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第091房 2009年 全仏オープン TV観戦記 (2009/08/15)

 

2009年05月23日 2009年全仏ドロー

2009年フレンチ(全仏)オープンのドローが発表された。例によって男女シングルスのドローを四つの山に分けて、独断と偏見による無責任な展望を見てみよう。

男子第一シードはラファエル・ナダル、去年よりエントリーランキングでNo1に君臨する「覇王」、かつクレーコートでは圧倒的強さを見せる「赤土の上の要塞」である。彼の山であるトップハーフの上半分は第八シードのベルダスコを筆頭にダビデンコ、フェレール、バブリンカ、ソーダーリン、カルロビッチ、アルマグロとシード勢が続く。他にもヒューイット、キーファー、マシュー、カレリ、クエリー、セラらが集う。過去にナダルを苦しめたことのある実力者がそろっている。ナダルの優位に変わりはないと思うが、途中での苦戦は当然予想される。そして苦戦すればするほどにナダルは強さを増していくのも、これまでと変わらないことだろう。
第三シードはアンディ・マレー、テニス発祥の地イギリスにグランスラムタイトルを持ち帰るべく王者達に立ち向かう英国の牙である。彼の山であるトップハーフの下半分は第七シードのシモンを筆頭にゴンザレス、チリッチ、ステパネック、ロペス、ハネスクらシード勢が続く。他にもチェラ、チプサレビッチ、モンタネス、ガウディオ、ユーズニーらが集う。ベテランがそろったドローだ。シモンのクレーでの力量がまだ未知数である部分が多いのが不気味でもある。飛び抜けて困難な相手がいるというわけでもないが、マレー自身がクレーでは圧倒的な力を発揮するにいたっていない現状では、波乱と混戦の状態になることが大いに予想される山である。
第四シードはノバク・ジョコビッチ、エントリーランキングこそ四位に落としたがクレーコートで着実に力を発揮し始めナダルを追撃している、まさにハードとクレーの両制覇を目指す「双頭の鷲」である。彼の山であるボトムハーフの上半分は第五シードデルポトロを筆頭にツォンガ、ロブレド、ツルスノフ、フィッシュ、アンドレーフ、コールシュライバーらシード勢が続く。他にロドラ、トロイッキ、クレメン、サントロ、バクダティス、モナコ、ベネトー、ガルシアロペス、セッピ、フェレーロ、リュビチッチ、ステファンキー、ラペンティらが集う。こちらもややベテラン偏重のドローだろうか。クレーの上でも圧倒的な強さを発揮しつつある、ジョコビッチである。彼のこのドロー突破の障害は、対戦相手の状態より、ジョコビッチ自身が全ての試合で力量を最大限発揮しうるだけのコンディションを毎回整えられるか否かにかかっていよう。
第二シードはロジャー・フェデラー、かつてATPを支配した圧倒的強者である。その強さは圧倒的ではなくなったもの、タイトルを狙うには十分な力を備え持つ、如空が「皇帝」と呼ぶ人である。彼の山であるボトムハーフの下半分は、第六シードのロディックを筆頭にモンフィス、ブレーク、ベルディッヒ、メルツァー、シュトラー、マチューらが続く。他にもハース、ジネプリ、アカスソらが集う。ロディックがまたしてもフェデラーの山に入ってきている。ロディックだけでなくクレーがそれほど得意でないアメリカ勢がこぞってここに集結してしまった。力を取り戻しつつあるフェデラーの優位はそれほど崩れまい。
トップ4シードがそれ以下の選手を大きく引き離している今季前半の現状は、この全仏でも変わりない。だが今季前半戦のマスターズ1000大会ではベスト4にトップ4シードの揃い踏みは実現せず、常に3強プラス1であった。この全仏もそうなる可能性の方が大きいと思うのだが、その場合、四強から落ちるの誰か、そこに注目が集まるだろう。そしてナダル圧倒的優位の予想の中、その打倒ナダルを果たしうる選手の出現なるか、という点こそがこの大会の大きな注目点である。

女子の第一シードはディナラ・サフィーナ、エントリーランキングNo1の現女王でありかつグランドスラムタイトル無冠の女王でもある。彼女の山であるトップハーフの上半分は第八シードのイバノビッチを筆頭にアザレンカ、チェン、スアレスナバロ、クレイバノワ、パブルチェンコバ、ベネソバらシード勢が続く。他にも杉山、レザイらが集う。去年の全仏チャンピオンイバノビッチと台頭著しいアザレンカがいるが、このクレーシーズンに入って調子を上げてきているサフィーナはこれを突破しうると見るが如何に。
第三シードはヴィーナス・ウィリアムズ、一時期の低迷を抜け、ふたたびグランドスラムタイトルを狙う位置にまで戻ってきたウィリアムズ姉妹の姉である。彼女の山であるトップハーフの下半分は第六シードズボナレワを筆頭にペトロワ、モーレスモ、カネッピ、シブルコバ、リー、サバイとシード勢が続く。他にサファロバ、ボンダレンコ(姉)、ドゥルコ、グローエンフィールド、バジンスキーらが集う。去年より好調を維持するズボナレワであるがウィリアムズの壁を突破するには難しいだろう。それよりも復活しつつある地元フランスのモーレスモの存在の方が不気味ではある。
第四シードはディメンティワ、長年ロシア勢を牽引してきた実力者がここに来てNo4にまで上がってきた。彼女の山であるボトムハーフの上半分は第五シードヤンコビッチを筆頭にウォズニアッキ、バルトリ、メディナガルゲス、コルネット、チャクベターゼ、ストーサーらシード勢が続く。他にも森田、ハンチェコワ、ラドワンスカ(妹)、ドキッチらが集う。ディメンティエワにとってはタフドローだろう。ここは波乱と混戦が予想されるが如何に。
第二シードはセリーナ・ウィリアムズ、かつて四大大会4連続制覇を成し遂げWTAに君臨した圧倒的強者はその後も力を緩やかにしつつも、常にグランドスラムタイトルを手中に出来る位置でタイトルを狙い続ける。ウィリアムズ姉妹の妹である。彼女の山であるボトムハーフの下半分は第七シードのクズネツォワを筆頭にラドワンスカ(姉)、ペンネッタ、シュニーダー、オズニアック、バーマー、ペンらシード勢が続く。他にミルザ、デシー、ボンダレンコ(妹)、キリレンコ、ルワノパスカル、バイディソワらが集う。S・ウィリアムズが勢いをつけて、それを維持し続けるかどうか。そこがポイントであろう。
去年は決勝にまで進みながらも優勝を逃したサフィーナ、今季はNo1として万全のテニスでこの全仏に乗り込んできた。ここで全仏を取り、GS無冠の女王の名を返上したところだろう。一方で静かに復活しつつある元女王姉妹ウィリアムズの動向が気にかかる。サフィーナが優勝する場合、順当に行けばSFで対ヴィーナス、決勝で対セリーナを打倒しなければならない。これは女王への最大の試練となるだろう。果たしてそれを突破して真の女王への座へたどり着くのか。それ以外のドラマが起こりうるのか。混戦のWTAに一つの転機が近づいているような予感がするが、結果は如何に。

全仏は今年も日曜日開幕である。WOWOWが初日より全力中継してくれる。クルム伊達は予選敗退、錦織も欠場で日本人的盛り上がりには欠けるかもしれないが、ナダルの男子単5連覇なるか、混戦の女子単を征するのは誰か、見所は満載である。欧州赤土戦線のクライマックスに相応しい熱戦を期待しよう。

 

2009年05月25日 55本のサービスエース 全仏2009初日

2009全仏オープン開幕である。WOWOWさんは例年気合の入った初日の解説をしていたが、今年はあまりお祭り騒ぎをせずに、地味に控えめに放送を始めましたな。しかしオープニングのあのギターの曲はとてもいいですよ。フランスというよりスペインかポルトガルを思わせますけども。前半二試合、後半二試合の計4試合を生中継+録画中継である。初日はイバノビッチ、サフィン、カルロビッチ、マレーの試合を放送した。毎回言うことだが、この中継、全てライブで見ている人ってどれくらいいるのだろうか。
女子はノーシードであるが地元期待のモーレスモが初戦敗退したことがニュースであろうか。如空も期待していただけに残念だ。そして男子初日の目玉はこれだ。

2009全仏一回戦
ヒューイット 67 67 76 64 63 カルロビッチ

ヒューイットはウィンブルドンを優勝した翌年、そのウィンブルドンでまさかの一回戦敗退をする。その相手がこのカルロビッチだった。この日もカルロビッチのサーブが好調、リターンの名手ヒューイットにまともにレシーブさせなかった。スピードならロディックなどの方がさらに速いのだろうが、カルロビッチはその長身から繰り出すサーブのコースがすごい。特にワイドへのフラットサーブは予測できてもラケットに当てられないという角度で入ってくる。まさに高射砲のようなサーブである。ヒューイットは第一セットから第三セットまでブレークをする事が出来ずに連続TBに持ち込まれていた。第一・第二セットはカルロビッチが取る。カルロビッチはサーブだけでなくバックハンドのキレがいい。スライスも鋭いし、フラットドライブも切れている。これはヒューイットが押し切られるかと思われたが、第三セットのTBはヒューイットが取った。そこから流れが変わった。リターンも堅実に返せるようになったし、ラリーにもヒューイット本来の粘りが出てきた。ないよりもサーブの威力でカルロビッチに劣るもの、サービスゲームのキープ力ではヒューイットは負けていなかった。第四・第五セットは見事にカルロビッチのサービスゲームを破り、2セットダウンからの大逆転でヒューイットが勝利した。負けたものの、カルロビッチはサービスエースを55本取り、ツアーにおける一試合のサービスエース記録を更新した。
サフィンもストレートで勝っている。こちらは第20シードだからね。余裕で初戦を突破してもらわなければ。今年を最後のシーズンにすると公言しているサフィンである。最後の一花をぜひ見せてくれ。

