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2007年 全仏 TV観戦記(2007/06/18)

 

2007年05月27日 2007 全仏ドロー

気が付いたら全仏の時期になっているじゃないか。仕事の忙しさに気を取られて忘れていた。しかも日曜日開催になっているから、明日から開幕じゃないか。いかんいかん、ドローをチェックして、録画の予約を入れなければ。ドローはとっくに出ている。例によってドローを四つの山に分けて独断と偏見による展望を見てみよう。

男子の第一シードは皇帝フェデラーの指定席である。皇帝の山には第七シードリュビッチを筆頭に、フェレーロ、ユーズニー、ロブレド、サフィン、ボランドリーとクレーコートの実力者がそろった。直前のハンブルグで優勝したとはいえ、未だフェデラーのテニスが不安定であることに変わりはないだろう。事件が起こる可能性は高い。安定して突破することが出来るか、皇帝の真価が問われよう。
第四シードはダビデンコ、彼の山には第五シードゴンサレスをはじめ、アルマジロ・・・・・じゃなかったアルマグロ、チェラ、ナルバンディアン、ガスケ、カナス、メルツァーらがそろった。ダビデンコとゴンザレス、いま波に乗り始めたこの二人が同じ山である。果たしてフェデラーへの挑戦権となろうSFへの切符を手に入れるのは誰か。大いに注目のゾーンである。
第三シードはロディック、彼の山には第六シードジョコビッチを筆頭にカレリ、ツルスノフ、フェラー、バクダティス、ハーバティ、メイヤーらがそろった。台頭著しいジョコビッチがこの山に入った。彼を脅かせそうな存在があまり見出せない。フェラーかバクダティスあたりに期待をしようか。。
第二シードも指定席、チャンピオンズレースNo1、前年度チャンピオンのナダルである。赤土の覇者に対抗するのは第八シードブレークを筆頭にモヤ、ベルディッヒ、ヒューイット、ニーミネン、ソーダーリンらがいる。何気に実力者がそろった山だが、それでもナダルは苦しみながらも負けはしないだろうと思う。
直前のMSハンブルグで打倒ナダルにフェデラーは成功した。だがそれでもこの大会優勝候補筆頭はナダルだろう。フェデラーがナダルの待つ決勝までいけるかどうかも今年はやや不安である。フェデラーの出来次第であるが、今年はその他にジョコビッチ、ベルディッヒら若手、ダビデンコ、ゴンザレスら中堅と、モヤやヒューイットのようなベテランがそれぞれいい感じでクレーに乗り込んできているので、去年のような二強多弱といった様相ではなく、もう少しもつれる結果となるような気がする。

女子はクライシュテルスが引退し、ヒンギスが不在である。
女子の第一シードはエナン、その対抗馬がなんと第八シードのSウィリアムズである。この対決がQFで実現すればそれは女子シングルスの行方を左右する大一番になる気がする。
第四シードはヤンコビッチ、その対抗馬がなんと第六シードバイディソワである。ペトロワとディメンティワもいるがやはり好調の若手ヤンコビッチとバイディソワの戦いが実現するれば大いに盛りあがろう。
第三シードはクズネツォワ、その対抗馬はなんと第七シードイワノビッチ、ハンチェコワもいるが、ここはクズ対イワの熱戦実現を期待したいところである。
第二シードはご存知シャラポワ、その対抗馬はなんと第五シードモーレスモである。エントリーランキングNo1経験者にしてGSタイトルホルダーである元女王同士がQFでぶつかる可能性大である。
ベスト8までは順当に行く山がほとんどではないだろうか。問題は第二週以降である。QFから先はどれも激戦になろう。全体的な本命が不在といわれるが、それでも本来のテニスが発揮されれば、エナンが今年もタイトルを守ることになると思うが結果は如何に。
さて、WOWOWも初日からなんと5時間生中継である。欧州赤土戦線のクライマックス、ローランギャロスで全仏オープンが始まる。今年も熱戦を期待しよう。

 

2007年05月29日 雨の中の赤土撫子

2007全仏は二日目も雨、二日目も冷たい雨、WOWOWがせっかく5時間も中継時間をとってくれているのに使い切れずにもてあまさないか心配だ。男子なんかダビデンコが勝った試合しか終了させられなかった。三日目は詰め込み作業になるね。
「クレーにもっとも適した大和撫子」と如空が評する森上は先日の大会でツアー初優勝をクレーで挙げて、大いなる期待を持ってこのローランギャロスに乗り込んできた。が結果は初戦敗退であった。WOWOWで中継されていたので試合を観戦できた。第一セットはブレーク合戦で幕を開け、リードを森上が奪い、サーブインフォーザセットを迎えるが、ガルビンに破られ、TBで押し切られた。第二セットはTBの流れのままに押し切られた感がある。ストレートの展開が多かった。本人もインタービューで意図的にストレート打っていたことを語っているが、スピンボールでボールを高く弾ませることも出来れば、ライジングで深いボールも難なくさばくし試合巧者ガルビンは、次第にそのストレートの切り返しに慣れていく。森上はもう少し緩急をつけたかったところだろう。だが森上はその戦術の巧みさをさらに磨いている。今後に期待しよう。

 


つのる期待


ドイツのデュッセルドルフで行われていたATPの世界チーム選手権は赤組をアルゼンチンが、青組みをチェコが突破して決勝でぶつかった。決勝はシングルス二試合をして一勝一敗で決着はダブルスにもつれたがアルゼンチンが決めた。アルゼンチンはチェラ・カジェリ・アカスソという地味な顔ぶれではあったが、それでもクレーなら優勝してしまう。なんとも人材豊富な国であることだ。皆全仏でも暴れてくれるだろうか。
オーストリアのベルシャッハで行われたハイポ・グループ国際はダビデンコ・ロディック・リュビッチがシードを守れず敗退する中、クレーにもかかわらずヒューイットがSFまで勝ち残った。あのハンブルグベスト4はまぐれではないようだ。SFでモンフィスに敗れたが、ヒューイットも大いに期待してよいのではないだろうか。ところでヒューイットに勝ったモンフィスは、それでも決勝では勝てず、モナコに優勝を譲ってしまった。モンフィスの出来をどう見るかは難しいが地元全仏の活躍は大いにありうるであろう。
トルコのイスタンブールカップで復帰したシャラポワはベスト4まで来たがそこでノーシードのレザイに敗れた。決勝ではそのレザイをディメンティエワが撃破して今季初優勝を果たした。全仏で決勝まで進んでいるディメンティエワである。勢いに乗せるとクレーでも大いに期待できる選手だ。
フランスのストラブールで行われたストラブール国際では、準決勝でヤンコビッチを、決勝でモーレスモを連破したメディナが優勝を勝ち取った。モーレスモもヤンコビッチもここで優勝して勢いに乗りたかったであろうが、そうは行かなかった。全仏での奮起に期待しよう。
さて様々な期待を集めてフランスはパリ・ローランギャロスでフレンチ・オープンが日曜日に開幕した。が、パリの空は期待にこたえてくれずに、冷たい雨を降らし続けた。数試合しか消化できなかったが、サフィンやエナン・セリーナなど期待の選手たちは期待にこたえている、ただ中村が一回戦で16歳の少女に負けた。第二セットは0-6である。勢いに乗った若者は期待以上の働きをする。恐ろしいものである。

