第081房 2008年MSトロント大会・インディアンウェルズ大会 TV観戦記 (2008/12/21)
2008年07月23日 2008夏の北米ハードコート白熱
夏到来、今年も北米ハードコートシーズンがいよいよ本格化する。
WTAではアメリカ・ロスアンゼルズでティアU大会イースト・ウェスト・バンク・クラシックが開催される。
シードはヤンコビッチ、S・ウィリアムズ、チャクベターゼ、サフィーナ、ズボナレワ、ハンチェコワ、シュニーダー、アザレンカ、ペトロワ、ペンネッタ、バイディソワと続く。セリーナは欠場した。ということは東欧スラブ民族でシード勢が占められることになる。アメリカ本土で行われる大会とは思えない陣容である。注目はヤンコビッチだろう。シャラポワもイバノビッチもウィリアムズ姉妹もいない大会では必ず優勝しなくてはなるまい、だがチャクベターゼ以下の東欧勢は手ごわそうだ。特にサフィーナが不気味だ。果たして結果は如何に。GAORAで準決勝・決勝を中継してくれる。要注目である。
ATPではカナダでマスターズシリーズ第六戦トロント大会ロジャーズ・マスターズが開催される。シードはフェデラー、ナダル、ジョコビッチ、ダビデンコ、フェラー、ロディック、ブレーク、マレー、バブリンカ、ガスケ、ステパネック、ロブレド、ベルダスコ、ゴンザレス、ユーズニー、ベルディッヒと続く。ATPにおける北米ハードコートシリーズの事実上の開幕戦となるこの大会、今までクレーコートやグラスコートでくすぶっていたハードコートを得意とする猛者たちが後半の巻き返しを開始する大会でもある。特に注目はフェデラー、今季グランドスラム無冠、マスターズシリーズも無冠、今年1月からの累積ポイントで示されるチャンピオンズレースで1位のナダルに大差をつけられ、過去一年間の累積ポイントで示されるエントリーランキングでいまだNo1だがNo2のナダルに差を一気に詰められた。だがこの流れは程度の差こそあれ、過去数年似たような状況であった。フェデラーはここからハードコートで連勝して一気に年間最終ランキングNo1確定まで突っ走っていたのである。今年も同じ流れをつかめるか、あるいナダルが今年こそそれを阻止するか。今年後半戦の行方を占う意味で大いに注目である。またもう一人、No3ジョコビッチの出方も注目である。全豪優勝で一気にNo1まで駆け上がるかと思われたジョコビッチがクレーシーズンに入ってから元気がない。特に全仏・全英は不本意だったことだろう。彼もまたハードコートが本領発揮の場である一人である。2強のNo1争いに大きな影響力を持つこの第三の男ジョコビッチは今回ナダルと同じボトムハーフに入った。今年こそNo1を取りたいナダルにとってジョコビッチ・フェデラーをハードコートで連破することは避けては通れない壁であろう。その壁、乗り越えることができるかナダル。そしてこの3人の間に割って入る選手は出てくるか。GAORAも準決勝・決勝を生中継である。熱戦を期待しよう。
2008年07月24日 皇帝のいない夏
ATPマスターズシリーズ第六戦トロント大会ロジャーズ・マスターズ2回戦
シモン 26 75 64 フェデラー
ああ・・・・フルセットマッチの末に負けている。逆転負けしている。シモンには悪いが地味な相手に負けている。ハードコートで負けている。フェデラーが初戦の二回戦で負けている。
後半戦の逆襲に向け、反撃の狼煙を上げるのは、自身と同じ名を冠するこの大会がふさわしいと、如空は思っていたが・・・・不安はいよいよ本物になって来た。フェデラーは今後どうなるのだろう。せめて、次回のMSシンシナティ大会での再起を期待しよう。
2008年07月26日 トロントの嵐
三回戦で第四シードダビデンコダウン、第五シードフェラーダウン、第六シードロディックダウン、そして準々決勝で第七シードブレークダウン、そして、第三シードジョコビッチが第八シードマレーに敗れた。おいおい・・・・波乱のMSトロント大会である。第二シードナダルは勝ち残っている。ガスケをフルセットの末だったが逆転で降した。準決勝はトップハーフがフェデラーを破ったシモン対ロディック・ブレークを破ったキーファー、そしてボトムハーフがナダル対ジョコビッチを破ったマレーである。なんとも新鮮な顔ぶれだ。神はナダルのNO1奪取を後押ししているのだろうか、それともマレー・キーファー・シモンがそれを阻止するのか。予想外の展開でありながらも要注目カードとなったトロント大会準決勝である。熱戦を期待しよう。
