第092房 2009年 全英オープン TV観戦記 (2009/08/15)
2009年06月20日 2009年ウィンブルドンドロー
男子第一シード、ラファエル・ナダル故障により欠場!衝撃のニュースが駆け巡る中、2009年ウィンブルドン大会のドローが発表された。例によってドローを4つの山に分けて独断と偏見による無責任な展望を見てみよう。
欠場する第一シードの代わりにトップハーフの筆頭位置に入るのは第五シードデルポトロである。彼の山であるトップハーフの上半分は第六シードロディックを筆頭にダビデンコ、フェレール、ベルディッヒ、ステパネック、ツルスノフ、メルツァーらシード勢が続く。他にもクレメン、ヒューイット、ジネプリ、アカスソ、マチュー、ベッカーらが集う。ナダルの欠場でここは大根戦だ。誰でも出てくる可能性があるが、やはりロディックが本命だろうか。もちろん速いサーフェイスにも強いデルポトロがその可能性を大いに発揮する可能性もある。
第三シードはマレー、イギリスにウィンブルドンタイトルをもたらすべく遣われた大英帝国復興の牙である。彼の山であるトップハーフの下半分は第八シードシモンを筆頭にゴンザレス、サフィン、バブリンカ、トロイッキ、ハーネスク、キーファーらシード勢が続く。他にグルビス、デント、フェレーロ、ユーズニー、サントロ、ナバロ、ラペンティらが集う。名の知れた選手が多いのだが、この時期調子が上向きな選手が少ない。ゴンザレスあたりが波乱を起こしてくれるかもしれないが、それ以外にマレーの進撃を阻止しうる選手が見当たらない。
第四シードはジョコビッチ、サーフェイスを問わず覇権を目指すセルビアの鷲である。彼の山であるボトムハーフの上半分はチリッチを筆頭にロブレド、ブレーク、シュトラー、ハース、フィッシュ、アンドレーフらシード勢が続く。その他にセッピ、ロドラ、クエリー、リュビチッチ、セラ、マリッセ、ティプサレビッチらが集う。このところ調子を上げているロブレド・ブレーク・ハースらベテラン勢が不気味である。ジョコビッチは安定した強さをシーズン通じて発揮しているものの、グランドスラムではどうも成績が伸びない。去年の全英は二回戦でサフィンにストレート敗退している。今年は堂々の横綱相撲でSFまで押し切って欲しいものである。
第二シードはフェデラー、ナダル欠場を受けた今、事実上のトップシードである。彼の山であるボトムハーフの下半分はヴェルダスコを筆頭にツォンガ、ソダーリング、カルロビッチ、ロペス、コールシュライバー、モンタネスらシード勢が続く。他にマスー、カナス、アルマジロ・・・・じゃなかったアルマグロ、モナコらが集う。ヴェルダスコにツォンガにソダーリング、カルロビッチにアルマグロと突然爆発して大活躍する核弾頭みたいな選手が散らばる地雷原のようなこのドローを、芝の覇権奪回に向け進むフェデラーは無事突破できるだろうか。ここは大いに注目するべきドローであろう。
No1にして前年度覇者ナダルの欠場は大きな影響を与えるだろう。芝でのベストオブ5セットマッチという特殊な状況下では過去5連覇を成し遂げているフェデラーが優位にあることは間違いない。だがマレーにしろ、ジョコビッチにしろ、いよいよ本格的なNo1奪取に向けギアを上げ始める頃合だ。特にマレーにはイングランドの大いなる期待がかかっている。トップシードがベスト4に揃い踏みしたときには今後の覇権をかけた激戦が予想される。一方でここ数大会、グランドスラムでは4強以外の選手から爆発的に大活躍する選手が出てきている。今年のウィンブルドンも注目されていない誰かが出てくる可能性は大いにありうる。それが誰なのか。注目していこう。
女子の第一シードはサフィーナ、未だグランドスラム無冠の女王である。彼女の山であるトップハーフの上半分はクズネツォワを筆頭にウォズニアッキ、ペネッタ、モーレスモ、メディナガルゲス、サバイ、チャクベターゼらシード勢が続く。他にヴァイディソワ、E・ボンダレンコ、スレボトニック、中村、キリレンコ、森上、クルム伊達らが集う。さてサフィーナはベスト4までは凄まじい勢いで駆け上がる。それを阻止しうる選手は現れるだろうか。全仏覇者のクズネツォワはここでもサフィーナを破れば一気に駆け上がる可能性があるだけに注目である。
第三シードはV・ウィリアムズ、芝では圧倒的な強みを見せる前年度覇者である。彼女の山であるトップハーフの下半分はヤンコビッチを筆頭にラドワンスカ、イバノビッチ、ストーサー、リー、カネッピ、バーマーらシード勢が続く。他にK・ボンダレンコ、ドキッチ、ベネソバらが集う。中々のタフドローであるが鍵を握るのはヴィーナスが本来のテニスを出来るかどうかであろう。
第四シードはディメンティエワ、彼女の山であるボトムハーフの上半分はズボナレワを筆頭にバルトリ、チブルコバ、コーネット、オズニアック、ラッザーノ、クレイバノワらシード勢が続く。他に、ラドワンスカ、森田らが続く。ここはデメ対ベラのロシア勢対決がQFで実現して欲しいが、両者共にそこまで勝ち進めないのが今年の状況なのだよね。
第二シードはS・ウィリアムズ、自らが真の女王であると言ってはばからない生涯グランドスラマーである。彼女の山であるボトムハーフの下半分はアザレンカを筆頭にペトロワ、チェン、シュニーダー、シャラポワ、シルステア、パブリチェンコバらシード勢が続く。他にデシー、グローエンフィールド、ミルザ、ドゥルコ、ハンチェコワ、杉山、サファロバらが集う。今季好調な成績を残している選手が集まっている。セリーナの力が十分発揮されたとしても突破は容易ではあるまい。波乱の起きる可能性は大だと思う。
さて全仏とほとんど同じ構図になっているが、クージーがサフィーナと同じ山におり、セルビアコンビがヴィーナスと同じ山にいるという厳しいドローでもある。今度こそサフィーナのグランドスラムタイトルの奪取を見てみたいと思うが、その可能性は全仏より今回の方が厳しいと思う。それでもその厳しい状況を打開できるかサフィーナ。その行方に注目しよう。
