第058房 2006MSマドリッド・パリ大会 TV観戦記
2006年10月18日 マドリッドに集う豪傑たち
WTAではスイスのチューリッヒで今年最後のティアT大会、インドアのチューリッヒオープンが開幕している。
第一シードモーレスモ、第二シードシャラポワ、第三シードディメンティエワ、第四シードクズネツォワ、以下ヒンギス、バイディソワ、シュニーダーと続く。現女王モーレスモにロシア勢包囲網がしかれている状況はクレムリンカップと変わりないが、ここに地元のヒンギスがどうからむかが見ものである。
ATPではスペインのマドリッドでマスターズシリーズ第8戦、マドリッド大会が開催されている。第一シードフェデラー、第二シードナダル、第三シードリュビチッチ、第四シードナルバンディアン、以下ダビデンコ、ロディック、ロブレド、ブレークと続く。グランドスラム並にトップランカーが勢揃いした。
注目はフェデラー対ナダルの頂上対決が実現するかという点だろう。4大大会の内3冠制覇している、マスターズカップも取った、ランキングポイントでも過去最高得点を記録している、史上最強の呼び声高いこの皇帝ロジャー・フェデラーにして、マスターズシリーズで制覇しているのは9大会中インディアンウェルズ・マイアミ・ハンブルグ・トロント(あるいはモントリオール)・シンシナティの5大会のみ。未だにモンテカルロ・ローマ・マドリッド・パリを制覇していない。全仏タイトルとオリンピックの金メダルを除けばこのMSの4大会のタイトルはぜひともほしいところだろう。それがインドアにもかかわらず、ナダルがディフェンディングチャンピオンとして立塞がるなら、なおのことである。ちなみにナダルはモンテカルロ・ローマ・モントリオール・マドリッドともうすでにMSを4大会も制覇している。しかもモントリオール以外はフェデラーの取っていないMS大会である。この二人は色々と因縁深い関係があるものだ。去年の大会は決勝でリュビチッチとフルセットの死闘を戦い抜き、地元で凱歌を上げたナダルであるが、地元の大会であったということもあって無理をして出場したうえにこの決勝戦での激闘がたたって、故障が悪化、以後マスターズカップも翌年の全豪も戦線から離脱することになった因縁の大会でもある。今年は最後まで健康にプレーしてもらいたいものである。
他のトップランカー達もマスターズカップの出場権を得るために鎬を削る。今年はフェデラーがリトルスラムをしたおかげで、ついでにクレーではナダルが連戦連勝であったため、先週の段階ではナダルとフェデラー以外の選手はまだ出場権を確保できずにいる。さてここらで存在感を大いに示して欲しいものだが結果は位如何に。
GAORAも日本時間のゴールデンタイムを使って週末生放送である。
熱戦を期待しよう。
2006年10月21日 覇を競う豪傑たち
先週、ウィーンとストックホルムでタイトルを守り、トーナメントを連覇したリュビチッチとブレークが負けた。先週モスクワで決勝まで進んだダビデンコとサフィンも負けた。北米シリーズで絶好調だったロディックも負けた。そして第二シードにしてディフェンディングチャンピオン、ナダルも負けた。期待された豪傑たちがこぞって混戦を抜け出せずに沈んでしまったマスターズシリーズ第8戦、マドリッド大会である。
SFはフェデラー対ナルバンディアン、ゴンザレス対ベルディッヒである。
MS第8戦マドリッド大会SF フェデラー 64 60 ナルバンディアン
第一セット4-4まではついて行けたナルバンディアンであるが、一度ブレークされると、後は一方的に押し捲られた。去年末のマスターズカップ決勝や、今年の全仏準決勝で見せたあの覇気に満ちた高速ストロークはコートの上から消え伏せてしまっていた。打倒フェデラーを為せる数少ない才能の持ち主である。QFでは復活の兆しを見せつつあるサフィンをフルセットの末倒しているのだ。もう少し執念を見せて欲しかったが、苦戦した相手には再戦で圧倒する皇帝フェデラーのテニスの前に、あまりにも無力であった。
フェデラーが一時間もかけずにナルバンディアンを片付けたからなのか、第二試合の開始まで時間がかかり、その間、GAORAはQFでのベルディッヒ対ナダル戦第二セットの録画を流した。
ナダルがストロークで押されていた。脅威の粘りはハードコートの上でも健在であったが、カウンターショットに切れがなかった。ベルディッヒのストロークに押されて、左右に振られたときの切り返しのショットに角度がつかず、センターに甘く返球させられて、そこをベルディッヒに叩かれた。それでも粘りに粘り6-6までついていき、TBで先行した。だがショットを拾うだけでは勝てない。ショートクロスにダウンザラインと、いつも攻めてくる相手を見事に切って返すカウンターショットを決めきれず、TB逆転を許し、地元の観客の声援にこたえることができずに敗退した。ベルディッヒはこれで対ナダル戦3連勝である。去年のMSパリの覇者はこのマドリッドでロディックを破り、ついにナダルまで破った。そして準決勝でそのベルディッヒを待ち受けたのはゴンザレスであった。
