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雑記

 

雑記

 

 

 

初めての北海道(2007/12/06)

 

先週末はテニスをしなかった。できなかった。仕事が忙しかったからではない。珍しく旅行に行っていたからだ。ここ数年、仕事・帰省・テニス合宿以外での長距 離旅行はしたことがなかった。海外旅行などこの9年間したことがない。一週間近い長期の休暇が取れても旅行などしなかった。普段忙しくて旅行のための事前 の準備ができなかったし、普段忙しくてできない家の中の用事が山積みになっているので、それを片付けるので休日を使い切ってしまう。せめてもの楽しみは平 日にテニススクールのレッスンを取ることぐらいだろうか。
今の職場ではなかなか理解のある上司に恵まれている。仕事の合間に入るので、一週間ぐらい休暇を取って旅行でも行って来いといって休みをくれたのである。 11月に一週間休みをとった。取る予定だった。だが休みを取ると突然忙しくなるのはマーフィーの法則の通り。上司の肉親に不幸があり、上司が忌引きで休ん だ。そこに来て私の数少ない部下が今度は急性扁桃腺炎で緊急入院した。私の同僚はそんな状況を知らずにのんきに私より一週間早く休みを取って南の島に行っ ている。終わったはずの前の現場ではトラブルが続出し、その対応に追われ、新しく始まる仕事はいきなり全開モードで11月に計画、12月に基本設計を上げ なければならない。休みなど取れる状況ではなかった。たった一人で4人分の仕事をこなさなくてはならなくなった。やむ得ず、休みを半分にしてエンジン全開 で仕事した。仕事の合間で少し暇なはずが、とてつもなく忙しかった。
取れなかった休みを12月に取らせてもらうことにした。たまたまそこに「北海道でスノーボードをしに行こう」と誘ってくれる人がいたので、その誘いに乗ることにした。旅行の予定を入れればいやでも自分は休むだろうと自分で追い詰めて無理やり休みにしたのだった。

実は仕事だけでなく、家に帰ってからも色々と忙しかった。母親がいきなり緊急入院して心配させてくれた。忙しい合間を縫って見舞いにいくとすこぶる元気で あった。検査入院らしい。安心すると今度は大事なことを思い出した。今年は喪中であることを忘れていて喪中の案内状を出すことを12月に入るまですっかり 忘れていたのだ。突然思い出し、慌てて業者に発注した。宛名書きに膨大な時間がかかる。かつてマイクロソフトのワードで差込印刷をしてえらく手間取って、 それ以来面倒くさくて手書きで宛名書きを書いている。だがもう時間がない。何か早い方法はないかとネットで色々調べていいると、フリーソフトで宛名書き印 刷ソフトがあることに気がついて、それをダウンロードして使ってみた。感動した。いあや、簡単に住所が入る。郵便番号を打ち込めば町名まですぐに表示して くれる。だから相手名と郵便番号と番地だけ入力すればよいだけだ。はがきへの印刷もろくな設定などほとんどなく、簡単に印刷できる。とりあえず急ぎの50 枚を速攻で書き上げてポストに放り込んだ。この「はがき作家あてな」は優れものだわ。ワードの差込印刷など使えたものではない。

直前の一週間は終電を何度も逃すほどに仕事に没頭し、ようやく金曜日を休みにすることに成功した。旅行用のかばんなど持っていないので、いつものJIBのラケットバックからラケットを放り出して、スノボーウェアの下に着込む衣類を放り込んで伊丹空港に向かった。

現在関西圏は3空港体制にある。国際線とその乗り継ぎ国際線は二十四時間運用の海上空港である関西国際空港(通称「関空」)、国内線を運行させる伊丹空港、そして地方ローカル線を運用するできたばかりの神戸空港である。伊丹空港は正式名称を「大阪国際空港」という。関空ができるまでは近畿圏唯一の国際空港であったが関空が開港してからは「国際」なのは数便で基本的には国内線専用空港になっている。

