第027房 2005年 MSモントリオール大会・シンシナティ大会 TV観戦記 (2006/01/08)
2005年08月09日 2005北米ハードコートシーズン本格化
欧州のクレー戦役も終結を迎え、いよいよ赤土の上の戦士たちも大西洋を渡り、北米大陸に上陸をする。いよいよ真夏の北米ハードコートシーズンが本格化する。
カナダのモントリオールでマスターズシリーズ第6戦ロジャーズ・マスターズが開幕する。ガオラも準決勝、決勝は生中継である。皇帝フェデラーが不在のマスターズ、第一シードナダル、第二シードヒューイット、第三シードロディック、第四シードアガシ。この面子で、しかもハードコートでナダルが堂々の第一シードである。それを許していいのかロディック、ヒューイット、そしてアガシよ。順当に行けばSFはナダル対ロディック、アガシ対ヒューイットである。皇帝の居ぬ間のマスターズ、誰が北米ハードコートシーズンのスタートダッシュに成功するのか、大いに注目しよう。
WTAはとっくに北米ハードコートシーズンは本格化している。今週はアメリカロスアンゼルスでティアU大会、JPモーガン・チェース・オープンである。第一シードシャラポワ、第二シードクズネツォワ、第三シードディメンティエワ、第四シードペトロワである。脅威の第五シードにクライシュテルスが控えている。決勝はシャラポワとキムの一騎打ちだろう。さて、ウィリアムズもエナンもダベンポートもいないのであれば、負けるわけには行かないシャラポワとクライシュテルス。勝つのはどちらだ。こちらも大いに期待しよう。
2005年08月11日 風邪薬も飲めないなんて
ロディックダウン、リュビチッチダウン、コリアダウン、ヒューイット棄権、思わず「なんじゃこりゃ」と叫びたくなる。マスターズシリーズ第6戦モントリオール大会は大波乱の幕開けとなっている。第一シードナダルと第四シードアガシが順当に勝ちあがっていることがせめてもの救いか。この二人も途中でこけると一気に週末のTV中継の視聴率は下がるぞ。GAORAも気が気ではあるまい。ナダルとアガシの対戦はぜひ見てみたいところであるし、日曜日の決勝戦でそれが実現することを如空は切に願う。
ところで、カナスが風邪薬を飲んだためにドーピング検査に引っかかり、ATPから二年の出場停止処分を受けた。たかが風邪薬で二年である。どう考えてもおかしい。それも報道によれば大会スタッフから出された薬をスタッフ了解の上で服薬したということらしい。にもかかわらず、この仕打ちである。ドーピングに対して厳しく対処しよとするのが昨今の風潮であるし、その姿勢それ自体は正しいわけだが、その行過ぎた検査により風邪薬を服薬した人間に対してまで厳しい処分がでるのは、これはまた問題だろう。こんなことで選手たちのキャリアに大きな傷を残すことが正義なのか。ファンとしてはとても残念だ。ATPにしてもWTAにしてももう少し考えて欲しいと願う。
2005年08月14日 雨天順延とシャラポワと
深夜1時55分、TVをつける。GAORAでおなじみのマスターズシリーズのかっこいいオープニングが始まる。さて今日はマスターズシリーズ第6戦カナダ・モントリオール大会のSFである、はずだったが・・・・・TVの中にナダルがいる。しかし、彼がいるのは赤いクレーコートの上だ。ハードコートではない。何が起こっているんだ・・・・・とよく画面を見てみると左上に「雨天スケジュール変更のため、モントリオール大会は本日7時28分から放送します。」って、おい、それで3ヶ月前のローマ大会決勝を再放送しているってわけかい。急いでケーブルTVとレコーダーの予約を入れなおす。たまたまオープニングを見ていて助かった。今日はテニスの後、皆で食事してそのまま飲み会になって夜遅く帰ってきた。で偶然、深夜にTVをつけたらこんなことになっていた。明日、録画をみて「なんじゃこりゃああああ」という叫びが全国で聞かれることだろう。GAORAはクレーム処理班に万全の体制を整える必要があるな。決してGAORAの責任ではないのだが、八つ当たりの苦情が殺到することだろう。