ゴンザレス 63 61 ベルディッヒ
ゴンザレスが変わった。バックハンドでスライスを多用し、やわらかいタッチでピンチをしのぎ、チャンスが来ると豪打で叩いて決める。必要とあらばネットにも出て決める。ハードヒットストローク一辺倒だったテニスが緩急自在のオールラウンドプレーに進化している。しかも、彼の代名詞である豪打は健在で、決めるべきときには豪快に決めていく。ベルディッヒはゴンザレスの緩急の前に足を止められ、ウィナーを見送るシーンが多く、ロディックとナダルを破った勢いを完全に挫かれた。最後はゴンザレスがきれいにフォアハンドの逆クロスを決めて見事に決勝進出を決めた。
ナダルが来るかと思ったMSマドリッドの決勝はフェデラーにゴンザレスが挑戦する形になった。新しいゴンザレスのテニスはどこまでフェデラーに通用するだろうか。未完の大器ロディックがこんな風に進化してくれればと如空が期待し想像していたテニスを先に体現してしまった、そんな感じのするゴンザレスのテニスはいた対フェデラー戦でその真価をいきなり問われることになった。さあ、決勝でさらにギアを上げるフェデラーは進化したゴンザレスを押さえ込めるか。その行方を注目しよう。
2006年10月23日 フェデラー、MSマドリッド制覇
2006MS第8戦マドリッド大会決勝フェデラー 75 61 60 ゴンザレス
緩急を付け、豪打に磨きをかけ、進化したゴンザレスのテニスは、フェデラーに対抗するに十分な力量を発揮した。好調なゴンザレスとは対照的に、フェデラーはややエラーが多い。5-5まで互角に来た。フェデラーがサービスゲームをキープして6-5となり、ゴンザレスのサービスゲームはディースになった。フェデラーがゴンザレスの深い球をスライスで返球するときに足をひねって転倒した。それを見てゴンザレスはフェデラーを左右に振ってみようと考えたようだが、それが裏目に出て、サイドラインに切れる球がアウトになり、ポイントを謙譲してしまい、フェデラーが第一セットを7-5で取った。
足の治療をした上でコートに立つ皇帝フェデラー、TVを見ている分には如空はフェデラーがいつも通りに見えるのだが、GAORA解説の辻野隆三氏はいつも静かなフェデラーのフットワークが、ばたばたしているので、足が痛むはずだと想定していた。だが、足の怪我が事実だからか、あるいは単にギアを上げただけなのか、フェデラーの攻めが早くなり、ウィナーを量産、あっという間に6-1で第二セットも連取してしまった。
第三セットも流れは変わらない。ゴンザレスが調子を落としているわけではないのに6ゲーム連取、いや第二セットから10ゲーム連取で6-0で第三セットを決めてしまった。
終わってみればストレートで決めたフェデラーのマドリッド初制覇であった。解説の辻野氏が盛んに気にしていたフェデラーの足首の具合が実際のところ、どのような具合かは、もう少し時間が経てば情報が入っていくるだろう。だが、とにかくNo3以下が混戦模様の中、進化したそのテニスで頭一つ抜け出すかと思われたゴンザレスであったが、そのゴンザレスを寄せ付けなかった。
どこまで強くなるのか、皇帝フェデラー。今年のクレーシーズンに対ナダル戦での連敗で揺らいだ自信、失いかけた覇気は、今年シーズン後半において回復どころか、さらにその強さに磨きがかかったかのようだ。対するナダルはクレーシーズンを全勝無敗で通過しただけでなくウィンブルドンの芝のコートでも決勝まで勝ち進み、今年後半のハードコートで一気にフェデラーに肉薄するかと期待されたが、北米でも、インドアシーズンでもややモチベーションが低下気味である。全仏や全英で見せた最後まで戦い抜き勝ちぬく気迫が最後まで続かずに勝ち残れずにいる。去年大きな代償を払ってまで勝ち取ったこのマドリッドのタイトルも守れなかった。今後のナダルの勝利に対する執着心がどこまで発揮されるか、やや心配である。そしてNo3以下は最終戦マスターズカップの出場権残り6席をめぐってまだそのチケットを手に入れられずにいる。この混乱は、打倒フェデラーを果たせないだけでなく、対フェデラー戦以外の試合で安定した結果を出せずにいることに起因する。来週の大会、そして残るマスターズシリーズ最後のパリ大会で彼らはまずフェデラーの待つところにいたる過程でその結果を出さなくてはならない。それが簡単に予測できないところに今のATPの情勢が垣間見える。No3からNo20くらいまではその実力は拮抗しているのだ。さて、誰が抜け出すのか。そしてその男はフェデラーを脅かすことができるのだろうか。クレーシーズンであれほどナダルががんばったのに、このままでは今年はフェデラーが過去最も他者を圧倒して支配したシーズンとなる。それを阻止するためにも、野武士たちよ、奮起せよ。フェデラーは好きな選手だ。だが、いい加減、フェデラーの圧勝は見飽きたぜ。
