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第054房 2006年 全米オープン TV観戦記

 

2006年08月24日 2006全米ドロー

2006年USオープンのドローが出た。例によって全ドローを4つの山に割り、独断と偏見による展望を見てみよう。(予想が外れてもからまないように、あくまで個人的趣味です)
男子第一シードはロジャー・フェデラー。2004年のウィンブルドンよりグランドスラム(GS)9大会連続ベスト4進出、GS5大会連続決勝進出、GS決勝9戦8勝1敗、如空が皇帝と呼ぶATPに君臨する圧倒的強者である。二年前にヒューイットを破り全米初優勝、去年はアガシを降しての連覇達成、今年は全米3連覇に挑む。皇帝の山は第五シードブレークを筆頭にヘンマン、ルゼドスキー、ビュークマン、ガウディオ、フェレーロ、ベルディッヒ、モヤ、マシュー、という顔ぶれである。ベテラン・若手・中堅、青芝屋に赤土屋とタイプがバラエティに富んでいる。去年の全米でアガシとの名勝負を演じたブレーク、2005マスターズシリーズ(MS)パリの覇者ベルディッヒ、直前の2006MSシンシナティファイナリストのフェレーロなどにストップザフェデラーの期待がかかるが、SFまでに波乱が起こることは期待しないほうが良い。
第四シードはナルバンディアン。彼の山には第七シードのダビデンコを筆頭にサフィン、コリア、ロクス弟、ジネプリ、ハース、ゴンザレス、マレー、マチューらが鎬を削る。実力者でありながら長いトーナメントを最後まで勝ちきれないナルバンディアン、彼の強さが圧倒的でない以上、この山からは誰がSFに進出してもおかしくない。白熱した戦いがくりひろげられるだろう。
ボトムハーフ、第三シードは地味なNo3リュビチッチである。彼の山は第八シードバクダティスと、全米タイトルホルダーアガシ、ロディック、ヒューイット、の三人が集まっている。他にもTヨハンソン、グロージャン、サントロ、フィッシュ、ガスケという豪華な顔ぶれである。ヒューイットは右足を負傷しており直前まで出場できるかどうか危ぶまれている。一方でロディックは元気だ。コナーズをコーチに迎え、直前の2006MSシンシナティ大会で優勝してこの全米オープンに乗り込んでくる。フェデラーと反対側の山に入っただけに決勝進出のチャンスが大いにもたれる。そしてこの大会で引退する生きる伝説アガシはそのロディックと4回戦で当たることになる。せめてそこまで勝ち残ってほしいものだが、そこまでにバクダティス、グロージャン、T・ヨハンソンなどを突破しなくてはならない。去年決勝進出のあの奇跡を最後にもう一度おこせるだろうかアガシよ、美しい形で有終の美を飾ってほしいと思うのだが、現実は厳しいものがある。ただでさえ地味なリュビチッチはこのアガシとロディックの前に存在感をどれほど出せるか、こちらも別の意味で大いに注目である。
第二シードはナダル。全仏覇者にしてウィンブルドンファイナリスト、フェデラーをクレーだけでなくハードコートでも破った男、ドラゴンボールおたくにして筋トレフェチ、クレーの覇者が次に望むのはこの全米タイトルであろう。3年前にフェレーロが掴みかけたものの果たせなかった夢、全仏と全米の連覇にスペインの昇り竜が挑む。彼の山は第六シードロブレドを筆頭にソーダーリン、セラ、ハーバティ、マスー、アルマジロ・・・・じゃなかったアルマグロ、フェラー、ニーミネン、マリッセ、ノバック、スリチャパン、アカスソ、モンフィスと地味だが実力者がそろった。さてこの中で勝ち残れれば、ナダルのハードコートでの強さも本物といえるだろが、さて、前哨戦の北米ハードコートシーズンではあまり成績が良くなかったナダルである。その真価を大いに問われる大会となろう。ちなみにナダルの初戦の相手はフィリポーシスである。
今年に入って結果だけを見ればナダルとマレー以外の選手には負けていないフェデラーであるが、試合内容を見るにさすがに2004後半から2005年にかけての圧倒的な強さには発揮できなくなりつつある。フェデラーが弱くなったのではなく他の選手がフェデラーを研究し、かつ自らのテニスを高め追い上げてきているのだ。トップハーフにてフェデラーの決勝進出の可能性は依然としてゆるぎないのだろうが、どんな事故が途中で起こるかも知れないという一抹の不安が去年と違って残っている。
両雄の一方であるナダルのハードコートでの強さも未知数である。去年はMSのハードコートタイトルを取り、今年はフェデラーもハードで一度破っている。何よりも驚くべきはウィンブルドンで決勝にまで進出したことだろう。その強くなるスピードが驚愕である。前哨戦での不調などまったく参考に出来ないのが今のナダルの恐ろしいところだ。自信を取り戻しつつあるロディックとSFで対戦が実現すれば、それは今後を占う意味で大いに注目するべき試合となるだろう。

