2007年 全豪オープン TV観戦記(2007/01/28)
2007年01月12日 2007 全豪ドロー
2007年オーストラリア・オープンのドローが発表された。例によって男女シングルスのドローを4つの山に分けて、独断と偏見による、身勝手な展望を見ていこう。
男子第一シードは4年連続でATPに君臨する「皇帝」ロジャー・フェデラーである。皇帝の山は第七シードロブレドを筆頭にシード勢はユーズニー、フェレーロ、ジェコビッチ、バクダティス、ガスケ、アカスソと去年好調だった者達が集まった。シード以外でもマスー、モンフィス、カルロビッチ、メルツゥアーらがいる。毎年のことだがフェデラーの全豪はいつもタフドローだ。さあ、この波に乗る挑戦者達を退けていつものように勝ち進めるか皇帝よ、熱戦が大いに期待されるドローである。
トップハーフの下半分、第四シードリュビチッチの山は反対側になんと第六シードロディックが入った。しかもそのロディックはリュビチッチの前にサフィンと当たる位置にいる。その他のシード勢はカレリ、ステファンキー、フェラー、アンチッチ、ハーバティである。ノーシードでフィッシュ、マチュー、コーベック、ロドラ、T・ヨハンソン、J・ヨハンソン、ガルシアロペス、ベッカー、スリチャパンらが覇を競う。日本から添田豪がワイルドカードで本線入りしている。地味ながらなかなかの好カードがそろいそうである。ビックサーバーがそろったがこの中をリュビチッチとロディックが勝ち進むことはけして楽なことではあるまい。
ボトムハーフの上半分、第三シードはダビデンコ、いつのまにかグランドスラムで第三シードになるまでに出世したこの男を待ち受けるのは第八シードナルバンディアンを筆頭にグロージャン、ソーダーリン、ハース、ベルディッヒ、ツルスノフ、マリッセらのシード勢とラペンティ、グッチオーネ、ロクス兄弟、クレメン、サントロ、ガウディオらである。地味じゃー。地味という言い方が悪ければ玄人好みの技巧派が集まったというべきか。これら曲者達をまじめなテニスをするダビデンコがどうねじ伏せていくのかという点に注目しよう。
第二シードを指定席にしつつあるのはナダル。その対抗馬は天敵の一人第五シードブレークである。以下シード勢はアルマジロ・・・じゃなかったアルマグロ(←今年も引っ張るのかこのボケ)ヒューイット、ゴンザレス、マレー、ニーミネン、WAWRINKA(←日本語名読み方わからん)らである。ノーシードではモヤ、ジネプリ、マシュー、チェラらが顔をそろえた。意外と楽なドローに見えるが、何気にナダルが苦手にしている面子がそろっているかのように思える。ナダルは無事勝ち進めるだろうか。ヒューイットが面白い位置にいて勝ち進めばブレークに当たってからナダルに当たる。最近調子を落としているらしいが(コーチも変えたらしいが)ナダル・ブロークと相性がなぜかいいヒューイットである。ここは一つ地元でいいところを見せてもらいたいものだ。マレー対ナダル戦が実現すれば若手対決の要チェックカードとなろう。
去年に引き続きフェデラーにはタフドローが待ち構える。勝ち進んでもセットをいくつか落とすことになるのではないだろうか。またSFで当たる相手も誰が来てもいやな相手になる。それでも決勝進出を疑うものはいないだろうが。一方でナダルの決勝進出にはかなり苦しいのではないだろうか。個人的にはクレーの王者が次に取るグランドスラムタイトルは全豪がふさわしいと思うのだが、このところの調子を見ているとブレーク・ダビデンコのほうが決勝に進む可能性が高いかのように思える。
女子は現女王エナンが個人的事情で欠場している。
というわけでついにWTAのプリンセス、マリア・シャラポワがグランドスラムの第一シードとして登場する日がやってくることになった。彼女の山は第八シードシュニーダーを筆頭にズボナレワ、イヴァノビッチ、ストーサー、モリックらがいるが、シャラポワを止めるに至るまい。ただイヴァノビッチには期待できるかもしれないと思う。
トップハーフの下半分、第四シードはキム・クライシュテルスである。彼女の山は第六シードヒンギスを筆頭にグローエンフェルド、ハンチェコワ、サフィーナ、リ、ダニリドゥ、森上、レザイ、中村、デシーと大物食いが得意な連中がそろった。さあ、クライシュテルスは彼女らに食われることなく勝ち進むことができるだろうか。熱戦が期待できよう。
ボトムハーフの上半分、第三シードはクズネツォワである。その反対側に去年の台頭著しかった第五シードペトロワがいる。以下、バルトリ、ヤンコビッチ、ゴルビン、キリレンコ、タナスガーン、ドルコ、クライチェック、ルワノパスカルがいる。不気味なのはノーシードながらセリーナ・ウィリアムズがいることであろうか。ペトロワとヤンコビッチも去年よりの好調を維持して自信を持っていることだろう。クズネツォワは圧倒的優勢という状況ではない。
第二シードはモーレスモである。彼女の山には第七シードディメンティエワの他にはスキアボーネ、バイディソワ、スレボトニック、杉山らがいるがモーレスモにしては比較的楽なドローとなったのではないだろうか。
トップ4シードの実力が頭一つ抜けている。順当なベスト4になるのではないかと思うが結果はいかに。現女王エナン不在だけに4人とも「自分が取って当然」という気迫で臨んでくることだろう。去年は決勝に象徴されるようになんとも後味の悪い大会であった。今年は熱戦を期待したい
2007年01月16日 冬のTVの中の灼熱のコート
