第059房 2006WTAツアー選手権・ATPマスターズカップ TV観戦記
2006年10月30日 WTA2006エリート8確定
オーストリアのリンツで行われたティアU大会ジェネラリ・レディースでは第一シードシャラポワがダニリドゥー、イワノビッチ、シュニーダー、ペトロワを連破して堂々の優勝を飾った。特に台頭著しいペトロワをここで叩いておいたのは大きい。クズネツォワの存在があるとはいえ、少なくてもロシア勢のNo1は自分であることをハッキリさせたといえよう。これでシャラポワはエナンを抜いてランキングで2位に浮上した。
この週をもってWTAは最終戦であるツアー選手権の出場権を持つ選ばれた8人・エリート8が確定した。
モーレスモ(全豪・全英チャンピオン)
シャラポワ(全米チャンピオン)
エナン(全仏チャンピオン全豪・全英・全米ファイナリスト)
クズネツォワ(全仏ファイナリスト)
ペトロワ
クライシュテルス
ディメンティエワ
ヒンギス
ロシア勢4人を含む全員がヨーロッパの選手である。さて最終戦に向けて加速するシャラポワに対して失速しつつあるモーレスモとエナンがしっかりと止めて見せるか、競った内容になりそうである。
ATPも3つのインドア大会を無事消化した。
スイスのバーゼルではフェデラーがゴンザレスと二週連続で決勝を戦い、再びストレートでゴンザレスを退けた。今季11勝目である。
ロシアのサンクトペテルブルクではアンチッチがTヨハンソンを決勝で破り、今季二勝目を上げた。
フランスのリヨンでは、第一シードのバクダティスがまさかの初戦敗退で幕を上げ、第四シードのガスケが今季三勝目を上げた。
先週、これらの大会が始まる前の段階でロディックとリュビチッチがATPツアー最終戦、マスターズカップの出場権を得た。フェデラーとナダルについで4人が確定し、残り枠は4つ。この時期にバクダティスが躓いたのはかなり痛い。さて、残り4人はどうなるのか。翌週の結果に注目しよう。
2006年11月07日 今年はツアー選手権もすぐに中継してくれる。
カナダのケベックで開催されていたティアV大会、ベル・チャレンジはヤンコビッチがQFで敗退。決勝まで進んだ第二シードのバルトリが優勝を飾った。バルトリって地味に強いね。
ベルギーのハルセットでは地元クライシュテルスが優勝、去年に続いての二連覇である。まあ、ティアVだから当然と言えば当然なのだが、復帰後の第一戦とあって注目が集まった。
そのクライシュテルスも出場する最終戦ツアー選手権がいよいよスペインはマドリッドで今週開幕する。
如空の方が忙しくてまだ詳細な情報を集められていないが、今年はなんとGAORAが1日遅れの録画中継をしてくれるらしい。いやあ、忙しいにもかかわらず、見なくてはならない番組が目白押しだ。選ばれし8人の熱戦に期待しよう
2006年11月08日 2006WTAツアー選手権開幕
2006WTAツアー選手権 一日目
ペトロワ 62 62 モーレスモ
シャラポワ 61 64 ディメンティワ
エナンH 62 67 61 ヒンギス
モーレスモダウン、シャラポワ快勝、エナン逆転、三者三様の幕開けとなったWTAツアー選手権である。シャラポワとエナンに関してはこのツアー選手権の結果次第では逆転No1の可能性がある。というより、モーレスモは実は大ピンチである。モーレスモがランキングNo1であるのはツアーの過去一年間分のポイントを加算したエントリーランキングでの話であり、それには去年のツアー選手権の優勝ポイントが大きく貢献している。今年1月からのポイントのみを加算したチャンピオンズレースではモーレスモはグランドスラムを二タイトルを取っているにもかかわらず既に三位に落ちており、チャンピオンズレースの一位はエナン、二位はシャラポワなのである。エナンがツアー選手権で決勝に進出すれば、モーレスモは決勝でエナンを倒して優勝してもNo1から陥落することになる。実質モーレスモは自力によるNo1はかなわず、エナンとシャラポワの成績に大きく影響を受けるのである。そんな厳しい状況がさらに厳しくなってしまった。モーレスモのこの一敗は大きい。
ちなみにラウンドロビンのグループ分けは下記のとおり
黄組
モーレスモ・エナン・ペトロワ・ヒンギス
赤組
シャラポワ・クズネツォワ・クライシュテルス・ディメンティワ
モーレスモとエナンが同じグループということは予選リーグでいきなりNo1決定戦が行われるようなものだ。ヒンギスが何気にエナンから1セット取ったのも気になるが、やはりマジックが点灯しているエナン圧倒的優位であるといえよう。シャラポワの決勝トーナメント進出は固い。だがモーレスモ同様この大会に優勝してもエナンに決勝進出されるとそこでNo1の夢はたたれるようだ。やはりマジック点灯しているのはエナンである。各選手の奮起に期待しよう。
2006年11月09日 2006WTAツアー選手権二日目
2006年WTAツアー選手権 二日目
シャラポワ 64 64 クライシュテルス
クズネツォワ 75 63 ディメンティエワ
ヒンギス 64 36 63 ペトロワ
シャラポワ強いわ、復帰間もないとはいえ、クライシュテルスをストレートで押し切ったぞ。これなら決勝トーナメントでエナンにあたっても十分勝機があるのではないか。
昨日のGAORAの録画中継を少し見たがデメはサーブが依然にもまして確率が弱くなり、勢いもなくなっている。いくらすごいストロークを持っていていてもあれではトップランカー相手には勝てんわ。クズネツォワにも負けてしまった。中継の解説で言われていたが、デメはまだこのツアー選手権で一度も勝ち星を挙げたことがないらいしい。ラウンドロビン方式だけに初戦からトーナメントの決勝戦をやるような相手とぶつかるわけだからな。ランキング8位〜5位が上限の選手にはつらいところだ。