さて、今年もWOWOWとNHKが初日より中継してくれる。去年は歴史に残る大熱戦の男子決勝で終わったウィンブルドン、今年はどんなドラマが待っているだろうか。熱戦を期待しよう。
2009年06月23日 芝の王者の指定席 2009ウィンブルドン初日
「ウィンブルドン開幕初日、センターコートの第一試合は芝の王者の指定席です・・・・・・。」NHKのウィンブルドン中継を見始めたころ、アナウンサーが第一試合をこういう言い回しで紹介していたをとてもよく覚えている。その頃の芝の王者はサンプラスのことだった。その数年後、芝の王者はフェデラーに受け継がれる。だが去年は決勝で敗退した。だから今年のウィンブルドンセンターコートの第一試合は前年度覇者のナダルの予定だった。だがナダルはドロー発表直後に欠場表明、よってフェデラーが例年通り指定席につくことになった。
2009全英男子一回戦
フェデラー 75 63 62 イェンスン
台湾のイェンスンは初見だったが、いいテニスをする。特にフォアのクロスが深くて強い。フェデラーが何度も振り切られていた。サーブも強く、ネットへの詰めも早かった。第一セットで先にブレークに成功したのはイェンスンであった。これはフェデラー苦戦するかと思われたが、イェンスンのミスやアンラッキーなポイントが重なり、フェデラーはブレークバックに成功、5-5となってさらにブレークを取り、第一セットを先取、その後は安定したテニスでイェンスンを振り切った。イェンスンはいいテニスを展開していたが、ミスやアンラッキーなポイントが大事なところで出る。そこで、それでも繰り返し攻め続けてポイントを取り返せばもっと競れたと思うのだが、意外と失点が続く場面があり、調子が悪いわけでもないのだが、フェデラーに離されてしまった。一方でフェデラーは序盤で押されながらもあせらず、淡々と自分のテニスをして初戦を突破した。後半はコートの外からバックハンドのポール回しでウィナーを取るなど鮮やかなスーパープレーも見せた。全体的にやや不安定感はあるものの、今季芝のコートは初戦であったわけで、それを鑑みると、まずまずの出来ではなかったかと思う。
曇り空の下、新しいコート編成でウィンブルドン2009は開幕した。初日、ブレークがダウン、シュニーダー・コルネ・オズニアックダウン、シュニーダーを破ったのは杉山である。杉山の鉄人ぶりはある意味クルム伊達以上にすごい。WOWOWの中継はフェデラー・S・ウィリアムズ・レザイVs森田だった。森田は一回戦突破ならなかった。全仏ではインフルエンザの影響で渡仏できなかったWOWOWスタッフ陣も今回は渡英してウィンブルドンに乗り込んでいる。現地からの中継に力も入ることだろう。今後の熱戦に期待しよう。
2009年06月24日 持続する意志 2009ウィンブルドン二日目
曇り空の初日とは打って変り、雲ひとつない晴天が広がったウィンブルドン大会二日目である。男子はサフィンを始め、ツルスノフ、キーファーらがシードダウンした。女子はコルネ、バーマー、サバイ、チャクベターゼらがシードダウし、日本勢は伊達・森上・中村の三人とも初戦で敗退した。WOWOWの中継はウォズニアッキ、ロディック、マレーのそれぞれ一回戦であった。
2009ウィンブルドン女子一回戦
ウォズニアッキ 57 63 61 クルム伊達
伊達の両手打ちバックハンドはほとんどテイクバックがない。普通ならその姿勢ならフラットドライブが来るはずだが、伊達はその姿勢からスライスをクロスに放ち、そのままネットへアプローチする。これはウォズニアッキでなくても面を喰らうだろう。そもそもライジングで有名な伊達はあんなにネットにガンガン出るタイプだったろうか。彼女なりの新しいテニス、かつウィンブルドン対策だったのだろうか。とにかく高い打点からの両手打ちバックハンドスライスとそこからのネットダッシュ功を奏して伊達は第一セットを先取することに成功する。伊達はリターンでも両手打ちのバックハンドスライスでのブロックリターンを見せ、ウォズニアッキの武器である高い打点からのサーブを無力化していた。若いウォズニアッキは第一セットを終わったあたりではどうしてよいかわからずに途方にくれていた。だが姿勢を低くしてフォアもバックも粘り強くストロークで攻め続け、時に見せるトップスピンロブは絶妙なところに落ちる。ウォズニアキは苦しみながらも伊達のサーブを破る。第二セット序盤はブレーク合戦となるが、押し切ったのはウォズニアッキだった。ウォズニアッキは徐々に落ち着きを取り戻し、クルム伊達は徐々にフットワークが衰えていく。セットオールとなった第三セットに入ると伊達の足の状況が悪化したことは誰の目にも明らかであった。試合後の報道によると両足とも痙攣しつつあったらしい。最後は一方的にウォズニアッキに押し切られて、伊達は敗れていった。
日本勢で初戦を突破したのは杉山一人だけだが、その杉山も昨日の勝利は今年年頭の全豪オープン以来半年振りの勝利であったと言う。優勝ではない、シングルの試合でこの半年間勝てなかったのだ。伊達にしろ杉山にしろ、苦しい状況に置かれつつも、そのつど最善を尽くし、結果が出るまであくまで挑戦を続けている。プロであるからには、厳しい結果に対しては当然厳しい評価も受けよう。だがそれでも挑戦し続ける彼女達の持続する意思には感服させられる。
2009年06月25日 高まる期待値 2009ウィンブルドン三日目
シャラポワダウン、クレイバノワダウン、シュトラーダウン、それ以外のシード勢は安泰、なんとも平穏なウィンブルドン三日目である。WOWOWの中継は杉山・フェデラー・チリッチVsクエリーだった。フェデラーは余裕をぶっこいていた。62 62 64 のスコアでは当然かもしれないが、終盤にリターンで不用意にネットダッシュしてパスを抜かれまくっていた。あれは何かを試していたのか、それとも試合時間を短縮するために先にブレークした後はリターンゲームをほとんど捨てていたのか、よくわからないが好プレーもあれば雑なプレーもあり、対戦相手のガルシアロペスが調子を上げてくれば事故でも起こりかねないと見ていて少しひやひやした。まあそれでも今のフェデラーであればピンチになればギアを上げてまた引き離せるとは思うのだが。
