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第048房 2006年MSモンテカルロ大会TV観戦記 (2006/05/13))

 

2006年04月18日 もっともエキサイティングでスリリングなシーズンが始まる。

いよいよ赤土の上の戦いが本格化する。2006年マスターズシリーズ第3戦モンテカルロ大会が開幕する。第一シードフェデラー、第二シードナダル、第三シードナルバンディアン、第四シードリュビチッチである。さあて、全仏制覇に生涯グランドスラムへの野心、そして年間グランドスラムへの夢をかけるフェデラーである。全仏までのこの欧州赤土戦線をどのように戦っていくつもりだろう。そして結果はどう出るだろう。現在ATPにおいて圧倒的強者として君臨する皇帝フェデラーがもっとも他の選手と差が知縮まる時期、それがこの欧州赤土戦線の3ヶ月間だ。そして打倒フェデラー筆頭の旗頭ナダルが得意とするサーフェイスである。今年の後半は過去二年間同様フェデラーの独走による消化試合になる可能性が濃厚である。であるならば、今年、もっともエキサイティングでスリリングな試合と大会が味わえるのはこのヨーロッパクレーの三ヶ月ということになる。「赤土の上の王座だけは渡さない」という個性豊かなクレーコートスペシャリストたちが、やや(それでもややでしかないが)力の落ちるクレーの上の皇帝に如何に挑んでいくかを注目して見て行こうと思う。GAORAさんも気合を入れて生中継だ。


2006年04月21日 雌伏のコリア

2006年マスターズシリーズ第3戦モンテカルロ大会はベスト8がそろった。
QFはフェデラー対フェラー、リュビチッチ対ゴンザレス、ガウディオ対ロブレド、コリア対ナダルである。モヤ、フェレーロ、サフィン、ナルバンディアン、キーファーはここまで残れなかった。なんともハイレベルな大会だ。これこそマスターズであろう。

QFのナダル対コリアは要注目である。去年のMSモンテカルロとローマを連覇したナダルに対して、二度にわたり決勝で立ちふさがったのが2004年全仏ファイナリストのコリアだった。2004年のクレーシーズンにベストパフォーマンスを発揮したコリアは大本命として全仏決勝に進むが、そこで試合中に足の痙攣が発生し、チャンピオンシップポイントまで握ったにもかかわらずガウディオの前に敗れてしまった。今度こそ、今年こそ、全仏をとり赤土の王となるのはコリアだ、と期待された翌年の2005年、彼の前にナダルが現れた。昇日の勢いのナダルの前にモンテカルロの決勝で敗れたコリアは、打倒ナダルの決意を強く固めて続くローマの決勝に臨む。64 36 63 46 76 という全セット1ブレーク差の壮絶なスコア、取ったゲーム数はラストのTBの差だけ、5時間を越える死闘の末、勝利したのはナダルだった。この瞬間、全仏開幕を待たずしてクレー最強の称号はコリアからナダルに移譲された。コリアは全仏タイトルを取ることなく、赤土の王座を追われた。モヤ、クエルテン、フェレーロ、コリアと続いたクレー最強王座をナダルは若干18歳にして手に入れ、その勢いのまま、皇帝フェデラーをも倒して全仏タイトルを奪取した。コリアからナダルに完全に政権は移ったのだった。コリアは全仏を取ることなく沈んだ。ナダルに沈められたのだ。

打倒フェデラーに注目が集まる中、ナダルを誰が止めるのかということに注目している人は少ない。去年南米クレーシーズンで暴れたナダルだが、今年は南米を避けてハードコートに試合の主軸を移している。彼が目指しているのは「ハードでもクレーでも勝てる選手」になることだろう。それはすでに全仏を取った者が次へのステップへ移行していることを示す。そしてそれは「クレーの上の王座固めは十分」という彼の自信と余裕すら感じられなくもない。クレバーなナダルのことだ、けして驕りや油断はあるまい。しかし、そのクレーの王座の足元を揺るがすべく、そして王座の奪還を目論み、コリアは静かにその闘志をたぎらせているだろう。赤土の王ナダルの勢いを止め、皇帝フェデラーのグランドスラム制覇の野望を打ち砕き、一度はその手につかみかけ、そしてその手から滑り落ちてしまった夢を今度こそ確実に手に入れるために、コリアの挑戦が始まる。ナダルにとって今年初のクレー大会であるモンテカルロ、ここでナダルにストレートで圧勝などされるとコリアに復活の目は完全になくなる。彼の今後のテニスキャリアにその結果は大きく影響を与えることだろう。この3ヶ月の間に何度か対戦するであろうコリアとナダル、そのコリアの執念を断ち切れるかナダル。若き赤土の王の力と、不完全燃焼のまま雌伏を余儀なくされたかつての王の力が、今試される。


