第079房 2008年全仏TV観戦記 (2008/12/16)
2008年05月24日 2008全仏ドロー
今年も全仏オープンが始まる。金曜日にドローが出た。例によって独断と偏見による無責任な展望を見てみよう。
男子はロディックが不在である。
男子の第一シードはフェデラー、彼の山であるトップハーフの上半分は第八シードガスケ以下、アンチッチ、カルロビッチ、ベネトー、ソーダーリン、モナコ、 バブリンカ、コールシュライバー、ボランドリー、ゴンザレス、アンドレーフ、ヤング、ジネプリと続く。実力者が集中したなかなかのタフドローである。今年 のフェデラーの状況では途中で躓く可能性は大いにある。それだけに毎試合が目の離せない山となった。
第四シードはダビデンコ、彼の山であるトップハーフの下半分は第五シードフェラーを筆頭にヨハンソン、サフィン、リュビチッチ、フェレーロ、モンフィス、 クレメン、ツォンガ、ロブレド、コリア、ステパネック、ヒューイット、カレリ、フィッシュ、サントロと続く。かつての王者や英雄など、こちらも実力者が 揃った。一回戦でダビデンコ対ヨハンソン、モンフィス対クレメン、ロブレド対コリアという注目カードがある。ダビデンコがこの山を突破するにはかなりの苦 労をすることになるだろう。SF進出はむしろフェラーの方に可能性がるようにも思える。誰が出てきてもおかしくないこの山で、しかし如空の注目は全豪SF で脅威のテニスを見せたツォンガである。
第三シードはジョコビッチ、彼の山であるボトムハーフの上半分は第七シードブレークを筆頭にバクダティス、ベルディッヒ、モヤ、クエルテン、マチュー、カ ナスと続く。危険な相手のいる山ではあるが、ジョコビッチが現在の力を発揮するれば順当に突破できるだろう。ローランギャロスに最も愛された男、全仏に過 去三回優勝のクエルテンは現役引退を表明している。最後の雄姿を見せてもらいたいものである。
第二シードはナダル、彼の山であるボトムハーフ下半分は第六シードナルバンディアンを筆頭にツルスノフ、アルマジロ・・・・・じゃなかったアルマグロ、 ハーバティ、アカスソ、マレー、ユーズニー、ベッカー、ベルダスコ、ニーミネン、キーファーという面々が揃った。こちらも危険な相手が多いが、ヨーロッパ クレーシーズンに入って復調したナダルを崩せるほどの力の持ち主は今のところ見当たらないと思われる。
トップハーフが厳しい。第三シードがボトムハーフ入ったにも関わらず、フェデラーの決勝進出はかつてない厳しさにさされだろう。一方でボトムハーフはジョ コビッチ対ナダルの準決勝が実現する可能性大である。ハードコートの世界だけでなくクレーコートの世界をも手に入れようと目論む「双頭の鷲」ジョコビッチ にとってクレーコートでの打倒ナダルは避けて通れない壁である。全仏4連覇に挑むナダルは今年も大本命だ。欧州赤土戦線を完全制覇した「赤土の覇王」ナダ ルは今年も赤土の上で高くそびえる難攻不落の城砦である。この城塞を突き崩さぬ限り、全仏タイトルは手に入らない。城塞を崩すのは誰か。そこまでフェデ ラーは勝ち進めるのか。ナダルは今年もタイトルを守りきるのか。大いに注目である。
女子は全仏覇者(しかも3連覇中であった)にしてNo1であったエナンの直前の引退劇でいきなり本命不在の混戦状態となった。
第一シードはシャラポワ、彼女の山である、トップハーフの上半分は第七シードディメンティワを筆頭にキリレンコ、サフィーナ、ズボナレワらロシア勢の実力 者が揃った。シャラポワ優位である事は変わりないだろうが、今季クレーでティアT初優勝を遂げたサフィーナの存在は要注意である。
第四シードはクズネツォワ、彼女の山であるトップハーフの下半分は第六シードチャクベターゼを筆頭にペトロワ、レザイ、スキアボーネ、アザレンカ、サバイ、ピアーという顔ぶれがそろった。順当に行けば実現するクズネツォワ対チャクベターゼは期待度が高い。
第三シードはヤンコビッチ、彼女の山であるボトムハーフの上半分は第八シードのV・ウィリアムズを筆頭にモーレスモ、バルトリ、ラドワンスカらが揃った。ヤンコビッチは比較的順当に進めそうに思われるがどうだろう。
第二シードはイバノビッチ、彼女の山であるボトムハーフの下半分は第五シードS・ウィリアムズを筆頭にスレボトニク、ラッザーノ、シュニーダー、バイディ ソワ、ボンダレンコ、ウォズニアキと続く。去年の全仏ファイナリストにして今年の全豪ファイナリストのイバノビッチは今回も強さを発揮するだろうが、いつ も突然強くなるセリーナ・ウィリアムズの存在は不気味である。
さて全豪を取り生涯グランドスラムに全仏タイトルのみと迫ったシャラポワは運が向いて来ている。その最大の障壁となるべきエナンが直前に引退しタイトル奪 取の可能性が大きく開けた。しかも繰り上がりでエントリーランキングまでNo1の座まで転がり込んできた。このチャンスを生かさない手はない。決してク レーが得意というわけではないシャラポワだが、ここは一気に駆け上がりたいところだろう。エナンに代って大きな壁となりそうなセルビアコンビ、ヤンコビッ チとイバノビッチが順当にいってもボトムハーフの準決勝でお互いを潰しあってくれるこのドローも有利だ。クズネツォワもまたエナンがいなくなって大きく チャンスが出てきたといえよう。去年までは大きな大会の決勝・準決勝でエナンによく止められていた。今年はロシア勢を突破すれば決勝が見える。トップハー フに集中したロシア勢同士の戦いにも注目が集まる。
WOWOWは全仏中継に力を入れている。デジタルもアナログも初日から全て5時間以上の生中継である。いやあ、しかし毎年思うのだが、この中継を初日から全てチェックできている人っているのだろうか。
とにもかくにも全仏である。初夏のパリ、赤土の上の大イベントである。熱戦を期待しよう。
2008年05月26日 2008欧州赤土戦線終盤
さて、日曜日に全仏オープンは開幕した。初日よりモヤダウン、ティブサレビッチダウン、バイディソワダウン、ラッツアーノダウンとシードダウンがあった が、総じて穏やかな開幕であった。今年から如空はWOWOWデジタルも視聴できるようになったので、日曜日の17:55からの4時間中継も少しだけ観戦で きた。イバノビッチとジョコビッチの初戦がそれぞれ中継されていた。イバノビッチは第二セットでややもたついたものの、強いテニスでストレート勝ちを納め た。ジョコビッチは第一セットを落とす苦しい立上りであった。当人も試合後のインタビューで「よくなかった」と言っている。しかし、それでも試合中に調子 を戻して3セット取れるところに彼の底力の充実を見る。更なる熱戦を期待しよう。
2008年05月26日 グガ、グガ、グーガー
なぜグスタボ・クエルテンGustavo Kuertenの愛称がGUGAのか不思議だった。以前ネットの記事か雑誌の記事でその詳しい由来の説明があったのを読んだ記憶があるのだが、内容をよく 覚えていない。だが、もうそんなことを気にする事はなくなる。グガがテニスのシーンに現れる事はもうないからだ。