 

2009年05月26日 日本勢は受難 ナダルはピンク 2009全仏二日目 

男子はベルディッヒダウン、女子はペネッタ・シュニーダー・クレイバノワ・チャクベターゼらがダウン、それ以外の上位シード勢は安泰である。適度に緊張感のある全仏2009の二日目であった。WOWOWの放送は杉山・ナダル・フェデラー・森田・ベルディッヒであった。
今回はノーシードとなった杉山の初戦の相手は地元フランスのレザイである。2006年の全仏で活躍して注目されたこの新鋭は、しかしその後やや低迷していた。だが今年の全仏直前のストラブール国際でいきなりツアー初優勝を遂げ、再び脚光を浴びることになった。そして三年前にこの全仏二回戦であたり、飛躍のきっかけとなった杉山とまたも対戦することになった。レザイのストロークが強い、そして深い。特にフォアのスピンが強烈だ。打点も高い、コースもいい、ストレート・クロス・逆クロスと両コーナーへボールが打ち込まれる。これは強い。対する杉山はその強打の嵐によく対抗した。拾い続けて、レザイが我慢し切れずにミスするとこまで粘っていた。だが粘るだけではいつかは押し切られる。そして、杉山からの攻撃ではチャンスを生かしきれていなかった。結果は63 62 でレザイのストレート勝利であった。
同じ日に森田もストレート負けを喫して初戦敗退した。テニスとは関係ない話だが森田ってアイススケートの浅田真央と目元が似ているな。全然テニスとは関係ないが。これで日本勢はシングルス全滅となった。しかも、日本に帰国している錦織は右肘に疲労骨折(小さなひびが入っているとこのこと)が確認され、ツアーから長期戦線離脱することになったと記者会見していた。クルム伊達の全仏予選敗退も故障による途中棄権だった。日本人プレーヤーには受難の季節のようだ。後日の再起に期待したい。
No1としてローランギャロスに乗り込んできたナダルの新しいウェアカラーはなんとピンク、バンダナとリストバンドがイエローである。試合はストレート勝利であった。しかし、そのウェアの色、ナダルには似合っていないと思うぞ・・・・・今までのオレンジやイエローやグリーンの方がよっかったと思う。それにシャツに袖がついて襟までついたのもまだ違和感がある。あくまで如空の個人的視点だが。

 

2009年05月26日 城壁・皇帝・鷲 フェデラーのガリア戦記2009 

去年の全仏では、フェデラーはATPエントリーランキングNo1で第一シードとして全仏オープンに乗り込んできた。去年の全仏の段階では、男子主要選手の中で生涯グランドスラムに後一つと迫っていた選手はフェデラーだけだった。去年の欧州赤土戦線では赤土の上の要塞ナダルを倒す可能性を最も持ちうるのは「皇帝」と如空が呼んだフェデラーだった。
今年は違う。
去年の夏、フェデラーの長期政権は崩れ、ナダルがエントリーランキングNO1となり、ナダルはATPツアーに君臨する新しき覇王となった。政権交代が行われる直前のウィンブルドンで、フェデラーはウィンブルドンで六連覇をナダルに阻まれた。そして今年年頭の全豪でも両者は決勝で対決、ナダルが勝利した。ナダルは赤土だけでなく、芝、そしてハードコートと異なるサーフェイスのグランドスラムタイトルを手に入れた。ナダルは残す全米タイトルを取れば生涯グランドスラムを達成する。フェデラーの他に生涯グランドスラムに王手をかけた現役選手が男子でもう一人生まれたのだ。それだけではない。フェデラーが長年目標にしていた北京オリンピックで男子シングルス競技の金メダルを手に入れたのはナダルだった。今ナダルはフェデラーが達成するには後3年待たなければならないゴールデンスラム、つまり四大大会制覇+オリンピック金メダルの偉業に王手をかけているのである。
そんな状況下で、今年もフェデラーは生涯グランドスラム達成をかけて、かつてガリアと呼ばれた地、フランス・パリのローランギャロスにやって来た。
フェデラーの状況は過去数年間の全仏タイトル挑戦の中で最も厳しい状態ではある。それはフェデラー自身の状況が直前のマドリッド大会の優勝まで今季無冠であったことにからもうかがえる。クレーコート大会であるマスターズ1000シリーズのマドリッド大会決勝でナダルをストレートで破ったという事実は、本来ならば全仏制覇に向けて好材料ととらえられるべきところだ。難攻不落の要塞、赤土の上に聳え立つ高い城壁、それがナダルだ。そのナダルに今季クレーで勝利しているのはフェデラーだけなのだ。だがこの勝利はそのまま好材料となるほど簡単ではないようだ。
一つには会場の問題、開催地であるスペインの首都マドリッドは標高の高い都市とてして知られる。空気が薄く、空気抵抗が通常より低くなる。それゆえにスピンボールの回転がかかりにくく、逆にフラットボールのスピードが増すと言われていた。そのことを理由にナダルは地元スペインの大会であるにも関わらず、このマドリッド大会の出場をためらったと言われている。空気の薄さがテニスの内容にそれほど大きく関わるのか、如空は疑問視していたが、実際GAORAで中継されていたマドリッド大会の模様を見ると、確かにナダルやジョコビッチなどのスピンボールの使い手は、ストロークやサーブのコントロールに苦しんでおり、逆にフェデラーの高い打点からの叩き込みはいつも以上のスピードがあった。高地環境がナダルに不利、フェデラーに有利に働いたのは程度の差こそあれ、事実のようだ。
二つ目はナダル側のスケジュールの問題である。ナダルは全仏初優勝した2005年より全仏を含む欧州赤土戦線、ヨーロッパクレーコートシーズンで圧倒的な好成績を残している。全仏の他にモンテカルロとバルセロナで5連覇、ローマは4回優勝、去年までマドリッド大会の時期に行われていたハンブルグ大会でも優勝を遂げて、ヨーロッパクレーを完全制覇している。だが完全制覇とはいえ、毎年全戦フル出場の全戦常勝無敗であったかというとそうではない。2005年と2006年は天王山というべきローマ大会の決勝でフルセットマッチ(当時はまだMS決勝戦はベストオブ5セットマッチだった)の死闘を繰り広げ、その疲労から直後のハンブルグ大会を欠場している。2007年はついに欧州赤土戦線全戦フル出場を果たしたがハンブルグの決勝でフェデラーに敗れた。そして2008年も全戦フル出場したが、ローマ大会では二回戦で敗退し、赤土戦線全戦全勝は果たせなかった。だが全仏への道のりという視点でこの経過を見ると、全仏までの一連のクレー大会のどこかで欠場・或いは敗退があり、それがナダルに適度の休養を与えているのではないかと思えなくもない。特に今年は直前のマドリッド大会で決勝まで進んでいるので、欧州赤土戦線の全試合にナダルは出場していたことになる。ちょうどハンブルグでフェデラーに負けた2007年と同じ状態だ。だがこのマドリッドの決勝戦、ナダルは無理をしなかった。手を抜いたわけではないが、淡々としたプレーに終始して、後に影響の出るような疲労や怪我を上手く避けることができた。これでナダルは肉体的だけでなく精神的にも適度に余力を持って全仏に乗り込んでこられたのではないだろうか。つまり、去年同様、全仏二週目から一気にギアを上げて相手を圧倒したあの力を温存しておくことに成功しているのではないだろうかという予測である。その予想が当たっていれば、マドリッド決勝での敗退はナダルにそれほど悪影響を及ぼしているわけではないととらえられる。何よりマドリッド大会の決勝の前日、ナダルは3セットマッチでは男子ツアー史上最長の4時間を越える激戦を戦っているのである。翌日の決勝で無理をしていれば全仏での影響は必至であったろう。
そのマドリッド準決勝で覇王ナダルを最も苦しめた男、それがジョコビッチである。去年のローマ大会優勝者、そして今年もモンテカルロ、そしてローマで決勝まで勝ち進んだ。マドリッドでは準決勝敗退に終わったが、マッチポイントを握るところまでナダルを追い込んでいる。ジョコビッチもスピン系のストロークが主体であるので、マドリッドでコントロールに苦しんだのはナダルと同様である。それでもあの強さである。芝のコート、ウィンブルドンでナダルがフェデラーに徐々に近づいていったように、今ジョコビッチはナダルに赤土の上での差を徐々に埋めつつある。マドリッドでナダルに勝ったフェデラーよりも敗れたものの善戦をしつつ前進しているジョコビッチの方が、打倒ナダルの可能性をより多く持っているのではないだろうか。ジョコビッチのクレーシーズンでの活躍を見るにそう思わないでもない。
ハードコートだけでなくクレーコートでも覇権を目指す「双頭の鷲」セルビアのノバック・ジョコビッチ、数年前からナダルとフェデラーの二強関係に大きな影響力を見せ始め、運命の鍵を握る人物ともいえるこのジョコビッチが、この全仏でフェデラーの山に入った。順当に行けばSFで当たるのである。フェデラー優勝するためには準決勝でジョコビッチを破り、そして決勝でナダルを破らなければならない。過去の全仏挑戦の中でも最高にタフなドローとなった。
そんな厳しい状況下で、フェデラーはしかし淡々と開戦した。