女子は去年の覇者クライシュテルスが欠場となった。
第一シードはモーレスモ、全豪・全英覇者にして現女王、文句なしのNo1である。彼女の山には第八シードで因縁の相手ヒンギスが入った。しかもデシー、ハンチェコワ、イワノビッチ、サフィーナとティアTクラスで決勝に進出できる選手がそろった。それでも女王としての自信をつけつつあるモーレスモはQFまで勝ち進むだろう。ここでヒンギスとの対戦が実現すれば大いに注目である。と、よくドローを見るとS・ウィリアムズがノーシードでひっそりエントリーしているぞ、未知数だけに恐ろしいことになるかも・・・・・
第三シードはWTAのお姫様シャラポワ、彼女の山には第五シードペトロワを筆頭にピエルス、ミスキナ、ゴルビンが顔を連ねる。ペトロワとは何度も大接戦を演じているシャラポワである。正直QFでの対戦はいやあな相手とまた当たるなといった感想ではないだろうか。果たして再び大接戦が実現するか、ここも注目である。
ボトムハーフ、第四シードはディメンティエワ、彼女の山には一昨年の全米覇者クズネツォワが第六シードに控える。更にヤンコビッチ、バイディソワ、グローエンフェルト、レザイ、ストーザー、キレリンコ、Vウィリアムズが鎬を削るタフドローとなった。誰が出てきても不思議ではないこの山、勝ち残るのは誰か、大いに注目である。
第二シードはエナン・アーデン、全豪・全仏・全英のGS3大会連続決勝進出の全仏覇者、WTAの影番とも言われる強者である。彼女の山には第七シードシュニーダーを筆頭に森上、浅越、ダベンポート、スキアボーネ、杉山らが顔をそろえるが今季安定した調子を維持するエナンを止めるにはいたらないだろう。
デメの山はタフだ、ここを勝ち残った選手は疲労困憊でエナンの餌食になりやすい。トップハーフはQFでモーレスモ対ヒンギス、シャラポワ対ペトロワが実現すればそこからタフになる。セリーナ・ウィリアムズが劇的な復活を遂げれば激しさに拍車をかける。優勝候補筆頭は文句なしにエナンであろうに、これがまたそのエナンに有利になるようなドローになってしまった。果たしてエナンを止めうる選手は存在するのか、この一点に優勝の行方はかかる。
いよいよ今年最後のグランドスラムの幕が上がる。WOWOWも初日から放送だ。熱戦を期待しよう。

 

2006年08月29日ライジング打法が散る

雨で開幕が遅れた全米オープンだが、それでも無事開幕した。日曜日のパイロットペン大会決勝で棄権し、出場すら危ぶまれていたダベンポートは無事初戦を突破した。その一方で第三シードが初戦敗退していることにどれだけの人間が気づいていることか。リュビチッチダウン・・・・って誰も気づかない。ああ、なんて地味なんだリュビチッチ。
日本勢は杉山が初戦を突破したが森上と浅越は敗退した。浅越はこれが現役最後のシングルスとなった。伊達引退後の日本女子テニスを杉山とともに牽引した浅越が引退する。
伊達引退直後、ポスト伊達を期待され伊達のイメージを引きずる杉山は苦しんだ。彼女が伊達の影響から脱し始めたのはダブルスで全米優勝した頃からだろうか。伊達のおかげで日本は何でもかんでも「ライジング・ライジング」のといわれる時期があった。多くの人はライジング=タイミングが早い=スイングが速いとい思っているが、実際ライジングで打つためにはゆっくりしたスイングで打つ。ボールの勢いを利用してコースを変えるのがライジングだからだ。でも杉山はトルクフルで回転スピードの速いスイングをぶんぶん回す、しっかりとボールを打つのが好きな選手だ。だから伊達の影を追って一時期ライジングに傾倒していた頃は、自分のやりたいテニスとのずれを感じて上手くいっていなかったようだ。伊達のライジング打法を忘れて、アップテンポなストロークとダブルスで学んだネットへの展開で、杉山は自分のテニスを再構築していく。
伊達のテニスの継承者は杉山でなく浅越だ。別に同じ園田学園の出身であるが、それが原因でなく、やはりスイングだろう。あの浅越のラケットを前に出してボディターンだけで打つゆったりしたスイング、あれこそライジング打法の発展型だろう。伊達はコートの外に追い出されたり、ベースラインより後ろに下がるのがいやな性格だったので、深い球をバウンド直後に打つようになり、それがライジング打法につながったと言われる。浅越は伊達ほど打点が低くないが、それでもテイクバックを大きく取らず、スイングも大きく取らず、ラケットを大きく回したりせず、水平に引いて水平に押出す。それでコースを変える。体も大きく打点も高いところで打てる。スピン全盛のこのごろにフラットな打球で世界に挑み、グランドスラムでも第二週に残る所まで駆け上がった。
残念ながらライジング打法の継承者は日本にはいないようだ。中村も森田も杉山同様ぶんぶんラケットを振り回して打ち合うテニスだし、森上は逆にスピンとスライスを多用する。ライジング打法はボール自体は軽く、切り替えされると辛い。展開がどんどん早くなっていく今のテニスではライジングのみでなく、ライジングでも落としてでも打てて、かつネットにも果敢につめるオールラウンド・オールタイミングなテニスでないと勝てなくなって来ているかもしれない。男子だけでなく女子にもこの流れが押し寄せている。
浅越の今後の人生に幸多かれと祈りたい。
そして一方でまた、ライジング打法でありながらスイングスピードが速いという世界でもまれに見る独特のテニスが、今、終わりを迎えつつある。アンドレ・アガシ。彼のテニスがこの最後の大会でどこまで繰り広げられるのか、この目に焼き付けておこう。

 

2006年08月30日アガシの残日録 1回戦

WOWOWサンよ・・・初戦は日本人枠というのは慣例かもしれないが、アガシの試合を差し置いて杉山・浅越戦ですか。二時間しかない貴重なアナログの初日の放送を無理して日本人枠で使いますかね。確かに浅越はアガシ同様この大会で引退であるのだが・・・と思っていたら最後の10分くらいでダイジェスト版のアガシ戦を放送してくれた。

