第052房 2006年 ウィンブルドンTV観戦記
2006年06月23日 2006ウィンブルドンドロー
2006年ウィンブルドンのドローが出た。例によって独断と偏見による展望を見てみよう。
男子シングルス第一シードは3年連続でフェデラー、4連覇を目指し芝での連勝記録を更新中のATPに君臨する皇帝の指定席である。しかし、今年は例年になくタフドローになった。初戦の相手がなんとガスケ、二回戦がソーダリンとヘンマンの勝者という怒涛の幕開けに始まり、反対側からは第七シードアンチッチが待つこの山はほかにハース、ベルディッヒ、ロブレド、モンフィス、スリチャパンとそれほどフェデラーに対して苦手意識を持っていない連中が集まった。芝の上とはいえこのドロー、突破は今の皇帝の力量をもってしても決して容易ではない。特にアンチッチが調子のよいときにあたると、これは好勝負になるだろう。
第四シードはナルバンディアン、彼の山であるトップハーフの下半分は第八シードブレークを筆頭にフェレーロ、ステファンキー、ヨハンソン、ハーバティ、マチューと粘り屋がそろうが、芝の上ではブレークとナルバンディアンのライジング打法の敵ではあるまい。QFでのブレーク対ナルバンディアンは実現すればこれまた好勝負である。
第三シードはなんとロディック、ウィンブルドンのシードはエントリーランキング通りではないことが有名だが、これはまた大胆なシード付けである。2003年ベスト4、2004年、2005年と準優勝、3年続けてフェデラーに負けた。フェデラーさえいなければウィンブルドンの4連覇を目指しているのはこのロディックであたかもしれない。だが今の彼に去年までの活躍を期待できるだろうか。対抗馬に第六シードヒューイットがいる。以下、ロクス、フェラー、ゴンザレス、グロージャン、バクダティス、マシュー、と続く。芝の上ではヒューイットもロディックもまだまだ健在であると示したいところだろう。QFで久しぶりにヒューイット対ロディックの元No1同士の対決が見られそうだ。
第二シードはナダル。赤土の上で無敵のモンスター、さて芝の上でどれほど暴れっぷりを見せるか。全米を狙うなら、この芝のコートでもある程度の結果を出さなくてはならない。対抗馬はリュビチッチ、以下ニーミネン、ダビデンコ、ガウディオ、ジネプリ、アガシとバラエティにとんだ顔ぶれとなった。ナダルのクレー以外での力量を測るにはもってこいといえるだろう。
今年はトップシードが落ち着いてQFにそろい踏みすることになりそうだ。フェデラーはQF対アンチッチ、SF対ナルバンディアンが山になりそうだ。しかし、全仏は第三シードでトッパーフ、全英は第四シードでトップハーフと、ナルバンディアンの存在は日増しにフェデラーの中で大きくなっていっていることだろう。対するボトムハーフはロディックヒューイットの復活に期待したいが、順当に行けばリュビチッチがだろう。ナダルがここで存在感を示せればNo1への道のりは見えてくるだろうが結果は如何に。
女子の第一シードはモーレスモ、彼女の山には昨年の覇者ヴィーナス・ウィリアムズが第六シードで控える。以下、ゴルビン、サフィーナ、ミスキナなどが控えるがQFでのモーレスモ対ウィリアムズを阻止するまでにはいたるまい。
第四シードは二年前の覇者シャラポワ、対抗馬は第七シードディメンティエワ、以下デシー以外にこれといった実力者の顔は見当たらない。QFでのロシアン・ハードヒッターの対決に注目しよう。
ボトムハーフ、第三シードはエナンH、このウィンブルドンに生涯グランドスラムをかけて乗り込んできた。彼女の山には第八シードシュニーダーを筆頭に、ドゥルコ、杉山、ヒンギス、ハンチェコワと続く。ヒンギスがエナンの待つQFまで進めるか、この対決は実現してほしいものである。
第二シードはクライシュテルス、彼女の山は第五シードクズネツォワを筆頭にバイディソワ、グローエンフィルド、キリレンコ、と続く。タフドローとはいえ、クライシュテルスの優位は動くまい。しかし、バイディソワが面白い位置にいる。クズネツォワに全仏SFのかしを返した上でクライシュテルスに挑戦するとなるとこれは大変興味深い対決になるだろう。
男子同様ベスト8までは順当にトップシードがシードを守ることだろう。勝負はそこから。トップハーフはモーレスモ、ヴィーナス、シャラポワ、ディメの四人中誰が出てきてもおかしくない。一方でボトムハーフの本命は徒然エナンHだが、ヒンギス・クズネツォワ・バイディソワ、そしてクライシュテルスと全仏で活躍した選手たちがこぞってボトムハーフにいるところに因縁を感じる。
それでも決勝はモーレスモ対エナンと見るが結果は如何に。
ここ数年、ウィンブルドンは女子が熱戦が続くに対して男子はやや退屈であったが、今年は男女とも白熱しそうである。熱戦に期待しよう。
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2006年06月27日 雨とNHKと
