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第038房 未完の大器ロディック、あるいは不屈のヒューイットと皇帝フェデラー (2006/01/08)

 

2005年テニス界10大ニュース その5 ロディック・ヒューイット、未だ打倒フェデラー果たせず。

フェデラーの皇帝への歩み、その過程において大きな転機となる試合がいくつかあった。
最初の一歩と言うべき試合は2001年ウィンブルドン4回戦、芝の覇王サンプラスを破った試合だった。世界にフェデラーの存在を知らしめたのがこの試合である。
次は2003年ウィンブルドン準決勝の対ロディック戦である。この時点まで、フェデラーの評価というのは「潜在能力はサンプラスに匹敵するが、コートで発揮できている実力もその実績も、その時点では同世代のロディックやヒューイットよりやや下」という評価が大勢であった。この時点でロディックとの対戦成績は3戦全勝でフェデラーが圧倒しているにもかかわらず、ランキングも世間の評価もロディックの方が格上であり、戦前の予想はロディック圧倒的有利だった。だが試合で相手を圧倒したのはフェデラーの方だった。完璧な、あまりにも完璧な、見事なまでのテニスで、調子が悪いわけではないロディックをストレートで降す。フェデラーのワンマンショーだった。この試合こそ、完成したフェデラーのテニスが世間に公開発表された瞬間だった。フェデラーはその完璧なテニスを決勝戦でも発揮、初のグランドスラムタイトルを手に入れる。これ以降、「フェデラーがベストの状態でテニスをすればNo1だ」といわれるようになる。だが、「ベストの状態であれば最強」という評価はサフィンにもなされていた。問題はその「ベストの状態」をどれだけ長期にわたって発揮できるか、調子の悪い時期をいかに短くできるか、そして調子が悪くてもそれでも試合に勝てる底辺のレベルの高さがどれほどのものか、そこが問われることになった。その問いにフェデラーは結果をもって答える。2003年末のマスターズカップから恐るべき勝率で勝ちつづけるフェデラー。そして2004年全米オープン決勝でヒューイットに圧勝、対戦成績では勝ち越していた時期もある二年連続No1にしてGSタイトルを二つも持つハードコートの上の要塞ヒューイットを完膚なきままに叩き潰した。ここにいたる一年間の成績で、フェデラーがどうのような状況であれ、相手が誰であれ、コートの中で常に強者であるのはフェデラーの側であることを世界中に知らしめたのである。フェデラーは圧倒的強者の地位についた。その間、彼の転機となる試合の相手をした三人の内、サンプラスは引退し、ロディックとヒューイットは未だフェデラーに勝てずにいる。

