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第035房 女王セリーナ・ウィリアムズとリンジーの局とマリア姫と (2006/01/08)

 

2005年テニス界10大ニュース その2 グランドスラマーS・ウィリアムズ全豪で復活


セリーナ・ウィリアムズがその才能を爆発させ、2002年の全仏から2003年全豪まで4大大会連続優勝、俗に「セリーナ・スラム」と呼ばれる事実上の年間グランドスラムを成し遂げたとき、セリーナが負けることなどありうるのだろうかと思っていた。その当時のWTAにおけるセリーナの存在は今のATPにおけるフェラーの存在を上回るほどの圧倒的強者だった。それこそ年間グランドスラムなど当たり前、シーズン通じて常勝無敗で一度も負けることなく、出場する全ての大会を制覇するのではないかと言われた。しかし、その勢いはたったの一年しか続かなかった。

2003年全仏準決勝、ここでセリーナは姉ビーナス以外に自分と互角に渡り合える存在が現れたことを知る。その名はジャステーヌ・エナン。らしくない不本意な自身のプレーと観客のブーイングによる自滅の部分もあったが、何よりもそのハードヒットとカウンターで攻めきったエナンのテニスの前に完敗したのだった。直後のウィンブルドンで決勝戦を見飽きたと言われるほどの回数になった姉妹対決での上で勝利し、6つ目のGSタイトルを取る。だがそこからセリーナは失速した。故障を抱えた時期もあったが、総じて問題はモチベーションの低下だった。勝利への執着心が薄れていた。本気を出せば勝てる。100%の力を出せば優勝できる。自他共にそれを認めていたことだろう。しかし、モチベーションが上がらない。そうしている間にテニスそのものが弱くなってしまっていた。

そんな状況でシャラポワが現れた。2004年のマイアミで初対戦をしたときはセリーナが勝利する。だがその数ヵ月後のウィンブルドン決勝戦、一年ぶりにGSタイトルを取る予定だったセリーナをシャラポワの純粋なまでの勝利への思いが打ち破った。その美しい容姿ゆえに世界中から注目される17歳、シャラポワの優勝をほとんどの人が願っていただろうが、しかし、本当にセリーナを破って優勝すると予想していた人はほとんどいなかっただろう。
かつてシャラポワと同じようにその容姿で注目されていたクルニコワは、ツアーではシングルスの優勝ができず、人気のわりに結果が出ないことに苦しんだ。しかし、シャラポワはツアーでのタイトルを複数取っているだけでなく、グランドスラムのタイトルホルダーになったのである。シャラポワは名実共にWTAのプリンセスとなった。
2004年最終戦ツアー選手権決勝で二人は三度ぶつかる。ここでセリーナは腹筋をいためてしまい、コートに立っているのがやっとという状況に陥る。シャラポワはそんな状況でペースを乱されはしたが、自分に掛け声をかけて、自らを叱咤してセリーナをためらうことなく片付け、ビックタイトルのコレクションを増やすことに成功した。シャラポワはこの時点で現役のWTA選手の中で唯一セリーナに勝ち越している選手になった。

この頃のセリーナのテニスには上手さを感じるようになったが、強さを感じることはなくなっていた。サーブもリターンもストロークも回転量を増やし、確率重視の繋ぐテニスが主体になっていた。流れの中からネットに出ることは増えたし、ネットは女子選手の中では屈指の上手さだ。現役女子の中でもっとも完成されたテニスであることに異論はないだろう。しかし、強さを感じない。明らかに勝利への執着心、これでもかこれでもかと相手をやっつける圧倒的なまでの強さを発揮することがなくなっていた。強さを発揮できなくなってた。その原因は彼女の内面にある。
逆にシャラポワは世界ランカーにしてGSタイトルホルダーにしてはその技術はまだまだ未熟といってよい。しかし、強い。負けない。あきらめない。そのハートの強さだけで彼女は勝利を手に入れる。彼女の武器はその熱い情熱である。自分のより上手い相手を強いハートが打ち破る。
そんな二人が2005年全豪SFで4度目の対決をする。第8シードセリーナ・ウィリアムズ対第4シードマリア・シャラポワ戦が全豪女子SFだった。

苦しい試合が続き、疲労のピークにあるだろうシャラポワと余裕のある上手さを随所に見せながら勝ち上がってきたセリーナ、下馬評ではシャラポワに勢いはあるものの、セリーナが実力を充分に発揮すればセリーナが勝つだろうといわれていた。しかし、2004年、ウィンブルドンと最終戦のツアー選手権で二度続けて決勝でシャラポワに敗れているセリーナには、シャラポワに対する苦手意識が芽生えていて、苦戦するだろうと如空は予想していた。

