第053房 2006年 MSトロント・シンシナティ大会 TV観戦記
2006年08月08日 大物たち、それぞれに
ロスアンゼルスではWTAのティアU大会、モーガン・チェース・オープンが開催される。第一シードはWTAのプリンセス・シャラポワ、第二シードはロシアの遅れてきた大物ペトロワ、第三シードは地味な大物ディメンティエワ、第四シードは帰ってきた大物ダベンポートである。忘れられつつある大物S・セリーナ・ウィリアムズがこっそりエントリーしていて、初戦でキレリンコと当たる。先週のティアT優勝で勢いに乗るシャラポワをとめるのはどの大物か、注目していこう。
ヨーロッパでもハードコートに切り替わりつつある。スウェーデンのストックフォルムでティアW大会ノルディック・ライト・オープンが開幕する。ティアWでありながらミスキナがいたりして、これまた初戦でモリックとあたったりする。二人ともその存在を忘れられつつあるだけにここいらで存在感をアピールしておきたいものだ。
ATPではいよいよマスターズシリーズ第6戦トロント大会が開幕する。第一シードフェデラー、第二シードナダル、第三シードナルバンディアン、第四シードリュビチッチである。ウィンブルドン以降、沈黙していた二人の大物が再びコートに再登場する。事実上の二強状態になりつつあるATPにおいて両雄がそろい踏みだ。北米ハードコートシリーズを征するのは芝の王者フェデラーか、赤土の覇者ナダルか、去年たった二戦しか当たらなかったこの二人が、今年はこれまでにもう五戦している。今年の後半戦もこの二人がしのぎを削ることになるのだろうか。今回の注目はフェデラー対ナダルのハードコートでの対戦の行方ともう一つ、第三シードのナルバンディアンがナダルの山にいることである。この二人、未だにATPツアーでは対戦したことがない。さて準決勝で実現すれば、この初対戦は大いに注目である。ナダルの左利き特有のサーブとスピンボールを無力化するには高くバウンドさせない、つまりライジングで処理するのが一番効果的だ。現在ライジングでボールをさばいてプレーをするのがもっとも上手いのがこのナルバンディアンである。いまや対フェデラーだけでなく、他のすべての選手に対して優位に立ちつつあるナダルをくい止められるのはナルバンディアンのライジング打法だと如空は期待している。果たしてこの期待はかなえられるのか、裏切られるのか、要注目である。GAORAも生放送で付き合ってくれる。今週末は久しぶりにテニスに浸かってみようではないか。
2006年08月09日 ピリッとしないナルバンディアン
ああ、ナルバンディアン・・・なにやってんだ・・・・
2006マスターズシリーズ第6戦トロント大会 1回戦 サングイネッティ 6-1 6-2 ナルバンディアン
フェデラーとナダル、この二強に割って入るいい機会であったのに、また体調管理に失敗して自滅ですか。不可抗力の面もあるとはいえ、なんだかなあ。全仏では第一セットですさまじい豪打の応手でフェデラーから第一セットを奪うも途中で体感部を痛めて棄権、全英ではサッカーワールドカップの母国アルゼンチン戦が気になって無理をして試合スケジュールを変更してまでワールドカップを見ようとして結局肝心のテニスの方は負けてしまうし、そして今度はようやく大きな大会でフェデラーの側でなくナダルの山に入って初対決に注目をしていたら今度は風邪ですか。なんかピリッとしないねえ・・・・
さて、このMSトロント大会、フェデラーの山にはマチュー、ハース、ダビデンコ、ヒューイット、ロブレド、リュビチッチ、がいる。ハースとダビデンコが皇帝に喰らいついてくれるだろうと期待している。ナダルの山にはマス、ベルディッヒ、ブレーク、ジネプリ、ガスケらがいる。ブレークはナダルに対していい結果を出している。ここは一つブレークにストップザナダルを期待しよう。
2006年08月13日 2006MSトロント大会SF
グリーンのアウトコートにブルーのインコート、北米シリーズの美しいハードコートに強い日差しが照りつける。その映像を、夏の日差しとセミの声が窓から入る日曜日の朝の部屋で、朝食を取りながら北米シリーズの試合を録画観戦する。ここ数年毎年如空の家で繰り返される夏の風景である。