全豪男子シングルスはトップ4シードが揃い踏みした。如空がテニスを観戦するようになってからグランドスラムで初めての出来事である。現時点のハードコートでフェデラー・ロディック・ヒューイット・サフィンが如何に強いかを物語る。これでSFは去年末のマスターズカップと全く同じ組合せである。今年の全豪オープンは如空だけでなく、多くの人々が「ここ数年のグランドスラムで最高の大会」と賞賛している。特に男子は上位20位までの選手が全員出場、1回戦から好カードがあり、熱戦・接戦・死闘が繰り広げられ、地元の英雄ヒューイットがタフゲームを繰り返して決勝進出、もう一方の山では去年の後半から常勝無敗だったフェデラーをフルセットの末、サフィンが破り、3度目のチャレンジで全豪ファイナル勝利、ヒューイットを下し優勝するというとてもドラマチックな展開だった。文字通りここ数年で最高のグランドスラムであり、いろいろな面で歴史に残る大会になるだろう。
その歴史的意味を問う時、注目されるべきはサフィン・ヒューイットの活躍だけでなく、フェデラー連勝が止められたことだけでなく、最大の意義は男子トップ4シードが4人ともシードを守りSFベスト4にそろって進出したことだと思う。フェデラーが頭一つ抜けた存在であり依然として最強のNo1選手であることに代わりはないのだが、それでもハードコート上ではこの4人が4人以外の選手に負けることはほとんどなくなってきた。フェデラーの君臨する皇帝の時代であると同時にサフィン・ヒューイット・ロディックを加えた四天王の時代でもあるのだ。
サービスキープを戦略上の主目的に置き、接戦を1ブレイク、あるいはタイブレークで勝ち取る「サンプラス型」選手の筆頭はロディック。ブレイクの数で相手を上回ることを戦略上の主目的とする「アガシ型」選手の代表はヒューイット。そしてサンプラスとアガシを掛け合わせ、サービスゲームでもリターンゲームでも強い、最も理想的なテニスをするのがフェデラーとサフィンだ。しかしサフィンはベストパフォーマンスを年間通じてコンスタンスに発揮できる選手ではない。ムラがある選手だ。ゆえに4人の中でフェデラーが最高・最強の存在ということになる。サフィンが一大会でもベストパフォーマンスを持続させればフェデラーを止めうる存在になるのだが、そう上手くいかないところが面白いところでもある。4人ともエントリーランキングでNo1を経験しているが、年間最終ランキングNo1だけはサフィンが取れていない。
ここで注意すべきはヒューイットの場合、サービスゲームがやや弱いといってもそれはフェデラー・サフィン・ロディックと比較してのことであり、5位以下の選手に対しては十分に通用するサーブとサービスゲームのキープ力・戦術を持っている。それに対してロディックのリターンゲームの弱さはフェデラー・サフィン・ヒューイットとの比較だけでなく、下位の選手に対しても当てはまってしまうところが辛い。特にセカンドではフォアの回り込みで攻めているがファーストでバックからのリターンはとても危うい。ストローク戦でもフォアの強打に頼りがちで戦術面に不安がある。四天王で最も不安定なのがロディックだ。
しかし、視点を変えてみると、ロディックはビックサーブとビックフォアだけであの地位にいるのである。彼にネットプレイが、リターン力が、ストロークでの戦術が、バックハンドストロークの向上が、フットワークとディフェンス力の向上、更なるメンタルの強さが、今欠けている何かが彼に加われば、ロディックはあるいは4人の中で最も強い選手となるかもしれない。如空がアンディ・ロディックを「未完の大器」と感じる所以である。

ロディックはコーチのギルバートとの契約を2004年末終了させた。事実上の解任だったらしい。理由はよくわかっていない。2003年の全仏敗退直後、「このままじゃいけない、変わらなければ。」とロディックが自らギルバートに電話をして、コーチのオファーをしたと聞いている。そしてギルバートはどんな魔法を使ったのか、あの危なっかしかったロディックのテニスを安定させ、直後のウィンブルドンでベスト4、その後アメリカハードコートシーズンを快進撃させ、全米タイトルを奪取に成功、グランドスラムタイトルホルダーになっただけでなく、年末には年間最終ランキング1位まで手に入れさせた。
アガシに次ぐ教え子のNo1選手誕生で、一気にギルバートはコーチとしての名声を高めた。2003年の後半は「いったいロディックには何が起こったんだ。」「ギルバートはどんな指導をしたのだ」と皆驚き、口々にその偉業をたたえた。まさにギルバートマジックだ。特に2003年はUSオープンにあわせてサンプラスが引退した。そのために、サンプラスを継承する形でロディックが全米優勝・年間No1を決めたことはアメリカ人やその周囲のファンたちにとって素晴らしい贈り物になった。
しかし、サンプラスの地位を継承したのはロディックでなくフェデラーだった。
ロディックはフェデラーに二年間、一度も勝てていない。というより、通算の対戦成績で一度しか勝てていない。安定したと言われるそのテニスの、実はまだ奥底に残っている粗さが、フェデラーと対戦したときに浮き彫りにされる。そして、球足の遅いクレーコートでは、戦術面の未熟さが露呈される。これらの批判はロディックに向けられると同時にコーチであるギルバートにも向けられる。「なぜ戦術面が向上しないのか」「なぜフェデラーに勝てないのか」と。
二人の間には2004年に入って意見の相違もあったと聞く。しかし、最終的な判断を下したのは選手であるロディックだ。テニスは野球やサッカーとは違う。監督やコーチが選手を選ぶのではない。選手がコーチを選び、雇うのだ。自らの勝利のために。フェデラーは2004年、コーチ抜きでリトルスラムをやってのけた。2003年までのコーチ・ルンドブレンを解任したフェデラーを誰も責めるものはいない。結果が全てだ。「選手にコーチは絶対必要」という意見は今年のフェデラーの結果を前に沈黙せざるをえない。
ロディックの判断が正しかったのか、間違っていたのか、そして後任のコーチに誰を選ぶのか、その選択が正しかったのか、その答えを今年のロディックは問われることになっていた。去年まで2年間ロディックを指導したギルバートコーチはロディックの危なっかしいテニスを安定させることには成果を上げたが、新しい何かを与えることは出来なかった。本来持っている力を常に発揮できるようには出来たが新しい力を見つけ出すことは出来なかった。ロディックが今後どのようなテニスを目指すのか、人々は注目している。


