第024房 2005年 フレンチオープン TV観戦記 (2005/07/18)
2005年05月20日 2005 全仏ドロー
2005年フレンチオープンのドローが出た。例のごとく、ドローを4つの山に分けて独断と偏見による展望を見てみよう。
男子はヒューイットとヨハンソンが負傷から回復せず、結局全仏には間に合わなかった。
第一シードはロジャー・フェデラー。生涯グランドスラムをかけて、クレーの最高峰に挑む。ハード・芝で強い現皇帝だが、彼自身はクレー育ちであり、ハンブルグ大会の連覇を見てもわかるように決してクレーを苦手にしているわけではない。ただ早い攻めが主体のフェデラーにとってボールの遅いクレーでは他の選手との差がハード・芝ほど開くわけではないというのも事実。皇帝の覇業を阻止するべく、その前途に立ちふさがるのはゴンザレス、モヤ、他ナルバンディアン、ヘンマンである。順当に行った場合、モヤと3回戦で当たる。第一週の最大の山場はここだ。今年はツキに恵まれていない感のあるモヤだが、フェデラーにとっては大きな関門となるだろう。
第4シードは若き赤土の王ラファエル・ナダル。全仏の優勝予想において最も期待されている選手であり、それを証明するに足るだけの実績を今年あげてきた。しかし、彼の前途は決して楽な道程ではない。彼の山にはマリッセ、ガスケ、グロージャンがいる。そして何よりも山の反対側から上がってくるのは前年度覇者、第五シードガストン・ガウディオである。今年、南米クレーシーズンで共に活躍した生粋のクレーコートスペシャリスト同士が4回戦で当たるめぐり合わせである。
第三シードは今年の全豪覇者マラット・サフィン、全豪優勝後、燃え尽きてしまっているこの男、果たして第二週まで生き残ることができるのだろうか。フェデラー同様クレー育ちでけしてクレーを苦手にしているわけではないのだが、やはり彼の大砲の威力がクレーの上ではそがれてしまうことは否めない。この山の本命はサフィンではなく第八シードギジェルモ・コリアである。この山にはハース、ロブレド、クエルテン、フェレーロとそうそうたる顔ぶれが揃ってはいるがコリアを止めるにはいたらないだろう。
第二シードはアンディ・ロディック、ヨーロッパクレーではろくな成績を収められずにいるが果たして今年はどうか。去年、ヘンマンもヒューイットも好成績を収めている。今年はロディックの番だと期待してはいるが、さて結果は如何に。この山にはなぜか仲良く同じアメリカ勢のブレークと第六シードのアガシもいる。他、キーファー、カナス、リュビチッチ、マシューとまるでハードコートの大会のような顔ぶれである。本命不在、誰が出てきてもおかしくない、この山は。
トップハーフのSFがフェデラー対ナダルになると、ここが事実上の決勝戦となる。が、その勝者を決勝で待っているのはおそらくコリアだ。去年の雪辱を果たすべく、勝ち上がって来るだろうコリアの執念を断ち切るという仕事は、皇帝最後の覇業の課題となるのか、あるいは若き王者のグランドスラム制覇への最初の試練となるのか。
女子はSウィリアムズとモリック、今年の全豪で活躍した二人が欠場である。カプリアティも今だ復帰のめどはつかない。
第一シードは現No1リンゼイ・ダベンポート、彼女の山にはこの全仏主役の一人、キム・クライシュテルスがいる。他、サフィーナ、ハンチェコワ、ズボナレワ、ピエルス、シュニーダーと実力者が揃うが、もしクライシュテルスが本来のテニスをすれば彼女にはかなわないだろう。たとえそれがダベンポートであっても。問題はクライシュテルスが直前の負傷からの復帰でどれほど本来のテニスを取り戻しているかである。
第四シードはエレナ・ディメンティエワ、去年の全仏・全米のファイナリストである。その彼女を去年この全仏決勝で破り、グランドスラムタイトルを女子選手としてはじめてロシアにもたらしたのがアナスタシア・ミスキナ、今回第五シードでディメンティエワと同じ山にいる。他はV・ウィリアムズがいるが基本的に地味な顔ぶれであり、おそらくQFは去年の決勝の再現となるだろうが、その結果までは再現されることはないだろう。
第三シードは地元フランスのメアリー・モーレスモ、常に本命視されながら決勝になかなか進めない。今回も比較的楽なドローに入ったのでSFまで行くと思われるが、問題はいつもそこからである。