雨、雨、雨・・・・・・一試合も消化できずに初日を終えたウィンブルドン。杉山戦が雨天中断後、使える録画もなく、NHK総合(地上波)は去年の女子決勝ヴィーナス対ダベンポートの録画を放送した。何でフェデラー対ガスケを出さない。途中まででもいいから放送しろよ。ハイビジョンでしか見られない映像は絶対地上波で出さないつもりか。BSじゃ第一週は放送がない。ウィンブルドンを見るだけためにBSに加入した河内房如空の立場をどう考えているのかNHK。今までまじめに受信料を支払って来たが、いいかげん受信料支払いを拒否してやろうか。まったく。
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2006年06月28日 皇帝の杞憂、元女王の衣装、国営放送局の怠慢
7年前、あるスイス国籍の選手が生涯グランドスラムに挑んだが、後一歩と迫った全仏決勝で敗退、偉大なる記録の達成は果たせなかった。その決勝での負け方はその選手のテニスキャリアに大きく影響を及ぼすほどの精神的ダメージを残す。一ヵ月後、第一シードで臨んだウィンブルドンで彼女はかつてのヒッティングパートナーと対戦、そこでまさかの敗北を喫し、一回戦敗退の末ウィンブルドンを去っていた。その後彼女は4度グランドスラム決勝に進んだが二度とGSタイトルを取ることはなく3年前に引退してしまった・・・・・
ってヒンギスと同じ道程を歩むのではないかと心配してしまったスイス国籍のNo1にして第一シードフェデラーは無事初戦を突破した。しかもストレート。相手のガスケは直前の芝の大会で優勝している昇り竜、しかも去年フェデラーを負かした4人のうちの一人、しかも若い。フェデラーに対して他の選手ほどには苦手意識をもっていまい。ひょっとしたらと思ったが杞憂に終わった。しかも芝での連勝記録を更新、ボルグの記録を抜いて歴代単独トップとなった。これで第一週の皇帝陛下は安泰だろう。いや見事である。
で、フェデラーの先輩格であるヒンギスも初戦を無事突破した。その模様はNHK総合でも杉山戦の後に放送された。ヒンギスの今回のウェアはかっこいいね。斜めに入った黒く細いラインが斬新、ノースリーブに近い肩口の切れあがったラインと足元と胸元の大胆なカットラインが上品かつセクシー。欲を言えばそのヒンギスに7年前初戦敗退をくらわしたドキッチに着てほしいなあ。彼女はアディダスじゃないから無理か・・・・
NHKさん、最後にまたクレームです。番組表では地上波総合のウィンブルドン中継は0:00〜3:00になっていますがヒンギス戦の中継が終わった2:00過ぎに放送が終了したのはなぜでしょう。残りの時間、中途半端な内容になっても良いから男子の試合を流してくださいよ。勝手に3時間中継を2時間に切り上げるな。
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2006年06月29日 お姫様の成長ぶり
上位シードは安泰ですな。ウィンブルドンは一回戦だけでなく急ぎ足で二回戦も消化した。大会運営者も遅れを取り戻すべく懸命だ。
NHK総合ではシャラポワ戦を中継していた。強くなったね、シャラポワも。昔はラリーを続ける中でしかポイントを取りに行けなかった。今ではサーブ、リターンから攻めて行ける。フォアハンドを打つときフェデラーみたいに顔を打点に残す打ち方になりつつあるな。昔はバックに比べてフォアは攻めることが出来なかったが、今ではフォアの方が強力で、できるだけフォアで打とうという姿勢が見られる。格下相手に省エネテニスで圧勝した。二週間の長いトーナメントを勝ち進むためにはこういう部分も必要だ。
さて問題は第二週で上位シードに勝てるかだが、お姫様のQFの相手はおそらくディメンティエワ、そしてSFはモーレスモかヴィーナス・ウィリアムズである。苦手のベルギーコンビがボトムハーフにはいてくれたことは彼女にとってはラッキーだった。運が味方すれば決勝進出もありうる。けどね、それでもエナンを止めるところまでは至らないのだろうけど。
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2006年06月30日 ナダルに秘められた力
ライブスコアを見ると6-7でナダルがいきなり第一セットを落としていた。苦手のサーフェイスでTB末に落とした。これは尾を引くなと思っていたら第二セット3-6で落とした。「第二シードダウン」と言う見出しで、翌日のブログ記事の内容を考え始めた。ちょっと忙しくなってパソコンの画面から離れた。戻るとセットオールになっていた。第三セット7-6でTBの末奪い返すと第四セットも7-5で最後の1ブレークでとりきった。「ひょうっとすると・・・・・」と思っていたら6-4でファイナルもナダルが取った。2セットダウンからの大逆転。ナダルよ、やっぱりお前は心臓に悪いことをするやつだ。お前の熱狂的なファン達は寿命が何度も縮んでいることだろうよ。