インターネットで情報を集める。どうやら金曜日の後半、雨にたたられ、QFのアガシ対ガウディオ、ルゼドスキー対ハーバティが翌日土曜日に順延になったらしい。明日は一日二試合かい。ベテランアガシには酷な状況になった。トップハーフのQFは無事終了、SFはナダルとマシューの間で行われる。フランスのマシューを見るのは久しぶりだ。数年前、全仏オープンの4回戦でアガシを2セットダウンまで追い詰めた試合が中継されたのを見たことがある。あの時はそこからアガシに3セット連取を許して逆転負けしたが、その後名前を聞くことがなかった。久しぶりにいいところまで勝ち上がってきた。どこまで成長しているだろう。楽しみである。
ネット上ではモントリオールの大会などはあまり話題には上っておらず、もっぱらLAのJPモーガン選手権に注目が集まっている。シャラポワが後一勝でNo1を決めるというところに再びやってきたのだ。今年何度目のことだろう。胸にテーピングをしながらプレーする痛々しい姿がネット上で流れている。その故障はやはり重かったらしく、あと一勝でNo1というところでシャラポワは棄権してしまった。ただ誤解してはいけないのはNo1を逃したわけではないということである。この大会に大きな貯金を持っていた現No1ダベンポートがこの大会を欠場してその貯金を来週失うことになる。結果、シャラポワは来週発表されるWTAのエントリーランキングでダベンポートのポイントダウンに伴い自動的にNo1となることが決まった。
ヒンギスのNo1陥落後、この5年間で何人の女王が生まれたのだろう。年間最終ランキングだけでなく一時的なエントリーランキングのNo1も含めると、ヴィーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹とエナンとクライシュテルス。そしてダベンポートとモーレスモである。カプリアティも一時的にNo1になっていたかな?とにかくこの6・7人がこの数年のWTAのトップだった。それ以上とそれ以下では雲泥の差があった。しかしエナンもウィリアムズも好調だった年の翌年に不調になってしまうのでATPのフェデラーのような圧倒的強者という存在が生まれにくい状況でもある。だがこの女王たちとそれ以外の差が大きいことはいまだに変りはない。去年ロシア旋風が吹き荒れても如空はそれをさめた目で見ていた。たとえグランドスラムタイトルをとっても、ロシア勢と呼ばれる彼女たちのテニスが前出のWTAの女王たちにはかなわないレベルであることが如空の目には見てとれていたからだ。現に今年はセリーナ、エナン、ヴィーナスの前に復活を許してしまった。これで全米をクライシュテルスがとればロシア勢など完全に第二勢力になってしまう。そんななか、シャラポワがNo1になる。彼女はその生涯キャリアではウィンブルドンを一つ取っているので十分No1にふさわしい戦績であるといえるが、今年はGSを取れていない。このことが今年後半、年間最終ランキングNo1を決める戦いのなかで彼女の評価に大きく影響を与えることになる。No1でなければGSを今年とっていないことなど問題にされないだろうが、No1であるとそうはいかない。最終ランキングでNo1となるときGSを取っているかどうかは彼女の評価に大きくかかわる。ヒンギスもダベンポートもそれで苦しんだ。今年残されたGSはあと全米のみ。ここがシャラポワの正念場になる。
2005年マスターズシリーズ第6戦モントリオール大会 SF
ナダル 64 75 マシュー
GAORAの解説で知ったのだが、やはりマシューは怪我で一時期ツアーを離れていたらしい。どうりでここ数年名前を聞かなかったわけだ。クエルテンのように腕をグニャグニャにしながら打つフォアハンドは健在である。だが、彼の武器はバックハンドである。クロスに素晴らしいフラットドライブを放つ。ただ、ダウンザラインがネットしてしまう。このバックハンドのダウンザラインが決まらなかったことが勝負の行方を分かつ結果になってしまったようだ。例によってナダルはマシューのフラットドライブによる猛攻をしっかりとしたディフェンスで防いでいた。勢いでネットに出てきたマシューを見事なパスと鮮やかなロブで何度も抜き返した。この試合、ブレークポイントを握った回数はマシューの方が多かったが、セットを取ったのはどちらもナダルであった。マシューはいい攻めで何度もナダルを追い詰めるが、肝心のところでフォアの逆クロスとバックのダウンザラインがミスしてしまう。第二セット終盤、ラブゲームでサービスゲームをブレークされてしまう場面があったが、それでもナダルはあわてない、次のマシューのサービスゲームで彼の猛攻をしのぎきり、カウンターショットで切り返し、すかさずブレークバックするとそのまま、次のゲームで勝負を決めてしまった。ハードコートでも負けないナダル。今のナダルはヒューイットやロディックすらもかなわないハードでの強さを身に着けつつあるのかもしれない。