 

2007年05月30日 強打者敗退、要塞辛勝

ロディックダウン、ゴンザレスダウン、ブレークダウン、ペトロワダウン、ハードヒッター軒並みダウンの全仏3日目である。雨天順延が二日続いて一回戦を三日目に大量消化したため、元全仏チャンピオンなども格の低いコートにまわされた。だがシードダウンが相次いだものの波乱という雰囲気ではない。ハードコートに強くてクレーは苦手にしているハードヒッター達が想定の範囲内で敗れた感じだろうか。
三連覇を目論むナダルは初戦で18歳のデル・ポトロの挑戦を受けた。WOWOWで中継していたので、ナダルの勝利が確定的になったのを見届けてから寝ようと思って、少し見た。が少しですまなかった。第一セットでデルポトの激しい攻勢にあい、5-5まで競り合う結果となった。デル・ポトロはバックを引付けてコースを肩で隠してからクロスに打つのがうまい。鉄壁の要塞ナダルから見事なウィナーを何度も奪った。少しまずいなと思って見ていたが、第一セットを競り勝つと、デル・ポトロに元気がなくなり、ナダルは逆にいつもの躍動感が出てきた。終わってみれば75 63 62 のストレート勝利であった。
去年もマチュー相手に大苦戦した後に波に乗ったナダルである。初戦でてこずるのはそう悪いスタートではない。さて3連覇に向けて波に乗るだろうか。今後に注目である。

 

フェデラーのガリア戦記2007 未来を予想する方法

ローマに帝政をもたらすカエサルはガリアを制圧するのに8年かかった。ATPに君臨する皇帝フェデラーは全仏オープンを制するのに後どれくらいかかるだろう。
今年も生涯グランドスラムの達成を果たすべくフェデラーがガリア(フランス)の地に乗り込んできた。彼の行く手を阻む最大の障壁、赤土の覇者ナダルを直前のマスターズシリーズハンブルグ大会決勝で下してのガリア侵攻である。それなりに手ごたえを感じての大会突入ではあろう。2003年に全英を初制覇、以後ウィンブルドンでは無敗、2004年に全豪・全米を制覇してリトルスラム達成、この時点で残る全仏を取ることを至上命題として挙げられることになる。ただのランキングNo1であるだけなら、ウィンブルドンを取っただけの選手であるならそれほどまでにこの全仏タイトルの奪取を戦前に期待され、注目されることもなかったろう。だがフェデラーはただのNo1ではなく、年間で数えるほどしか負けない、ATPに君臨する圧倒的強者であり、ただの「王者」と呼ぶだけでは役不足と感じて「皇帝」と呼んできた。それほどの男であるがゆえに全仏を制覇して生涯グランドスラムを達成するところを見てみたい、と期待され注目されるのだ。それが彼の背負った宿命である。
4大大会のサーフェイスが異なるサーフェイスになってから生涯グランドスラムを達成したのは男子テニス史上唯一、アンドレ・アガシのみである。だがそのアガシも全仏には二度までの決勝に進みながら阻まれ、スランプで落ち込み、そこから復活して3度目のチャレンジで決勝に勝った。そのときには既に29歳になっていた。フェデラーが全仏の決勝で勝利するにはあとどれくらいかかるだろう。
面白いことにフェデラーが圧倒的強者として、生涯グランドスラムに王手をかけたところに、ナダルが現れた。まるでフェデラーのガリア制圧を阻止するべく、一夜にして赤土の上に難攻不落の城塞が築かれたかのようにナダルは現れた。そしてフェデラーを一度ならず二度までも全仏で阻止して見せた。全仏だけでなく、クレーコートの上では常勝無敗だったのだ。つい10日ほど前までは。
フェデラーがナダルをクレーコートで倒した。しかも全仏直前に。だがそこにいたる道のりは、フェデラーが「皇帝」の座についてから、もっとともその力を落としていた時期となる。ピークは去年の後半から全豪ファイナルまでだろう。強かった。ただ試合に勝つだけでなく、勝ち方が圧倒的だった。並み居るトップランカーたちを次から次へと公開処刑をしてなぎ倒していった。2007年全豪は失セット0優勝だった。そこからなにかかがおかしくなった。カナスに二連敗した後、ボランドリーにも不覚を取り、マスターズシリーズのインディアンウェルズ、マイアミ、ローマで準決勝にすら進めなかった。自ら「美しい」と言って自画自賛していたテニスが機能しなかった。そしてモンテカルロではナダルと決勝で今季公式戦初対決を迎えたが、皇帝の攻撃の基点となるフォアハンドが決まらずに自滅した。そんなどん底の状態からハンブルグでナダルを倒して優勝した。
今のフェデラーの状態をどう見るかは難しい。ただ波があるのは確かだろう。果たしてこの全仏、勝ち進んで、最後に大きな波を自らに呼び込めるだろうか。決して準備は万端ではない。だが、同時に神がかり的な勢いを得ることも出来るかもしれない。期待と不安を天秤にかけながら、フェデラーは今年もガリアに乗り込んできた。
初戦は雨に悩まされながらも二日かかりで突破した。

全仏1回戦
フェデラー 64 62 64 ラッセル

まずは順当な滑り出しといえよう。だがこの先、どのようにその道が蛇行するかわからない。だがそれだけに、今年は先が見えない不安だけでなく、予想だにしない成功が待っているかもしれない。未来を予想することは簡単だ、未来を予想通りに実現してしまえばいい。フェデラーには天からその力が与えられている。あとはその力を発揮するだけである。
今年もそのフェデラーの挑戦を書く。今年は今まで以上に、結末の予想はつけにくい。 

 