高速バスで伊丹に向かうが事故渋滞で30分遅れるとアナウンスがあった。早めに出ていて良かった。それでも迂回ルートでそれほど遅れずに空港についた。伊 丹空港は古い空港だ、そして安普請だ。「何だこの作りは」と思わず声に出してしまう安い作りだった。手荷物が大きかったので預けてくださいといわれるかと 思っていたのだが意外とすんなり機内に持ち込めた。
JALのボーイング777-200に 乗り込む。エンジンが両翼に一つづつの計二箇所の奴だ。飛行機に乗るのは9年ぶりなので子供のようにわくわくする。真ん中の席なのに窓の外の景色をきょろ きょろと見まわし、離陸の際には顔がにやけるのがわかった。だが雲の上に出ると一気に眠気に襲われて深い眠りについた。たったの二時間弱で新千歳空港についた。雪原の中に二本の黒い滑走路が浮かび上がっている。そこにアプローチした。

旅行を手配してくれた者が行きの便では「空のグリーン席」と呼ばれるクラスJを 取ってくれていた。プラス1000円で広い席に座れる。だけでなく前の座席に座れる。前の座席に座れれば、早く飛行機を降りることができる。早く飛行機を 降りられたら、その後の空港でのトイレやカウンター等での並ぶことなく利用できる。その差は30分以上の時間差となってあとあと効いてくる、とクラスJを 取ってくれた企画者は力説していた。事実、降りた後、あらゆることが行列に並ぶことなくスムーズに進んだ。旅行慣れしている人の知恵はありがたいものだ。

伊丹に比べれば新千歳はとてもきれいで 機能的な空港だ。三日月状のウィングがメインで1階が到着ロビー、二階が搭乗ロビーである。三日月状のウイングの中心に半円状のターミナルビルがあり、 ショッピングセンターやレンタカー・飲食店街が隣接している。ターミナルビルの地下にはJRの駅が乗り込んできており、ターミナルビルとウィングとの間は ガラスの屋根で覆われており、中央にあるホールは日光を取り入れ大きいく明るい大空間だ。ターミナルビルとウィングの間の一階はウィングに沿って道路が乗 り込んできており、バスが到着ロビーのすぐ横に着くようになっている。よく動線の考えられた。機能的に見事な設計だ。しかも快適な空間デザインである。関西の3空港も見習って欲しいものである。

スキー・スノボーのツアーに参加している人たちが一同に集められる。行き先を書かれたプラカードの前にそれぞれ集まる。スキー用ツアーバスがわんさかと空 港のバス停留所に一時に押し寄せる。ここから北海道の各スキー場にバスで散らばっていくのだ。「札幌国際」行きに乗る。バスの中で空港で買った弁当を食べ る。鮭とイクラと蟹の三色が乗る押し寿司である。如空の北海道のイメージは広大な大地を使った大規模な農業と酪農の国というイメージが強いのだが、実際食 物に関しては海産物の方が有力なようだ。空港のお土産コーナーでも町のショッピングセンターでも飲食店でもとにかく、カニ、サケ、イクラのオンパレードで ある。北海道は海の国なんだなあ。

如空は初めて北海道の土を踏んだのだった。

バスの窓の外に見える景色はやはり如空の住む関西圏と違う。子供頃住んでいた関東や北陸とも大分違う。当然のことながら両親の実家のある四国や九州とも。

住宅もビルも窓が狭い。小さなポツ窓の建物がほとんどだ。大きな開口部を持った建物がない。たぶん断熱のためだろう。住宅は勾配屋根のない家がほとんど だ。平らな陸屋根で雪を下に落とさず、屋上に載せたままにしてある。屋根の雪を落とすと地上が雪の山になってしまうからだろうか。色も派手だ。赤色や黄色 の外壁色の家がいっぱいある。本州ではあまり見られない。近代になってから都市計画が行われたためか、どこもかしこも道路が広い。車で移動するには便利な 土地だ。
街中を抜けて山に入る。山も景色が違う。常緑の針葉樹がほとんどない。落葉する広葉樹の木ばかりだ。冬なので当然枯れ木ばかりで葉がない。だから細い木の 枝にはほとんど雪が積もっていない。白い雪の山に茶色い木の棒を何本も突き刺したような不思議な光景が広がっていた。その不思議な光景の先に真っ赤な建物 が現れた。札幌国際スキー場に到着したのだった。