アガシ 64 64 ルゼドスキー
若い二人の熱い戦いのあとはベテラン二人による渋い戦いだった。ビックサーブにボレーと絶滅寸前のネットプレーヤーであるルゼドスキーは最後まで自分のテニスをして素晴らしいテニスを展開する。しかし、アガシはサービスを一度も落とさず、淡々とこちらも自分のテニスをして1ブレークでセットをとり、1時間でこのしまった内容の試合を片付けた。
フェデラー不在、ロディック敗退、ヒューイット棄権というアクシデントに見舞われながらも決勝は期待の好カード、アガシ対ナダルが実現した。アガシもナダルも充実している。一日二試合の不利な状況であるが、アガシはSFを一時間で済まして、体力温存に成功した。さて、フェデラーが1980年代生まれのトップであるようにナダルは今のところ1985年代生まれのトップである。次世代へのバトンの引継ぎ儀式になる可能性があるこの決勝、1970生まれのアガシに存分に輝いてもらいたいものだ。そして願わくばアガシに勝利を。
2005年08月15日 誰がナダルを止めるのか
2005年マスターズシリーズ第6戦モントリオール大会 決勝
ナダル 63 46 62 アガシ
この19歳と35歳の対決はじつはこれが初顔合わせであった。試合開始直後、お互いが相手を探り合っている様が良くわかった。左対右のこの対決、できれば自分のフォアのクロスで相手のバックを攻めたい。互いに考えていることは同じであった。ナダルのフォアはアガシのバックを崩した。しかしアガシのフォアはナダルのバックを崩せなかった。アガシも攻めている、ナダルを動かし、左右に振っている、しかし崩れない。長いラリーは先にアガシがミスさせられていた。第一セットは63でナダルが取る。
第一セット途中から雨がぱらつき、セット終了後50分間中断した。この中断の最中、アガシのコーチ、ダーレン・ケーヒルはおそらく戦術の変更をアガシに指示したのだろう。アガシは第二セット、突然コートの中に入ってライジングで打ち始めた。第一セットはナダルのトップスピンを恐れて下がってボールを落として打っていた。しかし、それではラリーの主導権を握れないと判断したアガシ陣営はライジングによるアップテンポ・ラリーへ切り替えた。先ほどまで追いつけていたボールが追いつけない。構えて打ていたボールがランニングショットにされる。アガシの早いテンポのラリーにナダルのディフェンスは乱れ始める。しかし、崩しきれはしなかった。クロスラリーの応酬は少なくなり、アングルをつけた左右の振り合いが増え始める。主導権を握っているのはアガシ、しかし崩れないナダル。オーバールールでアウトをインと判定され、少しナダルがレフリーに抗議をするシーンがあったが、注目はその直後のプレー。すさまじいアングルラリーの応酬からのバックハンドダウンザライン、そしてアガシ得意の連続攻撃をしのいで最後のボレーを外から回しこみのパス。スーパープレーでアガシに行きかける流れを自分に引き戻す。恐ろしいまでにタフな男ナダル。チャンスはそう何度もくれない。しかしその少ないチャンスをアガシはものした。キープ合戦で5-4となった第10ゲーム、カウンターショットでランニングのフォアハンドダウンザラインをアガシが決めてセットポイント、一度はナダルがサービスエースで切り抜けるが、次のポイントでミスさせられ、64でアガシが第二セットを取る。
第三セットになってもアガシが攻める、ひたすら攻める。ナダルはそれをこらえる、ひたすら耐える。そして最後にカウンターショットでポイントを取る。アガシが攻めきれずに先にミスするようになる。ラリーの主導権を握っているのはアガシであるが、ポイントを取っているのはナダルである。拍手喝さいのスーパープレーの応酬で互角のせめぎ合いの様に見える内容ではあった。だが結果は62でナダルが今季9勝目の優勝を決めたのだった。
今日のアガシの体の切れは最高だった。今日のアガシの攻撃は最高だった。2004年全豪SFでの対サフィン戦に匹敵するベストパフォーマンスだった。それでもアガシの攻撃はナダルの防御を突き崩せなかった。クレーの上ではフェデラーの猛攻すらも防ぎきった。コリアもフェラーもモヤもナダルを崩せなかった。ロディックはハードの上ならナダルを崩せるだろうか?ナダルとおなじディフェンスからカウンターで相手をしとめるタイプのヒューイットなら、今のナダルとどう戦うだろう。そしてフェデラーはナダルとの次なる再戦をどのように迎えるのだろう。
