治を改革しようと立ち上がり、帝政への道のりを開いたユリウス・カエサル(英名ジュリアス・シーザー)がその頭角を現し、ローマの内乱で一方の雄として立ち上がる基盤を作ったのがローマより西側のヨーロッパを征服するガリア戦役である。ガリアとはちょうど今のフランスに当たる。カエサルはフランスを制して帝政への道を切り開く基盤にしたのだった。
それより2000年以上過ぎた現在、男子テニス界において自らの帝政の総仕上げをするべく、ロジャー・フェデラーがかつてガリアと呼ばれたこの地、フランスに乗り込んできた。
カエサルはガリアを征服した後、その地の執政官として支配し続け、財力と軍事力を養う。やがてローマが反カエサル派によって公然とカエサルに敵対行為に出ると、カエサルは自分の指揮する第13軍団を率いてローマに向かう。ガリアからローマに向かう道のりの途中にルビコン川が横たわる。当時のローマの法では、ローマ軍団は凱旋式など元老院の許可のあったとき以外にルビコン川を渡ってローマに進んではならないとされていた。その国法を破ってカエサルはローマに進軍する。「サイは投げられた」という言葉と共に。そして独裁者への道を突き進む。
フェデラーにとっての「ルビコン越え」は去年の全米オープンであったと思う。ジュニアの頃より注目され、2001年ウィンブルドンでの対サンプラス戦勝利、そしてその2年後のウィンブルドンの優勝でトッププレーヤーの一人に駆け上った。しかし、それでもその地位は多くの中の一人、王者達の中の一人でしかなかった。2004年になって全豪オープンを取り、ウィンブルドンを連覇して世界ランキングNo1になってもその感覚は変わりなかった。フェデラーが他のグランドスラムチャンピオンやNo1経験者に対して絶対的圧倒的強者として君臨することになるのはやはり2004年全米オープン決勝、ヒューイットを一方的に下した瞬間であったと思う。あの時、「当分はもう、誰もフェデラーを倒すことは出来ないかも知れない」と直感した。それはマスターズカップの全勝優勝で確信に変わる。今年に入ってサフィンとガスケに敗れているが、それでもフェデラーの地位は揺るがない。まさに男子テニス界の独裁者、皇帝である。
その皇帝に残された最後の覇業、それが全仏オープン制覇である。フェデラーには前皇帝サンプラスと違い、その可能性を充分に持っている。ただ、去年の全仏オープンを見た限りでは「少し、難しいかな」と思っていた。しかし、今年のマスターズシリーズハンブルグ大会の連覇を見て、期待に代わった。そして願望にもなった。フェデラー時代は来年以降の磐石というわけに行かないように思う。サンプラスの時代が長く続いたのは、サンプラスが安定した強さを持っていたことのほかに、同世代はアガシ・チャン・クーリエ・ラフターなどライバルが競い合って台頭してきたが、その下の世代では10年近く対抗勢力となるほどの強者が現れなかった点が上げられる。しかし、今、フェデラーの直下にナダル・ガスケ・モンフィスなどかつてのサフィン・ヒューイット・ロディックに匹敵する可能性のある若手がもう育っている。フェデラーもまだ若い、だからこれからもますます強くなっていくだろう。しかし、若手に差を詰められていくこともまた事実。実際、他の選手を最も大きく引き離しているのは今現在なのかもしれない。来年の全仏制覇の可能性は今年より厳しくなるだろう、再来年はもっとだ。今年のうちにとっておきたい。そして生涯グランドスラムを達成して欲しいと思う。
もし、それが成功すればおそらくは途中でモヤ、SFでナダル、決勝でコリアという素晴しくドラマ性に富む道のりを経ることになる。「フェデラーばかりが強くて面白くない」と言われ始めて半年、いま最高にドラマチックな舞台が用意された。今年、フェデラーは有力候補ではあるが圧倒的本命というわけでもないところがそのドラマ性を盛り上げてくれる。
生涯グランドスラムをかけて皇帝の全仏挑戦が始まる。フェデラーのガリア戦記として少し注目して見て行きたいと思う。