2008年07月27日 2008MSトロント大会SF
ATPマスターズシリーズ第六戦トロント大会準決勝
第一試合
キーファー 67 63 76 シモン
開始早々、雨が降り、いきなり中断した第一試合、GAORAは昨日のQFナダル対ガスケのナイターを録画中継して時間を稼ぐ。再開後、二人はゆっくりしたサーブ、ゆったりしたストロークでお互いを探り合う。第三ゲームでキーファーがシモンのサービス・ゲームをブレークした。深いボールのストローク一辺倒のシモンに対してキーファーはネットプレーにドロップショット、角度のついたストロークなど、多彩な技で主導権を握る。だが、シモンは崩れない。淡々と自分のテニスを続ける。第八ゲームでシモンがブレークバックに成功して4-4となる。だがブレークバックした直後にシモンの調子が落ちた。すかさず攻め込むキーファー、ネットインしたボールを冷静にネットで処理して再びブレークした。だが、次のサーブイング・フォーザセットをキーファーは決めきれない。ダブルフォールトで相手にブレークポイントを渡すと、あっさりと次のポイントでブレークされてしまった。5-5となり、お互いサーブをキープし合ってTBに突入する。解説の丸山氏は「キーファー次第」といったとおり、キーファーのミスでシモン先行、キーファーのナイスプレーで追いつく、そして再びキーファーの乱れでシモンがTBを取った。7-6で第一セットをシモンが先取する。
第二セット、単調なゲーム展開の中、シモンが集中力を切らした一瞬をキーファーは見逃さない。ブレークに成功するとその1ブレークを守りきって第二セット6-3でキーファーがセットオールに戻した。
第二セット以降、シモンは疲労により明らかにパフォーマンスが落ちていた。特に左足が厳しいようだ。第三セット第三ゲームでシモンはキーファーにブレークを許す。キーファーが1ブレーク先行で試合を進める。しかし、先週優勝し、今週はフェデラーを倒したシモンは簡単にはあきらめない。デュースの続く長いゲームが繰り返される。長引けばシモンの方が不利であろうに、それでも長いラリー戦に挑む。そして第八ゲームでついにブレークバックに成功した。4-4になった。気力でお互いサービス・ゲームをキープし合って、6-6、またもやTBに突入した。序盤長いラリーを制してキーファーが流れを掴んだかに見えたが、シモンがここでも攻め返し、5-5にまで戻した。だがキーファーが落ち着いてマッチポイントを握り、ドロップショットからロビングという渋い展開で最後のポイントを決めた。
長い、長い3時間近い試合は最後にキーファーが追いすがるシモンを振り切って、決勝進出を決めた。
第二試合
ナダル 76 63 マレー
この試合、最初にネットでスコアを見てから、録画を見た。だから、どうせマレーが第二セットではマレーが圧倒されたのだろうという予想をして録画を見た。内容はどうしてどうして、マレーは大善戦であった。やはりトップスピン打法に対してはフラットドライブ打法が有効なのだ。ナダルに対してスピンの粘りあいをしても勝てない。もう攻め続けるしかないのだ。それはフェデラーだろうがランキング100番台の選手だろうかがそれは変わらない。そしてまた、マレーはいいとこまで攻めることが出来ていた。第一セットはキープ合戦でTBまで行ったし、第二セットも1ブレークずつで3-3まで行った。でも攻めきれない。ナダルは崩れない。ハードコートの上でも相変わらず難攻不落の要塞だ、ナダルは。その上、今は機を見てチャンスと見るとすぐに強打にネットアプローチと攻めてくる。「ナダルは戦術の選択肢はけっして多くない。しかし、その少ない戦術の選択は適切だ。」とGAORA解説の丸山氏がナダルの戦い方の上手さを評価していたが、まさに言い当てて妙であろう。強さというのは持っている武器の多さではなく、武器の効果的運用によって決まるといういい例である。
さて、決勝は今最高に乗っているナダルと、苦労人キーファーの対決である。さてさて、キーファーが攻めきれるか、ナダルが一気に駆け抜けるか。熱戦を期待しよう。
2008年07月28日 大器の女、また一人
