淡路でテニスと食い道楽 (2008/11/22)
2007年7月、まだ夏本番というわけではないが、一足早く合宿に行って来た。例年は朝から晩までひたすらテニスという熱血スパルタ テニス合宿である。だが今年はいつもと趣を変えて、「リゾートでテニスを満喫する旅」となった。我々庶民がプチセレブの感覚を味わうのが目的である。なぜ だかわからない。とにかく今年はそういうことになった。行き先は海外、南の島・・・・・という訳にはいかないのが庶民である。経済的にも、時間的にも、そう はいかない。気分だけセレブである。感覚だけ高級リゾートである。だから行く先は淡路島である。
大阪の庶民は車で阪神高速湾岸線を西へ向かう。湾岸線の終点で神戸の庶民を拾う。いつもならすぐテニスが出来るようにテニスウェアで移動するが、今年は私服である。なにかいつもと違う。でも妙にハイテンションな気分だけセレブの庶民たちは明石海峡大橋を渡って淡路島に上陸した。
「テニス合宿ではない。バカンスである。」という定義では、いきなりテニスはせずに観光から入る。なぜだかわからないがそうらしい。というわけで、淡路島の持つ数少ない観光資源、淡路夢舞台に行く。数年前に行われた「花の博覧会」の会場跡地である。今でも跡地は巨大な植物園になっており、国際会議場とホテルが 営業している。初夏の湿気混じりの暑い空気の中、階段を汗だくになって上る。コンクリート打ち放しの壁と列柱と階段、水のカスケード、光と影、長い誘導導 線と大きな広場、この施設一帯を設計した建築家安藤忠雄の良く使うモチーフがこれでもかこれでもかと、浴びせられるほどに展開していた。でも如空の目には まるでローマやギリシャの廃墟に見えた。なんか花や草木を見に来ていいるのに、建物を見に来ているかのようだ。人の入りは結構あって、団体客が来ていたわ けでもないのだが、昼食時に飲食店街は盛況であった。昼からイタリアンの店に入った。昼からコースだ。うーん気分だけセレブだぜ、車なのでワインが飲めな いのが残念だ。だが前菜・パスタ・ピザとデザート、どれも美味であった。
普段は安藤忠雄と同じ建築家である河内坊如空(←如空は建築家というより建築設計業者だろう!)はちょいと気になる建物がこのそばにあるので、無理を言っ て、その建物を見学に行った。淡路夢舞台と同じ安藤忠雄設計による本福寺本堂である。海沿いの田舎道の端にある杜の丘にその建物はある。杜の外からは見え ない。砂利道沿いに歩いて丘を登る。長細いコンクリートの壁が丘の上にある。大きな壁に比べて小さな開口部があいている。その開口部をくぐるとまたコンク リートの白い壁にはさまれた狭い道がある。そこを超えると楕円形の蓮の池が 丘の上に浮いていた。蓮は仏教の世界では重要な意味を持つ。釈迦は蓮華の上で瞑想するし、泥の中に美しい花を咲かせる蓮は俗世の中で清く正しく生きていく 象徴としてたたえられる。蓮の池のその蓮が群生する楕円形の人工池の真ん中に階段が一直線に下りていく。その先に本堂があるのだ。明るくてまぶしい人工池 の下にある本堂は、池とは対照的に暗くて静かだ。コンクリートの外壁に囲まれて、朱に染まった木格子で仏像を囲っている。小さいがなんとも神秘的な世界である。安藤忠雄の建築家としての力量にただただ、呆然とした。
寄り道をしたために、予定より遅れた。急ぐために神戸淡路鳴門自動車道に車を乗せた。大きな高速道路だ。最高時速が80キロでなく100キロである。でも 100キロで走行しても40キロくらいでしか走っていないような感覚に襲われるほど、幅広く、見通しが良い。あっという間に淡路島の南端に着いた。高速を 下りて、ホテルに向かった。
