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第037房 孤高の女王エナン (2006/01/08)

 


2005年テニス界10大ニュース その4 エナン復活の全仏制覇

メアリー・ピエルスがヒンギスを準決勝で破り、マルチネスを決勝で降して全豪に続く二つ目のグランドスラムタイトルを手にしたのが2000年の全仏オープンだった。その翌年の2001年全仏オープン、二人の若きベルギー人が準決勝を戦っていた。ジスティーヌ・エナンとキム・クライシュテルス、その存在はテニス関係者やコアなテニスファンには早くから知られていたが、宿命のライバル関係が世界中に広く一般に注目されることになったのはこの試合からだった。エナンはそこでクライシュテルスに26 75 63の逆転負けを喫した。先にグランドスラム決勝に進んだクライシュテルスは、そこで数ヶ月前の全豪で復活して波に乗るカプリアティ相手に大接戦を演じる。ファイナルセット12-16という歴史にのこる名勝負だったが、カプリアティの勝利への執念をクライシュテルスは断ち切ることができずに敗れ去った。その1ヵ月後のウィンブルドンでエナンもGS決勝の舞台に進んだ。それも全豪・全仏を連覇し年間グランドスラムをも狙おうとしていたカプリアティを準決勝で撃破しての進出だった。あの準決勝でカプリアティの進撃を止めたことによる衝撃は世界中を震撼させた。それほどにインパクトが大きかった。後に「キムが先にGSの決勝に進んだことが私のモチベーションを上げた。」とエナンは語っている。そのモチベーションの盛り上がりを十分に結果に反映させた見事な決勝進出、打倒カプリアティ劇であった。だが決勝はようやくその才能を開花させ始めたヴィーナス・ウィリアムズの前に破れる。

2001年のカプリアティの勢いを止めたがエナンならば、2002年から嵐のように吹き荒れたセリーナ・ウィリアムズの勢いを止めたのもエナンだった。舞台は2003年全仏準決勝、グランドスラム4連勝中、全仏の連覇が見えかかったセリーナを、いきなりエナンが止めて見せた。セリーナを止めただけでなく、対戦成績で負け越しているクライシュテルスと決勝戦で対決、こちらも圧倒しグランドスラム初優勝を飾る。

数ヵ月後の全米オープン準決勝、再びカプリアティとの死闘がエナンを待っていた。46 75 76 の大逆転劇、第二セットも第三セットもリードされてから気迫で追いつき追い越した。ミスも多くてベストのテニスではなかったが、気力でねじ伏せた。左太ももの痙攣を引きずりながらも戦い、崖淵から生還しての勝利だった。そして翌日の決勝戦、試合開始直前まで点滴を打っていたと言うエナンに相対するのはまたもやクライシュテルス。圧倒的強さを見せて勝ちあがって来た彼女はその時点のエントリーランキング世界No1だった。戦前の予想は圧倒的にキム有利といわれたこの試合、終わってみればエナンがキムを圧倒し75 61 で二つ目のグランドスラムタイトルを取る。「エナンは不死身か、死闘をする度に強くなっていく」と世界は驚きを持ってこの結果を迎えた。

2004年の全豪オープンの時点でエナンと他の選手たちとの力関係は完全に入れ替わっていた。ランキングだけでなくそのテニスの力そのものがWTAでNo1になっていた。決勝戦で再び当たるキムにセットを落としたがそれでも最後には押さえきって勝利し、三つ目のグランドスラムタイトルを取る。クライシュテルスは完全にエナンの後塵を拝してしまった。エナンに対抗しうる存在の出現はセリーナ・ウィリアムズの復活を待つほかないだろうと思われた。

だが、奇しくもセリーナと一年の時間差を経て、エナンもまたその勢いを失速させてしまう。故障もあったが深刻だったのはウィルス性の病気により体調を崩したことだった。これによりほとんど一年間、ツアーでは実績を残せず終わってしまう。そのエナンが今年全仏の舞台に帰ってきた。それも圧倒的強さを印象付けて優勝までしてしまう。

