彼女の名前は覚えておいた方がいいですよ(2007/11/19)
何年前のことだったか忘れたが、よく覚えている。如空たちがテニスの練習をするためにコートにやって来たら、ダンロップのスタッフがそのコートの撤収作業をしていた。ダンロップ主催のジュニアの大会があったらしい。数えるほどしか観客はいなかったが、その観客たちは今終わった女子決勝の試合に興奮冷めやらず、口々に優勝した女子選手のことを語り合っていた。ダンロップのラケットの愛用者である如空は時々ダンロップのイベントや大会に参加するので、スタッフに顔見知りが何人かいる。その一人と偶然会って、少し世間話をした。彼は言う。「いやあ、優勝した女の子がすごい子なんですよ。まだ子供ですからショットの威力はまだまだですけどね、なんと言うか、配球がすごいんです。相手を振り回して、オープンコートにポーンと入れるんです。ジュニアたちの試合ってミスの数の少ないほうが勝つってレベルの試合がほとんどじゃないですか。でも彼女は違いますよ。ウィナーをいくつも取るんですよ。攻撃だけじゃないです。クロスコートの打ち合いや粘り合いになっても負けない子なんです。」
と彼は聞かれもしないのに熱くそう語り、そして最後に言った。
「彼女の名前は覚えておいたほうがいいですよ。必ず出てきますよ。奈良くるみっていうんです。」
その後、彼女の名前は何度も聞くことになった。特に大阪のうつぼ公園はジュニアたちとっての甲子園だ。うつぼ公園で行われる大きなジュニアの大会を見に行くと、彼女の名前は必ずドローの中で勝ち残っていた。歳が上がるごとに年代別クラスもあがっていく、そのどの年代のクラスになっても彼女はトップだった。彼女がコートに入ると「おーい、くるみちゃんの試合が始まるぞ。」と掛け声がいたるところで起こる。ちょっとした有名人だった。大阪では通信制高校の長尾谷高校がここ数年の高校チャンピオンとして君臨している。だが中学を卒業した彼女は長尾谷には進まず、大阪産業大学付属高校に進む。そして今年も数々の高校生大会、ジュニア大会でタイトルを取る。まだ高校一年生である。国内だけなく、海外にも何度も出ている。今年のウィンブルドンジュニアの女子ダブルスでは土居とのペアで決勝まで進んでいた。今年の全日本ジュニアで少し奈良のテニスを見たがスイングが日増しにパワフルになっていくのが良くわかる。全身を使ってブンブン肩を回してボールを深いところに打ち続ける。配球の妙に加えてパワーが加わる彼女のテニスは見るたびに強くなっていく。
世界スーパージュニア選手権はデビスカップの日本戦と共に大阪で開催される数少ない世界戦である。毎年決勝戦は観戦しに行くことにしていたのだが、今年は用事があって見に行かなかった。如空が直接観戦できなかったその世界スーパージュニアで彼女はまた大仕事をやってのける。
2007大阪市長杯世界スーパージュニア選手権女子シングルス決勝
奈良 63 61 マフマノバ(第一シード)
去年は男女とも日本人が決勝に進出し、杉田が見事に男子単で優勝している。女子選手も過去に優勝しているので、驚くべきことではない結果かもしれない。だが如空がテニスを始めた頃子供だった選手が、15歳で世界のトップタイトルの一つを一気に取りきったところに感慨深いものを感じる。
焦りすぎることもなければ、立ち止まりもしない。着実に上り詰める彼女の先にはどこまでその階段は続いているのだろうか。今後も奈良くるみのテニスに注目していきたいと思う。