2009年全仏オープン一回戦
フェデラー 64 63 62 マルティン

強打!強打!強打!フレームショットなど気にしない、先にブレークされても気にしない。とにかく速いスイングでハードヒットしろ、強打をコートに叩きつけろ。マドリッド決勝でハードヒットの威力が増したのは空気が薄かったからだけではない。ショットそのもの力がさらに強くなったのだ。それをその目で見よ。強打でウィナーを取るのだ。これがフェデラーだ。皇帝のテニスだ。
そういているかのような、嵐のような3セットであった。マルティンは片手打ちバックハンドでスピン主体のストローカーである。そのテニスの内容は決して悪くなく、フェデラー相手によく善戦したと言える。だがそれをパワーとスピードでフェデラーは上回り、圧倒した。特にサーブとフォアハンドストロークで明らかに今まで以上のオーバーパワーのショットを打ち続けた。スイングがとにかく速かった。そして打点が高く、強かった。バックのドライブは堅実、スライスはよく伸び、フォアハンドのドロップショットが強打に対する絶妙の緩急となってマルティンを揺さぶっていた。久しぶりに強いテニスを展開してフェデラーは初戦を突破した。
今までに比べればフェデラーの優勝を期待する声も生涯グランドスラム達成を望む声もそれほど大きくはない。注目度が下がったほうが仕事はしやすかろう。今年もまたフェデラーの挑戦が始まった。その過程に注目し、今年もまた書き記していく。あくまで如空の個人的視点から見たフェデラーの全仏タイトル挑戦記である。

過去の記事はこちらから

フェデラーのガリア戦記2008
フェデラーのガリア戦記2007
フェデラーのガリア戦記2006
フェデラーのガリア戦記2005

 

2009年05月27日 現地不在の訳 2009全仏三日目

ブレーク・フィッシュ・シュトラーダウン、女子はおおむね安泰の2009全仏三日目である。
WOWOWの中継はヤンコビッチ・ジョコビッチ・ツォンガ・Vウィリアムズの予定であったが、最初のヤンコビッチ対チェコフスカ戦の途中で雨天中断が入ってしまった。LIVE中継だったので中断中前日の森田戦を録画中継していた。注目の男子段四シードジョコビッチはいきなり対戦相手ラペンティの途中棄権で勝利を拾う。連戦でややお疲れモードの感のあるジョコビッチであるので、これで少しは休めただろうか。
さて、WOWOWの中継は毎年ローランギャロスのテラス席でフローラン・ダバディ氏らがナビゲータになって進行していた。あのテラス席からの司会は大会会場の臨場感がよく伝わってきていて如空はとても好感を持ってみていた。だが今年は安っぽいのセットのスタジオから司会である。これは去年の金融危機に端を発した世界大不況のあおりを受けて、WOWOWのテニス中継も経費削減、そのため現地にスタッフを遅れなかったのだ・・・・・と勝手に想像していた。が違った。原因はインフルエンザだった。WOWOW解説陣の重鎮柳恵誌郎氏のHPに試合のレビューが大会期間中掲載される。それを見に行くと、インフルエンザ問題の対応のため、現地に行かずに日本から解説することになったと、HP冒頭に記載されていた。おいおい、みんなでマスクして行けばいいじゃないか。と思ったがそう簡単ではないのであろう。これ。一ヵ月後のウィンブルドン中継も同様になるのかね。現地に行かずに日本からの実況・解説か・・・・少し心配である。

 

2009年05月28日 ノーシードの元女王 2009全仏四日目

2009全仏四日目、二回戦でいきなり第十一シードを破ってその存在感を見せ付けるのは、やはり元女王の器がなせるわざか。

2009全仏女子単二回戦
シャラポワ 62 16 86 ペトロワ

WOWOWでも中継されていたこの試合、第一セットシャラポワ、第二セットペトロワと中盤まで比較的流れがはっきりしていた。ハードヒットの応酬となったストローク戦だが、ラリーではほぼ互角、サーブとリターンの調子でそれぞれ各セット明暗が分かれた。だがファイナルは接戦で、6-6まで勝負がつかない。全仏のファイナルはTBがない。二ゲーム差がつくまでやる。長引けばブランク明けのシャラポワに不利かと思われたが、脅威の執着心で二ゲーム連取、勝利をものにした。一年近いブランクがあったとはいえ元女王がノーシードとは、同じロシアの同胞ペトロワにとっては大いに迷惑な話であったろう。シャラポワにはこの全仏タイトルに生涯グランドスラム達成がかかる。戦前はそれほど話題には上らなかったが、ハートが武器のシャラポワである。あるいはこの全仏で台風の目になるかもしれない

 

2009年05月29日 エレナ、エレナ、エレナ 2009全仏五日目

2009全仏五日目、男子は順当だが女子はバルトリ敗退を始め下位シードに動きがあった。WOWOWの中継はヤンコビッチ、V・ウィリアムズ、コルネ、フェデラー、ディメンティエワの試合だった。ヤンコビッチは調子よいね、相手もいいテニスをしていたが、それを上回る運動量で相手を圧倒していた。第五シードのエレナ・ヤンコビッチが快勝であった一方で、第四シードのエレナ・ディメンティワは大苦戦であった。デメを苦しめたのはエレナ・ドキッチである。

2009全仏女子単二回戦
ディメンティワ 26 43 ドキッチ(途中棄権)

ああ・・・・ドキちゃん、勝っていたのに・・・・・試合途中で腰痛に耐えかねて棄権してしまった。泣いていた。さすがに勝ちを拾ったディメンティワも心配してタオルで顔を覆っているドキッチの肩に手を乗せて労っていた。第一セットのドキッチは好調であった。彼女のテニスからはあまりクレーに適してしないのではないかと思うのだが、実際はクレーの大きな大会で優勝していたりして、実は得意にしている。TVの映像からも感じるのだが、ショットの鋭さや厳しさが球足の遅いクレーでもそれほど衰えないのだね。遠いボールにもよく追いついている。低い姿勢からの鋭いスイングがその秘密だろうか。だがそれゆえに腰に負担がかかっているのかもしれない。途中から腰痛に苦しみ始め、走れなくなってきていた。なんとも残念である。
先日の雨が響いているのが、試合は今日も完全に消化しきれず、中断順延があり、少しスケジュールが遅れ気味ではあるようだが、それでもおおむね順当に進行している。スケジュールに関してはこのまま順調に進んで欲しいものである。

 

2009年05月29日 攻めの姿勢 フェデラーのガリア戦記2009

この試合、見ている如空はフェデラーが勝った気がしなかった。

2009全仏 男子単二回戦
フェデラー 76 57 76 62 アカスソ

第一セットは1ブレークを取り合いTB、先にセットポイントを握ったのはアカスソ、何度もセットポイントを握ったのはアカスソ、しかしセットポイントを決めたのはフェデラー、見事な逆転であった。だがフェデラーは逆転で第一セットを先取したにも関わらず試合の流れを掴むことが出来なかった。チリのゴンザレスやスペインのアルマグロによく似た豪打で相手を押すタイプのアルゼンチンのアカスソ、彼はこの日好調で自分の力量をよく発揮していた。第二セットで先にブレークしたのはまたもアカスソ、そしてフェデラーがブレークに成功することはなかった。第三セット、アカスソがまたもブレークで先行する。アカスソリードで4-0となった。その第五ゲームでアカスソが足を捻った。その影響なのかどうか、5-1まで行ったが、そこからフェデラー怒涛の5ゲーム連取でまたも追いつき、TBを今度はシッカリと取りきった。そして第四セットはフェデラーらしく6-2で決めて、三回戦進出を確定した。
第一セットのTB、第二セットの終了直後、そして第三セットの0-4とされた瞬間、それぞれのシーンで如空はフェデラーの敗北が脳裏をよぎった。だがそれぞれのピンチを見事に逆転で乗り切った。相手のアンラッキーにも助けられたが、フェデラーにもミスが多かった。この試合は攻めているにもかかわらず、試合の流れを握ることが出来ていないような展開であった。それでもフェデラーにとって攻めの姿勢が終始貫かれていたことはよかった。この形でしか、彼が全仏タイトルを取ることは出来ないであろうから

 

2009年05月30日 アルマグロのやる気 2009全仏六日目

2009全仏六日目、女子第三シードヴィーナス・ウィリアムズダウン、ハンガリーのサバイによる大金星である。男子第七シードの地元シモンも敗退した。またフェラーもダウンした。WOWOWの中継はベルダスコ、サフィーナ、ナダル、シャラポワであった。ナダルはヒューイットをストレートで降している。

2009全仏男子単二回戦
ベルダスコ 26 76 76 アルマグロ

マグロ、じゃなかった、アルマジロ・・・・・でもなかった、アルマグロ、よくやった。いや、第一セットが終わったところで、アルマグロの悪いくせがでて、やる気をなくして試合を途中で投げてしまうのではないかと思っていたが・・・・・いや、見事、第二・第三セット、ベルダスコの強力なストロークにハードヒットで真っ向打ち合いを挑み、そして負けなかった。TBでも何度もピンチを切り抜け、チャンスを掴む。勝負を分けたのは紙一重の運の差であったように思う。この試合の後半のテニスを続けることが出来れば、いつか、クレーで最強の男を破ることが出来る日も来るかもしれないぞ、期待しているぞ、アルマジロ・・・・じゃなかったアルマグロ。
しかし、ベルダスコは充実しているな。第二・第三セットはアルマグロに試合の流れごとセットをもって行かれても仕方ないような状況に追い込まれていたが、力と技の絶妙な緩急が効果的に働いて、見事に競り合いに勝ち残った。ドロップショットからロブへの展開など試合巧者ぶりも見せ付けた。またバックハンドのスピンと角度のあるあるフラットの使い分けが見事だった。下手にセットを一つ落としての勝利より、競り合いながらもストレートで勝ちきったところに、今のベルダスコのテニスの充実振りがうかがえる。順当に行けばQFで予想される対ナダル戦、その活躍を大いに期待している。

