第094房 2009年 全米オープン TV観戦記 (2009/09/16)
2009年08月28日 2009全米ドロー
2009年最後のグランドスラム、USオープンのドローが出た。例によってドローを四つの山に分けて、如空の独断と偏見による展望を見てみよう。
第一シードはフェデラー、ATPエントリーランキングNo1に復帰し、今季は全豪・全仏・全英で決勝進出、内全仏と全英を取った生涯グランドスラマーにして全米六連覇を狙う「皇帝の座を奪還しつつある男」である。彼の山であるトップハーフの上半分は第八シードダビデンコを筆頭にソダーリング、ロブレド、ブ レーク、クエリー、マチュー、ヒューイットらとシード勢が続く。他にチェラ、ガルシアロペス、モンタネス、セラ、ユーズニーシュトラーらが名を連ねる。なかなかの実力者が揃ったと思うのだが、フェデラーを誰かが途中で止めうるという事態は想像しにくい。
第四シードはジョコビッチ、去年年末にはNo2フェデラーに後数ポイントまで迫った元NO3にして現No4、ハードコートでもクレーコートでも強い、ハー ドコートでもクレーコートでも覇権を狙う「双頭の鷲」である。彼の山であるトップハーフの下半分は第五シードロディックを筆頭にヴェルダスコ、ステパネック、ハース、コールシュライバー、ハネスク、アンドレーフとシード勢が続く。他にリュビチッチ、ベック、セッピ、ベッカー、ティプサレビッチ、アイズナー、ツルスノフらが名を連ねる。タフドローじゃー、ジョコビッチは初戦で元世界No3のリュビチッチと当たる。しかもウィンブルドン準優勝のロディック、ベスト4のハース、全豪ベスト4のヴェルダスコまでいる。ジョコビッチの前途は多難である。特にウィンブルドンのリベンジに燃えるロディックが怖い。
第三シードはナダル、元ATPエントリーランキングNO1にして現No3、今年年頭に全豪を取ったことにより、この全米で生涯グランドスラムを狙う難攻不落の要塞「赤土の覇王」である。彼の山であるボトムハーフの上半分は第七シードツォンガを筆頭にゴンザレス、モンフィス、ベルディッチ、フェレール、トロ イッキ、アルマジロ・・・・じゃなかったアルマグロとシード勢が続く。他にニーミネン、ベネトー、マシュー、アカスソ、ジネプリ、ロドラ、キーファー、ガスケらが名を連ねる。ハードコートでもクレーコートでも強い選手が集まったという感がある。去年のナダルならともかく、しかもクレーならともかく、今年のハードコートの上でこの面子を余裕で突破するには、まだナダルは調整不足だ。事故が起こる可能性が大いにあるドローである。
第二シードはマレー、ついにナダルの牙城を破りATPエントリーランキングNo2を手中にし、かつNO1の座とグランドスラム初タイトルを狙う「大英帝国の牙」である。彼の山であるボトムハーフの下半分は第六シードデルポトロを筆頭にシモン、チリッチ、バブリンカ、フェレーロ、フィッシュ、カルロビッチと シード勢が続く。他にモナコ、メルツァー、サフィン、サントロ、ラペンティ、デントらが名を連ねる。運命の鍵を握る男の一人デルポトロがマレーの山に入った。QFでマレー対デルポトロが実現すれば、これは重要な試合になる。
MSマドリッドと全仏優勝より完全復活した感のあるフェデラー、一方でマレーは好調を維持しつつも疲労が気になる。そして完全復活には程遠いナダルと、優 勝できそうで出来ない大会が続いたジョコビッチはやはり苦しい展開が待っているだろう。ロディックとデルポトロはなにやらやってくれそうな気がする。それ でも直前までの今季の展開を見ると本命はフェデラー、対抗馬はマレーだろう。ここでまたフェデラーに余裕で優勝を決められれば、それこそ「圧倒的強者」の完全復活であり、再びフェデラーを「皇帝」と呼ばなくてはなるまい。フェデラーの皇帝重祚(一度退位した皇帝が再び践祚(せんそ:皇帝に即位すること)することをいう)なるか、マレー、ナダル、ジョコビッチ以下それを阻止しうる選手が現れるか。まるでフェデラーの全盛期に戻ったかのような図式である。
第一シードはサフィーナ、WTAエントリーランキングNo1にして大ロシア帝国女子軍団の筆頭、今季絶好調でありながら未だ四大大会のタイトルがない「グ ランドスラム無冠の女王」である。彼女の山であるトップハーフの上半分は第五シードヤンコビッチを筆頭にイバノビッチ、ラッザーノ、シュニーダー、リシ キ、クレイバノワ、A・ボンダレンコとシード勢が続く。他にU・ラドワンスカ、ガルビン、サファロバ、ペン、K・ボンダレンコ、レザイ、ドゥルコらが名を 連ねる。無冠の女王サフィーナの山にセルビアコンビが入った。特にQFでサフィーナ対ヤンコビッチが実現すれば無冠の女王対決となる。これは注目だろう。
第四シードはディメンティエワ、常にグランドスラムで上位に残るロシア勢の実力者、今度こそのGS初タイトルを目指す。彼女の山であるトップハーフの下半 分は第六シードクズネツォワを筆頭にウォズニアッキ、ペトロワ、チェン、シルステア、シャラポワ、サバイとシード勢が続く。他にグローエンフィールド、 コーネット、スレボトニク、森田、ペアー、スアレスナバロ、タナスガーンらが名を連ねる。タフだ、全仏覇者のクジーと元女王シャラポワ、そして今季好調の ウォズニアッキとシルステアと優勝候補者が揃ってしまった。このタフドローをディメンティエワは突破できるだろうか。
第三シードはヴィーナス・ウィリアムズ、かつての女王、そして再び女王の座を狙うことを公言した全英・全米のタイトルコレクターである。彼女の山であるボ トムハーフの上半分は第八シードアザレンカを筆頭にA・ラドワンスカ、バルトリ、リー、メディナガルゲス、カネッピ、スキアボーネとシード勢が続く。他に キリレンコ、ドキッチ、ベネソバ、クライシュテルスらが名を連ねる。ヴィーナスが余裕で突破しそうであるが、最近途中敗退が続いているので今回も事故が起こる可能性はある。特に復帰したクライシュテルスの存在が不気味だ。
第二シードはセリーナ・ウィリアムズ、1999年に全米初タイトルを取って以降、十年近くWTAに依然として君臨し続ける生涯グランドスラマーにして、今 季は全豪・全英を取った自他共に認める「現在の本当の女王」である。彼女の山であるボトムハーフの下半分は第七シードズボナレワを筆頭にペネッタ、ストー サー、モーレスモ、ハンチェコワ、バーマー、ヴェスニアとシード勢が続く。他にチャクベターゼ、オズニアック、ミルザ、杉山、バジンスキーらが名を連ね る。苦労しながらもセリーナが勝ち進むいつも通りの展開になる公算大だ。
ウィリアムズ姉妹が二人ともボトムハーフ入った。そして無冠の女王サフィーナとヤンコビッチがトップハーフである。最後はやはり地元ウィリアムズ姉妹のいずれかがタイトルを取ることになるだろうと予想するが。サフィーナかヤンコビッチの無冠の女王返上を見て見たい。決勝は今まで見たことのない組み合わせに なると期待しているが結果は如何に。復帰した元祖「無冠の女王を返上した女」クライシュテルスと、エンジンがかかり始めているハートが武器のシャラポワに 期待を持って見ている。個人的に如空としては電脳網庭球寺認定えこ贔屓選手ドキちゃんの活躍を応援している。