2007年05月31日 フェデラーのガリア戦記2007 全仏仕様Ver2007

全仏2回戦
フェデラー 61 62 76 アショーヌ

サーブが強い、フォアが強い。打って打って撃ちまくってフェデラーは勝った。後ろに下がらず、ベースラインに陣取り、深い球はハーフボレー並みのライジングで打ち返し、右に左にとにかく打ち込んで、フェデラーはハードヒットし続けた。バックハンドのスライスなどほとんど使わない。チェンジオブペースもない。フォアハンドも、逆クロスに肩を入れてコースを隠してから打ついつものフォアハンドではなかった。スタンスを広げて、体を勢い良く回して、ラケットをぶんぶん振り回す。いつものタメがないので、ラリーの展開が早いこと。ミスしても気にせずガンガン打ってくる。一方でバックはスライスがない代わりにヘビートップスピンを多用した。
タメがなくて、サーブもフォアもクイックで打ってくる。ベースラインから下がらずに深い球もライジングで切り返す。だから展開が早い。クレーでもハードコートのようなテニスが展開されていく。WOWOWの解説によると一回戦も同じようなテニスだったらしい。ハンブルグでナダルに勝った時のテニスと大分違っているな。トニー・ローチがチームから去り、フェデラーは自分の頭脳だけで今テニスをしている。そのフェデラーが出した今年の全仏仕様のテニスがこのテニスなのだろうか。果たしてこのテニスが赤土の上の強者にどこまで通用するか、この全仏でいきなりモデルチェンジとは思い切ったことをする。何でも出来る皇帝であるからこそ出来ることであるのだが、何がこのモデルチェンジを決意させたのだろう。なにもグランドスラムに突入してから変えることもなかろうに。サーブやフォアを打つときにタメがあまりないフェデラーは見慣れていないので、大きく変わった印象を受けるのだが、本人は少しテンポを速めた程度の変化かもしれない。
第三セット第三ゲームでポールの外側からコートの中に入れるバックハンドパスを見せ、フェデラーは観客を大いに沸かせた。だがミスが多発してTBまでもつれた。ここでアショーヌの猛攻がフェデラーをしのぎ始め、TBでは10-8というデッドヒートであった。だが最後はフェデラーが押し切った。
とにもかくにも二回戦突破である。このテニスでどこまで行くのか、しばし見守ろう。

 

2007年06月01日 蘇る覇気、失われる覇気

全仏は5日目を終了したが、二回戦以降で大きなシードダウンは見当たらず、全仏らしくない、波乱のない穏やかな進行である。そんな中、ヒューイットがガウディを突破した。
全仏2回戦
ヒューイット46 36 62 64 62 ガウディオ
ヒューイットが全仏タイトルホルダー相手にクレーコートで2セットダウンからの大逆転劇だと。驚くべき結果だ。ちなみに2004年にガウディオが全仏優勝した時のベスト8にヒューイットが入っている。ヒューイットはこの頃からクレーでもいい結果を出せるようになっていて、MSハンブルグではベスト4に何度か進出している。だけどね、ガウディオに勝つかい、しかも2セットダウンから逆転だよ。ヒューイットに覇気が蘇りつつある。代わりにガウディオからあの優勝した年とその翌年の赤土戦線を暴れまくった頃の覇気が失われている。ヒューイットだけでなくガウディオにもがんばってほしいものではあるのだが。とにもかくにも、赤土の上のヒューイットの今後に少し注目してみよう。

 

2007年06月02日 驚きのヤンコビッチは本物か?

シードダウンとしては男子単リュビチッチの敗退が挙げられるが、地味なリュビチッチは可哀想にそれほど大きなニュースとして取り扱われていないようだ。むしろ、驚きをもって迎えられているのが女子単ヴィーナスの敗退だ。

全仏3回戦
ヤンコビッチ 64 46 61 V・ウィリアムズ

WOWOW放送初日のオープンニング、今回解説陣に加わっている神尾米が女子の展望を語るときに、このヤンコビッチを評して「勢いだけの選手かと思っていたが、予想に反して、勢いがないときも我慢のテニスで負けない。勢いだけではない、本物の強さだ。これは驚きだ。」といっていた。実は如空もまったくこの神尾氏と同じ評価をヤンコビッチにしていたので、神尾氏同様にこのヤンコビッチの今季の充実ぶりに驚いている。ヴィーナスはかなり復調してきており、サーブのスピードも200Kmオーバーで自己最高速度を更新したという。それでも最後には疲労もあってヤンコビッチに押し切られる。一方でヤンコビッチは波が激しくなく、かなり安定したテニスを展開している。いずれエナンやモーレスモ・シャラポワらを食う存在となりうるのか。この先が楽しみである。

 

フェデラーのガリア戦記2007 封鎖作戦


全仏3回戦
フェデラー 62 63 60 スタラーチャ

スコアは圧勝である。映像を見ていないので、コメントしづらいがネット上の情報から判断するに内容は結構いい試合だったらしい。スタラーチャはフォアの逆クロスが強力で、フォアの逆クロスを起点にした攻撃でフェデラーを何度も守勢に追い込んでいった。だがフェデラーは一・二回戦とは打って変わって、強打の打ち合いに付き合わず、前後左右にスタラーチャを振り回し、フォアの逆クロスからの連続攻撃を封じてから、自ら攻勢にでる展開で対抗し、ポイントは与えてもゲームは渡さないしたたかにして堅実なテニスで、厄介な相手を見事に料理したという。サーブも好調で、サーブの力にかなり助けられたそうだ。ふむ、安泰というべきか、少々手ごわくてもうまく処理して、第一週を省エネテニスで乗り切った。4回戦の相手はいよいよシード選手、ユーズニーである。ユーズニーも今季好調で手ごわい相手となろう。どう乗り切るか、注目である。
ところで4回戦対ユーズニー戦の次のQFでフェデラーがあたる予定の相手は、ロブレドとボランドリーの勝者である。MSローマ大会でフェデラーに土をつけたこのイタリアのクレーコートスペシャリストがこの全仏でフェデラーと同じ山にいる。それだけでなく第七シードのリュビチッチを3回戦でフルセットの末、破っての4回戦進出である。ビックサーバー・リュビッチは早いサーフェイスで活躍するが、クレーが苦手というわけでななく、母国クロアチアはクレーコートの国だし、リュビチッチ自身、去年この全仏でベスト4にまで進出している。そのリュビッチを破るかねボランドリー。フェデラーをローマで倒した自信が彼を目覚めさせたか。次のロブレドも強いが、ひょっとすると、QFでMSローマの対決再現なるかもしれない。なんともドラマティックな展開だ。
ついでに今季、フェデラーに二連敗を喰らわせたカナスもフェデラーと同じ山だ。ただカナスは4回戦でモナコを突破しても、その先にダビデンコとナルバンディアンの勝者が待っているので、フェデラーの待つところまでいけるかどうかは微妙である。しかし、ダビデンコとナルバンディアンが4回戦であたるかね。去年のベスト4ナルバンディアンは今季調子を落として第15シードである。このあたりで目覚めてほしいが、好調のダビデンコは高いハードルとなるだろう。
適度に難易度を上げつつ、フェデラーの対戦相手たちは、打倒フェデラーを果たすべく牙をむく。どこまで突き進めるかフェデラー。第二週の皇帝の戦いにも注目しよう。

 