2005年全仏女子シングルス、エナンはボトムハーフ、4Rでクズネツォワを逆転で降すと、QFでデフェンスの固いシャラポワを見事な攻撃的テニスで打ち破り、完全復活をアピールする。エナンはシャラポワを意識しているのか、あるいは相性がいいのか、この全仏に限らず、他の大会での対戦でも凄まじい気合でやっつけてしまう。それがまたエナンの調子を上げるきっかけとなる。破れても元女王を復活させるシャラポワがここにもいたのだった。
一方でトップハーフはダベンポートとクライシュテルスが4Rで激突、前半でクライシュテルス圧倒の内容が、後半戦になるとダベンポートが盛り返し、なんと逆転でダベンポートが勝ち進んだ。事実上の決勝戦だったと思われたこの4Rであったが・・・・ああ、リンゼイ・ダベンポート・・・・なぜかQFで負けてしまったのだった。ベルギーのオデブを見事な逆転劇で破っておきながら、フランスのピエルスには勝ちを譲ってしまった。ボトムハーフから勝ちあがってくるエナンを決勝で迎え撃ち、No1の座を今の段階ではまだ譲らず、生涯グランドスラムを達成して引退への花道を飾って終わるという美しい終わり方を期待していたのだが残念な結果になった。
年々選手の低年齢化が進むWTA、今回もベスト8に15歳の選手が進出している。実際、WTAでは若いと言えるのは10代まで、20代前半が中年、20代半ばで晩年を迎えて引退、20代後半まで現役でいるのはとても厳しい状況になってきている。ベテラン選手たちは確かに多々存在してはいるし、今回の全豪・全仏のように突然GSのベスト4に進出したりもする。しかし、トップクラスにとどまり続けることなど相当な困難なはずである。ある意味、今のリンジーは5年前の引退直前のグラフと同じ位置にいる。グラフに比べればそのNO1としての地位は圧倒的地位ではない。エナンやセリーナの方が強いだろう。だが彼女達は安定しない。リンジーが現女王であることに変わりない。彼女から女王の座を譲り受けるのは誰なのか。
生涯グランドスラムを達成したセリーナ・ウィリアムズは年齢を重ねるにつれ、それにふさわしい落ち着きと円熟味を増しつつあり、これからもグランドスラムをいくつかは取るだろう。しかし、彼女の心の奥底に昔あった牙が今は抜けてしまっている。そしてこれから先、全豪でその可能性を見せたものの、それが蘇るかどうかはわからない。V・ウィリアムズとカプリアティはなおのことだ。キムは大事なところで勝てない。そんな星のもとに生まれているのだ。少なくとも今のところは。そして、ハートの強さで戦うシャラポワの精神力はセリーナ同様、いつ尽きるともわからない。彼女の場合、まだ17歳ということが逆にネックだ。ドキッチを見よ。まだ先が長いだけに今の気迫・勝利への飢えがいつまでも続くのかという疑問と不安がある。
次の女王はエナンだ。既に2003年の年間最終ランキングNo1、グランドスラムを3つ取り、あとはウィンブルドンを残すのみ。去年の戦線離脱はキムやセリーナと違って、怪我によるものではなく、ウィルス性の病気によるものだ。テニスをすることで再発のリスクを負うものではないと聞いている。彼女は身体的な危機を克服した。そしてセリーナの心からは引き抜かれてしまい、シャラポワの心の中でいつ折れるとも限らない「牙」を彼女はとても強く持ち続けている。ダベンポートが退くとき、エナンが女王に昇格する。そしてそれは長期政権になる。一時的にシャラポワやクズネツォワにランキングNo1を譲ることがあっても長期的にみればエナンが君臨する時代になるだろう。エナンを止めうる力を持つのはセリーナのみ、しかし彼女の心に牙が蘇らなければ競ったとき勝つことは難しい。そしてクライシュテルスは大事な局面での星回りの悪さを自ら克服しない限り、自らこの不の連鎖を綴る運命を断ち切らない限り、道は開けない。道が開かれているのはエナンだけである。
できれば決勝でダベンポートとエナンが当たってほしかった。その結果がダベンポートの生涯グランドスラム達成に終わったとしても、ダベンポートが敗れ、エナンへ女王の座を譲り渡す儀式になったとしても、どちらになってもそれはそれで意義のある結果になると思っていた。1999年の全仏決勝でのグラフ対ヒンギスはまさにそんな意味合いを持った試合であったのに、とても後味の悪い試合になって残念であった。エナンもまた次の女王を狙う立場にありながらそれを決定付ける舞台に恵まれていない。この全仏の決勝では、そんなこの5年ばかりのWTAの中で感じているモヤモヤを吹き飛ばしてくれる素晴らしい決勝戦をエナン対ダベンポートで期待していた。だからとても残念であった。

エナンの優勝はこれでほぼ確定的になった。SFも決勝も消化試合と見ていた人が多いだろう。ロシア勢の中堅ペトロアもSFでエナンの前に26 36で敗退した。エナンのウィニングショットの角度・コース・スピードの厳しさ、そしてあの身長からなぜ打てると驚くばかりの強力サーブ、エナンは強い。ペトロワは完全に引き立て役だった。そして決勝戦、SFではリホフツォワに6161で快勝したピエルスが、同じ6161のスコアでエナンに圧倒された。エナンの側には微塵の迷いも揺らぎもない。これが一年近くツアーを離れていた者のテニスかと驚かされる磐石の強さである。ピエルスは途中から完全に戦意を喪失していた。それほどまでに凄まじい嵐のような2セットであった。

