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第040房 生きている伝説アガシと皇帝フェデラー (2006/01/08)

 

2005年 テニス界10大ニュース その7
アガシ、ブレークとの名勝負の末に全米決勝進出、されど打倒フェデラーならず。

去年の2004年全米オープン、リトルスラム達成へ向け驀進中だったフェデラー・エクスプレスをただ一人苦しめたのはアンドレ・アガシだった。フェデラー相手にQFでフルセットのロングマッチ、二人ともコートの中に入って下がらない。アガシの得意なライジング合戦にあえて挑んで張り合うフェデラーも見事なら、その挑戦を受けて立つアガシも見事。戦いは雨天順延の末、翌日強風の中でフェデラーが強気の攻めで締めくくった。去年2004年の後半にフェデラーが苦戦したのはこの試合とサフィンとのマスターズカップSFだけだった。「フェデラーを止める可能性を持つのは筆頭がサフィン、そして次がアガシだ。」とこの結果を見る限りは考えてしまう。しかし、フェデラーはそのアガシを今年2005年年頭の全豪オープンで一蹴してしまう。

アガシは去年のマスターズカップでは全仏覇者ガウディオに席を譲らなくてはならなかった。その為にフェデラーにマスターズカップで対戦せずにここにいたる。結果はストレート負け。ストローク戦では互角の打ち合いであるものの、最後に続けてポイントを取るのはフェデラーの方である。オールラウンドプレイをしなくてもストローク戦だけでストロークの神様アガシに勝てることを証明したのである。これ以降、アガシに関して打倒フェデラーの可能性を語る声は聞かれなくなった。

春のマスターズシリーズ第二戦マイアミ大会のSFでも二人は当たる。アガシはスライスにネットプレートと奇襲を試みて揺さぶりをかけるが、フェデラーはまったくゆるぎない。ストレートでアガシは敗退し、この時点で対フェデラー戦7連敗となった。

「グランドスラムタイトルを狙える可能性があるうちは現役を続ける。」といつも答えるアガシ。1970生まれの彼は今年35歳になっていた。同世代のサンプラス・チャン・クーリエ・マーチンらは引退してしまいツアーの現役選手の中では最年長である。しかし、今現在「グランドスラムタイトルを狙える可能性がある」ということは、「フェデラーを倒せる」ということと同義である。2005年とはそういう時代なのだ。打倒フェデラーを果たせないものにはグランドスラムタイトルを手にすることはできない。アガシが現役を続けるのであれば「打倒フェデラー」可能性を見せなければならない。同世代のロディックやヒューイットですらその可能性を見出しにくいこの現状で、アガシがどれほどのことができるだろうか。そういう疑問は当然起こる。しかし、「生きている伝説」アガシはその可能性を示してみせたのである。数多くの伝説を作り上げた男が新たなる伝説を作る。それが今年の全米オープンだった。

2005年全米オープンは波乱の幕開けとなる。アメリカ中の期待を背負っていたアンディ・ロディックが初戦でミュラー相手に3連続TBを落とすと言う、信じられない負け方で敗退してしまったのだ。ちなみに同じ一回戦でフェデラーはミナルを3セット連続6-1と言う、これまた信じられない圧勝を遂げる。
格下相手とはいえこんなスコアで勝つなんて簡単に出来ることではない。女子ではウィリアムズやエナン・キムが時々するが、男子で、しかも3セット連続で6-1圧倒など稀に見る大勝である。ミナルは今年、ドバイではフェデラーからセットを奪い、ウィンブルドンでは負けても4ゲーム近く各セットでとり、フェデラーに対して善戦をしている選手だ。それがこの大舞台でこのスコアを喰らうなど、本人も観客も予想しなかったろう。対戦回数を経る毎に相手を封じ込めていく、ヒューイットもナルバンディアンもヘンマンも、フェデラーは当初は苦手にしていたが、対戦を経る毎に相手を圧倒するようになっていった。やがてサフィンもナダルも皇帝の軍門に下るのだろうか。恐ろしいまでの強さの増幅である。全米オープンの会場は今年からコートのカラーをブルーに変更した。フェデラーはそれに合わせたのか鮮やかなブルーのウェアにイエローのバンダナで登場した。そしてコートの上を滑るように動き、リラックスしたスイングでショットを放ち、ミナルを簡単に下してしまった。
「皇帝」と「未完の大器」のこの対照的な初戦の結果、二人の今の状況が鮮やかに、そして残酷なまでに映し出されてしまった。