2006全米1回戦 アガシ 67 76 76 63 パベル

ネットのライブスコアでチェックしていた。第二セットもTBにもつれたところで「アガシやばい、初戦敗退か!」とあせった。第三セットのTBでもかなり心配した。最後の勝利が決まるまで安心などできなかった。
ダイジェスト版だったが試合の迫力は十分に伝わってきた。パベルがいい。あの片手打ちのバックハンドの力強いこと。バックハンドダウンザラインが何度もアガシを抜く。鮮やかなネットプレーが冴え渡り、絶妙なドロップショットがアガシの体力を奪う。ルーマニアのクレーコートスペシャリストらしいが十分ハードでも強い。会場全体がアガシ応援のなか、なかなかどうして堂々とした見事なプレーで自分のテニスを展開する。見ていてパベルのファンになりそうだった。一方のアガシも負けずにリターンとライジング打法で対抗する。アガシは本当に36歳か、信じられないくらい良く走る。前に詰めるスピードだけでなく後ろに下がるのも速い。驚異のフットワークだ。両者ともにウィナーを狙う、これぞプロのテニスだと言わんばかりの白熱した3セット連続のTBの接戦であった。
きわどい勝利をモノにしたアガシの次の相手はバクダティスである。アガシのライジング打法の後継者となりうる才能をもつ者は、ATPには二人、アルゼンチンのナルバンディアンとキプロスのバクダティスが双璧だと如空は思っている。さて、新旧ライジング打法対決はどちらに軍配が上がるのか。
日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ・・・・アガシの残日録はまだ続く。また眠れぬ夜が始まった。今年も全米オープンが開幕したのである。

 

2006年08月31日 三日目の一回戦消化

全米一回戦は一日遅れで消化、3日目を経てシード勢はほぼ安泰、男子はリュビチッチが、女子はミスキナがダウンしたくらいか。負けたことも辛いだろうが、これが「波乱」と感じられないところが二人にとって辛いところだ。男子第四シードナルバンディアンは2セットダウンからの逆転勝ちで二回戦進出を決めた。相変わらずピリッとしないね、ナル。フェデラーの待つところまでいけるだろうか。
セリーナ・ウィリアムズも初戦を突破している。彼女のウェア、かっこいいね。黒いワンピース、ひらひらしていない。体にフィットしていて力強さが全身から伝わって来る。「黒い刺客」って感じだな。さて台風の目となるかセリーナ、こちらも密かに注目しておこう。  

2006年09月01日 わかって来ましたね、WOWOWさん

全米オープン四日目も上位シード勢安泰・・・・と思っていたらヒンギスが二回戦で敗退してしまった。元気ないね、ヒンギス。ダベンポートなんか6-06-0で完封勝利だよ、串団子だよ、ダブルベーグルだよ。先週の大会決勝で肩を痛めて棄権、全米出場が危ぶまれていた人の勝ち方かね、これが。
WOWOWアナログは一昨日はヒューイットとモーレスモ、昨日はサフィンとヒンギスの中継だった。中村の試合があったのにヒューイット、杉山の試合があったのにサフィンとは驚いた。せっかく黒のコスチュームでシックに決めたシャラポワの試合もアナログはまだダイジェスト以外では流していないのではないだろうか。なかなかわかってきたじゃありませんかWOWOWさん。
ヨーロッパと違ってアメリカは日本時間で翌日の午前中に前日のナイトセッションをすることになるので、朝起きてチェックとか昼休みにチェックとかして驚きの結果を知ることが少なくない。ヒンギス敗退も昼休み前の休憩で知った。アガシはバクダティス相手に2セットアップでがんばっている。初戦のロングマッチで背中の痛みが再発したとの情報が飛び交うが、大丈夫だろうか。バクダティスに勝てるならこの最後の全米も去年同様大いに期待が持てるぞ、さあ、燃え尽きるまでエンジン全開だ、36歳の輝きを見せろアガシ。

 

2006年09月02日 アガシの残日録 二回戦

WOWOWさん、何でこの試合がダイジェストで中村と杉山の試合は放送するわけ。杉山は3回戦の対エナン戦を放送すればいいじゃん。まあ、5セットマッチを一時間で編集しようとすると結局つぎはぎだらけのダイジェストになってしまうのだろうけど・・・・・

