第028房 2005年 全米オープン TV観戦記 (2006/01/08)
2005年08月25日 2005 全米ドロー
2005年全米オープンのドローが発表された。例によって独断と偏見による展望を見てみよう。
第一シードは皇帝フェデラー、去年の全仏よりグランドスラム7大会連続第一シードである。皇帝の覇権は一年以上続いていることになる。今年はまだ3回しか負けていない、しかしその3回のうち2回がグランドスラムだった。ゆえに去年リトルスラムを成し遂げたフェデラーは、今年はまだ、GSタイトルはウィンブルドンのみである。年間最終ランキングNo1を取るだけでなく、堂々の王者、圧倒的覇者としてATPに君臨するためには、GSを二つ以上取ることが、その資格となろう。この全米は負けられない。絶対に優勝だ。まして全豪覇者サフィン、全仏覇者ナダルに全米タイトルを取られ、彼らに年間GSを二つも取られることはNo1としては絶対許されない。皇帝の覇権に大きな試練となるであろうこの大会。しかし、忘れてはならないのは、それでもフェデラーが最強の存在であるということにかわりはないということである。
第一シードの山であるトップハーフの上の山は、第六シードダビデンコを筆頭にロクス、フェレーロ、キーファー、ステパネック、ナルバンディアン、ゴンザレス、モヤ、スリチャパンがフェデラーの前に立ちふさがるべく覇を競うが、ハードコートの上でフェデラーを止めることはできないだろう。
第三シードはヒューイット、彼の山であるトップハーフの下の山には反対側に第五シードサフィンが控える。調子を上げることができるかサフィン、QFで全豪決勝のカードが再現すれば面白いが、調子を落としているこの男がヒューイットの待つところまで勝ちあがれことができるかどうかは、はなはだ疑問である。この山にはコスタ、デント、フェラー、フィリポーシス、ハーバティ、ヘンマン、マシュー、モンフェス、アンチッチ、ミルニーがいる。今年好調のフェラー、ハーバティ、マシュー、モンフィスあたりがヒューイットとどう絡むかが見所といえよう。
第四シードはロディック、彼のいるボトムハーフの上半分は第八シードコリアを筆頭にチェラ、プエルタ、ガスケ、リュビチッチ、ハース、ジネブリがいる。順当に進めばロディックは早い段階でジネブリ、リュビチッチと当たる。ここを楽に突破できれば勢いに乗れるだろうが、そこまで圧倒的ではないのが今のロディックの現状である。
第2シードは全仏覇者ナダル。先日マスターズシリーズモントリオール大会で、ハードコートでのMSクラス大会優勝を遂げた。ハードでも強いナダル。その彼を止めにかかるのは、第七シードアガシを筆頭に、カルロビッチ、ユーズニー、マリッセ、ガウディオ、Tヨハンソン、グロージャン、クエルテン、ロブレド、ルゼドスキー、ブレークである。今のナダルなら苦戦することがあっても勝ち進むことだろう。アガシはひそかに最後のグランドスラムタイトルとしてこの大会に照準を合わせているはずだ。もう一度輝けるか注目しよう。
サフィンが不調である限り、トップハーフに波乱はない。いかにヒューイットが調子を上げようともフェデラーは止められまい。フェデラーが決勝まで来るだろう。ナダルはハードコートの上でも苦戦を経るごとに強くなるだろう。ロディックを突破してフェデラーの待つところまで来る可能性は大である。この二人が決勝でぶつかると、それは全仏SF以上に大きな意味を持つ試合になる。皇帝が覇権を固めるのか、二強時代の幕が上がるのか。大きな、とても大きな意味を持つ決勝戦になるだろう。
女子の第一シードは新女王シャラポワである。ロシア人初の女子No1であり、現スポーツ界で最も注目を集める女性アスリートである。女王の山であるトップハーフ上半分は第五シードクズネツォワ、レイモンド、ペネッタ、サフィーナ、モリック、ペトロワ、中村、森上、ファリナ・エリア、バイディソワがいる。心配されたベルギー勢もウィリアムズ姉妹もこの山を外れた。最大のライバル、ディフェンディングチャンピオンであるクズネツォワは調子を落としているため、シャラポワを止めることはできないだろう。女王就任と同時に第一シードであることの恩恵を大いに受けているシャラポワである。
第四シードはクライシュテルス、復帰したGS無冠の女王は復帰後エンジン全開、ついにGS第四シードにまで上がって来た。しかし、彼女の山であるトップハーフ下半分には最強のライバル、ウィリアムズ姉妹が立ちふさがる。第八シードS・ウィリアムズが反対側から上がってくる。そしてその前に全英覇者Vウィリアムズが待ち構える。杉山、イワノビッチ、ボビナ、ハンチェコワ、藤原、キレリンコがいるが、この3強の前に存在が霞んでしまう。果たしてクライシュテルスはウィリアムズを突破できるだろうか。激戦必至、要注目のドローである。
第三シードはモーレスモ、しかし彼女の山であるボトムハーフ上半分の本命は第七シード全仏覇者エナンである。ドルコ、ヤンコビッチ、ピエルス、ミスキナ、マレーバ、リホフツォワが他にいるがQFは順当にモーレスモ対エナンとなるだろう。
第二シードはダベンポート、男子のアガシ同様、最後のGSタイトルとしてこの全米に照準を合わせていることだろう。この山には第六シードディメンティエワを筆頭に浅越、シュニーダー、デシー、ゴロビン、など地味な顔ぶれがそろった。全米に相性のいいディメンティエワを突破できるかが、ダベンポートの鍵となろう。
神は再びエナンとキムを別の山に分けた。エナンは比較的ドローに恵まれたといってよい。順当に行ってもモーレスモ・ダベンポートの突破はエナンならば可能だろう。逆にキムはヴィーナス、セリーナを突破して、さらに疲れる相手シャラポワとやりあわなければならない。当然、ウィリアムズもシャラポワもクライシュテルスを止めて決勝に進む力を持っている。決勝で再びベルギー対決が実現するにはトップハーフの側で困難が伴う。キムは決勝まで進めるだろうか。実現しても激戦を経て疲労困憊であろうキムに打倒エナンを成し遂げることはできるだろうか。二週目以降の戦いは熾烈を極めることになりそうだ。
去年は男女とも比較的淡白に終わった全米オープンである。今年は熱戦を期待しよう。
2005年08月27日
シャラポワの一週間天下