ロディックが3セット連続でTBを落とし、初戦敗退というアクシデントに見舞われたことは、多くのアメリカ国民を失望させたらしい。その失意のアメリカ人に希望をともしたのが35歳のイラン系アメリカ人アンドレ・アガシである。なんとロディックの負け方とまったく逆のスコアで勝利をモノにしたのだ。

全米オープン男子シングルス二回戦
アガシ 76 (4) 76 (5) 76 (4) カルロビッチ

クロアチアは引退したイワニセビッチを筆頭にアンチッチやリュビチッチなどビックサーバーの産地として知られるが、カルロビッチもまたクロアチア産のビックサーバーの一人だ。2mを越えるカルロビッチは現ATPで最も長身の選手で、その長身を生かしたサーブがとんでもない角度で頭の上から降ってくる。数年前はウィンブルドンの一回戦で前年度覇者のヒューイットを下したことで名をあげた。アガシと双璧をなすリターンの名手ヒューイットすらてこずる高く、鋭い角度がつくそのサーブ、そのサーブにアガシは自らの最大の武器であるリターンで真っ向勝負を挑んだのだった。カルロビッチはフォアがあまり強くなく、バックハンドスライスからネットにアプローチしてネットで決めるタイプだ。だがアガシはストローク戦では主導権を握りカルロビッチを圧倒する。やはり鍵を握るのはカルロビッチのサービスゲーム、少しでもサーブのコースが甘くなるとアガシのリターンは容赦なくウィナーを狙ってくる。そんなプレッシャーのかかる状況でカルロビッチは集中力を切らさず、厳しいコースにサービスを叩き込みつづけ、3セットともTBまで持ち込んだ。
アガシは数年前のこの全米オープンでサンプラス相手に4セット連続TB、しかもサービスダウン0というすさまじい接戦をしたことがある。あのとき第一セットのTBはアガシが取ったが、その後3セットTBをサンプラスに連取され敗北した。先日のロディック同様、3連続TBダウンと言うのは5セットマッチの試合にだけ実現する状況だけに誰でも経験することではない。それだけに敗れたほうに与えるショックは相当大きいらしい。その傷の重さを知っているからこそ、逆に負けられない、勝利への飢えとなってアガシを奮い立たせるのだろう。リラックスしたラリーの中にも鋭いショットを織り交ぜて、最後にはアガシが見事に勝利した。
3セット連続のTBでの勝利。ロディックを襲った悪夢を吹き飛ばすような見事な勝利だ。アメリカ人はさぞかし痛快な思いをしたことだろう。狙ったわけではないだろうが、アガシのテニスにはこのようなドラマティックな要素がふんだんに盛り込まれて、見ている人を引き付ける。勝負師としてだけでなくショーマンとしてもエンターティナーとしても大会を盛り上げてくれる。そういう役回りを天から与えられた男なのかもしれない。だからこそ彼は注目されるのだ。「生きる伝説」なのだ。

これでアガシに俄然注目が集まった。ロディックがいない今、ボトムハーフを盛り上げる男はやはりアガシしかいない。順当行けばQFでMSモントリオール大会決勝の再現となる対ナダル戦が待っているはずだった。そう、アガシは全米直前のマスターズシリーズのハードコートでナダルに破れたのだった。

この19歳と35歳の対決はじつはこのモントリオールが初顔合わせであった。この日のアガシの体の切れは最高だった。アガシの攻撃は最高だった。2004年全豪SFでの対サフィン戦に匹敵するベストパフォーマンスだった。それでもアガシの攻撃はナダルの防御を突き崩せなかった。半年前まで、ATPの話題は「誰がフェデラーを止めるのか」という一点に絞られていた。しかし今、関心ごとはもう一つ、「誰がナダルを止めるのか」という事が加わりつつある。クレーシーズンが終わり、ハードコートシーズン、インドアシーズンになればナダルは失速するだろうと思われていた。かつてのクエルテンやフェレーロ、コリアのごとく。しかし、このモントリオールでの優勝はその予想を大きく覆すことになった。ハードも制するクレーの王者、そんなナダルへの期待をアガシが許すわけがない。フェデラーが出てくる前にアガシがナダルを倒す。そんなもう一つの期待がアガシにはかけられていた。だが打倒ナダルはアガシではなくもう一人のアメリカ人が果たしてしまう。その男は蘇ってきたジェームズ・ブレークであった。