札幌国際スキー場は 札幌オリンピックが開催されたときにスキー競技の会場として計画された。ここは札幌付近のスキー場でもっとも積雪が安定している。安定しているからこそオ リンピック会場として選定されたのだ。この日も、北海道の他のスキー場は暖冬による雪不足に悩まされていたが、ここ札幌国際だけは十分な雪があった。レン タルしたスノボーウェアをつけてたどたどしい足取りでゲレンデに一人出て行く。連れは勝手にすべりに行っている。スノボーをしたことのない如空は一人、ス クールに参加するべく別行動することになっていた。

時間ぎりぎりにバスが到着したので、レッスンに少し遅刻した。レッスン生は二人だけだった。もう一人は既に滑り始めていた。若い男性のインストラクターが 自己紹介をした後、まずはじめたことは如空のスノボー・ブーツの正しい装着の仕方を教えることだった。インストラクターのお兄さんの予想通り、如空のブー ツの装着の仕方は思いっきり間違っていた。正しい装着の仕方を教わり、やり直す。準備運動をしてようやくスノーボードの説明が始まった。

まず、前足(通常は左足)を固定して、後ろ足はフリーのまま滑ったり歩いたりする練習をする。これができないとリフトに乗って斜面のうえに移動することが できない。アイススケートと同じでボードに乗ってもボードを進行方向に真横にしてボードを止める。これがうまくいかずに何度もひっくり返る。それでも何と か転びながらでも止まれるようになると「では上に行きましょう」と言って、インストラクターのお兄さんは哀れなスノボー初体験者を強引にリフトに乗せた。 リフトは吹きさらしのシートのみのタイプでなく防風カバー付の4人乗りタイプだった。なれない足取りでどたどたとリフトの搭乗位置までたどり着くと無様に ドシンと「乗る」というより「落とし込まれる」感じでリフトに乗り込んだ。
いい天気だ、空が澄み切っている。リフトの防風スクリーン越しに見る冬の青空は美しい。「いやあ、お二人ともラッキーですよ。ここは年中雪が降っている土 地なんです。札幌が晴天でも、ここ札幌国際は吹雪いていることが常なんですよ。こんなに晴れ渡っている日なんてめったにないですよ。」とコーチ・・・・ じゃなかったインストラクターのお兄さんはリフトの上で話していた。

リフトが山頂に近づいた。「腰を横に向けて、ボードを進行方向に向けてください。」とインストラクターが言う。言われるがままに横を向く如空。着地した。 「右足で蹴って!漕いで、漕いで。」とインストラクターが叫ぶ。自分達が乗っていたリフトが追ってくる。必死に逃げる如空たち。緩い斜面に出た。
「さあ、そのまま右足を乗せて、進んで・・・・・・・横を向いてぇ・・・・・止まる!」
とインストラクターが実演しながら言う。
同じように、そのまま右足をボードに乗せて、進んで・・・・・横を向こうとしたらこけた。
とにかく山頂についた。

「右が初心者コース、左が中級者コースです。本来なら初心者コースに行くべきと思われるかもしれませんが、それは逆。初心者コースは斜面の勾配が緩すぎ て、始めてスノボーをする方が滑ると逆エッジを何度も引っ掛けて転倒しやすいのです。スノーボードは勾配がある程度あったほうが転倒しにくい、つまり滑り やすいのです。というわけで勾配が適度にある中級者コースに行きます。」と簡単に言うインストラクター。いきなりかい。めちゃくちゃ勾配がきついぞ。下ま で無事降りれるのか。いやその前に止まれるのか、この斜面で。