ニューヨークに世界の強豪が続々と集結している。そんな中、ニューヘブンでは地味に前哨戦をぎりぎりまで戦い続けている者たちがいる。パイロットペンテニスのSFはブレーク対ハネスク、フェラー対ロペスである。シードダウン続出のこの大会のなか、ブレークが来た。フェラーも来た。決勝がブレーク対フェラーになれば盛り上がるぞ。全米でもぜひ上位に進出して活躍してほしいものだ。
男女同時開催のこの大会、男子より女子のほうが面子は豪華である。決勝はダベンポート対モーレスモ、こちらは堂々の第一シード対第二シードの決勝戦になった。ダベンポートは決勝の結果にかかわりなく、SFに勝利した時点でNo1返り咲きを決めた。シャラポワのエントリーランキングNo1はたったの一週間の間だけだった。全米は第二シードがNo1という珍しい状況で開催される。テニス以外の報道でも「マリア・シャラポワ、ついにNo1」「シャラポワ、女王の座についいた心境を語る」などと騒がしかったこの一週間はなんだったんだ。来週、シャラポワのNo1陥落は同じようにニュースとしてテニス関連記事以外でも報道されるのだろうか。来週の一般向けニュースが楽しみだ。
キム・クライシュテルスは二年後に引退するなどとわけのわからないことを言い出すし、なにやら今年最後のグランドスラムを前にばたばたしているWTAである。
2005年08月29日 ブレークが来た
ニューヘブンで開催されている男女同時開催のパイロットペンテニスにおいて、女子の決勝は去年のNo1ダベンポートが去年のNo2モーレスモを 64 64 のストレートで降し、No1返り咲きに優勝で花を添えた。
男子の方は如空期待のフェラーがSFで敗退してしまったがもう一人の期待、ジェームズ・ブレークがロペスを36 75 61という逆転劇で今季初優勝を遂げた。おめでとうブレーク。彼は早くから注目され、期待にこたえるだけの実力を備えた選手だった。華のあるテニスをする選手だった。しかし、ここ数年スランプと故障で苦しみ、戦線離脱、復帰後も大きな大会でもシードがつかなくなっていた。しかし、ようやく今年になって復調の兆しが見え始め、この北米のハードコートシーズンでは結果が出た。数週間前にロディックと決勝を戦ったと思えば、今度は地味な顔ぶれだったとはいえ優勝である。見事。意外なことだが、彼はこれが生涯タイトルの二勝目だという。彼の苦労した歩みがうかがえるというものだ。その派手なテニスの内容、目立つ容姿の割には勝利に対する執着心にややかけているかとも思われるブレークであったが、ここにきて優勝の味を覚えればもっと勝ちにこだわるようになるだろう。全米でも大いに暴れてくれ。全米のボトムハーフでナダルを止めるのはひょっとするとこの男かもしれない。
さてUSオープンは8月29日(月)から開幕であるが、一日近くの時差と第一週は録画中継(試合が)という事情からWOWWOWのテニス中継は水曜日の00:00スタートである。逆に第二週は気合の昼夜生中継。さて今年は全仏・全豪と試合が長引き放送スケジュールが大幅に狂ったWOWWOWさん、今回は万全の体制で生中継に臨めているだろうか。TBSが撤退したため、全米の中継はWOWWOWのみ。その責任は重大だぞ。
2005年08月30日 サフィン 回復せず。
全米オープンが開幕、今のところ大きな波乱はないが、サフィンが膝の故障により出場を辞退した。全豪覇者にして第5シードの大物が消えたことにより男子シングルストップハーフはSFのヒューイット対フェデラーまでほぼ波乱など起きそうにない状況になった。ボトムハーフで好カードを期待しよう。
2005年08月31日 静かなるナダル
クズネツォワダウン。
去年のロシア旋風の立役者の一人、クズネツォワは去年の全米覇者、ディフェンディングチャンピオンである。去年全仏を取ったミスキナ同様、同じロシア人であるディメンティエワと決勝を戦い、ロシア女性初の同大会タイトルをもたらした。しかし、ディフェンディングチャンピオンの一回戦負けまで先輩のミスキナに付き合うことはないだろうに。去年雲霞のごとく出てきたロシア女子の中で、その才能と潜在能力の面で最も期待されたクズネツォワ、来年はその才能を大きく花開かしてくれることを期待しよう。
WOWWOWのテニス中継も始まった。WOWWOWはこの一年、GSテニス中継のオープニングシーンをポップでカジュアルな映像と音で作っているが、あまりかっこよくないな。GAORAのようなクールでかっこいい路線の方が如空は好きである。
初日に杉山とナダルの試合中継を見た。
ナダルは静かだね、ハードの上でも。足音があまりしない。ヒューイットのように「キュッキュッ」というハードコート特有の靴がコートですれる音をさせない。フェデラーのように音もなく動く。フェデラーはアイスホッケーの選手が氷の上を滑るようにハードコートの上を動く。ナダルも、フェデラーほどではないが、それでもヒューイットやロデック程には足音をさせないし、足さばきが細かい割にはばたばたした印象がしない。多分ナダルはフェデラー同様、膝や股関節がとても柔らかく動くのであろう。静かに動く。そして速い。あれでは対戦相手は目を離した瞬間にナダルに動かれると「何時の間に動いた。なぜそこにいる。」と思うだろう。一瞬の差でしかないが、プロの世界ではその一瞬の差が大きくものをいうのかも知れない。そんなところにもフェデラーやナダルの強さの秘密の一つが隠されているのかも知れない。
2005年09月01日 残酷なまでに対照的な二人
全米オープン一回戦
ミューラー 76 (4) 76 (8) 76 (1) ロディック
サーブの強いロディックが3セット連続でTBを落とした。試合を見ていないので詳細はわからない。しかしロディックを支えていた何かがこの一戦で崩れてしまったような気がしてならない。後々尾を引かなければよいが。
フェデラー 61 61 61 ミナル
格下相手とはいえこんなスコアで勝つなんて簡単に出来ることではない。女子ではウィリアムズやエナン・キムが時々するが、男子で、しかも3セット連続で6-1圧倒など稀に見る大勝である。