全米オープンが開催される直前、ニューヘブンで開催されている男女同時開催のパイロットペンテニスにおいて、ジェームズ・ブレークがロペスを36 75 61という逆転劇で今季初優勝を遂げた。彼は早くから注目され、期待にこたえるだけの実力を備えた選手だった。華のあるテニスをする選手だった。しかし、ここ数年スランプと故障で苦しみ、戦線離脱、復帰後も大きな大会でもシードがつかなくなっていた。しかし、ようやく今年になって復調の兆しが見え始め、この北米のハードコートシーズンでは結果が出た。数週間前にロディックと決勝を戦ったと思えば、今度は地味な顔ぶれだったとはいえ優勝である。見事。意外なことだが、彼はこれが生涯タイトルの二勝目だという。彼の苦労した歩みがうかがえるというものだ。その派手なテニスの内容、目立つ容姿の割には勝利に対する執着心にややかけているかとも思われるブレークであったが、ここにきて優勝の味を覚えればもっと勝ちにこだわるようになるといわれた。全米でも大いに暴れてくれる事を期待された。全米のボトムハーフでナダルを止めるのはひょっとするとこの男かもしれないと予想もしていた。しかし、本当にナダルを止めてしまい世界中を脅かせることになるとは。

全米オープン男子シングルス三回戦でブレークはナダルと対戦する。ブレークの猛攻がナダルの鉄壁の守りを突き崩した。ハードコートなので攻撃側が有利な状況ではあるが、それでもアガシやフェデラーがなかなか崩せなかったナダルを崩したと言う事実は大きい。ブレークのテニスはウィンブルドンで初優勝した頃のフェデラーのテニス似ている。どこからでもいつからでも攻めてくる。それも一発の強打でなく連続攻撃で攻めてくる。様々なアイデアを実現する多彩な技術としなやかでスピードのあるフィジカル。見事な攻撃的テニスをする。だがその才能を高く評価されながらもなかなか結果につながらなかった。さらにこの数年間故障に苦しんだ。ようやくその才能を開花させる舞台を手に入れたのだ。この試合は特にフォアの逆クロスからの展開が素晴らしかった。ナダルも良くしのぎ、第二セットを取るが、そこで力尽きた。ブレークが見事に攻めきったのだった。

2005年全米男子シングルスのボトムハーフはロディック・ナダルがダウンしたおかげで大混戦となった。4回戦以降フルセットが続出。コリアがマシューを、ジネプリがガスケを、アガシがマリッセを降すのにフルセットまでもつれた。ブレークもロブレドに1セット落としている。好勝負が目白押しとなる。ボトムハーフのQFはコリア対ジネブリ、アガシ対ブレークとなった。そして、その一つが伝説の一戦となる。

全米オープン男子シングルスQF
アガシ 36 36 63 63 76 ブレーク

壮絶なこのスコア、35歳の中年真っ盛りのオヤジが、アスリートとしてピークにある25歳を相手に2セットダウンからの逆転劇したのだ。しかもこの試合、フルセットになただけでなく、互いに取ったゲーム数は24対24で互角、ファイナルセットのTBをアガシが取った、ただそれだけの差での勝利である。素晴らしい試合内容にして見事な勝利である。

この試合、ポイントはリターンだった。最初の2セット、ブレークのリターンは冴え渡り、アガシのお株を奪うリターンからの攻めで主導権を握り、セットを奪った。第三・第四セット、リターンの名手アガシはついにその本領を発揮、サービスの良いブレークを攻め立て2セットを連取、セットオールに持ち込む。圧巻はファイナルセット、4-5でブレークのサーブインフォーザセットである。35歳のアガシがこの絶体絶命のピンチにおいて、なんとまるでスキップしているかのように小走りに嬉しそうに生き生きとリターンのポジションに向かったのだった。そしてアガシの素晴らしいリターンが連続して放たれ、ブレークのリードを打ち消して5-5に追いついたのだった。見事、完璧、そして美しい。素晴らしいまでのリターンゲーム、そのブレーク劇。あのリターンからの猛チャージこそが、あれこそがアガシのテニスの真骨頂である。
6-6になってTBに突入するとき、深夜にもかかわらず会場に大量に残った観客はスタンディングオベーションで二人の名勝負をたたえる。その大歓声と渦巻く拍手の中で、ブレークは腰に手を当て満足そうな笑みを浮かべてその雰囲気を味わっていた。フェデラー・ロディック・サフィン・ヒューイットと同じ世代にジェームズ・ブレークは生まれた。しかし、その歩んだテニス人生は先の4人とは大きく異なり、期待されながらも苦しい日陰の道を歩むことを余儀なくされた。その男が、こんな大舞台で、観客の拍手喝さいを浴びながら、「生きる伝説」にである英雄アガシを相手に、こんな素晴らしい内容の試合を戦える、そんな男の充実した満足げな笑顔はとても爽やかで美しかった。
TBに入り、スーパーショットを連発して観客の興奮をさらに盛り上げる二人の偉大なる役者、アガシとブレーク、最後に試合を決めたのはアガシの切り札、回り込みフォアからダウンザラインへのリターンエースだった。実に素晴らしい勝負であった。