ブラジルのクエルテンは1997年の全仏で、ノーシードからいきなり優勝した。それが彼にとってのツアー初タイトルであったというから驚きである。翌 1998年、全仏はモヤが優勝、1999年はアガシが優勝してアガシの生涯グラングランドスラムが達成された。そして、2000年、クエルテンは再びロー ランギャロスの決勝の舞台に戻って来た。如空がクエルテンの試合を映像で見たのはこの2000年の全仏が初めてであった。
QF対カフェルニコフ戦、SF対フェレーロ戦、決勝対ノーマン戦、どれも大接戦であった。特にSFのフェレーロ戦は全仏史上に残る名勝負であった。そして 運命の決勝戦、対戦相手でその年クエルテン最大のライバルだったマグナス・ノーマンは出足不調でショットのミスが相次いだ。クエルテンはほぼノーマンの自 滅でセットカウントを先行する。だがノーマンは徐々に落ち着きを取り戻し、本来の素晴らしいテニスを展開し始める。勝つためにはノーマンが完全に目を覚ま す前に勝利を確定しておかなければならない。クエルテンはスピンとフラットを使い分けたストローク力でノーマンを押す。ついに迎えたチャンピンシップポイ ント、ノーマンのショットがラインを割った、と判断したクエルテンはノーマンの元に試合終了後の握手をするためにネットに歩み寄ろうとした。そのクエルテ ンの背中に主審は「イン、オンザライン」の判定を伝えた。手に掴んだと思ったタイトルがまだ彼のものになっていない。ベースラインに引き返して猛然と抗議 するクエルテン、だが判定は覆らない。試合再開、怒りがおさまらないクエルテンはプレーに集中しきれない。そこに復活したノーマンが猛チャージをかける。 ついにノーマンに追いつかれた。このままノーマンに逆転されてしまうのか。観客席が騒然とする中、クエルテンは何とか気持ちを立て直し、最後の締めくくり を果たし切り、再び訪れたマッチポイントを決めた。零れ落ちようとしていた運命を強引に自分に引き戻して勝ち取ったタイトルであった。
このシーンは如空の頭の中に鮮明に刻まれている。ちょうどこの前年の1999年全仏女子シングルスの決勝でのシーンと対比して思い出す。この時、ヒンギス はグラフ相手にリードしているにもかかわらず、ラインジャッジのトラブルで自滅してタイトルを取れなかった。ヒンギスはジャッジトラブルから観客を敵に回 し、自らのテニスを見失い、崩れて行き、手に掴みかけたタイトルを取りこぼした。だがクエルテンは動揺しながらも、運命に逆らわず、天を呪うことなく、崩 れようとする内なる自分自身を必死に立て直し、自らの力で自分から離れた運命をもう一度自分の手に引き戻し、掴みかけたタイトルを決して離さなかった。陽 気で明朗な表情の奥底に隠された彼の強い気持ちがもたらした偉大なる勝利であった。
クエルテンはこの2000年に年間最終ランキングでNO1を勝ち取ることになる。この年のグランドスラムタイトルホルダーは全豪アガシ、全仏クエルテン、 全英サンプラス、そして全米サフィンである。正確な記録と経緯はよく覚えていないのだが、この年は最終年間ランキングNo1の決定が最終戦までもつれた。 最終戦マスターズカップ、クエルテンはそこでとNo1の座をかけて戦った。決勝戦、相手はアガシ、勝てばNO1がクエルテンに決まる大一番、クエルテンは 3セット連続6-4という会心の出来で勝利を掴む。まさに自らの力で勝ち取った年間王者の称号であった。紙吹雪の舞う中、ブラジルの国旗に身を包み、天を 仰いでトロフィーを胸に抱くクエルテンの姿は美しかった。
クエルテンの武器はトップスピンのつなぎ球から突如として打ち出される高い打点からのフラットであろう。全仏初優勝した頃はトップスピン打法だけだった が、後年、高い打点からの打ち込みが出来ようになり、クレーだけでなくハードコートでも勝てるようになった。またサーブが強かった。体全体がしなるように 打ち出されるサーブは回転・速度・コース共にトップクラスの威力である。クエルテンはよく「ふにゃふにゃ」した印象を持たれる。細長い手足によるものだろ うが、特に特徴的なのは右手の柔らかさであろう。サーブでもフォアハンドでも多くの選手の場合、手首を固めて肘を支点に回転させるか、肘を固めて手首を回 転させる。もちろん固めるといっても完全に固定するのではなく、肘の方が手首より大きく回転するタイプと手首のほうが肘よりも大きく回転するタイプの二種 類のどちらかに属する選手が多いという言い方のほうがより正確かもしれない。クエルテンが特殊なのはサーブでもフォアハンドストロークでも、スイングの時 に右手が手首と肘の両方で大きく旋回するのである。だから右手がふにゃふにゃしながら打っているように見える。いやいえるだけでなく、実際にふにゃふにゃ しているのである。この力が抜けているように見えるスイングから鋭いショットが繰り出されるのが、クエルテンの最大の魅力であった。またバックハンドでも ホラー映画のエクソシストのように首から上は前を向いているのに、首からは下は後ろを向いているように見える(あくまで見えるである)ほどに体を捻ってか ら打つ特徴的なスイングの持ち主であった。クエルテンはそのふにゃふにゃ打法から打ち出されるストロークとサーブで赤土だけでなく、世界をも征したのであ る。
2008年WOWOW全仏中継アナログ、そしてデジタルの番組後半版の初戦はこのクエルテンの引退試合の中継であった。2001年にコレチャを破って全仏 優勝を決めた後、コートにハートマークを描いてその上で寝転んだ有名なシーンが試合中継の合間に流されている。全仏の観客からも愛されていた。この最後の 全仏初戦の相手は地元フランスのマチューであったが、観客席はグガファンで埋め尽くされて、グガコールが鳴り止まなかった。それでもマチューはストレート でクエルテンを破り、彼のキャリアに終止符を打った。第三セット、クエルテンのサービスゲームが破られ、マチューのサーブイング・フォー・ザ・マッチが訪 れようしている時に、観客席ではウェーブが起こった。その間、皆から愛されるクエルテンは地元で敵役を引き受けることになってしまったマチューのベンチに 歩み寄り、試合の最中にもかかわらず、ウェーブの間中、笑い合いながらマチューの肩に手をかけていた。
こうしてローランギャロスに最も愛された男はコートを去っていた。グガのこれからの人生に幸多かれと祈りたい。
2008年05月27日 2008全仏二日目
雨で半分しか予定を消化できなかった全仏二日目、バクダティス・カナス・ボンダレンコがシードダウンした。 WOWOWの中継でサバイと森田の試合を途中から録画中継していた。サバイはサーブの調子が悪く、付け入る隙はあったと思う。一方で森田はサーブとスト ロークでスピードの速いスイングをブンブン振り回し、打ち合いを挑む。フットワークもよく、足が小刻みに動くのが映像からも見て取れた。後半からはポイン トの取り方も悪くはなかった。ファイナルも3-0リードまで行くのだが、そこでちょっとしたミスで流れを変えてしまった。森田にしてみれば悔やまれる敗北 だろう。