ミナルは今年、ドバイではフェデラーからセットを奪い、ウィンブルドンでは負けても4ゲーム近く各セットでとり、フェデラーに対して善戦をしている選手だ。それがこの大舞台でこのスコアを喰らうなど、本人も観客も予想しなかったろう。対戦回数を経る毎に相手を封じ込めていく、ヒューイットもナルバンディアンもヘンマンも、フェデラーは当初は苦手にしていたが、対戦を経る毎に相手を圧倒するようになっていった。やがてサフィンもナダルも皇帝の軍門に下るのだろうか。恐ろしいまでの強さの増幅である。
全米オープンの会場は今年からコートのカラーをブルーに変更した。フェデラーはそれに合わせたのか鮮やかなブルーのウェアにイエローのバンダナで登場した。そしてコートの上を滑るように動き、リラックスしたスイングでショットを放ち、ミナルを簡単に下してしまった。
「皇帝」と「未完の大器」のこの対照的な初戦の結果、二人の今の状況が鮮やかに、そして残酷なまでに映し出されてしまった。ロディックよ、このままで終わるなよ。
2005年09月02日 いやー、強いやら、危ないやら
一回戦 シャラポワ 61 61 ダニーリドゥ
二回戦 シャラポワ 61 60 ランドリアンテフィ
いやー強い強い。フェデラーとおそろいと言うわけではないだろうが、女子の第一シードは男子の第一シードと同じブルーのウェアにイエローのサンバイザーで現れた。シャラポワは武器だったバックハンドに加え、フォアハンドが急激に良くなっている。強打と言うわけではないが振りが鋭くシャープになっている。肩を入れて引き付けて打つのでコースが読みづらい。一度ラリーが始まると完全に主導権を握ってしまう。4セットして3ゲーム落としただけ。地位が人を作っているのか。堂々とした第一シードぶりではないか。
一回戦 杉山 57 64 63 ボンダレンコ
二回戦 杉山 26 64 64 パシュティコワ
いやー、危ない危ない。ほとんど負けが確定しつつあった第二セット、良くぞあそこで持ち直した。二試合連続の逆転劇、苦しんでいるが、スランプ明けの彼女には、この苦戦とその勝利が徐々に良い影響を与えていくことだろう。
一回戦 ヒューイット 61 62 61 コスタ
いやー、強い強い。強風の中、コスタは調子に乗れず元気を無くしていったが、ヒューイットは強風でボールの軌道が狂っても、慌てず、クールに対処し、淡々としたラリーの積み重ねでポイントをとり、淡々と勝利を得た。第二セットも与えたゲームをもう一ゲーム押さえれば、昨日のフェデラーのスコアに並んだ所だった。どれほど素晴らしいテニスをしても、やはりヒューイットはフェデラーのところで負かされるだろうと誰もが確信している。如空もそう思っている。しかし、ヒューイット本人は違う。虎視眈々と打倒フェデラーを狙っているだろう。持続する意思は力だ。如空や他のテニスファンの予想を覆して見せろよ、ヒューイット。
2005年09月03日 だからアガシは注目されるのだ。
ロディックが3セット連続でTBを落とし、初戦敗退というアクシデントに見舞われたことは、多くのアメリカ国民を失望させたらしい。その失意のアメリカ人に希望をともしたのが35歳のイラン系アメリカ人アンドレ・アガシである。なんとロディックの負け方とまったく逆のスコアで勝利をモノにした。
全米オープン男子シングルス二回戦
アガシ 76 (4) 76 (5) 76 (4) カルロビッチ
3セット連続のTBでの勝利。ロディックを襲った悪夢を吹き飛ばすような見事な勝利だ。アメリカ人はさぞかし痛快な思いをしたことだろう。狙ったわけではないだろうが、アガシのテニスにはこのようなドラマティックな要素がふんだんに盛り込まれて、見ている人を引き付ける。勝負師としてだけでなくショーマンとしてもエンターティナーとしても大会を盛り上げてくれる。そういう役回りを天から与えられた男なのかもしれない。
クロアチアは引退したイワニセビッチを筆頭にアンチッチやリュビチッチなどビックサーバーの産地として知られるが、カルロビッチもまたクロアチア産のビックサーバーの一人だ。2mを越えるカルロビッチは現ATPで最も長身の選手で、その長身を生かしたサーブがとんでもない角度で頭の上から降ってくる。数年前はウィンブルドンの一回戦で前年度覇者のヒューイットを下したことで名をあげた。アガシと双璧をなすリターンの名手ヒューイットすらてこずる高く、鋭い角度がつくそのサーブ、そのサーブにアガシは自らの最大の武器であるリターンで真っ向勝負を挑んだ
カルロビッチはフォアがあまり強くなく、バックハンドスライスからネットにアプローチしてネットで決めるタイプだ。だがアガシはストローク戦では主導権を握りカルロビッチを圧倒する。やはり鍵を握るのはカルロビッチのサービスゲーム、少しでもサーブのコースが甘くなるとアガシのリターンは容赦なくウィナーを狙ってくる。そんなプレッシャーのかかる状況でカルロビッチは集中力を切らさず、厳しいコースにサービスを叩き込みつづけ、3セットともTBまで持ち込んだ。
アガシは数年前のこの全米オープンでサンプラス相手に4セット連続TB、しかもサービスダウン0というすさまじい接戦をしたことがある。あのとき第一セットのTBはアガシが取ったが、その後3セットTBをサンプラスに連取され敗北した。先日のロディック同様、3連続TBダウンと言うのは5セットマッチの試合にだけ実現する状況だけに誰でも経験することではない。それだけに敗れたほうに与えるショックは相当大きいらしい。その傷の重さを知っているからこそ、逆に負けられない、勝利への飢えとなってアガシを奮い立たせるのだろう。リラックスしたラリーの中にも鋭いショットを織り交ぜて、最後にはアガシが見事に勝利した。
これで波に乗れるかアガシ。順当行けばQFでMSモントリオール大会決勝の再現となる対ナダル戦が待っている。ロディックがいない今、ボトムハーフを盛り上げる男はやはりアガシしかいない。
2005年09月05日 遅咲きのネットプレーヤー
全米オープン男子シングルス三回戦
ヒューイット 63 36 67 (2) 62 75 デント
ラフターもサンプラスもいない、ヘンマンが引退すればその時点で世界のトップランカーに通用するネットプレーヤーは絶滅する。如空はそう思っていた。デントは注目されこそすれトップ10選手に対抗できる選手にはなれないだろうと考えていた。しかし、この内容を見る限り、なかなかどうして、期待が持てるネットプレーヤーに成功してきたのではないかと思えてしまう。