WTAツアーの北米シリーズティアU大会、イースト・ウェストバンク・クラシックで第一シードヤンコビッチは決勝まで勝ち上がれなかった。優勝すればエントリーランキングでNo1になる可能性があったという。だが今回はNo1にならなくてよかったのではないか。やはりNo1は過去一年間にグランドスラム大会のタイトルを一つでも取っておかないとふさわしいとはいえない。如空はそう思う。
さて、そのヤンコビッチを準決勝で止めて決勝に進出したのはサフィーナである。そして決勝でも勝ってしまった。今季二勝目である。いよいよ来るかねサフィーナ、今年の全米あたりで一気に優勝・・・・・などという可能性もなくはないと思わせる、それほどの大器振りである。大いに期待しよう。
2008年07月28日
真夏の要塞
ATPマスターズシリーズ第六戦トロント大会決勝
ナダル 63 62 キーファー
ナダルは普通に強かった。「普通に」というのは、死に物狂いで走り回ったとか、強打を打ちまくったとか、抜かれても抜かれても何度もネットに突進したとか、強いサーブを打ち続けたとか、ひたすら壁になって打ち返したとか、そういう限界までの挑戦という感じではなく、安定した少し力を抜けたプレーで相手を圧倒したという印象のことを言っている。キーファーはブレークポイントを三度握ったが、ブレークの成功はなかった。ナダルは四度あったブレークポイントで全てブレークに成功した。ほとんどデュースに至らない、淡々としたゲーム展開の中で、要所要所をナダルが締めていく。キーファーの側は色々とやってくる。ダブルフォールトのリスクを背負ってでもセカンドサーブで強打した。ネットにも強引に出た。ストレートへの切り替えしが早かった。ナダルに対して先手を取ろう、先に攻めようという意図を確実に実行していた。しかし、ナダルは動じない。静かにキーファーを押し戻す。ストローク戦ではもちろん打ち負けることはなく、ネットへの詰めも万全、ドロップショットからのボレー合戦になってもキーファーに負けなかった。最後はグランドスマッシュできれいにチャンピオンシップポイントを決めた。余裕さえ感じる鮮やかな勝利であった。
チャンピオンズレースのNo1はエントリーランキングNo1への階段を着実に上っている。ハードコートの上でも難攻不落の要塞を築きつつある。高みを増しつつあるこの城塞、早めに崩さなければ、より堅牢になっていくことだろう。この真夏の要塞に挑み崩すのは誰か。今後の北米ハードコートシリーズに注目していこう。
2008年07月29日 王座は誰のもの
今週の大会の結果次第では来週のエントリーランキングはATP・WTA共に大きな変動があるかもしれない。
WTAはいよいよ北米シリーズのティアT大会ロジャーズカップがカナダのモントリオールで開催される。第一シードイワノビッチを筆頭にヤンコビッチ、シャラポワ、クズネツォワ、ディメンティエワ、チャクベターゼ、サフィーナ、ズボナレワ、シュニーダー、バルトリ、アザレンカ、ペトロワ、キリレンコ、スキアボーネ、ペンネッタ、バイディソワと続く豪華メンバーである。セルビアコンビによる1・2シードの頂上対決なるか、ロシア勢の巻き返しなるか。トップランカー達のポイントが僅差であるので、週替りでNo1が入れ替わっていく可能性もある後半戦のWTA、エナン引退後のこの混戦状態の中、抜け出すのは誰か。その行方に注目が集まる。
ATPはマスターズシリーズが連戦だ。アメリカのシンシナティでMS第七戦シンシナティ大会W&Sファイナンシャル・グループ・マスターズが開催される。
シードはフェデラーを筆頭にナダル、ジョコビッチ、ダビデンコ、フェラー、ロディック、ブレーク、マレー、バブリンカ、ベルダスコ、ガスケ、ロブレド、ゴンザレス、ユーズニー、ステパネック、カルロビッチと続く。MSトロント大会とほとんど同じ顔ぶれである。しかも第三シードジョコビッチが第二シードナダルと同じボトムハーフに入っているところまで同じである。さて、チャンピオンズレースで一位を独走するナダルを追撃するフェデラーとジョコビッチはナダルを止められるだろうか。これ以上ナダルをハードコートの上で暴れさせると後半戦も一気にタイトルを持っていかれるぞ。フェデラーはそろそろエントリーランキングNo1の座が危なくなっている。去年この大会で優勝しているだけに、また早い段階でフェデラーが敗退した上にナダルが優勝などしたら・・・・この大会直後のランキングにも注目が集まるところだ。GAORAでもこの注目の大会を生中継だ。