この2006年MS第6戦トロント大会、ナルバンディアンがこけておいおい、と思っていたらブレークもコケ、ナダル決勝まで余裕かい、と思っていたらそのナダルまで負けてしまった。反対の山ではリュビチッチもコケ、トップシードで生き残っているのはフェデラーただ一人の大波乱である。そのフェデラーに立ち向かうのはまだ一度もフェデラーに勝ったことのないゴンザレス、そして決勝での対戦相手を決めるボトムハーフのSFはなんとルーキー対決ガスケとマレーである。
2006MSトロント大会SF ガスケ 62 75 マレー
第一試合はシードこそついていないがその潜在能力も注目度も、そして今年になって上げている実績も、すでにMSシード級であるこの二人、20歳の仏ガスケ対19歳の英マレーの対決である。お互い静かにキープ合戦で始まるが第四ゲーム、マレーはブレークピンチ、ここで粘るガスケにマレーのフォアがサイドを割り、先にガスケはブレーク。さらに第六ゲームもガスケがブレーク、5-2である。ガスケは途中からあまり攻めなくなった。先にマレーがミスしてくれるのでガスケはつなぐだけでよい状況である。特にフォアの強打にマレーは不安がある。第七ゲームのサーブインフォーザセットでガスケはややプレーが荒くなりブレークを簡単に許すのだが、その直後の第八ゲーム、マレーはこらえきれずに自滅。6-2でガスケが第一セットを先取した。
マレーの自滅で取った第一セットであったがガスケも徐々にテニスが荒くなり始め、ミスが増え始めていた。第二セット第三ゲームでガスケにブレークピンチが来る。がガスケはドロップボレーからのネット際のボールの拾い合いで執念の走りを見せ、このサービスゲームを守りきった。マレーのテニスがようやく安定し始めた。そしてガスケもまた落ち着きを取り戻した。しまった内容のキープ合戦が続く。ガスケの6-5でマレーのサーブゲーム。マレーはファーストポイントをフォアでミス。次のポイントをサーブアンドボレーに出てガスケの沈むスライスを持ち上げられずにミス、ドロップショットで1ポイント返すも次の何でもないラリーでバックをミス、15-40でガスケのマッチポイントが来た。サーブアンドドロップボレーを仕掛けたマレーに対し、ガスケはネットに走りこみ、ボールに追いつき、止まって肩を入れてタメを作ってから難しいネット際からのバックハンド逆クロスを決めて7-5でストレート勝利。決勝進出を決めた。
注目のマレーを映像で始めてみたが、各ショットにコレという特徴があるわけではない、非常にオーソドックスなプレーである。サーブもストロークもフラット系であまり確率の高いテニスとはいえない。今日の時点ではまだ荒削りでミスも多く、ガスケの老獪な戦術の前に為す術もなく敗れた。だがコーチとして迎えられたギルバートにしてみればコレは腕の振るいがいがある選手であろう。エースもミスも同じ1ポイントだということを教え、テニスを安定させ、ショットに特徴がないからこそ、配球の妙を考えさせて、展開でポイントを取ることを教えるには格好の題材であろう。特にサーブからでもリターンからでも積極的にネットに出てくるところが良い。この大会の過程ではイギリスの先輩であるヘンマンを破ってここまで来たマレー、イギリスの期待を一身に背負った彼の挑戦はまだ始まったばかりだ。これからどう変わっていくのか、大いに注目しよう。
フェデラー 61 57 63 ゴンザレス
余裕のフェデラーのプレーの前に余裕のなくなるゴンザレス。いきなり第二ゲームでブレークされ、続けて第四ゲームもブレークされしまう。ゴンザレスの持ち味である強打は今日も健在であるがボールが浅い、フェデラーは打点を前にして好きなときに好きなコースにボールを打ち分けている。フェデラーは序盤ネットにガンガン出ていたいが、途中からベースラインに居座り始めた。ゴンザレスが先にミスしてくれるのでストロークだけでポイントが取れるのだ。第六ゲームでゴンザレスはようやくキープに成功するが、それもフェデラーの集中力の欠いたプレーによるミスでポイントを取ったものだった。第七ゲームで見事にウィナーを量産し、6-1で第一セットをフェデラーが取った。
このまま、第二セットもフェデラーがゴンザレスを押し切るだろうとここまでみて思うものだが、ここでゲームは予想外の展開に入る。第一ゲームのサーブをキープし、落ち着きようやく得たゴンザレスはフェデラーを攻め立てる。第二ゲームのフェデラーのサービスゲームで何度もブレークポイントを得る。ブレークこそできなかったが自分らしい豪快なテニスをフェデラー相手に展開し始めた。ともにゲームが長くなり始めた。