今年も全米はWOWOWが初日から全力中継してくれる。今季最後のグランドスラムである。熱戦を期待しよう。
2009年09月01日 疾風クライシュテルス 2009全米初日
US オープンが開幕した。シード勢でダウンしたのはマチュー、ハネスク、カネピ、バーマーくらいか。概ね順当な一日であった。日本の杉山と瀬間は初戦敗退である。瀬間は予選でクルム伊達と当たり、突破してきた選手で、確かグランドスラムの本戦は初出場ではなかっただろうか。杉山の方はグランドスラムの本戦連続 出場記録を更新し、その記録をギネスブックに登録申請しているとかいうニュースが流れていた。初戦で今季好調のストーサーとあたるというタフな展開であっ た。それでもフルセットマッチに持ち込む大健闘だった。それぞれ色々な意味で残念な敗戦である。如空の個人的えこ贔屓選手ドキちゃんことドキッチも初戦で 敗れてしまった。女子の第三シードヴィーナス・ウィリアムズが初日ナイトセッションの最終試合で登場したが、第一セットをTBで落とす大苦戦であった。第 二セットは7-5で競り勝ち、第三セットは6-4で辛勝ながら二回戦進出を決めた。
WOWOW生中継の冒頭を飾ったのはキム・クライシュテルスのグランドスラム復帰戦だった。クライシュテルスは攻めが早い、そして強い。序盤はフォールと しようがアウトしようがサーブもストロークもフルスイングでガンガン振って来る。やがてボールがコートの中に入り始めて、あれよあれよいう間にゲームを取 り、セットを取ってしまった。緩急などこれっぽっちも考えず、とにかく右に左にコーナーの深いところにボールを打ち込んでくる。あれがクライシュテルスのテニスである。クライシュテルスがコートに帰って来たのだ。如空にとってこれからのWTAにまた一つ観戦する楽しみが増えた。
しかし例年の事ながら、日本から見て地球の裏側、日付変更線の向こう側であるアメリカのニューヨークで行われているものだから、日本では朝仕事が始まる時 間になっても前日の試合中だし、ナイトセッションの最終試合が長引くと、日本の正午過ぎ、お昼休みの時間になっても試合が続いている。帰宅して試合の録画 を観戦できるのは夜になる。その頃にはもう現地では翌日のデイセッションが始まろうとしている。完全に1日遅れだギャー。なんだかなあ、と言いつつも、 この全米を見始めてもう十年近くなる。この1日遅れのTV観戦が如空にとっては夏の終わりを告げる行事になっている。さあ、二週間の最後の夏祭りが始まった。熱戦を期待しよう。
2009年09月02日 双頭の鷲の新たなる師 2009全米二日目
US オープン二日目、男子シードはバブリンカ、カルロビッチ、アンドレーフがダウン、女子シードはイバノビッチ、サバイがダウンした・・・・・ってイバノビッ チが初戦敗退かよ、去年の全仏覇者にしてNo1にもなった女王たちの一人である。それがこの一年、冴えない。ヤンコビッチやサフィーナのような無冠の女王 も心配だが、この女王の座に着いたあと、すぐに大きく後退してしまったイバノビッチもまた心配だ。まあ、相手がこのところ注目さているウクライナのボンダ レンコ三姉妹の末っ子カテリナ・ボンダレンコであったことも災いした。日本勢最後の砦森田もルーマニアの昇り竜シルステアの前に圧倒された。この試合は WOWOWで中継されていた。森田はもう少し緩急が欲しいところだ。ハードヒット一辺倒で押し切るにはシルステアのような切り替えしの上手い選手相手には辛い。
さて一回戦の注目カード、ジョコビッチ対リュビチッチという元世界No3同士の対決はジョコビッチのストレートで終わった。WOWOWの中継を見たが63 61 63 の快勝だった。リュビチッチの覇気が失せていた点も気になったが、それ以上にジョコビッチの締めの厳しさが際立っていた。TVの解説で始め て知ったのだが、ジョコビッチのコーチにアメリカのトッド・マーチンがついた。マーチンといえばあの1999年全米決勝戦アガシとのフルセットマッチの激 闘が思い起こされる。そういえばやや両肘をまげて五角形を腕で作って打つバックハンドや、サーブのフォロースルーでサンプラスのように右肘が高く上に残る フォームなど、マーチンとジョコビッチには共通点も多いように思える。この新しい師弟関係がジョコビッチを蘇らせ、再び双頭の鷲となることを狙って羽ばたく良いきっかけになってくれればと思う。
2009年09月03日 ラファとキムの勝ち方 2009全米三日目
USオープン三日目、男子のシード勢は安泰、ナダルもガスケをストレートで破り初戦を無事突破した。
WOWOWの録画中継で観戦したが、ガスケは悪くなった。ショットにキレがあったし、ガンガンネットに出てきて見事なボレーを決めていた。一方でナダルの ショットにもフットワークにも全盛期ほどのレベルの高さは見られなかった。しかしその堅実で固い守りはガスケの攻めを見事に防ぎきり、スコアの上ではガス ケを圧倒した。ハードコートの上でも鉄壁の守りを見せる、完調でなくても決して崩れない高い城壁、難攻不落の要塞ナダル城は全米でも健在のようである。ここに去年No1になった頃の攻撃力が再び備わってきたら、ナダルは再びコートの上で最強の存在になるのだろう。
一方の女子は波乱含みである。ラドワンスカ、バルトリ、ストーザー、モーレスモ、メディナガルゲスらランキング10位台のシード勢が軒並みダウンした。注 目はやはりクライシュテルスである。先日のシンシナティに続き、この全米二回戦でまたしてもバルトリと対戦、フルセットマッチを戦い抜き 57 61 62 で逆転勝ちした。二度までも復帰後のクライシュテルスに早いラウンドで負かされたことになる、バルトリにしてみればキムがノーシードでドローにいる こと自体が大迷惑であろう。しかし、クライシュテルス・・・・ストレート勝利より、第一セット落としてから調子を上げて二セット連取するあたりに地力の強 さを感じる。第一セットはブレーク合戦の末にバルトリが競り勝つが、その後の二セットはバルトリに元気がなくなってしまって、クライシュテルスが一気に押 し切った。だが、クライシュテルスのテニスが完璧であったかというとそうではなく、ミスも多く、バルトリの失速に助けられた感もあった。この先に待ってい るトップランカー相手にその強いテニスを発揮することが出来るだろうか。要注目である。