徐々にフェデラー対マレーの決勝戦実現の期待が高まっている。ナダル不在、ジョコビッチはNo4の今、シードのツートップはこの二人なので、順当に行けば実現するわけだが、それでもそこにドラマ性を帯びた期待がかかっている。イギリス悲願の自国選手によるウィンブルドンチャンピオンの復活なるか、あるいは芝の王者の帰還なるか、どちらもそれぞれ大きな期待を背負っての戦いになる。対戦成績で互角の戦いをしているとはいえ、マレーはフェデラーと張り合うにはまだ実績が乏しい。何よりグランドスラム無冠である。だが2005年全仏のナダルもこんな感じだった。準決勝で期待通りフェデラー対ナダルが実現して、ナダルはフェデラーを破ってそのままクレーキングの道を突き進む。2005全仏と同じ筋書きがこの2009ウィンブルドンの芝の上で用意されているのだろうか。それてもフェデラーが覇権を奪い返すのか。二人はその決戦の場までたどり着けるだろうか。その行方に注目しよう。
2009年06月26日 リターンの名手と覇気 2009ウィンブルドン四日目
第五シードデルポトロダウン、ナダルの代わりに男子トップハーフ筆頭の位置に入ったデルポトロを破ったのはなんとヒューイットである。
2009全英男子単二回戦
ヒューイット 63 75 75 デルポトロ
かつては引退したアガシと共に「リターンの名手の双璧」と言われたヒューイットである。だがNo1だった当事の勢いを失いつつある今、「リターンの名手」の代名詞はジョコビッチとマレーに移りつつある昨今であった。だがこの日のヒューイットは違った。かつて名レシーバーの名を轟かせたスーパーリターンを何度も見せた。ファーストサーブに対しては堅実で、相手にサーブからの攻撃を許さず、セカンドサーブに対しては攻撃的で、コートの中に入り、厳しいコースに厳しい球をリターンから打ち返していた。デルポトロのサーブはあまり回転量の多いタイプでなかったので、なおのことヒューイットのフラットなレシーブにタイミングが合ってしまった。リターンから攻められ、デルポトロはサービスゲームのキープに苦しみ、最後にはブレークを許してしまう。さらにこの日のヒューイットはサーブもよかった。力の抜けたサーブを厳しいコースに打ち続け、エースも量産した。ストローク戦でもデルポトロに負けていなかった。デルポトロの強打を粘り強く打ち返し、攻めへの展開も早く、ヒューイットはラリーでも主導権をほぼ握っていた。リターンゲームでもサービスゲームでも押され続け、デルポトロは次第に戦意を失っていった。ヒューイットのサーブイングフォーザマッチで初めてブレークに成功し、そこから反撃なるかと思われたが、流れは変わらず、次のデルポトロのサービスゲームをヒューイットはまたもブレークし、次のサービスゲームはきっちりとキープに成功、ストレートで第五シードの撃破に成功した。
ヒューイットがここ数年でも最高の出来でプレーしていたのは事実だが、それ以上に気になるのはデルポトロの元気のなさである。全豪でフェデラーに公開処刑されたときもそうだが、デルポトロはスコアが一方的になると、自信を失い、早い段階で戦意を失ってしまう場面が多い。常に反抗の機をうかがい、その時点で出来ることはすべてやる、といった粘り強さと覇気がもう少し欲しいものである。
デルポトロほど覇気を失ったわけではないのだが、キリレンコも試合序盤にウォズニアッキに9ゲーム近く連取されほとんど公開処刑状態だった。
2009全英女子単二回戦
ウォズニアッキ 60 64 キリレンコ
こちらは早い展開の打ち合いに真っ向勝負を挑んでいるのだが、ウォズニアッキの方が一枚上手で、キリレンコはそれに振り切られてしまっている状態だった。だがそれでも戦意を失わずに、第二セット途中からの猛チャージで一時4-4まで押し戻している。ストレートで負けるにしても、あれだけの覇気を維持し続ける姿勢は大事だろうと思う。
2009年06月27日 長い手足とコートの振り分け 2009ウィンブルドン五日目
ツォンガダウン、ロブレドダウン、女子はズボナレワが棄権、バルトリ・チブルコワがダウン、なんとも騒々しい2009ウィンブルドン五日目である。WOWOWの中継はハンチェコワ対杉山、アザレンカ対シルステア、ジョコビッチ対フィッシュであった。
杉山は三回戦敗退である。ハンチェコワは相変わらずピリッとしない。杉山に勝つには勝ったが、リードしたらもっと畳み掛けなければ、相手に反撃を許してしまう、そんな場面で自分からミスをして、試合を長引かせてしまっているような感じがする。ハンチェコワは今スペインにトレーニングの拠点を移し、コーチにはあのクエルテンを育てたことで有名なラリー・パトスについているらしい。その成果であろうか、ゆったりしたスピン系のボールで相手をコートの外に押し出すあたりはスペインや南米の選手に特徴的な展開であり、ストローク戦では優位に立ちやすくなっている。また彼女の細くて長い手足を駆使したストロークは昔のクエルテンのぐにゃぐにゃテニスに似たところもある。だがクエルテンは決めるところはびしっと決めたぞ。ハンチェコワにも決めるところはびっと決める決定力が備わって欲しいところである。
第八シードアザレンカ対第28シードシルステアは好勝負だった。ハードヒットの応酬、特にフォアのクロスに強打を打ち込んで、浮いた球をバックハンドのドライブボレーでオープンコートに叩き込むというパターンを両者共に使っていた。あれは男子ではあまり見られない、女子テニスならではの豪快な展開であり、見ていてとても面白いテニスであった。