2007年06月03日 不惑のナダル

モーレスモ3Rダウン!と言っても毎年のことなのであまり驚かなくなっているところがかなしいね。それよりもフランス人達は数日前の男子ガスケの敗退の方がショックだったのではないか。次世代のフランスを背負って立つ期待は彼にかかっていたからね。モンフィスも3回戦まで来たけど負けてしまった。後は女子のバルトリがフランス勢の生き残りである。杉山が負けて、日本勢はシングルスから消えた。
ところでナダルの試合を昨日のWOWOWで放送していたが、やっぱり負けないな。対戦相手のモンタネスは強打でナダルを攻め立てるが、ナダルは崩れない。長いディースもあったが最後にゲームを取るのはナダルである。一つのポイントは競っているのだが、ゲームを取らさず、スコアは一方的というこの勝ち方。ナダルが台頭してきた2005年頃のナダルのテニスがこんな感じだった。去年、ハードヒットからの攻撃に目覚めてフェデラーのような攻めるテニスを展開し始めていた。だからウィンブルドンでも決勝まで勝ち進んだといえる。だがそのテニススタイルの多様さが迷いを生み、去年後半の低迷につながったのではないだろうか。今のナダルには迷いがない。自分本来のテニスを自信を持って展開している。「俺はいつでも攻められるんだぜ。」と左手に隠した大砲をチラつかせながら、しかし自らは無理して攻めたりせず、相手の攻撃を受けて立つ。疾風のような脚力であの広い赤土のコートを支配し、生き物ように変化して跳ね上がるヘビートップスピンが対戦相手を後ろに押し下げる。そして相手のミスを誘い、パスとランニングショットで相手の攻撃を切り返し、ドロップショットとロブが相手の心を挫かせ、自分で決めるべきときにはサーブとフォアと確実に決める。まさしく攻められているのに落ちない難攻不落の要塞、それがナダルだ。地元フランスのファンはそんなナダルのテニスを美しくないといってブーイングを浴びせたりする。だがこれがナダルのテニスなのだ。そしてそのテニスは赤土の上で最強なのだ。批判など気にせず、自信を持って自分のテニスを貫く。迷わず突き進む今のナダルは去年よりもはるかに強い。本来のテニスを展開しながらも新しい攻めのテニスを織り交ぜて勝ち進んでいく。この赤土の上の城塞を攻め崩せる選手がこのローランギャロスにいるのか。ベスト16にその才能が残っているのか。いよいよベスト16が激突する4回戦である。

 

2007年06月04日 フェデラーのガリア戦記2007 不安要素

2007全仏4回戦
フェデラー 76 64 64 ユーズニー

フェデラーは本来スロースターターである。試合そのものも、トーナメント全体の勝ち上がり方も。前半は相手と向かい合い、ペースを合わせて、テニスをする。そして後半、一気にギアを上げて押し切る。二週にわたるグランドスラム大会での勝ち上がり方、優勝の仕方も同じような傾向がある。だがこの全仏は最初からギアを上げて入ってきた。第一週はそれで走り抜けた。この4回戦で少し、ギアを緩めたのだろうか、4回戦のフェデラーはやや不調であった。シード選手相手にとても危険なめぐりあわせだったが、フェデラーのうまさが光って、最初のTBを乗り切ると、1ブレーク差で第二・第三セットをものにして、終わってみればストレート勝利だった。
さてローマでフェデラーに土をつけたボランドリーは4Rで負けた。QFはロブレドである。ロブレドは去年、フェデラーとナダルがローマの決勝での激戦で疲労困憊に陥り、出場できなかった2006MSハンブルグを取った男である。フェデラーは今年、ハンブルグを取り返した。去年ハンブルグに出場していれば連覇できたかもしれない。2004年、2005年と連覇しているのであるから4連覇の可能性もあったわけだ。ハンブルグはフェデラーのマスターズシリーズ初タイトル奪取の場であり、皇帝の庭といってもよい。フェデラーがクレーでも強い、という根拠となっている大会である。それをロブレドが鬼の居ぬ間にと取ってしまった。「去年のタイトルを返せ」とまさか言わないだろうが、この全仏でQFの相手としては十分に役者が務まる赤土の実力者であると同時に因縁浅からぬ相手でもある。
一方で、カナスがいい調子で勝ち上がっている。4Rで好調モナコをストレートで下し、QFでダビデンコとあたる。カナスは謹慎を受ける前よりも今のほうが体の切れは良い。フェデラーにしてみればダビデンコがあがって来てくれたほうが良い。WOWOW解説の柳恵四郎氏も指摘していたが、ダビデンコのアップテンポなラリーはフェデラーには御しやすく、やりやすい相手なのだ。むしろ、カナスのように走り回ってカウンターをためてから打ち返すタイプの方がやや苦手としている。カナスがくれば「2度ある事は3度ある」と事故が起こらない可能性がなくもない。否が応でも気合を入れなければならない局面になってきた。果たして皇帝は決勝まで勝ち進めるか。その力量のほどをとくと見届けよう。

 

武器は「強いハート」

2007全仏4回戦
シャラポワ 36 64 97 シュニーダー

終わりそうで終わらない、ブレーク合戦の連続で、試合は延々と続いた。ウィナーも多く生まれたが、結果としては両者のミスのポイントが多かった。大事なところでミスが多かった。それ故に共に流れを引きよせることが出来ずに長引いた。共にサーブの配球が甘くて、逆にリターンが強力であった。特にシュニーダーは左利きの選手で、相手右利きのバックに外へ逃げるスライスサーブを打つのが得意なのだが、この日のシャラポワはそのシュニーダーの左利き特有のスライスサーブに完全にタイミングが合っており、ガンガンリターンから打ち込んだ。にもかかわらずシュニーダーはバックへのスライスサーブに固執してフォアやボディなどコースを散らさなかった。そこにサービスゲームをキープできない原因があったように思う。一方で、シャラポワはフォアのクロスが浅いくてコースが甘い。バックはクロスもストレートも鋭く、ウィナーを量産し、バックハンドの力で勝ったようなところがあった。だがストローク戦でフォアにボールを集められると苦しくなり主導権を奪えていなかった。ストレートはいいのだが、クロスがいかない。シュニーダーのストロークが深くて打点が食い込まれていた。右ひじが前に出ず、打点が後ろなのでストレートには打ててもクロスにはいい球が行かなかった。フォアのクロスが深くに打ち返せるようになったのはファイナル6-6を超えた後の最後の数ゲームでしかなった。またシャラポワに比べてショットの威力に劣るシュニーダーではあったが、バックハンドスライスにフォアのムーンボールを織り交ぜ、高い打点で打てるときに叩き込む、ドロップショットも多用し、メリハリのついたストロークでシュニーダーはシャラポワを揺さぶった。対してシャラポワのストロークは実に球種・コースが単調で、シュニーダーにそのコースを読まれていた。それ故に強打を叩き込んでいても、シュニーダーに拾われて粘られた。あとネットに出てもスマッシュでなくスイングボレーを多用したが、それが後半一発で決まらなくなった。またサービスライン付近まで出ていながら、ネットに出ずにベースラインに戻るシーンが何度もあった。下がりながら打つショットに威力はない。シャラポワは右肩の故障でサーブに不安があるとの報道がなされているが、サーブだけでなく、シャラポワのテニスの課題が多々露呈した試合であった。
と、まあ、技術的には突っ込みどころ満載のこの試合であったが、メンタルの勝負という点で見れば実にすばらしい試合であった。声を出し、懸命に自分を励まし、諦めずに、勝利への執着心を手放さないシャラポワ。一方で冷戦沈着にて大胆不敵、終始クレーバーに自分のテニスをやり通したシュニーダー。両者共に攻めの甘さとミスの多発で、大事なポイントを取りきれないのだが、それでも弱気にならず、守ったりせずに、最後まで攻めの姿勢を貫いた点は見事であった。シャラポワのサーブのときに興奮した観客が奇声を発して、奇声を気にしてシュニーダーが見送ってしまい、エースになってしまったシーンもあったが、そこでもしつこく講義せず、すぐに切り替えて次のポイントを取り返したシーンなど、すばらしいシュニーダーのメンタルであった。一方、シャラポワも「ゲームの流れを変えるためにメディカルタイムアウトやラケットの交換などを意図的にやっている」と観客にブーイングされるシーンもあったが、こちらも強い気持ちで乗り切った。強いハートこそ最強の武器、それがシャラポワのテニスである。
さて、これで女子はベスト8が出揃った。トップシード達はモーレスモ以外の7人がシードを守った。QFは
エナン対S・ウィリアムズ
ヤンコビッチ対バイディソワ
イワノビッチ対クズネツォワ
チャクベターゼ対シャラポワ
である。これはどの試合も見逃せない好カードとなった。ベスト8の内、6人が東欧スラブ系選手である。今のWTAの勢力地図そのままの構図である。一方で旧勢力と言っては失礼かもしれないが衰退しつつあるアメリカの元女王セリーナとクライシュテルスが引退してしまい文字通りベルギーの孤高の女王となってしまったエナンがこのQFでぶつかるというのも感慨深いものがある。2002年から2003年にかけてグランドスラム4連勝をしたセリーナを止めたのがこの全仏でのエナンであり。エナンはその後グランドスラムでウィンブルドン以外を連取することになる。この二人こそが2000年代前半を支配した二人の女王である。だが共に長期政権にはならず、また直接対決も大事なシーンでは実現しなかった。もはや若手の挑戦を受けてたつ立場になった二人、エナンとセリーナ、更なる高みに上るのはどちらなのか。現時点でエナンの優位にかわりはないが、セリーナの底力をエナンは誰よりもよく知っていることだろう。熱戦を期待しよう。