さてWOWOWのナビゲーターは例によってフローラン・ダバディ氏である。現地の新聞記事をネタしてちょっとしたトピックスのようなコーナーを解説陣の一 人と毎回行っているのだが、今日の話題は面白かった。ニューヨークタイムズの記事にシャラポワ・サフィーナ・ディメンティエワらロシア勢のセカンドサーブ の確率の悪さが特集されていた。いわく、「彼女たちはセカンドサーブ用のスピンサーブの技術習得がきちんとされていないのではないか」と、そして有名な コーチ・ギルバート氏のコメントを載せていて、「野球にピッチングコーチをバッティングコーチがいるように、テニスも将来サーブ専門のコーチが必要になっ てくるのではないか」と述べられていた。確かに特に女子のジュニアを見て思うのだが、とにかくストロークの力だけで勝ててしまうので、サーブの練習がおろそかになっている部分はあるかのように思える。おろそかと言ってもシャラポワもサフィーナもサーブの威力が武器の選手だ。フラットサーブやスライスサーブ の問題ない。問題なのはセカンドで打つスピンサーブ、ここの確率が悪いのは、メンタルの問題だけでなく、スピンサーブの練習と、何より正しいフォームの指 導がなされていないからではないかという疑問は当然起こるし、如空もそれは考えられると思う。サーブ専用コーチというのも良いアイデアだと思う。ただ現実 問題、サーブだけを教えて食べていける職業に出来るかどうか、採算ベースに乗せるのは難しいだろうけど。それでも、たとえばテニススクールなどで、スト ローク専科とかネットプレー専科というクラスは見たことがあるが、サービス専科というクラスはまだ見たことがない。この重要でかつ、技術取得に時間のかかるショットには専用の練習時間とスタッフがいてもよいと思うのは如空だけだろうか。
2009年09月04日 デメとヤンコの負け方 2009全米四日目
US オープン四日目、男子のシード勢は今日も安泰である。波乱は今日も女子である。第四シードディメンティワダウン、第五シードヤンコビッチダウン、他にシュ ニーダーやリシキも負けている。第一シードのサフィーナは第一セットをTBで落としてからの逆転勝利で辛くも三回戦進出を決めた。デメもヤンコもフルセッ トマッチの末の敗退である。この二試合はWOWOWのデイセッション生中継の二試合だった。録画を見たがデメを倒したアメリカのオーディンも、ヤンコビッ チを倒したカザフスタンのシュウェドワもトップランカーに負けない堂々とした強いテニスをしていた。ディメンティワもヤンコビッチも調子がよかった訳では ないが悪かったわけでもない。通常の状態でノーシードの選手に力負けしてしまった。女子は言われている以上に今、乱世にして下克上の世界なっているのかも しれない。
2009年09月05日 静かにナダル 2009全米五日目
USオープン五日目、男子のシードはフェレールがダウン、女子はアザレンカがスキアボーネに敗れた。他は順当な結果が続き比較的静かな一日であった。
今週の土曜日は仕事がなかったので、朝から溜めてあるWOWOW放送全米オープンの録画をチェックしようとしたが、全然時間が足らない。これ全てを観戦することは不可能だ。チェックせず消去しなくてはならない試合が出てくるぞ。もったいないが仕方ない。
ライブでナダル対キーファーを見た。キーファーは対ナダル戦4連敗中でロクにセットも取れていなかった。この試合も第一セットは6-0でナダルにベーグル を喰らわされた。しかしこの30過ぎたベテランキーファーは滑らかな動きと鋭いショットを随所に見せ第二セットの奪取に成功する。第三・第四セットをナダ ルが連取したので結局キーファーは対ナダル戦5連敗とされたが、第二セット以降はいいテニスを展開できたのではないだろうか。もう少しサーブの確率がよければもっとナダルを苦しめられたと思う。逆に言えばナダルは調子を上げたキーファーを良く押さえたといえるが、今後のことを考えるとキーファーに調子を上 げさせずに一気に畳み掛けたいところだ。そのあたりも今後のナダルのテニスが調子を上げていけるかどうかにかかっている。
さあ、3回戦でフェデラーがヒューイットと当たる。フェデラーの優位に変わりないと思うが、今年の全英決勝では圧倒的不利の予想を覆してフルセットマッチの大激戦を繰り広げた。ヒューイットだって同世代だ、ヒューイットにもここで意地を見せてもらいたい。
2009年09月06日 揺れた土曜日 2009全米六日目
日本の日曜日の朝、WOWOWの全米ナイトセッション中継を見ようよTVをつけたら、まだデイセッションが終わっていなかった。USオープン六日目、土曜日の会場は揺れていた。
まずフェデラーとジョコビッチはそれぞれセットカウント3-1で勝ったもののやや試合は長引いた。フェデラーはヒューイットに第一セットを取られたし、試 合全体を通じて握られたブレークポイントはヒューイットの方が多かった。ジョコビッチは二度TBに持ち込まれ、こちらも第一セットを落としてしまってい た。そして第十シードヴェルダスコは今季好調の第二十シードハースと激突、フルセットマッチの接戦の末に勝利した。一方女子では波乱が起きる。第二十九 シードだが元女王にして全米タイトルホルダーのシャラポワがノーシードのオーディンにフルセットマッチの末に敗れた。地元アメリカのオーディンは二回戦で ディメンティエワを破った勢いを駆って一気にシャラポワも倒し、そして四回戦ではペトロワに挑戦する。一回戦もロシア選手であったらしいので、アメリカの 新鋭オーディンはWTAを支配する大ロシア帝国を切り崩していることになる。
そしてロングマッチが続いたデイセッション最後の試合がロディック対アイズナーという地元アメリカ人同士、ビックサーバー同士の対戦となった。
2009全米三回戦
アイズナー 76 63 36 57 76 ロディック
第五シードロディックダウン!サービスゲームのキープの仕方はアイズナーのほうがやや安定感がある。大きな体をもてあましながらもしっかりとネットに詰めるべきところは詰めてポイントを取る。TBも強かった。ロングラリーではロディックの方に分があるとのだが、いかんせんリターンでアイズナーのサーブになかなか対応できていなかった。それでも2セットダウンから2セット連取して2セットオールに戻したロディックは見事である。途中ブレークポイント、イコー ルマッチポイントをアイズナーに握られる場面もあったが、ロディックは世界最速サーブの持ち主、サービスエースを集中させてピンチを脱した。ロディックのほうはメンタルが徐々に安定してくる。一方アイズナーは足に疲労が蓄積され、痙攣の前兆も見え始め、動きが悪くなっていく。ファイナルは追いついたロ ディックが有利だと思った。だがアイズナーは気合でサービスゲームをキープしていく。何度も胸を叩き、自分を奮い立たせて、ロディックに挑んでいく。アイ ズナーの気合のサーブにロディックはレシーブで対抗できない。ファイナルセットはTBに突入した。ミニブレークをアイズナーが一つ?ぎ取った。その1ポイ ントのリードをアイズナーは守りきり、TB7-5でアイズナーは対ロディック戦の勝利を決めた。