 

2009年05月31日 双頭の鷲、赤土に散る 2009全仏七日目

今年の2009全仏最大の波乱は七日目に起こった。女子第四シードディメンティエワダウン、第十シードウォズニアッキダウン、そして最大の波乱はこれ。

2009全仏男子単三回戦
コールシュライバー 64 64 64 ジョコビッチ

双頭の鷲、セルビアのジョコビッチ、ローランギャロス三回戦で散る。運命の鍵を握るとまで言われた第四シードがシードを守れず、SF以前で負けてしまった。これが最後で最大の波乱になるのか。それともまだこれから起こる大波乱の前兆なのか。ここは四回戦の注目の仕方が少し変わってきた。
WOWOWの中継では冒頭で杉山・ハンチェコワ組の女子ダブルス三回戦を中継していた。だが、WOWOWの応援も届かず、杉山組は三回戦で敗退してしまった。こちらにもまた波乱が起こりそうである。

 

2009年05月31日 黄金世代の黄昏 フェデラーのガリア戦記2009

今年の全仏が始まる前にアルゼンチンのギジェルモ・コリアが引退を表明した。1982年生まれのコリアは今年27歳、年齢だけ見ると早過ぎる引退に見える。しかし、彼の長い苦闘の歴史を思うとここが限界とも思える。アルゼンチンテニス界の英雄ビラスと同じ名を与えられたコリアはジュニア時代から活躍していた。ツアーでもめきめきと頭角をあらわしていた。若くして幼い妻を娶り、その老獪な戦術からも、彼の早熟さが伺える。ドーピング疑惑をかけられて苦しんだ時期もあった。彼は疑惑後、アスリートとして当然取るべきサプリメントも何も取らずに、ひたすら水と健康食だけで体を作った。そしてクレーを支配するスペイン勢を押しのけ、アルゼンチン勢筆頭として2004全仏決勝まで勝ち上がった。2セット連取してリードして勝利をほぼ手中におさめかけていた。だが1セット戻された2-1で、突然の足の痙攣が起こった。一説には皮肉にもドーピング疑惑を避けて水だけの水分補給に頼ったために痙攣が起こったとも言われている。だがコリアはあきらめなかった。第四セットを捨て、足の回復を待ち、不完全な足を引きずりながらファイナルで猛攻を見せ、マッチポイントまで追い上げた。だがそこで決めることが出来なかった。ファイナル6-6まで行きながらその後2ゲームを連取され、念願の全仏タイトルを目前で逃した。翌年も彼がツアーでクレー最強の選手であるとの評価に変わりなかった。だがMSモンテカルロ・ローマで連続して決勝で敗れた。相手はスペインのナダルである。2005年MSローマ大会の決勝は5時間を超えるフルセットマッチの死闘で、クレーのテニス史に残る名勝負であった。そしてその試合こそ、クレーキングの称号がコリアからナダルに譲渡された瞬間となった。そしてその後、コリアは沈んだ。大きな大会で上位まで勝ち進むことはなく、やがて怪我にも苦しみ、今年の冒頭など日本の京都のチャレンジャー格の大会にエントリーしたりしていた。そしてついにモチベーションを維持できずに引退を表明した。いつか、あの2004全仏決勝での悲劇を取り返すチャンスが訪れる日が来ると信じていただけに、引退の報に接してとても悲しかった。
このコリアの悲劇となる2004全仏決勝の相手は皮肉にも同じアルゼンチンの選手でノーシードから勝ちあがってきたガストン・ガウディオであった。このとき波の激しい対戦相手コリアの起伏に付き合うことなく、淡々と自分のテニスを押し通し、相手にマッチポイントを握られるピンチを脱し、全仏タイトルをその手で掴んだのである。その運命論者とも言うべきおおらかな心構えが彼にチャンスを与えたのだろう。翌年、ガウディオはツアーでクレー大会5勝を上げる大活躍を見せる。だが彼もまた、新たに現れた赤土の覇者、ナダルの輝きの前に霞んで行った。1978年生まれのガウディオは今年30歳である。今ではツアー下部の大会を回っている。シーズン直前には引退を考えているようなことも発言していた。この全仏ではワールドカードをもらい、久々にツアーにその勇姿を見せたが、一回戦でステパネックと対戦、ストレートで敗退していった。
コリアやガウディオと共に2004年からのアルゼンチン勢台頭を牽引したナルバンディアンもまたコリアと同じ1982年生まれである。ジュニア時代には大活躍でフェデラーのライバルであった。フェデラーのキャリアの序盤はこのナルバンディアンに負け越していた。また2005年最終戦マスターズカップ決勝でフェデラーをフルセットの末に破り、一躍トップ選手の仲間入りを果たした。だがそれ以後はなかなかフェデラーの壁を突破できなかった。2007年のMSマドリッド・パリではナダルやフェデラーを倒して連勝したが、それ以後、低迷し、27歳となった現在は故障のために手術を余儀なくされている。
ロシアの大砲マラット・サフィンも1980年生まれで今年29歳となる。今年を現役最後のシーズンにすると言っている。エントリーランキングでNo1にもなり、全米・全豪とグランドスラムタイトルを二度もとった。しかも全豪はフェデラーがNo1となり圧倒的強者、如空が「皇帝」と呼ぶ状態になってからの打倒フェデラーを果たした上での優勝であった。おそらくこの数年の内で、ナダル以外にもっとも充実したテニスのドラマを体現した男であろう。そんなサフィンも最後にすると言っているこの全仏で二回戦で地元フランスのウィアンナと対戦、67 67 63 64 810 という壮絶なフルセットマッチを戦った末に敗れていった。
サフィンはジュニア時代にスペインにテニス留学している。そのときのテニス仲間で幼馴染であったのが2003年の全仏チャンピオン、スペインのフェレーロである。1980年生まれのフェレーロはサフィンと同じ29歳である。サフィンに刺激されたのか、フェレーロもまた引退をほのめかす発言を今年の初めにしている。今年の4月には久しぶりにクレーの大会で優勝して、復活の兆しを見せたが、この全仏はスペインの同胞ロペス相手に一回戦で67 46 76 75 62 というこちらも激闘の末に敗退していった。
全米・全英のタイトルホルダーで2001年2002年の年間最終ランキングNo1であるオーストラリアのヒューイットは1981年生まれで今年28歳である。彼もこの数年苦しんでいる。フェレーロ同様に今年4月にクレー大会で優勝していて、期待がかかっていたが、三回戦でナダルと対戦、 61 63 61 と、ナダルに圧倒され、ストレートで敗退して言った。正直、ナダルとの差がこれほど開いているとは思いもよらず、如空は試合をTVで見ていて少しショックであった。
同世代の選手が沈み行く中で、気を吐くのがアメリアのロディックである。全米タイトルホルダーにて2003年の年間最終ランキングNo1である彼は1982年生まれで、まだ全仏時点で26歳である。ウィンブルドンの決勝で二度、全米の決勝で一度、フェデラーにグランドスラムタイトルを阻止されている。2007全豪SFの対フェデラー戦の敗北は「公開処刑」とも言うべきひどい敗北であった。それでもロディックは沈まない。フェデラーに喰らいつき、何度でも何度でも挑戦する。ヒューイット・サフィン・フェレーロらが沈んでいく中で、彼だけは沈まずにまだトップ10を維持している。そして、第二週に残ったことがないこの苦手の全仏でも今年は三回戦を突破、四回戦第二週へと勝ち進んだ。彼の悩みながらも、それでも前に進むその姿勢は大いに評価されるべきだろう。
しかし、ロディックに牽引されているともいえる、アメリカの同世代、ブレーク、フィッシュ、ジネプリには徐々に輝きを失ってきている。またドイツの二枚看板ハースとキーファー、スペインの実力者ロブレドにも徐々に厳しい環境になりつつある。
アガシ・サンプラスの世代以降、なかなか後継者と呼べる新人が台頭してこなかったATPでは「ニュー・ボール・プリーズ」というキャンペーンを行い、1980年生まれを中心とした世代の選手を後援した。そしてサフィンを先頭にしてヒューイット、フェレーロ、フェデラー、ロディックとグランドスラムタイトルホルダーにしてエントリーランキングNO1を経験する「王者」が立て続けに生まれた。まさに彼らの世代は「黄金世代」と呼べるだろう。
その「黄金世代」に今、静かに黄昏が訪れようとしている。
ラケットとストリングの性能の向上は、サーブだけでなくリターンとストロークにもレベルアップを可能にした。もうネットに出なくてもベースラインからガンガンハードヒットしてウィナーが取れるのである。アガシやサンプラスが台頭し始めた頃から比べても、更にボールは速くなり、かつ回転かかかるのでネットを越えてラインの中に納まる。テレビゲームのようにベースラインを左右に動いてガンガン左右に打って打ちまくる。そのボールをあの広いコートで一人で拾うためには、世界でも屈指のアスリートとしてのフィジカルが要求される。100mの全力疾走を数時間何度も繰り返し、更にそこでコントロールと速さを要求されるショットを打たなければならない、そんな過酷なプレイ環境。それを可能にするのは世界で一握りの超人達だけであり、さらにその実働期間は男子でも短くなってきた。もはやゴルフや野球や、サッカーですらも参考にはならない。現役を続けることだけなら30歳を超えても可能かもしれないが、30歳を超えてアガシのようにグランドスラムで優勝し、かつNo1になるなどはほぼ不可能だろう。アガシが最後のオーバー30の王者になってしまう、それが今のテニスの現状ではないだろうか。それが事実ならば、さすがに「黄金世代」である「ニュー・ボール・プリーズ世代」の各選手のこれからは厳しい現実が待っているといえる。
そんな状況下で、1981年生まれの27歳、フェデラーは生涯グランドスラム達成とグランドスラムタイトル最多タイ14勝に挑んでいる。後一勝である。簡単なように見えるが、実は相当高い壁になってきているのではないだろうか。全仏3回戦も突破したが無事ではなかった。