 

2007年06月05日Less is more

MSハンブルグでヒューイットがナダルから1セットもぎった事は大きなニュースであるらしい。ネットでもWOWOWの解説でもそのことが盛んに述べられていた。ハンブルグ決勝でのフェデラーによる打倒ナダルは準決勝でのヒューイットの対ナダル戦略がヒントになって達成されたものだという人もいる。それが事実であるかどうかわからないが、ヒューイットがナダルに対して予想以上に高いハードルとなると多くの人が予想していたようだ。だが、ナダルはその予想を裏切った。

2007全仏4回戦
ナダル 63 61 76 ヒューイット

ナダルのバックハンドにボールを集める、長いラリーを避けて早いタイミング・ライジング・高い打点・厳しい角度という組み合わせの強打を打つ。ヒューイットは実に自分の立てた対ナダル戦略を忠実に実行した。一方のナダルは相変わらずフォアの強打と威力のあるサーブは封印して、スピンボールの配球のみでヒューイットに対抗する。恐ろしいもので、今のナダルの戦術家としての力量はヒューイットをもしのぐ。ナダルは見事な配球の妙で淡々とポイントを積み重ねる。一方のヒューイットはリスクを背負っての連続ハードヒットを行っているので、代償として確率の悪いテニスになる。とくにファーストサーブの入りが悪かったのが響いた。ヒューイットがノーミスで打ち続けていらる内は、ヒューイットにもいいポイントがあったのだが、ナダルに落ち着かれて取り組まれると、ヒューイットに無理が出て、ヒューイットのほうが崩れてしまう。第二セットまではナダルの万全のテニスを崩しきれずにヒューイットの方が崩されていた。徐々にナダルのスピンボールにタイミングを合わせ始めたヒューイットは第三セットでようやくナダルを捕まえる。つかまったナダルは、小出しにしていたフォアの強打と強いサーブをここで集中させ、TBでヒューイットを振り切った。21歳の誕生日を迎えたばかりだが、その戦術の老獪さは現在のATPツアー屈指といえよう。今日も赤土の城砦は健在であった。見事な勝利である。
戦いにおける強さとは、武器の種類、攻撃のオプションの多彩さで決まるのではない。持っている武器の効果的な使い方によって決まる。ナダルの持っている武器はたとえばフェデラーなどに比べるとはるかに種類は少ない。だが、ナダルはその少ない武器を駆使して、戦術的駆け引き優れるヒューイットをしのぐほどのテニスを展開して、そして勝った。
建築の世界には「Less is more」という言葉がある。近代建築の巨匠の一人、ミース・ファン・デルローエの言葉でモダニズム建築の本質を語る言葉として知られる。「より少ない事はより豊かなことである。」というこの言葉に機能美の本質が隠されている。ナダルのシンプルにして単調に見えるテニスを人によっては「つまらない」といい、全仏の観客は「美しくない」と時にブーイングを浴びせる。だがその戦術の妙を見よ。あれこそが「Less is more」をコートの上で体現したテニスだ。皇帝フェデラーとは対極にある、だがそれでも、別の種類の「美しいテニス」である。ナダルはそのテニスで全仏三連覇に向け突き進む。
これで男子もベスト8が出揃った。QFは
フェデラー対ロブレド
カナス対ダビデンコ
ジョコビッチ対アンドレーフ
ナダル対モヤ
である。
バクダティスが4回戦で負けてアンドレーフがあがってきた。好調ジョコビッチにどこまで対抗できるか注目である。だがなんとなくSFはフェデラー対カナス、ジョコビッチ対ナダルになりそうな予感がするな。そして、誰しもがフェデラー対ナダルの決勝を確実視する中で、SFが予想外の大激戦になる予感もする。果たして、如空の予感通りに事は運ぶだろうか。あるいは波乱はあるのか。いよいよ全仏はQFである。熱戦を期待しよう。

 

2007年06月06日 フェデラーのガリア戦記2007 競った、崩れた、そして完璧になった。

 