5-5でゴンザレスは先に自分のサービスゲームをキープ。6-5でフェデラーのサービスゲームはダブルフォールトで始まった。次にネットに詰めたフェデラーだったがネット際に落ちた緩い球をフェデラーは落としてバックハンドを打つがラインオーバー、次のアングルの付け合いに走り負けずに打ち勝つゴンザレス。0-40でフェデラーのフォアハンド逆クロスがラインを割った。7-5でゴンザレスがセットオールに戻した。
第三ゲームになってもゲームがそれぞれ長い。フェデラーの方がピリッとしない。攻めるだけでなくフェデラーのウィナー級ボールを拾い捲って観客の喝采を浴びるゴンザレス、彼のほうがどちらかといえば押しているのだが大事なところで決め切れていない。3-3となった。ここでフェデラーがようやくしまったプレーを連続させてブレークに成功。ここからはフェデラーらしく厳しいプレーで締めくくり、最後の第九ゲームも最後にフォアの逆クロスをきれいに決めて6-3、決勝進出を危ない内容ながらも決めた。
集中力を一試合絶えず維持し続けることは難しいことだ。その点、フェデラーは基本的にスロースターターで長丁場では時にフレームショットを多発させたりして集中力を適度に抜きながら、しかし大事なところでではきちんと集中してポイントを取り、試合を締めくくる。それが皇帝の強さである。
だが、今日のフェデラーはスロースターターの彼にしては珍しくスタートダッシュを見せたものの、その後大事なところでは逆に集中力を欠いた。特に第二セット第十二ゲームでラブゲームブレークを許してセットを譲ってしまったあたり、ブランク明けからまだ試合感と取り戻せていないかのようにも見える。それでも第三セットの最後の3ゲームはさすがに見事ではあった。
フェデラーはこれでこの大会3試合連続フルセットマッチとなった。そして決勝の相手は若いくせに曲者のガスケである。今度はいつものフェデラーらしい試合振りを見せて全米への良きスタートとしたいところだが、さて、ガスケも徐々にその曲者の度合いに磨きがかかっている。どんな試合になるか。シードダウンが相次ぎはしたが、明日の決勝はそれなりに楽しみな一戦になりそうだ。
2006年08月14日 ガスケの惜敗
2006MSトロント大会 決勝フェデラー 26 63 62 ガスケ
第一セットの最初のサービスゲームをそれぞれがお互いに良い形でキープしたとき、これはしまった内容のキープ合戦になると思われた。だが第三ゲームでガスケの持ち味であるアングルショットが冴え始める。フェデラーをコートに追い出して戻るところの逆をつく。ファーストポイントをとられてフェデラーはミスを二連発、いきなり0-40のブレークピンチである。バンクハンドダウンザラインとサービスポイントで二つ返すが最後にバックがサイドを割り、先にガスケにブレークを許した。フェデラーは慌てず次のガスケのサービスゲームでブレークポイントを握るが0-40からガスケに5ポイント連取されキープされた。ガスケは短いボールに対する処理が上手い。センターに来ればアングルに、サイドに来ればダウンザラインに、フォアでもバックでも自在に打ち込んでくる。またフェデラーが前に出てきたときのパスも見事であった。特にバックハンドクロスでは観客がどよめくような見事なパスを何度も見せた。長いディースにもつれた第五ゲームでもフェデラーのミスとガスケの見事なパスでガスケがブレーク、4-1とした。GAORA解説の辻野氏が何度も絶賛していたが、ガスケは角度のつけ方が上手い。フェデラーをもってしてもさばき切れずにミスを誘う。それでもサービスゲームを互いにキープして6-2でガスケが先制した。
第二セット第一ゲーム、フェデラーの最初のサービスゲームでいきなり0-40になった。ここでガスケがミスを二つさせられた。そしてサービスエース。あっという間にディースに押し戻し、そして突き放してキープした。キープしただけでなく次のガスケのサービスゲームをブレークした。フェデラーは少し調子を取り戻したかのように見えるがギアを上げたという感じではなく、ガスケもダブルフォールとが絡んだが大きく崩れたというわけではなった。その次のフェデラーのサービスゲームで再びガスケはブレークポイントを握るが決めきれない。ガスケにすばらしいプレーもあり、フェデラーにはフォアハンドのあたりが戻りつつある。互いに調子を崩しはしていないが流れもつかみきれていない。フェデラーが3ゲームを連取して3-0としているがフェデラー圧倒という状況でなく、第四ゲームでガスケが自分のサービスゲームをキープし、その後キープ合戦となる。フェデラーの調子は徐々に上がるが、ガスケは崩れない。最初の3ゲームでガスケがブレークできず、フェデラーがブレークしたことが効いた。6-3でフェデラーがセットオールに戻した。