このアイズナー対ロディック戦が終わったのがもう夜も更けている時間帯である。センターコートではサフィーナ対クビトバ、ロブレド対ブレークが続けて行われることになっていたが、時間の関係でサフィーナの試合は別コートに移された。センターコートではその後ロブレドがブレークをストレートで破る。そしてこ の日最大の波乱は真夜中のニューヨークで起こった。
クビトバ 64 26 76 サフィーナ
女子第一シードサフィーナダウン!この試合、特に後半はメンタルの試される神経戦、悪く言えば泥仕合であった。長い試合で疲労も溜まっていたこともあるの だろうが、チャンスで打てずに入れに行く、入れに行くだけで決まるところをミスする、かと思えば追い詰められた場面でスーパーショットを繰り出してピンチ を脱する、とジェットコースターに乗っているかのような乱高下の激しい試合であった。ファイナルはTBに突入したが、そこでも二人とも強気になれずに苦い試合展開であったが、その泥仕合を乗り切ったのはクビトバのほうであり、サフィーナは乗り切れなかった。試合が終わったのは現地時間で翌日の午前0時半 を過ぎた頃だった。
全米六日目の土曜日は深夜の最後まで揺れ続けたのだった。
2009年09月07日 早いだけでなくて止まれるんです 2009全米七日目
何じゃこのスコアは
2009全米女子四回戦
クライシュテルス 60 06 64 ヴィーナス・ウィリアムズ
第一セットと第二セットでそれぞれ完封のベーグルを食らわせ合って、ファイナルセットは1ブレーク差、こんな試合展開始めてみた。第三シードv・ウィリア ムズダウン、主催者推薦のクライシュテルスがQF進出を決めた。クライシュテルスは足が速いだけでなく、しっかり止まるのだね。あそこが凄い。そしてフォ アもバックもためてから一気に鋭いスイングで打ちに行く。あれは強いわ。ファイナルは好勝負だったね。ヴィーナスも良くやった。だがクライシュテルスの方 が今日は一枚上手であることは競り合ったファイナルセットでも明らかだった。クライシュテルスの次の相手は難敵スキアボーネを突破した中国のリーである。 第二シードS・ウィリアムズはハンチェコワを62 60 というほとんど公開処刑状態で撃破、次の相手は去年好調だったズボナレワをフルセットの末に破った今季好調のペネッタである。
男子は第二シードマレー、第三シードナダル共に快勝、デルポトロも一セット失ったが勝ち進んでいる。第九シード諮問はセットカウント2-1とリードした第四セットでリタイアしてしまった。勝利を拾ったのはフェレーロである。ゴンザレスはベルディッチを突破した。
荒れる女子と順当な男子、好対照な展開を見せつつ、全米は四回戦が続く。
2009年09月08日 ロシア帝国の崩壊 2009全米八日目
オーディンがペトロワを逆転で降した。これでアメリカのオーディンはディメンティワ・シャラポワ・ペトロワらロシア勢の主力を連破してQFに進出したことになる。地元アメリカの観衆は大騒ぎだった。ウクライナのK・ボンダレンコはアルゼンチンのドゥルコをダブルベーグルで完封、第一シードサフィーナを破って名 を上げたチェコのクビトバはベルギーのウィックマイヤーに敗れた。そして2009全米六日目の大一番はこれ。
2009全米女子四回戦
ウォズニアッキ 26. 76 76 クズネツォワ
女子トップ選手たちのセカンドサーブの確率の悪さ、スピンサーブの未熟さが話題になる中、WTA屈指の威力ある回転系サーブの持ち主、それがクージーと ウォズである。強力なスピンサーブと威力のあるトップスピンストロークでお互い攻め合う。ブレーク合戦で幕を開けた第一セットは、中盤でウォズニアッキの ミスが増え、クズネツォワは安定感を増し着実に攻める展開になる。クージーの回り込みのフォアの逆クロスが強力だ。特にウォズニアッキのセカンドサーブを クズネツォワが叩いて主導権を握るシーンが目立った。クージーが終盤ゲームを連取し第一セットは6-2でクズネツォワ先取する。
第二セット、ウォズニアッキに粘りが出てくる。クージーの圧力を受けながらも耐え忍び、カウンターを仕掛け、自分のサービスゲームでは逆に攻めに出た。 ゲームは2ブレークづつで6-6となりTBに持ち込まれた。強いサーブをお互い持ちながらもミニブレーク合戦となったTB、ここまでクズネツォワに先にス トレートを打たれて攻められていたウォズニアッキはここで先にストレートに打ち込みリードを奪う。最後にクズネツォワのフォアがネットにかかりTB7-5 でウォズニアッキがセットオールに戻した。第三セット、一進一退の攻防が続く。白熱の競り合いは第十ゲーム5-4、クズネツォワのサービスゲームでウォズ ニアッキがブレークポイント、イコールマッチポイントを握った。だがこのピンチをバックハンドダウンザラインのウィナー、そしてサービスエース二本の三連 続ウィナーでクズネツォワはしのいだ。第十二ゲームでもウォズニアッキのブレークポイントイコールマッチポイントが来る。がここもフォアハンドの逆クロス でデュースに戻した。長いデュースが続いた後、最後にサービスエースで乗り切った。ファイナルもTBに突入する。お互い連続ミニブレークをして3-3で並 ぶ二人、だがここからクズネツォワにミスが続いた。マッチポイントでもクージーがフォアをネットさせてしまい、ウォズニアッキがTB7-3で勝利した。
終始攻めていたのはクズネツォワであり、ウォズニアッキは防戦に回る場面が多かった。だが守りに入っても序盤は攻めきられたが、後半は守りきり、攻め返した。尻上がりに調子を上げた攻守両面での粘り強さがクズネツォワを崩し、勝利を引き込んだ。
これで女子ベスト8QFの組合せが決まった。
ウィックマイヤー 対 K・ボンダレンコ
オーディン 対 ウォズニアッキ
リー 対 クライシュテルス
ペネッタ 対 S・ウィリアムズ
トップ8シードの内、勝ち残っているのはセリーナただ一人、ベスト8の内半分の四人がノーシードだ。ベルギー勢が二人、アメリカ勢が二人、そしてなんとロ シア勢がベスト8に一人もいない。この数年間WTAに一大勢力を築いていた大ロシア帝国がこの2009全米では崩壊した。これが帝国衰退の序章なのか、一 時の災害なのか、興味の引かれるところである。
男子は順当、フェデラーがロブレドをジョコビッチがステパネックをそれぞれストレートで降した。第八シードダビデンコは第三セットで足の負傷で棄権した。 対戦していた第十二シードのソダーリングは次にフェデラーと当たることになった。全仏・全英に続いてこの全米でもフェデラーに当たることになる。そしてロ ディックを倒したアイズナーはヴェルダスコの前に敗れた。ヴェルダスコはQFでジョコビッチと当たる。これは要注目カードだ。明日は男子のベスト8が出揃う。
2009年09月09日 第二シードの敗退、二つの完成形、鉄人の引き際、 2009全米九日目
マレー、ここで負けるなよ!