2008年05月27日 2008全仏三日目
雨で三日目も進行が遅れた全仏、日曜日開催をしたにもかかわらず、一回戦を最初の3日で消化しきれず、四日目以降に 持ち越された。ナダルの一回戦もまた順延、ナダルは去年のウィンブルドンに続いて今年の全仏でも雨にたたられている。消化された一回戦の中では特に大きな シードダウンはなかった。
雨で生中継できる試合がないために、WOWOWは前半を前日の森田とバクダティスの試合を放送した。後半登場したのは中村である。中村はグランドスラムの 初戦でトップシードとぶつかることが多い。今回も相手は第二シードクズネツォワである。中村は高い打点からのフラットドライブで打ち合いを挑むのだが、緩 急自在のクージーはその鋭いスイングで中村を先に振ってオープンコートに強打を打ち込んでくる。サーブの威力の差も大きく、中村はストレートで見事に押し 切られてしまった。中村はもう少し回転系のショットが欲しいところだろう。スライスとトップスピン(中ロブ)を織り込めばもう少しポイントが取りやすくな る。一方でクージーは万全、サーブも強い、リターンも強い、ストロークは鋭い、ネットでも安定、充実したテニスである。エナンという重石が除かれた今、頂 上まで駆け上がるべく、その野心をあらわにしたクズネツォワがどこまで行くか、注目していこう。
2008年05月28日 皇帝はどこへ行った フェデラーのガリア戦記2008
グランドスラムタイトルホルダーにしてエントリーランキングNO1を経験した選手を如空は「王者」と呼ぶ。サンプラ スも、アガシも、クエルテンも引退した。ATPにおいて現役の王者は如空の知る限りモヤ、サフィン、ヒューイット、ロディック、フェレーロ、そしてフェデ ラーの六人である。ジョコビッチもナダルもグランドスラムのタイトルホルダーでありながらエントリーランキングでNO1になっていないために、如空の定義 するところの「王者」にはなれない。ナダルとジョコビッチが今までにたたき出しているポイントは十分過去の王者たちに比べて遜色ない数値である。しかし、 フェデラーと同じ時代に生まれてしまったがために、彼らは王者にはなれない。そしてフェデラーがNO1になってからグランドスラムタイトルを取れたのは、 ジョコビッチとナダル以外では、わずかに2005年全豪サフィンと2004年全仏ガウディオだけ、マスターズカップも2005年のナルバンディアンだけで ある。2007年と2008年は全仏をナダルに譲っただけで、リトルスラムを連続して達成し、マスターズカップも連覇した。それほどまでに圧倒的な存在で あった。だからこそ、このATPに君臨する圧倒的強者の存在を形容する言葉に「王者」という言葉は余りに役不足であると思い、2004年の全米を制して自 身初のリトルスラム(GS四戦中年間三勝)を達成した時に、如空はフェデラーのことを王達をも従える「皇帝」という称号を与えて、今日に至る。
だが今、コートの中にいるフェデラーは如空が「皇帝」と呼んだ男ではない。
「単核症の感染により、今季に入って不調の続くNo1フェデラー」と報道では言われているが、フェデラーの全豪SF敗退とその後のマスターズシリーズ今季 無冠の原因は病気によるものだけだろうか。去年の後半と今年の前半でフェデラーのプレーに大きな違いはあるだろうか。如空の目には違いは見受けられない。 病気だけではない、対戦相手がいきなり成長したわけでもない、緩やかな衰えがフェデラーに迫りつつあるのではないだろうか。
フェデラーは去年、マスターズシリーズで大苦戦した。グランドスラムでも、2008全豪こそ失セット0優勝という驚異的な強さを発揮したが、以後全仏は決 勝敗退、全英はナダル相手にフルセットの死闘、そして全米決勝もストレートではあるが、ジョコビッチに試合内容で押されつつあった。2007全豪の時点が フェデラーのキャリアの中でもその強さがピークであったと思う。その直後のMSインディアンウェルズ・マイアミの対カナス戦の連敗から緩やかな衰退が始 まっている。もしもフェデラーが復活することなく、大きな大会で優勝できずに、このままずるずるとポイントを失って行き、NO1を陥落するようなことがあ れば、カナスの連敗が「終わりの始まり」だったと言われることになる、という如空の予言が不幸にも的中してしまうことになる。
苦戦するだけでなく、結果としての連続勝利、つまり優勝が出来なくなった。フェデラーは今でも強い、だが圧倒的に強いわけではない。圧倒的強者でなければ「皇帝」とはいえまい。
衰えが「緩やか」であることが問題を厄介にしている。突然連続で初戦敗退の大スランプ、とか怪我による長期の戦線離脱、あるいはフェデラーおもしのぐ強力 な選手の出現、などわかりやすい事象があれば、原因を探り、その対策を練り、実行し、実現できれば更なる高みに上れるだろうし、実現できなければ出来な かった己の無力を恥じればいい。だが、今のフェデラーは何が原因で「少しだけ弱くなった」のかが理解できていまい。如空にもそれはわからない。少なくても 単核症の感染だけが原因ではないだろう。病気なのだから体力は落ちる、集中力も切れる、技術にも正確さを失う。だがそれは去年の春先から同じようなテニス の内容であったと如空は思う。TV中継の画面の中のフェデラーを見ての素人の印象でしかないが、そう思う。だから病気は数ある原因の一つではあるかもしれ ないが、決定的な原因ではない、そう見ている。小さな、ほんの小さないくつかの不具合が連鎖してフェデラーの身に起こっており、強さを圧倒的なものでなく してしまった。そう思う。
圧倒的強さを何年も維持し続ける事は非常な困難を伴うことだ。ここまでNO1を続けていたこと自体が奇跡とも言える。「少しだけ弱くなった」ことは時間と ともに訪れる不可避の現実かもしれない。またこれは一時的な状態で、フェデラーは再び圧倒的強者に戻るかもしれない。先の事はまだ誰にもわからない。だが 全仏突入時点で去年までの強さを持ちあせていない事は事実だろう。
この厄介な状態で、フェデラーは今年もガリア(フランス)の地に乗り込んできた。目指すは全仏タイトル、これさえ取れば生涯グランドスラムが達成される。 No1在位期間の長さを見ても、稼ぎ出したポイント数・勝ち星・タイトル数・賞金額、どれをとっても彼の記録は偉大であり、グランドスラムのタイトル数も 12でサンプラスの14まであと二つと迫っている。これほどの強さを持ちながら、それでも果たせぬ生涯グランドスラムとはどれほど高い山なのだろうか。ク レーのタイトルも持ち、クレーは苦手ではないどころか得意と言ってもよい。だが全仏は二度も決勝に進んでいながらつかめぬタイトル、赤土の覇者ナダルが守 り続ける全仏タイトルは、フェデラーにとって、今年はさらに高い山になっているのではないだろうか。それでも挑まなければなるまい。なぜならば、彼が最も 耐えられない事は自己蔑視であろうから。