2009全仏男子単三回戦
フェデラー 46 61 64 64 マチュー

フェデラーまたしてもセットダウン、この評価は難しい。まだ三回戦だし、少々もたついても勝てばよいかという状況かもしれない。逆にここで相手に圧倒できない状況下では打倒ナダルなど無理だという人もいる。とにかく第一週を突破した。今のフェデラーは決勝まで行って当然という去年までの状況ではないので、一安心である。またナダル以上の障壁になるかもしれないと恐れていたジョコビッチが三回戦で敗退した。これでフェデラーは対ナダルにフォーカスできる。その上で四回戦、QF、そしてSFでフェデラーらしい攻めのテニスで勝ち進んで欲しいものである。
「ニュー・ボール・プリーズ」の世代を黄金たらしめいているのはフェデラーの存在があればこそだろう。史上最強のオールラウンダー、史上最高の圧倒的強者、幾多の王者を生み出した世代の中でも、その王者たちを超える、如空が「皇帝」と呼んだその素晴らしい存在があればこそだ。それゆえに黄金世代は黄金の輝きを放っているのだ。残り時間はけしって長くはない。その輝きを少しでも長く、見せて欲しいと思う。

 

2009年06月01日 ナダル城陥落 2009全仏四回戦1

突然の嵐みたいに、音を立てて崩れていく。赤土の上の要塞、難攻不落の高い城壁、ラファエル・ナダルが陥落した。

2009全仏男子単四回戦
ソーダーリン 62 67 64 76 ナダル

WOWOW中継解説の柳恵誌郎氏がこの試合の序盤に「2007年全豪SFの対ツォンガ戦のような状況になってきましたね。ツォンガとはストロークのタイプは違いますが、それでも強打に押されてあのナダルが自分のテニスを出来なくなってきています。そこが2007全豪SFと同じような感じなんです。」と語っていたが、まさか結末まで2007全豪SFと同じになるとは予想だにしていなかっただろう。解説の通り、ソーダーリンの大きなテイクバックからのフォハンドは強いだけでなく、引き付けて打っているのでコースが読みにくい。サーブも強かった。鉄壁の防御を誇るナダルが、ボールを打ち抜かれ、翻弄されて、まさに押し切られて行った。ナダルは全仏初出場で優勝し以後ここまで常勝無敗であった。だが連勝記録は31でストップ、五連覇の夢は絶たれた。
嵐は他のコートにも吹き荒れた。マレーとゴンザレスは勝ち進んだが、第八シードベルダスコがダビデンコに敗れた。トップハーフのQFはソーダーリン対ダビデンコ、マレー対ゴンザレスである。決勝進出者が誰になるか、予想し辛い。
また女子では第八シードイバノビッチがアザレンカに敗れた。男女ともに前年度覇者が四回戦で敗退である。女子のトップハーフQFはサフィーナ対アザレンカ、チブルコワ対シャラポワである。サフィーナが圧倒的な力を見せ付けながら勝ち上がる影で、シャラポワが苦しみながらも勝ち上がってきている。もし今年の全仏、シャラポワとフェデラーがアベック優勝することになればそれは生涯グランドスラムもアベック達成ということになる。だが、この今年の全仏に吹き荒れる嵐は、まだまだ波乱を起こしそうな気もしないではない。その行方は如何に。ボトムハーフの四回戦も注目していこう。

 

2009年06月02日 嵐は止まず 2009全仏四回戦2

男子第六シード、ロディックダウン!女子第五シードヤンコビッチダウン!フェデラーは2セットダウンからの逆転で勝利、今日も嵐が吹き荒れる、2009全仏九日目である。
注目されたデルポトロ対ツォンガはデルポトロが押し切った。これで男子ボトムハーフのQFはデルポトロ対ロブレド、モンフィス対フェデラーである。少し地味じゃー。
ヤンコビッチはノーシード・ルーマニアのシルステアに36 60 97の大乱戦の末に敗れた。ラドワンスカは善戦及ばず、クズネツォワの前に64 16 61のこれまた乱戦の末に敗れた。これで女子ボトムハーフのQFはシルステア対ストーサー、クズネツォワ対S・ウィリアムズである。セリーナはやはり勝ち上がってくるね。クージーは対抗できるだろうか。
さていよいよ全仏も男女準々決勝となり、クライマックスを迎える。男女とも波乱の嵐吹き荒れる今年の全仏、征するのは誰か。その行方に注目しつつ、熱戦を期待しよう。

 

2009年06月02日 逆境の中の好機 フェデラーのガリア戦記2009

絶好のチャンスは最悪のタイミングでやってくる。
フェデラーの全仏制覇にとって最大の障壁であったナダルが四回戦で敗退した。またナダルと同じ高さを持つハードルと思われたジョコビッチも三回戦で既に敗退している。去年までのフェデラーであれば、この時点でもうほとんどタイトルを手中に収めた状態といってよかっただろう。だが今年のフェデラーは不安定である。不調であった去年よりも波が激しく、自分でそれをコントロールできていない。強いときは全盛期おも超える強さを発揮する、そうかと思えば、もうこれはランキング下位の選手に負けてもしかたないと思えるようなもろさを時に露呈する。そしてその上下差の激しい波が一試合の間に何度か押し寄せ、フェデラーのテニスを不安定なものにしてしまっている。この絶好のチャンスを、フェデラーは最悪のタイミングで迎えた。

2009全仏四回戦
フェデラー 67 57 64 60 62 ハース

二回戦の対アカスソ戦はフェデラーがストレートで負けたかもしれないという印象が残る試合だった。この試合は逆だ。なぜ、フェデラーはストレートで勝てなかった。2セットダウンという大ピンチになぜ陥ったのか。
第一セットのフェデラーのサービスゲームは完璧であった。ハースにポイントをほとんど取らせなかったばかりか、ポイント自体が短いショートポイントであった。ハースにストローク戦持ち込ませず、ラリーをさせなかった。ここは球足の遅くなるクレー・コートである。そこでほとんど芝かハードコートでテニスしているかのように早い展開でフェデラーはポイントを取っていく。こういう時のフェデラーは強い、何度もラブゲームキープでハースを圧倒した。が、サービスゲームが好調であったのはハースも同じである。フェデラーほど圧倒的ではなかったが、それでも比較的簡単にサービスゲームをキープして言った。キープ合戦の末、当然のごとくTBに突入した。TBに突入したとたん、力関係は逆転した。フェデラーはサーブを破られ、ハースは強い攻めでポイントを取り切った。きれいなウィナーもハースは連発し、7-4でTBを取る、第一セットはハースが先取した。
第二セット、先にブレークしたのはフェデラーである。強気の攻めが実を結んだ。第一セットまでのサービスゲームの出来からすればこの1ブレークで十分だったはずだ。だがハースもまたフェデラーのサービスゲームを破った。二度も。特に二回目のブレークは致命傷だった。第二セットは7-5でハースが連取する。
第三セット、キープ合戦、4-4、第九ゲーム、ハースがブレークポイントを握った。フェデラー絶対絶命のピンチである。だがフェデラーは乗り切った。そしてここからハースの方がおかしくなった。気の短いことで有名なハースだがこの日はよく集中して、堅実なテニスでフェデラーの猛攻に対抗していた。だがこの後、ミスが多発し始めた。ピンチの後にはチャンスが来る。キープに成功して5-4とした第十ゲームでハースのサービスゲームをブレーク。6-4で第三セットを取った。
そしてフェデラーはようやくギアをさらに上げた。第四セット途中でWOWOWの中継が終わったので、フェデラーのセットを取ったプレーは映像では完全に確認できない。とにかく結果は第四セット6-0で圧倒、ファイナルセットも2ブレークで6-2、2セットダウンからの逆転勝利であった。
フェデラーの調子はよかったシーンの方が多かった。第一セットのTB突入時、そして第二セットで先にブレークした時、このセットはフェデラーが取る、そして勝つと思った。だが結果は逆、フェデラーは大事なところでミスをして、ハースは逆に好プレーを連発した。競り合いの試合ではサービスゲームを堅実にキープしながらついていき、後半のリターンゲームとTBにて一段ギアを上げ、ブレークを取るあるいはTBを取り、一気にセットをものにする。これが競り合いの必勝パターンだ。それを第一・第二セットで成功したのがハースであり、失敗したのはフェデラーである。そして第三セットもほとんど同じパターンに陥ろうとしていた。後半怒涛のセット連取を割り引いて見ても、やはり薄氷を踏む思いの勝利であった。
勝負の行方のかかった大事なポイントでギアを上げられず、逆にミスがそこででてしまう。大事な場面で調子の波の下の方が来たのが第一・第二セットで、調子の上の方が来たのが第四・第五セットだった。そして第三セットはどちらかというとその主導権はハースに握られ、命運を相手にゆだねていた。危なかった。勝ったとはいえ、状況はよろしくない。
QFの相手はモンフィス、そしてSFはデルポトロ対ロブレドの勝者である。過去の戦績から見ればほぼ安心していいドローである。問題を抱えているのはフェデラー自身だ。大事なところでギアを上げて、調子の波の上の部分を持って来られるか。下の波が来れば、厳しい結果が待っている。それはジョコビッチやナダルの敗戦を見ても明らかだ。最悪のタイミングで訪れた、この絶好のチャンスを、フェデラーは生かすことが出来るだろうか。全仏タイトル、生涯グランドスラム達成という覇業まで、残り三試合。フェデラーの挑戦の結果はいかに。