第一セット第三ゲームでシャラポワブレーク。第5ゲームもブレーク、シャラポワはサービスの調子が良い。元気のないセリーナをシャラポワが圧倒、6-2でシャラポワが取る。

第二セット、集中しているシャラポワがセリーナのボールを見事な切り返しで攻めたてる。シャラポワはウィナーを連発して「カモン」の叫び声とガッツポーズを見せる。1-1でキープしあった第3ゲーム、セリーナのサービスゲームでもシャラポワの勢いは止まらず15-30になる。セリーナのストレスが限界に達した。突然叫びを上げてボールを打ち始める。力というより気力の勢いでシャラポワを押し返した。しかし、完全に調子に乗るところまではセリーナはまだ至らない。確率重視のスピンを多めにかけたセリーナのショットをシャラポワはライジングからのハードヒットで打ち返す。リスクの多いショットを打っているのはシャラポワの方なのに、安定しているのもシャラポワの方なのである。回転量を増やし、ショットのコントロールを高めているはずのウィリアムズの方がミスが多かった。そして、角度をつけて先に相手を振っているのもシャラポワである。ストレスがたまっていくセリーナ。徐々に、徐々に、声を荒げるようになり、ショットの威力が上がり始めた。サーブもどんどんスピードが上がっていく。だが、シャラポワは負けない、そのセリーナについて行く。真っ向打ち合いを挑み、先に仕掛け、ウィナーを取る。セリーナはさらにギアを上げた。ラリーの主導権をセリーナのほうが握り始めた。それでもシャラポワは引かない。セリーナの左右の揺さぶりを拾って拾って拾い捲って、セリーナのミスを誘う。キープ合戦で4-4となった。セリーナのサービスゲームをシャラポワが見事な切り返しで何度も喰らいついて見せてディースに持ち込んだ。シャラポワは何かに取り付かれたかのようにハードヒットを繰り返す。攻めても攻めても攻めきれないセリーナ。ブレークポイントを握られてからもセリーナは強打で押し、ネットに詰め、アングルボレーでシャラポワをコートに外に追い出した。後はとどめの一ショットをがら空きのオープンコートに入れるだけの完璧な状況だった。だが、そのセリーナの眼前をシャラポワの神がかり的に追い着いたカウンターショットが横切った。ボールに飛びつくセリーナ、しかし届かない。シャラポワの悲鳴にも似た叫び声が、信じられない角度で入ってきたボールをサイドラインぎりぎりに落とす。シャラポワ、ついにブレーク!

「何でそんなに勝ちたいんですかね、勝った先に何があるんですかね、もう、お金もたくさんあるでしょうし、でも、なんだか・・・・ほんとに、そう思わざるをえないんです、このシャラポワの気迫、気力、・・・・・なにか、根本的な部分、本能的な部分がなにか違いますよね、シャラポワという選手は。」
この試合、WOWOWの生中継で解説を担当していたのは遠藤愛である。遠藤氏はこの第二セット途中から言葉を発しなくなっていた。シャラポワの執念のテニスに解説を忘れて見入ってしまっていたのである。そして、この奇跡的なブレークのシーンに声を詰まらせて、言葉を搾り出すようにそう語っていた。そして「シャラポワの中から湧き上がってくる何物かに揺さぶられてしまいました。」と語った。シャラポワの気迫の前に心を揺さぶられたのは遠藤氏だけではあるまい。会場の観客、そしてTVで観戦している人たちもまた魂を揺さぶられたことだろう。この如空もまたその一人である。この試合を見ていた世界中の人が、心を揺さぶられたに違いない。

しかし、セリーナ・ウィリアムズだけは揺さぶられなかった。シャラポワの凄まじいまでの執着心でブレークされても揺るがず、だからといってオーバーパワー・オーバーペースにも陥らず、制御される範囲内での力を確実に発揮し、ブレークポイントを握る。そこでシャラポワがまさかのダブルフォールト。セリーナがすかさずブレークバックしたのだった。
その後のサービスゲームをさらにギアを上げて一気に取ると、続く第12ゲームをあっという間にブレーク。第二セット75でセリーナが逆転で取り、セットオールに戻した。