第三セット、フェデラーのフォアハンド逆クロスが冴え渡る。サーブの切れが増す。バックハンドは逆クロスからショートクロスまで自由自在。フェデラーの本領がようやく発揮され始めた。ガスケは喰らいついてるが2-2で迎えた第五ゲームでフェデラーにブレークされた。ガスケはそれでも崩れないが、フェデラーのほうが調子に乗ってしまった。サービスキープ後の第七ゲームで再びフェデラーがブレーク、見事なウィナーを次々と量産し、最後はガスケのフォアが大きくそれて、フェデラーが6-2でファイナルまでもつれた試合を征した。これでフェデラーは今季7勝目である。
ナダルに4敗を喰らわされているが、逆にナダル以外ではフェデラーは誰にも負けずにGSも既に全豪・全英を取った。決勝戦連続進出記録なるものも次の大会ではかかるらしい。ナダルがハードでもフェデラーを脅かす存在にならない限りは皇帝フェデラーの玉座は揺がないはずだ。だが、ナダルのハードコートでの今後の活躍もさることながら、ガスケを始めとする1985年前後に生まれたナダル以外の20歳世代にも大いに注目が集まる。今年に入ってからバクダティス、ベルディッヒ、ジェコビッチ、アルマグロ、ベネトー、マレー、モンフィスなど次から次へと大器の片鱗を見せる若者たちが現れては勝ち進む。来年は彼らがトップ10を席巻する可能性も大いにありうる。そしてフェデラーの皇帝の座を脅かす可能性も。そんな中でナダルと共に先行してその才能を発揮していたのがガスケである。今日もチャンスがあった。フェデラーが波に乗れていない第一セットを取ったのは当然として、第二セットの最初の3ゲーム、すべてディースにもつれたあの3ゲーム。あそこを一つでも取れていれば違った結果にできたかもしれない。フェデラーの強さゆえ、というよりは主導権を握れそうで握れなったガスケの詰めの甘さが命取りになった印象を受ける。今日の逆転負けを成長の糧として、さらなる進歩を期待したい。その先に打倒フェデラーがあるのだろうし、その力をガスケは大いに秘めていることだろうから。
しかし、元気な1985年世代に比べて1980年世代の元気のないこと、まるでフェデラーにすべての精気を吸い取られたかのようだ。ヒューイット、ロディック、サフィン、フェレーロ、コリア・・・・・ナルバンディアンとブレークもまだフェデラーを倒してグランドスラムを取るぞってところまで至らないなあ、25歳過ぎてもう世代交代ですか、さびしいな、少しはアガシを見習ってくれ・・・・と、アガシも二十台後半はスランプで29歳で復活したんだった。1980年世代もあと3〜4年はかかるのかな。
2006年08月15日 全米前哨戦2006
ロサンジェルスのティアU大会、モーガンチェース選手権はディメンティエワが優勝した。SFでシャラポワを下して堂々の今季二勝目である。この大会はセリーナ・ウィリアムズの復帰戦としても注目されたがSFで敗退している。
ディメンティエワはこの優勝でエントリーランキングNo5にあがる。そのWTAは今週カナダのモントリオールでティアT大会が開催される。第一シードクライシュテルス、第二シードシャラポワ、第三シードペトロワ、第四シードクズネツォワ、以下バイディソワ、ミスキナ、ヒンギスと続く。エナンもモーレスモも全米まで出てこないつもりだろうか。とにかくエナンもモーレスモもシャラポワもいないティアTである。クライシュテルスは最低ノルマが優勝になるが、果たしてその結果は如何に。
ATPは二週続けてマスターズシリーズである。第七戦シンシナティ大会である。第一シードフェデラー、第二シードナダル、第三シードナルバンディアン、第四シードリュビチッチのおなじみの4人がトップ4シードである。今度はトロントと違ってトップ4シードによるベスト4そろい踏みが見てみたいものだが、さて果たせぬ夏の夜の夢となりそうな予感がひしひしとする。GAORAは先週に続き生放送で対応である。全米を占う意味で大切なこの大会、注目してみていこう。