クレースペシャリストのガウディオが負けている。ロブレドもジュコビッチに負けた。ナダルも危なかった。けど、ナダルやロブレドはガウディオなどよりは芝を苦手にしていないと思う。彼らはカウンターショットが得意だからだ。カウンターは低い打点でライジングショットを打つ。これは芝でもハードでも十分有効な技術だ。サーフェイスの違いはボールがバウンドした後に現れる。故にライジングでボールを処置できる選手はそれほどサーフェイスの違いを不得手にすることなく対応できる。苦手なサーフェイスはライジングで捌いてサーフェイスの特徴を消してしまえばよいからだ。アガシが生涯グランドスラムを達成出来たのも、フェデラーやナルバンディアンがサーフェイスを選ばないオールラウンダーであるのもそこに理由の一つがあると思っている。クレーコートスペシャリストも同じで、大きなテイクバックからボールを落として打つことしか出来ないタイプはハードや芝では対応しにくい。だがライジングでも打てるタイプは結構クレー以外でも対応しやすいと考える。コートカバーにおける粘りとかスライドフットワークとかムーボールで相手をコートの外に追い出すとか、それ以外の主要な得意技が封じ込められることに変りはなく、それ故に苦労することにも変りはない。だがかつてファン・カルロス・フェレーロは全仏を征してクレーキングになっただけでなく、全米でも一度、マスターズカップでも二度、決勝に進む見事な活躍を見せてくれた。同じ可能性はナダルにも備えられていることだろう。あるいはフェレーロおも越える才能が。
だがまだ現時点ではその才能は開花していないようだ。このウィンブルドン、男子トップ8ランカーのうち、やはりベスト8進出に一番困難を伴うのはナダルだろう。現時点では。それでも二回戦を突破した。次はいよいよアガシとの対決である。勝敗の行方にかかわらず,彼の成長の糧となるような好勝負を期待したい。
ところでそのアガシ戦を中継していたNHK総合さん。途中で番組を中断して日米首脳会談会見を生中継しましたね。あれ、番組を中断してまで生中継しなくてはならない内容の会見でしたか?
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2006年07月01日 芝の上の男達よ、奮起せよ
お前がこんなところで負けるなよ・・・・・。
全英2006男子シングルス3回戦 ヴェルダスコ 76 76 62 ナルバンディアン
第一セットも第二セットもTB11-9で落とすという壮絶な競り合いだったが最後にはヴェルダスコの前に屈した形でストレート負け。ナルバンディアンは第四シードにもかかわらず13番コートなんてウィンブルドンの端で試合をさせられた挙句に三回戦敗退である。ヴェルダスコってスペインの選手だろう。クレースペシャリストじゃないのか。ナルバンディアンをしのぐライジングの使い手なのだろうか。見たことないから良くわからん。しかし、ナルバンディアンよ・・・・・このウィンブルドンは大チャンスだったように思えるのだがなあ。フェデラーの中に再びナルバンディアンに対する苦手意識が芽生え始め、かつ、ナルバンディアンの中にも「やれる」という自信が芽生え初めていたように思えたのだが。今年のウィンブルドンのSFで、今度こそ、両者共に万全の体制での壮絶なライジングの打撃戦が見られると思ったのに、とても残念だ。現時点で芝の上でもっともフェデラーを止める可能性のある男はナルバンディアンだと期待していただけに残念だ。
ナルだけでなくブレークもフルセットの末負けた。アンチッチは現在1セットオールで日没順延となっているがどうなることやら。これではトップハーフはフェデラーの一人舞台になるぞ。去年・一昨年同様、フェデラーの圧勝を見るだけのつまらない大会になる可能性大だわさ。
如空がテニスを見始めた頃は4大大会の中で全英が一番面白かった。他の大会を地上波でしか見られなかった当時の如空にとってNHK-BSで一回戦から見られるウィンブルドンは「名前は知っていても、実際に見たことのない選手のテニス」を見る唯一の機会だったし、サンプラスの時代からフェデラーの時代にかけて、毎年名勝負と呼ばれる好ゲームがいくつもあった。しかしWOWOWを見始めてからはNHKの放送姿勢に疑問を感じるようになった。そして試合内容に関しては、2004年、2005年とフェデラーがあまりに強すぎて退屈だけだっただけでなく、フェデラーがかかわっていない試合に関しても面白いと如空が思える試合がない。他の三大会に比べてこの二年ばかり全英男子シングルスは妙につまらなくなっている。
ところで女子はクズネツォワがダウンしたが、そんなことを吹き飛ばす勢いで杉山がヒンギスを突破したことを日本では報じている。フルセットの熱戦だったし、ネットに出たヒンギスを鮮やかに抜き去る杉山のバックハンドパスは歓声が上がるほどの見事さだった。この試合、第十二シードが第十八シードに敗れただけで波乱とは言い切れないのだが、試合内容が実に良かった。見ていて面白いと思える試合だった。たとえ杉山が日本人でなかったとしても、日本で放送して多くのファンに観戦してもらうのに十分な価値のある熱戦だった。ウィンブルドンに関してはここ数年、女子のほうに好試合が多い。
今年は男子にもここ数年の不振を吹き飛ばす熱戦を第二週に期待したいものだ。たとえ、フェデラーが4連覇を成し遂げる結果に終わったとしても、その過程で何度も録画を見たくなるような名勝負を、せめて一試合ぐらいは見せてくれ。