歳を重ねると肉体的耐力だけでなく精神的な集中力や持続力も落ちていくものだ。テニスの試合で接戦の中にも波があるのは、片方が集中力を高めているときにもう片方の集中力が落ちているからだ。そして、二人の集中力が共に高められるとき、その試合の山場となるシーンが訪れる。ところがこの試合は全てが山場だった。最初から最後までアガシとブレークは集中しつづけ、信じられない強打の応酬を見せつづけた。その全てが山場と言う脅威のフルセットマッチである。若いブレークも見事だが、5セット集中しつづけたアガシの35歳の輝きがなにより素晴らしい。2005年の上半期ベストマッチが全豪SFサフィン対フェデラーなら下半期のベストマッチはこの全米QFアガシ対ブレーク戦である。いやラリーの応酬の素晴らしさだけではサフィン・フェデラー戦をしのぐと言っても良い。

アガシはこの数年、いい内容の試合をしたときは最終的には負けていた。2000・2001年の全英SFの対ラフター戦しかり、2001年全米QFと2002年全米決勝での対サンプラス戦しかり、去年の全豪SF対サフィン戦しかり、そして先日のMSモントリオール大会決勝での対ナダル戦しかり、1999年に生涯グランドスラム達成した後もアガシは輝きつづけはしたが、名勝負を演じるとき、いつもアガシは最後に負けていた。それだけに、ブレークと名勝負を戦っただけでなく、最後に結果として勝利を得ることが出来たことがとても嬉しかった。同じ歳の男として、如空はとても嬉しかった。

アガシは苦しみながらもSFでジネプリを突破した。再びフェデラーの待つところまでやってきた。2005年全米オープンの男子シングルス決勝は皇帝フェデラー対生ける伝説アガシの対戦となったのだ。その決勝への道のりはまったく対照的だった二人、その強さを見せ付けて決勝に来たフェデラーと、タフマッチの末のきわどい勝利を拾ってきたアガシ。アガシへの期待により、この決勝戦での名勝負の予感が報道されているが、現実にはアガシには厳しい結果が待っていると予想していた。フェデラーはそれほど甘い相手ではない。しかし、如空も多くのファンと同様、「アガシなら何かしてくれるのではないか。」とう甘い期待をしてしまう。それがアガシのアガシたるゆえんだろう。

期待はよくも悪くも裏切られた。

2005年全米オープン 男子シングルス決勝
フェデラー 63 26 76 61 アガシ

アガシは見事なテニスを展開してフェデラーに肉薄した。試合の中盤は完全に主導権をフェデラーから奪っていた。最悪の場合、アガシは去年決勝のヒューイット戦よりも酷いスコアをフェデラーに喰らうのではないかと内心心配していた。SFでの対ジネプリ戦における元気のなさも気になっていた。しかし、それは杞憂に終わった。アガシは十分打倒フェデラーを果たせる可能性がまだあることを示した。

しかし,それでも勝てなかった。

これ以上のパフフォーマンスと結果を今後、アガシが出していくとが可能だろうか。特にフェデラーが君臨する今の状況では。悲しいことだが、アガシの作り上げてきた伝説の最終章になるかもしれない。この2005年全米オープンを目撃できたものは幸せである。アガシが見せた名勝負のコレクションの最後を飾るにふさわしい素晴らしい内容の試合ばかりだったからだ。アガシはあといくつの名勝負を演じられるだろうか。それを考えずにはいられない終わり方だった。

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