2006年08月17日 皇帝止まる。流れ動く。
2006MSシンシナティ大会 2回戦 マレー 57 64 フェデラー
マレーがフェデラーを止めた。フェデラーがナダル以外の選手に負けるのは去年末のマスターズカップ決勝対ナルバンディアン戦以来である。この10ヶ月近くナダル以外には誰にも負けなかった訳で、改めてATPに君臨する皇帝の偉大を認識させられる。と同時に今年も全体の流れが去年と同様になってきているような気もしてきた。流れとはナダルとフェデラーの関係である。
去年ナダルはフェデラーとマスターズシリーズ(MS)のタイトルを4づつ分け合った。ハードコートのMSでは3回決勝に進み、マイアミは決勝でフェデラーに2セットアップから逆転負けしたが、後の二つモントリオールとマドリッドではそれぞれアガシとリュビチッチを破って優勝している。ちなみにモントリオールもマドリッドもフェデラーは出場していいなかった。MS年間全9戦中最後のパリ大会はフェデラーもナダルも欠場した。そしてそのフェデラーなりナダルなりが優勝したインディアナウェルズからマドリッドまでの8戦でフェデラーとナダルが直接対決をしたのはわずかにマイアミ決勝のみ。2005年を通じてもこのマイアミ決勝の後はグランドスラム(GS)全仏の決勝のみであった。まるで神の見えざる手が働いているかのごとく、二人は直接対決をほとんどすることなくMSタイトルを分け合ったのだった。
今年はMSの決勝で二度、GSの決勝で二度、そしてそれ以外でも中東のハードコートで一度対戦している。だがMSのタイトル数で比較するとフェデラーがインディアンウェルズとマイアミ、そして先週のトロントで3勝、ナダルがモンテカルロとローマで2勝である。ハンブルグは共に欠場してロブレドが取った。まるでハンブルグ大会が去年のパリ大会の意味合いを持ったかのように。そしてこのシンシナティでフェデラーは途中で負けた。これでナダルが取れば再び3つづつ分け合うことになる。もしそうなったとして、秋のインドアシーズンのマドリッドとパリを両雄が分け合えば今年もまた4つづつ分け合うことになる。更にGSはフェデラーが全豪全英をとり、ナダルが全仏を取っている。もしナダルが全米を取るとGS・MSあわせて同じタイトル数を両者が分け合う。こんな状態になれば本当の意味での二強時代となろう。シーズン当初を戦線離脱し、早いラウンドでの敗退も多かったナダルに対してフェデラーは大会に出場すれば必ず決勝戦まで進みつづけた。それゆえにGS・MSタイトル数が並んだとしてもランキングポイントでナダルがフェデラーを追い抜くことはまずありえない。だがそうなった場合、年末最終戦のマスターズカップ(TMC)はとても面白い状態になるのではと今から楽しみにしている。年間最終ランキングNo1が決まった状態での消化試合なんて面白くない。少なくてもTMC開催直前の段階ではNo2の逆転No1が可能な状態であってほしいと一テニス観戦ファンとしては思う。またそんなことになりそうな予感がひしひしとしているが・・・・それはナダルがこのシンシナティとニューヨークでどれだけ結果を出せるかにかかっている。だが最近の如空の予感は良く外れるので、今年は別の若手が対としてこの流れを変えてくれるものと、もう一方で期待もしている。
さてそんな流れを変えてくれそうな若手の一人にマレーがいる。先週MSトロント大会SFでガスケに敗れ、そのガスケは決勝でフェデラーに敗れた。その数日後にガスケに敗れたマレーが今度はフェデラーを破った。なんとも面白い関係である。ロディックをして打倒フェデラーを果たせなかったコーチのギルバートとしても、マレーをして今やATPに関るもの全ての悲願となりつつある打倒フェデラーを果たして、さぞご満悦のことだろう。先週マレー対ガスケ戦をTVで見て、マレーのテニスにはそれほど個性も才能も如空は感じなかった。だがそれは相手がガスケだからだったようだ。ネット上の情報を当たって見るとマレーはアガシやヒューイト、ナルバンディアンのようにカウンターショットを得意としている選手らしい。ベースラインにフラットなボールをガンガン打ち込まれてくると本領を発揮するが、サイドラインにスピンボールをぽんぽん入れられると弱いようだ。ギルバートの指導をして弱点を補強し、戦術面の選択肢を増やせばもっと強くなる存在なのかもしれない。如空の目よりギルバートの先見性が勝るのか。今後に大いに注目しよう。もちろん、同じプレーをし続けるだけならフェデラーは二度と同じ失敗はしない。それゆえにかれは強いのだから。