追記
サッカーワールドカップでの母国アルゼンチンとドイツとの準々決勝を見たいがために大会側に掛け合ってナルバンディアンが試合時間を繰り上げてもらう処置を取ってもらった旨の報道がなされている。お前、プロのテニス選手のくせになにやってんだ。そんなことに気を取られているから負けるんだ、馬鹿野郎。でもこれで第四シードのナルバンディアンが第13番コートに追いやられた理由がわかった。大会運営者も大変だな、こんな要望に付き合わされて。
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2006年07月02日 アガシとナダル
ロディックダウン、リュビチッチダウン、Vウィリアムズダウン、衝撃のウィンブルドン3回戦である。だがこれらトップシードの敗退の衝撃よりも、第二シードが未だに芝の上で勝ち残っていることの衝撃の方が大きい。
全英2006三回戦 ナダル 76 62 64 アガシ
如空はナダルの全英一・二回戦を映像では見ていない。ただ色々情報をあたって見るに、未だ芝にフィットしているとはいえなかったらしい。だがこの試合、これがクレーコートスペシャリストの試合かと思わずうならせる見事な試合運びであった。
緊迫した雰囲気の中で進む第一セット、両者ともにサービスキープを続ける。序盤からアガシの気合がすさまじい、隙を見せないぞという鋭いサーブと速い展開のストローク。しかしそのアガシの攻めにナダルはあっという間に対応してしまった。ボールを落とさずにコートの中に入りライジングでさばくナダル。これができる限り、ナダルはあらゆるサーフェイスに対応する。アガシのごとく、フェレーロのごとく、フェデラーのごとく。徐々にサービスキープが苦しくなるアガシ。それでもTBにまで持ち込んだ。ペースを上げて畳み掛けるアガシ。TBでギアを上げることが強者の力量だ、かつてサンプラスもそうだった、フェデラーもそれができるから強い。TB5-2までアガシが追い込んだ。そこでナダルの奥底に眠る何かが目覚める。皇帝フェデラーですらも押しつぶせない何かが目覚める。5ポイント連取のTB7-5で逆転、ナダルが第一セットを取った。
第二セット以降、もはやアガシはブレークポイントすらつかめない。ヒューイットと双璧をなすとも言われ、その才能は天下無双とまで言われたアガシの史上最強のリターン、そのレシーブ力を持ってしても攻めきれずに封じ込められてしまうナダルの左利き特有の回転サーブ、そのナダルの、決してビックサーブではないが鋭利な刃物のように鋭いサーブがアガシを完全に封じ込めてしまった。
あらゆるサーフェイスに対応する生きる伝説アガシはストレートで最後のウィンブルドン3回戦敗退で終わった。
この数ヶ月、ナダルはフェデラーと何度も対戦することで技術的にも精神的もますます強くなっていった。そして今日またアガシと対戦することで芝の上での強さも手に入れた。まるでコートの上の強者達がナダルを鍛えているかのようだ。アガシという選手の偉大な功績は、自らが素晴らしいパフォーマンスを発揮して観客を魅了し、かつ試合に勝つ強くて面白いテニスをした上で生涯グランドスラムを達成したことだけでない。特に30歳を過ぎてからのアガシの功績は、その対戦でサフィン・ヒューイット・フェレーロ・ロディック・コリア・フェデラー・ブレークなどと何度も名勝負を演じて、彼らがグランドスラムタイトルとランキングNo1を狙えるようになるまでにそのテニスを鍛え上げたことにある。選手を磨き鍛え上げるのはコーチだけでない。偉大なるプレーヤとの激しい対戦によってのみ手に入るものもある。アガシ自身は自分が勝つことだけに集中していて、けして自分でその事を具体的には意識はしていないだろうが、結果としてそういう役割を果たしてきた。そして今また、ナダルをクレー以外でも通用する選手に成長する糧を与えた。ナダルが芝でも十分通用するテニスができることはこれで証明出来た。あとはそれをいついかなる相手に対しても常に発揮できるかが問われる。次の4回戦でアガシ戦と同じ事ができるかどうかが大事なところだ。アガシがこれまで果たした業績を賞賛するととともにナダルの今後に注目しよう。ナダルがアガシから受け取ったバトンをしっかりとつかんでいるがどうかを。
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2006年07月04日 2006全英ベスト8
ウィンブルドンは男女ともベスト8が出揃った。
女子のQFは下記の通り
モーレスモ対ミスキナ
シャラポワ対ディメンティエワ
ブレモンド対エナンH
リ対クライシュテルス
トップハーフはVウィリアムズがこけた以外は順当に来た。ミスキナはこのところ2004年の頃の強さを少しづつ取り戻しつつある。第一シードモーレスモはここまで磐石の試合運びで来ているが、いつもここから突然失速する。クレーよりも芝のほうがフィットしていると言われるのそのテニスで決勝まで進めるだろうか、注目である。シャラポワとディメンティエワは激しい打ち合いになるだろうが、そうなればシャラポワの方が有利に進むだろう。ディメンティエワはシャラポワを崩すのに何らかの変化が必要かと思われるが果たしてどう出るか。