2006年04月22日 自信が選手を強くする

ああ、コリアよ・・・・・こうなるような予感はしていたが、そうはなって欲しくくなかったので、あえてそう予想はしてないでいおいたのに・・・・

2006MSモンテカルロ大会QF
ナダル 62 61 コリア

コリアは体調が悪かったらしい。だがそれは慰めにはならない。クレーシーズンの最初の対戦で圧勝されてしまった。去年あれだけ競った相手、それを今年最初の対戦で圧倒した。この勝利がナダルにどれほど自信を与えてしまったことか。自信は更なる力を選手に与える。ナダルはクレーから離れていたブランクをこのモンテカルロの数試合で取り戻してしまった。心身ともに充実した状態でSFに突入できる。
そのナダルのSFの相手はガウディオ。クレバーなナダルとは対極の位置にいる、つかみ所のない天然ボケキャラ、しかし、クレーの上では無類の強さを発揮する。去年はナダルに迫る活躍をクレーシーズンで見せて2004年の全仏タイトルはまぐれではないことを証明して見せている。その一方でハードコートだったとはいえマスターズカップのSFでフェデラーにダブルベーグルの完封負けを喰らうというとんでもない落差を見せ付けてくれる。ぜひとも鉄壁のナダルには強いガウディオでぶつかっていって欲しいものだ。

トップハーフのSFはフェデラー対ゴンザレスである。クレーコート育ちでありながらフラットの強打が武器のゴンザレスである。フェデラーは同じようにフラットの強打で押してくるタイプのフェラーを一蹴している。こういうタイプは案外フェデラーにとって御しやすいタイプなのかもしれないが、果たして結果は如何に。さて数時間後にGAORAで生中継が始まる。熱戦を期待しよう。


2006年04月23日 雄飛のナダル

2004年の全仏チャンピオン運命論者ガウディオと2005年の全仏チャンピオン鉄壁のナダルとが2006年MS第三戦モンテカルロ大会SFでぶつかった。

第一セット、先にブレークしたのはガウディオのほうだった。「お、ガウディオ、今日はいけるかも」と思ったらすぐにナダルにブレークバックされた。「やっぱりガウディオだ」と思ったら3-3で0-40のブレークポイントをガウディオがつかむ。「お、やっぱり今日はいけるかも」と思ったら40-40に戻されて結局キープされた。そのまま次のガウディのサービスゲームで0-40にされナダルに3つブレークポイントを握られた。「やっぱりガウディオだ、このままずるずるナダルにやられるな」と思っていたら40-40に戻してディース合戦の末、キープに成功した。本当につかみ所のない選手だ、ガウディオという選手は。5-5になってこのままTBになるかと思った第11ゲームで再びガウディオブレーク!第12ゲームを余裕でキープしてなんと第一セットを7-5でガウディオが先取した。

鉄壁のナダルがこんなことで崩れるはずがない。1ポイント1ポイントではガウディオにも素晴らしいプレーがあるのだが、大事なところで連続してポイントを取るのはナダルでミスするのはガウディオのほうだった。第二セットは2ブレークで6-1、ナダルがセットオールに戻した。