第四シードリュビチッチダウン!初戦の相手がフィッシュ実力者だったのも不幸であるが、やはり地味な存在だなあ。誰もこの第四シードのダウンを話題にすらしない。だがこれで同じ山でリュビチッチをやや苦手にしていたロディックはかなり楽になった。そのロディックは初戦で第一セットをTB18-20で落とすこれまたいやな予感をさせるスタートであったが、第二セットのTBを7-2で取ると、その後は一気に押し切った。頼むぜロディック、3回戦の対サフィン戦は実現させてくれよ。第一週の目玉だぜこれは。そのサフィンも勝っている。先日Jスポーツで去年のデ杯決勝の試合を見たが、しまった内容のいいテニスをしていた。こちらも期待できる。さあ、今年も寒い冬の日本の部屋のTVに灼熱のメルボルンパークのリバンドエースが映し出される。アンチッチに立ち向かう添田が画面いっぱいにコートを走り回る。今年も全豪が始まったのだ。これからの二週間、熱戦を期待しよう。
2007年01月17日 2007全豪二日目
ヒューイット2セットダウンからの大逆転!!って地元の一回戦でやる試合ではないだろう。危ないったらありゃしない。一方でヒンギスは60 62 という圧倒的スコアで勝ち上がった。そんな相手を圧倒するほどに凄みが出てきたのかのかね。今夜のWOWOWの放送で確認しよう。WOWOWはシャラポワの試合もナダルの試合もデジタルで放送してもアナログでは放送してくれない。アナログは中村とヒンギスである。中村は例の日本人ひいきの結果だが、シャラポワでなくてヒンギスなのはなぜ?ヒンギスのほうが一般受けするというデータがあるのだろうか。シャラポワのほうが視聴率はいいと思うぞ。今日のチョイスはなぞだ。
スコアが凄いといえばクライシュテルスはもっとすごい。60 60だ、完封だ、ダブルベーグルだ、串団子だ。キムのアップテンポなハードヒットストロークの応酬って本当に格下相手には凄まじい威力を発揮するな。相手はまるで竜巻に巻き込まれたかのような心境だったことだろう。これをトップランカーたち相手に通用させきれないところがキムの辛いところだ。だが今年いっぱいで引退するという宣言はどうやら撤回していないらしい。ならばクライシュテルスのテニスが見れるのは後一年しかないということではないか。せめてこの全豪、せっかく天敵エナンもいないことだし、最後までその勇姿を見せて欲しいものである。
2007年01月18日 新世代台頭なるか 2007全豪三日目
おお、ジョコビッチ対ロペスをアナログで放送している。WOWOWさん、いいチョイスしましたね。いやあ、この二人、二人とも知っている日本人はどれほどWOWOWの視聴者の中にいることやら。グッとジョブですよ。
ジェコビッチは去年の全仏でプレーを見ている。ナダル相手にいいテニスをしていたが、体調不良で棄権した。今年はアデレードで優勝している。19歳だが、その才能は高く評価されている。サーブが強い、リターンが強い、ストロークが強い、ネットもそつなくこなす。テニスの王道を突き進むオールラウンダーだ。対するロペスはスペインのクレー育ちなのにネットプレーが武器という異色の才能である。バックはスライス主体なので速いサーフェイスでも強い。ロペスが左利きなのもだから、TVの映像を見ていると両手打ちのフェデラーと片手打ちのナダルが対戦しているような雰囲気になる。だがジェコビッチはフェデラーと同じ道を進むオールラウンダーだが、ロペスはナダルと相対するガンガンネットに出る選手である。ロペスもいいテニスをしているのだが、あらゆる場面で手堅くかつ強いジェコビッチの前にサービスゲームのキープに苦労した。サーブ&ボレーヤーがサービスゲームをキープできなければ勝ち目はない。ジェコビッチは第二セットこそ中だるみしたが、最初と最後をしっかりとしめて、ストレートでロペスを退けた。彼の活躍に期待度大である。
ナイトセッションで去年のファイナリストバクダティスがモンフィスに敗れた。新世代の注目株達がその頭角を徐々に現し始めている。今年はトップランカーの顔ぶれが入れ替わるかもしれないという思いがふと頭をよぎる全豪3日目である。
2007年01月19日 キム・小気味よし 2007全豪4日目
クライシュテルス対森上の二回戦、クライシュテルスが特に調子が悪いというわけでもなく、森上が時に大物食いをするときの凄みを特に発揮したわけでもないのだが、激しい打ち合いの末のブレーク合戦が繰り広げられた。第一セットは6-3でクライシュテルス、森上は深いところにテンポ良く打ってくるストロークに打ち合った末にミスさせられる。クライシュテルスのテニスは相変わらず小気味よい。肩がぶんぶん回る。ラケットヘッドが走る走る。サーブのテンポもよい。一度波に乗ると手がつけられない。第二セットはあっという間に6ゲーム連取され、森上は沈んだ。あの小気味よいアップテンポなテニスをシャラポワやモーレスモと当たったときにも発揮できるかが、今後の鍵となろう。
さて二回戦を消化し、全豪は3回戦が始まる。第一週の目玉、ロディック対サフィン戦が実現する。リュビチッチがダウンしたこの山ではトップハーフSFでのフェデラーへの挑戦権をかけた大一番になる予感が大である。注目しよう。
充実の第一週 2007全豪5日目
ああ、WOWOWよ、なぜこの試合をアナログでは放送してくれなかったんだ・・・・
2007全豪3回戦 ロディック 76 26 64 76 サフィン
ロディックがサフィン相手にTBを二度までも取りきっている。これはすばらしい。映像を見ていないが、やはりロディックは今そのキャリアの中で二度目の充実期に入りつつあるのではないか。だが、それでも敗れぬ皇帝フェデラーの壁、今度こそ、乗り越えるか、順当に行けば皇帝への挑戦はSFである。
さてロディック対サフィン戦の代わりにWOWOWアナログが放送していたのはフェデラーである
フェデラー 63 63 76 ユーズニー