2006年11月01日 シードがこぞって欠場
今週、WTAはティアV大会しかない。
ベルギーのハッセルトで行われるガス・ドゥ・フランス・スターズではペトロワ・シュニーダー・バイディソワ・スレボトニク・キリレンコらシード選手がこぞって欠場、そんななか、第一シードを張るのはキム・クライシュテルス、第二シードスキアボーネ、第三シードイワノビッチ、第四シードグレーネフェルトである。日本から杉山も参戦している。さて全米直前に手首の故障で戦線離脱したクライシュテルスがここでようやく復帰である。最終戦ツアー選手権にはエントリーするようだ。あの小気味よいテニスを大いに見せてもらいたいものだ。
カナダのケベックではチャレンジベルが行われる。第一シードヤンコビッチ、第二シードバルトリが覇を競うが、華がない。さてヤンコビッチは横綱相撲を取れるだろうか。
ATPではマスターズシリーズの最終戦、第九戦のパリ大会が行われる。第一シードフェデラー、第二シードナダル、第三シードナルバンディアンのトップ三シードがこぞって欠場である。結果シードトップとなったのは第四シードのダビデンコである。以下、ゴンザレス、ブレーク、ベルディッヒと続く。さて、フェデラーもナダルもいないマスターズシリーズである。鬼の居ぬ間の何とやら、ここで貴重な今年最後のMSタイトルを取るのは誰か。GORAがいい時間帯で生中継してくれる。フェデラーの圧勝以外の決勝戦が久々に見られるのである。大いに盛り上げてもらいたいものだ。熱戦を期待しよう
2006年11月04日 2006MSパリ大会SF 接戦と棄権劇
フェデラー・ナダル・ナルバンディアンの三人が欠場した2006MS第9戦パリ大会は予想通り波乱含みの進行となった。結果としてトップシードとなったダビデンコはQFでアンチッチを撃破、アンチッチの最終戦マスターズカップ(TMC)の望みをほとんど絶望的にさせた。第六シードのロブレドも好調のニーミネンをQFで撃破、今季三度目のMS準決勝進出を決めた。トップハーフはある意味想定の範囲内かもしれない。波乱はボトムハーフ、地味なハーバティが今季好調のマレー、ベルディッヒを連破してSFに進出、一方でハースがブレークを退け、さらに復活しつつあるサフィンおも止めて見せ、SFに進出した。ブレークは敗退したものの、TMC出場に向けアンチッチよりは可能性のある状況である。さて、今季最後のMSのSFはダビデンコ対ロブレド、ハーバティ対ハースである。
2006MS第9戦パリ大会SF 第一試合 ダビデンコ 63 57 62 ロブレド
試合はダビデンコ主導で始まる。ロブレドは決して悪くないのだが、ダビデンコの体の切れが良い。2-2でロブレドのサービスゲームがディースになった。きっちりものにするダビデンコ。3-2として1ブレークリードである。次のロブレドのサービスゲームでもブレークポイントが来るがそこはロブレドがしのいだ。だが、その次のサーブゲームではダビデンコの攻めを支え切れず、ブレークを許した。6-3でロブレドが第一セットを先取する。
第二セットでも先にブレークしたのはダビデンコ、第四ゲームのロブレドのサーブを破り、3-1とリードを奪う。が、今度はロブレドも直後のダビデンコのサービスゲームをブレークして追う。徐々に調子を上げ始めるロブレド。単調なダビデンコのストロークに対してバックのスライスとフォアのムーンボールで緩急を付けてくるロブレドは、攻めるダビデンコの高速ストロークに喰らいつき、5-5になった第11ゲームでついにブレーク、リードを奪う。次のサービスゲームも勢いを借りてキープ。第二セットはロブレドが7-5で取り返す。
第三セット、足をやや痛めた様子のロブレドに対してギアを上げたのはダビデンコ、第二ゲームでブレークに成功すると、さらにブレークを重ね、6-2で圧倒、自身初のMS決勝進出を決めた。
第二試合 ハーバティ 64 10ret ハース