さて、ランキング最下位のくせに昨日はエナンから1セット奪い、今日はペトロワをフルセットの末に破ったのがヒンギスである。このままモーレスモも食うと赤組二位通過で決勝トーナメントに出場できる。おそろいなあ、これが三年近く実戦から遠ざかっていた選手のやることかい。
モーレスモの映像を見たが上半身の筋肉が落ちていて、あの男勝りの体格ではなくなっていた。彼女が戦線離脱していた時期はほんの少しだったと思うのだが、それだけであの体型が崩れるとは、普段のモーレスモの体格がいかに筋トレによって作られたものだということがよくわかる。モーレスモの挽回は難しそうだが、さて次の試合でどう出るか。大いに注目しよう。
2006年11月10日 2006WTAツアー選手権三日目
何だ何だ何だと言いたくなる三日目の結果である。
2006WTAツアー選手権 三日目
モーレスモ 36 61 64 ヒンギス
エナン 64 63 ペトロワ
クライシュテルス 61 61 クズネツォワ
エナンは順当であろうが、というより調子を上げつつあって恐ろしい。
クライシュテルスがクズネツォワを二ゲームしか取らせずに退けた。圧勝ジャン。昨日の夜、クージーとデメの試合を録画中継で見たが、クズネツォワの調子はよかったぞ。それを一蹴するかね。クライシュテルスとシャラポワの試合も見たが、クライシュテルスは決して調子が悪いわけではないのだが、ギアをあげるべき所で波に乗れなかった。それが翌日にはこの結果である。シャラポワは初戦で波に乗り切れていないキムと当たってラッキーだったのか。あるいはクライシュテルスは本来の実力を発揮したのにもかかわらず昨日シャラポワに敗れたのだろうか。そうだとしたら、シャラポワは今、その力がNo1になりつつあるということである。決勝トーナメントでのエナンとの対決が楽しみだ。今後を占う意味のある試合になるだろう。
モーレスモが逆転で因縁の相手ヒンギスを下した。これもあとで録画を見るのが楽しみな試合だが、モーレスモよ、エンジンかかるの遅いわ。次エナンだぜ。二勝同士でぶつからないと意味にないじゃん。エナンの二勝でモーレスモのNo1は事実上消えた。決勝トーナメントに進む前に陥落したら面白くないじゃん。まあシャラポワの援護射撃にしかならないがここはひとつ、ウィンブルドン決勝の再現を期待しよう。だがそれを許すエナンではないこともよくわかっている。
2006年11月11日 クライマックス近づく
2006WTAツアー選手権四日目
モーレスモ 46 76 62 エナン
シャラポワ 61 64 クズネツォワ
クライシュテルス 64 60 ディメンティエワ
モーレスモ、エンジンかかるの遅いわ。エナンを倒せる力があるのなら、初戦の入り方さえしっかりしていれば一位通過で年間エントリーランキングNo1の可能性が残されたろうに・・・・といってもこツアー選手権の決勝トーナメントはなぜか去年より各予選リーグの一位同士と二位同士で準決勝を行う。去年も思ったがこれっておかしくないか。まあ、よい、結果、準決勝で事実上の今年No1決定戦シャラポワ対エナンが実現することなった。クライシュテルスとエナンが当たっていたら、エナンは最近クライシュテルスに連勝しているので、楽勝でSF突破して年間最終ランキングNo1を決めてしまっていたかもしれない。それを考えると、モーレスモが二位になったおかげで、エナンが相性の良いクライシュテルスではなく、全米決勝で敗れてしまったシャラポワと当たるほうが、エナンを止める可能性がある。シャラポワはエナンの決勝進出を阻止した上で決勝で勝たなければならないが、自力優勝がイコール年間最終ランキングNo1につながるわけでわかりやすい。シャラポワも乗ってきているので、いい試合を展開するだろう。
さて二位対決となるクライシュテルス対モーレスモだが、これは決勝でシャラポワあるいはエナンを相手にすることを考えるとモーレスモが上がってきたほうが良いと思うのだが、モーレスモ対クライシュテルスの試合内容を想像するとクライシュテルスの方が勝ちそうな予感がする。さて、とにもかくにも、今シーズンの最後を締めくくるには最高の4人が決勝トーナメントに残った。今年のNo1を決める戦いであると同時に、来年の力関係を示唆する意味を持つ大事な大一番である。GAORAでも前日の予選トーナメントの録画中継の後にすぐ、準決勝を生中継する。熱戦を期待しよう。
ところで、今晩準決勝で、明日の日曜日に決勝戦が行われるのだが、去年同様にそのWTAツアー選手権の数時間前にATP最終戦マスターズカップ上海大会が開幕する。GAORAも昼間から生中継だ。ランドロビンの組み合わせは下記の通り
赤組
フェデラー(全豪・全英・全米優勝、全仏準優勝、マスターズシリーズ優勝4・準優勝2)
リュビチッチ(マスターズシリーズ準優勝1)
ロディック(全米準優勝、マスターズシリーズ優勝1)
ナルバンディアン
金組
ナダル(全仏優勝、全英準優勝、マスターズシリーズ優勝2)
ダビデンコ(マスターズシリーズ優勝1)
ロブレド(マスターズシリーズ優勝1)
ブレーク(マスターズシリーズ準優勝1)