2005年05月23日 フェデラーのガリア戦記2005 第一幕
ロジャー・フェデラー、ローランギャロスに現る、との警報に接し、ユダヤの男は直ちに出場、これを迎え撃たんとする。本日天気曇天なれども風強し・・・・・・という書き出しを考えていたのだが、風はそれほど吹いていなかったようだ。
全仏オープン1回戦
フェデラー 61 64 60 セラ
セラってイスラエルの選手で予選通過者らしい。中近東の選手ってクレー育ちなのかハード育ちなのかよく判らないことが多いが、そんなデータの有無などかかわらず、ストレートで圧勝。覇業の第一歩を順当に踏み出した皇帝、次はスペインのアルマグロ、クレーコーターだ、しかも若い。第二関門を如何に越えるのか。注目しよう。
2005年05月26日 フェデラーのガリア戦記2005 第二幕
全仏オープン 二回戦
フェデラー 63 76 62 アルマグロ
一回戦でアンフォース・エラーが多くて反省していたフェデラー、今回はミスも少なく、きっちりと修正するべき点を修正して試合に臨む。それでも第二セットは追い上げを許してTBにもつれこむ。しかし、追い上げはそこまで、TBを70と圧倒して終わると第三セットは危なげなく取って、無事二回戦進出を決めた。
去年の前半までのフェデラーであるならば、この試合は実は大変危ない試合になっていたと思う。大会方半の勝率がとても高い彼は、逆言えば負けるときはいつも早いラウンドであったといえる。しかし、TBでの集中力の上げ方を見ても、大会を通じて徐々に集中力を高めていくだけでなく、早いラウンドの試合の最中でも集中力を上げるべきところを見極めて、きっちりと勝つという状況を作り出している。その強さ、実にレベルが高い。去年の後半より圧倒的強者になったその理由がそこにあると思う。
次はチリのゴンザレス、クレーコート育ちのくせにそのサーブとストロークはどでかい大砲を撃ってくるタイプ。早いラウンドで、一戦ごとにタイプの違う相手とやりあうフェデラーのこのめぐり合わせ。天がフェデラーに二週目のための準備をしてくれているかのようである。もちろん、ゴンザレスは「二週目の準備」気分で簡単に倒せる相手ではない。その戦い振り、大いに注目しよう。
2005年05月29日 フェデラーのガリア戦記2005 第3幕
全仏オープン3回戦
フェデラー 76 75 62 ゴンザレス
映像を見ていないので、コメントしにくいのだが、最初の2セットは良くぞ勝ったものだと思わされる内容だったようだ。ゴンザレスのフォアハンド・・・・あれはつなぎとかコントロールとかまるで考えていないようなショットだからな(実際には本人は色々考えているのであろうが)。強打にフェデラーが得意の展開力を発揮できなかったことは大いに想像できる。
それでも勝つ。タイブレークまで来て勝つ、最後の最後で1ブレーク差で勝つ。競った内容でもセットそのものは落とさない。必ず取る。これが強さだ。
これでローランギャロスでの準備は整った。いよいよ、4回戦、対モヤ戦である。ナダル・コリアに匹敵する赤土の強者モヤ。対戦成績ではフェデラーが勝ち越しているが、モヤの側にはそれほど苦手意識があるとも思えない。ここを越えれば勢いが出る。波に乗れる。ナダル、コリアを連覇する自信を得ることが出来るはずだ。
皇帝最後の覇業に向けて、大きなポイントに差し掛かったフェデラー。いよいよ佳境である。今度はWOWWOWも放送してくれるだろう。注目である。
2005年05月30日 フェデラーのガリア戦記2005 第4幕
全仏オープン4回戦
フェデラー 61 64 63 モヤ
完璧だ・・・・・これ以上にないというほどに完璧な勝利である。モヤは肩に故障を抱えており、全仏直前の大会から不調は訴えていた。そしてこの日、結局モヤは体調を回復させることなく、試合に臨んだ。だから今日は勝って当然の試合ではある。しかし、なんと言うか勝ち方に揺らぎがないというか、相手の事情にかかわりなく、完璧なプレーをして、取るべきポイントは確実に取って、取ることが難しいポイントも取って、そして勝った。長いラリーもあったが引かずに打ち合い、そして勝った。素晴らしい。