ロディックは今季5勝を上げた。ハード3勝、クレー1勝、芝1勝と異なるサーフェイスで優勝しており、「クレーが苦手」「戦術面が未熟」「ネットプレーが下手」「サーブとフォアハンドだけの選手」というネガティブな評価を覆しつつある。地味ではあるが徐々にプレーの幅を広げて、ストローク戦の配球も向上している。
今年一年、ロディックは自分のテニスを変えようと努力した。そのサーブとフォアハンドの強打で圧倒するテニスから展開力を身につけ、ショットのバリエーションを増やそうとしている。バックハンドはスライスを使ってチェンジオブペースをラリーの中でするようになってきた。ネットにも果敢に出て行く。彼はフォアとサーブだけの去年までのテニスだけでも十分トップランカーに名を連ねることが出来る。さらにグランドスラムタイトルを取り、ランキングNo1おも狙えるだろう。あの男さえいなければ。フェデラーにだけは勝てない。今の時代、フェデラーに勝てなければNo1はおろかGSの優勝すら望めない。今のテニスがフェデラーに通用しないのであればテニスを変えるしかない。それがロディックのおかれた状況だった。

最近のロディックの試合を見ると戦術面もそう悪くはないじゃないかと感じる。ロディックはワイドへのサーブを効果的に使って相手をコートの外に追い出し、オープンコートをしっかり作っている。そこにフォアの回り込みか一気にネットに詰めることでポイントを取ってしまう。エースを取るサーブとゲームを作るためのサーブを明らかに使い分けている。ブレイクポイントやタイブレークなど、ここぞというときに連続エースで試合を決める。貴重なサービスエースを大事な場面に取っておいて集中させる見事な試合展開である。ロディックはストロークが向上している。ロディックがストロークから攻める、あるいはウィナーをとる場面は、フォアハンドからのクロスか逆クロスの場面であって、フォアもバックもストレートで攻められる選手ではなかった。それがストレートで攻められるようになっている。ヒューイットのお株を奪うトップスピンロブも何度か見せている。地味だが大事な部分で進歩しているのかもしれない。

ロディックの基本戦略はサービスキープにかかっている。かつてのサンプラスとそこはよく似ている。サービスゲームをキープし続ければ負けることはない。1ブレイクすれば勝てる。ブレイクできなくてもタイブレークではサーブの強い方が勝つ。ロディックはその強さの割には競った試合が多いと感じる。それは圧倒的にサービスゲームをキープしながらも、ブレイクがなかなか出来ずに、セットが長引くことが多いことによるのかもしれない。2005年、サービスゲームのキープ率No1選手はフェデラーでもナダルでもサフィンでもヒューイットでもない、このロディックだということを忘れてはいけない。