3つのセットともフェデラーは1ブレークづつ取った。第一セットと第二セットはその1ブレーク差でセットを取ったが、第三セットはユーズニーにブレークバックされTBにもつれ込んだ。マッチポイントをつかむものの何度も逃す。だがこれはポイントを逃がししたというよりも、色々と試しているというフェデラーなりの余裕であったと思う。解説の柳恵誌郎氏は「フェデラーはユーズニーと相性がいい。自分の打ちたいタイミングとペースで打てるので気持ちよくプレーしているはずだ。」と言っていたが、それは当たっているだろう。途中、観客からざわめきが出るほどのバックハンドスライスの連続応酬が繰り広げられたが、あのシーンも勝利を最優先した試合であったならフェデラーの方からペースを変えて打ち込んだはずだ。そして、相性がいいということはユーズニーの方も自分のタイミングでプレーしてたはずなので、かなり調子がよかったはずだ。そのことはスコアにも現れている。だが、それでもフェデラーの方に余裕があった。各セット1ブレークづつ取るというこの試合展開に圧倒する試合よりも凄みと余裕を感じる。去年の全豪のフェデラーであったならもう少し苦しんだと思うのだが、やはり皇帝もまた成長している。それを存分に感じさせた試合であった。
ところで女子のほうでは波乱と呼ぶべきか、とにかく大逆転劇で忘れられつつあった元女王が吠えた。
S・ウィリアムズ 16 75 63 ペトロワ
女子ヘビー級のぶつかり合いは、第5シードのペトロワの圧力を、がけっぷちで跳ね返して、セリーナが取り返し、セットオールになたっところでセリーナのショットにキレが出た。そのままセリーナはギアを上げてペトロワを突き放した。彼女の目覚めは本物だろうか。ダイジェストでしか映像を見ていないが、体のキレは全盛期比べればまだまだという気がする。だがテニスはメンタルがものを言う。次のヤンコビッチ戦でそのメンタルでの充実ぶりが試されることだろう。
今年の全豪はなかなか充実している。第一週にしては好ゲームが続出している。今年に限ってはWOWOWデジタルに加入している人はその恩恵を大いに受けていることあろう。うらやましい限りである。
2007年01月21日 高まる期待 2007全豪6日目
ヒューイットダウン!!
2007全豪3回戦 ゴンザレス 62 62 57 64 ヒューイット
ゴンザレスは第10シード、対するヒューイットは第19シードであるから、これは現時点での力関係から言えば順当な結果であり、決しては波乱ではないのだが、ほんの二年前、この全豪でフェデラーのいないグランドスラム決勝戦を戦っていたサフィンとヒューイットが第二週に残れなかったということに少なからず失望と衝撃を感じてしまう。
ところでこれからWOWOWで放送があるが、ナルバンディアンも危なかった。
ナルバンディアン 57 46 76 64 61 グロージャン
第三セットのTB、落としていたらそこで終わっていた。グロージャンは悔やんでも悔やみきれまい。そこまで追い込んでおきながら逆転を許すとは。詳細はこれからTV録画中継を見るとしよう。
女子のほうはおおむね順当である。日本期待の中村もヒンギスの前に策もなく敗れた。中村もなかなかのハードヒッターであるが、その程度では動じないということか。ヒンギスは圧勝のときほど、人をひきつけるすばらしいテニスをする。これもまた放送が楽しみだ。
4回戦は男女とも全て好カードである。いくつかのシードダウンがあったが、それを補って有り余るタレントが勝ちあがっている。今年の全豪は充実していた2004・2005年をもしのぐ大当たりの年かもしれないぞ。更なる熱戦に期待しよう。
ボトムハーフに大波乱、トップハーフに近づく大一番 2007全豪7日目
モーレスモダウン、クズネツォワダウン、ディメンティエワダウン、ヤンコビッチダウン!2007全豪4回戦、ボトムハーフは4つの対戦全てシードの高いほうが負けた。勝ったのはサファロバ、バイディソワ、ピアー、Sウィリアムズである。4回戦のボトムハーフで固まってシードがダウンする例はここ数年のグランドスラムでもとても珍しい状況だ。
去年一年のWTAを見る限り、女子はエナンがトップで、モーレスモ・シャラポワ・クライシュテウルスの3強が追い、その後をロシア勢とヤンコビッチ・バイディソワが追撃する形になると予想したのだが、年頭のこの全豪で既にこの予想は覆されている。さあ、トップハーフはどうなるのかシャラポワ・クライシュテルス・ヒンギスは無事にベスト8に上がれるだろうか。もう一波乱ありそうな予感もするのだが。
男子は女子とは逆にトップハーフを先に消化した。トップハーフでQFに進出したのはフェデラー、ロブレド、フィッシュ、ロディックである。ロディックはアンチッチとフルセットマッチの激闘の末の進出である。SFでのフェデラー対ロディック戦が見え始めた。フェデラーとやる前に苦しい試合をやっておくことは、彼をいい状態に持っていくためには必要な糧となるだろう。さて、サフィンの2004年マスターズカップSFでの接戦の末の2005年全豪SFでの打倒フェデラー、ナダルの2005年MSマイアミ大会決勝での激戦の末の2005年全仏SFでの打倒フェデラー、この二つの偉大なドラマと同じ筋書きをたどりつつある今のロディックである。だが、フェデラーもまた成長している。同じ過ちを何度も繰り返しはしまい。その強さは2005年よりさらに増している。2005年の不覚を反省して、ここはロディックの頭を抑えに来るだろう。それでも条件は整いつつある。先日のエキジビジョンでは一応勝利も収めた。後はロディックしだい。さあ、ここで勝てなければもう二度とフェデラーのいるグランドスラムでタイトルを狙うことはできなくなるかもしれないぞ。ロディックのテニス人生をかけた大一番が近づきつつある。そして、フェデラーの覇権の寿命の長さもそこにかけられることになるだろう。