半年前まで、ATPの話題は「誰がフェデラーを止めるのか」という一点に絞られていた。しかし今、関心ごとはもう一つ、「誰がナダルを止めるのか」という事が加わりつつある。クレーシーズンが終わり、ハードコートシーズン、インドアシーズンになればナダルは失速するだろうと思われていた。かつてのクエルテンやフェレーロ、コリアのごとく。しかし、このモントリオールでの優勝はその予想を大きく覆すことになりそうである。これで、フェデラーとの再戦が楽しみになっては来た。しかし、個人的には半年前「誰もが倒せないと思っていた男」皇帝フェデラーを見事なテニスで打ち破ったあの男に期待してしまう。あいつなら、あのロシアの大男の豪打なら、ナダルの鉄壁の防御を突き崩せるかもしれない。
おーい、サフィン、いつまで眠っているつもりだ。お前が寝ている間にもう一人、倒さなくてはならない男が増えているぞ。今年の仕事は全豪をとったので終わり、なんていっている場合じゃないぞ。いい加減目を覚ませ、寝ている場合じゃないぞ。
2005年08月16日 帰ってきた笑顔
LAのJPモーガン・チェース選手権はクライシュテルスがハンチェコワをストレートで破り今季5勝目を上げた。途中、シャラポワの棄権を受けての優勝だけに意味合いは軽くはなったが、それでも全米に向けエンジンをかけ始めたクライシュテルスの意気込みを感じる。
ちなみに久しぶりに決勝まで残ったハンチェコワがSFで見せた笑顔は最高だ。昔、ウィンブルドンで浅越に接戦の末、負けた時試合中に泣き出した彼女。あの頃、両親の問題で悩み、伸び悩むテニスに悩み、気の毒なほどに痩せこけてしまい、その表情から笑顔は失われていた。いつも辛そうな顔してテニスをしていた。そんな彼女に笑顔が戻ってきた。テニスをしていても楽しそうだ。良かった、良かった。本当に良かった。これからもいっぱい勝って、その素敵な笑顔を見せてくれ。
さて、そのWTAはカナダのトロントでティアT大会が開催される。第一シードシャラポワ、第二シードモーレスモ、第三シードクズネツォワ、第四シードエナン、そして今回の脅威の第五シードはセリーナ・ウィリアムズ、そして第七シードにクライシュテルスだ。このそうそうたる面々に相対する堂々の第一シード、新女王、マリア・シャラポワ。地位が人を作るのか、人が地位を作るのか、早くもシャラポワはその真価を問われることになる。その結果は如何に。
そして、アメリカではマスターズシリーズ第7戦、シンシナティ大会が開幕する。第一シードフェデラー、第二シードナダル、第三シードヒューイット、第四シードサフィン、なんとロディック君は第五シードである。ブレークもいる、キーファーもいる、リュビチッチもいる、コリアにスリチャパン、ガウディオにロブレド、デントにヨハンソン、プエルタにフェラー、アガシにモヤ、ダビデンコにグロージャン、ハースにマシューにゴンザレス、ナルバンディアンもいるぞ、ガスケもアンチッチもいる、フェレーロにチェラにヘンマン、モンフィスもいるぞ。豪華メンバー揃い踏み。マスターズシリーズはこうでなくっては。特にSF以降の結果は今年の後半戦に大きく影響を与えるぞ。フェデラーとナダルがお互い星を潰し合う以外に誰も止められなくなっているのか。それを占う意味でも大きな大会だ。GAORAもSF・F共に生中継だ、今度は雨にたたられなければよいが。大いに注目しよう。
追記
新女王様はやはり大事を取ってトロントの大会を欠場なさるらしい。シンシナティでもディフェンディングチャンピオンのアガシが欠場を表明した。二人とも照準を合わせているのは月末のUSオープンだ。去年は盛り上がりに欠けた全米だったが、今年はいろいろな意味で男女とも話題多々、期待度大の全米になりそうである。
2005年08月20日 神の見えざる手
2005マスターズシリーズ第7戦シンシナティ大会においてもっとも注目されたのはナダルとフェデラーとの直接対決が再び実現するかどうかであった。しかし・・・・
MSシンシナティ1回戦
ベルディヒ 67 (4) 62 76 (3) ナダル
ナダルはTBを一度は制したものの、二度目のTBを落とし、初戦敗退した。