ロディックは現ATPプレーヤーの中で最速サーバーである。ボールが速いだけでなく、打点が高く、その肩の強さを大いに発揮させてクイックモーションで打つサーブはコースを読みづらいし、タイミングも合わせにくい。当然、そのビックサーブを有効にポイントに結びつけるためにはサーブ&ボレーを取り入れるべきだと誰もが考える。
しかし、今年のウィンブルドンでロディックはネットラッシュを見せたがそれはラリーの中からのバックハンドスライス・アプローチだった。そして、格下の選手には通用したそのスライスアプローチもフェデラーの前には無力、パスをバシバシ抜かれまくっていた。ロディックは正面にやや短い球が来るとバックハンドスライスをクロスに打ってそのままネットにつく。そこにショートクロスへ鋭いパスが放たれ、ロディックの眼前を横切っていく。このシーンをウィンブルドンの決勝で何度見たか。せっかくのビックサーブ、ビックフォアで相手を崩しているのにそのときはネットに出ない。逆に相手が万全の体制で待っているところへスライスアプローチをしてネットに出て行く。素人目に見てもどうにもこの作戦は上手行っていないような気がするが、ロディックのコーチはどう考えているのだろう。せっかくのビックサーブ・せっかくのビックフォアがあるのだから、その大砲でエースを狙い、ウィナーにならなくてもそれで相手が崩れ返球が浮けばそれをネットに詰めておいて叩くという戦法を取ればよいのにと思うのだが。一度その方針を伺いたいものだ。と結果が出なければいろいろといわれてしまう。それがトップ選手の宿命だろう。

打倒フェデラーこそならなかったが、ロディックはもう一つの大きな壁を乗り越え、その成果を上げている。実はロディックはフェデラーにだけでなく、ヒューイットに対しても去年までたった一勝しか出来ておらず、彼に長らく勝てないままここまで来ていた。MSインディアナウェルズでの大会SFでロディックはヒューイットに阻まれ、フェデラーが待つ決勝まで進めなかった。去年のマスターズカップも全豪もまったく同じドローでSFでヒューイットに阻まれている。ロディックはフェデラーにたどり着く前にヒューイットを突破しなくてはならいのだ。2000年から2002年にかけてヒューイットとロディックは激しく競い合っていた。攻めのロディック対守りのヒューイット、この対決は長引くことが多く、ロディックは足を痙攣させてしまうこともしばしばあった。しかし、いつも最後にロディックが崩れてヒューイットに負けていた。だが今年のインディアナウェルズあたりから少し違うな感じさせるところがあった。ロディックの負けパターンは、最初パワーで押すが途中で押切れなくなり、接戦になり、やがて自分で精神的にか技術的にかで崩れていき、最後に自滅するという内容である。それが、今回はそのパターンではなかった。崩れないロディック。後は武器が増えればブレイクするかも知れないぞと思わせる内容だった。そしてついに彼は苦手のヒューイットを破る。MS第7戦シンシナティ大会SFでロディックは 64 76 でヒューイットを下す。

おなじみのこの二人による、元No1同士のおなじみのSFである。ヒューイットはNo1だった頃に比べて攻撃力を強化しており、ロディックはNo1だった頃に比べて防御力が向上している。ヒューイットは攻めが早くなりサービスが強化されている。ロディックはじっくりとラリーをするようになりバックハンドにスライスを多めに取り入れてラリーに緩急を取り入れ始めている。
第一セット第5ゲームでヒューイットはブレークポイントを握るが長いディースの末取りきれなかった。第六ゲームでロディックは0-40でブレークポイントを握り、ヒューイットはフォアをネットにかけてロディックがブレークした。キックサーブとバックハンドスライスとフォアハンドムーンボールで「緩」、フラットサーブとビックフォアとボレーで「急」、未完成ながらも緩急をつけたテニスでゲームの主導権を握る。サーブインフォーザセットでギアを上げるロディック。が、それが裏目に出てダブルフォールトが絡む長いディースになる。それでも最後はサービスポイントでセットを取りきった。
第二セットは何度もブレークポイントがあり、何度もディースがあった。しかしお互い持ち味を出し合い、サービスをキープし合い、TBへともつれ込む。サービスが強化されているヒューイットはTBでもロディックに負けてはいない。互いにサービスポイントを取って競り合うが4-4でラリーになったところでロディックのムーンボールをヒューイットがミスして1ポイントリード。このリードをビックサーブで守りきり、ついにロディックはハードコートで初めてヒューイットを破ることに成功した。
ロディックは未完成のテニスで苦手のヒューイットに立ち向かい、何度も危ない場面を迎えたが、いつもなら自滅してしまう場面を我慢して乗り切り、見事にヒューイットに勝利した。ロディックが変り始めている。そしてようやくそれが良い方向に向かい始めている。あの未完成の危なっかしいテニスでは、まだまだ先は長いだろう。しかし、期待の持てる内容だった。一度No1にまでになった男が自らのスタイルを一度崩し、新しいスタイルを模索するということはなかなかできることではない。「出来なかったことを出来るようになるように変っていく」というその姿勢、その努力には賞賛を惜しまない。その前途はまだ長いが、いつかその才能が花開き、結果がでる日が来るだろう。そう思わせるSFであった。