そしてローランギャロスで全仏は開幕した。
2008全仏一回戦
フェデラー 64 64 63 クエリー
スコアだけ見ればストレートの完勝であるが、WOWOWで中継された映像を見る限り、やはり不安要素は多々あった。クエリーはシードこそついていないが、 その実力は事実上シード選手であろう。初戦の相手としてはなんとも厳しい。ビックサーブにビックフォア、ライジングでさばく独特の両手うちバックハンドか ら繰り出されるアングルショットは見事である。フェデラーは前半は自身のショットに自信が持てないのか、少しもたつき、クエリーにサーブを破られたりして やや不安定であった。後半になると調子を高いレベルに安定させることに成功した。彼の代名詞である回り込みのフォアハンドからの連続攻撃も何度も見られ た。回り込むときにサイドステップでピョンピョン飛び跳ねて回るあの独特のフットワークが何度も見られた。ウィナーも量産した。だが後半調子を上げたのは クエリーも同様で、その強打にフェデラーが押し込まれるシーンも多々あった。またクエリーは武器であるサーブの確率がこの日前半が悪く、そこに助けられた 部分もあった。
具体的なプレーに目を移せば、フェデラーの「少しだけ弱くなった」部分というのはディフェンスであると思う。強い時のフェデラーはプレーが攻守一体で、攻め込んできた相手のウィナー級のショットを見事な切り返しで逆に自分のポイントにしてしまう。そして、相手に行きかけていた流れを強引に自分の元に引き戻 す。この攻守一体のプレーがあまり見られなくなった。相手に攻め込まれると防戦一方になって、押し切られるシーンも増えた。守備力が落ちた状態で攻撃力までが落ちると、勝てなくなる。こうして負けてしまうパターンが少し増えた。一回戦のクエリー戦もその兆候が多々見られた。幸い攻めが後半完璧で崩れなかったからストレートで押し切れたが、ナダルやジョコビッチ相手ではそうは行くまい。
最後まで攻めきれるか、そして守り抜けるか。自分を信じて貫くことが出来れば、タイトルは取れる。その延長線上には生涯グランドスラムがある。
フェデラーの挑戦がまた始まった。今年もその過程を書く。今年も結末の予想はつけにくい。
過去の記事はこちら
フェデラーのガリア戦記 2005
フェデラーのガリア戦記 2006
フェデラーのガリア戦記 2007
2008年05月29日 2008 全仏四日目
二日間降り続いた雨もようやく上がり、遅れたスケジュールを取り戻そうとする全仏四日目、一回戦ではカルロビッチ、フェレーロ、バルトリ、ペア、バンマーらがシードダウンした。二回戦はベルディッヒがダウンである。
WOWOWの放送は前半193chがシャラポワとナダル、 後半191chがイバノビッチとジョコビッチであった。
シャラポワは危なかった。ファイナル6-6になった時には第一シードの初戦敗退が起こるのかと場内が騒然としていた。強風にトスが乱れてサーブが不安定に なった。シャラポワはファーストだけでなくセカンドも確率が悪く、ダブルフォールトを連発した。よくもあの状態で勝ちきったものである。
一方で二回戦に進んでいるイワノビッチは強かった。攻めが早い、すぐにコースを変える、あっという間にコートの中に入ってライジングで打つ、どんどん早く なっていく展開に相手はついていけずに振り切られた。球足の遅いクレーでもあの早い展開ができるイワノビッチは、今驚異的に強さを増している。
ところでイワノビッチは全豪と同じ鮮やかなサーモンピンクのワンピースで登場しているが、シャラポワは濃紺に白ラインというウェアで登場している。あの濃紺に白はナイキの新色かね、フェデラーのウェアもそうなっている。ウェアの主張も見ていて楽しい全仏である。
2008年05月30日 2008全仏五日目
男子はナルバンディアンダウン、ブレークダウン、アンドレーフダウン。女子はチャクベターゼダウン、キリレンコダウン、モーレスモダウン、杉山ダウン、なにやら波乱含みの全仏五日目である。トップ四シードは男女とも安泰、シャラポワの試合は翌日に持ち越された。
WOWOWの中継は193CHがヤンコビッチとナダル、191CHが杉山だった。試合内容は結果通りとしか言いようのないはっきりした流れの試合であった。
ところでWOWOWの中継で初戦敗退した森上のインタビューがあったが、あの気の強い彼女が涙目で苦しい現状を語っていた。足の故障が相当にひどいようで、見ていてつらかった。治るものであるならば、早く治って
2008年05月31日 2008全仏六日目
順当に勝ち進んでいるシード同士がぶつかる3回戦、ナダルはニーミネンを突破した。マレーはアルマグロに止められ、 ユーズニーはベルダスコに止められた。ジョコビッチは順当である。女子はツルスノフもダウンした。イバノビッチはウォズニアキを突破、ヤンコビッチもチブ ルコワを突破した。だがセリーナ・ウィリアムズはスレボトニクに、ヴィーナス・ウィリアムズはベネッタに止められた。
シャラポワはまだ二回戦を戦っている。サーブの入りが悪く、またフルセットにもつれたがそれでも何とか突破した。シャラポワには期待を寄せていたが、今のところ、苦しい展開である。果たしてこの先に待つシード勢を彼女は突破できるだろうか。行方に注目していこう。
2008年06月01日 誤算と期待 フェデラーのガリア戦記2008
2008全仏二回戦
フェデラー 67 61 60 64 モンタネス
2008全仏三回戦
フェデラー 63 64 62 アンチッチ
二回戦、モンタネスに第一セットをTBの末に落とした。だがそのことが結果としてフェデラーの目を覚まさせたのだろうか。そこからは圧倒であった。三回戦 の対アンチッチ戦も順当で隙なしである。三回戦はWOWOWで中継されていたので、映像を見ることができた。アンチッチはトップランカーであった頃の強さ を徐々に取り戻しつつある。三回戦で当たるには厄介な相手でフェデラーにはタフドローだと予想していたが、内容では見事にアンチッチを押さえ込んだ。ギア をトップに上げているという感じではないが、全てのプレーでフェデラーはアンチッチを上回り、そしてスコアでも上回った、そんな感じであった。サーブが強 い、ドロップショットのキレは見事、何よりフォアの逆クロスのキレが良かった。特に第二セットのブレークゲームで見せたフォアハンド逆クロス三連打は見事 だった。最初はスピンでややセンターより、次がコーナーにフラットドライブ、そして最後はためを作ってストレートもあるぞと見せてからサイドラインに鋭く 打ち抜く。徐々にスピードが上がり、徐々に角度が厳しくなる、理想のフォアハンド逆クロスの連続攻撃であった。
強い頃の安定感を徐々に発揮しつあるフェデラー、彼のドローは今回タフであると思われたが、実際はどうだろう。3回戦が終わったところで残りの4回戦、準々決勝、準決勝の展望を見てみよう。