2006全米オープン二回戦 アガシ 64 64 36 57 75 バクダティス

2セット先取したにもかかわらず、第四セットを5-7で落とした時点でまたもや「アガシはここで負ける」と思った。ファイナルで5-5になったときもそう思った。ライブスコアではバクダティスが足を痙攣させたことなどわからなかったので長引けばアガシに不利だと考えていた。それでも勝つからすごいね。まるでテニスの神様ができるだけ長くアガシのテニスを見ていられるように、アガシが最後のテニスをやり尽くせるように、好敵手との接戦を準備してくれているかのようだ。
生きる伝説とまで言われるアガシの最後の大会とあって周囲はアガシ絶賛の声ばかり目立つ。だがこの試合、2セットダウンからセットオールに戻してファイナルも足の痙攣にもかかわらず5-5まで競ったバクダティスの健闘にむしろ心奪われるものがあった。もちろん、その素晴らしいバクダティスのテニスを引き出しているのはアガシなのだが。
このバクダティスだけでなく、一回戦の相手パベルも実に見事なテニスでアガシに対抗し、見るものを魅了した。アガシという選手の面白いところは相手の技量を引き出し、かつ相手によっては更に高めあうプレーをする点にある。かつてサンプラスがそのようなライバルであったし、サフィン・ロディック・フェレーロ・ヒューイット・コリアなどはトップに上り詰める過程で、あるいは上り詰めた後、アガシとの好勝負でその力量を更に高めていった。今年のウィンブルドンでもナダルがアガシと対戦して、そこから急速に芝にフィットしたテニスをし始めて、一気にフェデラーの待つ決勝にまで勝ち進んだ。あれはアガシが目覚めさせたという見方も出来なくはない。
戦術レベルでの戦いにおける基本方針は「敵の主戦力の非戦力化」にあるといわれる。具体的にテニスに置き換えると「相手の嫌がることをする」「相手に得意なことをさせない」といえるだろうか。ただこれをやると勝負には勝てるかもしれないが、見ていて面白いテニスとはなりにくい。アガシは違う。相手に得意なことをさせた上で、自分も得意なことをして、真っ向勝負を挑む。野球にたとえるなら、相手ピッチャーの失投を待つのではなく、三振を取りに来た相手のピッチャーが投げる、もっとも自信を持って得意とする決め球を待って、それをあえてフルスイングで打ちに行きホームランを狙う。そんなところがある。だからこそ、アガシの試合は見ていて面白いのだ。あれこそがプロの試合だ。そしてそんなアガシとの好勝負を経て多くの選手がまた成長していく。アガシが現在のテニスにどれほど貢献していることか、その影響は計り知れない。バクダティスはそのウィナーの数でアガシを上回る見事なまでのテニスを展開した。敗れはしたが彼もまた、ここで何かをつかんだはずだ。今後の試合でその成果は発揮されることだろう。
偉大なる剣術の師が、旅をしながら、そこで出会った剣士達に試練を与え、決闘し、その末に彼らの眠っていた力を目覚めさせ、そして去っていく。そんな情景すら覚えるアガシの旅路も終わりに近づいている。彼が最後に目覚めさせる相手は誰なのか。それは次のベッカーなのか、あるいは未完の大器ロディックを完成へと導くのか、赤土の覇者ナダルにハードコートおも征する力を与えるのか、皇帝フェデラーに再びゆるぎない自信を取り戻させるのか。
日残リテ、昏ルルに未ダ遠シ・・・・・アガシの残日録はまだ続く。

 

2006年09月04日 アガシの残日録 伝説の終焉

2006全米オープン三回戦
ベッカー 75 67 64 75 アガシ

ああ・・・・・・・

 

2006年09月05日 2006全米 折り返し

 

アガシについて大いに語ろうと思っていたが、いざ引退に接すると言葉がない。まさに力尽きたという感じでベッカーの強打の前に敗れていった。ベッカーがサービスエースで勝利を決めた瞬間、コートは静まり返っていた。すべてをやり尽くし、全力を出し尽くし、限界まで戦い抜き、挑み続け、燃え尽きた後のアガシはとても静かだった。彼について語るべきことは如空もすべて語った。今は静かにアガシの功績を胸に刻み込んでおこう。電脳網庭球寺におけるアガシの過去の特集記事は下記の通りである。興味のある方は一度ご覧ください。

アガシのシンプル・テニス
サフィン復活、アガシの全豪連勝記録ストップ。
如空が選ぶ名勝負  
生きている伝説アガシと皇帝フェデラー

さて、アガシ戦の結果をネットで知ったとき、アガシが疲労困憊に加え背中の痛みに耐え切れず、十分のテニスをできずに負けていったのだろうと勝手に想像していた。だがそれは実際の試合内容の半分でしかない。ベッカーだ。ベッカーが強かった。ベッカーのサーブの速さ、フォアの強さ、ハードヒッターにかかわらず安定したストローク、堅実なリターン、打ち合いに挑んで崩れない強くて堅固なそのテニス。ハースの顔をたれ目にして、縦に伸ばしたキーファーの体に乗せたような風貌のベンジャミン・ベッカーは、3回戦でアガシと対戦が決まった時から、世界中で「アガシの次の相手はドイツのB・ベッカーだ」と往年のチャンピオンボリス・ベッカーの率い合いに出され、まがい物のような一種色物的な扱いをされていた。だが、なかなかどうして、彼はアガシを倒すに有り余る力量を備えた選手だった。アガシという選手は最後まで相手選手の力量を引き出す役割を果たすことになった。彼は大学テニスのチャンピオンで、十分な準備と自信を持ってATPに乗り込んできた「隠れた才能」だった。それがこの試合で一気に世界にその存在をアピールすることになった。サーブとフォアが強力であり、かつ安定している、ロディックとまったく同じタイプの彼がアガシの次に当たるのが復活の途上にあるロディックというところに運命のあやを感じる。アガシから直接バトンを受け取ることが叶わなかったロディックである。次の試合をどのような心境で臨むのか。アガシは4回戦に進出できなかったが、アガシがコートに入るつもりでいたその4回戦のコートに足を踏み入れるロディックとベッカーにとって、重要な意味をなす試合になるであろうことには代わりはなさそうである。
フェレーロ、ガウディオ、モヤなど歴代全仏チャンピオンたちがハードコートの上で破れていく中、ナダルは期待通りに勝ち残っている。第一シードのフェデラーも当然のごとく勝ち残っている。意外なのはロディックだけでなく心配されていたヒューイットとサフィンという、昔の王者たちが勝ち進んでいることだ。ヒューイットは台頭著しいジュコビッチをストレートで降した。サフィンはなんと第四シードナルバンディアンをフルセットの末に退けた。ファイナルTBにもつれる熱戦だったが、最後のTBでフォアのドロップショットを二度ミスしたナルが痛恨の敗北を最後に喫した。
女子はエナンとディメンティエワがQF進出を決めている。ディメンティエワの山はクズネツォワが順当にあがって来るのではないだろうか。エナンは比較的楽なドローを思われたが、ダベンポートがいい調子であがってきている。過去に何度も苦戦させられた相手だけに不気味なのではないだろうか。シャラポワはいつも接戦になるペトロワが途中でダウンしたので比較的楽になったのではないか。反対にヒンギスがダウンしたにもかかわらず心穏やかでないのが第一シードモーレスモだろう。黒い刺客セリーナ・ウィリアムズが静かに勝ちあがってきている。こちらの行方も大いに注目である。
さあ、折り返し点を越えた2006全米オープンである。ますますの熱戦を期待しよう。