テニス界のみならず、スポーツ界で今最も注目を集める女、マリア・シャラポワが第二シードである。そして同じ山にはジャスティーヌ・エナン・アルデンヌがいる。シャラポワがNo1になるには避けては通れない関門がエナンである。そしてエナン自身、本来自分の席だと思っているだろうNo1の座への返り咲きへの第一歩としてシャラポワをここで叩いておきたいところだろう。順当に行けばQFで実現するこの対決は要チェックである。ちなみにミスキナと共に最近その存在を忘れられがちな去年のグランドスラムタイトルホルダー、クズネツォワもこの山であるが、さて、シャラポワとエナンの間に割って入ってその存在感を示せるだろうか。
セリーナ不在の上、エナンはシャラポワを苦手としていない、というかそれほど意識せずとも勝ってしまうという実績を鑑みると、決勝はやはりベルギーの二人のものになるのだろうか。そのとき、クライシュテルスはエナンとの月と太陽との関係を逆転させることができるだろうか。
今年も熱戦を期待しよう。
2005年05月22日 フェデラーのガリア戦記2005 序幕
制度疲労を起こしていたローマ共和国の元老院主導政治を改革しようと立ち上がり、帝政への道のりを開いたユリウス・カエサル(英名ジュリアス・シーザー)がその頭角を現し、ローマの内乱で一方の雄として立ち上がる基盤を作ったのがローマより西側のヨーロッパを征服するガリア戦役である。ガリアとはちょうど今のフランスに当たる。カエサルはフランスを制して帝政への道を切り開く基盤にしたのだった。
それより2000年以上過ぎた現在、男子テニス界において自らの帝政の総仕上げをするべく、ロジャー・フェデラーがかつてガリアと呼ばれたこの地、フランスに乗り込んできた。
カエサルはガリアを征服した後、その地の執政官として支配し続け、財力と軍事力を養う。やがてローマが反カエサル派によって公然とカエサルに敵対行為に出ると、カエサルは自分の指揮する第13軍団を率いてローマに向かう。ガリアからローマに向かう道のりの途中にルビコン川が横たわる。当時のローマの法では、ローマ軍団は凱旋式など元老院の許可のあったとき以外にルビコン川を渡ってローマに進んではならないとされていた。その国法を破ってカエサルはローマに進軍する。「サイは投げられた」という言葉と共に。そして独裁者への道を突き進む。
フェデラーにとっての「ルビコン越え」は去年の全米オープンであったと思う。ジュニアの頃より注目され、2001年ウィンブルドンでの対サンプラス戦勝利、そしてその2年後のウィンブルドンの優勝でトッププレーヤーの一人に駆け上った。しかし、それでもその地位は多くの中の一人、王者達の中の一人でしかなかった。2004年になって全豪オープンを取り、ウィンブルドンを連覇して世界ランキングNo1になってもその感覚は変わりなかった。フェデラーが他のグランドスラムチャンピオンやNo1経験者に対して絶対的圧倒的強者として君臨することになるのはやはり2004年全米オープン決勝、ヒューイットを一方的に下した瞬間であったと思う。あの時、「当分はもう、誰もフェデラーを倒すことは出来ないかも知れない」と直感した。それはマスターズカップの全勝優勝で確信に変わる。今年に入ってサフィンとガスケに敗れているが、それでもフェデラーの地位は揺るがない。まさに男子テニス界の独裁者、皇帝である。
その皇帝に残された最後の覇業、それが全仏オープン制覇である。フェデラーには前皇帝サンプラスと違い、その可能性を充分に持っている。ただ、去年の全仏オープンを見た限りでは「少し、難しいかな」と思っていた。しかし、今年のマスターズシリーズハンブルグ大会の連覇を見て、期待に代わった。そして願望にもなった。フェデラー時代は来年以降の磐石というわけに行かないように思う。サンプラスの時代が長く続いたのは、サンプラスが安定した強さを持っていたことのほかに、同世代はアガシ・チャン・クーリエ・ラフターなどライバルが競い合って台頭してきたが、その下の世代では10年近く対抗勢力となるほどの強者が現れなかった点が上げられる。しかし、今、フェデラーの直下にナダル・ガスケ・モンフィスなどかつてのサフィン・ヒューイット・ロディックに匹敵する可能性のある若手がもう育っている。フェデラーもまだ若い、だからこれからもますます強くなっていくだろう。しかし、若手に差を詰められていくこともまた事実。実際、他の選手を最も大きく引き離しているのは今現在なのかもしれない。来年の全仏制覇の可能性は今年より厳しくなるだろう、再来年はもっとだ。今年のうちにとっておきたい。そして生涯グランドスラムを達成して欲しいと思う。