神の見えざる手がはたらいて、ナダルとフェデラーの直接対決を避けている。今年の春のマイアミ大会以降、そう思えてならない。フェデラーはナダルと再戦したくてたまらないだろうに、またナダルの側もそれを避ける気など毛頭なく、受けて立つつもりでいるだろうに、マイアミ以降、MSクラスの大会で両者が同じ大会に出る事はなく、全仏まで直接対決がなかった。そして決戦の全仏SF、日没順延かと思われた第4セットの終盤でナダルが1ブレイク1キープで試合を決めてしまった。翌日に順延を期待していたフェデラーにとってはナダルに勝ち逃げされた心境だろう。そして、それ以降、フェデラーはまだナダルと再戦できずにいる。そしてようやく同じドローに二人の名前がそろったと思ったらこれだ。神は皇帝フェデラーの好敵手にナダルを選び、切り札として大事な場面が来るまで、その切り札を皇帝にぶつける事を控えている、そんな感じがする。次なる重要な局面はおそらく全米オープン、ここでチャンピオンズレースのランキングで二人がほぼ並ぶとき、皇帝の覇権は崩され二強時代になる。それを阻止するためには全米と最終戦のマスターズカップを取ることが必要だ。その全米とマスターズカップにナダルをぶつけてくる。神の見えざる手がそう意図しているように思える。
で、着々と試合は消化され、他のシード勢は順当に勝ち上がる。このまま行けばSFはフェデラー対サフィン、ロディック対ヒューイットと、去年のマスターズカップ、そして今年頭の全豪と同じ顔合わせになる予定だった。ナダルのおかけですっかり影の薄くなった御三家ロディック、ヒューイット、サフィン、久しぶりにハードコートの4強揃い踏みかと思われたが・・・・・
MSシンシナティQF
ジネブリ 64 63 サフィン
これは神の見えざる手が働いたわけでもなんでもない。ただ単にサフィンがポカをしただけである。サフィンの馬鹿、阿呆、大事なところで役立たず。そのうち神様に見放されるぞ。
で、SFはフェデラー対ジネブリ、ロディック対ヒューイットである。さて、ここで問題はロディックである。ロディックは打倒フェデラーの前に打倒ヒューイットという問題を解決しなくてはならない。フェデラーだけでなくヒューイットにもこのところまったく勝てていないのだ。リターンの名手にてカウンターショットの使い手であるヒューイットは、ロディックの武器であるビックサーブ、ビックフォアを無力化してしまう。そして粘り強いラリーと老獪な戦術はロディックを翻弄する。あのウィンブルドンで見せたバックハンドスライスからのアプローチでネットに出るパターンはヒューイットのパス&ロブの前には通用しない。ショットの質こそ違え、ナダルもヒューイットと同じタイプのテニスだ。ヒューイットに勝てなければナダルにも勝てない。ロディックはツアー上で他者を圧倒する存在でありながらヒューイットとナダル、そしてフェデラーには勝てない。ロディックよ、まずはヒューイットを攻略しろ、それはナダル撃破のヒントにもなるはずだ。今までのロディックのテニスでは彼には勝てない。
さて男子と入れ替わりにカナダで行われるWTAのロジャーズ・カップ。SFはクライシュテルス対ミスキナ、モーレスモ対エナンである。
神の見えざる手はベルギーの月と太陽を何度目かの決勝対決へと誘うことだろう。キムはエナンにグランドスラムの決勝で3連敗している。このためエナンに負け続けているイメージがあるが、実は対戦成績はほとんど互角である。おそらくこの大会の決勝で当たっても、クライシュテルスはかなりの確率で勝つチャンスを得るだろう。何度も言うが問題はグランドスラムの決勝での対エナン戦、グランドスラム準決勝での対ウィリアムズ戦で勝てないという問題だ。神の見えざる手がライバルたちのピークをグランドスラムでキムにぶつけている、そんな気がする。この負の連鎖を断ち切るためには、グランドスラムの決勝・準決勝に自分のピークを持ってくることだ。エナンとウィリアムズにあってキムが持たないもの、それは2週間のトーナメントを最後まで勝ちきるペース配分とピークの制御。この課題、今年最後のグランドスラムで、今度こそ克復して見せろよ、キム。
追記