何じゃ、この試合は。

2007全仏準々決勝
フェデラー 75 16 60 61 ロブレド

第一セット、フェデラーはゲームを取るときはラブゲームで取る、攻めは好調であった。だが気合の入ったロブレドに押されるシーンも多々あり、ブレークを取り合って5-5まで競ることになった。だがここはフェデラー、その後のロブレドのサーブを破り、自分のサーブをキープして第一セットを先取する。
第二セット、フェデラーの攻めているボールがふけてラインを割るシーンが目立つ。フレームショットも目立つ。何より攻めが単調でロブレドにタイミングを合わされている。ロブレドはいいテンポでフェデラーと打ち合い、フェデラーから長いラリーの末にポイントを取る。フェデラーのテニスが狂い始めた。フェデラーのエラーが続く。第七セットで長いディースが何度も続くが、最後にロブレドが取りきった。なんと6-1でセットを落とした。去年の全米決勝第二セット、ロディックに第二セットを取られて以来のグランドスラムの失セットである。
そして第三セット、フェデラーのテニスは突然完璧になった。軽くラリーを続けた後、回りこみのフォアを高い打点から叩き込みウィナー、サーブをセンターに叩き込んでウィナー、ポイントで先行するとネットに出てさらにウィナー。連続ウィーナーでセットを連取し続け、ロブレドが1ゲーム取る間に12ゲームも取って第三・第四セットを連取して準決勝進出を決めた。
第二セットのフェデラーに今年のMSモンテカルロ大会のフェデラーがダブって見えた。あの時もフォアの強打が入らずに自滅した。ただ、今日の第二セットでフェデラーはショットが入らず、アンフォーストエラーを重ねてもなぜか落ち着いていた。ひょっとすると試していたのかもしれない、何かを。
さて、準決勝でフェデラーを迎え撃つのはカナスでなくダビデンコになった。二連勝しているという対戦成績だけでなく、テニススタイルからも、フェデラーを苦しめるのはカナスのほうだと思っていたので残念ではある。だが、今年のMSローマSFでナダル相手に激しいドックファイトを演じたダビデンコである。フェデラーに対しても大きな壁になるかもしれない。その行方に注目しよう。

 

セルビアペアの台頭

2007全仏女子単準々決勝
イバノビッチ 60 36 61 クズネツォワ
ヤンコビッチ 63 75 バイディソワ

クージーダウン。しかも第一・第三セットでイバノッビチはクズネツォワを圧倒しているではないか。去年のファイナリストを倒すとはイバノビッチもやる。一方ヤンコビッチも台頭著しいバイディソワをストレートでくだし、その存在感を十分に示している。頭角を現しつつあるイバノビッチと、後は結果を出すだけのヤンコビッチ、セルビアペアはローランギャロスの赤土の上で旋風を巻き起こせるだろうか。今後に注目である。
シャラポワ 63 64 チャクベターゼ
エナン 64 63 ウィリアムズ
シャラポワは先日長引いた対シュニーダー戦の疲れを見せることなく、ロシアの後輩チャクベターセを下した。そして元女王と現女王の対決はエナンが制した。ここが山場というエナンの意気込みを感じた試合だった。打てる球はことごとく強打して、先に仕掛けた。セリーナに楽にポイントを取らせまいと懸命に走った。エナンの圧力の前に反撃の糸口をつかめぬままに終わってしまった。
さてSFはエナン対ヤンコビッチ、イバノビッチ対シャラポワである。去年の全米決勝の再現なるかというところだが、このセルビアコンビにはなぜか波乱を期待させる何かがある。特にヤンコビッチには。はたして決勝のカードは順当に行くか、波乱となるか。期待して見届けよう。

 

2007年06月07日 小さな事からコツコツと

 

2007全仏準々決勝
ジョコビッチ 63 63 63 アンドレーフ
ナダル 64 63 60 モヤ

淡々とポイントを積み重ね、ピンチになっても揺るがずに強い気持ちで乗り切り、チャンスには恐れず挑んでリードを奪う。そうしてジョコビッチは3セットをまったく同じスコアで取り、フォアの強打を売りとするアンドレーフを退け、自身初のグランドスラムベスト4進出を決めた。一方でナダルも、セットが進むにつれ調子を上げていったが、基本的には黙々とポイントを積み重ねて、親交の深い先輩モヤを下して、3年連続SF進出を決めた。
ジョコビッチとナダル、スコアに若干の勢いの差を感じはするが、基本的にこの二人の試合には同じ印象を受ける。ポイントをこつこつと積み上げていく。ピンチに動じず、チャンスに平常心で挑む。揺るぎない自信に支えられた自分のテニスを貫き通すその姿勢。単調でベストオブ5セットだとやや退屈な印象も受けてしまう。だがそれがテニスというスポーツの本質であろう。一発逆転はない、ポイントを積み重ねていく先にしか勝利はない。地道なその作業を黙々とやり続けるものにしか勝利は訪れない。それが出来たものが勝つ。
SFでナダルとジョコビッチがあたる。去年もこの二人は当たったが、そのときはジョコビッチが体調不調で棄権してしまった。未完の対決に決着をつけるいい機会である。今まではランキング的に格下相手の試合であった。ここにきて両者共に、ようやく強敵といえる相手と相対することになる。その地道なテニスを最後までやり通せるのはどちらか。試合の流れは非常に読みにくい。接戦となるか、一方的な展開となるか、その行方に注目しよう。

 

2007年06月08日 苦しいところでの安定感がものを言う

2007全仏女子単準決勝
イバノビッチ 62 61 シャラポワ

第一セット、ダブルフォールト四つ、その四つのダブルフォールトが絡んだサービスゲームをシャラポワは三つ落とした。イバノビッチのサーブインフォーザセットをブレークしたにもかかわらず、第八ゲームでダブルフォールトでイバノビッチにセットを譲った。
第二セット、シャラポワはまたダブルフォールトを犯してサービスゲームを落とした。そこで決まった。5ゲームを連取し、5-1になってサーブインフォーザマッチをセンターへのサービスエースで決めた。
サーブ・ストローク、共に安定していたイバノビッチが取るべくして取った試合であった。イバノビッチのボールは終始ベースライン深くに打ち込まれており、シャラポワは劣勢を強いられた。サーブもイバノビッチが強く安定していた一方で、シャラポワのサーブは不安定でいつもの力強さに欠けた。安定感の欠けたシャラポワになぜいつもに粘りが見られなかったのかはわからない。だが誰もが納得するイバノビッチの勝ち方であった。

エナン 62 62 ヤンコビッチ

第一セット、エナンの圧力の前に波に乗れないヤンコビッチ、最後はダブルフォールトでゲームを落とし、6-2でエナンが先行した。
第二セット、開き直ったヤンコビッチは徐々にエナンに圧力を与え始めるが、エナンは崩れない。崩れるどころか、競り合いに負けず、第四ゲームでヤンコビッチのサービスゲームをまた破った。3-1でエナンリード、だがその直後の第5ゲームでヤンコビッチがラブゲームでブレークバックした。初めて握ったブレークポイントをものにしたのだった。だがその後すかさずブレークバックし返すエナン、相変わらず勝負どころをわかっている。次のエナンのサービスゲームでもヤンコビッチはブレークポイントを握るところまで追い詰めるが、エナンは振り切った。落ち着きを失ったヤンコビッチは次のサービスゲームをキープできずに、ブレークされてしまい、6-2でエナンが3年連続の決勝進出を決めた。
長いラリーで走り合いをした後の最後の決めのショットが、エナンは決まったがヤンコビッチは決まらなかった。その差が結果としてこのスコアに結びついた、女王らしい横綱相撲での押し切りであった。
さて決勝は三連覇を目前にしたエナンにイバノビッチが挑む。イバノビッチの若さは女王絶対優位のこの状況を覆すことが出来るであろうか。最後まで熱戦を期待しよう。