気持ちを入れ替えて、集中しなおして最終セットに臨みたかったガウディオであったが、第一ゲームで得意のドロップショットからの展開をナダルに阻止されて切れた。いきなりのブレークにラケットをクレーに叩きつけて、折れたラケットを拾うともう一度ラケットを叩きつけた。「ポイントが要らないのか、P・O・I・N・T、ポイント、ポイントだ、ポイントを失ってもいいのか!」不敵な笑みを浮かべて頭を振りながらラケットを代えるガウディオに主審は厳重注意を与える。それで吹っ切れたのか、次のナダルのサービスゲームをガウディオはブレークに成功、しかし、すかさずブレークバックされる。世界最強のシコラー、ナダルの鉄壁のディフェンスと鋭いカウンターショットの前にガウディオは戦意を喪失、5ゲームを連取され、6-1でナダルがクレーコート41連勝を決めた。

この試合、ガウディオは美しいシングルハンドのバックハンドからのウィナーを見せ、ナダルは脅威のフットワークでボールを拾い捲り、鋭いカウンターショットを見せた。ポイントになったのは互いにドロップショットの処理だった。当初、ガウディオは見事なドロップショットを見せたが、徐々にナダルが追いつき始め、やがてアングル・ロブ・ドロップの連続攻撃を全て拾い、ガウディオのミスを誘うという脅威のコートカバーを見せるようになる。しかし、そこからがガウディオの才能の見せ所。緩急をつけ、角度をつけ、フェイントを見せ、レベルを上げてナダルを崩しにかかる。ナダルはガウディオにドロップショットからの攻撃をさせないためにガウディオが止まって打てないように果敢に振りにかかる。そしてこちらも負けじとドロップショットで応酬してみせる。第三セットではナダルのドロップショットからの展開は決まるが、ガウディオのドロップショットからの展開は逆襲されるようになっていた。恐るべきはナダルのコートカバーと展開力である。

第二試合は皇帝フェデラーがクレーの上でゴンザレスの挑戦を受けた。結果は6-2 6-4 でフェデラーの圧勝、去年、対戦するごとに結構ゲームを取られていたゴンザレスを一蹴した。この試合も第二セットは1ブレーク差なのだが、淡々とプレーするフェデラーの表情からは「セットを取るには1ブレークあればそれで十分」という余裕すら感じられなくもない。

二年ほど前のフェデラーはクレーの上では足を良く滑らせていた。それがこの試合では殆ど足を滑らせることなく、ハードコートと変らない流れるようなフットワークで終始攻め続けた。「俺のテニスは完成されている。このテニスでクレーも征するのだ。」というフェデラーの気概を感じる。

トップ2シードにして世界ランキングのトップ2が決勝で当たる。トップランカーの中では対戦成績でフェデラーに勝ち越している唯一の選手であり、現時点で今年フェデラーに土を付けただ一人の選手がナダルである。彼は去年のこのモンテカルロ大会の覇者にして、そこから一年経った今日までクレーでは常勝無敗である。クエルテン・モヤ・フェレーロには復活の気配はなく、コリア・ガウディとクレーの強者の挑戦を続けて退けた、文句なしに今ナダルは赤土の上では最強の男である。フェデラーがその覇業を完成させるためには避けては通れない巨大なる障壁、ラファエル・ナダル。いよいよ皇帝の挑戦の第一ラウンドが始まる。


2006年04月25日 封じ込められたフェデラー

ATPに君臨する圧倒的強者、ロジャー・フェデラー。今や彼の前にはロディックもヒューイットもアガシも無力である。その「皇帝」が唯一完全に制圧できていない地域がヨーロッパクレー。そして、赤土の上でもその強さを落とさないフェデラーに唯一対抗できる、赤土のコートの最後の砦、それが鉄壁の男、ラファエル・ナダルである。去年は神の見えざる手よるものなのか、両雄といわれる二人が対戦したのはマイアミの決勝とローランギャロスの準決勝のニ試合だけだった。しかし、今年は既にドバイで対戦、ナダルがハードコートであったにもかかわらずフェデラーを止めた。相手の得意とする土俵に自ら乗り込んで、打ち倒した若き赤土の王は、いよいよ自らの牙城に世界制覇を目指して侵攻してきた皇帝を迎え撃った。

