2006テニス界10大ニュース その四
アガシの引退
如空と同じ1970年生まれのアンドレ・アガシは今年36歳。去年35歳の段階でそれでも全米オープン決勝まで進む脅威のタフネスを見せる。まさに生きている伝説であった。だが今年ウィンブルドン直前に引退を表明した。ウィンブルドンではナダルに惜敗、だがナダルに芝での戦い方を教えたかのような試合だった。その後のナダルはウィンブルドンで決勝まで勝ち上がる。引退セレモニーと化した全米オープン、アガシの最後の姿を見ようと押し寄せた満員の観客のなか、アガシは苦しい試合を強いられながら一回戦パベルを突破した。二回戦は台頭著しいキプロスのバクダティス。2セットとアガシが先取するも、バクダティスは全身から闘志を剥き出しにしてアガシに挑む。満場の観客は全てアガシの応援のなか、恐るべし気力で2セット取り返してセットオールに持ち込む。足を痙攣させながらも戦うバクダティスにアガシも最高のパフォーマンスを発揮して答える。激闘はファイナル5-5まで来た。アガシは更なる最高のプレーをして2ゲームを連取して、この名勝負を締めくくった。二回戦でありながらMSローマ決勝と甲乙つけがたい今年の名勝負の一つとなった。だがアガシはココで燃え尽きてしまった。
3回戦、対ベッカー戦、ベッカーのビックサーブの前にリターンの名手として名をはせたアガシが抵抗できずに押されていく。終幕は近づきつつあった。マッチポイントをベッカーが決めたとき。満員の会場は静かにそのときを迎えた。驚くべきほど静かに。そうして伝説は終わりを告げたのだった。
16歳でプロに転向したアガシは順調にそのキャリアを積み重ね、全英・全米・全豪を取り20代で生涯グランドスラムに王手をかけていた。だが最後の関門全仏で二年連続決勝に進出しながらも敗退、やがて結婚生活の破綻など、コートの外にも問題を抱え、テニスも勝てなくなり、ランキングを100位以下に落としていく。グランドスラムタイトルホルダーがなんとツアーの下の格のトーナメントであるチャレンジャーに出場して再起を図らなければならなかった。そこからアガシは戻ってきた。1999年全仏決勝、2セットダウンから大逆転でアガシは全仏を制覇し、生涯グランドスラマーになる。それ以前に生涯グランドスラムを達成した選手は数あれど、全てのサーフェイスが異なる、現在のグランドスラムで全てのサーフェイスを征してのグランドスラム達成を成し遂げたのはATP史上アガシしかおらず、史上最強の呼び声の高いフェデラーですらまだ果たせずにいる偉業である。
29歳までに3つのグランドスラムタイトルを取ったアガシだが、さらにすごいのは29歳で4つ目のグランドスラムをとってから、さらに7回グランドスラムの決勝に進み、4つのグランドスラムタイトルを取った。29歳から取ったグランドスラムタイトルの方が多いのだ。ボールのスピードが上がり、高度なフィジカルが要求される今の男子テニスでこれは脅威というべき他に言葉がない。
同じ歳の選手であっただけに、彼の引退には感慨深いものがある。彼の今後の人生に幸多かれと祈りたい。