2007年01月23日 男女ベスト16 2007全豪8日目
ナルバンディアンダウン!ブレークダウン、ダビデンコ辛勝、ナダル大苦戦、女子に引き続き男子も大荒れだったボトムハーフの4回戦である。
ハースがナルバンディアンを倒した。そしてボトムハーフの決勝進出第一候補と如空が見ていたブレークがゴンザレスに敗れた。ゴンザレスはヒューイット・ブレークを連破してQF進出である。ダビデンコはベルディッヒ相手に苦戦したが、それ以上に苦しんだのは第二シードのナダルである。常にセットを先行される苦しいフルセットマッチだったが、ファイナルは61でマレーを突き放した。しかし、マレーは強くなってるなあ、ベルディッヒ・ジェコビッチ・モンフィス・ガスケらともに先行する同世代のナダルを追い越し、フェデラーに迫るべく台頭してきている。ナダルがハードコートでも同世代のトップでいられるのはそう長くないかもしれない予感をさせる接戦である。
ところでジェコビッチである。フェデラーの第一週最大の難関として立ちふさがり、セットの一つや二つは取ってくれるだろうと、その成長ぶりに期待していたいのだが、案外淡白に終わった様子だ。フェデラーがしめるべきところをしっかり締めている。それはそれをするだけの実力差があるからこそ、圧勝でないまでも試合をコントロールできるのだ。フェデラーの山は去年の全豪同様、タフドローかと思われたが、ふたを開けてみると案外順当にここまで来た。おそらく第二週に入ってギアをさらに上げてくるだろう。さて迎え撃つ準備はできているのだろうかロディックのほうは。
これで男子のベスト8が出揃った。QFは次の通り
フェデラー対ロブレド
ロディック対フィッシュ
ハース対ダビデンコ
ゴンザレス対ナダル
SFでロディック対フェデラーが実現すれば、今季のATPを占う意味で大きな試合になることだろう。一方でボトムハーフの4人はそれぞれに決勝進出の可能性を秘めている。だが決勝で打倒フェデラーの可能性を探るならハースが一番面白い存在だと思うのだが、それでもそれぞれに熱戦が期待される。もちろんロブレドもフィッシュも存在を忘れてはならない。
女子のベスト8は予想を大きく覆された。QFは次の通り
シャラポワ対チャクペターゼ
クライシュテルス対ヒンギス
Sウィリアムズ対ペール
バイディソワ対サファロワ
こちらもトップハーフのSFでシャラポワ対クライシュテルスが実現する可能性が濃厚、そしてこれが大一番になる。不気味なのセリーナ・ウィリアムズ。全盛期の強さを完全に取り戻したわけではないのだが、やはり最後まで勝ちきることを知っている者である。黒い刺客は虎視眈々と牙を研いでいる。
さあ、男女ともQFベスト16が激突する。熱戦を期待しよう。
2007年01月24日 歴史は果たして繰り返されるのか 2007全豪9日目
フェデラーはロブレドを、ロディックはフィッシュをそれぞれストレートで下しQFを突破した。期待されたとおり、SFで二人がぶつかる。ロディックは一時期のスランプから立ち直り、去年のマスターズシリーズシンシナティ大会で優勝、全米でも決勝に進出し、ようやくもとの位置まで戻っては来た。そしてマスターズカップではフェデラー相手にマッチポイントを取るところまで追い詰めた。直前のエキジビでは勝利もした。だが、ロディックの方に「グランドスラムの本選でもフェデラーは手の届くところにいる。」と感じられているかどうか。ロディックの方には技術的・戦術的に対フェデラー対策を特に取る様子もないし、またその必要もあるまい。どこまで自分のテニスを信じて貫けるかにロディックの勝敗はかかっているのであろう。一方のフェデラーはロディック対策に今までとは違う何かを仕掛けてくるだろうか。仕掛けてくればその試合は圧勝で終わるか、ロディックに逆襲する隙を与えて敗北するかのリスクを負うことになるだろう。だが逆に今までの延長線上のテニスをすれば接戦になる可能性が大であり、そうなるとそこで勝ちきる強さ、自分のテニスへの自信を持ちきれるかがポイントとなる。2005年全豪SFのサフィン戦、2005年全仏SFのナダル戦と同じ流れになりそうな予感がする反面、あの時とはフェデラーの側の内面が違っていることも去年の後半のフェデラーを見て感じ取れる。年間グランドスラムを達成するだけの器量が備わったのかどうか、その試練石となろう。2005年のあの二つの大きな敗北を繰り返すことなく、予想される危機を未然に防いでこそ皇帝である。勝敗がどちらに行こうとも、それはATPツアーの今年の行方を大きく左右することになるだろう。
女子のボトムハーフのQFはS・ウィリアムズがペールを逆転で下し、バイディソワがサファロワをストレート下した。SFで復活しつつある元女王の前に立ちふさがるのが4強の女王たちでなく、若手の筆頭であるバイディソワであるところに運命のあやを感じる。セリーナは苦戦が続いている。かつての圧倒的な強さを発揮できていないし、発揮すること自体、今となってはかなわないことだろう。だが彼女は負けない。4Rも危なかったがQFのペール戦はもっと危なかった。第一セットを取られ、サーブの力で第二セットを取り返すが、ファイナルセットで流れはもう一度ペールに取り返される。ペールも相当に心臓の強い選手だ。大事なところで決めてくる。勝ちびびりなど起こりそうもない。先行され追い詰められるセリーナ。だが彼女は負けない。黙々と、自分のテニスをやりつづけ、追いついた。6-6、全豪はファイナルセットでのTBはない。2ゲーム差をつけるまで戦う。セリーナは最後の最後でペールを追い越し、勝ちきった。勝利への執着心とその土台となる技術あってこその勝利だった。去年の全仏に続きグランドスラムでSFに進出したバイディソワ、彼女は果たしてセリーナの執念を断ち切れるだろうか。その去年の全仏SFではバイディソワは手に掴みかけた勝利をメンタルの弱さから手放した。同じ轍を踏めば、セリーナには勝てない。その戦いの行方を見守ろう。