もし、それが成功すればおそらくは途中でモヤ、SFでナダル、決勝でコリアという素晴しくドラマ性に富む道のりを経ることになる。「フェデラーばかりが強くて面白くない」と言われ始めて半年、いま最高にドラマチックな舞台が用意された。今年、フェデラーは有力候補ではあるが圧倒的本命というわけでもないところがそのドラマ性を盛り上げてくれる。
生涯グランドスラムをかけて皇帝の全仏挑戦が始まる。フェデラーのガリア戦記として少し注目して見て行きたいと思う。
2005年05月23日 フェデラーのガリア戦記2005 第一幕
ロジャー・フェデラー、ローランギャロスに現る、との警報に接し、ユダヤの男は直ちに出場、これを迎え撃たんとする。本日天気曇天なれども風強し・・・・・・という書き出しを考えていたのだが、風はそれほど吹いていなかったようだ。
全仏オープン1回戦
フェデラー 61 64 60 セラ
セラってイスラエルの選手で予選通過者らしい。中近東の選手ってクレー育ちなのかハード育ちなのかよく判らないことが多いが、そんなデータの有無などかかわらず、ストレートで圧勝。覇業の第一歩を順当に踏み出した皇帝、次はスペインのアルマグロ、クレーコーターだ、しかも若い。第二関門を如何に越えるのか。注目しよう。
2005年05月25日 神々の黄昏
全仏ではディフェンディング・チャンピオンの一回戦敗退は史上初だそうだ。去年フェレーロがそれをやってしまうのではないかと注目されたが無事一回戦突破、不名誉な記録を達成することはなかった。最近ではヒューイットがウィンブルドンでやっている。全仏で始めて前年覇者の一回戦敗退を記録したのは女子のミスキナである。
前年覇者ではないが過去のチャンピオン達が一回戦で敗退して、オールドファン達を失望させている。クエルテン、コスタ、そしてアガシ。
アガシは背中の症状が足にまで広がり、試合途中から走れなくなっていた。今まで試合途中で棄権したことないこの偉大なる35歳は、フルセットの試合を最後まで強行したが、負けてコートを立ち去る彼の顔は苦痛でゆがんでいた。その苦痛は肉体的なものだけではなさそうだ。あんなに苦々しい表情のアガシを見たことがない。とても心配である。
2005年05月26日 フェデラーのガリア戦記2005 第二幕
全仏オープン 二回戦
フェデラー 63 76 62 アルマグロ
一回戦でアンフォース・エラーが多くて反省していたフェデラー、今回はミスも少なく、きっちりと修正するべき点を修正して試合に臨む。それでも第二セットは追い上げを許してTBにもつれこむ。しかし、追い上げはそこまで、TBを70と圧倒して終わると第三セットは危なげなく取って、無事二回戦進出を決めた。
去年の前半までのフェデラーであるならば、この試合は実は大変危ない試合になっていたと思う。大会方半の勝率がとても高い彼は、逆言えば負けるときはいつも早いラウンドであったといえる。しかし、TBでの集中力の上げ方を見ても、大会を通じて徐々に集中力を高めていくだけでなく、早いラウンドの試合の最中でも集中力を上げるべきところを見極めて、きっちりと勝つという状況を作り出している。その強さ、実にレベルが高い。去年の後半より圧倒的強者になったその理由がそこにあると思う。
次はチリのゴンザレス、クレーコート育ちのくせにそのサーブとストロークはどでかい大砲を撃ってくるタイプ。早いラウンドで、一戦ごとにタイプの違う相手とやりあうフェデラーのこのめぐり合わせ。天がフェデラーに二週目のための準備をしてくれているかのようである。もちろん、ゴンザレスは「二週目の準備」気分で簡単に倒せる相手ではない。その戦い振り、大いに注目しよう。
2005年05月27日 赤土の上のロディック 2005
とてつもなく忙しい。7日連続で午前様である。それも12時過ぎとか1時過ぎとかではなく、3時とか4時とか・・・・平均睡眠時間4時間で生きている如空って結構タフな男なのかもしれないなあ。いつまでもつかはわからないが。
家に帰ると暗闇の部屋の中でケーブルTVのチューナーとDVD・HDレコーダーのインターフェイスだけが煌々と輝いている。如空が仕事に追われている間にも如空の僕たちがせっせと全仏オープンの中継を録画してくれている。ありがたいことだ。