さて、今年前半こそ、試合内容で苦戦が続き、クレーシーズンでは手痛い敗退を喰らったフェデラーであるが、今年後半は磐石、ATPを圧倒的力で支配し、夏のマレー戦敗退以後再び連勝街道を驀進している。ナダルはウィンブルドンで決勝まで進んだところで力尽きたかのように失速してしまい、ロディックは復活しつつあるも未だ打倒フェデラーを果たすにはいたらない。さて、いったい誰がフェデラーを止めるのか。あるいはフェデラーが皇帝としてその黄金時代を確立してしまうのか。その行方に注目しよう。
2006年11月12日 充実の4強
グランドスラムタイトルホルダーにしてエントリーランキングNo1経験者である「女王」のうち、現時点で最強の4人がマドリッドでぶつかった。
2006WTAツアー選手権 準決勝
エナンH 62 76 シャラポワ
第一セットのエナンの気合は凄まじかった。速攻でポイントを早め早めに取りにいった。最初のサービスゲームをエナンがブレークする。エナンの圧力の前にさすがのシャラポワも勢いに乗ることができずに、そのままずるすると第一セットを失った。第二セットで試合はようやく落ち着きを取り戻し、3-3までサービスゲームのキープ合戦が続く。だが、シャラポワのサービスゲームである第7ゲームでディースになり、白熱した攻防の末、エナンがブレーク。これで5-3となり、エナンの勝利が決まったと思った。しかし、ここからのシャラポワが見事だった。なんと次のエナンのサービスゲームをブレーク、その後も苦しいながらも喰らいつき6-6TBまで持ち込んだ。エナンがミニブレークで先行する。それが最後に効いて、7-5でTBを征したエナンがストレートでシャラポワを降して決勝進出と年間最終ランキングNo1を同時に決めた。集中力を上げたエナンの猛攻をしのぎながら第二セットTBまで持ち込んだシャラポワの粘りは見事である。がそれ以上に、そのシャラポワの執念を断ち切ったエナンの底力は恐ろしいものがある。シャラポワは相手選手の心の奥底に眠っている心の牙を目覚めさせる。そういう選手だ。今日もまた、エナンの心に火をつけた。そんな気がする。
モーレスモ 62 36 63 クライシュテルス
クライシュテルスはモーレスモに対して一昨年まで連勝していたが、今年に入って二連敗している。一つは全豪のSFであの時は足首を捻ったクライシュテルスが棄権した結果だった。だから、モーレスモとの本当の力関係がどうなっているかを示す良い機会にこの試合は位置づけられると思う。
第一セットでモーレスモは深いグランドストロークと切れのあるネットプレーでクライシュテルスを圧倒して第一セットを62で先取する。だが第二セットはお互いが別人になったかのようにクライシュテルスが攻め、モーレスモが守る。怒涛の攻めでブレークをものにして第二セットをクライシュテルスが取り返した。
ファイナルは拮抗した打ち合いの中で徐々にクライシュテルスが押し始める。2-2でクライシュテルスがモーレスモのサービスゲームでブレークポイントを3つ握る。ワイドにアプローチを打ってネットに出たモーレスモの眼前をクライシュテルスのショートクロスが通り過ぎてコートの中に落ちた。キムがブレーク、3-2で先行した。だが、ここからのモーレスモがすごかった。なんとここから2ブレークを含む4ゲーム連取で6-3で逆転、フルセットマッチを征して準決勝進出を決めたのだった。
今日のモーレスモはストロークが深かった。クライシュテウルスに打ち負けていなかった。クライシュテルスは威力と角度でモーレスモを押すのだが、長いラリーになったとき、先にミスしてしまっていた。モーレスモはいつもより回転を抑えて、低い弾道のボールを左右打ち分けた。バックハンドのダウンザラインではため息の出るような見事なウィナーを何度も見せた。ネットではかつてない切れと冴えを見せた。トレーニング不足より肩回りの筋肉が落ちているのだが、それがかえって体の切れを増しているのではないだろうか。フォームは変わっていないのにサーブの威力が増しており、クライシュテルスに楽にリターンさせなかった。エースも量産した。
二試合とも目が離せない好ゲームであった。今年のグランドスラムでの女子の各試合よりも充実しているのではないだろうか。4人の女王はそれぞれに個性的で、他の選手が真似できない独自の自分のテニスを作り上げ、そのテニスで強敵相手に立ち向かった。メンタルで崩れることなく、テニスの内容で相手をうわまるべく全力を尽くし、かつ相手の力量も引き出し、レベルの高いテニスを展開した。実にすばらしい試合であった。
さて、決勝はエナン対モーレスモである。どちらが先に主導権を握るかが鍵になろう。今年グランドスラムの決勝で二度対戦し全豪では棄権、全英では力負けしたエナン、ツアー選手権の予選も敗れている。シャラポワに対する姿勢に全米決勝でのリベンジを強く感じた。モーレスモ相手には連敗してしまっていることになるエナンはここでどのような態度で臨むのだろうか。エナンは年間最終ランキングNo1を決勝進出を決めた時点で確定した。もはやプレッシャーとなるものがないかのように思われるが、プレッシャーから開放されているのはNo1を逃すことになっているモーレスモも同じである。そして忘れてはならないのは、クライシュテルス・シャラポワ・モーレスモの三人が持っていてエナンがもっていないものがあるということ。それがこの最終戦ツアー選手権のタイトルである。さてどのような結末を迎えるのか。WTAとしては充実したシーズンであった2006年であったかのように思う。その締めくくりにふさわしい試合を期待しよう。
2006年11月13日 ああ、勘違い
完全に間違えていた。しかもその間違いに一年近く気づかなかった。カッコ悪いたらありゃしない。