2007年01月25日 遅れてきた大器たち 2007全豪9日
2007全豪QFシャラポワ 76 75 チェクフェターザ
スコアは競っている。だが、最後の詰めがチェクフェターザのほうが甘い。左右に振られてシャラポワは防戦に回る場面が多かったのだが、彼女の真骨頂である粘りでラリーを続けているうちにチャクフェターザがミスをしてしまう場面が多かった。特にオープンコートができているのに、決めのショットをミスした。チェクフェターザのバックハンドは振り出しがとてもきれいで威力がある。そしてコース・角度も良くコントロールが効いている。だがフォアがやや手打ちで、大事なところで振り切れていなかった。「フォアさえもっと打てていれば」と悔やんでいることだろう。今後の彼女の課題となろう。シャラポワは久しぶりに粘りのテニスで相手の攻撃をしのぎきった。だが攻めるテニスを見せたかったことだろう。次のSFの相手を意識していたならなおのこと。
クライシュテルス 36 64 63 ヒンギス
去年の全豪、全仏に続き、今年の全豪もQFでヒンギスの前に立ちふさがったのはクライシュテルスだった。だが第一セットのクライシュテルスはミスが目立った。それを見逃すヒンギスではない。試合巧者振りを大いに発揮して第一セットを取りヒンギスが先行した。クライシュテルスのアップテンポな連続ハードヒットは今日も健在だが、ややプレーは雑な印象を与える。一方のヒンギスは徐々にテニスの調子がよくなっていく。「これはヒンギスが行くかな」と思わせる展開だったのだが、セットの最後にギアを上げて押し切ったのはクライシュテルスである。第二セットだけでなく、ファイナルセットも最後の一押しで取りきった。
シャラポワもキムも勝ちはしたが内容はよくなかった。今日の調子でSF当たっていたらどうなっていたことやら。だがSFにはそれぞれがペースを上げてくることだろう。お互いにここが山だという意識があるはずだ。勝負のときが近づいている。
ハース 63 26 16 61 75 ダビデンコ
ハースが来た!流れがはっきりとした各セットだが最後のセットは意地のぶつかり合いで、最後まで競り合って、最後の最後でダビデンコを突き放した。フルセットの激闘を乗り越えて、ハースは三度全豪のSFに進んだ。ハースは若い頃よりその才能を高く評価され、結果も出しながら、調子に乗りかかるといつも怪我で戦線を離脱してきた。彼こそ「未完の大器」と呼ぶにふさわしい選手かもしれない。その大器、いよいよ開花させるときが来るのか。大いに注目である。
ゴンザレス 62 64 63 ナダル
ナダルどうしてしまったんだ、という前にゴンザレスどうしてしまったんだと問いたくなる結果である。粘りやナダルの執着心を要所要所で断ち切っての見事な勝利だ。去年のMSマドリッド大会決勝進出の際に、その変貌振りに驚いた。緩急を付け、バックのスライスでつなぎ、タッチは柔らかくなったが、強打は健在でここぞと言う時に打ってくる。先日の対ブレーク戦も録画で見たが、ゴンザレスの見事なオールラウンドプレーヤーぶりに、ブレークもまたオールラウンダーでありながら、ゴンザレスほどにメリハリのついた攻守の展開を見せることなく敗れていった。そして、今日も鉄壁の要塞ナダルを慌てることなく、静かに、しかし確実に攻略した。ナダル相手にストレートとは恐れ入る。「ゴンちゃんドンと来いなんでも来い。」って心境だろうか。
ハースとゴンザレス、遅れて開花したその才能がメルボルンの真夏の空の下で激突する。どちらがきても十分皇帝の決勝の相手としては過不足ない充実したできである。大いにその技と力の激突を楽しみにしよう。もちろん、フェデラーもまた決勝進出が確実といえる立場では今はない。トップハーフもようやくその大器を完成させ始めた男が待っている。若手の台頭が期待された今年の全豪男子であるが、ふたを開けてみると、その若手の挑戦を退けて、ベスト4は中堅の4人がそれぞれに彼ららしいテニスを発揮して勝ちあがってきた。ロディック、ハース、ゴンザレス、皆、一度ならず、何度もトップランカーに上り詰めながらも、そこから落ちて行き、そしてもう一度そこにかえってきた男たちである。若手の恐れを知らぬ挑戦もまた危険だが、復活してきた実力者、肝をなめた男たちの静かなる闘志を打ち砕くこともまた並大抵のことではない。それを全て受け止めて、その挑戦をねじ伏せることができるかフェデラー。
いよいよ全豪はベスト4が激突する準決勝である。スーパー木曜日がやってくる。熱戦に期待しよう。
2007年01月26日 失立場を替えて合間見える二人 2007全豪女子SF
2007全豪女子SF S・ウィリアムズ 76 64 バイディソワ
ウィリアムズが神経戦を繰り返している。しかし、精神的疲労を感じさせはしない。技術的にも体力的にも、何よりの精神的にも強い相手に対し、敢然と立ち向かい、慌てず、勝ちきった。バイディソワは急激に強くなっている。いずれシャラポワと同じサクセス・ストーリーを歩める可能性を持っているのではないだろか。だがセリーナはその難敵をまたも下した。第二セットで5-1から5-4まで追い上げられた。後一ゲームがなかなか取れない苦しい状況でセリーナは粘るバイディソワをねじ伏せた。闘志を最後まで持続し続けた。ストロークそのもではバイディソワが上回っていると思われる場面が多々あったが、テニスの総合力ではまだウィリアムズが勝っていた。それが崩れることないメンタルに支えられ、最後まで堅実に力を発揮し続けた。見事な勝利であった。
