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第043房 モーレスモ、ブレークスルー (2006/01/08)

 

2005年 テニス界10大ニュース その10 無冠の女王モーレスモ、ツアー選手権優勝

GS無冠のエントリーランキングNo1経験者を「無冠の女王」と呼ぶのであれば、キム・クライシュテルスはその呪縛から開放された。全米オープンで見事に初のグランドスラムタイトルを奪取した。これにより無冠の女王は残り一人になってしまった。フランスのアメリー・モーレスモである。

1999年全豪オープンの決勝戦にヒンギスの相手として上がってきたのがモーレスモだった。敗退したが、これ以後世界のトップランカーに名を連ねることになる。だが、これ以降彼女はGSではSFより上に進むことは出来ずに今に至る。ティアT・ティアUクラスでは優勝を重ね、一時エントリーランキングのNo1にもなったがグランドスラムだけは取れていない。

モーレスモのテニスというのはその立派な体格と豪快なフォームからハードヒッターというイメージが強いのだが、実際のストロークはスピンのムーンボール主体で高い打点から打ち込んでくるタイプではない。サーブも長身の割にはそれほど強くなく、リターンもスライスで返球するだけというレシーブが多い。モーレスモはむしろ配球と流れなの中から出て行くネットプレーでポイントを取るタイプだ。モーレスモはかつてのスウェーデンの貴公子と呼ばれたエドバーグにあこがれているというだけあって、アプローチとボレーが独特の上手さをもっている。独特というのは他の女子選手がストローク戦の中から浮いた球をドライブボレーなどで叩きにいくネットプレーを見せるのに対し、モーレスモはベースラインの後方からでもスライスで強引にアプローチを仕掛けてとりあえずネットにつく、そしてそこから二本以上のボレーでしとめるのだ。そのネットでの腰を落とした動きは見事である。面白いのはだからとって遮二無二ネットに突進するだけではなく、ベースラインからクレー育ちらしいムーンボールの配球でストローク戦を主体にすることも忘れない。芝育ちのようなネットプレーとクレー育ちらしいストロークという奇妙な組合せの独特のテニス、それがモーレスモのテニスだ。今年もグランドスラムこそ逃したが、その独自のテニスで最終戦ツアー選手権の決勝まで駆け上がった。

ここ数年間、ツアー選手権は男子の最終戦マスターズカップと同じ方式を取り入れている。つまりsの年のグランドスラムタイトルホルダーとそれ以外の上位ランキングの選手8名でラウンドロビン方式を取り入れているのだ。だが、今年はGSチャンピオンのうち、全豪覇者セリーナ・ウィリアムズ、全仏覇者エナン、全英覇者ヴィーナス・ウィリアムズがそろって欠場し、男子ほどでないにしろ欠場者が続出する大会になってしまった。しかも、チャンピオンズレースでトップを走る全米覇者クライシュテルスがフィジカルの調整に失敗してランドロビンで二敗、決勝トーナメントに進めない大波乱が起こる。化粧トーナメントに進んだ4人の内今年のGSチャンピオンは一人もいないという、これまた前代未聞の最終戦となった。

緑組はダベンポートとシャラポワ、黒組はピエルスとモーレスモが勝ち上がって来た。ダベンポートとシャラポワの一戦は好試合だった。63 57 64 と3セット連続の僅差の接戦をシャラポワが制した。
今年年頭の東レパンパシフィックオープン決勝でもフルセットのタフマッチを演じた二人である。そのとき勝ったのはシャラポワだった。後にダベンポートは語る。曰く「あの娘とは長いラリーをしてはいけない。」と。高速サーフェイスを得意にしているくせに、粘りのラリーを続けることで自分のペースに持ち込むのがシャラポワのテニスだ。それに付き合ってはいけない。サーブ・リターンから早い展開でポイントを取っていく。それがシャラポワの攻略法だとダベンポートは語る。東レの数ヵ月後にダベンポートはその対シャラポワ戦略の妥当性を6-0、6-0の完封勝ち(串団子ともダブルベーグルとも言う)することで証明した。今年の後半には胸などの故障で試合から遠ざかっていたシャラポワである。今日の対決は当然ダベンポート有利の戦前予想の中で行われた。そしてシャラポワはその予想を見事に覆した。全英・全米を見る限り、シャラポワはサービスとリターンに鋭さをまし、大幅に強化した。このことによりロングラリーで粘るだけでなくサーブ・リターンからの速攻にも対応できるようになった。彼女のテニスは十分ダベンポートやウィリアムズに対抗できるものに成長したのである。この一年、WTAを牽引したのはベテランダベンポートの局とプリンセスシャラポワだった。この二人がSFを突破して最終戦の決勝で再び激突する。それがこのWTAの一年の締めくくりにふさわしい最後だと思った。

ところがセミファイナル、ダベンポートはニセット連続のTBを落としピエルスの前に敗退、シャラポワもファーストセットTBを落とし、セカンドも36でダウン、モーレスモの前に敗れた。決勝は予想だにしなかったフランス人対決となった。

2005WTAツアー選手権 決勝は57 76 64 でモーレスモがピエルスを逆転で下した。激戦は3時間に及んだ。この日のピエルスはウィリアムズやベルギー勢に匹敵する素晴らしいハードヒットとフットワークでモーレスモを圧倒しようとしたが。モーレスモは自分のテニスでその猛攻を支え、良く粘った。そしてよく攻めきった。見事なツアー選手権初制覇であった。モーレスモに必要な自身がこの勝利で手に入れる事が出来ただろうか。来年のグンランドスラムでそれが試される。




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