目的のホテルについて、びびった。駐車場にある車がフォルクスワーゲンにBMWにベンツ・・・・日本車はレクサスしかない。高級車ばかりだ。「俺たちがここに来て本当にいいのか」とビビリながらチープな我が愛車を駐車した。後部ドアを開けて荷物を降ろしていると背後に人の気配を感じた。振り向くとホテルマ ンが立っていた。「ようこそ、いらっしゃいませお客様」と笑顔で答えて、我々の荷物をフロントまで運んでくれた。後で他の宿泊客を見て気づいたのだが、こ ういうホテルでは車寄せに車を寄せて、荷物をホテルマンに降ろしてもらってから、駐車するのだ。いつも車で簡保の宿に行くか、電車で旅行する庶民にはわか らない世界である。フロントでチェックインして、部屋に案内してもらう。こじんまりとしているがいい部屋である。リゾートホテルなのでバルコニーが大き い。全室オーシャンビューである。トイレとバスルームが分かれている。クローゼットにバスローブがつってある。大きさは十分広い。ハイアット・シェラト ン・ウェスティン・ヒルトン・モントレなどのやや高級と呼ばれるホテルでもスタンダードな部屋はここまで広くはない。「高級ホテルよりプチ・ホテルの方が 同じ値段でグレードが高い」とこの旅行を企画立案した人は言う。当初今回の旅行も淡路島にあるウェスティンホテルに宿泊する案が有力であったが、最終的に 立案者の案に従って正解であった。
さて、テニスである。フロントに内線をかけてコートを取ると、ウェアに着替えてラケットを担いでコートに繰り出すテニス馬鹿達。だがホテルを飛び出そうと するときに、ホテルマンに扉を開けられて「入ってらっしゃいませ」と丁寧にを送り出されると、さすがに走るわけには行かず、胸にラケットを抱えてお上品に コートまで歩いていった。
コートはきれいだ。特別な設備があるわけではない、ただのオムにコートなのだが、隅々までよく手入れされている。いつもの簡保の宿のコートでは、コートの サーフェイスはカビが生えているわ、雑草は生えているわ、ポールやベンチは錆びているわ、ネットは穴が開いているわ、日よけのテントや庇は蜘蛛の巣がはっているわで、気分が悪いったりゃありゃしない。ここではそれがない。気分よくテニスが出来る。
ゲームを少ししただけで後は基礎練習をした。短期合宿にはそれがふさわしい。ある練習を集中的にすることで弱点を克服したり、得意な技術をさらに伸ばしたりするのだ。如空はサーブとリターンを集中的にした。ストリングをアルパワーからアスタリスクに替えたために、少し修正の必要を感じたからだ。
リターンは良くなった。ボールを掴まえる感覚が良い。適度にボールが飛んでくれるので、テイクバックもコンパクトになった。ボールを掴まえて押すという感 覚がよくわかる。如空はリターンでラケットを引きすぎる癖がある。それを矯正するために最近はリターンの時、猫背になって肩甲骨を前にスライドさせてし まってから打つようにしている。そうすればボディターンをするしかなくなるからだ。猫背でラケットを前に動かそうとすると自然と肘が前に出る。フォアを打 つ時も両手バックを打つ時も脇が絞まる。リーチが短くなるが、安定する。両手バックは猫背になって肘を前に出すだけでなく、両肘をつけるくらいに胸の前で 寄せると、上半身が固定されて良い、手でこねてしまって面があらぬ方向に向いてしまうことが少なくなる。タッチは握力よりも両手の手首の固定具合でつけ る。いい感じである。
逆にサーブは色々問題だ。フラットサーブは良くなった。今まで高い打点で打とうとして頭の上で打ちすぎていた。もっと打点を落としても前で打ったほうがコ ントロールが良くなる。威力の問題だけでなく、コントロールをよくするためにも打点を前にする事は効果がある。肘は耳より前に、肩は口より前に出るように 腕を振る。ラケットは肩を支点に円弧を描くので、前で打てば打点は頭の上よりやや低くなる。でもそれでよいのだ。ネットを十分越えてくれる。そして打ちたいコースに飛んでくれる。
