第031房 ヒューイットの拳が向けられる先 (2006/01/07)
ヒューイットのガッツポーズは彼がツアーにデビューしてきたときからいろいろ問題にはなっていた。「カモーン」の雄たけびと共に。しかし、ヒューイットがグランドスラムタイトルを取り、No1ランキングになり、周囲が認めるようになると、あの派手なガッツポーズと雄たけびは、「あれがヒューイットのスタイルなのだから」と半分あきらめ、半分なれてきたこともあり、問題視されることがなくなっていった。そして2003年には、ヒューイット自身がスランプになり、その存在自身が世間から忘れられるようになってしまっていた。
2004年の初頭より復調し始めて、夏のハードコートシーズンで一気に加速したヒューイットの存在は、当然TVでの露出も多くさせるというものだ。去年のMSシンシナティや全米オープン
・マスターズカップでは、いやというほどヒューイットの試合を見た。そして復活したのはテニスだけでなく、ガッツポーズもさらにヴァージョンアップしていることを知る。
一つはセットを取ったときによく見せる地面に向かって何度もこぶしを引き上げるポーズ。まあ、あれはよい。見ていて応援したくなる、彼のファイティング・スピリッツの素晴らしい発露だととらえている。
問題はもう一つの掌を第三関節のところで直角に折り、そろえた指を自分の顔に向けるポーズだ。一説によると北欧式ガッツポーズらしいが正確なところは知らない。観客に向けて行うとき、ファミリーボックスに向かって行うときはよいが、時にヒューイットはあれを相手選手に向かって行っていた。本人の意図にかかわらず、やられた相手は明らかに挑発行為と受け取ることだろう。よくまあ、やられた選手は怒らずに平静に受け取れるものだ、やはりプロの選手はクレバーだなあと如空は感心していた。
しかし、実はみんな怒っていた。その怒りがこの2005年の全豪オープンで炸裂している。
2回戦のブレークはネットについた自分をトップスピンロブで抜かれたとき、ガッツポーズをするヒューイットに向かって「ハイハイ、お上手お上手」と皮肉をこめてわざとらしい大げさな拍手をしつこくヒューイットに向かってやっていた。そして自分がウィナーを取るとヒューイットの北欧式ガッツポーズをわざと真似してやり返していた。
ナイスガイとしてその性格のよさが知られるブレークですらこの状況である。アルゼンチンの核弾頭、チェラが黙っている訳がない。3回戦で度重なるガッツポーズに切れたチェラはサーブをわざとヒューイットのボディに向けて放ち、さらにコートチェンジの間にベンチについたヒューイットにつばを吐きかけた。審判台の後ろで行われたことなので審判は直接介入しなかったが、これは許されることではない(追記:試合後彼は罰金を課せられている)。ただこの許されざる行為を招いているのはヒューイット自身である。
クレバーなナダルは4回戦でヒューイットなど見向きもせずに自分のテニスをしつづけたのだが、QFの相手ナルバンディアンは違った。彼もヒューイットの態度に対して頭に血を上らせながらプレイをしていた。コートチェンジのすれ違いざまに肩がぶつかったとき汚い言葉をヒューイットに吐きつけたナルバンディアン。ナルの行為もまた許されない。しかし、それを招いたのはやはりヒューイットである。敗戦の記者会見でナルバンディアンは公式にコメントまでした。「ウィナーでのガッツポーズはまだしも、相手のミスに対してガッツポーズを行うことは許せない」と。
ロディックはさすがに実力者で「あくまでテニスで倒す」とSFで奮戦した。
意外なことかもしれないが、決勝の相手サフィンとはお互いに敬意を持って尊敬しあう仲なのだそうだ。サフィンは常々メンタルで崩れてしまう自分のテニスを振り返り、すさまじいメンタルタフネスを持つヒューイットを尊敬していると複数のメディアで語っている。それだけに彼のガッツポーズはあまり気にはならないらしい。サフィンはよく切れるが、それは完璧主義者ゆえに自分のイメージ通りのテニスが出来ずに、自分に腹を立てているのであって、相手の態度に左右される選手ではないのだ。もちろんサフィンは勝利した余裕もあったろうが、決勝戦がそれまでのヒューイットの試合のように険悪な雰囲気にならず、お互いが敬意を持って戦いあう好試合になりとてもよかった。今年の全豪が全体的に素晴らしかったために、最後を汚されずにすみ、とにかくよい気分で終わりを迎えられたことは一観戦者として見ても喜ばしい。
年齢と実績・ランキングを考えると、今のヒューイットに意見できる人間は限られている。海外のメディアに叩かれたくらいではヒューイットはその態度を改めないだろう。しかし、ヒューイット、もう少し大人になってくれないかなあ。せめて相手のミスに対するガッツポーズだけは止めてくれないか。みんな君のことを尊敬したいのだよ、自慢したいのだよ。コートの上での振る舞いで失望させるようなことはやめてくれ。立場が上がると許される自由は制限されるようになる。これはどの世界でも同じだ。ジュニアたちに「ヒューイットがしているから」と相手を挑発する行為を正当化させるようなことは止めてほしい。極東の小さな島国の一テニスファンの戯言なのかもしれない。でもそう思っているファンは多いと思うぞ。
ヒューイット婚約のニュースが流れている。クライシュテルスとの破局から半年も経っていない。ヒューイットは誰かから応援してもらってエネルギーを得ないと戦えないタイプなのかもしれない。試合中も必死で自分を鼓舞している結果があのガッツポーズなのだということもわかる。でももう少し考えてほしい。
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