ヒューイットはネットプレーヤー・キラーだ。彼のパス&ロブは過去、サンプラスやヘンマンのネットでの自信を根こそぎ打ち砕いた。敗れたとはいえ、そのヒューイットにフルセットでここまで肉薄できたとは見事である。ネットプレーヤーを育てるにはベースライナーより時間がかかる。ラフターも遅咲きの選手だった。デントもラフターのごとく、時間をかけて円熟味を増すワインのごとく、徐々にそのネットプレーを磨いて強くなっていくかもしれない。大いに期待しよう。
ブレーク、ブレーク
全米オープン男子シングルス三回戦
ブレーク 64 46 63 61 ナダル
先週のハードコートの大会で優勝したとき、既に全米のドローが発表されていたので「ひょっとするとブレークはナダルを止めるかもしれない。」と漠然と感じたのだが、恐ろしいことにその通りになってしまった。ブレークの猛攻がナダルの鉄壁の守りを突き崩した。ハードコートなので攻撃側が有利な状況ではあるが、それでもアガシやフェデラーがなかなか崩せなかったナダルを崩したと言う事実は大きい。ブレークのテニスはウィンブルドン初優勝した頃のフェデラーのテニス似ている。どこからでもいつからでも攻めてくる。それも一発の強打でなく連続攻撃で攻めてくる。様々なアイデアを実現する多彩な技術としなやかでスピードのあるフィジカル。その才能を高く評価されながらもなかなか結果につながらず、さらに故障に苦しんだこの数年間、しかし、ようやくその才能を開花させる舞台を手に入れた。この試合は特にフォアの逆クロスからの展開が素晴らしかった。ナダルも良くしのぎ、第二セットを取るが、そこで力尽きた。ブレークが見事に攻めきったのだった。
ボトムハーフから一気にフェデラーの待つ決勝まで突き進めるかブレーク、ナダルを倒した以上、その責任が彼には伴う。
2005年09月06日 デントの中にラフターを見る
昨日、WOWWOWの放送でヒューイット対デント戦を見た。実に素晴らしい試合であった。ヒューイットのリターン対デントのスピンサーブ、ヒューイットのパス&ロブ対デントのネットプレー、見ごたえのある攻防が何度も繰り返される。2000年、2001年とウィンブルドンSFで行われたアガシ対ラフターの名勝負にも匹敵する好ゲームだ。特にデントはかつてのパトリック・ラフターを髣髴させる。
大きく厚みのある体格、独特のフォームから打ち出されるキックサーブ、ファーストが入らずセカンドになってもネットにダッシュするそのサーブ&ボレーの姿勢、バックだけでなくフォアハンドもコンチネンタルグリップのブロックないしはスライスで返球するリターン。延々と続くラリーをスライスでしのぐバックハンド、後ろ足一本で打つフォアハンド、ネットプレーヤーの証であるバックハンドスライスからのキャリオカステップを使ったネットアプローチ、ネットに近づくごとにスタンスが広がり腰が落ちていく少しどたどたとしたスタッタードステップ、鋭いパスを一度ならず二度・三度と何度でも止めるネットでのリーチの長さと反応の早さ、足元に沈められても冷静に対処できるハーフボレー、絶妙なアングルボレー、「これは抜かれただろう」と思われたロブを打ち返す下がりながらのジャンピングスマッシュ。まさにあのプレーはラフターの再来だ。
試合はデントの主導の元で行われた。ヒューイットはサービスにムラがあったものの、全体を通じて安定していた。ヒューイットのリターン・パス・ロブは冴え渡っていたが、それに対抗するデントのプレーも光っていた。落としたセットは全てデント自らのミスによるものである。
ネットプレーヤーは総じてサーブ&ボレーによるサービスキープが基本プランとなる。だが、デントはリターンゲームに強いヒューイットに何度もブレークされながらも、負けずにブレークバックし返した。リターンでも強いネットプレーヤーは試合そのもの強くなる。それだけに期待のもてる選手だ。集中力を持続させ、ミスを減らせば、やがてはラフターに匹敵する結果を出せるようになるかもしれない。今後とも注目していこう。
天敵と妹の敗退
エナンダウン!セリーナダウン!衝撃の全米オープン女子シングルス4回戦である。
ピエルス 63 64 エナン
今年の全仏決勝の再現だったこのカード、2セットとも1ブレーク差で逃げ切り、ピエルス会心のテニスだろう。しかし、エナン、負け方がいやにあっさりしているな。映像を見ていないのでコメントしづらいが、追撃出来るチャンスはいくらでもあったろうにどうしたんだろう。
ヴィーナス・ウィリアムズ 76 (5) 62 セリーナ・ウィリアムズ
姉妹がグランドスラムで対戦すること8回、後半は全て決勝である。その二人が約一年間のスランプを経て全米の4回戦で9回目の対決に臨んだ。序盤、セリーナがリードするが、途中でエンジンのかかったヴィーナスが一気に追いつき、TBを征すると、第二セットは圧倒して終わった。2セリーナが生涯グランドスラムを達成した頃の二人のテニスを比較すれば「ヴィーナスはセリーナに二度と勝てないのではないだろうか」とさえ思われた。良くぞここまでもどってきた、ヴィーナス。セリーナは若干調子を落としていたが、それでもここ数年の対戦成績を見てこの結果を見ると、ヴィーナスの復調ぶりが伺えると言うものだ。フォアに問題があると言われていた最近のヴィーナスだが、そのフォアもこの大会では素晴らしく振りぬけている。
女子はこれで面白くなってきた。天敵エナンがいなくなった今、ついに来たグランドスラムタイトル奪取のチャンス、クライシュテルスは好調なヴィーナスとシャラポワを突破できるだろうか。そして大本命エナンがいなくなったことはダベンポートにも最後のグランドスラムタイトル奪取のチャンスを与えることになった。QF、SFそしてファイナルと好カードが目白押しである。
セリーナが生涯グランドスラムを達成した2002あたりから、エナンの2003年、そしてロシア勢の2004年とWTAのグランドスラムは面白味が欠けていた。しかし、今年は違う。ファイター・シャラポワの闘志が飛び火したのだろうか、ウィリアムズとエナン・キムが復活し、そしてダベンポートが最後の輝きを見せ始めた。全豪・全英は好試合が多々あった。この全米はその全豪・全英を上回りそうな盛り上がりである。後半戦も熱戦を期待しよう。
2005年09月07日 NYは熱く燃えて
ヴィーナスダウン!クライシュテルスが来たー!
