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2007テニス界20大ニュース その一
カナス、フェデラーにハードコートで二連勝

「犬が人に噛み付いてもニュースにはならない、人が犬に噛み付けばニュースになる」と言う。今年フェデラーやナダルが成し遂げたことは偉大なることで、過去の偉人たちの業績と比較してもそれを凌駕しうる見事な結果であった。だが、それは今年のシーズン開始直後からある程度予想されていたことであり、かつ去年から続き来年以降も継続される可能性が大きいことである。それだけに記録としては偉大でも、ニュースとしての衝撃度ではややインパクトがかける。数年後、プロテニス観戦の履歴を振り返った時、2007年のツアーはどんな年だったと聞かれれば「カナスがフェデラーに二連敗を喰らわした」ことを如空は真っ先に思い浮かべるだろう。フェデラーの2007年の戦績は78戦中69勝9敗、この9敗のうちのわずか2敗、たったの二試合だけの敗北が、それほどまでに衝撃的だった。

2005年8月、アルゼンチンのギジェルモ・カナスは試合前に不用意に風邪薬を飲んでしまったために、ドーピング検査で陽性反応が出てしまった。故意ではなく過失(しかも大会運営者側のミス)であるが彼はATPから二年間の出場停止処分を受ける。
その後処分が軽減され、カナスは2007年にコートに復帰した。公式戦出場を禁止され、「テニスがしたい」という貪欲なまでのテニスへの飢え、勝利への執着心をことさら強めたカナスが戻ってくる。もともとトップ10プレーヤーに劣らぬ実力者、それが謹慎明けのためにポイントが足らず、低いランキングで大会に乗り込んでくるのである。他のシード選手たちにとっては、カナス級の選手といきなり早いラウンドで当たるのだから厄介だ。だがその被害がよりにもよってATPに君臨する圧倒的強者、如空が皇帝と呼ぶフェデラーにもたらされるとは誰が予想しただろうか。

マスターズシリーズ第一戦インディアンウェルズ大会二回戦で波乱は起こった。カナスがフェデラーをストレートで破った。フェデラーが負ける、ナダル以外の男に、しかもハードコートで、これだけでも大事件なのだが、同時に年間常勝無敗と言うわけにもいかないはずで、これは交通事故にあったようなものだ。事件でなく事故だ、という見方も出来なくはなかった。この一敗で終わっていれば。

マスターズシリーズ第二戦マイアミ大会四回戦で再びカナスはフェデラーを破る。今度はフルセットの大接戦、フェデラーはフィジカルに問題があったわけでもなく、プレーの調子が悪かったわけでもない。それでも負けた。ナダル以外の男に、しかもハードコートの上で、同じ対戦相手に連敗した。マスターズシリーズを二大会連続で、出場しているにもかかわらず決勝はおろか準決勝にも進めなかったのだ。もはやこれは事故ではなく、事件であった

春の祭典と呼ばれるインディアンウェルズとマイアミ、この二大会を早いラウンドでフェデラーが負けたことは大きかった。フェデラー不在のマスターズシリーズでナダルが復活し、ジョコビッチが台頭してきた。クレーシーズンになり、MSモンテカルロ大会でナダル相手に決勝敗退、MSローマではポランドリーに四回戦敗退、マスターズシリーズで今年の初タイトルを挙げるのはMSハンブルグ大会まで待たなければならなかった。フェデラーは今年初頭、全豪オープンを優勝しているにもかかわらず、1月からの累積ポイントで示されるチャンピオンズレースではシーズン中盤二位でしかなく、一位のナダルを追う形になっていた。もし、全英の決勝でナダルが勝ってば、そしてもし全米の決勝でジョコビッチが勝てば、フェデラーをエントリーランキングNo1からも陥落させることが出来るかもしれない。そういう期待を持って今年はATPの中盤戦を見ることが出来た。史上最強のプレーヤーをNo1から引きずりおろす「史上最大の作戦」は結果としては失敗し、フェデラーは今年も最終戦を待たずして年間最終ランキングNo1を決めた。だが去年・一昨年に比べれば夏のシーズンが盛り上がった。それは春先にカナスがフェデラーに二連勝したことに端を発している。「史上最大の作戦」の火蓋を切ったのはカナスなのである。

もしも来年以降、フェデラーの力が衰退し、大きな大会で敗退が続き、No1を陥落するようなことがあれば、後世の歴史家たちはこういうだろう。「フェデラーの衰退は2007年春の対カナス戦二連敗から始まった。あの二連敗が終わりの始まりだった」と。

来年以降もフェデラーは強くあり続けるだろうと思う。この想像は当たらずに終わるだろう。だがそれほどまでにインパクトのある連敗であった。