 

2006年09月06日 儀式は終わり、闘技が始まる。

ベスト8が出揃った全米オープン女子シングルスQF、準決勝に一番乗りの名乗りをあげたのはなんとヤンコビッチである。ディメンティエワを62 61という圧倒的なスコアで退けた。ディメンティエワは相変わらずあの擦れ当たりスライスサーブしか打てずに、ヤンコビッチに徹底的にリターンを叩かれたらしい。時々いいサーブを打つ試合も見たりするのだが、自信がないだけに崩れると一気にサーブが落ち込むようだ。
雨により他の3試合はまだ行われてない。
モーレスモはセリーナを降して、万全の体制でサフィーナを迎え撃つ。その先はシャラポワとゴルビンの勝者となる。4R対セリーナ戦は第一セット先取の後、第二セットを0-6で落とした。第二セットに何があったかはよくわからないが、故障や不調でもないのにセリーナ相手にこの流れではまず第三セットも持っていかれるものだ。だがモーレスモは第三セットをなんと6-2で取り返して復活しつつあったセリーナの撃破に成功した。人が地位を作るのか、地位が人を作るのか、とにもかくにもNo1として全豪全英チャンピオンとして、その強さは徐々に自信によって裏つけられ、さらにその強さを増していっているようである。
モーレスモを止めるべくエナンが反対の山から勝ち上がる。目の前に立ちはだかるのはダベンポート、全米に入って調子を上げてきた。ここも接戦が予想される。
男子ではヒューイットとロディックが共に勝ってQF進出、二人が激突する。ヒューイットはガスケをフルセットの激戦の末降した。ロディックはアガシを破りその力量を世界にアピールしたベッカー相手にそれを上回るテニスをして一蹴した。ハードコートでは無類の強さを誇ったこの二人。だがフェデラーの前に連敗を重ね、自信を失い、やがてフェデラー以外の相手にも負けるようになっていった。その二人が、ようやく自信を取り戻しつつある。ロディックはヒューイットに対して分が悪く、ヒューイットはロディックを得意としている。しかし、今勢いに乗っているのはロディックのほうだろう。さてSFの切符を手に入れるのはどちらだ。注目の一戦である。この勝者をSFで待っているのはおそらくはナダルであろう。だがナダルはロブレドを破ったユーズニーをその前に退けなければならない。
もう一人、復活しつつあるかつての王者、サフィンも2Rでのナルバンディアンとのフルセットマッチを制した後、3Rで苦手の小兵ロクス(弟)をストレートで破り、4Rに進出した。待っているのはトミー・ハース。2002年全豪SFでのあの激戦カードの再現である。予断を許さないその結末の先には、マレーとダビデンコの勝者が待っている。マレーが勢いを駆って出てくるのか、ダビデンコがその実力を大いに発揮して見せるのか。そしてその先には皇帝フェデラーが、静かに、しかし力強く勝ち進んで来る。QFでの皇帝への挑戦件を賭けてベルディッヒとブレークが激突する。
アガシの引退セレモニーと化した感のあった全米オープンも、アガシが去り、いよいよ強者達が鎬を削る激戦の闘技場となってきた。熱戦に期待しよう。

 

2006年09月07日 4つのブレークポイント

ロディックがヒューイットを 63 75 64 のストレートで降した。両者とも4回ブレークポイント(BP)があり、ロディックは四回とも成功したが、ヒューイットは一度しか成功しなかった。第一セットと第三セットはそれぞれ一回づつBPがあり、ロディックはそれを取り、ヒューイットは落とした。第二セット、それぞれ一回づつ合ったチャンスを今度はヒューイットも取り5-5になったが最後に再び来たBPをロディックがモノにして第二セットもロディックが取った。
あのリターンの名手にしてピンチに強い粘り屋ヒューイットから貴重な4回のBPを全て成功させたことは素晴らしい。この4回のブレークポイントはどれ一つ、落としていたら勝敗の行方はわからなかった。リターンゲームに弱いとされていたロディックが着実に弱点を克服してきているのだ。たった3回のブレークポイントの差でロディックはこの接戦を勝利した。内容は競っているが、苦手ヒューイット相手にストレートで勝利した事には変わりない。テニスが高いレベルで安定している証拠だ。ロディックの地道な部分での進歩を示す内容だ。
決勝にまで進めれば、そこに待っているのはおそらくフェデラーである。NO1だったロディックからその「自信」を打ち崩し、奪い去った相手、ATPに君臨する皇帝フェデラー、その相手に今度こそ、いい勝負ができるのではないか。

 

期待される者達

ナダルが負けた。ユーズニーにQFセットカウント1-3で敗れた。本人曰く、この全米での目標は4R突破QF進出であったわけで、その目標は達せられたわけだが、ウィンブルドンで決勝まで進出したNo2の結果としては物足りないもの感じないわけではない。少なくてもこれでフェデラーが怪我で戦線離脱でもしない限り、皇帝の2006年最終ランキング1位はほとんど確定的だろう。今年はMSマドリッド・パリとマスターズ・カップとまだまだ大きな大会は残っているが、この二年ばかり、フェデラーが全米終了後に年間最終ランキングNo1を決めてきた。今年は少し違う流れをナダルがもたらしてくれるのではと期待していた。今年中盤あまりに大活躍だっただけに、ナダルに対して全米での打倒フェデラーの期待が大きかった部分もある。今年年頭は故障で戦線離脱を余儀なくされたことを考えれば良くぞここまで上り詰めたものだとも思う。来年は全豪から飛ばしていくだろう。来年こそは熾烈なNo1争いを見せてもらいたいものだ。
ナダルを破ったユーズニーはヒューイットとロディックの勝者と当たる。このハードコートの強者、ヒューイットとロディックはさすがにナダルのようには行かないだろうが結果は蓋をあけてみなければわからない。
フェデラーは順当にQFに進出、ベルディッヒを破ったブレークと当たる。そろそろ、相手が強くなるにつれ皇帝のギアも上がってくる頃合だ。フェデラーの強さが今年もNYで体現されるときが近づいている。
マレーは4Rダビデンコを突破できなかった。しかし、この数ヶ月で一気にトップランカーに肉薄するところまで台頭してきた若きイギリスのルーキーはけして失望していないだろう。これからどこまで強くなるのか、ギルバートの手腕と共に、世界中が注目している。
そして2002年全豪SFの死闘は再びNYで再現された。