 

2009年06月03日 赤土を打ち抜く豪打 2009全仏QF1

WOWOWが中継してくれている。それを全て録画している。それでも一日4試合も全て観戦できるわけないじゃない。仕事から帰って寝るまでの間に見ることが出来るのは一試合が限度だ。それ以外は早送りで見て、DVD-Rに保存して、後日ゆっくり見よう。少なくても準決勝まではそうしようと、グランドスラム中継のある週はいつもそうしている。だが、昨日は深夜まで、全て見てしまった。それぐらい、全ての試合が衝撃的であった。

2009全仏準々決勝
サフィーナ 16 64 62 アザレンカ

アザレンカが序盤から飛ばす。高い打点から強打強打でサフィーナを押す。第一セットで4−1にされたときには見ている如空の背筋に冷たいものが走った。これはサフィーナが負ける、女子も第一シードダウンだ。そう予見した。第一セットはアザレンカがサフィーナを圧倒して先取、続く第二セットもアザレンカがリードする。これは決まるかな・・・・とおもって見ていたら、サフィーナがようやくアザレンカのストロークに対抗し始めて、ブレークにも成功し、4-4に戻す。するとアザレンカのサーブが入らなくなった。序盤、ファーストの確率がとても高かったアザレンカが大事なところでダブルフォールトを連発し、勢いを失った。第二セットを逆転でサフィーナが取ると、そのまま第三セットも連取、フルセットだったが女子第一シードはQFを突破しSFに進出した。勝利をつかみかけていたが、自らそれを手放してしまったようなアザレンカの変調であった。

ゴンザレス 63 36 60 64 マレー

英国再興の牙、マレーは第三シードでありながら他の四強、ナダル・フェデラー・ジョコビッチほどにはこの全仏で期待されていなかった。それは彼がフラット主体のハードコート向きの選手だからだろう。だがコーチに全仏決勝二度進出のスペイン人コレチャを向かえ、さらにボールをスピン系に強化するためにフォアハンドストロークのグリップまで修正したという。そしてそのハードコートで脅威のコートカバーを見せるフットワークはクレーコートでも十分通用していた。ナダルが敗退した今、トップハーフの本命として十分その存在感を示そうとしていた。そのマレーをゴンザレスはフォアの強打で打ち砕いた。最近のゴンザレスはバックハンドストロークでスライスを効果的に使うことで有名だが、この日はバックハンドでもガンガン打ち込んだ。一試合通じてその姿勢にぶれはなかった。第二セットでセットを取り返すことにマレーは成功したが、第三セットでは一ゲームも取れずに圧倒された。第四セットもゴンザレスが先にブレークする。ゴンザレスのサーブイングフォーザマッチを開き直ったマレーがブレークするも、直後のサーブをゴンザレスにブレークバックされ、牙は折れた。ヘンマン以来のイギリス人による全仏ベスト4進出が果たせなかったのだ。男子トップ4シードの第三の敗退に、ナダルやジョコビッチほどではないにしろ、会場は衝撃でどよめいていた。

チブルコバ 60 62 シャラポワ

「シャラポワがまだゲームを取れていません!」という実況の叫び声とともにシャラポワ戦の中継が始まった。試合は第二セット中盤に差し掛かっている。第一セットは6-0でチブルコバ、第二セットもチブルコワがゲームを連取している。TV中継を見る限り、シャラポワのプレーに特に問題点があるように見えないのだが、シャラポワはアンフォーストエラーを量産して、チブルコバにゲームを謙譲していた。またチブルコバは小気味よくストロークを左右に打ち分け、ラリーの主導権を握っていた。あっという間に第二セットも5-0でチブルコバにサーブインフォーザセットが来る。ここでチブルコバが別に力んだわけではないのだが、シャラポワが顕実にプレーをしてブレークに成功、しかも直後のサービスゲームもキープした。シャラポワにようやく落ち着きが戻った様子だった。だが時既に遅し、チブルコバは次のサービスゲームはきっちりキープして6-2で第二セットも連取、SF進出を決めた。シャラポワは約一年の戦線離脱から復帰した、それを考えるとグランドスラムでQF進出は上出来だと思うが、なんとも悩み多き負け方をしてしまったものである。ウィンブルドンで完全復活なるだろうか。

ソーダーリン 61 63 61 ダビデンコ

WOWOW解説陣も語っていたが、ダビデンコが途中で戦意を喪失してしまっていた。それほどに凄まじいソーダーリンの豪打による猛攻であった。ソーダーリンはナダルに続いてダビデンコも圧倒した上で突破した。大金星の直後の試合は往々にして凡戦の末に敗北してしまうというのがよくあるパターンであるが、ソーダーリンはそうはならなかった。
スウェーデンのロビン・ソーダーリンは1984年生まれの24歳である。結構幼い頃からツアーに登場しており、過去のWOWOWのグランドスラム中継で何度かそのプレーを如空は見ていた。だが体重を後ろに残したままの不細工なフォームによるサーブと、いしだ 壱成に似た容貌しか印象に残っていなかった。それがどうしたことかこの成長振りは。サーブのフォームは相変わらず打点が頭の後ろだが、体が前傾していて威力のあるスイングになっている。フラットサーブだけでなくスライスがよく切れて武器になっている。大きなテイクバックのフォアハンドはこれまた打点が引き付けられているのでコースが読みつらい。そして打点が高くて豪打だ。フォアばかり話題に上ってあまり評価されないが、両手打ちバックハンドも振り抜きがよく、実に堅実である。フォアの強打を恐れてバックにボールを集めても、ソーダーリンはそれで攻め手を失うことはない。少しひげを生やして大人になったその容貌は実に精悍で、強いメンタルをうかがわせる。コーチについているのは同じスウェーデンのマグナス・ノーマン、2000年の全仏ファイナリストでクエルテンとの決勝での死闘で有名な選手だった。クレーに強かったノーマンをコーチに迎え、ソーダーリンはその才能をとうとう開花させたようだ。
どの試合もそれぞれに衝撃的な内容であり、驚きの結果でもあったが、総じていえるのは、球足の遅いクレーでありながら、勝負を分けているのは高い打点からの強打を連続して何本も打ち込めるかという点であり、これはクレーよりもハードコートでのテニスに近い。そのテニスの前に従来のトップシード達が苦しんでいる。「あんな強打を打ち込み続けるテニス、いつまでも続くわけがない」といわれるが、実際はそれを続けることでトップシードたちを苦しめ、時に大金星を得ている。大きな波乱はまだ起こる可能性がある。ボトムハーフのQFも要注目である。

 

2009年06月04日 波乱の末の四強 2009全仏QF2

女子第二シードセリーナ・ウィリアムズダウン!クズネツォワが競り勝った。

2009全仏女子単QF
クズネツォワ 76 57 75 S・ウィリアムズ
ストーサー 61 63 シルステア

WOWOWさん、クジー対セリーナの試合こそLIVE中継するべきだったでしょうに。ファイナルセットの終盤だけ録画中継だもんな、もったいない。ライブ中継だったストーサー対シルステアはストーサーの圧勝である。サングラスをかけたオーストラリアのサマンサ・ストーサー、ティーンズがうようよいるWTAツアーの中では妙に老けて見えるが、1984年生まれの25歳である。ネットでツアーの結果をチェックしているとよく目にする存在だが、TV中継してもらえる大きな大会の後半戦まで出ている来る事はあまりなかった。それだけにこのストーサーのSF進出は大きなニュースである。シルステアがそれほど悪いテニスをしていたようにも見えないのだが、ストーサーの堅実なプレーと勝負どころでポイントを連取する集中力がこの快進撃の原動力だろうか。
女子のベスト4は全てシード選手だが、意外な顔ぶれとなった。SFの組み合わせは
第1シードサフィーナ(ロシア)対第20シードシブルコバ(スロバキア)
第7シードクズネツォワ(ロシア)対第30シードストーサー(オーストラリア)
である。どう見ても決勝はロシア勢対決になりそうだが、そういう予想を何度も覆してここまで来ているのがシブルコバとストーサーだ。特にフルセットマッチ直後の今日、連戦でSFを戦うクージーには体力面にやや不安がある。SFで波乱は起きるのか。要注目である。
男子はデルポトロがロブレドを、フェデラーがモンフィスをそれぞれストレートで破った。男子単ベスト4SFの組み合わせは
第23シードソーダーリン(スウェーデン)対第12シードゴンザレス(チリ)
第5シードデルポトロ(アルゼンチン)対第2シードフェデラー(スイス)
である。若手の挑戦をベテランが受ける形になる。ソーダーリンとデルポトロがどこかで本来の力を発揮するか、いや従来以上の力を発揮するが、それを可能にする若さを持っているかに、勝敗の行方はかかっている。
連日波乱続出の2009年全仏オープンもいよいよベスト4SFである。まずは女子から。ナイターをせず、この男女の準決勝と決勝を木曜日から交互に行う全仏方式のスケジュールが如空は好きだ。大事な試合は一日二試合まで、これがテニス観戦の限界だろう。スーパーサーズデイやスーパーサタデイの方式は一日三試合以上も大事な試合が続くので、さすがに集中して観戦できない。やはりこれがいい。さあ、週末に向けて、観戦モード全開だ。熱戦を期待しよう。

 