2009全米四回戦
チリッチ 75 62 62 マレー
チリッチは雰囲気が同じクロアチアの先輩アンチッチとよく似ている。クロアチア伝統のイバニセビッチ式体重移動型サーブを武器にしており、ストロークを主 体としながらもネットに良く出る。特に独特のバックハンドのフォームがアンチッチそっくりだ。チリッチのサーブとストロークの圧力の前に、リターンとカウ ンターの名手マレーはその持ち味の切り替えしを封じられ、押し切られた。マレーは覇気が失われ、静かに敗れて行った。
磐石と思われた男子四強の一角が崩れた。他に第七シードツォンガも第十一シードゴンザレスの前に敗れた。ナダルは第一セットこそTBで落としたが、その後 3セット連取でモンフィスを突破した。デルポトロはフェレーロをストレートで降し、これで男子のベスト8が出揃った。QFの組合せは下記の通り。
フェデラー 対 ソダーリング
ジョコビッチ 対 ヴェルダスコ
ゴンザレス 対 ナダル
デルポトロ 対 チリッチ
どれも好カードじゃあ、四試合とも見てみたいと思う近年まれに見る豪華な準々決勝ではないだろうか。これは熱戦が期待できる。
女子はボトムハーフのQFを消化した。
Sウィリアムズ 64 63 ペネッタ
クライシュテルス 62 64 リー
如空は「女子テニスの二つの完成形をセリーナ・ウィリアムズとキム・クライシュテルスに見る」と記事にしたことがあった。その女子テニスの到達点とも言うべき二つのテニスが、時を経て、このNYの地で激突する。勝つのはどちらか、ここが事実上の決勝戦になることは間違いないと見ている。
杉山愛選手が今季限りで現役引退するとの報道がなされた。グランドスラム本選連続出場記録を更新中の中での引退となった。秋の東京で行われる東レパンパシ フィックオープンが現役最後の大会になるという。長年ツアーで世界を転戦してきた彼女のテニス人生もようやく終わりを迎える。最後まで世界トップクラスに 維持しつけた鉄人ぶりには賞賛の声を惜しまない。
2009年09月10日 オーディン改めウダンです。 2009全米十日目
如 空が毎朝読む日経新聞では「オーディン」は「ウダン」と表記されていた。今日、WOWOWでも本人確認の上、表記を「オーディン」ではなく「ウダン」に変更するとナビゲーターのダバディ氏が説明していた。そのオーディン改めウダンはWTAの昇り竜ウォズニアッキとぶつかった。
2009全米女子トップハーフQF
ウォズニアッキ 62 62 ウダン
ウィックマイヤー 75 64 K・ボンダレンコ
17歳ウダンのアメリカンドリームはQFで潰えた。ウォズニアッキの慎重かつ大胆なテニスの前に、何度も引き起こしてきた大逆転劇をここで再演することは 叶わなかった。そしてベルギーのウィックマイヤーがボンダレンコを破り、ベスト4進出を決めた。今年の全米女子シングルスSFは
ウォズニアッキ 対 ウィックマイヤー
クライシュテルス 対 S・ウィリアムズ
である。ウダンが勝ち進んでいれば二試合ともアメリカ人対ベルギー人の対戦になっていた。だが去年より台頭してきているデンマークのウォズニアッキがここ に割って入ってきた。今後の女王座争いにウォズニアッキが絡んでくるかどうか、ここで試されることになるだろう。そしてキム対セリーナはまさしく横綱同士の対決となる。
男子トップハーフQF
ジョコビッチ 76 16 75 62 ヴェルダスコ
フェデラー 60 63 67 76 ソダーリング
ジョコビッチは一端ヴェルダスコに傾いた流れを良くぞ取り戻した。ヴェルダスコのような強敵から流れを引き戻すことが出来る力を示せたのはジョコビッチにとって大きな自信となろう。
試合途中でラケットを叩き折るほどにフラストレーションの溜めていたソダーリング、こうも続けて大舞台でフェデラーにいいようにやられていればいらつきも するだろう。だが今回はここで終わらなかった。第一セットを完封されたあと、第二セットは1ブレーク差に詰め寄り、第三セットではついにキープ合戦の末に TBに突入、8-6でTBを取り、ついにセットを奪うところまでフェデラーに肉薄した。第四セットでもキープ合戦の末のTB、TBはまたも6-6まで進 む、しかし今度ポイントを連取したのはフェデラーのほうだった。TB8-6でフェデラーが勝利、準決勝進出を決めた。しかし、ソダーリングはようやくフェ デラーの呪縛から逃れることが出来たようだ。今度対戦するときはいい試合が出来るに違いない。
トップハーフSFの組み合わせは
フェデラー 対 ジョコビッチ
ジョコビッチは一昨年の決勝、去年の準決勝と同じカード、運命の対フェデラー戦を迎える。何度か乗り越えているフェデラーの壁であるが、やはりこの全米で、ほとんど全盛期に近い形で復活しつつあるフェデラーを倒さない限り、彼はここから上を望めない。皇帝突破なるか、双頭の鷲の真価が問われる。その対戦の行方を注目しよう。
2009年09月11日 男子ベスト4出揃わず 2009全米十一日目
昨日は失礼いしました。男子ベスト4がジョコ、フェデラー、ナダル、デルポトロだった場合の文章を用意していたのですが、QFが半分終了した時点で、それを編集せずにそのまま載せてしまいました。お詫びの上、昨日の記事は訂正いたします。
ところで・・・・あんな文章を用意していたことからもわかるように、如空としては一昨日の段階でベスト4はジョコビッチ、フェデラー、ナダル、デルポトロを予想していた。でまあ、昨日の時点でジョコビッチとフェデラーが決まっており、今日の段階でデルポトロも決まった。しかし、ナダルは決まらなかった。
2009全米男子ボトムハーフQF
デルポトロ 46 63 62 61 チリッチ
ナダル 76 32 雨天順延 ゴンザレス
チリッチはサーブからもストロークからも攻めていた。ネットに出たら確実にポイントを取っていた。デルポトロは調子が悪いわけではないのだが、やはりチ リッチに押されて防戦にまわっていた。ところが、徐々に調子を上げていくデルポトロ、強打ではなくコントロールショットだがそれが鋭く決まる。圧力が強ま る。チリッチは押し返され、逆にミスを重ねるようになる。その流れは第二セットの中盤、デルポトロがゲームを連取したところから鮮明になり、最後はデルポ トロが圧倒していた。デルポトロが調子を上げた後も大きく崩れなければ、チリッチにチャンスもあったと思えるゲームであったが、後半はデルポトロの調子と は対照的に、チリッチは落ち込んでいった。好勝負になる要素のあった試合だけに流れがハッキリしてしまって残念であった。
ゴンザレスはフォアの豪打が炸裂している。ナダルは第一セットよくTBを取ったものだ。真夜中に雨天順延となった。これが吉凶どちらに出るか。明日に結果がでる。