ボトムハーフはベルギーの二強が勝ちあがっている。それ以外の選手がいくらダウンしてもこの二人が崩れない限りは波乱とはいえないだろう。そしてSFでの激突まで突き進むだろう。エナンに対してGSだけでなくもはや通算の対戦成績でも負け越しつつあるクライシュテルスはここで一矢報いることができるだろうか。エナンはそれでもモーレスモよりはキムを警戒していると如空は見ているが孤高の女王の心中や如何に。エナンの評価にかかわらず、この対戦は実現すればこの前の全仏同様、エナンが開始直後から速攻で畳み掛けてキムに反撃の機会を与える前にねじ伏せようとすることだろう。それを支えきれるかクライシュテルス。その前に、ブレモンドとリに波乱を起こす力量があるかどうかが問われるが。
男子QFは下記のとおり
フェデラー対アンチッチ
ビョークマン対ステパネック
バクダティス対ヒューイット
ナダル対ニーミネン
ウィンブルドンでは近年まれに見る地味なベスト8である。フェデラーの待つところまでアンチッチが勝ち残ったことに少しは感謝。さあ、全仏QFの仕切りなおしだ。せっかくいいテニスをしてフェデラーと前半張り合えたのに後半は体調を崩して失速したアンチッチ、途中でこけたナルバンディアンの分もがんばってフェデラーを苦しめてくれ。簡単に勝たせるなよ。かなうならば皇帝を止めて見せろ。
ビョークマンってあのダブルスで有名なビョークマンだよな。ビュークマンとステパネックは結構いい年なのにがんばること。ネットプレーヤーの意地を見せつけることができるだろうか。
ボトムハーフはカウンターショットの使い手がそろった。4人の内、誰が決勝に進んでもおかしくない。とりあえずATP最強のカウンターショット使いを決めた上でフェデラーにチャレンジするというストーリーは、それはそれで面白いと思うのだが、一番地味なニーミネンがいかほどの力量を発揮するかに注目しよう。
いよいよ終盤、NHKもようやくBSで放送を開始してくれる。熱戦を期待しよう。
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2006年07月05日 女帝への道
過程に波乱はあったが結末は順当な流れに収束しつつある。
全英2006女子シングルスQF シャラポワ 61 64 ディメンティエワ
ディメンティエワはサーブが徐々に良くなっているが相変わらずコースが悪い。右にしか打てない。世界中でぼろくそにけなされているあのしょぼいスライスサーブだって、コートの外側から右利きレシーバーのバックに食込んで来るコースで打てればそれなりに有効だろうに、馬鹿の一つ覚えのようボディーから右利きのフォアに逃げていくコースでアドもディースも打ってくる。あれでは少々サーブのスピードと切れが増してもリターンの餌食になるだけだ。シャラポワはサーブとリターンからガンガン攻めて速攻で勝負を決めた。長いラリーに持ち込みたかったディメンティエワであるがシャラポワはそれをさせなかった。見事な勝ちっぷりであった。そのシャラポワの目に第一シードの試合はどのように映ったろう。
モーレスモ 61 36 63 ミスキナ
ミスキナが復調しているとはいえ、あえて、今のミスキナに苦戦しているようではこの後の準決勝・決勝は不安であろう。次の対戦相手シャラポワは着実に強さを増している。ミスキナより確実に強い。クレーよりもフィットしているはずの芝で現女王は如何に戦うのか。
クライシュテルス 64 75 リ
キムは正直危なかった。リのミスに助けられた。打ち合いの主導権はリに握られていた。リはラリーの主導権を握り、リターンもタイミングも途中から完全につかんでいた。試合内容はリが押していた。が、決めのフォアハンドがネットする。それを修正する前に試合が終わってしまった。あのフフォアハンド、入り始めていたら結果はどうなっていたかわからない。また一人、実力者が頭角を現した。
エナン 64 64 ブレモンド
しまった内容の好ゲームであったが、勝負所を知る孤高の女王エナンが要所をしめて、ストレートで準決勝進出を決めた。
そして女子はトップ4シードがベスト4に揃い踏みした。SFは
第一シードモーレスモ 対 第四シードシャラポワ
第二シードクライシュテルス 対 第三シードエナンH
である。この四人は現エントリーランキングのトップ4にして全員がランキングNo1経験者、そして全員がグランドスラムタイトルホルダーである。ウィリアムズ姉妹とダベンポートが失速するなか、現在のWTAを引っ張るのはこの4人の女王だ。さあ、いよいよ四強激突である。女王の中の女王、女帝に上り詰めるのは誰か、現時点では孤高の女王エナンの優位は変らず、生涯グランドスラム達成の可能性はかなり高い。だが彼女がクイーンオブクイーン・女帝の位置に上り詰める過程を座して見ているだけなのか、モーレスモよ、シャラポワよ、そしてクライシュテルスよ。ここでエナンを独走させると、エナンは男子のフェデラーのごとき存在になってしまうぞ。止めて見せろ、その誇りにかけて。