しかし、如空は今週末早めの夏休みを取って旅行に行っているのだ。げ、ひょっとするとこのツアー数年間で最大の転換期になるかもしれないこの大会を生で観戦できないとは残念無念。録画してしっかり見るぞ。ATPの猛者たちよ、WTAの猛者たちよ、灼熱のハードコートで大いに暴れてくれ。
2008年08月06日 戦乱の予感 ATP2008
如空は先週末、早めの夏休みを取り、10年ぶりの海外旅行を家族としていた。TVもネットも新聞もまったく見なかった。日曜日の朝に帰りの航空券の確認をしようとホテルのカウンターにあるインターネット端末を使わせてもらった。そのとき、ついでにYahooのスポーツニュースでテニスの結果をチェックした。ナダルが観客に挨拶しながら退場する写真がトップにあり、ジョコビッチがナダルに、マレーがカルロビッチにそれぞれ勝利したことが報じられていた。ベスト4にフェデラーの名前がない、そして敗れたにもかかわらずナダルの充実した表情、それを見たとき、政権交代が実現したことを直感した。そして帰国してその事実を確認した。
ATPマスターズシリーズ第七戦シンシナティ大会W&Sファイナンシャル・グループ・マスターズ
三回戦
カルロビッチ 76 46 76 フェデラー
準決勝
マレー 64 64 カルロビッチ
ジョコビッチ 61 75 ナダル
決勝
マレー 76 76 ジョコビッチ
MSシンシナティ大会2008は久しぶりに強い奴がさらに強い奴に挑み、激戦の末に打倒を果たすというドラマティックな展開となったのであった。この大会はここ数年におけるATPにおける歴史の中で、大きな転換点となるであろう。三回戦でATPエントリーランキングNo1敗退、準決勝でNo2が敗退、そして決勝でNo3敗退、第八シードのNo9は優勝してNo6に駆け上がる。そしてNo1とNo2はついに8月18日の週に入れ替わることになった。
映像を見ていないがフェデラーは対カルロビッチ戦で3セットとも6ゲームを取っている。決して調子が悪かったわけではあるまい。ビックサーバーのカルロビッチが自分のサービスゲームをキープしてTBで勝つ、という方針を貫き、やり切った見事な勝利だったのではないだろうか。
フェデラーを倒し、好調の波に乗るカルロビッチに対して、マレーは我慢強く対応した。マレーもまた強いサーブからの展開を主軸におく選手である。「今日はショートポイントが多くなるだろう。だがポイントは短くてもセットは長引くはずだ。連続TBもありうる。」とGAORA解説の辻野隆三氏は戦前の予想を語った。だが両者は予想に反して強い気持ちでブレークを取りに来た。先に第一セットで先にブレークしたのはカルロビッチ、しかし、追いつき追い越したのはマレーだった。第二セットもカルロビッチは悪くなかった。だがマレーはカルロビッチの勢いをよく押し止め、より戻した。特にネットに果敢に攻めてくるカルロビッチに対してトップスピンロブをライジングから放って抜き去るシーンは鮮やかであった。主導権がカルロビッチに渡りそうで渡らない競り合いの中で、クレバーに対処し続けたマレーが最後にブレークの数で上回り、マレーが競り合いを征してマスターズシリーズ格初の決勝進出を決めた。
MSハンブルグの準決勝、そして全仏の準決勝、そういえば去年の全英の準決勝もそうだった、ジョコビッチは大事な大会でナダルにSFで止められる。ここはハードコート、なんとしてもジョコビッチはナダルを止めなければなるまい。連勝街道を進むナダル、クレーでも、芝でも、そしてハードコートでも負けないこの難攻不落の要塞にジョコビッチは挑み、そして突破に成功した。第一セットを見ればわかるがナダルはやはり少し疲労が蓄積したようだった。ジョコビッチの左右の振り回しについていけていなかった。フットワークが悪かった。だが疲労など気持ちの充実を持って消し去ることが出来る。既にエントリーランキングNo1を確定しているナダルは第二セットでようやくエンジンがかかり始める。右に左に走り回り、ジョコビッチのボールを拾い捲る。ジョコビッチは慎重にナダルとのストローク戦に対応し、果敢にネットにも出て、ナダルの反撃を封じた。第二セットの連取に成功し、ジョコビッチは決勝進出を決めた。
決勝戦はストレートであったが、長い試合だった。ある意味テニスの王道というべきオーソドックスなオールランドプレーで二人はがっちり組み合って、連続TBの激闘を繰り広げる。その接戦をモノにしたのはマレーだった。