2009年09月12日 丸1日雨天順延 2009全米十二日目
最 悪だ!よりによって女子SF二試合プラス男子QF残り一試合の金曜日、2009全米12日目が丸々雨天でキャンセルになった。男子決勝は月曜日になる。こ のイレギュラーな試合時間にWOWOWは対応できるのか。女子SFの生中継は不可能で録画中継になると既にWebサイトに出ている。今後のスケジュールの 変更をWebサイトのアナウンスだけで対応できるだろうか。まあNYのデイセッションもナイトセッションも日本時間では夜から朝にかけてだからぎりぎり録 画予約の変更は対応できそうだが・・・・なんか録画の失敗がおこりそうで怖い。三日にわたる試合になったゴンザレスとナダルの調子も心配だ。
2009年09月13日 抜いた球、鉄壁、速攻 2009全米十三日目
2009全米女子SF
クライシュテルス 64 75 S・ウィリアムズ
第二セット第十二ゲーム、セリーナのサービスゲームでクライシュテルスは先行しポイントを重ね、ブレークポイントを握った。第一セットを奪っているクライ シュテルスにとってこれはマッチポイントだ。ここでセリーナがフットフォールトを取られた。疲れ果てた表情を見せたセリーナは突然、フットフォールトを宣 告したラインパーソンを指差し激しい言葉を浴びせた。無言でセリーナの抗議を聞いているラインパーソン、しかし主審は黙っていなかった。ラインパーソンを 呼びつけ、セリーナの言葉の内容を聞き取るとトーナメントレフリーを呼び出した。トーナメントレフリーとセリーナが言葉を交わす。するとセリーナがラケッ トをベンチに投げ出し、ネット向こうにいるキム・クライシュテルスに歩み寄り、握手を求めた。第一セットでラケットをコートに叩き付けてへし折ったセリー ナは既に一回警告を取られていた。ここで二回目の警告を受けたので相手に一ポイント与えられる。それがマッチポイントであったので、ここで試合が終わってしまったのだった。
セリーナがここまでフラストレーションをためていたのは、クライシュテルスの出来の良さに対抗できていなかったからだろう。WOWOW解説の神尾米氏は 「抜いた球」という表現をしていた。強打でなくボールを潰さずに軽くドライブをかけてコーナーにボールを運ぶ。この球にセリーナは追いつきながら返球でき ず、右に左に走らされ、崩されていた。特に今日のクライシュテルスはバックハンドクロスの抜いた球が効果的であった。そしてバックの逆クロスがまたこの抜 いた球で綺麗に抜けて、セリーナのペースを崩していた。だがセリーナはぎりぎりのところで踏みとどまっていた。フォアもサーブも好調はいえない中で懸命の 努力で持ちこたえていた。実際スコアの上ではブレークの数で競り合い、クライシュテルスの堂々としたテニスについていっていた。だがその苦しい中の粘りが あのフットフォールトのコールで切れてしまった。残念な、とても残念な終わり方だった。
WOWOWの中継はこのクライシュテルス対S・ウィリアムズの試合が終わったあと、もう一方の会場で行われていたもう一つの女子準決勝にカメラを移した。
ウォズニアッキ 63 63 ウィックマイヤー
攻めるウィックマイヤー、フォアも両手打ちのバックハンドも高い打点から強打を打ち込む。だがその分エラーも多い。ウィナーを上回るアンフォーストエラー を量産していた。一方でほとんどエラーをしないウォズニアッキ、ウィックマイヤーの攻めを淡々と受け止め、持ちこたえ、ウィックマイヤーからエラーを引き出した。最後もウィックマイヤーのボールがラインを割って決着がついた。
これで決勝はベルギーのキム・クライシュテルス対デンマークのキャロライン・ウォズニアッキである。この予想だにしなかったこの決勝カード、勝つのはどちらだ。クライシュテルスの方が優位にあるとは思うが、ウォズニアッキの鉄壁の守りはクライシュテルスの復帰後いきなりグランドスラム制覇という野望を阻止 することが出来るだろうか。女子シングルス決勝は現地の日曜日ナイトセッションになる。
で男子QFの残り試合は女子SFの始まる前に終わっていた。
ナダル 76 76 60 ゴンザレス
第二セット6-6TBの途中から再開されたこの試合、ナダルは集中して入って来て、このTBを取りきった。ゴンザレスは第三セットの最初の自分のサービス ゲームを少し雑に入ってしまい、ナダルにブレークを許してしまった。ここで勝負は決まった。ナダルに傾いた流れをゴンザレスは引き戻すことが出来ずに、ナ ダルは6ゲームを連取して都合三日かかりの試合を締めくくった。
男子のベスト4がようやく出揃った。SFは
フェデラー対ジョコビッチ
ナダル対デルポトロ
である。雨のおかげで十分休養が取れたことだろう。超人達による頂上対決が始まる。その行方に注目しよう。
2009年09月14日 流れに身をまかせて 2009全米男子SF
2009全米男子SF
フェデラー 76 75 75 ジョコビッチ
第一セット、先にブレークしたのはジョコビッチの方だった。しかし、その直後のジョコビッチのサービスゲームをフェデラーはブレークした。6-6でTBに 突入、ギアを上げたフェデラーがTB7-3で第一セットを先取した。第二セットは5-5までキープ合戦、6-5としてフェデラーが最後にジョコビッチの サービスゲームをブレークして7-5でセット連取に成功した。グランドスマッシュを回転をかけて打ってウィナーをとるなど、フェデラーには徐々に余裕も見 え始めた。そして第三セットもほとんど同じ流れで最後にジョコビッチのサービスゲームを破って7-5として勝利を確定させた。最後は股抜きショットでマッ チポイントを握り、リターンエースで勝負を決めた。
フェデラーの調子はベストではなく、サーブの確率もやや悪かった。ただ、チャンスで一気に畳み掛ける強さを随所に見せた。一方でジョコビッチは大事な場面 でギアを上げることが出来なかった。WOWOW解説の柳恵誌郎氏は「フェデラーのテニスにはメリハリがあるが、ジョコビッチにはここぞというところで畳み 掛けることが出来ていない。」と表現していたが、今日のフェデラーのフォアの強打からの連続攻撃は突然始まって一気に決めるので実に効果的であった。一方 で配球の妙でポイントを取りたいジョコビッチであったがフェデラーを動かしてオープンコートを作ることが上手く行かず、ディフェンスもフェデラーも攻めの 前に崩され、反撃の機会を得ることなく終わってしまった。第一セットの最初のブレークを守っていれば少しは流れが変わったかと思うが、総じて上手くフェデ ラーがジョコビッチの調子を上手く押さえたといえよう。