左にターンしてエッジを効かせて止まる練習を繰り返す。右足はまだボードに固定しない。左足だけ固定して止まる練習をする。「これができないとどこにもいけませんから」とインストラクターは言う。
だが如空はうまくできない。止まれずに転んでから体を強引に止めている。顔に雪がまとわりつく。パウダースノーとは良くぞ言ったものだ。粉のような雪が体 についても溶けずに粉のまま付着している。このパウダースノーがショックアブソーバーになって転倒しても痛みを感じない。「初心者こそ、近場でなく北海道 に行って練習しろ。」と関西のスノーボーダーたちが言うそうだが、その意味がようやくわかった。

時間が過ぎていく。如空は止まることをマスターできない。情けない。だがインストラクターは無情にもレッスンを進めていく。いよいよ右足固定である。広い斜面のど真ん中で座り込んで、両足をボードに固定した。
「まず、ボードを滑り降りる斜面と垂直に横にしてください。そして立ち上ったら、前のエッジを浮かせて、後ろのエッジを効かせて、ブレーキをかけながら斜面を降りてください。」
言われた通りに立ち上ろうとした。こけた。こけずに立ち上ろうとした。そしたら今度は立てない。
「立ち上るときは前に体重を乗せて、両膝をいったんぐっと斜面方向に乗り出さないと立てませんよ。」
「そうすると滑り出してしまいますよ、コーチ。」
「コーチじゃありません、インストラクターです。勇気をもって前に乗り出してください。立ち上ったらすぐに前のエッジを浮かして後ろのエッジでボードを止めるんです。」
勇気を出してひざを前に押し出して立ち上った。そのまま前転した。
「さ、もう一度。」
なかなかスパルタなコーチ・・・でなくてインストラクターである。
もう一度立ち上った、すぐにエッジを立てた。滑り落ちるボードが止まった。
「はい、そのままエッジを緩めて・・・・ずるずると滑り降りてみてください・・・・斜面を削るように・・・・ずるずると・・・・」
おお、進む。斜面を降りている。滑っているのではなくてずり落ちているのだが、とにかく斜面を降りている。
「ひざを曲げて、ひざと足首をやわらかく使ってエッジを調整して、スピードをコントロールするんです。」
周りのスキーヤーやボーダーがすいすいすべり降りていく中、二人の初心者はずるずると斜面をずり落ちていく。時に転びながらも降りていく。ここでようやく 回りを見渡す余裕ができた。雪の山に枯れ木が何本も突き刺さったような景色が一面に広がっている。美しい。気持ちのいい光景だ。

「今度は進行方向にお尻を向けて後ろ向きに斜面を下って行きましょう。」とインストラクターは言う。
斜面に座りこんで体を回転させ、今度は斜面を見上げながら後ろにずり落ちていく。立ち上ることは斜面を見下ろすときより楽だ。だがずり落ちていくことが難 しい。ちょっとでもかかとをつけてしまうと進行方向側のエッジが斜面に食い込んで転倒してしまう。これが逆エッジだ。後ろ向きだと後頭部から倒れるのでと ても怖い。
「必ず腰を曲げてしりもちをついて転んでください。そうしないと首の骨折りますよ。」
恐ろしいことを簡単にいってくれる。
つま先に神経を集中させてずるずるとずり落ちていく。ふくらはぎが痛い。かかとを浮かしつづけることがこんなにつらいことだとは。