 

2007年06月09日 フェデラーのガリア戦記2007 見極めたものは何か

2007全仏男子単準決勝
フェデラー 74 76 76 ダビデンコ

ダビデンコは具体的に何か対フェデラー対策を施してきたわけではない。自分が今まで築き上げて来たテニスでフェデラーに挑み、堂々と戦った。対するフェデラーも、攻撃オプションは多彩にあったであろうに、ダビデンコのアップテンポな高速ストロークに付き合った。あえてダビデンコと同じ土俵の上にのって戦った。ダビデンコが常に先にブレークして、先行する展開であった。右に左にフェデラーを振る、ダビデンコのアングルショットの鋭さ、角度の厳しさは、さらに磨きがかかり、フェデラーの足を振り切る。だがスコアでフェデラーを振り切ることは出来なかった。フェデラーもまた、このローランギャロスではライジングからの早い展開のテニスを推し進めている。まさにこの試合、フェデラーは赤土の上での自分のテニスをダビデンコと同じ方向に見出し、同じテニスでダビデンコを上回ろうとしていた。セット後半、勝負を決めようとするダビデンコを阻止して、ポイントを長引かせ、粘り、最後に追いつくことに成功する。第一セットでは逆転に成功したが、第二・第三セットはTBまでもつれた。TBもダビデンコとフェデラーは同じテニスで打ち合い、そしてフェデラーがわずかに上回ることに成功した。結果はストレート勝利であったが、いい試合だった。試合を見ていて、自分でもテニスをしたくなって、腕が疼くほどに気持ちのいい試合であった。決勝に行く前に競った試合での勝利を経験できて、フェデラーもさぞ満足であろう。
MSハンブルグでの対ナダル戦クレーコート初勝利において、フェデラーは対ナダル対策を見極めたといわれる。多くの人がそう解説しているし、フェデラー自身そう語っている。だが、その「対ナダル対策」が具体的に何かということを、言葉で語られているかというと、そうでもないような気がする。如空自身、MSハンブルグの決勝戦をTV観戦したが、具多的にフェデラーがいつもと何かを変えたとは見えなかった。全仏に入って、ライジングとクイックモーションの早い展開のテニスを繰り広げている。ナダルのスピンボールを跳ねる前に捕らえようとする意図であろうか。だが、攻撃そのものはやはり高い打点からのフォアハンド・ハードヒットからの連続攻撃である。そしてナダルと対戦するときに、いつもその肝心の高い打点のフォアが思うように打てずに崩れていくのが、フェデラーの負けパターンだった。またナダルは今年になって去年のような強打を基本的には封印して、スピンボールの配球とカウンターで戦う本来のスタイルに戻っている。フォアの強打と強いサーブは切り札として大事なところに取ってある。フェデラーはフォアからの連続攻撃が主力武器だ。だがそれを基軸にせず、ライジングからの切り替えしで、ナダルに対抗しようとしているのだろうか。
とにかく、決勝戦でその見極めたというフェデラーの対ナダル対策の全容が明らかになる。皇帝の攻城作戦はいかなるものかがそこで示される。だがナダルはそのフェデラーの対ナダル対策を見る前にジョコビッチを突破しなくてはならない。フェデラーほどには楽に決勝には進めまい。両雄の激突なるか。フェデラーは静かにその行方を見守っている。

 

2007全仏男子単準決勝
ナダル 75 64 62 ジョコビッチ

城塞はより高くなっていた。
第一セット、ナダルが2ブレークで先行した。そこからジョコビッチが盛り返した。ナダルのサーブインフォーザセット破り、5-5にまで戻した。波に乗るジョコビッチ、いや波乗ろうとしたのだが、乗れなかった。ナダルが乗せなかった。ナダルの脚力とカウンターが、ジョコビッチの決まったと思うショットを切り返してウィナーを奪い、ジョコビッチを振り切った。第一セットは7-5で結局ナダルが取る。
第二セット、ジョコビッチはいいテニスをしている。長いラリーでナダルに負けていない。だが勝てない。主導権を握れそうで握れない。ナダルの鉄壁のディフェンスを崩しきれずに、1ブレークを逆に許してしまう。その1ブレークをナダルは守りきり、6-4でナダルが第二セットも取った。
第一・第二セットを連取されてしまい、ジョコビッチの気持ちは挫かれてしまった。第三セット初頭、覇気のないジョコビッチに、ナダルは難なくポイントを積み重ね、4ゲームを連取した。観客からジョコビッチの踏ん張りを期待する応援の拍手と声援が沸き起こる。ジョコビッチは声援にこたえようとして、懸命にボールに食らいつくが、ナダルは動じることなく、ギアを上げて、ジョコビッチを振り切り、第三セット6-2で試合を決めた。3年連続決勝進出である。
実にナダルらしい勝ち方であった。強敵の猛攻をしっかりと受け止めて、守りきり、攻め切れない対戦相手が崩れていく。そこにフォアとサーブの強打を出してとどめを刺す。難攻不落、赤土の上の要塞ナダル城は今日も健在だった。はたしてこの高い城塞を皇帝は攻め崩すことが出来るのだろうか。
今年もまた、天は両雄を決戦の場へと導いた。勝利の行方は何処に。

 

2007年06月10日 旭日のエナン

2007全仏女子決勝
エナン 61 62 イバノビッチ

第一セット第一ゲーム、イバノビッチはエナンのサービスゲームを破る。その後、エナンは8ゲームを連取した。それが全てだった。第一セット6-1で取った後も流れは変わらない。イバノビッチが1ゲームをようやく返しても何も変わらない。イバノビッチはエナンを左右に振りたいようだが、左右に振られているのはイバノビッチの方である。エナンはタメを作ってからのフォアが冴え渡る。まるで男子のフェデラーのように、フォアからの連続攻撃が始まると止めようがなく、イバノビッチは抵抗する術を見出せないまま、エナンが第二セットも6-2で取るところを見届けるしかなかった。サーブインフォーザチャンピオンシップスを40-0まで持っていくエナン、最後にボレーを決めると、ラケットを放り投げて頭を抱えて、その達成したことをかみ締めていた。
失セット0優勝で3連覇を決めた。イバノビッチにやや緊張が見られたが、基本的にはエナンのテニスに対抗しきれずに振り切られた結果だった。イバノビッチだけではない。SFのヤンコビッチも、QFのセリーナ・ウィリアムズも、エナンが自分のテニスをすることを阻止することが出来なった。エナンが自分のテニスをコートの上で展開している限り、誰もエナンを止められない。彼女のテニスがWTAの誰よりも大会レベルで安定している充実期に入ったことを示している。
半年前に結婚生活で不幸があり、全豪を欠場した。「ベルギーの月と太陽」と呼ばれた同国の戦友キム・クライシュテルスは、グランドスラムで打倒エナンを2001年以降果たすことなく、結婚生活を選んで、引退して行った。夜明け前の白んだ空に霞んで、沈む前に月が空からその存在が消えていくようにクライシュテルスは消えていった。そして、燦然と強い光で空を染め上げて太陽が昇るように、エナンは女王の座にまた君臨した。明けない夜はない、必ず日は昇る。沈んでも、沈んでも、翌日には必ずまた日は昇る、何度でも。大いなる太陽となってエナンはその強さを発揮した。願わくば、当分は沈まぬ太陽となって、生涯グランドスラムに突き進んで欲しいものである。