2006全米男子単4R ハース 46 63 26 62 76 サフィン

一進一退の白熱した攻防戦の決着はファイナルセットTBに委ねられた。TB7-5の僅差で勝利を手にしたのはハースだった。調子が上がる度に怪我に泣かされたハースである。彼もまた「未完の大器」と呼ぶに足る選手だ。今年は最後まで調子を維持できるだろうか。SF進出をかけてダビデンコと一騎打ちである。
女子は第四シードディメンティエワこそ、ベスト4直前でダウンしたが、第一シードモーレスモ、第二シードエナン、第三シードシャラポワは順当に勝ち上がった。モーレスモはサフィーナを危なげなく退け、エナンはニセット連続の1ブレーク差のしまった内容でダベンポートを降し、シャラポワはニセット連続TBという接戦をモノにしてゴルビンを突破した。SFはモーレスモ対シャラポワ、エナン対ヤンコビッチである。いつもGSのSFで敗退するシャラポア、今度こそはと強い気持ちで臨んで来ると思うが、自信を持ってその女王の座を固めつつあるモーレスモを揺るがすことができるだろうか。
熱戦を期待しよう。

 

2006年09月08日 皇帝の歩みもまた着実

2006全米男子単QF
フェデラー 76 60 67 64 ブレーク

第一セットTB、第二セット団子、第三セットTB、第四セット1ブレークの差で敗れる。ブレークの惜敗というべきか、フェデラーの想定の範囲内におけるというべきか、どちらともつきそうなスコアである。だが第二セットの6-0ってなんだ。サーブの強い男子プロの試合で3連続サービスブレークとは恐れ入る。ブレークはけしてサーブの弱い選手ではない。むしろ自信を持っていうるほうだろうに。相手のレベルが上がれば上がるほど、フェデラーの強さがまた引き立つ。SFの相手ダビデンコは確か今年の全豪で苦戦していたと思うのだが、今回の対決はいかに。苦戦させられた相手には次の対戦で徹底的に叩きに行くのがフェデラーの性格だ。しかし、今のダビデンコはそう簡単には崩せそうにもない。さて、皇帝はどう攻め崩しにかかるのか。大いに注目しよう。

 

ダビデンコ ただ淡々と

2006全米男子単QF ダビデンコ 46 67 63 64 64 ハース

ダビデンコ2セットダウンからの大逆転!しかし、ハースも後半失速したわけでもなければ自滅したわけでもなさそうだ。第二セットTB、その他もほとんどが1ブレーク差の競った内容である。ダビデンコが調子に乗って来た。昨日マレーを退けた試合をWOWOWで見たが、ダビデンコはまるで機械のように正確にハードヒットを右に左に打ち込んでいく。あまり緩急をつけず、かといって無理をせず、安定した威力のあるストロークを淡々と打ちつづけ、相手が長いラリーについていけなくなったところでダウンザラインに叩き込む。試合中に崩れそうな気配を微塵も感じさせない。地味だがあれは強いわ。グランドスラム(GS)SF初進出でダビデンコはフェデラーに挑むことになるはずだ。
さあ、皇帝フェデラーは無事QFを突破してダビデンコの待つSFに進むことができるだろうか。連覇を阻止するべく、皇帝の前に今、ブレークが立ち塞がる。

 

2006年09月09日 女王達の心の入れ方

つくづく、テニスというのは神経戦だということを思い知らされる二試合だった。

2006全米女子単SF
エナン 46 64 60 ヤンコビッチ
シャラポワ 60 46 60 モーレスモ

自分のペースをつかめないエナンに容赦なく襲い掛かるヤンコビッチ、彼女はおそらくは今までのキャリアの中でベストパフォーマンスを発揮してエナンを追い詰めていっていたはずだ。第二セット中盤でさすがにエナンの逆転は難しいと思われた。だが、ベストのテニスでないにしても我慢のテニスで耐えるエナンの前に、いくつかの不運が重なって崩れたのはヤンコビッチであった。第三セットで怒涛の攻めを見せたのはエナンのほうである。これが同じ選手同士の同じ一試合の中での出来事だろうか。第一セットと第三セットでは完全に立場が逆転していた。終わってみればエナンが今年のグランドスラム4大会連続決勝進出を決めたのだった。
シャラポワは男子のロディック同様、特別何かテニスが変わったわけでもなく、新しい何かが追加されたわけでもない。だが地味なところでプレーが堅実になり安定してきた。ミスをせずにハードヒットを繰り返すシャラポワのストロークの前にベースラインの後方に押し下げられたモーレスモは前に出られず、シャラポワの圧力の前に押し切られた。第二セットでボールに緩急を付け、無理をしてでも果敢にネットに付き攻めに転じるモーレスモ、リスクを犯してまでの攻めがシャラポワの圧力を押し返して、セットオールに押し戻した。だが、シャラポワは動じない。気持ちを入れ替えて、第一セット同様第三セットでも安定しかつ威力のあるボールを深くに集めて、再びモーレスモをベースライン後方に追いやり、何もさせずにセットを取った。2004年のウィンブルドン以来実に二年以上の時間をかけて、シャラポワがグランドスラム決勝の舞台に進んだ。
技術的・戦術的な問題を両者とも多々抱えながらも、流れを決めているのはメンタルだ。主導権を握って、相手に渡さない。そのためには自分のテニスを如何にするか、それを如何に信じて続けるか、崩れずに貫く想い、その気持ちの作り方、維持の仕方に勝負の趨勢がかかっていた。
2006年全米女子決勝はエナン対シャラポワである。エナン優位ではあろうが、SFのように自分のペースをつかめずに相手に主導権を渡せば、シャラポワはヤンコビッチと違って最後まで押し切る。エナンの第一セットでの気持ちの作り方、試合の入り方が鍵になる。今年の全豪決勝の棄権劇を数に入れなければエナンはGS決勝5連勝である。このあたりの気持ちの作り方にはもはや迷いはあるまい。それをどこまでシャラポワは崩せるか。結果は明日、示される。