今のところ彼に死角はない。だが、できればここで完調のモヤと当たって接戦をしておきたかった。準決勝と決勝で当たる相手のことを考えると調子を上げるという意味ではその方がよかった。しかし、早く試合が終わったおかげで体力の温存にはなっている。この完勝が後で吉と出るか凶と出るか、その結果はこの週末に判明する。
2005年05月31日 フェデラーのガリア戦記2005 第5幕
全仏オープン2005 QF
フェデラー 62 76 63 ハネスケ
第二セットではいいプレーをしたハネスケ、しかしTBで押切らせなかった。押し戻した。見事フェデラー。完璧、あまりにいつもどおりのフェデラーのテニスなので解説のしようもない、する必要もない。いつもどおりのテニスをしていつもどおりに勝つ皇帝。最後の覇業を完結させるまで残る関門は後二つ。SFの相手はまだ対戦中、しかし、ほぼ確定している。あの男が来る。フェデラーは彼が来るのを静かに待っている。
2005年06月02日 フェデラーのガリア戦記2005 決戦前夜
世界中がこの対戦の行方に注目している。大会のドローが発表された瞬間より、その実現がこれほど期待され、同時にこれほど確実視された試合はここ数年ではない。「事実上の決勝戦」という言葉は使い尽くされた感があるし、陳腐な感じもする。しかし、この試合を「事実上の決勝戦」と呼ばずになんとよぶのか。2005年フレンチオープン、トップハーフのセミファイナル、フェデラー対ナダル戦が明日に迫った。
去年、リトルスラムを達成した時点でフェデラーは圧倒的強者となった。去年年末のマスターズカップで、ランキングのトップ4がそのままトップ4シードになり、そのままベスト4に揃い踏みしたした時点で、フェデラーを追撃できる位置にいるのはサフィン・ヒューイット・ロディックしかいないと思われた。それがほんの数ヶ月前の状態だった。注目はされてはいてもナダルはまだフェデラーの関心の外側にいた。
始まりはマスターズシリーズの2005年第二戦マイアミ大会の決勝戦だった。圧倒的強者フェデラーを2セットダウンまで追い込むナダル。マイアミはハードコートである。クレーコートスペシャリストであるナダルがヒューイット・ロディックを圧倒するフェデラーに対して、ハードコートの上で先に2セット連続して取ったのだった。結局逆転負けを喫したが、誰もがこれがクレーの上ならば、ナダルはフェデラーを倒せると想像しただろう。
ヨーロッパクレーシーズンに入り、フェデラーはガスケに不覚を取りスタートダッシュに失敗、失速しているうちにナダルは連勝を重ね、MSモンテカルロ、ローマ大会を連覇した。マイアミでフェデラーから自信と強さを貰い受けたかのような活躍である。指を負傷しているナダルはMSハンブルグ大会をスキップした。その大会でフェデラーはクレーでの優勝を上げ、全仏への準備を終えた。二人ともマスターズシリーズの優勝への過程で去年モヤと共にクレー最強だったコリアを下している。今年のクレーの双璧はフェデラーとナダルであることを世間に知らしめた。この二人が全仏のタイトルを競い合う。それも激しく、そして強く。誰もがそう信じているはずだ。そして、その通りになった。
ナダルは5年前のロディック同様、先にメディアで注目を浴びており、話題ばかり先行していた。実際にそのプレーを見たのは今年の全豪オープンになってからである。TVが地上波のみの人は未だに見ていない人もいるだろう。さて、その話題のナダル、ハードヒッターかと思っていたが、実はスピンボールを主体にした組み立てでポイントを取る老獪な戦術家だった。そして、フェデラーのように攻撃的テニスでガンガン攻めてくる相手に対しては、守りに守り、最後にカウンターショットで切り返す。まるで活躍し始めた頃のヒューイットのようだ。赤土の上のヒューイット。しかし、彼もまたヒューイット同様熱い男だが、その熱さは種類が違う。けして精神的に切れることもなければさめることもない。クレバーに、静かに燃える。若々しい激しい炎ではなく、何があっても決して消えることのない炉の中の炭火のような熱さを持つ男である。