2006年マスターズシリーズ決勝
ナダル 62 67 63 76 フェデラー

第一セット、いきなりナダルの2ブレークで4-0、試合開始直後に4ゲームを連取されるなどここ数年、フェデラーの試合でありえただろうか。その後、フェデラーは自分のサービスゲームを二つキープしたが、ナダルのサービスを破るまでには行かなかった。42分後、6-2でナダルがセットを先取した。

第二セット、ナダルが先行、5-4のサーブインフォーザマッチでセットポイントを握る。が、珍しくナダルが固くなった、そこにつけこむ老獪なるフェデラー、ブレークにようやく成功して5-5、そこからTBにもつれても、しっかり押し切ってフェデラーがセットを取り返した。

第三セット、いきなりのブレーク合戦、でもなんとなくフェデラーペース。このまま行くかと思ったところでナダルが怪我の治療で一休み。ワザと試合を中断させたわけではないのだが、ナダルはタオルの取り方など間をうまく使って流れを変える。この日もこれでまた流れが変った。いつの間にやらまたナダルペースになり6-3で終っていた。

第四セット、またもやナダルにブレークされ先行を許すフェデラー、ジャッジもナダルに傾きいらつき始めるが、それでも一つブレークを返して1-3にする。フェデラーがここに来てようやくナダルのショットに対応できるようになり、彼らしい早い展開の攻めが発揮され始めた。第8ゲームでさらにフェデラーがブレーク、2ブレークで並んだ。両者が本来の力量を発揮してポイントを奪い合い、ゲームを取り合う。6-6でTB突入。ここでフェデラーは3-0と先行するが、そこからナダルが一気にレベルを上げてきた。ポイントを連取して4-4にまでなった。そこからのナダルは見事だった。マッチポイントを見事なフォアハンドからのストロークウィナーで決め、この大会の連覇を決めた。

対ナダル戦5戦1勝4敗、唯一の勝利もハードコートの上で、しかも2セットダウンされた。初対戦から2年、フェデラーは未だにナダルの左利きのスピンボールに対応し切れていない。ナダルと対戦するといつもよりミスが多くなる。フェデラーだけでなく、他の選手もそうだ。いつもの相手とは感覚が違うサウスポーのヘビートップピン、このショットに対応していつもどおりの自分のショットを打てるようになるのに、皆時間がかかっている。そしてそのボールになれる頃には試合が終わっている。そこにきてあの脅威のコートカバーと信じられない角度で入ってくるカウンターショット、あれで戦意を喪失させられて自滅していく。流れが相手に傾きそうになると絶妙の間の取り方で相手の気をはずし、カウンターショットでその芽生え始めた希望を叩き潰す。ナダルはそうやって相手を負かしていく。
フェデラーといえど、またナダルに対応するのに時間がかかっている。彼がナダルとまともに打ち合えるようになったのは第四セットになってからだ。薄いグリップの片手打ちバックハンドの相手には高く弾むボールをバックに集める。そのバックに高く弾むボールをフラットでもスライスでもスピンでも自在に打ち返せるようになって、ようやくナダルと同じ土俵にフェデラーは立つことが出来た。それが第四セット後半である。遅い、エンジンがかかるのが、ギアを上げるのがそれでは遅すぎる。それでもこの試合は第2セットを取っていたのだ。第四セットTBでリードを守っていればあるいはフェデラーに勝機があったかもしれない。しかし、あのTB、先行したフェデラーに追いつき追い越したナダルのあの強さはいったいなんだ。最後のTBのポイントは明らかにエンジンのかかった皇帝のテニスをさらに凌駕していた、強いテニスでナダルはタイトルを奪い取った。

対戦相手の力を封じ込めるだけでなく、相手が本来の力量を発揮してきたときに、それを超えるレベルに自分のテニスを引き上げることが出来る男、ラファエル・ナダル。フェデラーは果たしてこれほどの男を倒せるだろうか。挑むのはあくまでフェデラーである。

皇帝の挑戦の第二ラウンドはいつ訪れるのか、そしてその勝負の行方は如何に。欧州赤土戦線は美しい地中海から大陸内部にその戦線を移していく。



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