一方で回転系サーブの回転のかかりが悪い。サーブの打ちこみをしていろいろ試したがうまくいかなかった。テンションを少し上げた方がいいかな。でもたまにいい感じのスライスサーブが打てる。やはり打ち方かな。研究が必要だ。
バックハンドスライスの集中練習をしたいという人のために、ボール出しとクロスラリーの相手をかなりした。いいスライスを打つって結構難しいねえ、とその人の集中練習を見て思った。如空にも必要だな、バックハンドスライスの集中練習。
練習が終わって部屋に引き上げた。シャワーを浴びれば、後は浴衣に着替えてお決まりの宴会・・・・・・ではなくて今回はフレンチの店でディナーである。男 性はいつもより少しまともな格好で、女性はいつもよりかなりドレスアップして、このホテルの売りであるレストランに行く。今まで、フランス料理の店には何 度も行ったが、ソムリエのいる店に入ったのは初めてである。コースの説明のあと、そのソムリエが出てきて食前酒を何にするか聞いてきた。ここではビールを 頼み辛いシチュエーションである。でも頼んだ。淡路の地ビールだ。テニスの後のビールはうまい。一気に飲み干した。「お代わりはいかがですか。」とソムリ エがすかさず聞いてくる。「もう一本!」といいたいところをぐっとこらえて「ワインリストをお願いします。」と気取っていってみた。
ワインを選んで、後は食事を楽しんだ。うまかった・・・・・・あんな美味い料理を食べたのって久しぶりだね。どのお皿も美味い。量も適量で、コースが終わる頃には男性のお腹も十分に満たされていた。最後のデザートもワゴンで出てきて、「お好きなものをお好きなだけお召し上がりください。」と来たもんだ。い つも「デザートは別腹」という女性もさすがに一皿以上手が出ず、残念がっていた。
ワインの酔いと、テニスの疲れで、部屋に帰るとすぐに寝た。泥のように寝た。
翌日起きると小雨がぱらついていた。今回はセレブなバカンスがテーマなので、無理せずテニスは中止にした。滞在型のリゾートホテルなので、ホテルにいるだけで十分楽しい。朝食にお粥を食べて、ゆっくしりした後、車を取りに駐車場に向かった。如空の愛車の左にフェラーリ、右にポルシェが停まっていた。嫌がら せかい、まったく。連れがそれでも「あんなのはまだまだ序の口、本当の高級ホテルならアルファロメオがあるはずだ」と言っていた。アルファロメオはなかったが遠くにジャグァーがあった。
遅くにチェックアウトして、淡路島の西海岸を一般道でゆっくり北上した。あいにくの空模様だが、瀬戸内海はそれでもきれいだった。明石海峡に 出た。穏やかな海が一変して川のように激しい潮流が流れている。操業している漁船が、海上で停まれず、潮流に逆らって西に航行しては停船して東に流され、 ある程度流されたらまた西にさかのぼっていく、鳴門の渦潮も有名だが、この明石の潮も激しい。その明石は新鮮な海産物で知られる。帰りはそこで寿司を食っていくことになった。海峡を渡って、明石に着くと、車を駐車して町をぷらぷらした。魚の棚商店街と呼ばれる有名な商店街がある。そこでは明石海峡でその日 に取れた海産物がそこで売られる。如空たちが行った時間帯は昼過ぎていたが、商店街は「昼網」という昼の操業で取れた魚や蛸・海老を売っていた。明石焼き などを食べながら時間をつぶし、知人に教えてもらったすし屋に入った。寿司が美味い。赤身も白身も口の中で溶けていくようだ。穴子の焼き物も口の中で溶け ていく。
何かテニス合宿というより食道楽といった感じの今年の合宿であった。