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2006年07月06日 驀進するナダル・エクスプレス
くそ忙しくてウィンブルドンが全然見られない。終電で帰宅するとフェデラーとアンチッチが画面の中で戦っていた。
2006全英男子QF フェデラー 64 64 64 アンチッチ
アンチッチはとてもいいテニスをしている。しかし、フェデラーはそれ以上のテニスをして、大事な場面でのポイントを確実にモノにした。スコアも競っているし、アンチッチはここ数年で最高のパフォーマンスを発揮したが、フェデラーのいる場所はそれよりも確実に上にいることを示すに十分な内容だった。3セットとも同じ流れ、3セットとも同じ1ブレーク差、素晴らしい内容のテニスで相手の素晴らしい内容のテニスを更に上回る素晴らしいテニスで相手を凌駕する、フェデラーが全英初優勝したときのSF対ロディック戦を思い起こさせる見事なストレート勝ちであった。
その一方でただでさえ雨で進行が送れたこの日のスケジュールを更にフルセットマッチで遅らせたのがこの二人である。
ビョークマン 76 46 67 76 64 ステパネック
同じ力量のサーブアンドボレーヤー同士の戦いはなかなかブレークが生まれず、キープ合戦の末、TBにもつれることが多いのだが、その典型だなこの試合。ビョークマンおじさんや、TB3つも絡むフルセットマッチで体力を使い果たしていないかい。大丈夫かいな次のSFフェデラー戦。
この男がQFで静かに消えていくというところに寂しさを感じる。
バクダティス 61 57 76 62 ヒューイット
別に特別ヒューイットのファンというわけではないのだが、まだ20代半ばなのにな・・・・・さびしいぜ。なんか燃え尽きてしまっていないか、ヒューイット。
雨天遅延にこのロングマッチのとばっちりを受けて翌日に持ち越されたこの試合は、逆にここで負けても全然寂しさを感じない男がしぶとく、というより完璧なテニスで勝ち切った。
ナダル 63 64 64 ニーミネン
アガシ戦で何かをつかんだのか、それ以降、完璧な出来でウィンブルドンの連勝街道を驀進するナダル。その先には皇帝陛下の玉座が待っている。だが、さて次のSFバクダティス戦はどうなるか。ここまで、相手には失礼だがドローに恵まれたところもある。いよいよナダルの速いサーフェイスでの力量が試されるときが来た。
主役は相変わらずフェデラーだがその相手役は大きく移り変わりつつあることを示しながら今年もウィンブルドンアは進行していく。予想とは裏腹の結果が続くが、それでも熱戦であれば期待は裏切られても良い。その熱戦を期待しよう。
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2006年07月07日 決勝戦での忘れ物
今日も忙しかった。終電を逃してタクシーで帰宅、BSの放送は終わっていて、総合で録画を放送していた。寝る前のひと時、しばし見入る。
2006全英女子SF エナン 64 76 クライシュテルス
多分、全仏と同じ展開になるだろうと予想していたが、クライシュテルスは予想に反して先にブレークしてリードを奪う場面があり、なかなかの抵抗振りだった。だがファーストサーブの入りが悪かった。それ以上にエナンの側にプレッシャーがかかっていなかった。クライシュテルスに追い込まれても、落ち着いているこのエナン、あそこまで安定し、かつ要所でギアを上げられる、見事なテニスをされるとクライシュテルスといえど辛い。スコアも、内容も、全仏のSFより競っている。だがその実、二人のテニスの本質的な部分の差は更に開いていないか、そう思わせるエナンの落ち着き振りであった。
モーレスモ 63 36 62 シャラポワ
第二セットが終わった時点でモーレスモが負けると思った。セットオールとはいえラリーの主導権を握っているのはシャラポワのように思えたからだ。このままシャラポワが勢いに乗るとモーレスモは崩れて自滅するいつものパターンになると思ったが、まあ見事に持ち直して、気持ちを切り替えたこと。少しは自信のようなものを手に入れましたかね。全豪チャンプ様にして第一シード様、あなたは現女王なのだよ。
女子決勝は大方の予想通りエナン対モーレスモになった。大方の予想はエナンの圧倒的優位、彼女の生涯グランドスラムの達成はかなり高い確率だろう。だがモーレスモは全豪決勝第一セットでエナン相手に見事なテニスを展開している。ムーンボールが利かない芝ではあるが、その分、モーレスモのネットプレーが冴え渡るだろう。エナンはいつもどおりのテニスをするだけ、全てはモーレスモの出来次第だ。モーレスモよ、今度こそ、エナン相手にマッチポイントを奪って取り切って見せてくれ。全豪の忘れ物をここで取り戻すのだ。
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2006年07月08日 今そこにいるナダル