全米オープン女子シングルスQF
クライシュテルス 46 75 61 V・ウィリアムズ
第二セット5−5になったところでキムの負けが8割がた決まったと思った。キムの勝ちパターンは圧勝か先行逃げ切りである。接戦の末の逆転劇は少ない。キム相手に接戦に持ち込める力量のある選手がツアーの中でも限られているし、接戦では大事なところで攻めきれないときが多かったからだ。良くぞ自らの負けパターンを覆した。グランドスラムで勝てない不の連鎖を断ち切るだけの力をようやく身につけたと言えるだろうか。さあ突き進めキム・クライシュテルス。そして彼女をSFで迎え撃つのはこの女だ
シャラポワ 75 46 64 ペトロワ
がっぷっりと四つに組むとはこのことだろう。ここまでドローに恵まれたシャラポワであったが、いきなりQF敗退の危機であった。去年雲霞のごとく出てきたロシア勢の中でトップランカーとして生き残るのはシャラポワとクズネツォワの二人だけだろうと思っていたが、このペトロワは大きな大会で地味にいいところまで勝ち残っている。負け試合も圧倒されることなく、いつもきわどい接戦だ。面構えもちょっとやそっとのピンチでではびくともしないふてぶてしい表情をいつもしている。なんとなくフェデラーに顔が似ていると思うのは如空だけだろうか。しかし、最後に勝ったのはシャラポワである。格下に圧倒するだけでなく、接戦になればなるほどに燃え上がる炎の女、第一シードマリア・シャラポワ、ついにSFでキム・クライシュテルスと激突である。このカードは要注目である。
残る女子のQFはピエルス対モーレスモ、ディメンティエワ対ダベンポートである。実力伯仲、誰が決勝に進んでもおかしくないボトムハーフ、エナン敗退のチャンスを生かすのは誰だ。こちらも目が離せない。
男子シングルスも順調に4回戦を消化した。
フェデラーはウィンブルドンに続いてキーファーに1セット取られた。地味な実力者キーファーが徐々にその底力を上げてきているのだろうか。トップハーフのQFはフェデラー対ナルバンディアン、ヒューイット対ニュミネンの組み合わせ。ニュミネンって誰だ?よく知らないぞ。さて二年前フェデラーキラーだったナルとヒューは去年からフェデラーのお得意様になっている。ここいらで意地を見せて欲しいものである。
ボトムハーフはロディック・ナダルがダウンしたおかげで大混戦である。4試合中3試合がフルセットであった。コリアがマシューを、ジネプリがガスケを、アガシがマリッセを降すのにフルセットまでもつれた。ブレークもロブレドに1セット落としている。好勝負が目白押しのボトムハーフのQFはコリア対ジネブリ、アガシ対ブレークだ。アガシ対ブレークは期待度大である。どちらの攻撃力が相手を上回るか、壮絶な試合になりそうだ。
WOWWOWもナイトセッション生中継が始まった。今年最後のグランドスラム、いよいよ激しく盛り上がる。熱戦を期待しよう。
2005USオープン 女子ベスト4出揃う
リンジーダウン!メアリーダウン!去年のトップ2が揃ってQFで敗退してしまった。
全米オープン女子シングルスQF
ディメンティエワ 61 36 76 ダベンポート
第一セットはデメが圧倒、第二セットはリンジーが圧倒、最終セットは両者譲らず6-6でTB突入、サーブの強いほうが有利と言われるTBをなんとサーブが惨めなほどに弱いディメンティエワが奪い、フルセットの死闘を制した。全米はファイナルセットもTBがある点が他のGSと違うのだが、それがダベンポートには悪い方向に作用してしまった。全米ではSFが一度、そして去年は決勝まで進んだディメンティエワ、ここは相性の良い大会と言える。彼女もまたGS決勝に二度も進ながらタイトルを取れていない、チャンスを生かしきれなかった選手である。その不完全なままのテニスで初のGSタイトルを目指す。意外に大穴として注目すべき選手なのかもしれない。
ピエルス 64 61 モーレスモ
ピエルスがモーレスモを圧倒、他のQFが全てフルセットの接戦だったのにピエルスのみ楽勝でベスト4に進出した。しかし、モーレスモ相手にこのスコアとは・・・・・今年は全仏も決勝まで行ったしな、彼女もまた侮れない存在である。
これで女子はベスト4が出揃った。SFはシャラポワ対クライシュテルス、ピエルス対ディメンティエワ、誰が来ても全米初優勝だ。どの試合も競りそうだな。名勝負を期待しよう。
ちなみに男子QFの初戦はまたもやフルセットの激闘だった。
ジネブリ 46 61 75 36 75 コリア
コリアダウン!壮絶なシーソーゲームの末、地元の声援を受けたジネブリが最終セットを制してベスト4一番乗りを果たした。彼がSFで待つ相手は同じアメリカのアガシ対ブレークの勝者である。こちらも盛り上がってきたではないか。いよいよ期待のアガシ対ブレークが始まるぞ。
しかしWOWWOWは大変だな。これだけフルセットの試合が男女で続くと放送の延長枠を一杯に使わなくてはならない。放送が延長されたときって、延長した側の番組のスポンサーは追加広告料を請求されるのだろうか、そして延長により放送枠を削られた側の番組のスポンサーはその番組の広告料を返してもらえるのだろうか。つまらないことまで心配してしまう、熱戦続きの全米オープンである。
2005年09月08日 35歳の輝き
全米オープン男子シングルスQF
アガシ 36 36 63 63 76 ブレーク
なんなんだ、このスコアは。35歳の中年真っ盛りのオヤジが、アスリートとしてピークにある25歳を相手に2セットダウンからの逆転劇だと。しかもこの試合、フルセットになただけでなく、互いに取ったゲーム数は24対24で互角、ファイナルセットのTBをアガシが取った、ただそれだけの差での勝利である。素晴らしい試合内容にして見事な勝利である。
アガシはこの数年、いい内容の試合をしたときは最終的には負けていた。2000・2001年の全英SFの対ラフター戦しかり、2001年全米QFと2002年全米決勝での対サンプラス戦しかり、去年の全豪SF対サフィン戦しかり、そして先日のMSモントリオール大会決勝での対ナダル戦しかり、1999年に生涯グランドスラム達成した後もアガシは輝きつづけはしたが、名勝負を演じるとき、いつもアガシは最後に負けていた。それだけに、ブレークと名勝負を戦っただけでなく、最後に結果として勝利を得ることが出来たことがとても嬉しい。同じ歳の男として、如空はとても嬉しい。
今日のこの勝利がタイトル奪取への弾みなるか、今日だけの輝きで終わるのか、それは後二試合残されたタイトルへの道程で示されるだろう。しかし、今日のところはSFや決勝のことなど忘れて、この名勝負の録画を心行くまで楽しみ、余韻に浸りたいと思う。
舞台の上の二人