フェデラーは2003年まではヒューイットやナルバンディアンといった守りに固く、カウンターショットを得意とした相手を苦手にしていた。攻めて、攻めて、攻めきろうとしたときカウンターで切り返される。フェデラーが徐々にネットに出る機会が減ってきているのは、ストロークが強くなっただけでなく、カウンターショット対策の一環でもあるのだろう。去年は見事にヒューイットやナルバンディアンを圧倒した。しかし、クレーの上での今のナダルはヒューイットやナルバンディアンの上を行く。
QFでの対フェラー戦はそれをよくあらわしていた。第一セット、攻めているのは明らかにフェラーである。しかし、ナダルの防御は崩れない。ボールを返す。これでもかとハードヒットを繰り返し押切ろうとするフェラーだが、ナダルの前に攻めきれず、先にミスをしてしまう。そして、ここぞという時にカウンターショットの餌食になる。競り合いの上、第一セットを取ったのはナダルであった。そして、フェラーはその鉄壁の防御と鋭いカウンターの前に戦意を失っていき、最後は自滅の形で試合を終えた。
SFでのフェデラーはQFでのフェラー同様、ナダルを圧倒しようと猛攻を仕掛けるだろう。マイアミでの苦戦の記憶を振り払うように。果たしてフェデラーの攻撃はナダルの防御を突き崩すことが出来るだろうか。もしも攻めきれずに試合が長引けば、それはナダルのペースである。そして、マイアミの二の舞はナダルの方も決してしまいと心に誓っているはずだ。一度リードを奪えば、今度こそそのリードを守りきる。お互いに勝利の鍵を握るのは第一セットだ。
期待と興奮が徐々に高まっていく。この試合の行方は今年の全仏男子シングルスの優勝の行方だけでなく、今後数年間のATPにおけるトップ選手達の力関係に大きく影響を与えることになるだろう。皇帝フェデラーの覇業、生涯グランドスラムへの最大の難関、準決勝ナダル戦。ナダルはいつもどおりの試合をするだけ。天に試されているのはフェデラー、挑んでいるのはフェデラー、その覇権、磐石のものに出来るか。
決戦の時は来た。いよいよ明日、男子シングルス準決勝である。
2005年06月04日 フェデラーのガリア戦記2005 終幕
フェデラーが鋭い逆クロスからネットに出る。そこへ追いついただけでも信じられないのにそこから更に鋭いパスを外側からコーナーに切り返し、ナダルが最初のポイントを取った。次にフェデラーはナダルをコートとの外に追い出すとセンターに戻ろうとするところの逆を突き、鮮やかなファハンド・ウィナーを決めた。素晴しいウィナーの応酬で始また。期待通りの好勝負を予感させる出だしである。しかし、その後の試合内容はあらゆる予想を裏切る内容となった。
2005年全仏オープン男子シングルス準決勝第二試合
ナダル 63 46 64 63 フェデラー
第一セット、フェデラーは対ナダルの意識が過剰であることが明らかだった。MSハンブルグ大会決勝対ガスケ戦同様、フォアを強打しようとしすぎてエラーを連発していた。しかし、それ以上に意外だったのは、ナダルが攻めていることである。いつもよりトップスピンの弾道が低い。低く、鋭く、そして速い。ガンガン攻めるナダルに対してエラーを連発するフェデラー。フェデラーもリスクをとって攻めているのでナダルのサービスゲームをブレークするが何よりナダルが攻めてフェデラーのサーブを破りまくる。試合は荒れた。女子の選手の試合のようなブレーク合戦の末、ナダルが取る。
第二セット、ナダルの攻めが甘くなった。ボールの弾道がいつものスピンボールになっていた。そしてフェデラーのプレーからはミスが減っていく。クレーの上でも地力に優るのはフェデラーだ。それを証明するかの様な内容でフェデラーが取る。