サフィンは膝の故障で今苦しんでいる。現時点で100%のプレーが出来る状態ではないことは報道でよく知っている。しかし、大会に出るからにはある程度の結果が求められる。サフィンはそういう地位にいるのだ。今回の出場は全米オープン出場を視野に入れた調整の意味合いが高く、そう考えるとQF進出は大いに評価されるべきなのかもしれない。だが、逆に言えばこの状況のままでは全米でもフェデラー・ナダルの待っているところまでいけるかどうか、たとえ行けても対抗できるだけのテニスを出来るかどうか、かなり不安である。そうれならば思い切って全米をスキップするという手もあろう。フィジカルを万全のものにして、最終戦のマスターズカップで二強を粉砕してやればいい。ファンとしては早い復活を望むが、それはフェデラーを倒せるサフィンの復活である。
2005年08月21日 2005 MSシンシナティ大会SF
2005マスターズシリーズ第7戦シンシナティ大会SF
フェデラー 46 75 64 ジネブリ
風がやや強い中行われたデイゲームは4年ぶりとなるこの対戦である。フェデラーはとてもリラックスして試合に入った。対するジネブリはやや緊張気味、それでも試合はサービスのキープ合戦になる。ディースもブレークポイントもない、淡々とした試合、ところがいきなり第9ゲームでフェデラーがラブゲームでブレークされる。そのあときっちりとキープして第一セットはあっさりジネブリが取った。
ジネブリはこれといって特徴のない、淡々とテニスをする地味な選手だが、こういう選手はこれまたミスをしてくれないので攻めにくい。そして淡々としたラリーの中にも彼なりの戦術がうかがえる。フェデラーのバックハンドにバウンドの高いボールを集めている。バックハンドが片手打ちの選手には定番のこの攻め、皇帝フェデラーといえど例外ではなく、ハイボールも強打できず、回り込みのフォアも使えない。ツキもややジネブリに味方している。苦し紛れにラケットに当てただけのボールが絶妙のロブになったり、セカンドサーブからのラリーだったポイントで雑音が入りポイントのリプレーでファーストサーブからのラリーに持ち込めたりと、ジネブリにラッキーなポイントが続く。落ち着いていたフェデラーに徐々に苛立ちが見え始める。
第二セットも淡々としたキープ合戦。ジネブリのベースラインからの攻めは試合が進むごとによくなっている。予想外に手ごわいジネブリにフェデラーは苦戦した。5-5になった。通り雨が突然降って来て7分間中断した。再開直後、フェデラーは落ち着いてサービスゲームをキープ。勝負の分かれ目はその次の第11ゲームだった、共にペースをつかめぬままディースにもつれてジネブリが崩れた。フェデラーは第二セットを7-5で拾った。
第三セットも淡々としたキープ合戦。じっくりラリーをしてからポイントを取るジネブリのテニスに早い攻めを見せたいフェデラーはなかなか主導権を取れない。再び4-4がきた。今度は先にフェデラーがキープ。そして第10ゲーム、ジネブリが得意のフォアのクロスでウィナーを取るとフェデラーはフォアの逆クロスでウィナーを取り返す。サービスエースでジネブリが取ったあとに次に狙ったバックハンドダウンザラインがラインを割って30-30。ここでジネブリがあせった。バックを強打してラインオーバー、そしてフェデラーのマッチポイントでネットに強引に出てまたもボレーをラインオーバー。フェデラーが決勝への切符を手にした。
ジネブリは終始いいテニスをしてフェデラーを苦しめた。早く攻めたいフェデラーに対してじっくりとしたラリーでフェデラーに仕掛けさせなかった。ヒューイットあたりは今日のジネブリのテニスは大いに参考になるはずだ。雨の中断が流れを変えた部分もあるが、それよりも試合を分けたのは第二・第三セットの終盤のジネブリの意識だろう。じっくりとしたラリーから組み立てていたジネブリがここであせって早くにポイントを取りに行った。一発でウィナーを取りに行った。そしてミスして崩れた。ジネブリが崩れたのはこの3セット中、たったの2ゲームだけだ。その2ゲームでフェデラーを負かすチャンスを逃してしまった。自分のテニスを貫き通すことが如何に難しいことかを教えてくれる試合であった。
ロディック 64 76 ヒューイット
第二試合はおなじみのこの二人による、元No1同士のおなじみのSFである。ヒューイットはNo1だった頃に比べて攻撃力を強化しており、ロディックはNo1だった頃に比べて防御力が向上している。ヒューイットは攻めが早くなりサービスが強化されている。ロディックはじっくりとラリーをするようになりバックハンドにスライスを多めに取り入れてラリーに緩急を取り入れ始めている。