フェデラーの四回戦の相手はノーシードのベネトー、準々決勝はゴンザレスとジネプリの勝者である。強打のゴンザレスは南米育ちでクレーを得意にしている。 去年、全豪で決勝にまで進んだ、何より去年末のマスターズカップでフェデラーを一度破っている。一度負けた相手は再戦で圧倒するフェデラーである。ここで 圧倒できるか、苦しむか、ここが大きな分岐点であろうが、今のところのフェデラーのテニスがそのまま発揮されればまず突破は可能であろう。
順当に行けば準決勝の相手となるはずの第四シードダビデンコが三回戦で敗退した。ダビデンコはフェデラーにとってお得意様、未だに負けていない。ダビデン コが上がってきてくれた方がフェデラーにとってはよかったかもしれない。だが今年は事故が多い、ダビデンコも同じように連敗中であったナダルに勝ってMS マイアミを取ったところだし、ここは避けて通れたことはラッキーであったかもしれない。さて本来ダビデンコの山であったトップハーフの下半分はリュビチッ チ、モンフィス、ステパネック、フェラーの四人が勝ち残っている。順当に行けばフェラーだが、フェデラーはガンガン打ってくるフェラーとは相性がいい、 ビックサーブのリュビチッチもそうだ。問題はMSローマまで土を付けられたステパネックであろう。フェデラーはオーソドックスなプレーをするタイプには強 いが、変則的テニスをする相手には、時に苦戦して、時に敗れる。十分な注意と変則技に惑わされない強気の攻めが発揮されれば、それでも突破してきてくれる ことだろう。
願わくば、最強のフェデラーを決勝のコートに立たしてほしい。それが可能であるかのように見受けられる全仏の第一週であった。期待通りに進むことを祈っている。
22008年06月01日 008全仏七日目
第四シードダビデンコ、フルセットの末にリュビッチに敗れる!ロブレドもステパネックに敗れた。バブリンカもゴンサレスに敗れた。男子は結構下克上である。女子はサバイがダウンしたくらいであとは順当であった。
WOWOWデジタル193chで少しだけフェラー対ヒューイットを中継してくれていた。第三セットを終わってヒューイットがセットカウント2-1でフェラー相手にリードしている。おお、ヒューイット来るか、2004年のクレー快進撃の 再来かと期待した。実際画面の中のヒューイットはいいテニスをしている。サーブがいい、ストロークの強打がいい、それを生かすつなぎの球の緩急がいい。これはフェラーも苦戦するだろう。そう思ってみてたら、試合途中で時間が来たので、中継は中断された。後でネットで結果をチェックするとフェラーはあそこか らフルセットマッチに持ち込んで逆転勝利を掴んだらしい。テニスは最後までわからない。
2008年06月02日 2008全仏四回戦ボトムハーフ
全仏はボトムハーフの四回戦が行われた。全仏と全英は大会進行を順序よく消化するからわかりやすくて好きだ。男子は ジョコビッチ、ナダル、アルマジロ・・・・じゃなかったアルマグロ、ガルビスがベスト8に進んだ。女子はイワノビッチ、ヤンコビッチ、シュニーダー、スア レス・ナバロがベスト8に進む。
ヤンコビッチ対ラドワンスカ戦はWOWOWで放送されていたので少し見たが、ヤンコビッチがリードしながら、最後の第二セットの終盤でラドワンスカに猛追 を受けて、勝利がなかなか確定せず、苦しんでいた。ヤンコビッチは途中で右腕が不調になったらしく、途中で勢いを失った。一方でラドワンスカがいいテニス を後半にして追い上げたため、ストレートながら苦しい展開であった。今回は負傷も原因なのでやむ得ないところもあるが、ヤンコビッチはここぞというときに ギアをあげる余力を持たずに試合をして、後半苦しむ場面が多い。いいとこまでいくのに優勝できないときはというのは特にその傾向がある。ギアを途中であげ ることができる更なる力を身につければ、もっと強くなることだろうに。今回の右腕の故障が大事にならなければよいが。
さて今日はトップハーフの四回戦である。男女とも第一シードが勝ち残って登場である。フェデラーはいい感じになってきているが、シャラポワは不安定な上に 不安だらけである。このあたりでしっかりと勝ちきりたいだろうが相手はクレーシーズンに入って調子を上げてきたサフィーナである。どういう試合になるか、 ここは要注目である。
2008年06月03日 QFへ 2008全仏四回戦トップハーフ
深夜残業の末、午前様で帰宅、家族はもう寝ている。眠いので、すぐにベッドに入りたいなあ・・・・と思いながらTVをつけた。そのTVの液晶画面の中で、シャラポワが追い詰められていた。
2008全仏四回戦
サフィーナ 67 76 62 シャラポワ
如空がTVをつけた時点でファイナルセット5-2、サフィーナが勝利まで後一ゲームというところまで迫っていた。第一シード陥落寸前の場内は騒然としてい た。ウェーブも起こる。何が起こっているのか、一瞬わからなかった。第八ゲームはシャラポワのサービスゲーム、しかし、シャラポワのダブルフォールトにサ フィーナのストレートのウィナー、そしてシャラポワのミスと、あっという間に0-40のブレークポイント兼マッチポイントとなる。さらに騒然となる場内。 ここでシャラポワは一本ドロップショットを入れてポイントを取る。15-40、ここから奇跡の逆転なるかと見ていたが、次のポイント、フォアのクロスラ リーで、サフィーナの強打に抗し切れずにラインオーバー、第一シードは敗退した。エナンの引退で繰り上がりの女王となり、全豪タイトル奪取で生涯グランド スラムに王手をかけたシャラポワが負けた。
この試合、第一セットは競り合い末、最後はTBをものにしてシャラポワが先行した。第二セットはシャラポワリード5-2で勝利まで後一ゲームまで迫ってい た。そこからサフィーナがひっくり返した。あの「強いハートが武器」と言われるシャラポワをここまで追い込んだのはサフィーナの全身でねじ込んでくる豪打 であった。
女子はサフィーナの他にディメンティワもフルセットマッチ末ズボナレワを下しベスト8進出を決めたが、クズネツォワ対アザレンカ、カネビ対クビトバ戦は中断となり決着がついていない。雨の一時中断に加え、フルセットマッチが押してきたためである。
男子は四回戦を全て消化した。フェデラーはベネトーを下し、モンフィスがリュビッチを下した。ゴンザレスもジネプリを撃退、フェラーはフルセットマッチの末、逆転でステパネックに勝利した。男子はベスト8が出揃った。QF(準々決勝)の組み合わせは
フェデラー対ゴンザレス
モンフィス対フェラー
ガルビス対ジョコビッチ
アルマグロ対ナダル
となった。なかなか興味深い組み合わせである。ゴンザレスは去年のマスターズカップ対フェデラー戦勝利の再現なるか、地元期待のモンフィスは連続フルセッ トマッチで疲れているであろうフェラーの突破なるか、次世代クレーキング候補筆頭のアルマジロ・・・・じゃなかったアルマグロは現時点の赤土の覇者ナダル の攻略なるか、そして「ラトビアのガルビスってだれだ?」とまだあまり知られていないガルビスは打倒ジョコビッチを成し遂げてその存在感をアピールするこ とができるか。いよいよ準決勝である。熱戦を期待しよう。