デルポトロ 62 62 62 ナダル
大きな体のわりには高い打点からガンガン強打を打ち込んでくるというタイプではないデルポトロ、今日もストロークはゆったりとしているが、フォアの逆クロ スのキレがいい。膝の古傷が痛み始めているというナダルのフットワークは万全ではない。デルポトロの角度のあるフォアにコースに入ってボールを打ち返すことが出来ずにネットにかけてしまうシーンが多かった。三セットとも6-2という同じスコアでデルポトロが連取、ストレートで元No1にして今季の全豪覇者 ナダルの生涯グランドスラム達成の野望を打ち砕いた。だが勝った当人はいたって静かに勝利の瞬間を迎えていた。
一ポイントごとにはさすがはグランドスラムの準決勝という超人技の応酬があったりするのだが、試合の流れ自体は両試合とも単調で、波のない試合であった。 結果、今年最後のグランドスラム男子単決勝はフェデラー対デルポトロである。一昨年のジョコビッチ、去年のマレーに続いて今年はデルポトロ、フェデラーは 三年連続でグランドスラム決勝初進出の若手の挑戦を受ける形になった。結果は三年連続同じ形になるのだろうか、それとも2000年のサフィン、2001年 のヒューイットのごとく、決勝初進出で生涯最高のパフォーマンスを発揮して一気にデルポトロは上り詰めるだろうか。SFの対ナダル戦で更なる進化を遂げて いることが見とれるデルポトロ、皇帝の座を取り戻しつつあるフェデラーはこの昇り竜を押さえきれるか。いよいよ明日、2009全米男子単決勝である。
2009年09月14日 太陽が再び輝く 2009全米女子決勝
クライシュテルスはサーブをワイドに入れ、ウォズニアッキをコートの外に追い出し、フォアの逆クロスをオープンコートに入れてファーストポイントを奪った。このパターンはこの試合、何度も何度も見せることになる。
2009全米女子決勝
クライシュテルス 75 63 ウォズニアッキ
クライシュテルスのバックハンドが荒れていた。フォアでウィナーを取り、バックでミスをする。ウォズニアッキはこのクライシュテルスの乱れを利用して自分に流れを引き込みたかった。スピンボールをクライシュテルスのバックに集めてクライシュテルスの早い展開を封じ込めようとした。そして緩急をつけ、ボール を前後左右上下に振り分け、クライシュテルスに同じタイミング・同じ打点で打たせない。その作戦は功を奏し、中盤までウォズニアッキがリードしていた。だがクライシュテルスに徐々に粘りが出てくる、ラリーが長くなってくる。長いラリーに勝つ様になる。第八ゲームでクライシュテルスがブレークバックに成功し 4-4となった。が直後のキムのサービスゲームを今度はウォズニアッキがブレークした。5-4でウォズニアッキのサーブイング・フォー・ザ・セットとなる 第十ゲーム、ここでクライシュテルスのバックハンドが火を噴いた。フォアも火を噴く。ウォズニアッキが耐え切れずにサービスゲームをブレークされる。 5-5、クライシュテルス怒涛の攻勢が始まり、二ゲーム連取、最後にウォズニアッキのサービスゲームをブレークして第一セット7-5、逆転でクライシュテルスが取った。
第一セットの余勢を駆って一気に畳み掛けたいクライシュテルスの攻勢にウォズニアッキは良く耐え、ついていった。ブレーク合戦だった第一セットとは異な り、第二セットは緊迫しながらもサービスゲームのキープ合戦となる。3-2となった第六ゲーム、ネットに出たウォズニアッキをクライシュテルスのクロスパ スが抜き去った。0-30となって長いラリー、豪打の応酬、クライシュテルスは開脚スライディングでピンチをしのぎ、最後にウォズニアッキのショットが ベースラインを割った。ブレークポイントでもウォズニアッキが最後にサイドラインを割った。クライシュテルスがブレークに成功、リードを奪った。淡々と サービスゲームをキープし合う二人、しかし、緊迫の度合いは徐々に高まっていく、5-3となったサーブイングフォーザチャンピオンシップ、0-30から4 ポイント連取して勝負を決めた。最後はスマッシュを決め、ネットの前でキム・クライシュテルスはうずくまった。会場に来ていた彼女の幼い娘は何が起こった のか理解できていない無邪気な表情で、母親の涙を見守っていた。
二年近いブランクの後の復帰後最初のグランドスラム大会である。ノーシードでワイルドカードの出場だった。ウィリアムズ姉妹を連覇し、今季台頭してきた若 手筆頭のウォズニアッキを決勝で倒しての優勝である。引退前の現役全盛期でもあそこまで強くなかっただろう。特別新しい武器を備えたわけではないのだが、 一つ一つのショットの威力とスピードと正確さが以前より上回っていた。フットワークは更に素晴らしい、コートの誰よりも早く彼女は動いていた。そして何よ り素晴らしかったのはその揺るぎないメンタル、自信、結婚して出産して二年近くテニスから離れたことが彼女に好影響を与えたのだろうか、とにかくピンチで もチャンスでのまったく迷いのない姿勢でコートに立ち、まったく気負いのない状態でボールを打っていた。間違いなく、この全米女子選手で最強のテニスを見せていた。
ウォズニアッキはよく対抗したと思う。他の選手であればもう少し一方的にゲームを持っていかれただろう。第一セットのブレーク合戦でも第二セットのキープ合戦でも、クライシュテルスを崩してその圧力をはねのけようと努力した。この抵抗は後日、必ず実を結ぶ日が来るはずだ。
かつて無冠の女王の名を返上した2005年の全米優勝に続く二度目のグランドスラム優勝であるが、その意味も内外に対する影響も、前回とは比べものにならないほどに大きい、とても大きなキム・クライシュテルスの優勝であった。
2009年09月15日 野武士が皇帝の寝首を掻く 2009全米男子決勝
再びフェデラーの時代が訪れようとしていた。その兆候が見えていた。フェデラーが再び皇帝と呼ぶにふさわしい存在になろうとしていた。そうなるだろうと予想していた。この試合が始まる直前までは。
2009全米男子単決勝
デルポトロ 36 76 46 76 62 フェデラー
第一セット第二ゲーム、デルポトロの最初のサービスゲームは長いデュースにもつれた。いきなりギアが上がるコートの中の二人、最後にフェデラーがネットに 出たデルポトロに対して左に走りこみのバックパス、そして右のコーナー深くにきたボールを走りこんでからのフォアのクロスパス、これが抜けた。フェデラー がブレークに成功した。フェデラーの圧力の前に押されるデルポトロ、5-2にされた第八ゲームでもブレークポイントを握られたが、サーブの力と意地でキー プに成功した。だが第九ゲームでフェデラーはサーブイング・フォー・ザ・セットを着実にキープ、最後は力を抜いたサーブがエースになった。第一セットは 6-3でフェデラーが先取した。