ところでこの共に伸び盛りの19歳同士、東欧ベラルーシとルーマニアの選手の対決はセンターコートで行われ、それゆえにWOWOWで中継されていたわけだが、他にもウィリアムズ姉妹やセルビアコンビやロシア勢などシードも人気も格上と思われる選手たちの試合を押しのけてセンターコートに振り分けられたことが少し疑問に感じなくもない。実際女子有力選手がウィンブルドンのコートの振り分けに疑問を呈していると報道されている。万人が納得する振り分けなどありはしないことは承知しているが、それでも如空の目から見ても、今年のウィンブルドンは女子選手の上位シードを優遇していないと見える。まあこの件もトップシードたちが順当に勝ちあがり、第二週に勝ち残れば、いやでも解消されるので、それほど大きな問題とも思えないのだが。
2009年06月28日 激しく、荒々しく、美しく 2009ウィンブルドン六日目
激闘の上の波乱、第十シードゴンザレスダウン、フルセットマッチの末に破ったのはフェレーロだった。第十一シードチリッチダウン、破ったのは第二十四シードのハース、これは二日がかりのフルセットマッチであった。第十二シードダビデンコダウン、ストレートで破ったのは第二十シードベルディッヒである。第十六シードのフェレールも敗退、破ったのは第二十三シードステパネック、これもフルセットマッチだった。女子でも第五シード全仏覇者のクズネツォワがダウン、第六シードのヤンコビッチもフルセットの末に敗れた。激しさと驚愕が広がるウィンブルドン大会六日目である。WOWOWの中継はV・ウィリアムズ対スアレス・ナバロ、ロディック対メルツァー、マレー対トロイッキだった。
全豪でスアレス・ナバロに敗れているヴィーナス、今回のそのリベンジという意気込みがあったのだろうか、WOWOW解説の坂本正秀氏が「(リベンジという意味で)ヴィーナスは本気で6-0 6-0 を狙っているかも知れない。」と試合序盤のヴィーナスの気合の入りようを見ていっていたが、解説の通りに第一セットは6-0、第二セットも早々にヴィーナスがブレークに成功し、試合は一気にヴィーナスが畳み掛け、公開処刑をするかに見えた。だがスワレス・ナバロはこの一方的に押されている状況下でもクレバーに自分を保ち、自身を見失っていなかった。美しくて鋭い片手打ちからのバックハンドのカウンターが、ストレートに何度も突き刺さる。ようやく自分のサービスゲームを一度キープすると、ギアを上げて、ヴィーナスのサーブを破ることに成功する。セット中盤でやや集中力を落としていた感もあるヴィーナスだが、スアレス・ナバロの追い上げに、こちらも再びエンジンを再始動、4-4となった最後の二ゲームを1ブレーク1キープで乗り切り、6-4で第二セットも連取、見事に四回戦進出を決めた。
敗れたとはスワレス・ナバロのバックハンドはかっこいいね。カウンターでエースを取るからなおのことかっこいい。まるで侍が刀を居合い抜きしてボールを切り捨てるかのごとくだ。それに苦しい状況でもクレバーだ。あれはいずれ大化けしてエナンのようになる可能性があるな。今後も注目していこう。
2009年06月30日 評価も色々 2009ウィンブルドン四回戦
ミドルサンデーがあけた月曜日のウィンブルドン四回戦が行われた。マレーはバブリンカを突破したもの、フルセットマッチの接戦だった。第七シードベルダスコはカルロビッチに破れ、第八シードシモンはフェレーロに敗れた。好調を維持するヒューイットは曲者ステパネック(第23シード)を突破する。女子では第九シードウォズニアッキがリシキに破れ、第十三シードイバノビッチは前年度覇者ヴィーナス・ウィリアムズとの試合の最中に足の故障が悪化し棄権した。WOWOWの中継はフェデラー対ソダーリング、サフィーナ対モーレスモ、マレー対バブリンカだった。
2009ウィンブルドン男子単四回戦
フェデラー 64 76 76 ソダーリング
「スコアは競っているが、確実な実力差があった。大事なところでミスするソダーリングに対して、しめるべき要所をしめたフェデラーの貫禄勝利」とTVの解説でも新聞やネットの報道でも評されていたが、実際はそれほど実力差があったのかね。如空は見ていて2007年全米決勝のフェデラー対ジョコビッチを思い出した。あの時も押していたのはジョコビッチ、しかし、大事なところでボールが入らず、堅実なテニスを見せたフェデラーの前に敗れた。同じようにこの試合ソダーリングは途中から押していたにもかかわらず、詰めが甘くてセットを取りそこねた。フェデラーが要所で集中して1チャンスを確実にものにした。試合巧者フェデラーの見事な勝利である。だがね、ソダーリングにああもサービスゲームを楽にキープさせて、1チャンス勝負というのは、危険な綱渡りだなあ、ソダーリングは後半余力をもてあましていた。ラブゲームキープが多かった。1チャンスをモノにしていたのはソダーリングだったかもしれず、際どい勝利だったように如空は感じた。だがフェデラー本人はやはり少し余裕を感じていたようだ。あのあたりはやはり貫禄だろうか。フェデラーのプレーで注目するべきは脚力が全盛期並みに戻ってきていることだ。ソダーリングに何度も「やられた!」と思うシーンでボールに追いつき、それを厳しいところに切り返してウィナーを奪う。あの攻守一体のフェデラーのテニスが随所に発揮されていた。全仏前にクレーコート対策でかなりハードなトレーニングをしたといわれているが、その成果がここで現れているのだろうか。
センターコートではついに雨天で可動式屋根が閉じた。後半戦もセンターコートでは雨に悩まされずに試合が進める。シード勢に波乱もあるが全体としては順当に進んでいる感のある今年のウィンブルドン、さて後半戦はどのように展開するか。熱戦を期待しよう。
2009年06月30日 ベスト8出揃う 2009ウィンブルドン