2008年06月04日 2008全仏QFボトムハーフ
2008全仏QF
ナダル 61 61 61 アルマグロ
ジョコビッチ 75 76 75 ガルビス
おい、マグロ、じゃなかったアルマジロ、でもなかった、アルマグロ、まじめにやらんか。期待していたのに、それに応えるだけの力もあるのに、完全に力んでしまって自滅して、途中で試合投げていただろう。まったく、アルマグロにはサフィンやガウディオと同じ匂いがするぜ、ぷんぷんするぜ。同じ匂いがするということは、同じように突然グランドスラムタイトルを取ったりする可能性もあるわけだ、期待しているぜ、まったく。
ジョコビッチはナダルと同じストレート勝利、だがスコアと内容は全然違った。こちらは映像を見ていないのでよくわからない、ガルビスにややエラーが目立ったらしいが、それでも3セット連続で5-5まで言っているわけだろう。かなり競った試合だったのではないか。
イワノビッチ 63 62 シュニーダー
ヤンコビッチ 63 62 スアレス・ナバロ
イワノビッチ強い、シュニーダーが緩急をつけてイワノビッチを揺さぶろうとするのだが、イワノビッチは一度タイミングを合わせると、その後はもう崩れない。最後まで早い展開のテニスをやりきり、圧勝した。あれは強い。
ヤンコビッチは奇しくもイワノビッチと同じスコアで勝ち上がってきた。さて、いよいよ女子ボトムハーフはイワノビッチ対ヤンコビッチのセルビア対決であ る。対戦成績ではイワノビッチが圧倒的優位である。今回も同じように行くのか、ヤンコビッチが苦手を克服するか。今のところイワノビッチに死角はなさそう である。
2008年06月04日
今現在の力量 フェデラーのガリア戦記2008
2008全仏四回戦
フェデラー 64 75 75 ベネトー
WOWOWで少しだけ放送されたが、全容を観戦できなかったので、詳しい内容まではわからない。だがこのスコアを見て、ストレートの快勝と見るか、3セット連続で競り合いになったと見るか、難しいところである。
フェデラーは相変わらず、クレーの上でも、サーブの力は強い。また早い段階での攻め、3球攻撃などの速攻では圧倒的な力を発揮している。だが問題は少し甘 くなったディフェンス、それに伴い、長いラリーでのポイント獲得率が落ちた。それが波を相手に渡さず、自分に引き寄せる布石になっていた粘りを少なくして しまい、やや苦しくなっているように思う。
さあ、次はゴンザレスだ。去年の全豪決勝のように圧倒できるか、あるいは去年マスターズカップのラウンドロビンのように競り合いになってしまうのか、フェデラーの今現在の力量を見極めるのにいい試合になりそうである。
2008年06月05日 近づく対決 迫る対決 フェデラーのガリア戦記2008
2008全仏QF
フェデラー 26 62 63 64 ゴンザレス
第一セット、ゴンザレスの強打にフェデラーも強打で対抗しようとした。だが明らかにオーバーパワーでミスを多発、自滅してフェデラーはセットを落とした。 第二セット、慎重に相手を動かして、オープンコートにコントロールショットを入れる戦術でポイントを稼ぎ、それ以降は安定した内容で3セット連取して、ゴ ンザレスを下した。だが第二セットから第四セットまで、強打の猛攻を仕掛けようとするとミスになって、完全には波に乗れ切れていなかった。
WOWOW試合中継の解説によると、四回戦の対ベネトー戦では各セットでフェデラーは先行した。だがサービング・フォー・ザ・セットを迎えたところで、 サービスゲームをキープできず、ベネトーにブレークされて、競り合いになったらしい。フェデラーの試合後の会見でサーブが三回戦までと違って不調であった と述べている。
サーブやハードヒットが日によって波がある。ディフェンスにもやや甘さがある。全ての不安要素が一試合に集中して発現すれば、フェデラーは負ける。だが不 安要素の一つくらいが発露したくらいでは問題ない、強いときの皇帝のテニスができる。皇帝のテニスができれば負けない。少なくともここまでは。
準決勝は予想外の相手となったといってよいだろう、フランスのモンフィスである。彼はまだ若い。日に日に成長し変化していっていることだろう。予想しつらい相手であるからこそ、強いテニスで圧倒したいところだ。長引けば相手のペースにされてしまう、それは今のフェデラーは避けたいところだろう。
関心事がもうひとつ、フェデラーのいないところで大一番が迫っている。ボトムハーフの準決勝ナダル対ジョコビッチである。第三シードジョコビッチがトップハーフでなくボトムハーフに入った事はフェデラーにとっては幸運であった。ドラマティックな展開としてSFで第三シードジョコビッチ撃破、決勝で第二シー ドナダル撃破、生涯グランドスラム達成というストーリーを期待したいところだった。だが、天は今回ジョコビッチをナダルとの対決に導いた。フェデラーはSFを突破し、後は決勝で挑戦者を第一シードとして迎え撃てばよい。ナダルが牙城を守るのか、ジョコビッチが切り崩して来るのか、その結果はフェデラーの 覇業に大きくかかわることになる。だが、フェデラーは今、双頭の鷲と赤土の城塞の対決に関心を奪われることなく、目の前の相手、モンフィスの挑戦を迎え撃つことに専念していることだろう。運命の対決は徐々に迫っている。
2008年06月05日
2008全仏QFトップハーフ
2008全仏QF女子
クズネツォワ 75 62 カネピ
サフィーナ 46 76 60 ディメンティエワ
トップハーフのSFはクズネツォワ対シャラポワ・ディメンティエワのロシア勢対決になると思っていた。ロシア勢対決は実現したが、クズネツォワの対抗馬と して勝ち上がってきたのはシャラポワとディメンティワを連破したサフィーナである。どちらも逆転勝利であった。全仏直前のベルリンでティアTクレー大会の 優勝を飾っている。この勢いは本物だろうか。SF対クズネツォワ戦は注目であろう。
QF男子
フェデラー 26 62 63 64 ゴンザレス
モンフィス 63 36 63 61 フェラー
地元モンフィスが第5シードのフェラーを破った。モンフィスのテニスは数年前にTVで映像を見ただけだが、あれ以降、彼は進化したのだろうか。SFでいかにフェデラーに立ち向かうのか、よく見ていたい。
2008年06月06日 ロシア勢とセルビア勢、それぞれの強いテニス
2008全仏女子SF
サフィーナ 63 62 クズネツォワ
イワノビッチ 64 36 64 ヤンコビッチ
逆転ではなくストレートでサフィーナは第二シードを下した。凄まじいまでの勢いである。あれだけのハードヒットの集中砲火がほとんどミスなしで打ち込まれ るとクズネツォワといえど攻し切れまい。今まで大砲が火を噴いても序盤は弾が当たらず、後半になって入りだした。その結果の逆転劇であったが、今回は最初 からその大砲はウィナーとなってラインを抜きていった。ディフェンスでの粘りと、守りから攻めに一撃で転じる豪打、繊細さと力強さをかね合わせたサフィー ナのテニスは見事だった。クズネツォワは最初からエンジン全開のトップギアで攻めるべきであったと思うが、なぜか様子見の静かな立ち上がりであった。そこ にサフィーナのハードヒットがいきなり入ってきたので、対抗する手を打つ間もなく、試合を終えられてしまった。