2009年06月04日 美しいテニス フェデラーのガリア戦記2009

2009全仏男子単QF
フェデラー 76 62 64 モンフィス

フェデラー快勝、相手をオーバーパワーで上回ろうという、マドリッドからこの数試合見られていた展開ではなく、相手より少しだけ上回るだけで、勝利を手にするという、堅実にして実は圧倒的な展開で、フェデラーは勝った。調子の上の方が来なかったが、下の方が来て崩れることもなかった。高いレベルでの安定を見せた。これは今後に向けて好材料である。
ポイントはやはり第一セット、6-6となってTBとなる。モンフィスもいいテニスをしていた。フォアハンドの緩急のつけ方が見事であった。第一セットTBを落としていたら、四回戦対ハース戦同様にもつれたかもしれない。四回戦は一歩間違えば敗退するところだった。この試合もあるいはそうなっていたかもしれない。だからこそ、不安の芽は小さい時に摘んでおく。それが大事だ。TBも6-6となった。二ポイント連取して8-6でTBを取った。ここで勝負が決まった。リードしたからといってギアを極端に上げずに、高いレベルでの安定したテニスで第二・第三セットを取る。強いテニスだ。いいテニスだ。堅実ではあるが、けっして守りに入ったわけでなく、攻めの姿勢は大事なところで貫かれていた。圧倒的に強いわけでなく、ミスもやや多かったが、致命傷はなかった。かつて「美しい」と自画自賛していたフェデラーのテニスに少し近づいている。
3回戦でジョコビッチ敗退、4回戦でナダル敗退、準々決勝でマレー敗退、順番からすれば四強最後の一人フェデラーが敗退するのは準決勝となる。フェデラーのキャリアを見ても、彼の鬼門となるのは決勝ではなく準決勝になることが多かった。SFの相手はデルポトロである。大丈夫だとは思う。このQFでの「美しいテニス」を展開して、鬼門であるSFを突破して欲しい。全仏タイトル、生涯グランドスラムという覇業達成まであと二つである。

 

2009年06月05日 流れを引き戻す力 2009全仏女子SF

2009全仏女子単準決勝
第一試合、サフィーナ 63 63 チブルコバ

予想通りだったのはサフィーナの勝利、予想だにしなかったのはリードしていながらも逆に緊張してプレーが不安定になっていたサフィーナのメンタル、グランドスラム初優勝へのプレッシャーがサフィーナに圧し掛かってきていると見る向きが多いが、真相は如何に。自分の力を決勝で出し切れるだろうか。決勝では自分の持つパフォーマンスを100%出さないといけない、何せサフィーナの決勝の相手は前哨戦で二大会連続決勝でぶつかり一勝一敗の五分としているロシアの先輩だからだ。

第二試合、クズネツォワ 64 67 63 ストーサー

クズネツォワは第一セットを取った後、第二セットもリードしていた。これはクージーが勝つと思っていたが、追いつかれてTBになる。TBもクージーがリードしていたが、追いつかれて、逆転されて、第二セットを落とした。第三セット、今度はストーサーが先にブレークポイントを握った。WOWOW解説の坂本真一氏いわく「ここで回り込みのフォアを打たなかったのが、敗因だ。」というとおり、安全にラリーしたストーサーはポイントを失い、流れまでも失った。クズネツォワは逆に次に来たチャンスをものし、ファイナルセットを取りきった。先日の対Sウィリアムズ戦もそうだったが、相手の流れになっても耐え、離されないようについてゆき、ピンチをしのぎ、そして耐えて掴んだチャンスを決めて、自分に流れを引き込む。そういう意味での強さをクスネツォワは身につけている。そしてそれを大いに発揮している。
波乱続きだった2009全仏も女子SFは順当に終わった。女子決勝はサフィーナ対クズネツォワのロシア勢対決である。どちらも全仏決勝進出経験者であり、どちらも全仏タイトルを奪えていない。グランドスラム無冠だがNo1のサフィーナと、全米タイトルホルダーだがNo1は経験していないクズネツォワ、初タイトルを取るのはどちらだ。決勝戦にふさわしい熱戦を期待しよう。

 

2009年06月06日 鬼門を越えて フェデラーのガリア戦記2009 全仏男子SF

やはり、準決勝は鬼門だった。それでもフェデラーは乗り越えた。

2009全仏男子単準決勝第二試合
フェデラー 36 76 26 61 64 デルポトロ

第一セット、フェデラーは調子よくゲームに入り、デルポトロは苦しみながらのサービスキープとなる。フェデラーの方が調子がよい、と思われた矢先の第五ゲーム、デルポトロがあれよあれよという間にフェデラーのサービスゲームをブレークしてしまった。そこからフェデラーのサービスゲームは3連続で0−40のピンチを迎える。第七ゲームは切り抜けたが、第九ゲームではデルポトロのショットの圧力に押されてブレークされてしまった。2ブレークでデルポトロが6-3、第一セットを先取した。
第二セット、デルポトロはその長身を生かして、サーブでもストロークでも高い打点から角度をつけてコーナーに叩き込んでくる。フェデラーもサーブの威力が増して、ファーストサーブの確率も上がる。両者共にサーブの力でキープ合戦を続ける。6-6でTBになった。最初のポイントはデルポトロのサーブ、デルポトロがサーブとストロークで押す、フェデラーは押されてロブを上げた。それが、ベースラインぎりぎりに入る、デルポトロはそれをフォアで返球しようとしたが、ネットしてしまった。これでデルポトロが崩れた。ボールをネットにかけることが多くなり、ポイントをフェデラーが連取する。会場の大声援がフェデラーの背中を後押しする。最後にデルポトロのフォアがラインを割り、TB7-1でフェデラーが第二セットを取った。
第三セット、第一ゲーム、いきなりデルポトロがフェデラーのサービスゲームをブレークしてスタートした。フェデラーのサーブの調子はいいのだが、デルポトロのリターンも調子がよい。そしてストロークではデルポトロが押している。第七ゲームでもブレーク、サーブイングフォーザセットでサーブの力でラブゲームキープ、デルポトロが6-2で第三セットを取った。
第四セット、第二ゲーム、久しぶりにフェデラーがブレークポイントを握った。一進一退の攻防の果て、デルポトロがキープに成功した。だが第四ゲームでもブレークポイントが来た。またデュースが繰返される。フェデラーのドロップショットが冴える。そして最後はフェデラーの短いリターンをデルポトロはすくい上げることが出来ずに、ミスした。ついにフェデラー、この試合初のブレークである。デルポトロはここで緊張の糸が切れたのか、疲労が一気に出てきたのか、フットワークが雑になってプレーに粘りがなくなってきた。まともにサーブも入れることができない。第六ゲームでもデルポトロはダブルフォールトでブレークを許し、そのまま次のサーブイングほーザセットを決めて、フェデラーが第四セット6-1で取る。セットオールで試合はファイナルセットに突入した。
第五セット、サーブに力がない、ストロークにも力がない、デルポトロは衰弱状態から脱することが出来ない。第一ゲームをデルポトロはブレークされた。フェデラーはギアを上げた。長いラリーを見事なショットで奪う。コートでの動きで相手を上回る。だがデルポトロの足が、腕が、徐々に回復し始めた。第六ゲームで攻勢にでるデルポトロ、豪打が復活し、フェデラーのサービスゲームをブレークした。3-3となった。デルポトロはそれでも、ストロークの威力は回復したが、サーブの威力と確率が回復しない。回復しないどころか、第七ゲーム、ブレークポイントで痛恨のダブルフォールトを犯す。フェデラーブレークバック、再びリードした。フェデラーは先にキープして、次のデルポトロのサービスゲームでブレークポイント、イコールマッチポイントを握るが決め切れなかった。だがサーブイングフォーザマッチを決めて、ファイナルセット6-4、フェデラーが決勝進出を決めた。
デルポトロ自滅、体力的に厳しくなって後半苦しい展開になっただけでなく、精神的にも集中できずに第二セットのTBを落とした。一方フェデラーの出来は良くなかった。いいショットが随所にあったが、連続していいポイントを連取する形が少なかった。そしてミスも多い、後半めろめろのデルポトロに逆襲され、押さえ込めなかった。今日は勝ったが、このテニスでは決勝の相手には勝てないだろう。

第一試合
ソーダーリン 63 75 57 46 64 ゴンザレス

いやあ・・・・見入ってしまった。素晴らしい好ゲームだった。競り合いながらも2セット連取したソーダーリンも見事。2セットダウンからセットオールに戻したゴンザレスも見事。ファイナルセットはゴンザレスが勢いを維持して先にブレークした。3-0とし4-1まで来た。そこでソーダーリンが追いついた。ブレークバックし、更に4-4にまで押し戻した。完全に五分と五分、これからは集中力がモノを言う。このプレッシャーのかかる場面で、互いに深い、ライン際の際どいショットを繰り出すその勇気が素晴らしい。際どいボールに、判定も微妙なジャッジが繰返され、ゴンザレスも会場も揺れる。だがソーダーリンは揺れなかった。運命の第九ゲームをブレーク成功、サーブイングフォーザマッチをきっちりキープして、勝利を決めた。その瞬間、彼は静かにしゃがみこんだだけだった。
ハードヒットの応酬にはなると予想していたが、ショットの威力以上に、両者の配球の妙、戦術の駆け引きが見事であった。両者共に力と技と、そして頭脳を駆使しての総力戦での競り合いであった。互いに強い気持ちを維持しながらも、ゴンザレスは熱く、ソーダーリンはクールにそれぞれプレーをしていた。闘志をそれぞれの表情に表し、果敢に自分のテニスを押し通した。2セットアップした後、ソーダーリンにやや落ち着きがなくなった様子が見られたが、それもファイナルセットで取り戻している。精神戦で苦しみながらも立て直して復活した見事な勝利であった。
男子準決勝は両試合とも同じフルセットマッチだが内容がまったく違う。強く安定した相手と打ち合い、最初は上回り、中盤反撃に耐え、後半に追いつき追い越した、見事なテニスを展開したソーダーリン。最初は相手に圧倒され、何とかついていくも危うく突き放されかけ、最後に相手が崩れても一気に畳み掛けることが出来なかったフェデラー。準決勝と同じテニスで両者がぶつかればソーダーリンが勝つ。たとえ相手がナダルでなくても、フェデラーはやはり最後の決勝の舞台では最高レベルのテニスを展開しなければ勝てないという運命の中にいるのだろう。自らが「美しい」と自画自賛していたテニス、如空が「皇帝」と呼んでいたテニスをしなくては、勝利はない。鬼門の準決勝を乗り越えたフェデラー、しかし最大の障壁はやはり今年も決勝戦の相手になりそうだ。美しくそして強いテニスをフェデラーはコートの上で発揮することが出来るだろうか。皇帝のテニスを取り戻すことが出来るだろうか。
いよいよ明日、男子全仏決勝戦である。
フェデラーよ強くあれ、自らの力で扉を開け!