天気に恵まれた上に、センターコートの屋根も威力を発揮して、ウィンブルドンは四回戦までを順調に消化した。結果男女ともベスト8が出揃った。整理の意味も兼ねて準決勝の組み合わせを見ておこう。
男子ベスト8、QFの組み合わせ
ヒューイット対ロディック
マレー対フェレーロ
ハース対ジョコビッチ
カルロビッチ対フェデラー
なんとトップハーフはエントリーランキングNo1経験者にしてグランドスラムタイトルホルダー、如空がAPTにおける「王」と定義する選手が4人中3人も占めている。ベスト8全員を見てもNo1経験者4名、GSタイトルホルダー5名。GSファイナリスト6名、GSベスト4経験者7名という、ある意味豪華な実績者勢ぞろいという感じになっている。だがそれでもトップハーフの本命はマレーなんだろうね。それよりフェデラーとジョコビッチは順当にQFを突破すればSFで当たる。ここは大一番になるか、というより大一番にしないとジョコビッチはまずいだろう。
女子ベスト8、QFの組み合わせ
サフィーナ対リシキ
V・ウィリアムズ対アザレンカ
スキアボーネ対ディメンティエワ
アザレンカ対S・ウィリアムズ
こちらはロシア勢対ウィリアムズ姉妹のSFになる可能性が濃厚だが、新興勢力はそれを阻止しうるだろか、ベテランスキアボーネの存在も無視できない。
さていよいよベスト8激突のQFである。熱戦を期待しよう。
2009年07月01日 予想通りの展開 2009ウィンブルドン女子QF
2009ウィンブルドン女子単準々決勝
サフィーナ 67 64 61 リシキ
V・ウィリアムズ 61 62 アザレンカ
ディメンティエワ 62 62 スキアボーネ
S・ウィリアムズ 62 63 アザレンカ
サフィーナがフルセットにもつれたのが唯一の誤算か、それ以外は波乱の予兆など微塵も見せずに、予想通りにウィリアムズ対ロシア勢のSFとなった。SFはサフィーナ対ヴィーナス・ウィリアムズ、ディメンティエワ対セリーナ・ウィリアムズである。ウィリアムズ姉妹が優位なように、勝ち上がりを見ていると思うのだが、ロシア勢にはここで意地を見せてもらいたいものである。
2009年07月02日 それぞれのリターン 2009ウィンブルドン男子QF
ジョコおおおおおお、こんなところで負けるなよ!
2009ウィンブルドン男子単準々決勝
フェデラー 63 75 76 カルロビッチ
マレー 75 63 62 フェレーロ
ハース 75 76 46 63 ジョコビッチ
ロディック 63 67 76 46 64 ヒューイット
第四シードジョコビッチダウン!おいおい、全豪はQFで棄権、全仏は三回戦敗退、そしてこのウィンブルドンはQF敗退かい。トップ4シードの一人としてどうよこの成績は。マスターズシリーズでは活躍しているジョコビッチだがグランドスラムはどうも成績もプレーも安定しない。一方でフェデラーはほぼ6年近くグランドスラムではベスト4に連続して進出し続けている。No1の連続在位記録最長もすごいが、今もって更新中の連続GSベスト4進出の記録もすごいものだ。
マレーはストレートでフェレーロを突破した。勝った4人の中では一番楽にQFを突破したことになる。フェレーロの試合を見るのは久しぶりだった。鞭のようにしなる右手から左右のコーナーに放たれるフォアハンドのトップスピンは相変わらず素晴らしいが、マレーの堅い守りを崩すにはいたらなかった。一方でマレーはリターンが素晴らしい。いつの間にかマレーはATPツアーで最高のレシーバーという評価を得るようになるまでに成長している。ファーストに対しては堅実、セカンドは果敢に叩いて攻めていく、リターンゲームで主導権を握り続けるあのプレッシャーは素晴らしい。またサーブもストロークもプレースメントが抜群によく、エラーをせず相手の嫌なところにボールを集め、フェレーロを先に崩していた。フェレーロは調子が上向きだったと思うのだが、それでもマレーには通用していなかった。
リターンといえばフェデラーが対カルロビッチ戦で見せたリターンも素晴らしい。こちらはバックが片手打ちなわけだが、やっと届いた強打に対してもラケット面とタッチのコントロールで際どく返し、時にそれが鮮やかなエースになる。攻守一体、守りながら攻めていくフェデラーの自在なテニスが発揮されていた。ビックサーバーの産地クロアチアの巨人カルロビッチのサーブは安定した威力を発揮しながらも、フェデラーを崩すにいたらなかった。
かつてのリターンの名手、ヒューイットはツアー最速サーバーロディックのサーブに見事に対応していたが、このQFでロディックはサーブ以外のリターンやストロークで実に堅実であった。崩れないロディックに対して、ヒューイットは攻勢に出ざるをえず、そこでオーバーペースになってミスしてしまった部分があったように思う。それでもこの元No1にしてGSタイトルホルダー同士の元王者対決は流れが一方的にならずにフルセットマッチにもつれる。夏の残り日が芝を黄昏に染めるなか、二人の元王者は競り合い続けたが、最後に競り勝ったのはロディックであった。
これで男子ベスト4SFはマレー対ロディック、フェデラー対ハースである。現時点で最強リターナーマレー対最強サーバーロディックの対決は大いに見ものである。一方、全仏四回戦でフェデラーを2セットダウンまで追い込んだハースが今度はウィンブルドンSFでフェデラーにまた挑む。フェデラーは過去に苦戦した相手との再戦ではオーバーパワーで封じ込めようとする傾向がある、この対戦ではどう出るか。いよいよ準決勝である。更なる熱戦を期待しよう。
2009年07月03日 神経戦と公開処刑と 2009ウィンブルドン女子SF
ああ、エレナよ、ディアナよ、ロシア帝国の女達よ、ここまで来ておきながら・・・・・
2009ウィンブルドン女子単準決勝
S・ウィリアムズ 67 75 86 ディメンティワ
V・ウィリアムズ 61 60 サフィーナ