第一試合に比べるとゆったりとしたストローク戦であるが、その分、決めに行くショットが鋭い二人、3-3で迎えた第7ゲームでハースのサービスゲームはディースとなる。ハーバティはリターンとカウンターで見事にポイントを連取し、ブレークに成功する。ハースはやや短めのボールを前に走りこんで叩くショットが冴えている。一方のハースはそう悪くないプレーだと思うのだが、精神的にストレスがたまっているようで独り言を叫んだり、ラケットを叩きつけたりとやや荒れ模様である。だが、ハースのプレーは決して崩れていない。次のハーバティのサービスゲームを粘り勝ってブレークバックに成功する。全体的に調子がよいのはハーバティである。ハースを攻めをカウンターで切り返し、ここぞと言う時に前に出て勝負を決める。第9ゲームでハーバティが再びハースのサービスゲームをブレークすると、次のサーブインフォーザセットをラブゲームで決めた。6-4で第一セットをハーバティが先取した。
ハースは体調が悪いようだ。第二セット第一ゲームでサービスをブレークされた直後、審判台に歩み寄り、棄権を告げた。ハースはこの大会、もし優勝していれば逆転でTMCの出場権が得られる立場にあった。それだけにブーイングの中で口元を結んで退場するハースの姿には辛いものを感じた。
予想以上の接戦と予想外の棄権劇の末に決勝はダビデンコ対ハーバティとなった。この時点で、TMCの出場権はフェデラー・ナダル・ロディック・リュビチッチのほか、ナルバンディアン、ダビデンコ、ロブレドが決まっており、SFの結果でブレークが決まった。さてエリート8の中で一番地味なのはやはりダビデンコだろう。ここでMS初優勝を決め、その存在感は他の7人に引けを取らないなところを見せたいが、曲者ハーバティはダビデンコの正攻法を崩すに足る力を持つ。楽しみな決勝戦である。熱戦を期待しよう。
2006年11月06日 2006MSパリ決勝 ダビデンコ圧勝
2006MS第9戦パリ大会決勝 ダビデンコ 61 62 62 ハーバティ
昨日に引き続き、ダビデンコの体の切れが良い。第二ゲームでいきなりハーバティのサービスゲームを破り、そのまま5ゲームを連取して5-0まで一気に突っ走る。ハーバティは一ゲームを返すが最後はきっちりとダビデンコが締めて6-1でダビデンコが第一セットを先取する。
第二セットもダビデンコがいきなりブレークでスタート、第二ゲームでディースになるがサーブの力で切り抜け、次のサービスゲームもブレークする。あっという間に4-0となり、ハーバティも一ゲーム返し、5-1となった第七ゲームでもディースのピンチを迎えるが乗り切り、ダビデンコの5-2となる。だがダビデンコは崩れる様子を見せずにサーブインフォーザセットを取り、6-2で第二セットもダビデンコが取った。
第三セット、ディースになっても何とかサーブをキープして、2-2までハーバティはがんばる。だが、今日のダビデンコはゆるぎない。第5ゲームでブレーク、その後、ディースで苦しみながらもキープして4-2とダビデンコリード。さらに第七ゲームでダビデンコがさらにブレーク成功。5-2となった。サーブインフォーザチャンピオンシップスが来た。ハーバティは意地を見せてディースまで喰らいついたが、ダビデンコはまったく揺らがず、最後のポイントを取りきり、6-2で第三セットも連取、ストレートの磐石テニスでダビデンコはマスターズシリーズ初優勝を遂げた。
今のダビデンコは上位ランカーで今のハーバティとはランキングでは差があるとはいえ、これほど一方的な試合内容になるとは思わなかった。いや強い。とにかくまったく揺るがず、自分のテニスを淡々とし、ポイントを粛々と積み重ね、3セットを一気に取りきった。高速ストロークの展開力に鋭いサーブとリターン、粘り強くチャンスをうかがい、オープンコートにせっせとボールを入れてくる。さて、このMS初優勝が地味なダビデンコにブレークスルーをもたらすのか。今後のダビデンコに期待しよう。
さあ、これでマスターズシリーズは2006年の日程をすべて終了した。残すはツアー最終戦、マスターズカップである。選ばれた8人がしのぎを削る。フェデラーの年間最終ランキングNo1が既に決まっているとはいえ、やはり、というより、それだからこそ、「誰かフェデラーを止めるのか」という点に再び注目が集まっている。
失速しつつあるナダルに復活はありうるのか。ミスターファイナリストの二人リュビチッチとロディックはその壁を破れるのか。MS初制覇を今年遂げたダビデンコとロブレドはTMCでも活躍できるか。ブレークの調子は如何に。そしてナルバンディアンは去年の奇跡を再現できるだろうか。今年も注目していこう。
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