今年のグランドスラム決勝でフェデラーと対戦した二人がSFでフェデラーとの挑戦権をかけて全英SFを戦う。ドラマとしては大いに盛り上がる場面である。しかし、内容は期待に反してストレートで押し切った、芝を苦手としていると言われているほうが。
2006全英男子単SF ナダル 61 75 63 バクダティス
第二セットこそ競ったものの、試合内容そのものはナダルが支配していた。ブレークさせなかった。クレーコート並みの粘りと芝の特性を生かした低い打点からのライジングでの切り替えし、コートの上でバクダティスがやるだろうと期待していたテニスをナダルの方が体現してた。どこまで強くなるのかこの男は。そしてそしてまったく予想だにしていなかった戦場で宿敵が勝ちあがって来たことを皇帝はどのように受け止めているのだろうか。
フェデラー 62 60 62 ビョークマン
タフドローといわれ、厳しい勝ち上がりを予想されたフェデラーだが、蓋を開けてみると実に見事な圧勝で決勝まで勝ち進んだ。特にナルバンディアンが途中でこけたことが幸いした。だが楽勝でここまで来て、最後にナダルと当たるというのは果たして幸いかどうか。
芝の上で突然強くなったナダルは一ヶ月前までクレーで対戦していたナダルとは違う。新しいテニスを身に付け、更に強くなっている。芝というサーフェイスでバージョンアップしている今のナダルと対戦するということは未知の戦場で未知の相手と対戦するに等しい。それでもフェデラーは十分に強い。フェデラーのストレートで終わるという予想も出来なくはない全英決勝戦。だが全仏決勝よりもいやな胸騒ぎがするのは如空だけか。その不安を皇帝は吹き飛ばして見せることができるだろうか。今回もまた試されているのはフェデラーの方である。
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2006年07月09日 チャンピオンシップポイントを乗り越えて
2006全英女子単決勝 モーレスモ 26 64 63 エナンH
第一セットはエナンらしく見事なプレッシャーのかけ方で先行した。サーブ・リターンからガンガン攻める。ストローク戦になっても負けない。ネットダッシュを繰り返すモーレスモに対してパスが冴えまくった。エナンペースで試合は進み6-2でエナン第一セット先取する。
モーレスモはマイペースである。黙々とブロックリターンで緩やかにエナンのサーブをリターンして、時にチップアンドチャージで前に出る。サーブもワイドに切れるスライスサーブが好調だ。サーブアンドボレーも冴える。ストロークではハードヒットせずにフォアはトップスピン、バックはスライスで淡々とつなぐ、そして隙あらばチップアンドチャージで前に出てくる。広い肩幅をゆさゆさと左右に振りながら両肘を左右に広げ、スタンスも左右に広げ徐々に腰を落としながら前に出てくる。かつてのパトリック・ラフターをも髣髴させるスタッダートステップでネットにゆったりと出てくる。エナンはそのゆったりとしたモーレスモのテニスにタイミングをはずされ始めてミスが増え始める。モーレスモのゆるいボールとのラリーを嫌ったのか、エナンはネットに回数を増やしていく。モーレスモはネットに出たエナンのバックハンドハイボレーの位置にロブを上げていく。きわどいポイントでミスさせられたのはエナンだった。
第二セットはモーレスモがブレークに成功して先行するもエナンが途中でブレークバック、ここでエナンがペースをつかむかと思われたが直後の第8ゲームでモーレスモがまたもやブレーク。6-4でモーレスモが1ブレーク差をもぎ取った。
セットオールになった。
ミスの増えているエナンは序盤で痛恨の連続ミスでモーレスモがブレーク。この1ブレークをモーレスモが守りきれるのかどうか。そこが焦点となった。集中力を乱し、弱気にさせるようなきっかけとなるプレーや出来事は多々あった。しかし、モーレスモは淡々と自分のテニスをしてその1ブレークを守りきった。ファイナルセット6-3、グランドスラムのチャンピオンシップポイントを乗り越え、モーレスモがついにウィンブルドンを征した。
生涯グランドスラムを阻止されたエナンは珍しくGSの決勝で崩れた。ミスが多かった。疲労からか、あるいはメンタルの問題だったのかはわからないが、モーレスモのマイペースでゆったりしたテニスにタイミングが合わせづらかった部分もあったようだ。エナンはこのリベンジをハードコートで果たせるだろうか。エナンがWTAのトップランカーの中で一つ頭の抜けた状況であることに変わりはないと思うのだが、2006年全英終了時点でGSを二勝してチャンピオンズレースをトップで走るのは文句なしのモーレスモとなった。エナンが名実ともに圧倒的強者の位置につくのはも少し時間がかかりそうだ。そしてその予想とは別に、再び混戦状況にWTAが至る可能性も十分ありうることを示した2006全英女子決勝だった。
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2006年07月10日 皇帝のつかの間の安息