WTAツアー選手権の決勝トーナメント準決勝は予選リーグの一位同士対決、二位同士対決ではなかった。やっぱり一位対別リーグの二位の対決だった。順位の優先は試合勝敗数で二人(三人ではない)並んだときは直接対決の結果が優先で、得失セット数で負けていても直接対決で勝てば勝ったほうが順位は上だったんだ。普段如空たちが草大会でやるリーグ戦とまったく同じルールだったんだ。だから去年のツアー選手権の緑組はダベンポーとシャラポワが二勝一敗で並んで得失セット数でダベンポートが上回っているが、シャラポワが直接対決でダベンポートを破っているのでシャラポワが一位通過していたんだ。だからダベンポーとは黒組全勝で一位通過したピエルスとSFで当たったわけだ。
今年もそう、エナンとモーレスモは二勝一敗で勝敗数が同じ、得失セット数はエナンの方が上、でも直接対決を征したのはモーレスモ、だから黄組の一位はモーレスモで、二位のエナンはSFでシャラポワと当たったわけだ。まったく普通の予選リーグ方式と同じじゃないか。何を勘違いしていたんだ。記事を修正しなくては。
言い訳をするなら、去年の年末に「得失セット数が直接対決より優先である」と複数のサイトでその誤報を見てしまってそれを鵜呑みにしてしまっていた。しかもサイトによっては「WTAツアー選手権の準決勝は二位同士対決と一位同士対決」と思いっきり言い切っているサイトがこれまた複数あり、その情報を確信してしまった。いかん、いかん。この手の話は、ちゃんと情報源に原文で当たらなければいけないね。深く反省した次第です、はい。
覇道を王道にかえて
「初めてラケットを握った時からバックハンドは片手打ちだった。以後、両手で打ったことはない」とエナンは自身で述べている。女の子で小さな体だった眼鏡っ子は「両手打ちにしたほうがいいんじゃない」と周囲から言われたことだろう。それでも彼女は片手で打ちつづけた。
彼女の歩む道のりは常に覇道であった。
そのテニス選手にしては小さな体格はハードトレーニングで何度も壊れかけたし、カプリアティやダベンポーとなどの元女王たち相手に体が壊れる寸前までの死闘を繰り広げた。審判のジャッジミスに対するクールな対応やフェドカップへの態度でパッシングも受けた。今年は全豪のシングルス決勝とフェドカップの優勝のかかったダブルスで棄権を余儀なくされた。彼女のキャリアには試練が何度もおとずれる。決して人並みに普通だったとはいえない家庭環境であっただけでも十分彼女には試練であったろうに、テニス選手のキャリアの中で彼女は何度も困難な壁にぶつかる。そしてその度に乗り越えてきた。
今や彼女のストロークはバックハンドだけでなくフォアハンドの威力でもトップクラスであるし、そのサーブは「身長がなければ強いサーブは打てない」という常識を完全に覆した。いわゆるアプローチショットなどというショットを使わずに、ベースラインから普通に強打して相手の体制が崩れたと見るや、そこからネットに猛ダッシュしてオープンコートにボレーを決める。必要とあらばサーブアンドボレーも普通にやる。その鍛え上げられた脚力は誰よりも早くコートの中で彼女を縦横無尽に動かし、かつ打つときはきっちりとまって打つ。そして苦しいところを我慢してしのぎ、大事なところで集中力を挙げて一気に攻めきる勝負勘は天性のモノがある。コートの外で崩れることはあるかもしれないが、コートの中でメンタルが崩れることはない。強い意志で勝利への執念を貫き通す。そして、彼女の代名詞であるその片手打ちのバックハンドは誰にも真似できない威力と正確さをもって女子テニス史上に君臨するものとなっている。彼女は自身が歩いてきた覇道を王道にかえたのだった。
そして彼女自身、WTAに君臨する機会を何度か手にしている。その何度目かの機会がまた訪れた。
2006WTAツアー選手権 決勝 エナンH 64 63 モーレスモ
モーレスモの調子は悪くない。三日前のラウンドロビンではエナンの撃退に成功している。しかし、今日のエナンの猛攻の前に、モーレスモは土俵際に追い詰められて、そのまま寄り切られた。モーレスモはできればネットに出て行きたい選手だ。だがエナンのサーブとストロークの威力の前に、ベースラインに押しとどめられた。そしてエナンのショットに押されて少しでも体制が崩れ返球が甘くなると、逆にエナンの方にあっという間にネットに詰められて叩かれた。怒涛の攻めの前に、モーレスモはまさに押し切られたのだった。
エナンはグランドスラム決勝初進出した2000年のウィンブルドン決勝こそビーナスに敗れたが、その後4回GSの決勝に進み、その全て勝利する。だがそのGS決勝連勝記録は今年になって止められた。だけでなく今年は4大大会全てに決勝進出を果たしながら、3敗してしまった。
その宿敵である二人、全米決勝で敗れたシャラポワを準決勝でくだし、全豪で勝利を譲り全英決勝で敗れたモーレスモを決勝で押し切り、年間最終ランキングNo1とツアー選手権初優勝を手中にした。絵に描いたようなドラマチックな展開でエナンは再び女王の座につくことになった。
セリーナ・ウィリアムズが生涯グランドスラムを達成した頃の強さを取り戻すことはもはや絶望的だろう。今、WTAの中で圧倒的強者の地位につける力を持つものはただ一人、エナンだけである。いよいよエナンの覇権が始まる。それがATPにおけるフェデラーのごとき圧倒的強者の存在になるのか。あるいは群雄割拠の中でかろうじてNo1を保つ苦しい展開になるのか。少なくとも、一年間健康にあって主要な大会にフルエントリーできれば、彼女がNo1であることは間違いない。今年はそのことを証明できた。だがその覇権は未だ圧倒的強者とまではいえない。モーレスモとシャラポワはそれを崩すことができるのか。そして自分で明言した引退の時期が近づきつつあるクライシュテルスは残された時間内に打倒エナンを果すことができるのか。
