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トゥルーブルー震撼 ツォンガ(2009/08/15)

 

全豪2008男子準決勝第一試合
ツォンガ 62 63 62 ナダル

本当にあのコートに立っていた男は数日前に対ガスケ戦で始めて如空が見たあのツォンガと同じ男なのか。全然別人ではないのかと思うほどに、コートの中の ツォンガは大きく見えた。第一セットからバナナをむしゃむしゃ食い、第一セットの終わりでも第二セットの終わりにもトイレ休憩を入れていた。不敵なまでに 落ち着いていた。立っている後姿がとてつもなく大きく見えた。あれが始めてグランドスラムのSFに進出して、不動のNo2に挑もうとするノーシード選手の 姿であろうか。皇帝フェデラーですらあれほど苦しむナダルの左利き特有のトップスピン、それがツォンガにはチャンスボールにしかならなかった。ライジング でネットより高いところからフラットドライブのハードヒットをコーナーに叩き込む。フォアからもバックからも。ツアー最高の防御力を誇るナダルの鉄壁の ディフェンスを貫いてウィナーを決めた。サーブも強い。最初は回転量の多いサーブをワイドに入れてナダルをコートの外に追い出していたが、途中からガンガ ン強いサーブを叩き込み、エースを奪っていった。サーブとストロークが強いだけではない。強打の後のネットの詰めが非常に早い。所謂アプローチショットで はなく、強打して振り切った後にネットに詰めているのだが、それでもナダルがパスを打つ前にネット前に詰めている。それもべた詰めだ。ローボレーになることが少なく、ほとんどネットの上で余裕のボレーを決めていた。パスとロブの名手であるナダルがネットでのツォンガをほとんど抜けなかった。その驚愕の強さ に、第一セットが終わったところで観客はスタンディングオベーションでこの新しいヒーローをたたえた。試合終了時でない、第一セットが終わった時点でこれほどの観客を魅了してしまうほどの見事なテニスであった。不屈の闘志を持つナダルが途中で完全に気持ちを挫かれていた。

この日に限って言えば、もう一つ特筆すべきことは、ツォンガの予測の的確さと、ナダルの読みの悪さがあった。ネットに出たツォンガは完全にナダルのパスの コースを読んでいるのではないかと思えるほどに、ナダルの打つところに立っていた。リターンでも、ネットでも、ストローク戦でも、ツォンガが逆を突かれる という事がほとんどなかった。一方ナダルはツォンガの行動をほとんど予測不可能なようであった。何度も逆を突かれ、棒立ちのままツォンガのボールを見送る シーンが多々あった。コートを縦横無尽に走り回り、脅威のコートカバーとその予測力でウィナー級のボールを何度も拾って守り抜く難攻不落の要塞ナダルが、 この日、ツォンガのショットを何度も見送らなければならなった。予測のいいナダルがなぜ、今日に限ってツォンガへの読みをはずしまくったのか、そして、相 手の裏を突くのが得意なナダルのショットをあそこまで的確になぜツォンガは予測できたのか。今日のツォンガには地力の強さに加え、神懸り的な強さもあった ように思える。

2000年全米決勝でサンプラスを破ったサフィン、2003年のウィンブルドンSFでロディックを破ったフェデラー、これらの試合を見たときに感じた震えるほどの驚きを、ナダルを破ったツォンガに感じた。この試合をフェデラーは見ていただろうか、ジョコビッチは見ていただろうか、どう感じただろうか。

トゥルーブルーのコートを震撼させた木曜日は終わった。そして決勝でツォンガはジョコビッチに敗れた。だが
敗れたものの、ツォンガがこの全豪で展開した豪快なテニスは見ているものを魅了する。彼のその力はまだまだ未知数である。今後、ツアーの中で大きな存在となっていくことだろう。


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