第二セット第一ゲーム、デルポトロはダブルフォールトでフェデラーのブレークを許す。だがフェデラーのサーブも確率はあまりよくない。第四ゲームでデルポ トロはこの試合始めてのブレークポイントを握る。長いデュースが繰り返された後、フェデラーがキープに成功した。次の第五ゲームで今度はフェデラーがブ レークポイントを握る。ここでもデュースになった。ここでようやくデルポトロのサーブがいい形で決まりだした。デルポトロもピンチを逃れキープに成功する。5-4まで来た。フェデラーのサーブイング・フォー・ザ・セットである。ここまでフェデラーのファーストサーブの確率は悪い。それでも二ポイント連取 して30-0とした。ここからデルポトロのフォアハンドが入りだす。30-15、フェデラーのドロップショットをデルポトロがロブで切り返した。 30-30、デルポトロのフォアハンドダウンザラインがラインの外側を捉えた。30-40、ブレークポイントだ。歓声に包まれるセンターコート、フェデ ラーのファーストが来た、デルポトロが打ち返す、フェデラーがネットに出てボレーを放つ、デルポトロがフォアを外側から巻いてきてネットのフェデラーを抜 いた。ブレーク!5-5である。お互いキープし合い、6-6でTBに突入する。TBは競り合い、最後に一ポイントを競り勝ったのがデルポトロだった。 TB7-5で第二セットをデルポトロが取り戻した。
勢いはデルポトロにある。強打の応酬でデルポトロが主導権を握る。3-3となった第七ゲームでデルポトロがブレークに成功した。だがここでデルポトロは少 し慎重になった。そこを突くフェデラー、0-40としてブレークポイントを握る。二つ堪えたが、三つ目でフェデラーがネットインしたボールをフォアで叩い てデルポトロにミスさせた。フェデラーすかさずブレークバックで4-4である。フェデラーのギアがまた上がる。今度はデルポトロも負けずに対抗する。次の フェデラーのサービスゲームでデルポトロはブレークポイントを握るがフェデラーはそれを抑えた。キープし合って5-4、デルポトロのサービスゲーム、 30-30となったところでデルポトロはダブルフォールトを出してしまう。30-40でブレークポイントイコールセットポイントとなった。ここでデルポト ロは痛恨の連続ダブルフォールトでセットを落とした。第三セット6-4でフェデラーが取った。途中で明らかに守りに入ったデルポトロの自滅であった。
第四セット、失意のデルポトロのサービスゲームでフェデラーは圧力をかけてブレークポイントを握る。しかし、フォアの強打二本で挽回し、デルポトロは何と か持ち直した。次のサービスゲームもブレークポイントを握られ、苦しみながらではあるがデルポトロはキープに成功した。その直後の第五ゲーム、ラブゲーム でフェデラーのサービスゲームをブレークした。フェデラーの集中力が途切れた一瞬の隙を突いたブレークだった。4-3とした第八ゲーム、デルポトロは自分 のサービスゲームで強気の攻めを見せていたが30-30で少し守った。そこを見逃さないフェデラー、左右の振り合い、長いラリーを制してフェデラーが二ポ イント連取、ブレークバックに成功した。ブレークポイントを含む苦しい展開、攻守がめぐるましく入れ替わる、激しい競り合いが続くが、ブレークには両者いたらず、6-6でまたもTBに突入した。フェデラーのダブルフォールトから始まった。落ち着いた攻めでポイントを先行するデルポトロ、緊迫したポイントの 応酬の末、最後にフェデラーのフォアがミスしてTB7-4、デルポトロがセットオールに戻した。
第五セット、第二ゲームはフェデラーのサービスゲーム、デルポトロのストロークに圧力が出てきた。フェデラーは押されてミスを重ねる。ブレークポイントが デルポトロに来る。ネットに出たフェデラーをデルポトロのクロスのパスが抜き去る。デルポトロがブレークした。第三ゲームでフェデラーはブレークポイント を握るが、デルポトロは逃げ切る。フェデラーの覇気が消えていく。今年の全豪決勝の第五セットと同じ流れだ。5-2になった。フェデラーのサービスゲーム である。フェデラーのミスが重なる。15-40でデルポトロにチャンピオンシップポイントが来た。長いラリーの末のミス、リターンミスでデュースに戻され た。デュースアゲインでフェデラーがダブルフォールト、またマッチポイントが来た。デルポトロのフォアのクロスが叩き込まれる、切り返すフェデラー、しか し二度目の切り返しはベースラインを越えた。その瞬間デルポトロは大の字になってコートに倒れた。ファイナル6-2、セットカウント3-2でデルポトロが 勝った。
フェデラーのサーブの入りが悪かったことは最後まで響いた。しかし、ストロークで序盤押していたのはフェデラーの方である。回り込みのフォアが入るフェデ ラーと入らないデルポトロ、この差がゲーム終盤では逆転し、デルポトロのフォアが入るが、フェデラーのフォアが入らなくなっていた。だがこの試合、波が あったのはデルポトロのほうである。とにかく途中リードを奪っても強気になれず、フェデラーに流れを取り戻されるシーンが何度もあった。その弱気の状態からその度に立ち直り、フェデラーに喰らいつき、最後に乗り越えた。まさに自分自身との戦いに勝利してデルポトロは優勝したのである。
準決勝でナダルを破り、決勝でフェデラーを破っての見事な優勝だ。アルゼンチン選手のグランドスラム男子シングルスの優勝は2004年全仏優勝のガウディ オ以来である。奇しくもそのガウディオ優勝のときのコーチが今のデルポトロのコーチとなっていた。去年夏の北米ハードコートシーズンで4大会連続優勝し て、台頭してきたデルポトロはその一年後にグランドスラムタイトルを手に入れた。親父くさい顔をしているがまだ二十歳である。今年の全豪ではフェデラーに 公開処刑され、全仏では途中ガス欠状態になりやはりフェデラーに敗れた。敗北の度に、その教訓を糧にして成長し続け、ついにナダルの生涯グランドスラムと フェデラーの全米6連覇を阻止して、連破しての優勝を成し遂げた。
ノースリーブのシャツにバンダナをしたデルポトロは茫洋としていてつかみどころがない。そのまま槍かダンビラを担いでいれば黒澤明監督の時代劇映画に出て くる野武士のような風貌をしている。武者修行の末に野武士が成長して王座までたどり着き、再び王座に皇帝の寝首を掻いた、そんな感じのする2009全米男 子決勝戦であった。熱戦を届けてくれた選手たちに感謝。