シャラポワ・ディメンティワ・クズネツォワというロシア勢主力に連勝した。しかもエナンの引退した今、クレーでは最強であろうと目されるクズネツォワをストレートで破った。本物になりつつあるこの勢いを保ったまま、サフィーナは決勝戦に乗り込む。
その決勝戦でサフィーナを迎え撃つことになったのはイワノビッチである。
注目のセルビアコンビの対決はフルセットにもつれた。第一セットの序盤こそ固さの見られたイワノビッチであるが、ストロークのタイミングが合い始めると一 気に攻め込み、第一セットを先取した。問題は第二セット、やはりSFでの意識が過剰なのか、少しショットが乱れがちなイワノビッチに対して、堅実なショッ トで対抗し続けたヤンコビッッチは果敢に攻め、セットオールに戻す。ファイナルは一進一退、互いにサービスゲームでブレークが2回、キープが2回で4-4 まで競り合った。第九ゲーム、イワノビッチがサービスゲームをキープした。この土壇場で先行したイワノビッチは、第十ゲーム、リターンから攻める。フォア のクロスがヤンコビッチの眼前を駆け抜ける。イワノビッチ先行、さらに攻める。フォアを打つ、ミスしてもまた打つ、そのショットに迷いはない。セットポイ ントが来た。そして自ら打って決めた。今年も決勝への切符をイワノビッチは手に入れた。
球足の遅くなると言われるクレーであれだけ早い攻めを続けることができるイワノビッチの強さもまた本物である。特にあのフォアの逆クロスは威力があるだけでなくスイングフォームもコースも弾道も全てが美しい。
強いテニスを引っさげて、サフィーナとイワノビッチが決勝でぶつかる。共に同胞対決を乗り越えて来た二人、どちらが勝ってもグランドスラム初優勝である。 GS決勝初進出のロシア・サフィーナか、GS決勝三度目の正直となるかセルビア・イワノビッチ、強いテニスがぶつかる。女子決勝は注目である。更なる熱戦 を期待しよう。
2008年06月07日 あいつが待っている フェデラーのガリア戦記2008
去年の全仏優勝後、今年のヨーロッパクレーシーズンが始まるまで、ナダルはトーナメントで優勝できなかった。ナダル がNO2になってからの成績を考えると、今季はクレーシーズン以外ではもっとも出来の悪いシーズンであったといえる。その間、ウィンブルドン決勝での対 フェデラー戦でのフルセットの末の敗北、全米QFでの対フェラー戦の敗北、そして今年全豪SFでの対ツォンガ戦での惨敗、MSマイアミ決勝対ダビデンコ戦 での惜敗など、常人であるならば大きな傷になったであろう苦い敗北を経験してきた。だが、ナダルは常人ではない。欧州赤土戦線と如空が呼ぶヨーロッパク レーシーズンが始まると、それまでの苦戦などまるでなかったように、クレー最強のテニスが戻ってきた。MSモンテカルロで優勝、MSローマでこそ、足元を すすくわれたが、それでもMSハンブルグでは初優勝を遂げて、欧州赤土戦線の完全制覇を成し遂げた。そして全仏オープンが始まると、その強さはさらに勢い を増していった。
MSハンブルグSFでナダルはジョコビッチに追い詰められていた。エントリーランキングではこの試合で負ければNo2とNo3の交代が起こるところであっ たし、試合内容でもナダルはジョコビッチに押されていた。クレー最強のテニスにジョコビッチは互角に渡り合う。ハードコートだけでなくクレーでもその覇権 を狙う「双頭の鷲」ジョコビッチは、それだけの力がクレーであることを知らしめていた。ナダルは、際どい接戦の末にジョコビッチを退けたが、次の対戦では ジョコビッチに追い抜かれるかもしれないと、そう思われた。
ナダルはその予想を見事に覆して見せた。
2008全仏男子準決勝第一試合
ナダル 64 62 76 ジョコビッチ
ジョコビッチ自滅、明らかに力みがあった。左利きのナダルに対して、そのバックハンドにボールを集めるためのバックハンドダウンザラインが、ことごとく ネットにかかる。そしてサーブも不調、第一、第二セットをナダルに渡してしまう。第三セット、ジョコビッチはようやくサーブ・ストローク共に当たりが出始 めた。まだ遅くはない。ナダルのサーブイング・フォー・ザ・マッチをブレークして切り抜けると、一気に逆襲してTBに持ち込む。だが、ナダルは慌てない、 ジョコビッチの隙を突いて、貴重なポイントを握ると、そのリードを守りきって、ストレートでジョコビッチを撃破、今回もまたNo2の座を守りきった。
ローランギャロスでは無敗の赤土の覇者ナダル、それまで成績がどうであれ、このガリアの赤土の上に立てば、彼の全身に力がみなぎり、クレー最強のテニスが 蘇る。ジョコビッチの自滅は、もちろんジョコビッチ側の原因であるが、同時にナダルのスピン・スライス・サイドスピンなどのサーブとストロークで繰り広げ られる強烈なボールの回転がジョコビッチの精密なテニスを狂わせた結果でもある。QFでのアルマジロもそうであった。うねるように飛行するあのボールは、 ガリアの赤土の上で更なる強烈な変化を生み出し、強打もコントロールも狂わし、相手を自滅させる。その魔性の回転がここに来てますます威力を増しているの だ。
今年は崩れるか、と思われた赤土の上の城塞は今年も健在であった。難攻不落の城壁を今年もナダルは守り抜き、決勝に勝ちあがった。そして彼は待っている。彼が来るのを待っている。「俺も来たんだ、あんたも来いよ。」赤土の覇者はそういっている。
あいつが決勝で待っている。ガリアの頂点で待っている。負けるわけには行かない。自分の側にどんな事情があるにせよ、ここを突破しなければない。それが天に与えられた自らの使命なのだから。
2008全仏男子準決勝第一試合
フェデラー 63 57 63 75 モンフィス
フェデラーは第一セットを順調に取った。モンフィスの側にはフェデラーを崩せるほどの凄みが感じられない。これはこのままフェデラーが行くと見られた。だ が、モンフィスの武器は長いリーチから繰り出される、切り返しのカウンターショットである。特にフォアサイドの側で振られた時に、見事な面操作で予想外の コースのカウンターウィナーを奪う。フェデラーもそのカウンターにやられた。第二セット、先行したものの、観客を味方につけて反撃を開始したモンフィスに 追いつかれ、追い越された。セットオールになる。第三セット、警戒したフェデラーは攻めを厳しくして第三セットを奪う。が、その厳しい攻めに、若いモン フィスは対応し、再びカウンターを決め始める。そして厳しい攻めは同時にリスクを背負う。フェデラーの側にもミスが生まれ、第四セットでは5-5まで競り 合う。フェデラーは集中して最後の二ゲームを連取し、未知の才能を開花させつつある若者の猛追を制した。