2006年08月18日 シードダウン相次ぐ
WTAのティアT大会モントリオールでクライシュテルスが左手首を負傷して二回戦を途中棄権した。全治2ヶ月、昨年度覇者である全米オープンは絶望らしい。残念だ。その他にもシードダウンが相次ぎ、SFはヒンギス対チャクエタゼ、サフィーナ対イバノビッチである。ヒンギスはQFでクズネツォワを破ってのベスト4進出である。これでまた一つ自信をつけたことだろう。さてローマに続いて復帰後二度目のティアT制覇なるか。ここは大いに注目が集まる。
ATPのマスターズ・シリーズ(MS)第7戦シンシナティ大会もシードダウンが相次ぐ。第二シードナダルダウン、第三シードナルバンディアンダウン。第四シードリュビチッチダウンで第一シードフェデラーを含むトップ四シードが全滅した。フェデラーを倒したマレーの勢いを止めたのはなんと忘れかけていたロディックである。そして第五シードブレーク、第二シードナダルを連破したのは忘れられていたフェレーロである。これでSFはフェレーロ対ロブレド、ゴンザレス対ロディックである。いやあ、なんとも新鮮なベスト4の顔ぶれである。フェデラーとナダルがそろって出場しておきながらSFに両者の顔がどちらともないというMSは実に二年ぶり以上前に遡らなければならないのではないか。ロディックとフェレーロは3年近くMSの優勝から離れている。ゴンザレスはMSで優勝したことはあったっけ?というかこの二年間、フェデラーとナダル以外のMSウィナーはサフィン、ベルディッヒ、ロブレドくらいだからな。さて、今年MSハンブルグ大会の優勝者ロブレドはハードコートでのMSタイトルを手に入れることができるか、ゴンザレスはその力を結果として示すことができるか、ロディックとフェレーロは復活の狼煙を上げることができるのか。フェデラーのいないMSで優勝できずに何が打倒フェデラーか。さあ、行け中堅の男たちよ。若手の台頭などを25歳前後で許してしまうことなかれ。
2006年08月20日 フェレーロの帰還
あの男が帰ってきた。あの速いフォアのスイングスピード、スクエアスタンスで前後に動くフットワーク、右に左に迫撃砲を打ち込むかのようにトップスピンを打ち込み相手をコートの外に追い出し、オープンコートにウィナーを叩き込む。どんなときでもクレバーな表情を崩さない、赤土の上の悪魔、ファン・カルロス・フェレーロが、マスターズシリーズの準決勝の舞台に帰ってきた。
2006MS第七戦シンシナティ大会準決勝第一試合 フェレーロ 63 64 ロブレド
第一セット第三ゲーム、ロブレドはフェレーロのサービスゲームをブレークする。フェレーロが先に仕掛けているが、詰めでミスが出てポイントを献上してしまった。その直後の第四ゲーム、長いディースの末、最後にダブルフォールトして今度はロブレドが落とした。フォアのストロークが互いに武器だが、試合当初ロブレドの方がフェレーロのそれよりも安定していてかつ深かった。だが第四ゲームの長いディースでフェレーロのフォアが徐々に乱れを修正し安定して凄みを増してきた。第八ゲームで再びディースの末、ロブレドのサービスゲームを破ったフェレーロは二本のサービスエースを含む磐石の展開でキープ、6-3でフェレーロがセットを先取した。
第二セット、ロブレドは豪快なフォームの片手打ちバックハンドを強打せず、スライスを混ぜ始めた。だがロブレドは足に故障を抱えて集中力がやや散漫になってきた。第五ゲームでまた長いディースが続く。フェレーロのストローク力にサーブの力で切り抜けるロブレド。直後のフェレーロのサービスゲームもディースにもつれ込むが、フェレーロもサーブの力でピンチを切り抜ける。第八ゲームまたもブレークポイントを乗り切ったフェレーロは直後の第九ゲームでギアを上げた。フォアが伸びる、スピンがかかってライン際でストンと落ちる。ついにフェレーロブレーク。フェレーロのサーブインフォーザマッチ、最後にきわどいサーブをロブレドがコンピューター判定にチャレンジするがINの判定、6-4で第二セットもフェレーロ、ここでフェレーロの決勝進出が決まった。