フェデラーとナダルの間に付きまとう、切っても切れない強い糸、人はそれを宿命と呼ぶ。フェデラーの4年連続決勝進出は予想の範囲内であったが、ナダルの決勝進出は予想外の出来事だった。予想された全仏決勝の対戦とは違い、異なるサーフェイスでの予想外の宿敵と不期遭遇戦を余儀なくされた皇帝は如何にこの決勝戦を戦ったのか。
2006全英男子単決勝 フェデラー 60 76 67 63 ナダル
ファーストサーブの驚異的な確率とスライスでの緩急、フェデラーが剛柔織り交ぜたテニスでナダルにラリーをさせず、なんと6ゲーム連取で第一セットを奪取した。
第二セットでナダルはいきなりフェデラーのサービスゲームをブレーク。第一セット元気のなかったナダルが突然元気になる。左利き特有のスピンボールが復活、フェデラーを悩まし始める。だがナダルの5-4で迎えたサーブインフォーザセットでナダルが珍しく緊張した。ダブルフォールトを含むミスを連発してフェデラーに追いつかれてしまった。両者ともにサービスゲームをキープして6-6TBとなる。リードするが追い上げられるフェデラー。TB64でフェデラーのサーブ、プレッシャーのかかるこの場面でパワーサーブから回り込みのフォア、そしてネット、フェデラーの代名詞ともいうべき連続攻撃で攻めたてた。ネットに出たフェデラーの元にナダルのボールは届かずネットにつかまる。第二セットを逆転でフェデラーが取った。
第三セットはキープ合戦、お互いにピンチはあったが、お互い自分も持ち味を出して乗り切る。またTBになった。ここでナダルの思い切りがよくなった。振り切られたスイングから鋭いボールがフェデラーを抜く。TB7-2でナダルが1セットを返した。
第四セット第四ゲーム、ナダルネットで痛恨のイージーミス。フェデラーがブレークして3-1、畳み掛ける。さらにブレークを重ねて5-1とする。サーブインフォーザチャンピオンシップスを迎えるが、ここでフェデラーがミスを連発して、ナダルにブレークされてしまう。なんともフェデラーらしくない気負ったプレーだった。次のサービスゲームをナダルがキープして5-3、再びフェデラーのサーブインフォーザチャンピオンシップスが来る。
一本目、フェデラーのフォアに押されてナダルのフォアがラインを割る。
二本目、フェデラーのスマッシュがオープンコートに叩き込まれた。
三本目、フェデラーのサーブに押されてナダルのリターンがラインを割った。
四本目、フェデラーのスライスを持ち上げられず、ナダルのスライスがサイドラインを割った。
第四セット6-3、フェデラーが勝った。実に去年のMSマイアミ決勝より一年半、5連敗の末の久しぶりの対ナダル戦勝利であった。
この試合、驚くべきはナダルの適応力の高さであろう。第一セットは一ゲームも取らせてもらえなかった。フェデラーのスライスを持ち上げることができず、フェデラーのサーブに押されていた、ネットに出てくるフェデラーの連続攻撃をしのげなった、ラリーで主導権をとることすらできなかった。芝の上ではフェデラーの武器がことごとくパワーアップされて対戦相手に襲い掛かってくる。ハードコートの上よりもクレーコートの上よりもこの芝の上でこそ、そのテニスの差が開くのがフェデラーのテニスだ。しかし、ナダルはあっという間にそのフェデラーのテニスに適応した。第二セット、6-6でTB、そして第三セットも6-6TB、たったの一試合でナダルは芝の上でのフェデラーにもっとも近いところまで近づいたのだった。第四セットはナダルの自滅である。そしてフェデラーもまた5-1と圧倒的リードにもかかわらず第七ゲームで勝ちを意識して固くなった状態に一時的に陥った。一瞬MSローマ大会決勝の悪夢が蘇るかと思ったが、次のサービスゲームは見事に力強くかつ慎重にナダルを押し切った。
お互いがお互いを意識しあって、最後にはいつも精神戦になってしまう。お互いに高めあうよきライバル関係ではあるのだが、サンプラスとアガシのような明朗さはなく、なぜだか悲壮感が漂うのは二人の性格によるものだろうか。フェデラーとナダル、宿命の対決は一旦はフェデラーが一矢を報いたが、むしろ評価を高めているのは芝でも決勝に進んできたナダルのほうだろう。「ハードコートでも芝の上でも十分やれる。」去年のMSマイアミ決勝と同様に敗北したにもかかわらず自信をつけたのはナダルの方で、追い上げられつつあるのはフェデラーである。今年の後半戦、いよいよナダルがフェデラーの牙城、No1の座を狙ってくる。その予感を大いにさせる決勝戦だった。
1980年前半生まれの選手はフェデラーを除きことごとく失速したままだ。代わりに1985年以降に生まれた世代が台頭してきている。そして1970生まれのアガシに残された時間は後2ヶ月。どうやら今年の年頭に予想された流れとは大きく異なる様相を見せ始めたATPツアーである。その節目にこの2006年のウィンブルドンはなるのではないだろうか。得意のコートで、世界でもっとも高貴なタイトルを手にするフェデラー、激しく厳しい戦いが待っているかもしれない後半戦を前に、皇帝がつかの間の安息を取っているような、そんな嵐の前の静けさを感じさせる決勝戦でもあった。
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