今年もナダルが待つところまでフェデラーは駆け上がってきた。3年連続決勝進出、4年連続での対ナダル戦が実現する。ローランギャロス常勝無敗、ガリアの 地に聳え立つ高い城、赤土の覇者ナダルに今年もフェデラーは挑む。その壁を乗り越えるまで、何度でも、何度でもフェデラーは挑む。何度でも。今年の挑戦の 結果は如何に。いよいよ今季欧州赤土戦線の最終決戦である。
2008年06月08日 美しき継承者イワノビッチ 2008全仏女子決勝
早い展開から回り込みのフォアで攻めるイワノビッチに、粘りと豪打という攻守に強さを持ったサフィーナ、強いテニスが決勝の場で激突した。
2008全仏女子シングルス決勝
イワノビッチ 64 63 サフィーナ
イワノビッチもサフィーナも最初からエンジン全開で試合に入ってきた。第一セット第一ゲーム、サフィーナは悪くない入り方であったが、それでも最初のサー ビスゲームを落とししまう。イワノビッチの攻めは相変わらず早い。さらに第五ゲームでもブレークを重ね、4-1とリードを広げる。だがサフィーナの方に焦 りはない。大きなテイクバックからタメを作って、相手の足を止め、オープンコートに叩き込むその剛打は今日も健在で、イワノビッチから何度もウィナーを奪 う。その豪打を集中させ、第六ゲームでサフィーナはブレークバックに成功した。イワノビッチがやや慎重になり始めた。そこに攻め込むサフィーナ、第八ゲー ムでデュースに持ち込むと、クロスに打たれたスライスを打点を落として引きつけて、イワノビッチの足を止めてから、バックハンドダウンザラインを決め、ブ レークした。4-4でサフィーナ追いつく。しかし、イワノビッチも負けてはいない。イワノビッチは次のサフィーナのサービスゲームでお返しとばかりにバッ クハンドダウンザラインでブレークを奪う。サーブイング・フォー・ザ・セットでミスが続いて、サフィーナにブレークポイントを握られるイワノビッチ、そこ で開き直ったか回り込みのフォアハンドで逆クロスとストレートを連続で決めてデュースに持ち込む。攻めるイワノビッチ、粘るサフィーナ、もつれるデュー ス、最後はイワノビッチの逆クロスをサフィーナが抗しきれずにラインを割った。第一セット6-4でイワノビッチが先取する。
第一セット後半、サフィーナには豪打が少なくなり、イワノビッチはミスが増えた。第一セットを取ったのはイワノビッチだが、アンフォーストエラーが多かっ たのもイワノビッチであった。第二セットの最初の二ゲームで両者はそれぞれもう一度、自分らしいテニスを展開してサービスゲームをキープ、再び強いテニス がぶつかる状態になった。第三ゲーム、イワノビッチはリターンから攻め、最後にフォアの回りこみ逆クロスでリターンエースを決めてブレークに成功した。 2-1となり、そこからはお互いに攻めと粘りのテニスを繰り返し、苦しいながらもサービスキープを続け、5-3まで来た。第九ゲーム、サフィーナのサービ スゲーム、イワノビッチはフォアのクロス二連打でポイント先行、サフィーナのバックがラインを二度割り、チャンピオンシップポイントが来た。バックに来た 短いボールをサフィーナは拾えずに落とした。ブレークにより6第二セット6-3でイワノビッチが決めた。
早い展開から果敢に攻め続け、回り込みのフォアを最後まで打ち続けた、手強い相手サフィーナ相手に、自分のテニスを信じて貫いた、イバノビッチの素晴らしい勝利である。グランドスラム決勝3度目の挑戦での栄冠であった。
表彰式には全仏直前に引退したエナンがプレゼンターとしてコートに現れた。イバノビッチは来週発表のWTAエントリーランキングでNo1になることが確定している。WTAツアーで現行システムでの17人目のNo1である。エナンから優勝カップを受け取るイバノビッチ、それはまさに女王の座の譲位を示す光景であった。イバノビッチは美しい、その容姿だけでなくテニスのスタイルそのものが美しい。彼女は女王の座の美しき継承者である。新しい女王の誕生を目撃した、そんな2008年全仏女子シングルス決勝だった。
2008年06月09日 厳しい現実 フェデラーのガリア戦記2008
フェデラーが公開処刑されるシーンを見ることになるとは、誰が予想しえたであろうか。
2008全仏男子単決勝
ナダル 61 63 60 フェデラー
第一セット第一ゲーム、両者静かな立ち上がりであるが、フェデラーの側にややミスが多い。静かなまま、フェデラーは最初のサービスゲームをブレークされ た。第二ゲームでフェデラーは早い攻めを見せブレークポイントを握るが、攻めきれずにデュースになり長引く。フェデラーのミスとナダルのサーブの力でここ はキープされた。フェデラーはミスが多発し始めた。ナダルはボールを入れるだけでポイントが取れる。フェデラーはポイントが取れない。連続ブレークを含む 4ゲーム連取でナダルが第一セット6-1で先取した。
フェデラーはゲームどころかポイントがロクにとれない。ナダルが2ゲーム連取した。第三ゲームでフェデラーは綺麗なウィナーをようやく連続させ、ナダルの サービスゲームをブレークした。次のフェデラーのサービスゲームでナダルがまたもやブレークポイントを握るとこまで追い込むが、フェデラーは見事なアング ルショットとパスでピンチを切り抜け、キープに成功した。2-2、ようやくフェデラーの方にもエンジンがかかり始めたようであった。フェデラーがいいテニ スを展開し始めた。だがいいところでミスが出て波に乗り切れない。フォアの難しいローボレーを3回連続で決めたかと思えば、フォアの逆クロスが甘くてナダ ルに逆襲を喰らう。フェデラーとナダルの一進一退の攻防が続く。苦しみながらもキープが続くが、第八ゲームで、ナダルがついにブレークに成功した。5-3 でナダルのサーブイング・フォー・ザ・セットが来る。ナダルはシッカリと決め、フェデラーはその圧力に抗しきれない。ナダルキープ成功、6-3でナダルは 2セット連取した。
第三セットもフェデラーのサービスゲームがブレークされて始まった。ナダルの圧力の前にミスを強要されるフェデラー。第三ゲームも第五ゲームもブレークさ れた。サーブイング・フォー・ザ・チャンピオンシップも圧倒、チャンピオンシップポイントも一発で決めた。フェデラーのミスで試合は終わり、観客は静かに ナダルの4連覇を見届けた。
ナダルは失セット0優勝、そしてこの決勝戦対フェデラー戦で3セット18ゲーム取る間に4ゲームしか落とさなかった。第三セットは完封だった。フェデラー がセットを完封されたシーンを如空は初めて見たような気がする。この一年間やや低迷した感のあったナダルだが、全仏が始まってみれば過去最高のパフォーマ ンスを発揮した。今のナダルは自らのテニスキャリアの中でもっとも高みに駆け上がり、更なる高みに上っていくだろう。フェデラーは置いていかれるのだろう か。こうしてフェデラーの挑戦は今年も最後で同じ結末を迎えて終わった。過去の挑戦の中でもっとも厳しい結末であった。