WTAは例年以上に充実した一年であった。熱戦を届けてくれた選手たちに感謝。そして、覇道を王道にかえて突き進むエナンとそのライバルたちの戦いに、来年も注目しよう。
落ち着いて慌てない 2006TMC開幕
2006マスターズカップ(TMC)初日
フェデラー 36 61 61 ナルバンディアン
ロディック 64 67 61 リュビチッチ
アガシが引退し、ヒューイットが衰えつつある今、ツアー最高のカウンターショットの使い手はナダルとこのナルバンディアンが双璧である。ナダルがハードコートでも一定の成績を残せるのもこのカウンターショットによるところが多い。それは対フェデラー戦に関しても同様である。サーブ・フォアハンドのハードヒットからの連続攻撃を最大の武器とするフェデラーには、この攻撃を切り返すこのカウンターがもっとも有効な武器だ。去年のマスターズカップでも、今年の全仏準決勝の第一セットでも、フェデラーはこのナルバンディアンの切れ味を増していくカウンターショットの前に苦戦を強いられ、今年の最終戦マスターズカップでも同じことが第一セットで繰り返された。去年のマスターズカップでナルバンディアンとの打ち合いに固執て足元をすくわれたフェデラーは、今年の全仏SF第二セットでチェンジオブペースを使い、緩急をつけてナルバンディアンを崩した。あの試合はナルバンディアンの棄権で終わっているが、ナルは棄権しなくてもフェデラーに行った流れを変えられたとは思えない。この2006最終戦TMCでも同様で、第一セットでライジングの打ち合いではナルバンディアンにまだ分があると認めたフェデラーは押し相撲を止めて、第二セットでは緩急をつけてナルバンディアンを崩してから畳み掛ける作戦に変更、これが大いに当たり、ナルは第二・第三セットをそれぞれ1ゲームしか取らせてもらえなかった。GAORA中継の解説者丸山薫氏が何度も言っていたが、フェデラーを慌てさせず落ち着いてプレーされたら勝ち目はない。フェデラーは第一セットダウンの後、まったく動揺を見せなかった。やや不調でショットが思い通りに打てなかったのか、いらいらはしていたが、不安な要素はなかった。勝つ手段はいくつもある。一つ上手くいかなかったからと言って相手が強いわけではない、と言っているかの用であった。皇帝の皇帝らしいTMCの開幕戦となった。
ロディックはサーブが高いレベルで安定している。ネットプレーもアプローチショットも危なっかしいが、徐々に安定に向かっている。ロディックに落ち着いてプレーされてしまうとフェデラー以外の選手では対抗しつらいだろう。第二セットでTBを落とすが、慌てずに、第三セットで仕切りなおしをして、けっして調子が悪かったわけではないリュビッチを押し返して、初戦を白星で飾った。
フェデラーもロディックもフルセットになったが、安定感を逆に感じさせる勝ち方であった。さて当のロディックはフェデラーと当たったとき、フェデラーを慌てさせることができるだろうか、そして自分自身は慌てずに落ち着いてプレーできるだろうか。要注目である。
2006年11月14日 ナダルの抱えているもの 2006TMC二日目
あ、ナダル負けちゃった・・・・・
2006マスターズカップ(TMC)二日目
ブレーク 64 76 ナダル
ダビデンコ 76 36 61 ロブレド
今年のクレーシーズンでATPに君臨する圧倒的強者、如空が「皇帝」と呼ぶロジャー・フェデラーの持つゆるぎない自信を根底から揺さぶった男、赤土の覇者ラファエル・ナダル。その彼が今、逆に自分自身の自信を揺るがせてしまっている。
ナダルにとってブレークは相性の悪い相手ではある。ブレークはベースラインでも低い打点のライジングで裁くので、ナダルのスピンボールが跳ねる前に処理してナダルの武器を封印する。だが今年に入ってフォアのフラットな強打と高速サーブ、そして一気に詰めるネットと、ハードコートでも通用する武器を増やし、その類まれなるフットワークによるコートカバーは依然ツアー随一である。それらの能力をフルに発揮して苦手のブレークにハードコートの上で接戦を演じた。決して悪い出来ではない。ナダルをクレーコートスペシャリストと限定して考えればむしろ善戦だろう。
だが、試合の流れを自分に引き寄せるチャンスが多々あったように思えるこの試合。いままでナダルのテニスにあった「勝負どころでの思い切りの良さ、開き直り」が見られなかったように思える。それがブレークに押し切られた原因ではなかったか。技術的な面、戦術的な面を一つ一つ見ていっても具体的に大きな問題は今のナダルにはない。やはり大事なところで自分の作り上げたテニスを信じる「自信」を持てなかったことが競りきれなかった要因であるように思う。ナダルの強さは流れが相手に行きかけている場面で強引なまでのスーパープレーで自分に流れを引き戻すあの豪腕さであろうに。
今年後半、特定の相手に連敗したわけでもなく、スランプに陥っているわけでもない。周囲の期待はNo2としてフェデラーの対抗馬として確かに大きいことだろうがそれがプレッシャーになっているようにも思えない。単に精神的な疲れからなのか、今年前半の快進撃の代償としての燃え尽き症候群なのか、ナダルが何を抱えているのか外からはうかがい知ることはできない。だが今コートの中にいるナダルは今年の前半その驚異的なテニスでフェデラーを何度も破ったあのナダルではない。それはサーフェイスの違いによるものだけではないことは確かだ。