ファイナルで当たったフェデラーにはやはり勝てなかった。ロディックは積極的にサーブ&ボレーに出た。セカンドサーブでは今までファーストよりポジションを下げてリターンしていたが、今ではセカンドではコートの中に入るようになった。セットを一つも取れなかったが、2セットともしまった内容のゲームであった。
SF対ヒューイット戦に比べると、ロディックは全体的に単調であったという印象がある。あまり緩急をうまく使えていなかった。あれほど多用したバックハンドスライスとフォアのムーンボールも少なかった。逆にサーブ&ボレーは多かった。ロディック陣営のゲームプラン通りだったのだろうか。せっかく多様な技を身につけたのだから、もう少し変化に富んだ、メリハリのあるテニスをするべきだろうに。ヒューイット戦で見せたあの緩急を織り交ぜたテニスであれば、フェデラーに勝てないまでも、もう少し違った内容になっていたのではないだろうか。未完の大器ロディックの試行錯誤と挑戦はまだまだ続く。

一方でヒューイットはロディックとまったく逆のアプローチでフェデラーに挑んでいる。彼はテニスを変えない。そのテニススタイルは変えないまま、少しづつ進化させ、その延長線上に必ずフェデラーを超えるテニスがあると信じて前進している。悩まず、揺るがず、自分の信じた道をひたすらまい進する不屈の男、それがヒューイットである。

MSのインディアナウェルズ決勝でヒューイットは何度目かの対戦をするが、このとき、足の親指を痛めたヒューイットは満足なプレーが出来ずに敗退している。TVの映像で決勝戦を見る限り、ヒューイットの足が負傷していたという印象はほとんどない。フットワークは相変わらず素晴しかった。第二セットの第三ゲームでヒューイットは一ポイント中に二度までもトップスピンロブを使うロングラリーを制して観客席総立ちの拍手喝さいを浴びていた。フェデラーのコートカバーもヒューイット並みに素晴しいのだが、その切り返しを更に切り返し、自らもコートを縦横無尽に走りまわるヒューイットの動きはすばらしい。観客は多くの声援を送った。しかし、その応援にレイトンは続けて答えることが出来なかった。実際は足の爪が裂けており、全治6週間の重症であった。フェデラーは決勝戦開始直後にヒューイットの異変に気付いていたと試合後のインタビューで語っている。長いラリーが好きなヒューイットが早めにポイントを取りに来ていることでそれと気付いたという。しかし、仕掛けが早くなっているのは去年の後半からのヒューイットのテニスの特徴であり、この決勝戦に限った話ではないと如空は感じていたのだが、それ以外に違うと思わせる何かがあったのだろうか。フェデラーは2004年は一年間、ヒューイットに勝ち続け、苦手意識を払拭したと思われているが、それでも前日はヒューイットを意識してよく眠れなかったと会見で語っている。フェデラーの胸の内で最も苦手意識があるのはやはりヒューイットなのだろうか。
年頭の全豪でクーリエがフェデラーにインタビューをして「ライバルは誰だ」と問い、フェデラーは「ヒューイット・ロディック・サフィン」を上げた。しつこいクーリエは「その中で一番警戒しているのは誰だ」としつこく迫り、フェデラーが出展しているチャリティー目的のオークションのラケットを3000オーストラリア・ドルで落札することを約束して口を割らせた。そのフェデラーが最も警戒する相手の名前、それはヒューイットだった。
去年の後半からフェデラーはヒューイットに圧勝するようになったが、その試合というのが、フェデラーの気合が開始直後から満ち溢れているような凄まじいプレッシャーのかけ方だった。今思えば、ヒューイットに苦手意識があり、かつ最も警戒する相手だからこそ、試合直後からトップギアのエンジン全開プレーで勝ちに行くためにあのような一方的なスコアになっているのかもしれないと如空は想像する。つまり、スコアで圧倒していても苦手は苦手なのだ。そのテニスの延長線上に打倒フェデラーの可能性は十分にありうる。