クレー王国スペインの選手ではあるがロブレドはハードでも強い。GAORAの解説を聞いて知ったのだが、ロブレドは14歳までハードコートでしかプレーしたことがないというキャリアの持ち主だったらしい。そして14歳以降バルセロナのクレーコートで練習を始めたという。これがハード・クレー共に強いテニスを生んだようだ。この試合にしても強いテニスを展開し、何度もピンチを切り抜けチャンスを作った。が大事なゲームを最後にとったのはフェレーロだった。フェレーロはバックハンドが柔らかくなった、フォアはトップスピンとフラットを使い分けるようになった。サーブも強くなった。もともとフットワークのいい選手だったが今日もロブレドの前後左右の振り回しにしっかりとついていっていた。
ストレートではあったが長いディースが多い競った内容であった。ロブレドもトップ10選手として十分にその存在感を示し、また勝つチャンスもあったが、フェレーロが序盤・中盤・終盤ときっちりギアを上げてきて押し切り、、粘るロブレドを振り切った。QFでナダルも倒した。十分に自信を回復したのではないだろうか。決勝も大いに期待しよう。
蘇れロディック
フェデラーがNo1になる前のNo1は誰だったか、それはアンディ・ロディックである。3年前のこの大会は優勝して全米も制した。2年前はSFでアガシに敗れ、去年は決勝でフェデラーに敗れた。今年はアガシもフェデラーもベスト4にいない。だがロディックは相性の良いこの大会で今年もベスト4まで勝ち残った。その前に立ちふさがるのは二週連続MS準決勝進出の好調ゴンザレスである。
2006MSシンシナティ大会SF第二試合 ロディック 63 63 ゴンザレス
第一セット第一ゲーム、バックハンドダウンザライン、ショートクロスのパス、強打はスライスでしのぎ相手のミスを誘う。あれがロディックかと思うほどの安定したゲーム運びでゴンザレスのサービスゲームをいきなりロディックはブレークした。互いにしまった内容のキープ合戦が展開する。第八ゲームでロディックはサーブアンドボレーを見せ、その攻撃のバリエーションの豊富さを見せる。最後の第九ゲーム、安定しているロディックの圧力の前にゴンザレスは押され、ブレークを許してしまう。6-3で第一セットをロディックが取った。
第二ゲーム、再びキープ合戦が続く。共にサーブとフォアの強打が武器の二人であるが、共にこの試合サーブもフォアも確率重視で高いレベルで安定している。共に安定しているが圧力を増しているのはロディックのほうである。徐々に圧力を増すロディックの前に再びゴンザレスは押され始める。第八ゲームで短いボールをフォアで叩き、バックハンドラリーでゴンザレスにミスを誘い、フォアのショートクロスを決めてブレークポイントを三つ握るロディック。フォアのダウンザラインで一ポイントを返すが最後はダブルフォールトでゴンザレスはロディックの圧力の前に屈した。ダブルフォールトの直後ラケットをコートに叩きつけるゴンザレス、その折れたラケットを観客席の小さな男の子に渡して気分転換を図るが、最後のサーブインフォーザマッチはロディックがサービスエース2本、サーブアンドボレー一本を含むラブゲームでキープ、6-3でセット連取、二年連続で決勝進出をロディックが決めた。
フォアもサービスも相変わらず強力だがスピンを多用し安定度を高めて崩れないロディック、バックハンドもネットプレーも以前のような危なっかしい部分がほとんどない。流れるようなスムーズさはないが確実に必要なプレーを淡々と続ける。以前はあれほど見せたフォアハンドの回り込み逆クロスもあまり見せなくなった。バックハンドが安定していることが彼に無理をさせなくなったのだろう。終始しまった表情で崩れず、淡々とプレーをする。そしてサーブとフォアは確率重視ではあるがそれでも威力は圧倒的である。緩急を付け、無理せずラリーは繋ぐが、大事なポイントでは自ら攻めてウィナーを何度も取った。ゴンザレスのテニスも悪くなかったがロディックの崩れない安定したプレーの前に徐々に増す圧力を感じ、追い詰められ、支えきれずに崩れていった。
あらためて気づかされたのだがロディックはまだ23歳なんだな。額の髪の毛の生え際は後退を始め、ラコステのシャツから垣間見えるお腹は二重三重の段腹になりつつある。えらく老けた感のあるロディックではあるが、プレーを安定させるだけであれだけ強くなるのだ。特別な何かはいらない、もともと強力なサーブとフォアがあるのだ。それを生かして戦う、それが自分のテニスだと、ロディックは開き直ったかのようだ。