 

2009年06月07日 沈黙の女王 2009全仏女子決勝

テニスは残酷なスポーツだと思う。人が自滅していく様を試合終了まで観客に見せ続けるのだから。

2009全仏女子単決勝
クズネツォワ 64. 62. サフィーナ

第一セットで先にブレークしたのはサフィーナ、バックハンドの調子がよい。だが第二ゲームですかさずクズネツォワがブレークバックした。サフィーナのフォアが本調子でない。そして頼みの綱であったサーブの入りは更に悪かった。対するクズネツォワは自分のテニスを安全運転の範囲内で淡々とポイントを重ねていく。サフィーナのフォアにボールを集めるクージー、5-4となった第十ゲーム、サフィーナのサービスゲームをクズネツォワは静かに追い込む。ブレークポイントイコールセットポイントもサフィーナのフォアにクズネツォワは強いショットを集中させ、サフィーナを崩して取った。第一セットは6-4でクズネツォワが取る。
第二セット、サフィーナは調子を上げることが出来ない。苦悩で表情がゆがんでいく。最初はそれでもキープ合戦だったが、2−2とした第五ゲームでクズネツォワがブレークすると、サフィーナは完全に崩れた。2ブレークを含む4ゲーム連取でクズネツォワが第二セットも取った。、最後はサフィーナのダブルフォールトでクズネツォワは優勝を決めた。頭を抱えるサフィーナ、クズネツォワは後ろを向いて胸の前で十字を切って、勝利を神に感謝した。

今にも泣き出しそうなサフィーナだった。クズネツォワがもっとギアを上げて公開処刑でもしてくれた方が楽だったかもしれない。クージーはサフィーナの調子に関わらず、淡々とプレーを続けていく。サフィーナは徐々に苦悩が深くなり、最後には崩れてしまった。見ていて辛い試合だった。
表彰式ではシュテフィ・グラフが優勝杯のプレンゼーターだった。クズネツォワは2004年の全米オープン優勝以来のグランドスラムタイトルをグラフから受け取った。一方でサフィーナはグランドスラム決勝3戦全敗である。今年の全仏はNo1として乗り込み、前哨戦でも好成績を挙げ、大会の序盤まで圧倒的強さを発揮して、セットどころかゲームすらほとんど与えなかった。それでも決勝が近づくにつれ歯車が狂い始め、最後の決勝戦で自滅してしまった。この敗戦は尾を引くだろう。サフィーナが立ち直り、真の女王になる日は来るだろうか。残念ながら今日女王は沈黙したままだった。
そんな2009全仏女子単決勝戦であった。

 

2009年06月08日 開かれた扉 フェデラーのガリア戦記 2009全仏男子決勝 

目の前に閉ざされた扉、その扉を叩く資格は誰にでも与えられるものではない。2003年にウィンブルドンを優勝し、2004年に連覇しただけならその扉の存在を意識することはなっただろう。だが、彼はその年、全豪と全米を取り、リトルスラムを成し遂げ、ATPに君臨する圧倒的強者になった。なったがためにその扉を叩かなければならない立場になった。四年間、開くことの出来なかった扉、三度決勝に進みながらも挫かれた挑戦、扉は閉じられたままだった。そして彼は圧倒的強者ではなくなった。No1でもなくなった。だが最大の障壁だった後継の覇王ナダルが途中敗退した。最大のチャンスに不完全な状態で彼は挑んだ。
そして扉は開かれた。

2009全仏男子単決勝
フェデラー 61 76 64 ソダーリング

第一セット、ソダーリングのサーブで決戦は始まった。ストローク戦が展開される。ソダーリングにはやや固さが見られる。フェデラーはいつも通り、そしてフェデラーを後押しする観客の声援はいつも以上である。ソダーリングはファーストサーブの入りが悪く、フォアがやや長く、そこをフェデラーがついて、第一ゲームからいきなりフェデラーはブレークした。第二ゲームをキープした後、第三ゲームでもフェデラーはブレークした。一度はソダーリングがキープに成功したが、5-1となった第七ゲーム、またもソーダーリンはブレークポイントをフェデラーに握られた。ソダーリングのファーストサーブの確率が良くないだけでなく、ファーストが入ってもフェデラーが見事なレシーブで返球し、ソダーリングからの攻撃を完全に防いでいるのだ。最後はバックハンドのウィナーでブレーク成功、第一セットを6-1でフェデラーが先取した。わずか21分である。
第二セット、両者共にサービスゲームをキープし合う。第四ゲームの途中で赤い布を振る乱入者が現れ、試合は中断したが、すぐに乱入者は取り押さえられ、試合は再開した。小雨が少し降り始めた。その間にソダーリングが落ち着きを取り戻した。ナイスサーブが入り始めた。フォアのウィナーが出始めた。フェデラーに一方的にやられるだけだったドロップショットを上手く切り返せるようになってきた。ラブゲームでサービスゲームをキープするようになって来た。ソダーリングが目覚めつつある。ここは押さえなければならない。フェデラーもギアを上げた。バックハンドダウンザラインのウィナー、ハードヒットの打撃戦、そしてフォアハンドの鋭いパス、デュースまで追い込んだが、ソダーリングはこのピンチを切り抜けた。6-6でTBに突入した。誰の目にも、このTBが鍵になることは明らかだった。サービスエースの応酬でTBは始まった。そこでフェデラーが更にギアを上げた。一気に6ポイント連取、最後はまたもサービスエースで決めた。TB7-1で第二セットもフェデラーが連取した。
第三セット、ソダーリングはまたもミスでサービスゲームを落とした。WOWOW解説の柳恵志郎氏いわく、フェデラーの緩急の前にソダーリングはミスさせられているという。第四ゲームでソダーリングにブレークポイントを握られたが、攻めの姿勢を維持してキープ成功、フェデラーが行く。フェデラーが進む。キープし合って5-4、第十ゲーム、サーブイングフォーザチャンピオンシップである。ソダーリング最大の武器だったバックハンドのリターンがラインを割った。15-0、リターンが深くてフェデラーのフォアがネットした。15-15、今度はソダーリングのリターンがラインを割った。30-15、バックの攻防の末、フェデラーのストレートがラインを割った。30-30、サーブの後のスイングボレーがアウトした。30-40、なんとここでソダーリングのブレークポイント。だが次のラリー、緊迫した状況でフォアをフレームショットしたのはソダーリングだった。40-40、デュース。観客席でフェデラーの妻ミルカが手を合わせて祈っている。世界中の様々な人々が祈っている。フェデラー渾身のスライスサーブがソダーリングをラインの外に追い出した。バックでオープンコートに切り返す、ソダーリングは必死でくらいつき返球したが、それをネットに詰めたフェデラーがボレーで決めた。会場が拍手とどよめきで揺れる。あと一ポイント、フェデラーがサーブを打つ。ソダーリングのリターンがネットにかかった。第三セット6-4でフェデラー、決勝戦をストレートで勝利した。
フェデラー全仏初優勝、かつ生涯グランドスラム達成、かつグランドスラム優勝回数最多タイの14回目のグランドスラムタイトル奪取である。フェデラーがフランスはパリ、ガリアの地の制圧についに成功した。
小雨でクレーコートの球足が伸びず、バウンドも低かった。ただでさえ立ち上がりの悪かったソダーリングには武器である強打が生き難い状況であった。そして会場はフェデラーに大きな声援を送っていた。だがそれらを差し引いても、今日のフェデラーは見事であった。序盤からシッカリと自分のテニスをして、相手を圧倒した。中盤ソダーリングの復活の目を早めに摘み取った。特に第二セットTBでギアを上げて一気にポイントを連取したことが大きかった。終盤で失速せず、勢いを維持したまま、最後のマッチポイントを一発で決めた。素晴らしい勝ち方である。この大会を通じて不安定な状態であったが、最後の最後で強いテニスを取り戻した。美しいテニスがコートで表現されていた。それは如空が「皇帝」と呼んだスイスのロジャー・フェデラーのテニスであった。
1999年に生涯グランドスラムを達成したアンドレ・アガシが優勝杯のプレゼンターとして現れた。アガシも全仏の決勝に二度阻まれ、三度目で優勝した。あれから10年経った2009年、フェデラーの生涯グランドスラムが達成された。四度決勝に進み、三度阻まれた。四度目の決勝戦で達成した全仏制覇による生涯グランドスラム達成であった。覇業ナル。こうして苦しい挑戦は金字塔となって歴史に刻まれた。


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