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チキンハート  (2009/08/30)

 

シングルの大会に出てきた。

予選リーグの初戦の相手は軟式上がりらしいおじさん。こちらは慎重に相手バックにボールを集めていこうと方針を決めて試合に臨んだ。これが結果として間違いの始まりだった。この相手のバックハンドというのが、なんとも形容しがたい変則的な回転がかかるスライスだった。この変則スライスに散々悩まされた。一度などあまりにもバックスピンが強烈でこちらのコートの入った相手ボールがバウンドで逆方向に跳ねて相手コートに戻っていってしまったくらいだ。漫画には良く出てくるが、本当に相手コートに戻るバックスピンを見たのは初めてだった。とにかく打ちにくい。しかも相手のサーブはファーストとセカンドで落差がとても大きかった。ファーストはネットぎりぎり、ラインぎりぎりに飛んでくるフラットサーブ。これが速い上に跳ねずにバンドして滑ってくるのでリターンが持ち上がらない。かと思うとセカンドはサービスボックスの中でツーバウンドしてしまうような短くてゆるいサーブ。このセカンドがまた打ちにくいこと。ほとんどネットダッシュするつもりで前に詰めないと打点に入れない。如空はミスを多発した。1-0で最初のゲームは取ったのだが、その後4ゲームを連取され、あっという間に1-4まで持っていかれた。技術的な問題もあるが、それ以上に精神的にいらいらしてしまっていた。このままではまずい。相手のバックハンドスライスに嫌気が差していたので、強打されることを承知で相手のフォアにボールを集めて打ち合いを挑んだ。徐々にだが、逆クロスに打つぞと肩を入れてためを作って相手の足を止めてからクロスに打つというフォアハンドと、相手のフォアのクロスが甘くセンターに入ってきたときバックハンドのライジングでオープンコートになっている相手バックサイドに打つという二つのショットが決まり始めた。ネットに出てボレーも決まり始めた。追い上げて5-5まできた。この大会、予選リーグは6ゲーム先取でTBはない。しかもノーアドバンテージ方式である。第11ゲームで4ポイントを取った方が勝つ。

第11ゲームは如空のサービスゲームだった。
最初のサーブを打つとき、突然過呼吸になった。

試合途中で息を意識的に吐き出しながらストロークを打つようにした。相手の変則テニスにいらいらしている自分を落ち着かせるために、わざと頬を膨らまして息を吐きながら打った。プロ選手でもロディックやアンチッチなどがよくしている方法である。実際うまくいった。気持ちが落ち着いて、途中からウィナーが取れるようになったし、調子が上がっていった。だから追い上げられたのである。これはいい方法を思いついたと内心自画自賛し、調子に乗って、ショットを打っていないときでも頬を膨らませて息を何度も吐き出した。歩いているときも止っているときも。そして勝負のかかった第11ゲームで最初の如空のサーブ、いつものようにボールを三回ついて構えようとした。呼吸が止らなくなった。過呼吸だ。全力疾走の直後のように、心臓の動悸が激しくなって、呼吸が激しく繰り返され止らない。何でだ、この試合、それほど激しく動いていないぞ・・・・そこで初めて自分が勝ちビビリ状態になっていることに気がついた。冷静でいたつもりが試合前半のいらいらと試合後半の追い上げで興奮してしまってパニック症候群に陥っているんだ。頭の中の冷静なもう一人の自分が自分を冷静に分析して見せるが、身体を伴っている自分のパニックがそれで収まるわけがない。如空の場合、勝ちビビリは利き腕の肘に来る。右ひじに独特のかゆみを感じて力が自分のイメージしたとおりに入らなくなる。サーブを二回ダブルフォールとした。フォームがばらばらだ。ほかのサーブもファーストが入らず、セカンドに入れるだけの変なサーブしか入らず、相手に叩かれた。最後に相手の短かくなったボールを踏み込んで打てずにネットさせて、負けた。

相手は声の大きな応援団をつれてきていた。接戦を勝ちきったので相手陣営は大喜びである。それがいっそう如空を惨めにした。「如空さんどうしたのぉ、突然どうしちゃったのぉ」と途中から相手応援団に対抗するべく如空サイドのベンチに来てくれた知り合いが声をかけてくれたが、何も答えられずに苦笑いをするだけだった。「勝ちビビリですよ。如空はメンタルが弱いんです。」と心の中でつぶやいたが声にはならなかった。

ベンチに来てくれた知り合いいわく、「この前、死に物狂いでくらいついたのに、あいつに1ゲームしか取らせてもらえなかった。」というハードヒッターが予選第二試合の相手である。知り合いは如空よりもうまくて強い、その人が1ゲームで抑えられてしまう相手なのだから、如空では1ゲームも取れるはずがない。0-6で負けて予選敗退した。がんがん打ってくる相手だったので、こちらも無心になってがんがん打てた事がせめてもの救いだった。

惨めな屈辱感に打ちのめされて、このまま途中棄権して帰ろうかと思った。だが、一ゲームでも多くテニスをしようという人が集まっているのである。義務感から4ゲーム先取のコンソレーションにその後出場した。

初戦の相手は何度も対戦したことのあるグリグリスピンの若い兄ちゃん。どうやら彼も予選リーグで何かいやな負け方をしたらしく、少々ふてくされていた。お互いストレスのたまっている者同士、一発ウィナー狙いの応酬となった。グリグリトップスピン主体の選手が無茶打ちするとフレームショットが多発する。如空の方はややフラット気味なので彼よりはミスが少なかった。相手の自滅で4-0となり初戦を突破してしまった。

第二試合の相手はいたって普通の相手である。武器もなければ弱点もない。ようやく如空のほうも落ち着き、この日試合らしい試合が展開したが、2-3になったところで相手のギアが少し上がった。やはり如空よりレベルが上の相手だった。2-4で負けて如空の競技は終了、早々にコートを後にした。

技術だけでなくメンタルまで崩れてしまった。先月のシングルス大会で自分がチェンジオブコースを上手くできないことに気づいたときにも落ち込んでブログの記事にすることが億劫だった。だが、今回はそれ以上に落ち込んだ。メンタルが崩れてしまったのだから。この二週間、テニスの練習をしたが、練習日誌をつける気にはなれなかった。テニスを始めて少し勝てるようになってからは、一時よく勝ちビビリになったものだ。だがさらに試合経験をつむうちに開き直れるようになり、ここ数年は勝ちビビリと無縁の状態だった。だが出る試合のレベルが上がり、勝利が見えるところまで行く機会が少なかったせいかもしれないな。勝ちビビリは癖になる。「またあれが出るのではないか」という恐怖が選手を襲う。こればかりは誰の助けも得られない。自分で解決しなくてはならないのである。技術的な問題の他に精神的な問題も抱え込んでしまった。テニスって本当に楽しいスポーツなのだろか。こんな精神的苦しみを受けながら行う趣味がどこにある。だがそれを克服できるようになるために、またコートに向かうのである。それがテニスに取り付かれたものの運命だ。だからそのことをここに書き記しておこう。己を知るために。それを忘れないために。そしてそれを乗り越えるために。

修行は続く。