トップ4シードによるベスト4揃い踏みとなった女子SF、ウィリアムズ姉妹対ロシア帝国軍団という組み合わせだったが、二試合ともウィリアムズ姉妹の勝利に終わった。だが試合内容は大きく異なる結果だった。
第一シードにしてエントリーランキングNo1のサフィーナはヴィーナスに1ゲームしか取らせてもらえなかった。これこそまさに公開処刑だろう。サフィーナの傷は今回も大きい、このまま傷ついていくだけで終わってしまうのだろうか。今後が心配である。
三セットとも5-5まで進んだセリーナ対デメはまさに大接戦だった。デメはリターンの調子がよく、セリーナのサービスゲームで楽にキープさせなかった。試合を通じてセリーナ相手にブレークチャンスを取り続けた。だがセリーナも負けていない。ピンチを何度もサーブの力と脚力で切り抜けた。デメのリターンの調子がよかったものの、デメの予測の逆を突いてノータッチエースを取る場面も多々あった。ストローク戦で押していたのはディメンティワのほうだった。ボールが低くて深い。セリーナはコーナーに慎重に入れられたボールを見送るシーンが多かった。お互い前後左右に相手を振り回し、ランニングショットの応酬を何度も見せる。フォアの切り返しでディメンティエワは素晴らしいショットを繰り出す、バックでも深い位置からのダウンザラインは見事だった。問題は浅い位置からのバックハンドで、セリーナからの短いアングルショットを、バックでストレートに切り返す球が大事なところでどうにも決まらない。第二セットも第三セットも、ディメンティエワは何度もチャンスを握りながらも、それをつかむことは出来なかった。精神的に厳しい競り合いになっていく。大事なところでポイントを決めきれず、スタンドの自身の陣営に向かって何度も大声でアピールしていた。精神的に厳しいのはセリーナも同じようで、ネットについてもミスが多く、デメの深い球に苦しみ、何度も苦悶の表情を浮かべていた。ファイナルセットで先にマッチポイントを握ったのはディメンティエワ、しかし決まらない。ウィンブルドンのファイナルセットにTBはない。二ゲーム連取するまで、6-6以降も試合は続く。セリーナが何度目かのブレークに成功した。そして淡々と次のサービスゲームをキープし、長い試合を締めくくった。
好プレーもあればミスもあり、両者共にメンタルの強さを試される厳しい神経戦であった。試合内容では流れをつかんで押していたにもかかわらず、大事なところで攻めきれず、ディメンティエワは貴重な勝利を手放してしまった。だが決して自滅したわけではなく、最後まで自分のテニスを貫き通した。一方で自身のプレーも本調子とは言えず、苦しい展開のなか、セリーナはよく耐え、最後に紙一重の差で相手を上回った。試合を観戦していて、この試合はたぶんディメンティエワが勝つと如空は予想し続けたが、最後に勝ったのはセリーナのほうであった。セリーナの地力に脱帽である。
女子決勝はヴィーナス対セリーナのウィリアムズ姉妹対決である。過去に何度となく見てきた姉妹による決勝戦であるが、その展開はどうなるのか。最後も熱戦を期待しよう。
2009年07月04日 接戦の末に見るもの 2009ウィンブルドン男子SF
2009ウィンブルドン男子単SF
第一試合
フェデラー 76 75 63 ハース
第一セットはTB、第二セットの最後でフェデラーがブレークに成功した。第三セットもフェデラーが途中で1ブレークして勝負を決めた。第二セットの第十二ゲームまでサービスゲームのキープが続いた、最終セットも1ブレーク差である。ストレートとはいえスコア上は大接戦である。だが試合内容の印象はやはりフェデラー優位の中で進んだ試合だった。WOWOWの解説陣が試合中何度も指摘していたが、キープ合戦の末、取得ゲーム数では競っているが、取得ポイント数ではフェデラーが大きくハースを上回っている。キープ合戦でこの状態はフェデラーのサービスゲームは簡単にキープされているが、ハースのサービスゲームでは競り合っていることを意味している。実際、ハースはこの日サーブもストロークもネットプレーも高いレベルで安定したが、それでもサービスゲームでフェデラーにポイントを先行される場面が多かった。フェデラーがハースよりもより高いレベルで安定しており、じわりじわりとハースに圧力を加え続けた。いい感じで集中して、プレーも好調であったハースだが、フェデラーの圧力の前に抗し切れず、最後は崩されてしまった。今年の全仏で大熱戦となった好カードであったが、フェデラーはやはり苦戦した相手には再戦で圧倒する。フェデラーの凄みを見せ付けた試合だった。
第二試合
ロディック 64 46 76 76 マレー
第一セットはロディックの豪快なサーブで始まった。ロディックの気合がみなぎっている。オーバーパワーで入ってきたロディックに対してマレーはバックハンドスライスを多用してチェンジオブペースで対抗する。キープ合戦で5-4まで来た第十ゲーム、、ロディックがテンポを速めて、マレーがペースをつかめない。両者通じて初めてブレークポイントがロディックに来た。ロディックはこのワンチャンスを生かし、第一セットを6-4で先取する。
第二セット、マレーは戦術を変える。ベースラインから強打し始めた。バックハンドのダウンザライン、フォアのショートクロス、スーパーショットを第1ゲームに集中させて、マレーはロディックのサービスゲームをいきなりブレークした。ランニングのアングルショットに3連続サービスエース、ウィナーを何度も生み出し、マレーが勢いに乗る。ロディックは耐えて、ついて行く。その後のキープ合戦の末、サーブイングフォーザセットでマレーはセットポイントを握り、一発で決めた。第二セットは