クレーでは球足が遅くなるのでラリーが長く続く、ビックサーブやウィナー級のショットが追いつかれて拾われる。それがクレーだったはず。実際、男子のテニスはそうなっている。しかし、女子はサーフェイスの違いなど全く関係ない。勝つ選手はみな、早い展開でポイントをとり、ウィナーを簡単にとってしまう。特にエナンがそうだ。粘ることで有名なシャラポワが、全然粘れていなかった。ハードコートや芝の方がよっぽどラリーが長続きしているのではないだろうか。試合が始まって数分で結果が見えてしまう程に圧倒的だった。
エナンにとってはこの二度目の全仏タイトルは通過点でしかない。狙うは生涯グランドスラム、目標はウィンブルドン。二週間後、ドーバー海峡を渡って芝の上に乗り込む彼女を待ち受けるために、ウィリアムズ姉妹が、ダベンポートが、クライシュテルスが、クズネツォワが、そしてディフェンディングチャンピオンシャラポワが、エナンを阻止するために調整に入っている。今なら差を埋めることが出来る。エナンは手の届くところにいる。ここでウィンブルドンを取らせると、当分手の届かないところに行ってしまう。WTAの山場は赤土の上でなく、二週間後の芝の上に来る。そう思っていた。

ところがエナンはウィンブルドンでなんと1回戦敗退してしまう。ダニーリドゥに 76 26 75 で敗退。1999年にヒンギスがドキッチに一回戦負けした時のような驚きを感じた。エナン、何があった。去年のATPにおけるフェデラーのように、今年後半のWTAはエナンによる女王君臨へのイベントが続くのだと予想していたが、これでわからなくなってしまった。ウィンブルドンの行方だけでなく、女王の座の行方も。

引退したマルチナ・ヒンギスが来シーズンからツアーに復帰する。それを伝える報道の中に気になる一文があった。曰く「エナンの活躍が、体格の小さな選手でも大型選手のパワーに十分対抗できるという自信をヒンギスに与えた。」と。
これはヒンギスの発言ではなく、記者の想像によるものだろう。ヒンギスは頭のいい選手だ。間違ってもそんなことは考えていないと思う。もしそういう認識でいるとしたら来シーズン、ヒンギスはとんでもないしっぺ返しを喰らうことになる。体格は似ていてもエナンのテニスはヒンギスのテニスとはまるで別物だからだ。
女子テニスの完成形はセリーナ・ウィリアムズとキム・クライシュテルスの二人のテニスに求めることができる。あのテニスこそが世界中の女子選手が目指す方向であり、同じではないが大局的にはヒンギスのテニスもその方向を向いている。そしてそれにはある程度体格の大きさを必要とするのだ。エナンのテニスというのはその「女子テニス」の目指している方向とはまったく違う、異次元の世界のテニスだ。エナンのテニスはむしろ男子のテニスに近い。

男子のテニスと女子のテニスを分かつものはなにか。スピードか、パワーか、持久力か。これらは程度の差であって区別されるものではない。現にこの部分に関して女子は男子に近づいている。男子と女子を分かつもの、それはクイックネス、瞬発力である。具体的には肩の強さと足腰のばねの存在といってよい。
オリンピックでソフトボールが正式種目になって女子がボールを投げるフォームをTVで見ることが多くなったが、訓練された世界屈指のアスリートの投球フォームであるにもかかわらず、男子とは投げ方がどこか違うと誰もが漠然と感じているはずだ。肩が違う。肩甲骨がスライドしてから引き戻される、肩の中の「ばねの存在」が女子と男子では大きく違うのだ。それは器械体操を見ていても感じる。女子の技も男子同様、速くてジャンプも高い、だがその速さと勢いを生むのは「ばね」ではなくて「遠心力」だ。女子は体を回転させることでパワーとスピードを得ている。

テニスにおいて、サーブのスピードは女子も速くなった。しかし、クイックサーブを打てる女子選手というのはほとんどいない。クイックサーブは肩の強さで打っているサーブだからだ。女子のサーブはラケットを大きく回転させ、遠心力でスピードを得ている。リターンも男女の差が顕著だ。「レシーブはテイクバックをコンパクトに」と言われるが、女子はジュニアからトッププロまでテイクバックがとても大きい。ストロークとほとんど変わりないところまでラケットを引く。男子のように止まっているラケットを肩や足腰のばねで瞬時に加速させることが困難で、遠心力を発生させる「助走期間」が必要になるからだ。スピードやパワーが劣るのではなく、トップスピード・ハイパワーにいたるまでの時間が男子よりかかってしまう、それが女子のテニスを見ていて男子と違うなあと漠然と感じるモノの正体だと如空は考えている。それゆえに女子のテニスは「ボールを打つ瞬間にトップスピード・ハイパワーを与えるために、いかに体とラケットを回転させるのか」というところに技術的は集約するような気がする。フットワークもまたしかりである。