シャラポワ 64 62 クライシュテルス
シャラポワの方が先に攻めていた。クライシュテルスの攻撃はいつもアップテンポなハードヒットのラリーに巻き込んで、相手を振って、短いボールをもらって、それをアングルに叩き込む。だが今日のシャラポワはラリーで負けなかった。それどころか、クライシュテルスの方が先に振り合いに巻き込まれ、ボールが短くなり、シャラポワにネットに詰められて、決められた。クライシュテルスのストローク・ラリーの圧力はシャラポワを時に圧倒したが、シャラポワはそれに屈しなかった。そして粘るだけでなく、果敢に前に出た。見事なオールラウンドプレーである。ここまで納得のいかない試合が続いていたが、ここに来てようやくしまった内容の試合をでき、かつ決勝進出を決め、さぞかし、満足していることだろう。
女子の決勝はシャラポワ対セリーナである。2004年ウィンブルドン決勝、同年最終戦ツアー選手権決勝、そして2005年全豪準決勝と、この二人の対決はいつも激戦になり、歴史に残る名勝負となる。今度はどうか。過去4戦して2勝づつしているが、過去の対戦は強いセリーナに挑むシャラポワ、攻めるセリーナに耐えるシャラポワという図式であった。今度は違う、シャラポワは第一シードであり、優勝して当然の立場、その彼女に挑むのがノーシードのセリーナである。そしてこの試合、攻めるのはシャラポワのほうだろう。セリーナはそれを迎え撃つはず。今までにないこの展開にどんな結末が待っているか。形こそ変わっても、熱戦になることを疑ってはいない。期待をしている。
失望に覆われたコート 2007全豪男子SF1
「振った、抜いた、勝った」とATPに君臨する皇帝は心の中で淡々と神に報告したことだろう。対する「未完の大器」は「大器」であること疑い「未完」であることをいやというほど思い知らされることになった。
2007全豪男子SF フェデラー 64 60 62 ロディック
第一セットこそスコア上、競ったように見えるが、ロディックには明らかに力みがあり、逆にフェデラーの側はギアを上げきっていなかった。そしてフェデラーのサーブにはキレがあり、逆にロディックのネットアプローチは強引で隙だらけ、フェデラーに完全に見切られてしまい、ざるのように抜かれた。一ブレークづつで並んでいたが、4-4-でもう1ブレークを取って、最後にサービスをキープし、理想的な形でフェデラーが第一セットを取る。
ロディックの力みが取れない。それがフェデラーの圧力によるものなのか、ロディックの内面に問題があったのかはわからない。だが、完璧な出来でも勝つことが難しい相手である。それがこの不完全なテニスでは対抗のしようもない。そこに来てフェデラーが乗ってきた。次々と鮮やかなウィナーを量産する。左右に振ってアングルに切り返してウィナー、ネットに出てきたところをパスで抜いてウィナー、センターに来たボールを肩を入れて構えて相手の足を止めてからコーナーに打ち抜いてウィナー、サーブのノータッチウィナー、ベースラインからのウィナーの連続である。フェデラーは得意のフォアハンドからの連続攻撃でネットに出て行く必要がない。ベースラインにとどまるだけでウィナーが取れてしまう。ロディックはゲームはおろかポイントすらまともに取れない。フェデラーにパスを抜かれ、ストレスを抑えきれずにボールをスタンドに叩き込み、警告を取られるロディック。第二セットは6-0でフェデラーがあっという間に決めてしまった。
第三セットの最初のサービスゲームもロディックは落とした。第三ゲームでようやくサービスキープに成功、その後も一ゲームサービスをキープすることに成功したが、それは何の慰めにもならない。45本のウィナーを量産し、7つのブレークポイントを全てブレーク成功し、一時間半でフェデラーはこの全豪最大の難関と目されたロディックを退けた。
試合後、WOWOWの解説陣は、「フェデラーは神になった」とか「ロディックはこの惨敗で深い傷を負ったことだろう」と色々と語っていたが、あれはフェデラーがすごい前にロディックの自滅じゃないか。去年からコナーズと組んで再構築してきた自分のテニスをまったく出来ていなかった。出来ていたところで勝てていたとは思えないが、それでも今日のコートに立っていたロディックは去年の全米決勝やマスターズカップでコートに立ってフェデラーに喰らいついていたロディックではなかった。サーブもストロークもTVで見てわかるほどに力みすぎ、強打一辺倒で、今まで使ってきたチェンジオブペースでじっくりラリーをすることがなかった。サーブも球種・コースともに単調で、フェデラーに予測されすぎた。何よりあの強引なネットアプローチ、フェデラーの側はまったく体制を崩しておらず、ランニングショットになっても十分追いついてパスを打たせてしまっている。生粋のネットプレーというわけでないロディックがあの隙だらけのアプローチで前に出たらフェデラーでなくてもやられる。
いったい何をしてきたんだ、今まで。この日のために地道に自分のテニスを心技体の各方面から作り直してきたんじゃないのか。自信も大いに取りもどしたはずだろう。何でそれがあんなテニスしか出来ないんだ。スランプ時代のテニスに戻ってしまっていたじゃないか。おとといまで再構築したテニスが出来ていたのに、なぜ今日に限って出来なかったんだ。お前のテニス人生を大きく左右する試合となっただろうに。
大きな、大きな失望が如空の心を覆う。会場もまた失望に覆われていた。TVの中の解説陣も。失意の観衆に再び希望の光をともせるかロディック。
スーパー木曜日は失意の中で終わった。
2007年01月27日 ゴンちゃんゴンと来い何でも来い!