第三セット、芝のコートにふさわしい早い展開のテニスが続く。第四ゲームでマレーがエラーを続けてしまい、ロディックにブレークを許してしまう。ロディックリードでゲームは進む。だがマレーのリターンは徐々にロディックのサーブを捉え始めた。そしてロディックのサーブイングフォーザセットでマレーは猛チャージ、0-40でブレークポイントを三つ握る。一つ目は逃れたロディックだったが、二つ目でバックハンドがラインを割り、マレーはこの土壇場でブレークに成功した。盛り上がる地元の観客席。その後もサービスをキープし合ってセットはTBに突入した。競り合いの末、先にセットポイントを握ったのはマレー、しかしそれはロディックに阻まれた。次にロディックは自分のサーブでセットポイントを握った。角度の付け合いから前に出るロディック、マレーのフォアがネットにかかった。TB9-7でロディックが第三セットを取った。
第四セット、各ポイントで激しい競り合いが続くが、それでも互いに自分のサービスはキープし合い、第四セットもTBに突入する。先にロディックがミニブレークした。押すロディック、だがマレーも起死回生のショットで何度もピンチを跳ね返す。ロディックのセットポイントで一度はマレーが素晴らしいパスを抜いて、観客席を興奮の坩堝になる。だが最後にマレーはボールにネットをかけ、TBは7-5でロディックが取った。ロディックは勝利の瞬間、頭を抱えてうずくまった。第四セットもロディック連取でセットカウント3-1、勝ったのはロディック、マッチトータルでのポイントはロディック143対マレー141、わずかに2ポイント差の内容であった。
マレーの出来は上々、ビックサーバーロディックとの緊迫したサービスゲームのキープ合戦で何度もミラクルショットを出して、ロディックに行きかけた流れを引き戻した。観客席がマレーを応援したのは単にマレーが地元イギリスの選手であったからだけではなく、ピンチとチャンスで観客の期待に応える素晴らしいプレーを見せるからだろう。そういう意味でマレーはそのテニスが一見地味だがじつはスターの要素を十分に持った選手といえる。観客を味方につけ、何度も勢いを得たマレー、だが大英帝国の夢は阻止された。マレーを押しとどめたのはロディックの冷静で着実なテニスだった。じっと我慢の時間帯もあり、リスクを背負って攻める場面も多々あった、上手くいっていない場面が半分ほどであったのはポイントもゲーム数の競っているこのスコアが示している。そのせめぎ合いの中で、自分を見失わずに自分のテニスを貫き通したロディックのその姿勢は見事であった。
これで決勝はフェデラー対ロディックである。過去の対戦成績で二勝しかしていないロディック、何度も何度もフェデラーに挑んでは跳ね返されてきたグランドスラムでも挑戦、今回は違った結果を出せるだろうか。いよいよ決勝戦がせまる、熱戦を期待しよう。
2009年07月05日 静かなる姉妹対決 2009ウィンブルドン女子決勝
静かな、とても静かな決勝戦だった。
2009ウィンブルドン女子単決勝
セリーナ・ウィリアムズ 76 62 ヴィーナス・ウィリアムズ
淡々とサービスキープが続く第一セット、厳しいショットに姉妹のうなり声が上がったりするが、それでも、会場は静かだ。プレーをしているウィリアムズ姉妹も、それを見ている観客席も、いつもより静かだ。キープ合戦の末に第一セットはTBに突入するが、両者共にそれほど気負いはない。TBでもセリーナがややギアを上げた感があるが、ヴィーナスの方が淡白にミスしてしまい、TB7-3でセリーナが取った。
第二セットでセリーナが完全に優位に立ってしまった。ヴィーナスの方に覇気がない。淡白なミスが増える。サーブのキレはヴィーナスも負けてはいなかったが、試合が進むにつれて左足の負傷が悪化してきたのか、キレを失っていく。そしてストローク戦、特にフォアの精度と威力でセリーナが上回り、あっという間に6-2で第二セットも連取した。マッチポイントでややもつれたが、最後はヴィーナスのショットがネットにかかり、セリーナがうずくまった。
予想以上に静かな、そして淡白な決勝戦になってしまった。ヴィーナスの側に途中から覇気が消えてしまったのが残念だった。だがそれが単に弱くなったというわけではないのは、その後この姉妹が女子ダブルス決勝に続けて出場し、ダブルスの優勝も決めてしまったことからも伺える。
若手の台頭、めぐるましく変わるNo1の座、混迷のWTAの中で、それでも静かに健在振りを見せるウィリアムズ姉妹、静かであるほどに、不気味なまでの強さを見せ付けているかのような、そんな2009ウィンブルドン女子単決勝戦であった。
2009年07月06日 何度でも、何度でも 2009ウィンブルドン男子決勝
ロディックのセンターへのサーブがフェデラーのバックハンドリターンのラケットを吹き飛ばした。次のポイントでネットに出たロディックをフェデラーのバックハンドパスが鮮やかに抜き去った。高い集中力で二人は決勝戦に突入する。そして始まった決勝戦は去年に続いて今年も伝説となる試合になった。
2009ウィンブルドン男子単決勝
フェデラー 57 76 76 36 1614 ロディック
第一セット、予想通りのサービスゲームのキープ合戦、5-6となったところでフェデラーがロディックのサーブで先行した。ロディックはサーブの力で取り返すが、それでもブレークポイントを握られた。サーブの力で押すロディック、ネットにおびき出してパスで仕留めるフェデラー、際どい攻防か繰り広げられる。フェデラーの方に分があるような展開、しかし苦しい中、ロディックは4度のピンチを切り抜けてキープに成功した。ピンチの裏にチャンスあり、6-5で今度はロディックがブレークポイントを握った。フェデラーのクロスをロディックはバックハンドダウンザラインで切り返す。それを更に切り返したフェデラーのボールはラインを割った。第一セット7-5、ロディックが第一セットを先取した。