追記
エナンとキムが台頭してきた頃、エナンの不幸な生い立ちに対して、恵まれた環境で育ったキムを比較して「月のエナン」と「太陽のクライシュテルス」とよく言われていた。ただエナンが先にGSタイトルを取り、対戦成績でもクライシュテルスを上回ると、キムはエナンのいないときだけ優勝する選手になってしまい、「エナンという太陽のいない夜だけ輝く月のクライシュテルス」と如空は述べてきた。そして月のままクライシュテルスは引退しまった。残念である。

 

2007年06月11日 フェデラーのガリア戦記2007 変わらぬままのコート

フェデラーのファーストサーブは際どくフォールトになった。ナダルはセカンドを厳しい角度にリターンしてフェデラーにミスを誘う。二ポイント目もセカンドになったが、今度はナダルがフォアをふかしてエラーした。お互いの手の内を知り尽くしている、宿命のライバルの対決は、静かに幕を開けた。

2007全仏男子決勝
ナダル 63 46 63 64 フェデラー

フェデラーは予想通り早い展開の攻めを見せる。肩を入れてのスクエアスタンスからの高い打点で叩くフェデラーのフォアの逆クロスが火を噴く。第四ゲームでナダルからブレークポイントを二つ手にした。だがナダルもギアを上げる。体を開いてのオープンスタンスからボールを落として低い打点で打ちぬくナダルのフォアの逆クロスが逆襲する。ディースに押し戻し、サービスゲームをキープした。第六ゲームでもフェデラーにブレークポイントが来た。だが今度はナダルがサーブの力でディースに戻すが、取りきれない。長いラリーが続き、ディースが繰り返される。フェデラーのライジングからの切り返しが冴え渡る。だが、ナダルは奇跡的なランニングショットでそれをさらに切り返し、最後に結局サーブの力で乗り切った。ピンチの後にチャンスあり、3-3でフェデラーのサービスゲームである。フェデラーがここでミスを連発してラブゲームでブレークされた。その後のナダルのサービスゲームで今度はフェデラーが0-40でまたブレークポイントを握る。が、そこからのポイントがフェデラーは取れない。崩れないナダルはまたもやこのピンチを乗り切りサービスゲームをキープした。さらに、フェデラーのミスは続く。第九ゲームでナダルにまたブレークポイントをつかまれてしまう。ナダルはこのチャンスでフォアの逆クロスを鋭く決めて、第一セット、6-3でナダルが先取した。10回あったブレークポイントをミスで潰したフェデラーに対して、たった二回のブレークポイントを二本ともブレークに成功した、ナダルの見事な集中力であった。
ナダルのトップスピンは、縦回転だけでなく、時に横回転も加わり、相手を惑わす。タイミングで打つフェデラーにはその処理が、他の選手より苦手なのかもしれない。この3年間で何度も対戦していながら、相変わらず、ナダルの回転にショットを狂わされて対処できずにいる。第二セットでもフェデラーは先にブレークポイントのピンチを自ら呼び込んでしまった。だが今度はサーブの力で乗り切った。ファーストの入りが悪かった、フェデラーのサーブが入りだした。いいサーブからの連続攻撃が決まり始めた。ネットに出て行く。第七ゲームでも果敢に攻めるフェデラー、ついにフェデラーがブレークに成功した。次のフェデラーのサービスゲームでフェデラーはやや不安定でブレークポイントをナダルに握られる。ファーストがまた入らなくなってきている。だが乗り切った。この日、フェデラーはバックハンドスライスを高い打点からストレートに入れてアプローチする戦術を多く採用している。このピンチも最後はこのバックのストレートへのアプローチがそのままポイントになった。5-3でナダルのサービスゲームをさらにブレークポイントまで追い詰める。だが、最後の一本をフェデラーは決められない。長いディースの末、ナダルに守りきられた。次のサービブインフォーザセットをフェデラーはすごい気合でラブゲームキープにて取った。
第三セット第二ゲーム、フェデラーのサービスゲームをナダルがブレークした。攻め込んだフェデラーが逆襲されて落とした。その後、ナダルはこつこつと自分のテニスをして、自分サービスゲームをキープして、6-3でナダルが第三セットを取った。
第四セット第三ゲームで、ナダルがまたもやブレーク。ここで勝負は決まった。ナダルはそのままサービスゲームをキープし続けた。サーブインフォーザチャンピオンシップス、フォアの逆クロスでマッチポイントをつかんだ。。ナダルのフォアの逆クロスをフェデラーがストレートに切り返したが、その軌跡はラインを割った。6-4でセットを取った。ナダルの全仏三連覇が決まった。
第一・第二セットでブレークポイントを何度もつかみながら、自らのミスで失っていく。第三・第四セットではそのブレークポイントそのものが一度しか来なかった。ラリーがそれほど長くもなく、TBまで競ったわけでもないのに、試合時間が長いのは前半で長いディースがあったからであり、そのディースをほとんどものに出来なかった。ナダルの待ち受ける城塞に攻め込みながら、攻めきれずに、ミスを重ねた。攻めていてもフェデラーは攻めきれなかった。一方でナダルはまったく崩れなかった。それだけでなく、ナダルのトップスピンはフェデラーのストロークを崩し、ネットでもミスさせた。そしてここぞと言う時に出す、サーブとフォアの強打は必要なときにナダルに欲しいポイントを与え続けた。磐石にして鉄壁、不動にして揺るがず、攻めに転ずればその強打は矢のように射抜く、赤土の上の要塞は依然として落ちなかった。
フェデラーが見極めたと言っていた対ナダル対策とは何であったのだろう。全仏に入って多用した、ライジング打法を積極的に使った早い展開のラリーはほとんど使われることがなかった。高い打点からのハードヒットに相変わらず固執していた。変則的回転のかかった高く弾むナダルのスピンボールをうまく処理できずにミスを重ね、主導権を握ないまま試合が進むという、対ナダル戦におけるフェデラーのいつもの負けパターンであった。ナダルのトップスピンがハンブルグ以上で対ナダル対策を出せなかったのか、あるいは対ナダル対策は実行できているのにナダルが崩れなかったのか。敗因は良くわからない。ハッキリしているのは皇帝のガリア制覇はまた持ち越されたということだけであった。


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