ロディックは変ることで「未完の大器」を完成させようとし、ヒューイットは「不屈」の精神で立ちはだかる大きな壁を貫こうとしている。しかし、今年のウィンブルドンはそれこそデジャブーかと思わせるような、何度も見た風景として、フェデラーの前に敗れていく第二シードロディック、第三シードヒューイットがいた。フェデラーは完璧な勝利である。ヒューイットもロディックもギアをトップに入れたフェデラーの前には完全に無力だった。準決勝も決勝もTBがあったがフェデラーが落とす気配など微塵も感じられなかった。一週目の試合内容の方がよほど危なかった。タイトルに近づけば近づくほど強くなる男、フェデラー、見事なウィンブルドン三連覇であった。

フェデラーはまた泣いてた。これだけ余裕の勝利、余裕のトーナメートでの頂点であるがそれでも泣いた。これで今季8勝目決勝戦22連勝、チャンピオンズレースはぶっちぎりの一位であるが、それでも泣いていた。去年はリトルスラムを達成、今年は全仏を取って生涯グランドスラム、さらには全豪から取って年間グランドスラムを期待されたし、本人も狙っていただろうが、全仏はナダル、全豪はサフィンの前に阻止された。その二つの敗北は、それはそれで歴史に残る名勝負だったのだが、負ければ意味がない。NO1を独走するものとして、去年リトルスラムを達成した男として、今年グランドスラムを三つ落とすなどということは許されるはずはない。周囲が許してもフェデラー自身が許さない。まして3連覇がかかる芝の王座、グランドスラム初タイトルを取ったこのウィンブルドンには特別な思い入れがあるのだろう。彼が自身に課した使命は重く自らのプレッシャーになっていた。チャンピオンシップポイントをサービスエースで決めた瞬間、プレシャーから解放されたフェデラーは芝の上に崩れ落ちしばし泣いた。
好試合が続き、ここ数年でベストトーナメントだった女子に比べれば、男子はなんとも退屈なトーナメントだった今年のウィンブルドン。旅に出て寄り道をしていた皇帝が再び指定席である王座に戻った、ただそれだけを確認した男子シングルスであった。

全米でヒューイットとロディックはさらに明暗を分ける。なんとロディックは初戦でフェデラーでもヒューイットでもない相手に敗退していしまうのだ。それもスコアは 76 (4) 76 (8) 76 (1) なんとサーブの強いロディックが3セット連続でTBを落としたのである。試合を見ていないので詳細はわからない。しかしロディックを支えていた何かがこの一戦で崩れてしまったような気がしてならない。後々尾を引かなければよいがと心配している。

一方でヒューイットはフェデラーの牙城に食い込んだ。準決勝で長らくセットすら取れていなかったフェデラーから第二セットTBの末セットを奪い、第三ゲームもかなり押していた。自分のテニスにさらに磨きをかけ、鍛え上げれば、その先に打倒フェデラーは必ずなる。敗れたとはいえ、そんなヒューイットの不屈の精神を見せつけられた試合だった。

ロディックは故障を抱えてマスターズカップを棄権、ヒューイットも今年結婚したばかりの奥さんの出産間近ということでマスターズカップを辞退した。二人ともフェデラーと半年以上対戦をしてない。その間テニスからも離れてしまった。フェデラーとの差はまた開いているように思える。「ロディックもヒューイットもどうせまたフェデラーに負けるのさ」と誰もがそう思っているだろう。期待をすることを皆やめてしまっている。だが忘れてはいけない。ほんの数年前まで、二人はフェデラーの前を走り、フェデラーは彼らの背中を追っていたのだ。フェデラーがヒューイットとロディックを追いつき、追い越したのはここ数年の話である。ヒューイットは一直線に、ロディックは迷いながら、それでもフェデラーに挑み続ける。何度はねつけられても、それでも何度でも挑む。ロディックが「未完の大器」を完成させるのが先か、ヒューイットが「不屈の精神」を貫くのが先か、あるいはそんな二人の挑戦を最後まで皇帝は退け続けるのか。何度裏切られても、それでも如空は期待している。ライバル同士の名勝負を。

 

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