エナンは違う。他の女子選手にはない「ばね」がある。彼女は男子のようにぐっとためを作ってそこから瞬発力を使ってラケットを加速させてボールを打つことができる。あれは男子のテニスだ。彼女のトレードマークである片手打ちのバックハンドを見ると良くわかる。回転させて打つことも、男子のフェデラーのように肩を残してズバッと腕を振り上げて打つこともどちらもできる。肩を残しているときは瞬発力で打っているのだ。同じバックが片手打ちの他の女子選手と比べてもそれは歴然としている。たとえばモーレスモ、彼女は一時期「テニスの練習のためにコートにいるよりもジムでトレーニングしている時間の方が長い」とまで言われほど男顔負けの筋肉質の体をもつ。長身なだけでなく肩幅も広く、りりしい容姿をしているのでよく「男性的」だといわれる。口の悪いヒンギスには「男女」とまでいわれていた。そしてその筋力が生み出すスピードとパワーは女子でもトップレベだろう。しかし、テニスそのものは男子のそれに比べると全体的に「モヤぁー」とした印象を受ける。有名な厚いグリップの片手打ちバックハンドも肩と一緒に腕を回すスイングなのでエナンのような鋭さがない。モーレスモはその体型・筋力とは裏腹にそのテニスはとても女性的なのだ。サーブを比較しても同じ事が言える。モーレスモはその恵まれた体格の割にサーブが弱い。原因は男子の真似をしてコンパクトテイクバックのサーブを採用しているからだ。筋力はあっても肩が弱い選手があのモーションで打っても威力のあるサーブは打てない。ウィリアムズ姉妹やクライシュテルスのようにラケットを大きく振り回して遠心力で加速させて振り上げるサービスフォームを採用すればモーレスモはもっと強力なサーブが打てるはずだ。だが、エナンの場合は違う。コンパクトテイクバックからラケットを振り回すことなくクイックモーションでサーブを打ち、そしてそのサーブは長身の他の選手に引けを取らない威力を持つ。肩と全身のばねが男子並に強いのだ。だから小さい体格に似合わない強力なサーブを打てるのだ。
天賦のばねに加えて、瞬発力で打つタイミングをはずさない反射神経、決してくじけないメンタルタフネス、疲労や小さい故障などあっという間に回復するスタミナ、これらをハードなトレーニングで作り上げ、他の女子選手には到底真似できない独自のテニスを鍛え上げ完成させた。まさに天上天下唯我独尊、燦然とWTAに輝く孤高のテニス、それがエナンのテニスだ。エナンに近い資質を持つのは現在のWTAでは唯一、ロシアのクズネツォワくらいだろう。それでもエナンと同じ事はできまい。エナンはその独自のテニスでウィリアムズ姉妹やカプリアティ、ダベンポート、クライシュテルスなどの大型ハードヒッターと五分に渡り合う。
さらに彼女は試合感がいい。リードすれば、すかさずギアをさらに上げて一気にリードを広げ、相手を圧倒してしまう。リードされれば粘り、チェンジオブペースやカウンターを上手く使ってチャンスが来るのを虎視眈々と狙う。接戦では決して引かずに真っ向打ち合いを挑み相手に打ち勝つ。実に喧嘩上手と言うべきか、勝負強い。その時点での作戦・戦術の選択は実に的確であり、その場面場面で必要な気持ちの作り方を知っている。常にメンタルが戦闘モードのままで安定している。コートの中で戦闘態勢に入っているエナンほど怖いものはない。ウィリアムズ姉妹やクライシュテルスが津波のような勢いで相手を蹂躙する大型動物の群れイメージなら、エナンはのど元を一撃で食いちぎる敏捷な獣のイメージだ。一撃必中のそのショットは鋭い。男子のようにためを作って肩でコースを隠してから、ひきつけたボールを鋭いスイングで打ち抜くことができるバネと瞬発力があるからこそ打てるショットである。神が与えた天賦の才を見事までに鍛え上げたエナンのテニスは強くて、そして美しい。

今年後半は故障を悪化させ、エナンは戦線を離脱してしまった。しかし、今年前半の復活劇で大いに自信をつけたはずだ、いつでもどの状況でもトップに戻れると。彼女が復帰してきたとき、WTAのトップランカー達はそれを迎え撃つ準備ができているだろうか。その戦いはここ数年で最も熾烈なものになるに違いない。そんな予感をさせるエナンの復活劇であった

 



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