 

2006年09月10日 シャラポワの歩みもまた着実なり

2006全米女子単決勝 シャラポワ 64 64 エナン

第一セット立ち上がりから緊迫した展開で始まる。第一ゲームでブレークポイントをしのいだエナンは第二ゲームでシャラポワのサービスゲームをブレーク、だがシャラポワは続く第三ゲームでブレークバックする。シャラポワはやや固い。ミスが大事なところで出るが、何とか持ちこたえる。エナンも好調というわけではないが、タメを作った後の角度をつけたショットの切れがいい、ウィナーを量産しているのはエナンの方である。その後ゲームは落ち着き、サービスキープが続き4−4、ここでエナンが少し崩れた、見逃さないのがシャラポワ、再びブレーク成功、シャラポワの5-4となる。シャラポワのサーブインフォーザセット、気合でシャラポワがキープし、6-4でシャラポワが先取に成功した。
第一セットを落としたもののテニスの内容で押していたのはエナンの方であった。落としても落ち着いていた。だが第二セット、サービスゲームのキープ合戦で徐々に安定し始めるたのはシャラポワの方であった。エナンもサーブ・リターン共に調子を上げて、ストローク戦でも負けてはいないのだが、シャラポワが崩れることなく打ち合い、先にエナンの方が崩れる。3-3で迎えた第七ゲームでシャラポワが長いラリーから粘り勝ち、ついにブレークをもぎ取る。シャラポワの4-3、そしてお互いキープしあって5-4、シャラポワにサーブインフォーザチャンピオンシップが来る。0-15から4ポイント連取、最後にエナンのフォアがネットにかかったとき、気の強いお姫様がコートに泣き崩れた。
エナンの方にも言い訳が多々あるだろう。背中の痛みが完治していない、シャラポワの跳ねないサーブにタイミングが合い辛かった。大事なところでいつも入るボールが入らなかった。だが、完調でなかったのはシャラポワも同じである。ストローク戦ではエナンに押されまくっていた。昨日のモーレスモ戦ほどのすごい圧力は今日のシャラポワからは感じられなかった。しかし、要所要所で苦しいながらも大事なポイントを取り、強い気持ちで取りきった見事な全米初優勝であった。
シャラポワはNo1モーレスモとNo2エナンと苦手にしていたこの二強を連破したことになる。現状に満足せず、一つ一つ、テニスのレベルを地道に上げてきたシャラポワは、今No1No2を連破し、二度目のグランドスラムを手に入れ、大きな自信を手に入れた。ここからさらに彼女は強くなる。第二勢力筆頭という位置づけで来ていた彼女がついに第一勢力の中に足を踏み入れた。WTAの華、まだ10代のプリンセスは着実に女王候補となっていく。エナンなりモーレスモなりが覇権を確立するかと思われた全米オープンは、その結果において再びWTAを混沌とさせた。何より今年グランドスラムに4回連続決勝に進みながらも、棄権もあったとはいえ、たった一度全仏しか取れなったエナンのこれからに注目が集まる。ここがピークなのか、これよりさらに高みに上れるのか。
これからのWTAがまた面白くなってきた。そんな感じのするシャラポワの全米初優勝であった。

 

期待通りの決勝へ

2006全米男子単準決勝 フェデラー 61 75 64 ダビデンコ

前回苦戦した相手は次の対戦で徹底的に叩きに行く。それがグランドスラム(GS)の準決勝であっても。しかし、ダビデンコ相手にこれほど圧倒的になれるものかね。しかもフェデラーのテニスにはまったく気負いがなった、力みがなかった。強い。あの状況では変化をつけるテニスをせずどちらかというと単調なダビデンコは為す術がない。実にフェデラーのフェデラーによるフェデラーらしいテニスを披露して、皇帝のワンマンショーは終わった。

ロディック 67 60 76 63 ユーズニー

ユーズニーって昔は両手打ちバックで打った直後に左手を離して右の片手でフォロースルーするという変わったバックハンドストロークを打つ選手だったと思うんだけど・・・・・人違いかな、きれいな片手打ちバックハンドを打つ。力強いストロークに小技もあって、強い。決してSF進出はまぐれではないことを第一セットで示した。だが、尻上がりに調子を上げていくロディック、フォアとサーブだけでなく、バックの調子がいい。第一セットこそTBで落とすが、第二セット以降はブレークポイントをユーズニーにまったく与えずに自分らしいテニスを展開して勝利した。
お互いが自分らしいテニスをコートの上で十分に表現して決勝に勝ち上がってきた。総合力でフェデラーの圧倒的優位は変わらないだろう。だが今のロディックは第一セットで圧倒されたくらいでは動じない、崩れない、揺らがない、自信を失ってパニックに陥ったりはしない。フェデラーは勝ちきるためには3つのセットを圧倒し続けなければならない。それを過去決勝で何度も行っているフェデラーではあるが、隙を見せればロディックはそこを突いてくる。今までの対戦のような凡戦に終わることはないような予感がひしひしとするが、さて、結果はどのような展開になるか。
久しぶりのフェデラー対ロディックの決勝戦である。大いに期待しよう。