一方で同じスペインのクレーコートスペシャリスト、ロブレドもダビデンコ相手にフルセットの末敗れた。だがロブレドはナダルとは逆にいま乗りに乗っている。ダビデンコの高速ストロークに球足の速いサーフェイスでこれだけ互角にやれるのである。ロブレドのプレーには自信が満ち溢れていた。今日は敗れたが、後二試合を勝つ可能性を大いに見せてくれた試合だった。
さて、ナダルが本調子でないこのグループ、本命不在で4人共に勝ちぬけのチャンスがある。勝ち上がるのは誰か。注目しよう。
2006年11月15日 二つの逆転劇 2006TMC三日目
ロディック、マッチポイントを3つも取るところまで追い込みながら・・・・
2006マスターズカップ(TMC)三日目
フェデラー 46 76 64 ロディック
リュビチッチ 57 76 75 ナルバンディアン
ツアー中最速のサーブを持ち、サーブが武器のロディック、その彼がしかし、皇帝フェデラー相手にリードしてマッチポイントを取るところまで追い込みながらも勝利を逃したのはそのロディックの武器のサーブの差であった。試合当初サーブの入りが悪いフェデラーから1セット奪取し、競りながらも第二セットをTBまで持ち込んだ。TBでロディックはミニブレークの先行に成功、マッチポイントを握る。しかし、そこでファースト・サーブが入らなかった。しかもラインオーバーでなくネットにかける、力んでいる事が丸わかりのフォールとである。そして入れるだけのセカンドをフェデラーに叩かれた。TBを逆転で落としたロディックはそれでも気落ちせず、畳み掛けようとするフェデラーに喰らいつく。だがフェデラーこの後半大事なところでファースト・サーブが入りだした。そしてセカンド・サーブからも攻めにいった。結果、ファイナルセットを取ったのはフェデラーの方になった。
ストロークは安定し、スライスのアプローチも深くなり彼の武器になってきた。そしてネットでは意外といいタッチを見せ始めている。ロディックのテニスはここに来て高いレベルで完成に近づいてきた。だが、最大の武器のサーブが大事なところで頼りにならなかった。特にセカンドから攻めなかったのは今日の敗因といえよう。だが、一つづつ、ロディックは課題を克服していっている。次の対戦ではさらに強さを増しているだろう。一方で追われるフェデラーには今日もセットで先行されても、マッチポイントを握られても、まだ余裕があった。あの自信を崩さない限り打倒フェデラーはない。フェデラーの自信を揺るがすことのできる男は、この上海にはいないのか。
ナルバンディアンの切れのあるライジングは今日も健在、リュビチッチをストローク戦に持ち込んで右に左に走らせて、逆をついてウィナーを取る。スコアでは競っているが、主導権を握っているのは明らかにナルバンディアンであった。だが、攻めきれずにTBに突入、ここでジワリと流れがリュビチッチに傾いた。最後はサービスエースでTBを取りセットオールにする。気落ちしたわけではないだろうが、ナルバンディアンのストロークにやや切れがなくなった。一方でリュビッチのサーブに切れが増した。ファイナルセットで1ブレークをもぎ取ると、そのリードをサーブの力で守りきって、リュビチッチが逆転でナルバンディアンを下した。
共にディースが多く、TBももつれ、フルセットの逆転劇となる、長い試合だった。GAORAは予定時間を2時間近くオーバーしながら放送していた。フェデラーにはまだ余裕があるようだが、二試合続けてフルセットマッチになった。さて、今日の二つの逆転劇がラウンドロビン最後の対戦に影響を及ぼすのだろうか。更なる熱戦を期待しよう。
2006年11月16日 眠れぬ夜の接戦 2006TMC四日目
どいつもこいつも長い試合しやがって、眠れないじゃないか・・・・
2006マスターズカップ四日目
ブレーク 26 64 75 ダビデンコ
ナダル 76 62 ロブレド
ランキング最下位のブレークが二勝してこのグループトップとなった。決勝トーナメント出場確定である。直前オダブルスの試合が長引き、試合開始が遅れたシングル第一試合はブレーク合戦で始まった。お互い高速ストロークが持ち味であるが、ダビデンコは当初角度の付け合いで押していた。だが、徐々にネットやダウンザラインを織り交ぜたブレークの多彩さが上回り始め、第二セットでも先行したダビデンコにブレークは追いつき、最後に追い越した。やや疲れ気味のダビデンコは第三セットでブレークに先行されるが、そこから意地を見せて追いすがる。だが、最後のサービスゲームをキープ出来ずに5−7で落として逆転負けを許した。実に僅差で決着がついた好ゲームであった。
ナダルもロブレド相手に第一セットTBまでもつれた。だが今日のナダルは終始落ち着いており、ロブレドをよく動かし、オープンコートを作ることが上手かった。ロブレドは良く走り、ナダルに負けないコートカバーを見せ、ナダルに追いすがるが、TBからギアを一段上げたナダルに押し切られ、痛い二敗目を喫した。
決勝トーナメント進出をかけて、一敗同士でナダルとダビデンコが当たる。ナダルはハードコートの上とはいえ、ダビデンコの高速ストロークをことごとく拾うだろう。今日のブレークのごとく。ダビデンコはむしろセンターにボールを集める戦法で相手の足を中央で止めてから角度をつけるショットを打つか何かしないとブレークやナダルみたいにコートを縦横無尽に走り回りボールを拾い捲り、ボールをさらにきわどいところに返す相手には主導権を握りきれないのではないかとおもうのだが、さて、結果は如何に。熱戦を期待しよう。でも試合は短く、観客の睡眠時間を確保してね。