録画を見た。この試合、ポイントはリターンだった。最初の2セット、ブレークのリターンは冴え渡り、アガシのお株を奪うリターンからの攻めで主導権を握り、セットを奪った。第三・第四セット、リターンの名手アガシはついにその本領を発揮、サービスの良いブレークを攻め立て2セットを連取、セットオールに持ち込む。圧巻はファイナルセット、4-5でブレークのサーブインフォーザセットである。アガシが素晴らしいリターンを連続して放ち、ブレークのリードを打ち消して5-5に追いついた。あのリターンからの猛チャージ、あれこそアガシのテニスの本領である。
6-6になってTBに突入するとき、深夜にもかかわらず会場に大量に残った観客はスタンディングオベーションで二人の名勝負をたたえる。その大歓声と渦巻く拍手の中で、ブレークは腰に手を当て満足そうな笑みを浮かべてその雰囲気を味わっていた。フェデラー・ロディック・サフィン・ヒューイットと同じ世代のジェームズ・ブレークは、しかし、その歩んだテニス人生は先の4人とは大きく異なり、期待されながらも苦しい日陰の道を歩むことを余儀なくされた。その男が、こんな大舞台で、観客の拍手喝さいを浴びながら、生ける伝説である英雄アガシを相手に、こんな素晴らしい内容の試合を戦える、そんな男の充実した満足げな笑顔はとても爽やかで美しかった。
TBに入り、スーパーショットを連発して観客の興奮をさらに盛り上がる二人の偉大なる役者、アガシとブレーク、最後に試合を決めたのはアガシの切り札、回り込みフォアからダウンザラインへのリターンエースだった。実に素晴らしい勝負であった。素晴らしい試合を演じてくれた二人に感謝。
さあ、アガシよ、あと二つ、輝きを維持できるか。そのテニス人生最後にして最大の舞台が整えられつつある。舞台と観客は待っている、アガシの最後にして最高の演技を。その期待に応えてくれ、アガシ!
2005年09月09日 皇帝の圧勝は続くよどこまでも
全米オープン男子シングルスQF
ヒューイット 26 61 36 63 61 ニュミネン
ヒューイットがハードコートの上でフェデラー以外の相手にこれほど苦労するとは珍しい。去年の全米では決勝までセットを落とさずにフェデラー以外の相手には圧倒的な強さを誇ったヒューイットであるが、今年は去年ほど圧倒的ではない。しかし、その苦労が糧となり、彼をさらに強くしているのであれば、SFでその成果を少しでも発揮して欲しいものだ。そのSFでの相手は予想通りの相手である。
フェデラー 62 64 61 ナルバンディアン
何の波乱もない。ウィンブルドンの続きを見せられているかのような感じである。皇帝フェデラーは淡々と自分の与えられた仕事をこなしていくだけのようである。
男子のSFは、トップハーフは予想通りのフェデラー対ヒューイット、ボトムハーフは誰も予想しなかったジネブリ対アガシだ。フルセットにもつれる熱戦が続くボトムハーフに比べてなんとも淡々と試合が消化されるトップハーフであるが、ノーシードのニュミネンがヒューイット相手に骨のあるところを見せた。ヒューイットもフェデラーに骨のあるところを見せてくれ。たとえかなわなくても粘れ、セットを一つでも奪え、ジネブリが来てもアガシが来ても、ボトムハーフから来るファイナリストはフルセットの激戦続きで疲労困憊のまま決勝戦へ進む。万全の体制でフェデラーに迎え撃たれると、また決勝戦が凡戦になってしまう。頼むぜ、ヒューイット。
2005年09月10日 理想のペア
朝起きてTVをつけるとブレークとアガシの試合をしていた。画面の下のほうにテロップが流れている。「試合が予定より早く終了しましたので男子SFアガシ対ブレークをお届けしています。」・・・もう終わったのか。アガシとブレークの試合の録画を忘れた人や失敗した人には恵みの早期試合終了になったな。今日は早朝よりテニスの日、急いで支度をしてコートに向かわなければならない。終了している女子SFの結果を確認せずに家を出た。気にはなるが、試合が早く終わったのであれば、それはキムとピエルスが勝利したことを示す。シャラポワにしてもディメンティエワにしてもロシア勢が強敵と戦い、そして勝つときはたいていロングマッチになる。長いラリーの粘りあいこそが彼女達の得意な土俵だからだ。短期決戦ならクライシュテルスとピエルスが勝つ。そう予想していたので、ネットで結果を確認することなく、気にすることもなく、早朝の練習に出かけた。
テニスの練習から帰って来て、ネットで結果を確認した。結果は予想通りだったが、その内容は予想と大きく異なっていた。
全米オープン女子シングルスSF
クライシュテルス 62 76 63 シャラポワ
ピエルス 36 62 62 ディメンティエワ
どちらもフルセット・・・・シャラポワもディメンティエワも圧倒されたわけではなかったのだ。フルセットマッチになると驚異的なメンタルと粘りのラリーで最後には勝つのがシャラポワでありディメンティエワであるが、今回はキムもピエルスもファイナルセットをきっちりと締めくくった。スタミナの面では若いシャラポワとデメに分があるだろうし、終盤でのメンタルの強さ・集中力の高さは実証済みのロシア勢二人を一気に押し切ったとは見事である。今日は用事をとっとと済ませて、晩御飯を取りながらビール片手に録画を観戦するとしよう。
ところで全米オープンの男子ダブルスはブライアン兄弟が初優勝を遂げた。いまや男子ダブルスでは最強の存在になったかのように思いがちなこの双子のペアであるが、じつはこの大会は第二シードだし、グランドスラムでの成績はその評判ほどは芳しくなかった。これでようやく結果も伴い、名実共に男子ダブルス最強ペアとなっていくのだろうか。
そしてミックスダブルスはブパシとハンチェコワが優勝した。ハンチェコワは全仏でもミックスで優勝しているし、女子ダブルスでもいい成績を上げている。しかし、杉山はそんなハンチェコワとのペアをこの全米以後、解消する。「ダブルスの動きがわかっていない」と記者会見でハンチェコワにたいして厳しいコメントしていた。だがハンチェコワは、そのダブルスの動きがわかっていなければ、これほどの結果は出せないだろう。杉山が感じていたのは「自分のダブルスとは違う」「相性が悪い」と言う意味だと推測する。杉山はディカキスやクライシュテルスやカプリアティなど大砲型・アタッカー型と呼ばれるハードヒッターとのコンビでいい仕事をする。彼女はゲームメーカータイプだからだ。背の低い藤原もポーチにがんがん出るアタッカータイプだから杉山と上手く行く。だがハンチェコワはミックスで結果を出しているからには、おそらくゲームメーカータイプなのだろう。大柄でゆったりした彼女の印象から想像もつかないが、ミックスでは男子がアタッカーで、女子がゲームメーカーになるパターンがプロのレベルでは一般的だからだ。杉山がハンチェコワに感じていた違和感は「もっとアタッカーとして動いてよ。」というものだったのではないだろうか?