グランドスラムを中継しているWOWOW解説の柳恵誌郎氏はマレーの才能を高く評価しながらもそのテニスはベルディッヒなど同様に「遅いテニス」と語り、今のテニスの主流はフェデラーやジョコビッチなどの「早いテニス」だと言って、今の主流ではないと言っている。ちなみにナダルのテニスはそのどちらとも違う独自のテニスだと評している。フェデラーやジョコビッチのテニスを「早い」と評するのはよくわかる。ライジングでボールを裁き、緩急をつけながらも展開は速く、攻守が表裏一体、同じコースを何度も打ち続けず、広くコートを使い、すきあらばすぐに攻め込み、ネットへもあっという間に詰め、大事なところではサービスエース・リターンエースを狙って取る。それに対してマレーやベルディッヒはゆっくりとしたラリーの中から突然ドカンと大砲を撃ってくるような感じだ。サフィンやロディックによく似ている。展開そのものが早いわけではない。それをして、「遅い」と評しているのだろうと如空なりに理解している。
「遅いテニス」は「早いテニス」には弱い、早い展開の打ち合いに巻き込まれると「遅いテニス」は威力を発揮できなくなるからだ。だがマレーはジョコビッチの早い展開に巻き込まれながらも我慢して耐え、自分のペースになったときに確実にポイントを取った。全体としてジョコビッチが押しながらも押し切れない印象が強かった。そしてTBで確実にポイントを先行し、大事なところで自分のペースでテニスをしたマレーは、この「早いテニス」と「遅いテニス」の競り合いに、際どくも、ぎりぎりで相手を上回ることに成功した。見事な勝利である。
マレーに関して、コーチのギルバートと別れたときに、ロディック同様「未完の大器」のままになってしまうのではないかと如空は思った。だが、マレーはその大器を自分なりに磨きをかけ、ようやくその才能を開花させつつある。下克上の戦乱が幕を開けようとしているのかもしれない。そんな予感をさせる2008MSシンシナティ大会であった。
2008年08月07日 戦乱の予感 WTA2008
戦乱の予感はATPだけでなくWTAにもヒシヒシと感じさせた。
真夏の北米ハードコートシリーズの大一番、ティアTモントリオール大会ロジャーズカップは三回戦で波乱が起きる。
杉山と対戦するはずだったシャラポワが棄権した。右肩の故障を悪化させ、このモントリオールだけでなく、北京オリンピックも全米も欠場しなくてはならなくなった。何のために去年、あれほど周囲の反発と非難を浴びながらもオリンピック出場資格を得るためにフェドカッップロシアチームのベンチに入ったのか。オリンピック直前での戦線離脱はさぞかし無念だろう。
そして第一シードイバノビッチが三回戦でノーシードの17歳バスゼックに敗れた。
エナンが引退し、シャラポワが戦線離脱、そしてNo1イバノビッチが3回戦で敗れた。第二シードヤンコビッチはQFに進出した時点でWTAエントリーランキングNo1になることが確定した。第18代女王の誕生である。だがグランドスラムタイトルがないばかりか、グランドスラム決勝進出すらはたしていないヤンコビッチの女王就任には厳しい目が向けられるだろう。そしてなったばかりの新女王は準々決勝でこれまたノーシードのチブルコワに敗れてしまった。
19歳のチブルコワはこの大会で第五シードディメンティエワ、第十二シードペトロワ、第二シードヤンコビッチを連破して勝ち進む。杉山を下して勝ち上がってきた第十シードバルトリをSFで下し、決勝まで勝ちあがって来た。反対の山では第七シードサフィーナが第四シードクズネツォワを突破し、SFでアザレンカも突破に成功、勢いに乗って決勝まで来た。
決勝は62 61の圧勝でサフィーナが優勝した。二週連続の優勝である。
残念ながらイバノビッチは圧倒的強者には今回なれなかった。これから週替りでNo1が入れ替わる戦乱の予感もする。だが鍵を握るのはセルビアコンビイバノビッチとヤンコビッチ、そしてロシアのサフィーナであろう。そしてこちらも週替りで現れるノーシードのルーキーパワーがそこに複雑に絡み合ってくる。そして追撃するその他のロシア勢、そして何度目かの復活を遂げ始めているウィリアムズ姉妹も絡んでくるだろう。波乱の後半戦の幕が上がったのである。その行方に注目していこう。