このままフェデラーのペースになるだろう。そう思った。だが、そうはならなかった。
第三セット、サービスゲームのキープ合戦になり、試合は落ち着いたかのように思われた。攻めるフェデラーに守りカウンターで切り返すナダル、ようやく予想通りの展開になる。だがフェデラーの攻めはいつもより甘い。ミスもまた増えてきた。ナダルがブレークした。そして最後第10ゲームもブレークしてフェデラーからセットを奪った。ナダルは特別なことは何もしていない。いつも通りのテニスをして、フェデラーからセットを取った。
このセットが終わった瞬間、フェデラーから自信が失われた。第4セット、赤土の上に立っている男は常勝無敗の皇帝ではなかった。先にブレークして先行するが、それはただボールをつないで相手のミスを待った結果だ。ナダルは勝利が見え初めてやや固くなったのか、フェデラーがペースを落として戸惑ったのか、鉄壁のディフェンスにミスが目立ち始めている。フェデラーの3-1になった。スコアだけ見ていればこのまま、フェデラーが第4セットを取ってセットオールとなると予想するだろう。しかし、TVの中のフェデラーの姿にはそれを確信させるだけの覇気がなかった。そして、不安は的中し、そこから5ゲームナダルが連取し、フェデラーは今年3度目の敗北を喫した。
雨天遅延による試合開始の遅れに加え、第一試合のダビデンコ対プエルタのSFがフルセットにもつれ込む大接戦だったため、第二試合の開始は大幅に遅れた。緯度が高いパリで夏至が近い6月のことだ、日没は21時45分だがフルセットになるとそれまでに終わらないだろう。日没順延だとフェデラーが息を吹き返すかも知れない。そこまで計算したかどうかはわからないがナダルはこのセット後半、集中して気落ちしたフェデラーを一気に倒した。WOWWOWは放送予定時間の追加延長枠を使い切り、この試合をLIVEで伝え切れなかった。翌日、女子の決勝が早く終わったため、この試合の結末を録画で放送したが、その後なんら劇的な展開があったわけではない。ナダルはいつも通りのプレーを淡々として、勝ってしまった。
如空が勝手に「皇帝」という称号を与えていているロジャー・フェデラー、彼がその皇帝の座について3回目の敗北である。しかし、今回の敗北は前二回の敗北とは与える影響が違う。
全豪サフィン戦は互いにマッチポイントを取り合う白熱した接戦だった。何よりサフィンがゾーンに入っており、ゾーンに入ったサフィンは手がつけられないということは誰もがわかりきっていることである。それはモンテカルロ大会の対ガスケ戦も同じである。フェデレーといえど一年間常勝無敗というわけには行くまい。これは交通事故にあったようなものだった。
今回は違う。フェデラーの側に問題は確かにあった。対ナダルへの意識過剰、フォアハンドの回り込みの際のミス多発(これはサウスポーからのトップスピンにまだ完全にアジャストしていないためと思われる)、サービスのコースも少し甘かった。日没順延を予想して集中力を最後に切らしていたという油断もあっただろう。しかし、フェデラーはそんな状況でも今まで勝ってきたのだ。だから今の地位にいるのだ。そのフェデラーが、いつも通りのテニスをする相手に負けてしまった。ナダルの偉大さをも認めつつも、「ナダルが出来たなら俺も」と思った選手は多いはず。皇帝の権威の前にひれ伏して、戦う前から自分で作り出してしまった皇帝の圧力の前に屈していた選手達がその圧力から解放されてしまうと、さすがにスロースターターのフェデラーは苦戦してしまう。時には事故も起こるだろう。
次のウィンブルドンでフェデラーにはそのキャリアの上で大きな転換期を迎える。ここで3連覇をするだけでは駄目だ。それこそセットを一つも落とさず、7戦全てストレートで圧勝するくらいのことをしないといけない。
全仏制圧どころではなくなった。磐石と思われた皇帝の覇権は早くも試練に立たされる,
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