それでもずり落ちることを学んだ如空達はずるずると斜面を降りていった。

二時間のレッスンが終わりに近づいた。
「最後にターンを少しだけやってみましょう。」
とインストラクターが言う。
「今、ずるずると斜面をずり落ちていますよね、そしてその体制で止まることもできるようになりました。実はターンというのはこの斜面に背を向けて止まる、次に斜面に臍を向けて止まる。この過程がターンになるんです。」
とい言って自らが実演する。
「両手を広げて・・・・左足に体重を乗せて行きます・・・・するとボードの先端(つまり左側)が落ちていきます・・・・・・左肩をさらに左にまわしま す・・・・・肩を先に回して腰がその回転に遅れてついてきます・・・・・・腰が回ると足も回ってボードが再び斜面と平行になります・・・・・ここで止まり ます。斜面を見上げてぎゅーと体を小さくすると止まってくれます。さあやってみてください。」
「なるほど、ステップインしてフォアハンドを打つときの原理を逆に応用するわけですね。腰を先に回して、ねじりを作って、ねじりを戻す勢いで肩を回して ボールを打つ。その逆で、肩を先に回して上体をねじり、ねじり戻しを使って腰を回してボードを回してしまおうと言うことですか、コーチ。」
「だからコーチじゃありませんって、インストラクターですから・・・・・とにかくそういうことです。やってみればわかります。」
やってみた。現実はそう甘くなく、最初は何度も転んだ。だが何度も転んでいくうちに度胸が出てきて体重移動や上体のねじり戻しが大胆に行えるようになってきた。すると突然「クルン」と回れた。
「それがドリフトターンの左回転なんですよ。」
とコーチが・・・じゃなかったインストラクターがうれしそうに言う。
「その逆が右回転です。それを交互にしていけば連続ターンになるのです。いい感じですね。このあと、それを復習し続けてください。すぐに連続ターンができるようになりますよ。」
「はい、わかりましたコーチ!」
「だからコーチじゃな・・・・・もういいです。今日はありがとうございました。」
こうして初日のレッスンは終了した。

そのあと連れと合流して初心者コースを今度は降りてみる。斜面が緩いので止まるとなかなか前に進めない。コーチの言っていたことはこのことかと納得した。 疲れてくると逆エッジも頻繁に起こって何度も派手な転倒をした。パウダースノーでなければ怪我していたな。進まずに緩い斜面で何度も立ち往生しながら、そ れでもずるずる進む。キッズのスキー教室が如空を追い越していく。世間はスノボー一色かと思っていたが、ここはスキーヤーの方が多い。初心者コースを滑り 降りた頃には日がとっぷりと暮れていた。

帰りのバスが待ている。急いでスノーボードをはずしてこびりついた雪を取り払うと、ボードを抱えて更衣室に走る。ボードは二日間レンタルなので今日はホテ ルにもって帰らなければならない。どたばたと着替えてバスに乗り込むと、バスはすぐに出発した。バスの窓の外では照明が灯ってナイターが開始されていた。 だがバスはこのあとの便はない。道路が夜になると凍結して積雪とあいまって変えられなくなるからだ。札幌国際にはゲレンデ併設のホテルはない。ならばナイ ターを滑っている人たちはどうやって車で帰るのだろうかと、他愛もないことを考えているといつのまにか眠ってしまった。さすがに疲れ果てていた。

ホテルにチェックインして荷物を置くと、すぐに札幌の街に繰り出した。粉雪が降って、路面は凍結している。なのに車はビュンビュン飛ばして走っている。恐 ろしいったらありゃしない。地元の人にはこれが日常だからあたりまえのはよくわかるが、歩道を歩いていてもつるんつるんと何度も滑って転びかけるのであ る。別段、車道が除雪されているわけでもない。何であのスピードで車が走って普通に止まれるのか不思議である。

歩いてサッポロファクトリーのレンガ館に入った。ここに有名なビアホールがある。ここでようやく今日食事らしい食事にありついた。
うまい!地ビールがうまい!刺身がうまい!ジャガイモがうまい!ジンギスカンがうまい!腹が減っていることを差し引いてもとてもうまい。特別な調理をして いるわけではない。素材がよいのだ。おいしくてかつ量がある。食べ応えがある。たらふく食って、満腹になった。ホテルに戻ると幸せな心地でベッドに入っ た。すぐに泥のように眠った。