2006年11月17日 TBを取りきる力 2006TMC五日目
またTB、今日もTB、大事なのはTBだ。
2006マスターズカップ(TMC)五日目
ナルバンディアン 62 76 ロディック
フェデラー 76 64 リュビチッチ
ナルバンディアンが勝っちゃった。だけでなく、ロディックをストレートでくだし、フェデラーがその次の試合でリュビッチをこれまたストレートで下したのでナルバンディアン・ロディック・リュビッチが一勝二敗で並んだ。3人並んだときは直接対決の結果は関係なく得失セット数のみで比較される。その得失セット数でこのナルバンディアンが三人中トップ、よって赤組二位通過はナルバンディアンとなった。もちろん一位はフェデラーである。
今やネットに出る回数はフェデラーよりも多くなったというロディック、この試合でも果敢にネットにアプローチするが相手はかつてフェデラー・キラーとして知られたカウンターショットの名手ナルバンディアンである。ベースラインから下がらず得意のライジングからパスを繰り出し、ネットに出てくるロディックを鮮やかに抜き去る。サービス・ゲームを二回もブレークされ、ロディックは第一セットを失った。
ナルバンディアンは先日の試合に続いてファーストサーブの入りが悪い。一方で第二セットで落ち着いたロディックはようやく自分のサービス・ゲームをキープできるようになる。ナルがロディックのサービス・ゲームを途中一度破るが、土壇場でロディックが取り返して6-6でTBになる。がそこでナルバンディアンのやわらかいタッチのカウンターショットの餌食となり、ロディックはTBを落とした。それはロディックの予選リーグ敗退を意味していた。
ロディックはテニスを地味な部分で安定させ、全体の底上げを果たし、かつネットへ向かう積極的戦術を取り入れ、メンタルも崩れることなく、No1になったころより今のテニス方が強くなっている。だがそのテニスでTBを取りきれない。このTMCでリュビッチ、フェデラー、ナルバンディアンの三人相手にそれぞれ1セットづつTBに持ち込んだが、その三試合ともTBを落とした。一年前の全米オープン、屈辱の一回戦敗退をミュラー相手にされたときは確か3セット連続TBで3セット連続TBを落としたはずだ。サーブが強いほうが有利といわれるTB、だがロディックはこのところ大事な試合でTBを取りきれない。大事なのはサーブの強さでなく、サービス・ゲームをキープする力、サービスからの展開力と言っていい。そこにまだロディックは伸びシロを残していると思われる。TBを取りきるサービス・ゲームの展開力を身につけて、更なる成長を見せてもらいたいものだ。
一方でフェデラーはTBが強い、特に今年後半になってTBを落としたところを見たことがない。考えてみれば、フェデラーがATPの圧倒的強者の地位についてからのこの二年半近く、フェデラーの数えるほどしかない負け試合はほとんどTBを落としたことが大きな敗因となっている。打倒フェデラーの鍵はTBをフェデラーから取れるかというところにありそうだ。それが簡単なことでないことは良くわかる。今日もリュビチッチは第一セットフェデラー相手にTBに持ち込むが、そこでフェデラーからTBを取れなかった。フェデラーからTBを取れなければスコアは競っているかのように見えても実は勝機はない。そのことをいやというほど思い知らされた一戦だったろう。
さて、赤組は一位フェデラー、二位ナルバンディアンである。金組はブレークが決勝トーナメント進出を決めた。できれば一位通過したいところだろう、SFでフェデラーと当たるかナルバンディアンと当たるかでは雲泥の差である。残り一席をめぐってナダルとダビデンコがぶつかる。ナダルのモチベーションがどこまで上がるかに試合の行方はかかっている。その行方を注目しよう。
2006年11月18日 最後の決戦へ 2006TMC6日目
なんかよくわからん奴らだ・・・・
2006TMC6日目
ナダル 57. 64 64 ダビデンコ
ロブレド 62 36 64 ブレーク
一位通過は今日負けたブレークである。フルセットの末、二位通過したのはナダルだ。ナダルは第一セットを取られてダビデンコに先行されたが、第二・第三セットを一ブレーク差で乗り切った。ダビデンコはナダルに流れかける試合の流れを何度も引き戻そうとしたが、積み重なった疲労がここぞと言う時に追い上げるガソリンを奪い去っていた。
ロブレドに先行を許したブレークは途中で波を取り返すが、ネットに果敢に出るブレークをロブレドがパスで抜き去り追い抜こうとするブレークを押しとどめ、貴重なTMC一勝を挙げたが、決勝Tに進むのはブレークである。
決勝トーナメントはフェデラー対ナダル、ブレーク対ナルバンディアンである。今年ドバイで負けてから半年以上の月日を経て、ハードコートの上でフェデラーとナダルが当たる。フェデラーはウィンブルドン決勝に続き、ナダルの挑戦を退け、覇権を磐石のものにするのか。ナダルがそのフェデラーの中にある苦手意識を増徴させることに成功するのか。来年を占う意味で大きな意味をもつもつことになるだろう。さあ、今年最後の両雄激突である。大いに熱戦を期待しよう。
2006年11月19日 フェデラーの生還 2006TMC準決勝