まるで、昨日の試合の続きを見ているのではないだろうかと思わず思ってしまう内容だった。
2007全豪男子SF2 ゴンザレス 61 63 61 ハース
第一セット第三ゲーム0-40までハースは一ポイントも取らせてもらえなかった。ゴンザレスはバックハンドスライスとフォアのスピン、そして決めに使うバック・フォア両方から出るフラットドライブ、まさに教科書のような緩急を付けた配球でポイントを淡々と取っていく。ハースがポイントをようやく取った。そうしたら今度はハースがポイントを続ける。ハースの片手打ちのバックハンドダウンザラインはとても美しい。今日はバックハンドがともにキーになりそうだ。ウィナーの応酬が繰り広げられる。第五ゲームでポイントのやり直しがあった。そこで慌てずサーブを打ち直すゴンザレス。エースになった。もう一本ノータッチエースを取る。そして次に回りこみのフォアをストレートに入れた。ゴンザレスが波に乗った。一気にウィナーを量産し、6-1でゴンザレスが取った。3つブレーク、アンフォーストエラーが0、ゴンザレスの完璧なテニスであった。
第二セット、ゴンザレスのテニスには隙がない。ラリーを続ければ、打ち込んでウィナー、ネットに出ればショートクロスに抜いてウィナー、ゴンザレスのワンマンショーが続く。ハースも自信の美しいテニスを随所に見せる。ハースのポイントの多くはゴンザレスのミスからでなく、ハースのウィナーである。だが、ゴンザレスのテニスの出来が大きくハースを上回っていた。三ゲームを連取して流れを完全に自分のものにした。ハースはストレスがたまり、八つ当たりをしていたが、それでもテニスが崩れたわけではない。それどころか、ハースの方ものドロップショットに緩急とゴンザレスを揺さぶりにかかる。だがゴンザレスは崩れない。順当にサービスゲームをキープして6-3でゴンザレスが二セットを連取した。
ゴンザレスはショットの調子と体のキレがいいだけではない。今日は読みもすばらしかった。揺さぶりをかけ、ショットを散らすハースの攻めを要所要所で読みきり、奇襲を防ぎ、逆にゴンザレスが逆を突いてウィナーを決める。ゴンザレスの調子がさらに上がっていく。ランニングショットのパスもロブも信じられない軌跡を描いてラインの中に吸い込まれている。サーブも豪快だ。バックハンドパスをきれいに決めてマッチポイントも一発で決めた。6-1でストレート勝利、アンフォーストエラーがわずかに3つだけという完璧なテニスであった。
今日、ゴンザレスがしたテニスは、昨日ロディックがフェデラーに対して展開してくるだろうと如空が予想していたテニスだった。このテニスでゴンザレスはヒューイットを下し、ブレークを退け、ナダルを倒し、ハースを圧倒した。打倒フェデラーの可能性を秘めているテニスではある。だがロディックはそのテニスをさせてもらえなかった。ゴンザレスは自分の新しいテニスをフェデラー相手に展開できるだろうか。今のフェデラーはそのゴンザレスをも封じ込めてしまうのだろうか。いよいよ決勝戦である。もう誰かの圧勝は見飽きた。熱戦を期待しよう。
「公開処刑」
それは、グランドスラムの決勝、準決勝、あるいは最終戦であるマスターズカップやツアー選手権の決勝・準決勝など、世界的に注目度の高い試合において一方的な展開で圧勝されてしまうことを言う。ネット上の日本語テニスファンのスラングである。2004年全米男子シングルス決勝にてヒューイットがフェデラーに06 67 06 という前代未聞のひどいスコアで負けた時にヒューイットファンの中の自虐的マゾヒスト一派がネット上で使い出したのが始まりという説がもっと有力な語源説であるが、正確なところはわからない。ダブルベーグルなどを含む一方的なスコアでの敗北を全て「公開処刑」というわけではい。前出の試合の格・注目度のほかに、
死刑囚は処刑執行人に対して試合前には「勝てるのではないか」という希望を自分の陣営に抱かすことの出来る程度の実力と実績があること。
死刑囚・処刑執行人共にプロテニスに興味のある人ならば一度は名前を耳にしたことのある程度の知名度とそれに伴う実績があること。
死刑囚のミスからの自滅ではなく、処刑執行人によるすばらしいウィナーの量産によって、試合が進むこと。
試合中、流れに波がなく、一試合を通じて一方的に死刑囚が処刑執行人のウィナーに蹂躙され続けること。
観客もTV中継をしている解説者も思わず同情してしまうほどにひどい敗北であること。
などが「公開処刑」となる条件として上げられるが、正確な定義があるわけではない。
ここ数年で最も残虐非道冷酷無比な公開処刑としては皇帝フェデラーによる2005年マスターズカップ準決勝での06 06がある。このとき処刑されたのは前年2004年全仏の覇者ガウディオである。ちなみにATPを蹂躙し続ける皇帝フェデラーはこの公開処刑をよくやる。ここ数ヶ月でも、去年末のマスターズカップの決勝でも執行(処刑されたのはブレーク)、そして一昨日はロディックに何度目かの「公開処刑」を執行した。皇帝の専売特許のように思われるが昨日、ゴンザレスもハースを「公開処刑」した。
女子ではラウンドの早い段階でよくダブルベーグルが発生するが、グランドスラムの決勝・準決勝ではなかなか起こらない。ちなみにウィリアムズ姉妹はその全盛期、ヒンギスの弱いサーブをリターンからガンガン強打で叩き込んで「公開処刑」に近いことを全米や全英の準決勝でやって、ヒンギスを一時引退に追い込む遠因の一つを作った。その処刑執行人の一人、セリーナ・ウィリアムズがまた「公開処刑」を執行した。しかも相手はあの粘り屋でハートの強いシャラポワである。