翌 日の朝、ゆっくり寝ている間もなくベッドから飛び起きて朝食に向かう。朝食はどこにでもある和洋中折衷のバイキングである。如空はこのホテルの朝食バイキ ングが大好きである。普段日常生活の朝食はパンなので、中華粥があればそれに飛びつく。食べやすくてかつ量が食べられる。ちなみに粥がないホテルでは納豆 とご飯と味噌汁だ。今日は昼食まで長い、かつ体を動かしつづける。きっと腹が減る。お粥をせっせと胃袋にかきこむ。主食はお粥だがお皿には中華も和食も乗 せず、ひたすら洋食を乗せる。普段の朝食で食べることのない、ベーコンやらソーセージやらスクランブルエッグやらパスタやらサラダやらフルーツをお皿いっ ぱいに盛り付けて、もぐもぐと食べる。牛乳を飲んで、グレープフルーツジュースを飲んで、コーヒーを二杯飲んで、お腹をいっぱいにしてから部屋に戻ってス ノボースタイルに変身、すぐにバスがやって来てそれに乗り込んだ。

寝不足をバスの中の睡眠で補う。途中目がさめるとバスは大きな湖の岸辺を走っていた。あとでそれがさっぽろ湖という札幌市の水源とするために作られたダム 湖だと知るが、とても人工湖とは思えないほど、付近に人工の建造物がなく、雪の中で水面は凍結しており、とても幻想的な風景であった。この道は昨日新千歳 空港から札幌国際スキー場に向かった道とほぼ同じなのだが、風景が変わっている。昨日よりも雪が深い。一晩でこれだけ積もるのだ。灰白色に覆われた世界を バスは進む。

到着後、すぐにスクールをまた取った。ターンができるところまでやってみたかったからだ。受付に行くと昨日如空にレッスンしてくれたインストラクターという名のコーチがいた。
「今日もですか。いいですね。ターンまで行きましょうね、今日は。今、インストラクターを手配しますから。」といって後方の人と相談を始めた。今日彼は後 方待機日らしい。別のインストラクターが手配されることになった。「リフト券買っておいてくださいね。昨日は一回しか使いませんでしたが、今日は何度もリ フトに乗ることになりますよ。」とインストラクターに言われて、スノボーを置いてチケット売り場まで雪の上を走っていく。「一日リフト乗り放題」のチケッ トを購入して気がついた。このスノーボードウェア、レンタルなのでリフト券入れがついていないのだ。今度は受付の近くにあるショップに走り、リフト券をグ ローブの上につけるパスケースを買って装着、スノボーを担いで集合場所に向かう。今日も遅刻だ。

今日の初心者コースは如空一人である。インストラクターは小さくてかわいらしいお姉さん。
「私、グーフィーなんですよ。よろしく。」
ってグーフィーって何?
「レギュラー・スタンスは効き足である右足を後ろ、左足を前にしてボードに乗るのですが、私は左足が利き足なので、左足を後ろ、右足を前にしてボードに乗 ります。それをグーフィーと呼ぶのです。レギュラーの如空さんとはちょうど対称で、自分の姿が鏡に写っていると思ってみていてくださいね。」
なんともかわいらしいお姉さんである。だがかわいい顔とは裏腹に、彼女は昨日のインストラクターよりもスパルタで厳しいサディストであった。