第一セット第5ゲームでヒューイットはブレークポイントを握るが長いディースの末取りきれなかった。第六ゲームでロディックは0-40でブレークポイントを握り、ヒューイットはフォアをネットにかけてロディックがブレークした。キックサーブとバックハンドスライスとフォアハンドムーンボールで「緩」、フラットサーブとビックフォアとボレーで「急」、未完成ながらも緩急をつけたテニスでゲームの主導権を握る。サーブインフォーザセットでギアを上げるロディック。が、それが裏目に出てダブルフォールトが絡む長いディースになる。それでも最後はサービスポイントでセットを取りきった。
第二セットは何度もブレークポイントがあり、何度もディースがあった。しかしお互い持ち味を出し合い、サービスをキープし合い、TBへともつれ込む。
サービスが強化されているヒューイットはTBでもロディックに負けてはいない。互いにサービスポイントを取って競り合うが4-4でラリーになったところでロディックのムーンボールをヒューイットがミスして1ポイントリード。このリードをビックサーブで守りきり、ついにロディックはハードコートで初めてヒューイットを破ることに成功した。
ロディックは未完成のテニスで苦手のヒューイットに立ち向かい、何度も危ない場面を迎えたが、いつもなら自滅してしまう場面を我慢して乗り切り、見事にヒューイットに勝利した。ロディックが変り始めている。そしてようやくそれが良い方向に向かい始めている。あの未完成の危なっかしいテニスでは、まだフェデラーにはかなわないだろう。しかし、期待の持てる内容だった。一度No1にまでになった男が自らのスタイルを一度崩し、新しいスタイルを模索するということはなかなかできることではない。「出来なかったことを出来るようになるように変っていく」というその姿勢、その努力には賞賛を惜しまない。その前途はまだ長いが、いつかその才能が花開き、結果がでる日が来るだろう。そう思わせるSFであった。
フェデラー優位に変わりない決勝ではある。しかし、ロディックの変りようにフェデラーはいつもどおりのテニスが出来るだろうか。ジネブリ戦同様、キープ合戦になるとロディックにもチャンスがある。さて、今回は少しは骨のあるところを見せてくれ、ロディック。
2005年08月22日 2005 MSシンシナティ決勝
2005マスターズシリーズ第7戦シンシナティ大会決勝
フェデラー 63 75 ロディック
ロディックは積極的にサーブ&ボレーに出た。セカンドサーブでは今までファーストよりポジションを下げてリターンしていたが、今ではセカンドではコートの中に入るようになった。セットを一つも取れなかったが、2セットともしまった内容のゲームであった。
昨日のSF対ヒューイット戦に比べると、今日のロディックは全体的に単調であったという印象がある。あまり緩急をうまく使えていなかった。昨日はあれほど多用したバックハンドスライスとフォアのムーンボールも今日は少なかった。逆にサーブ&ボレーは昨日より多かった。ロディック陣営のゲームプラン通りだったのだろうか。せっかく多様な技を身につけたのだから、もう少し変化に富んだ、メリハリのあるテニスをするべきだろうに。昨日のヒューイット戦で見せたあの緩急を織り交ぜたテニスであれば、フェデラーに勝てないまでも、もう少し違った内容になっていたのではないだろうか。未完の大器ロディックの試行錯誤と挑戦はまだまだ続く。
フェデラーはまったくのいつもどおりのテニスで優勝を飾った。ロディック相手にあれほどリラックスして勝利できる選手というのも他にはいるまい。さすがは皇帝である。第二セットは第5ゲームでロディックが先にブレークする。しかし、彼はあわてない。次のゲームですかさずブレークバック、アップテンポな自分のテニスにロディックを引きずり込み、終始主導権を渡さなかった。第一セットも第二セットも最後はロディックのサーブを破って締めくくった。
ロディックもヒューイットも新しい武器を身につけ、自らのテニスを進化させている。しかし、それでもフェデラーには当分届くまい。そしてサフィンはいまだ深い眠りの中にいる。同世代から打倒フェデラーを果たす者は当分現れそうにない。やはり打倒フェデラーはナダルを筆頭とする次の世代の課題となりそうだ。
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