第二セット、両者共にサーブの調子がよい。ブレークポイントすら許さずにサービスゲームのキープが続く。TBに突入した。先にロディックがミニブレークした。フェデラーのファーストサーブの入りが悪い。ロディックはバックハンドのストレートでウィナーを決めた。ミニブレークを更に一つ取った。ロディック6-2、そこでロディックが守りに入った。ストロークを入れに行く。絶好のチャンスボレーでバックハンドボレーをミスする。ファーストサーブが入らない。フェデラーは冷静に対処する。そこから6ポイント連取でフェデラー逆転TB奪取、第二セットをフェデラーが取り、セットオールとなった。
第三セット、徐々にフェデラーはロディックのサーブにタイミングが合いだした。キープに苦しみだすロディック、それでもサーブを守り、再びTBに突入する。今度は先行したのはフェデラー、追い上げたのはロディック、だが結末は第二セットと逆、先行したフェデラーがシッカリとセットポイントを決め、TBをフェデラーが連取した。
第四セット第四ゲーム、ようやく来たブレークポイント、ロディックがバックハンドダウンザラインでフェデラーのバックボレー側を強襲、ミスさせて、ついにこの試合始めてのブレークに成功した。次のロディックのサービスゲームでデュースにもつれたが、ロディックが踏ん張って取りきった。1ブレークアップのまま5-3まで来た。ロディックのサーブイングフォーザセット、サーブが来ない、フェデラーに二ポイント取られた。0-30、だがそこからファーストサーブを入れた。ストローク戦で粘った。40-30まで戻した。そしてロディックのサーブに押されてフェデラーのリターンがラインを割った。第四セット6-3、ロディックがセットオールに戻した。
ファイナルセット、いきなりフェデラーにブレークポイント、だがロディックがここも踏ん張ってキープした。ここまでフェデラーはまだブレーク出来ていない。その後、両者共にテンポ良く自分のサービスゲームをキープする。あっという間に6-6となった。ウィンブルドンのファイナルセットにTBはない、どちらかが2ゲーム差を付けるまで試合は続く。7-7、8-8、ロディックにブレークポイントのチャンスが来るが、フェデラーがサーブの力で乗り切る。だがフェデラーは足に疲労が来ているようで、ミスが増えている。9-9、10-10フェデラーがロディックのサービスゲームでデュースに持ち込むがロディックは逃れた。11-11、12-12、13-13またデュースをロディックは逃れた。14-14、そしてフェデラーの15-14でまたデュースになった。今度はフェデラーが先行した。チャンピオンシップポイントが来た。フェデラーの深いショットがロディックのフォアを弾いた。ファイナル16-14、このフルセットマッチでフェデラー最初にして唯一のブレークが優勝を決めるゲームとなった。
許したブレークゲームはたった一度である。ファイナルが通常の二倍近くのゲーム数となったことを考えると、ロディックは延6セット近いサービスゲームをキープし続けたのである。しかも相手はフェデラーである。更にロディックは二度フェデラーのサービスゲームを破っているのである。それが最後の最後で許した一度きりのブレークでロディックは敗れた。第二セットのTBをリードしながらも逆転され落としたことは生涯の痛恨事となることだろう。だが、そこでロディックは崩れなかった。セットカウントでフェデラーにリードされながらもついていき、追いつき、ファイナルで最後まで競り合った。総合的な技術力ではフェデラーの方が上であることは明らかである。だがそれでもサーブとフォアを武器に立ち向い、バックで耐え続け、リスクを背負ってネットに果敢に挑んだ。ロディックの不屈の精神が圧倒的強者として復活しつつあるフェデラーの前に敢然と立ちはだかり、後一歩というところまで追い込んだのである。
如空が「未完の大器」と呼んだロディックももう26歳である。大器であることを証明出来ずに未完のままで終わるのではないかと正直失望しつつあった。彼は何度も希望の持てる結果を出しながらそのつど失望を味あわされてきた。彼のファンも、彼自身も、そしてその失望を与えた相手は他の誰でもないロジャー・フェデラーである。他の誰よりも、ロディックのテニス人生に大きな影響力を与え、高い壁となってロディックの夢や希望をことごとくフェデラーは打ち砕いてきた。しかし、ロディックは挫けなかった。同世代の「ニューボール・プリーズ」キャンペーンの選手たちがフェデラーに頭を抑えられているうちに沈んでいった中で、ロディックだけは何度も何度も立ち上がり、何度でも挑み続けた。ランキングトップ10にとどまり、若手の台頭してくる中でも存在感を維持して、そして敗れても、敗れても、圧倒的強者に今度こそと挑み続ける。どんなに情けない負け方をしても、恥ずかしい敗北をしても、それでも次があると、再び挑む。自分より強いやつに挑む。その姿勢に大きな勇気をもらった人は多いはずだ。
フェデラーはグランドスラムタイトルを15タイトルとし、サンプラスの持つグランドスラムタイトル数14を抜いて歴代単独トップとなった。名実共に史上最強最高の称号を得たといえよう。それだけでなく過去一年グランドスラムに全て決勝進出、かつ全豪以外の全米・全仏・全英タイトルをとり、ナダルを抜いて堂々のATPツアーエントリーランキングNO1返り咲きを決めた。会場にはフェデラーの偉業をたたえるためか、引退したサンプラスも来ていた。しかし、会場の拍手はその偉大な王者に負けず劣らず、ロディックに向けられた拍手が多かったと思うのは如空だけか。試合終了後閉会式の準備中も観客席はフェデラーだけでなくロディックに賞賛の拍手を送っていた。
ロディックは「もう26歳」とはいえ、それでもニューボール・プリーズの世代の中ではもっとも若い一人だ。フェデラーより一つ若い彼は「まだ26歳」とも言える。これからロディックがもっとも好きな真夏の北米ハードコートシーズンが始まる。ロディックの挑戦はこれからも何度でも続くだろう。彼の勇気を分けて欲しいのなら、耳を澄ませばいい。ロディックの放つサーブの音を聞け、その音がロディックを蘇らせる、何度でもだ。