 

2006年09月11日 光に満ちて

2006全米男子単決勝 フェデラー 62 46 75 61 ロディック

序盤、フェデラーがトップギアで相手を圧倒してくるのは、いつもの決勝戦でのフェデラーの戦略である。今回もその例に漏れず、フェデラーの鬼のように集中した猛攻の前にロディックは自分のペースをつかめない。序盤4ゲームを連取し、第一セット6-2でフェデラーが先取した。フェデラーのシナリオ通りの幕開けであった。
今までのロディックならばこのままフェデラーペースでずるずると崩れていっただろう。だが、彼は地道に自分のやるべきことをひたすらやりつづけた。サーブを入れ、リターンを返し、せっせとラリーをつなぎ、ボールが短くなればネットに出てポイントを取る。ミスが少ないので、ラリーが続く、遠い球、ワイドに切れる球、緩急の大きな配球、これらを声を出して必死に追いかけるロディック。主導権をフェデラーに握られながらもブレークポイントを与えず、我慢して手に入れた二つのブレークポイントを一つブレークに成功し、ロディックは第二セット4-6で取り返した。
緊迫した攻防戦が続く、第三セット、共にブレークポイントを握るが取りきれず、長いサービスキープ合戦が続く、TBに突入かと思われた第12ゲーム、ロディックがやや集中力を欠き、自分の最後のサービスゲームでミスを二つ連続してフェデラーに0-30のポイント先行を許してしまった。この隙を見逃さないフェデラー、きっちりとこのゲームをブレークして第三セット7-5で連覇に王手をかけた。
この瞬間に全てが終わった。
畳み掛けるフェデラーの前に、集中力を回復できないロディックは食い下がることが出来ず、第四セット6-1でフェデラーが決めた。史上三人目の全米3連覇であった。
終わってみればあっけない試合ではあった。だが、ロディックには失望感はない。むしろ希望の光が見えているのではないだろうか。やるべきことを地道にやりつづければ、フェデラーと対等にわたりあえる事をこの試合の中盤で実感したはずだ。そして、接戦では魔が差したように集中力を切らした一瞬が命取りになることも第三セットで学んだはずだ。集中しつづけ、我慢しつづけ、武器のサーブとフォアで攻めるべきは攻めつづけ、ネットに出るべきときは恐れず前に進み、ひたすらチャンスを待ちつづけ、少ないチャンスを確実にモノにする。あまりに当たり前のことであるが、その当たり前のことをしつづけて圧倒的強者となっているのがフェデラーであり、ロディックもまた同じ道でしか強くなることは出来ない。そのことがコーチのコーナズの効果もあいまって、ロディックの胸に徐々に刻まれつつある。次の対戦では更に強さを磨かれて、ロディックはコートに立っているはずだ。
2004年のウィンブルドン最終日、ロディックはフェデラーと共に芝の上で決勝戦を戦っていた。前年準決勝でフェデラーの完璧なまでのオールラウンドプレーの前に成す術もなく敗れたロディック。逆転した力関係を再び元に戻すべくセットを一つ取るが、それでもフェデラーの前には完璧に押さえ込まれていく。自分にやれることは全てやりきっているのに、それでも上手くいかない、大事なところでポイントが取れない、ゲームが取れない、セットを取られてしまう。イライラがつのって、ネットに手を掛け、雄たけびを上げてネットを上下にゆするロディック。だだっ子のようなその姿に、ロディックの中の自信が崩れていく様が映し出されていた。
あれから二年が経った。あのときのロディックはもうコートの中にはいない。自分のやるべきことをやりつづければ、その先に必ず光があることを信じて、ひたむきにテニスに取り組むロディック、それが簡単に打倒フェデラーに結びつくほど甘くはないだろう。だが悩んでいるロディックより、迷いなく突き進むロディックの姿にすがすがしいものを感じずにはいられない。その先にいつか打倒フェデラーを成し遂げる日が来ることを願ってやまない。そしてそれまで、あくまでもフェデラーに強くあってもらいたいとも思う。
アガシの引退劇にやや話題をさらわれた感があったが、この大会を通じて揺るぎない強さを発揮してフェデラーは勝ち進み、最後まで勝ちきった。2004年に続く二回目のリトルスラム達成であり、かつ全仏も決勝に進出、4大大会すべに決勝進出を果たした。その優勝への過程は全豪・全英よりも力強く、かつ完璧に近いものがあった。今年フェデラーは5敗しているがそのうちの4敗は対ナダル戦で全て決勝であった。対マレー戦の一敗も事故みたいなものだと考えれば、今年一年の出来は2004年を上回る完璧なまでの出来であったといっても良い。その姿はまさしく「皇帝」である。ただ一つの大きな痛恨事はクレーシーズンにおけるモンテカルロ・ローマ・ローランギャロスの対ナダル決勝三連敗であろう。この解決は来年への課題として引き継がれることになる。

ATPはフェデラーという圧倒的強者が君臨し、打倒フェデラーを胸に、ナダルを筆頭にした若手が台頭し、ロディックを筆頭にしたフェデラーと同世代の元王者たちも復活しつつある。生きる伝説アガシの輝きが消えても、ATPは燦然と輝いている。熱戦を届けてくれた、光輝く選手たちに栄えあれ。


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