2007全豪女子シングルス決勝
S・ウィリアムズ 61 62 シャラポワ
サーブが強い、リターンが強い、センターに来たボールをタメを作ってから打ち込むフォアが強い、左から打ち込まれるバックが強い。セリーナの強打が炸裂する。シャラポワは津波に飲み込まれた小舟のごとく翻弄され、自分を見失ったまま押し流された。
シャラポワを認めない人は多くいるが、如空はエナンのいないトーナメントでは2007年初頭の時点でシャラポワがNo1であると思っている。同時にセリーナがあのグランドスラム4連勝を達成した全盛期に匹敵する強さを取り戻すことも不可能だと思っていた。もちろん今日のテニスはまだセリーナの全盛期の強さにはまだ及んでいない。だが、その力は世間の予想、如空の想像を完全に覆した。この全豪、少なくても準決勝まではセリーナは苦戦の連続だったのである。去年までは名前も聞いたことのないような選手たちに後一歩で負けるところまで何度も追い詰められているのである。ここまでこられただけでも上等であったはず。それが決勝でこのトーナメント最強の存在であるシャラポワに対してこの完璧なまでの勝利、恐るべきセリーナの力、まさに力で取った三度目の全豪タイトルであった。
去年末、WTAはエナンを筆頭にそれを追うシャラポワとモーレスモ、そして今年限りで引退を表明しているクライシュテルスの4強でグランドスラムの優勝争いは収束することになると思っていたが、年頭の全豪でいきなりその構想は崩れた。再び混迷の中へ戻るのか。これからの彼女たちの行方に注目していこう。
2007年01月28日 神の領域に足を踏み入れつつある皇帝
2007全豪男子シングルス決勝
フェデラー 76 64 64 ゴンザレス
ゴンザレスは先日のロディックほどではないが、それでもやはり気負いがあった。SF対ハース戦で見せた完璧なプレーは出来ていなかった。だが、それでもスロースターターのフェデラーを波に乗せることなく、キープ合戦になった。だが第一セット第9ゲーム、先にブレークしたのはその気負っているゴンザレスだった。フェデラーが珍しく先にエラーを続けてゴンザレスに付け入る隙を与えてしまった。5-4でゴンザレスのサーブインフォーザセットが来る。15-40になってセットポイント、フェデラーが決勝でようやくセットを落とすのかと思っているとフェデラーが静かにディースに戻してディースにして、ブレークバックした。ゴンサレスがギアを上げる。だが、それ以上にフェデラーがギアを上げる。6-6になってTB、ゴンザレスにはまだ力みがある。だがフェデラーの側は完全に力が抜けた。TB7-2でフェデラーが先行した。
フェデラーはSFロディック戦ではベースラインからの攻撃に終始して、それだけで勝った。だが今日は連続攻撃からネットにも出て行く。それだけゴンザレスのほうが粘ってはいるのということなのだろう。それでもフェデラーの勢いは止まらない。フォアのクロスの打ち合いでどんどん角度がついていって、最後にゴンザレスを振り切ってしまう。鋭い、早い、力がある。逆クロスのキレもよい。フェデラーのフォアの前にゴンザレスは止まって打つことが出来ずに、持ち味の強打がなかなか打てない。かといって最近富みに進歩著しいスライスの粘りあいも出来ない。第七ゲームでフェデラーがブレークした。そのまま畳み掛ける。6-4でフェデラーが取った。
ゴンザレスは確かに気負いがあったが、決して不調ではない。それどころか、テニスの内容は徐々に上がっている。だがフェデラーのテニスはそれを常に上回る。また第七ゲームでブレークポイントが来た。そしてフェデラーが決めた。それは優勝を決定付けた瞬間であった。チャンピオンシップポイントが来た。バックハンドのダウンザラインがきれいな軌跡を描いてベースラインを抜けていった。6-4でフェデラー勝利。二年連続3回目の全豪優勝である。一セットも落とすことなく、全てをストレートでの優勝である。
フェデラーはこれで去年の対マレー戦の敗退の次の試合から始まったシングルスの連勝記録を36に伸ばした。一昨年末、マスターズカップ決勝でナルバンディアンに破られてストップした記録35連勝を上回った。2005年のウィンブルドンより7大会連続決勝進出し、6回勝った。グランドスラムの決勝での勝率は11戦10勝1敗である。つまり彼はもう10個のグランドスラムタイトルを取ったのだ。あの若さで。
今年もまたフェデラーの生涯グランドスラム、そして年間グランドスラムへの挑戦が始まる。もはやこのブログで如空が勝手に与えている「皇帝」という称号ですら役不足になりつつあるほどの強さである。人間業とは思えない。いよいよ神の領域に足を踏み入れつつあるというのかフェデラー。それほどまでにフェデラーのテニスは強いだけでなく、美しい。
だが、だからと言ってこの全豪男子シングルスのトーナメントがフェデラーの存在同様に輝きに満ちていたかというとそうは思えない。あまりにも他の選手が対抗できなさすぎた。結果としてフェデラーに優勝を許しても、「打倒フェデラー」の可能性を少しでも感じさせてくれる選手がいなければ、決して観戦するテニスの試合としては面白いものではない。強い奴がさらに強いや奴に挑んでいく、そして圧倒的強者の圧倒的な力に迫り、その勝利への確信を一時的にでも揺るがしてみせる。そんな選手が一人でもいなければ大会としての盛り上がりに欠ける。
ATPの選手たちよ、牙を研げ、そして困難なる大きな壁に挑め、そしてその壁を突破してくれ。生きている人間を神になどさせるな。
フェデラーはもう手の届かないところにいってしまったのではないだろうかと思わせる、そんな2007年の全豪男子決勝であった。