「体重を前に移動して・・・・・・肩を回して・・・・・腰が回ってボードが回る・・・・・ぎゅーっと小さくなって止まる。これだけですよ。」
と簡単に言ってくれるがこれがなかなか簡単に行かない。特に右ターンがターンした後止まらない。それどころかターンの最中に加速してスピードが上がる。怖くなって何度も自ら転倒して勢いを止めた。
「右ターンの時にドリフトターンせずにカービング・ターンになってしまっているのですよ。だからスピードが上がってしまうんです。」
カービング・ターンって?
「ボードのサイドのエッジで斜面を切りつけて滑るターンです。ほら、自分がターンしたときに斜面につけたスノーボードの後を見てください。左ターンの後は 波打つように斜面を削った後があるでしょう。でも右ターンの時は、ほら、鋭く細い、刃物で切ったような後がついているじゃないですか。これがカービングの 後です。進行方向に対してエッジがきれいに平行になるとこうなります。スピードを落とさずにターンできるので上級者はこのターンで曲がります。だけど如空 さんはまだスピードをコントロールできないじゃないですか。だからボードで斜面を削ってスピードを殺しながら曲がるドリフトターンをまず覚えてください。 進行方向に対して少しボードを斜めにする感じでブレーキをかけながら曲がるんです。後ろ足でボードを斜面の下方向に押し出すようにすればいいです。」
とニコニコと解説しながら延々同じことを繰り返す。リフトに4回も乗って、同じコースを4往復した。ふ、脹脛が限界だ。痙攣を起こす一歩手前に来ている。 でも「痛いですねぇ、足、これが皆が通る道なんですよぉ。」と笑みを絶やさず如空を斜面に送り出す。だが継続は力である。これだけ、マンツーマンのレッス ンを受けながらひたすらドリフトターンをしていると何時の間にか、左右ともターンして連続ターンで斜面を降りるようになっていた。竹とんぼのように右に左 に回って止まりながら斜面をずり落ちることが連続ターンと言うのであればだが。
レッスンが終わる頃には足ががくがくであった。「午後からも滑られるのでしたら、ぜひ記念にゴンドラに乗ってみてくださいね。山頂からすべり降りると気持 ちいいですよ。」と笑顔の鬼コーチ・・・・じゃなかった可愛いインストラクターは言った。

リフトが座席にボードをつけたまま乗る人体剥き出しのバイクのようなものであるのに対して、ゴンドラはスキーやボードをいったん外して完全な室内に入り込 んで移動する車のようなものだ。仲間と合流した如空はインストラクターの助言とおりゴンドラに乗って山頂に向かった。如空が今まで山頂と思っていたところ はまだスキー場の中腹で、このスキー場の山頂はもっと高い位置にあった。初級コースをずるずると連続ターンもどきで降りていく。それでも初級コースとはい え、たった二日で普通の人に混じって斜面を滑れるようになたのだから、予想以上の出来だ。スクールレッスンを取って正解だった。インストラクター達はみな たいしたものだと関心しながら初めて通るコースを風景を楽しみながら降りる。雪が深々と降っており、林間コースはとても静かだ。広い斜面のコースと違っ て、人々の滑り降りる音だけが耳に聞こえる。「静けさや、雪に染み入る板の音  如空」なんて一句詠んでいる間に下までたどり着いた。

今日は土曜日で人がいっぱいだ。レッスン終了時点で昼食を取ろうとしたがいっぱいで、時間をずらそうと一本滑ってから食堂に入った。ここには3つの食堂が ある。そのうち、カレーが充実している食堂に入った。北海道名物スープカレーを食べたかったからである。いやあ、スープカレーのおいしいこと。こんな風に ジャガイモやにんじんや鶏肉をごろごろと大きい塊で煮た料理というのは如空がとても好むところである。

午後から再び熱血野郎になった。ただひたすらにドリフト・ターンの技術を磨く。ただそれだけを黙々とやりつづけた。途中、直滑降コースで調子に乗ってス ピードを出してしまい、転倒して後頭部を強く打った。パウダースノーでなければ大怪我していたかもしれない。脳震盪はなかったが、首が軽い鞭打ちになっ た。それに懲りて、スピードはその後出すことなく、ただひたすらにターンの技術を磨くことに専念した。ただひたすらに。そしてあっという間に日が暮れた。

レンタルしていたボードとウェアを返却するとすぐにバスに飛び乗った。ホテルに戻ると眠りたかったが、晩飯の方が先だと札幌の街に繰り出した。キリンビール直営のビアホールの新館が出来て評判がいいらしいとホテルの人に聞いてそこに行った。いやあ、ビールがうまい、刺身がうまい、ジャガイモがうまい、ジンギスカンがうまい。昨日食べた料理とほとんど同じなのだが、ぜんぜん飽きない。いくらでも食べられる。いや、北海道っていいところだねぇとひたすら食べて飲んだ。

