2008年テニス界10大ニュース その八
ATP80年代後半生まれ世代の台頭
ちょうど2000年になる前あたりだっただろうか、アガシ・サンプラスの世代の直下の世代からトップランカーがなかなか育たず、ATPがわざわざ「ニュー ボールプリーズ」というキャンペーンを張って次世代の成長を促した時期がある。そのキャンペーンの効果であったのかどうか分からないが、サフィン・ヒュー イット・ロディック・フェレーロなどグランドスラムタイトルを取り、エントリーランキングNo1に上り詰める80年代前半生まれの選手たちが現れ始め、そ してATP史上最強のNo1、如空が「皇帝」と呼んだフェデラーの台頭につながった。フェデラーのような圧倒的強者が数年間にわたってツアーを支配する と、かつて「ニューボールプリーズ」のキャンペーン時代のように次世代が育ちにくいと思っていた。だが実際は史上最強のNo2ナダルが前世代を押しのけて 打倒フェデラーの筆頭に名乗りをあげ、去年は第三の男、双頭の鷲ジョコビッチの台頭があり、そして今年はマレーが結果を出し始めた。ナダルは1986年生 まれ、ジョコビッチとマレーは1987年生まれで、1981年生まれのフェデラーとは世代が一つ下と言っていいだろう。今年のトップ10選手でフェデラー と同世代なのはNo5で1981年生まれのダビデンコとNo8で1982年生まれのロディック、そしてNo10で1979年生まれのブレークの3人であ る。トップ10選手のうち、4人が80年代前半生まれの世代だ。残りの6人はその下の世代、80年代後半生まれの世代である。ナダルの世代がフェデラーの 世代よりもトップ10で多くなったのである。ナダル・ジョコビッチ・マレーの三人の他にツォンガ・シモン・デルポトロが今年台頭してきたのだ。
1985年生まれ、フランスのジョン・ウィルフリード・ツォンガは今季二勝を上げて2008年ランキングNo6である。今年の全豪SF対ナダル戦でツォン ガが与えた衝撃は今でも忘れない。サフィンが2000年全米決勝でサンプラスを破った試合、あるいは2003年ウィンブルドンSFでフェデラーがロディッ クを破った試合、これらの試合に匹敵する衝撃を受けた。それほどまでに凄いテニスだっ た。ツアーでもっとも堅牢な要塞ナダルの防御をことごとく打ち破ってウィナーを量産し、ストレート勝ってしまった。サフィンの再来かと注目を集めたが、全 豪決勝ではジョコビッチに敗れ、その後故障で戦線離脱、今年の中盤戦ではほとんど活躍できなかった。それでも後半戦で復活、マスターズシリーズパリ大会で 見事な地元優勝を決め、最終戦マスターズカップも出場し、その存在感の大きさを示した。
1984年生まれ、フランスのジル・シモンは今季三勝を上げて2008年ランキングNo7である。今年はMSトロント大会2回戦でフェデラーを破り注目を あびた。トロントでシモンはSFまで進出する。MSマドリッドではSFでナダルを破り決勝まで進出した。そして最終戦マスターズカップでナダルの棄権を受 けてシモンは代打で出場し、ラウンドロビンを突破、SFでジョコビッチとフルセットマッチまで持ち込むがそこで惜敗した。だがマスターズカップは代打でエ リート8でなかったシモンは、大会終了後の年間最終ランキングでNo7まで躍進、トップの8人の一人に名実共になったのであった。
1986年生まれ、アルゼンチンのファン・マーチン・デル=ポトロは今季4勝を上げて2008年ランキングNO9である。この今季4勝はこの夏の4大会連 続優勝の結果である。ジャパンオープンにも来てくれて準優勝を遂げた。マスターズカップではベスト4でSFに進出したが、ラウンドロビン最終戦の対フェデ ラー戦の死闘で力尽きていたデルポトロはらしくないテニスで敗退した。だが4大会4連勝は素晴らしい成績である。
ツォンガもシモンもデルポトロも、ショットが強くて、展開が早い。彼らが調子のよいときには、相手をするナダルもジョコビッチもマレーも格上のテニスがで きていない。それほどまでに強いテニスである。来年はトップ10の上位陣と下位陣がごっそり入れ替わる可能性すら感じさせる王者のテニスを彼らはコートの 上で展開している。早熟ゆえにナダルが一人で孤軍奮闘してきた感のあるこの世代、いよいよ塊になって上位に進出してきた、その世代交代の波の訪れが今季の 大きなニュースであった。
もう一人、忘れてはいけないのが、デルレイビーチでATPツアー初優勝を遂げた日本の錦織圭であろう。今季はエントリーランキングで63位まで上ってき た。だが彼はナダル世代よりまだ下の世代だ。何せ1989年生まれである。彼がトップランカーにまで成長するにはもう少し時間が必要だと思う。だが今年全 米3回戦の第四シードフェラーを破った試合は見事であった。ここ数年での今年の日本男子テニス界のクライマックスであろう。更なる飛躍を期待したい。