ちなみに女子ダブルスにおいても、最も理想的なペアは、アタッカーとゲームメーカーという違うタイプの組み合わせでなく、アタッカーでもゲームメーカーでも状況に応じてどちらでも仕事が出来るもの同士でのペアであろうとは思う。男子で強いペアはほとんどがそうなっている
皇帝対生ける伝説
全米オープン男子シングルスSF
アガシ 64 57 63 43 63 ジネプリ
アガシまたフルセットかよ、4Rマリッセ、QFブレーク、SFジネプリと実力者相手にフルセットのタフマッチをこなすアガシ。ついに決勝まで来たが、フィジカルは大変心配である。
ただうれしいのはこの3試合連続のフルセットマッチ、どれもアガシはとても楽しそうに試合をしていることだ。今年の全仏で背中の痛みを感じながら敗退したとき、苦虫を噛み潰したようなとても苦々しい顔をしていた。あんな苦しそうな、そしてつまらなそうな顔をしたアガシは始めてみた。あの表情を見たとき「アガシはもうだめかな」と思った。それだけに、あのリズミカルでテンポの良い、そして見ている観客に「凄いプレー、面白い試合を見せてやるぞ」というサービス精神に富んだ素晴らしいプレーがコートに戻ってきたことは本当に喜ばしい。そして、その好試合を最後に勝利で締めくくれる強さがなによりも素晴らしい。このSFも第4セットで体力が落ちてかなり危なかったがファイナルセットで復活して再び元気な本来のテニスをして勝利した。35歳、まさに伝説が生きている。
フェデラー 63 76 46 63 ヒューイット
第四セットもキープ合戦に持ち込めれば結構ヒューイットにはチャンスがあったように思う。しかし、第5ゲームでダブルフォールトを二つ絡ませたラブゲームブレークを許し、ヒューイットはそのまま沈んだ。フェデラーが相手だとなんでそんなに元気がなくなるんだ。せっかくTBを制して一つセットを取るとこまで行ったのに。フェデラーがヒューイットにかける無言のプレッシャーが如何にすさまじいものであるかを物語る試合だった。
2005年全米オープンの男子シングルス決勝は皇帝フェデラー対生ける伝説アガシの対戦となった。その決勝への道のりはまったく対照的だった二人、その強さを見せ付けて決勝に来たフェデラーと、タフマッチの末のきわどい勝利を拾ってきたアガシ。アガシへの期待により、この決勝戦での名勝負の予感が報道されているが、現実にはアガシには厳しい結果が待っているだろう。フェデラーはそれほど甘い相手ではない。しかし、如空も多くのファンと同様、「アガシなら何かしてくれるのではないか。」とう甘い期待をしてしまう。それがアガシのアガシたるゆえんだろう。
アガシはこれからも活躍し続けるだろうし、タイトルもいくつかは取っていくだろう。しかし、グランドスラムの決勝進出はこれが最後になることだろう。サンプラスは最後に全米優勝を果たして退いた。同じストーリーをアガシは再現できるだろうか。その可能性は限りなく厳しい。しかし、それを覆してこそ伝説であるのだ。幾多の伝説を生んできたアガシ、再び伝説が生まれる瞬間を目撃することが出来るだろうか。
明日、皇帝と生ける伝説が決勝を戦う。
2005年09月11日 長い夜が明ける時
2005年全米オープン 女子シングルス決勝
クライシュテルス 63 61 ピエルス
本当におめでとう、キム。見事な勝利だった。
今日のピエルスは全仏決勝の時とは違い、高い打点からのハードヒットに冴えがあり、かなり手ごわい相手だった。それを打ち合いを挑み、見事にストレートで一蹴、素晴らしい。
SFのシャラポワ戦も見事だった、第二セットのサーブインフォーザマッチで、意表をつくシャラポワのドロップショットから流れを奪われTBを落としてセットオールにされたとき、今までのクライシュテルスならそのままシャラポワに流れを持っていかれたまま第三セットに突入したことだろうと感じた。しかし、今のキムは違う。第三セットが始まると、第二セットで起こったことなど覚えていないかのように、何事もなかったかのように、いつもどおりのテニスでシャラポワを圧倒、競ったのは第二セットだけ、ファーストとファイナルは堂々とした横綱相撲で押し切ったのだった。
2001年の全仏決勝でカプリアティにフルセットマッチ、ファイナル12-10の死闘を戦ったとき、ヒンギスの替わりにウィリアムズやダベンポート・カプリアティなどのアメリカパワーテニスを打ち破るのはキム・クライシュテルスだと確信した。そして、その実力はエントリーランキングNo1になり、2003全仏・全米2004全豪と決勝に進んだことにより証明された。しかし、グランドスラム決勝の舞台、3度立ちふさがったのが同じベルギーのエナンである。月と太陽にたとえられる二人の奇妙な因縁は、絶えず大事な場面でキムに不利にはたらいてきた。実力だけでは勝者にはなれない。運も味方につけるものが勝つ。実力がありながらも不運なめぐり合わせで結果を出せずにいるものは、その重圧に耐え切れず、やがて自滅していく。左手首の故障で戦線を離脱し、復帰に時間をかけている間に婚約者ヒューイットと破局してしまったとき、このままキムは終わってしまうのではないかと思った。かつてヒンギスがグランドスラムを取れなくなって自ら退いていったように。
しかし、クライシュテルスは戻って来た。そして、チャンスを掴みながらも4度破れた夢をついに実現させた。5度目の挑戦でキム・クライシュテルスはグランドスラムタイトルを手にしたのだ。長きにわたったこの生みの苦しみは、強くなるための成長の糧となったはずだ。様々な紆余曲折を経ながらも、最後まで自らの意思を持続させ、貫き通した彼女の精神に賞賛の拍手を送りたい。