決勝はフェレーロ対ロディックである。2003年全米決勝の再現である。このところ20歳前後の世代に世代交代を感じさせる内容のツアーの情勢であるが、その流れに楔を打ち込むべく元エントリーランキングNo1経験者にしてグランドスラムタイトルホルダーの二人が激突する。今夜は大いに熱戦を期待しよう。
2006年08月21日 充実のロディック
3年ぶりのMSタイトルを取るのはどちらか。元No1にしてGSタイトルホルダーの二人がシンシナティの決勝の場で対決した。
2006MSシンシナティ大会決勝 ロディック 63 64 フェレーロ
第一セット、今日は二人とも展開が早い、攻めが早い。第一ゲームからディースにもつれる打ち合い、第二ゲームでロディックがフェレーロのサービスゲームをブレーク、直後の第三ゲームで今度はフェレーロがブレークポイントを握る。ロディックはここでフットフォールトが絡むダブルフォールトでブレークを許してしまう。今日のロディックは集中力がすさまじい。長いラリーでフェレーロに打ち負けない。バックハンドにボールを集められても崩れない。そしてフォアの威力は健在だ。ストロークに定評があるフェレーロに打ち勝って第四ゲームを再びブレークする。ロディックのサーブも切れが増す。二連続サービスエースでロディックキープして4-1となる。サービスキープに苦しむフェレーロも第六ゲームでようやくキープに成功。ここで試合が落ち着いた。共にサービスの調子が良い。最初のブレークの貯金が効いて6-3でロディックが第一セットを取る。
第二セット、ロディックがまたフェレーロのサービスゲームをブレークしてスタートした。ロディックは集中してフェレーロのストロークからの展開に挑む。緩急を付けながらも続けて続けて、長いラリーを我慢の末、最後にポイントを取る。第三ゲームでロディックが再びストローク戦の末、ブレークに成功し3-0とリードした。ロディックがサーブをキープして4-0になった。その後のサービスゲームをラブゲームでキープしてフェレーロもここで落ち着いた。キープしあって5-2となる。ロディックのサーブインフォーザチャンピオンシップでフェレーロが落ち着いてロディックのミスを誘いブレークに成功する。続くフェレーロのサービスゲームも落ち着いてキープして5-4までフェレーロが押し戻す。しかし、今日のロディックは崩れない。終始落ち着いて自分のやるべきことを淡々とする。フォアハンドダウンザラインをウィナーで決め、3連続サービスエースでラブゲームで第二セットを6-4で取った。祝福する地元の観客にハイタッチするために場内を一周するロディック。3年ぶりのMSタイトルを自分らしいプレーで取りきったのだった。
ロディックは地味な部分で技術が安定している。たとえばあまり目立たないがリターンがとても堅実であった。サーブの調子はフェレーロも良かったが第一セットでフェレーロはセカンドサーブで1ポイントもポイントを取らせてもらえなかった。ロディックがフェレーロのセカンドをリターンで叩きに行ったわけではないのだが、それでもリターンからストローク戦で主導権を握ってラリーを制した。ロディックのバックハンドはとても堅実で、フェレーロがストロークで調子を上げそうになるとスライスを入れてチェンジオブペースを図る。昨日はあまり見せなかった回り込みのフォアハンド逆クロスを見せ、大事なところでは果敢に攻めた。長いラリーでもあせらずじっくりと取り組み、最後にきっちりとポイントを取った。サーブではセンターへのパワーサーブだけでなく、ワイドへのスライスサーブが有効であった。速さだけでなく緩急を付けてサービスポイントを量産する。フェレーロも調子が悪かったわけではないが、ロディックがフェレーロを上回るテニスを展開してゲームを取りきった結果の勝利だった。
新しい何かが加わったわけではない。今まで不安定だったものを安定させ、今まで持っていた武器をより有効に使っただけだ。未完の大器がスランプを経てようやく充実してきたのだろうか。これが一時的なものか、完成へのステップなのか。未完の大器がいよいよ完成への段階に近づき始めたのか。今後のロディックに注目していこう。
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