翌日、札幌は一面銀世界だった。今日の便で大阪に帰らなければならない。飛行機までの時間を札幌市内を観光して過ごそうと考えて、ホテルを出た。市内のあ ちこちに砂をペットボトルなどに入れて保管してあるボックスがある。除雪が間に合わない場合、そこを通る人が各自で砂を撒いて雪を歩道の上から溶かすのだ そうだ。だが時計台に行ったところで、そんな砂の威力など効かないほどの吹雪になって、これ以上雪に不慣れな関西人では自由に歩行できないと感じ、観光は 断念して札幌駅に向かった。昼食に回転寿司を食べる。回転寿司といって侮るなかれ。ネタが命の寿司である。いやうまいこと。北海道で食べれる料理は大阪で も食べられるのもばかりだが、やはり素材が違う。料理は素材だ。それをいやというほど思い知られた。

駅のホームで空港直通の快速列車を待っていると後ろで「ポー」と蒸気機関車の汽笛のような音が甲高く鳴り響いた。「何だ何だ」と振り返ると、そこには「よ うな」でなく、蒸気機関車そのものがホームに入ってくるところだった。知らなかった、北海道ってSLを何本も現役で走らせているんだ。現役とはいっても、もちろん観光資源としてだが、それでも如空は蒸気機関車が走っている姿を生で見てのはこれが初めてで、なぜだかとても興奮した。

新千歳空港についてお土産に「白い恋人達」を購入して、滑走路が見える喫茶店でお茶をする。関西空港にはこのような滑走路が見える飲食設備がチェックイン の外側にない。これがあの空港をつまらなくしている原因の一つだと常々思っている。さっきのSLもそうだが、SLやら飛行機やら動いているを見るだけで楽 しくなる、そんな人々が世の中にはいっぱいいるのだ。如空もその一人である。

滑走路を移動する飛行機を見ながら考えた。

ただただ、ひたすらにスノーボードを滑れるようになるように、黙々と、ただひたすら斜面をすべり続けた。とても楽しかった。「出来なかったことが出来るよ うになる」という過程を体験することはとても楽しい。そして技をひたすら磨くという行為自体が楽しいものだ。夢中になる。スノーボード初体験はとても充実 していた。また、やってみたいと思う。多くの人がとりこになるのがよくわかる。
一方でテニスはそうはいかないところがある。あれは対戦スポーツだ。相手がいる。勝負して勝ち負けを競わなくてはならない。だから技を磨くだけでは勝てな い。相手を観察し、弱点をつき、相手の嫌がることをする。自分の打ちたい、納得するショットを打つことより、一本でも多く、相手コートに納得できないボー ルでも返球した方に勝利が訪れる。そのあたりがテニスをとっつきにくくしているのではないだろうか。最近如空の通うスクールではラリークラスといって 「コーチとただひたすらストロークラリーをしましょう」というクラスが出来た。何回ラリーを続けられるのかを競うのだそうだ。「それでは試合に勝つために テニスとはずれていくではないか」とも思うのだが、このクラスはおおむね好評であるそうだ。スクールの中には「試合には出たくない。勝負事は嫌い。ただ ボールを打つことだけがしたい。ラリーをすることが楽しい。」といってテニスをしていながら試合に出ない人々がいる。そういう人々はテニスの本質に半分し か触れていないといえる。だが、その人々が、それゆえに不幸であるかというとそうではあるまい。ただひたすらに「出来なかったことが出来るようになる」そ の過程を追及し技を磨いていくところにも楽しみはあるのだ。むしろスキーやスノーボードなどはそれが本質なのである。そしてそれは十分楽しい。如空もまた 楽しかった。

出来なかったことが出来るようになる」 その過程に楽しみを見出しながら、かつ試合にもかつテニスを目指す。それは時に矛盾する課題を解決しなければならない、とても困難な、趣味としては楽しみ だけでない、ストレスを感じる行為である。でも、そのテニスに取り付かれた。二つの矛盾する課題を如空なりに折り合いをつけて、更なる上達を目指してみよ う。

初めて来た北海道で、初めてスノーボードを体験したのに、最後に頭に浮かぶのはテニスのことだった。これも如空の性分か。

そして飛行機は飛び立ち、旅は終わった