そしてついにWTAは4人の女王が並び立つ時が来た。
2005年全豪優勝 セリーナ・ウィリアムズ
2005年全仏優勝 ジスティーヌ・エナン・アーデン
2005年全英優勝 ヴィーナス・ウィリアムズ
2005年全米優勝 キム・クライシュテルス
2002年にセリーナがグランドスラムを4連勝したとき、ウィリアムズ姉妹は現時点での男子のフェデラーのごとき存在になるのではないかと誰もが予想したはずだ。しかし、ベルギーの二人がウィリアムズを倒す力を示し始めると、四強で覇権を争うことになると感じた。そしてその争いを制するのは誰かと注目を注いだ。しかし、4人は4人とも揃って2004年に失速し、ロシア勢の台頭、GS無冠のダベンポート・モーレスモの1・2フィニッシュを許す結果となってしまった。
個性的であり、かつ試合に勝つ強さを持つもの同士の激しい熱戦を見たい。そう思っていたが、ヒンギス引退後のWTAでは、誰かが圧勝して、対抗馬は出場しない・勝ち進まないという、盛り上がりに欠ける大会が続いていたかのように思える。女子テニス全体のレベル自体は向上しているのに、好試合・名勝負と呼べる対戦が男子に比べて極端に少ないように思われた。去年までは。
今年は違う。セリーナが、エナンが、ヴィーナスが、そしてキムが帰ってきた。強い女王達が帰ってきた。そして強者同士が激しく競い合い、タイトルを奪い合う。それを見たかったのだ。これでこそWTAだ。
忘れてはならないのはこの4人の女王の復活への道程の全てにシャラポワが絡んでいると言う事実である。特にセリーナは全豪SF、ヴィーナスは全英SFでシャラポワと死闘を繰り広げ、それによって失っていた心の牙をよみがえらせてもらった。シャラポワのファイティングスピリット、直向なテニスへの姿勢、飽くなき勝利への飢えがウィリアムズの心の中に眠っていたライオンハートを再び目覚めさせた。エナンとキムもまた少なからずシャラポワからの影響を受けている。そのシャラポワは今年GS無冠の状態で再びダベンポートとのNo1交代を果たす。彼女もまた打倒ウィリアムズ、打倒ベルギー勢の筆頭としてこれからのWTAを牽引していくことだろう。
そしてグランドスラムタイトルを手にしたキムにはまだやるべき課題が残っている。年間最終ランキングNo1の達成、そしてグランドスラムでの打倒エナンを果たすべく、これかも牙を磨きつづけなければならない。
繰り返すが、ヒンギスの時代が終わった後、女子テニス界はテニスのレベル自体は向上しつつも試合内容と言う意味で面白味を失っていた。それはグランドスラム大会でのクライシュテルスの受難の時期でもあった。今年になってようやく好カード・名勝負がいくつも実現するという、期待された内容のWTAになりつつある。そしてそのことを象徴するかのごとくクライシュテルスがグランドスラム初優勝を決めた。
クライシュテルスを包んでいた闇はWTAを覆っていた闇でもあった。長い、長い夜がようやく明けた。夜明けの訪れを世界中に告げる全米女子シングルス決勝戦であった。
2005年09月12日 伝説の終焉
2005年全米オープン 男子シングルス決勝
フェデラー 63 26 76 61 アガシ
最悪の場合、アガシは去年決勝のヒューイット戦よりも酷いスコアをフェデラーに喰らうのではないかと内心心配していた。SFでの対ジネプリ戦における元気のなさも気になっていた。しかし、それは杞憂に終わった。アガシは見事なテニスを展開してフェデラーに肉薄した。試合の中盤は完全に主導権をフェデラーから奪っていた。
しかし,それでも勝てなかった。
これ以上のパフフォーマンスと結果を今後、アガシが出していくとが可能だとはさすがに思えない。特にフェデラーが君臨する今の状況では。悲しいことだが、アガシの作り上げてきた伝説の最終章であったかのように思える。この2005年全米オープンを目撃できたものは幸せである。アガシが見せた名勝負のコレクションの最後を飾るにふさわしい素晴らしい内容の試合ばかりだったからだ。アガシはあといくつの名勝負を演じられるだろう。それを感じられずにはいられない終わり方だった。
ナダル・サフィンと対戦せずにすんだフェデラーは当然のごとく優勝を決めた。しかし、彼と他のトップランカーとの差は徐々に縮まりつつある。覇権と言うものは奪うよりも維持することのほうが難しい。差を縮められながらも、依然として差は差として存在しいることを示すことに成功したフェデラーはやはり偉大なる皇帝である。あとどれほど差を維持しつづけるか、これからも注目していこう。
強くなるために産みの苦しみの中にいるロディックが初戦敗退するというアクシデントで幕を開けた全米オープンは予想通りの結果を迎えたが、その過程はいい意味で予想を裏切る内容だった。ブレーク・ジネプリというロディック世代のアメリカ勢の台頭、トップハーフでのフェデラーの圧勝とは対照的に熱戦・激戦・死闘が続出のボトムハーフ、そのなかでアガシが素晴らしいテニスを見せてくれた。ヒューイットもSFでフェデラーとの距離を縮めつつあることを示した。今年の全豪に次ぐ、大変充実した大会であった。熱戦を届けてくれた選手たちに感謝
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