相変わらず心臓に悪い試合をする二人だ・・・・・・
2006マスターズカップ準決勝
フェデラー 64 75 ナダル
ブレーク 64 61 ナルバンディアン
予想通り、宿敵ナダルを圧倒するべくいきなりトップギアで攻め込む皇帝フェデラー。彼のデザイン通り、最初のナダルのサービス・ゲームをブレークして5-3で第一セットのサーブインフォザセットを迎えた。だが、そこからなんとラブゲームでサービス・ゲームを落とした。ナダルが反撃したのではなく、フェデラーがおかしくなった。また悪夢の再来かと心配したが、その直後のナダルのサービス・ゲームをブレークに成功、ファーストセットを取り、皇帝は先行する。
第二セット、ナダルは徐々にその驚異的なコートカバーを発揮し始める。そして恐るべきカウンターショットも決まり始めた。ナダルが目覚め始めている。あの強いナダルがコートに戻ってきつつある。完全に目覚める前に叩いておかなければならない。フェデラーもまたギアを上げる。サービスキープが続く5-4でナダルのサービス・ゲームでフェデラーがマッチポイントとなるブレークチャンスを二つ握った。だが、ナダルが押し戻す。ディースなった。白熱したラリーがさらに熱帯びて激しさを増す。長いディースの末、ナダルが取りきった。目の中に失意を浮かべながらも、次のサービス・ゲームをキープしてフェデラーの6-5となった。ナダルもまたプレッシャーと戦っている。やや、集中力が散漫になった。またフェデラーの先行を許してしまう。ナダルの粘りが逆転させるが、取りきれずにディースにもつれる。ナダルが先行する。フェデラーのバックがポールの外から巻いて入ってラインの外側を捉えた。再びディース、ナダルのフォアがラインを割った。フェデラーのマッチポイントがまた来た。長いラリー、コートを縦横無尽に走る二人、ナダルがワイドにドロップショットを放つ。フェデラーがきわどくランニングショットでショートクロスに入れた。雄たけびを上げる皇帝、フェデラーの対ナダル戦初のストレート勝利であった。
今回も神経戦となった。フェデラーもナダルも大事な部分で動揺する場面が見られ、ネットの向こうの強敵と同時に自分の中の内なる敵とも戦っていた。その二つの敵に勝利したのは、今回はフェデラーだった。この勝利はウィンブルドン決勝での勝利より価値ある結果だろう。悪夢の再来まで追い込まれながらも、そこから自力で生還して、ついにストレートで勝利したのである。この経験は来年のクレーシーズンで同じ場面に陥ったときに、窮地を脱する勇気と知恵を与えてくれることだろう。
ナダルはやや失速気味であった今年後半を思えば実にすばらしい復活劇であったといえよう。今日の敗北でフェデラーの中のナダルに対する苦手意識がかなり払拭されてしまったことだろうが、更なる進化で再びフェデラーに肉薄することだろう。彼はまだ20歳、大いに時間が残されているのだ。そしてハードコートでもその強さは十分フェデラーに対抗できることを証明したのだった。
さあ、去年その手から零れ落ちたタイトルを奪還するべく、いよいよフェデラーが最後の舞台に上がる。最後の相手はナルバンディアンでなくブレークだ。今年の最後の戦いにふさわしい熱戦を期待しよう。
2006年11月20日 更なる高みへといざなう 2006TMC決勝
ある意味、今年のATPを象徴している試合だったなぁ・・・
2006マスターズカップ(TMC)決勝
フェデラー 60 63 64 ブレーク
ナダルとダビデンコをラウンドロビンで倒し、ナルバンディアンを準決勝で退けた。今のブレークはそれほど男なのだ。その男を三セット連続で一蹴するかね。特に第一セットの6ゲーム連取、サーブ・リターン・何よりもフォアハンド、ショットが冴え渡り、タメを作った後の一振りで相手を崩してポイントにつなげる。流れの中からの連続攻撃でポイントを取っているのだが、「これで決まった」という決めのショットが一本入っている。フェデラーはその一本を打てばポイントを取れるのである。試合が進むにつれブレークも徐々にフェデラーのテニスに慣れ始めたが、慣れた頃には試合が終わっていた。今年一年、特に後半はそんな感じで勝ち星をひたすら挙げ続けてきた。そして今年は最後までそれをやり通した。
去年は全豪のSF敗退に始まり、全仏を落とし、マスターズカップも落とした。No1であったが失望も大きかっただろう。だが今年は、四大大会はすべて決勝進出、かつ全仏以外は全て優勝で二度目のリトルスラム達成。マスターズシリーズも出場した6大会は全て決勝進出、かつ4大会優勝、そして去年は最後に足元をすくわれたTMCでも優勝を決めた。クレーシーズンを含む前半戦こそ苦戦もしたが、後半戦はもはや独壇場であり、見事なまでの横綱相撲で押し通した。終わってみればATPに君臨する圧倒的強者としてシーズンの中でも過去最高の充実度であったのではないだろうか。
来年もその充実度をさらに高めるべく皇帝はそのテニスにさらに磨きをかけてくるだろう。台頭しつつある次世代の若者たちはフェデラーを止めることができるのか、かつての王者たちは復活して打倒フェデラーを成し遂げることができのだろうか。来年はフェデラーのテニスもライバルたちのテニスも更なる高いレベルへ昇華していくことだろう。その更なる高みへ駆け上がる強いテニス同士がぶつかり合い、しのぎを削りあう状態になることを期待してやまない。今年も熱戦を届けてくれた選手たちに感謝。来年も更なる熱戦に期待しよう。
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