共にバスルーム休憩を取った後、二人とも気が抜けたのか、らしくない気の抜けたプレーで互いにブレークを許してしまい、第三セットはブレーク合戦1-1でスタートする。第二セットで会場に響き渡っていた二人の叫び声はまったくでなくなっていた。準決勝にいたるまでの激戦の疲労がここで噴出したのか、二人はショットに切れがなくなっていた。
ゲームが進むにつれてシャラポワの方には声が戻り始める。慎重に繋ぐセリーナをライジングからのハードヒットとカウンターで追い詰め、3-3からブレークをもぎ取る。淡々と試合は進み、シャラポワのサーブインフォーザマッチが来た。
全てフルスイング、全てハードヒット、コートを射抜くようなショットがシャラポワから何度も何度も繰り返される。特にサーブが強い。シャラポワはあんなにいいサーブを打てる選手だったとは思っていなかった。シャラポワにマッチポイントが来る。だがセリーナは冷静だ。シャラポワが声を上げれば上げるほどセリーナはクレバーになっていく。3度きたマッチポイントを全て防ぎきり、セリーナはついに逆転してブレークする。審判のジャッジにミスがあってもぐっとこらえて対応するセリーナ。だが、両者共にプレー自体はミスが増え始める。ウィリアムズは大事なところでネットにかけることが多く、シャラポワはここぞというところでラインを割る。6-6になった。セリーナはサービスゲームで果敢にネットに出た。何度もパスを打たれ、シャラポワにベースラインで粘られるが、それを受け止めてしっかりと決める。シャラポワのサービスゲームの番が来た。15-30で先行をするセリーナ。短いボールの応酬の末、セリーナのバックがシャラポワのサイドをようやく抜く。地面に膝つきググッとこぶしを握り締めるせりーナ。マッチポイント、セリーナは強力なリターンでシャラポワを押し込み、バックのクロスを豪快に決めて勝利を手にした。セリーナは子供のようにコートの上で飛び上がり、空中で両手両足を広げてのけぞった。

その二日後、「ウェイクアップセリーナ!」と観客から声をかけられるほど、エンジンが中々かからないセリーナがコートの中にいた。舞台は女子シングルス決勝戦、相手は同じアメリカの先輩格ダベンポート、第一セットは6-2でダベンポートがあっさりとってしまう。準決勝で目覚めたかに見えたセリーナはまた眠りの中に舞い戻っていた。第二ゲームも淡々と進む。だが34でダベンポートが気を抜いてサーブを落とす。ここから突然セリーナのエンジンがかかった。さらにニゲーム連取して6-2でセットオールにする。第三ゲームでセリーナはかかったエンジンのギアをさらに上げる。叫び声と共に強打、強打の連続、今までとは膝の曲がりが違う、腰の落ち方が違う、スイングの鋭さが違う、何よりボールをにらむ目が違う。膝を深く曲げて腰を落としたまま鋭い振りぬきでボールをひっぱたく。右に左に強打が打ち込まれる。これがセリーナのテニスだ。女王セリーナのテニスが戻ってきた。圧倒されるダベンポート。6ゲーム連取で第三ゲームは完封。セリーナが永い眠りから目覚めていきなり取った久しぶりのGSタイトルだった。

昔はその強すぎる力のために、そしておそらくは人種差別の一端もあり、姉ビーナスと共にパッシングを受けてきた。「この世で味方は家族だけ」そう語っていた。ジャッジはいつも大事なところで彼女に酷な判定をしてきた。世の中全てが敵だった。強くなることだけが彼女にとって正義だった。そして姉をも追い越し、ついにWTA最強の女王となった。だが尊敬はされても愛されることは少なかったかもしれない。黒人層以外ではなかな受け入れられにくい存在でもあったかもしれない。
だが彼女を取り巻く環境は変りつつある。2003年全仏SFで観客からブーングを浴びせられ、2004年のツアー選手権決勝では腹筋をいためた状況でシャラポワに蹂躙され、相変わらず多くの試合でジャッジが大事なところで不利に判定される。そんなセリーナに黒人層以外にも応援する声が上がり始める。だがそれは同情と哀れみの声でしかない。セリーナには同情と応援の拍手は似合わない。かつて女王ヒンギスを叩きのめし、姉ビーナスを退けたように、憎らしいまでに強い、うらまれるほどにタフな、ブーイングを受けるほどに恐ろしい、圧倒的強者としてのセリーナ・ウィリアムズの姿こそがふさわしい。

しかしセリーナ・ウィリアムズ、良くぞ戻ってきてくれた。この全豪、もしシャラポワかダベンポートに負けていれば、おそらくセリーナは完全に過去の人となっていただろう。
セリーナの見事なテニスに大いに勇気つけられた。今まで信じていても実現しなかった何かが、実現したような気がする。かつて持っていたものを失ってしまった女王。そして、それを失っていた日々を経て、再び大事な「何か」を取り戻したセリーナ・ウィリアムズ、そのきっかけを与えたのは「プリンセス・マリア」ことシャラポワと「リンジーのお局」ダベンポートである。シャラポワとダベンポートのテニス対する姿勢はこの全豪でセリーナの復活に影響を与えただけだなく、その後もこの一年、様々な選手に影響を与え行くことになるのだが、そんなことはこの2005年の一月の時点では予想だにしていなかった。



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