昨日も3時に帰宅して、ベッドに倒れこみざまにTVの電源も入れた。液晶画面の中、色鮮やかな赤土の上で地味なラコステのウェアを着たロディックが2回戦で接戦を演じていた。相手はアルゼンチンのホセ・アカスーソ。知らない、聞いたこともない、そんな相手にロディックは2セットアップからセットオールに追い上げられていた。最終セット、先にブレークしたのはロディックだったが、アカスーソはすかさずブレークバック、第12ゲームを過ぎても決着がつかない。アカスーソは片手のバックハンドが素晴らしい。ダウンザラインもクロスも見事だ。ネットに出たロディックを鮮やかにパスで抜いていく。最後に競り勝ったのはアカスーソだった。地面に倒れこんで両手を突き上げるアカスーソ、ネットをまたぎ越えて相手コートでその彼を祝福するロディック。ロディックは赤土の上では結構接戦まで行くのに勝ちきれない。この試合、サーブもストロークもハードヒットせず、いつもよりスピンが多めで高い弾道のショットを打っていた。素晴らしい展開で見事なウィナーも見せていた。しかし勝てなかった。
ロディックはショットそのものより、ポジショニングに問題があるといわれている。相手のセカンドサーブでリターンの位置をファーストの時より後ろに下げる独特のスタイル。基本的にロディックはあまりライジングでボールを打たず、高い球はある程度落としてから打つ。落として打つと打点が下がる。ライジングで打つ打点よりバウンドした位置から後ろに下がらせられる。特にボールが遅く、バウンドが高いクレーではコートの外に追い出されやすくなる。「生粋のクレーコーター達もボールを落として後ろの方で撃っているじゃないか、ロディックと何が違うんだと」いえば角度とタイミングだろうか。コートの外で落として打つときとコートの中に入ってライジングで打つときとを上手く使い分けて、ショットのスピードでなくショットのタイミングで緩急を彼らはつけているからではないだろか。ロディックのラリーは結構単調だ。それでも球足の速いコートなら、強打とスピードで圧倒できるのだろうが、クレーだとそうもいかない。オープンコートを作ることがヘタだとよく言われるが最近の試合を見るに配球自体はそれほど悪くないのではと思う。それよりもポジションにあったショットの選択とタイミングによる緩急、そして深く打つだけでなく、浅くて角度のある球を使うようになれば、クレーでも十分通用するのだと思うのだが、ロディックがそれを証明するにはまだ少し時間がかかりそうだ。
2005年05月29日 フェデラーのガリア戦記2005 第3幕
全仏オープン3回戦
フェデラー 76 75 62 ゴンザレス
映像を見ていないので、コメントしにくいのだが、最初の2セットは良くぞ勝ったものだと思わされる内容だったようだ。ゴンザレスのフォアハンド・・・・あれはつなぎとかコントロールとかまるで考えていないようなショットだからな(実際には本人は色々考えているのであろうが)。強打にフェデラーが得意の展開力を発揮できなかったことは大いに想像できる。
それでも勝つ。タイブレークまで来て勝つ、最後の最後で1ブレーク差で勝つ。競った内容でもセットそのものは落とさない。必ず取る。これが強さだ。
これでローランギャロスでの準備は整った。いよいよ、4回戦、対モヤ戦である。ナダル・コリアに匹敵する赤土の強者モヤ。対戦成績ではフェデラーが勝ち越しているが、モヤの側にはそれほど苦手意識があるとも思えない。ここを越えれば勢いが出る。波に乗れる。ナダル、コリアを連覇する自信を得ることが出来るはずだ。
皇帝最後の覇業に向けて、大きなポイントに差し掛かったフェデラー。いよいよ佳境である。今度はWOWWOWも放送してくれるだろう。注目である。
2005年05月30日 フェデラーのガリア戦記2005 第4幕
全仏オープン4回戦
フェデラー 61 64 63 モヤ
完璧だ・・・・・これ以上にないというほどに完璧な勝利である。モヤは肩に故障を抱えており、全仏直前の大会から不調は訴えていた。そしてこの日、結局モヤは体調を回復させることなく、試合に臨んだ。だから今日は勝って当然の試合ではある。しかし、なんと言うか勝ち方に揺らぎがないというか、相手の事情にかかわりなく、完璧なプレーをして、取るべきポイントは確実に取って、取ることが難しいポイントも取って、そして勝った。長いラリーもあったが引かずに打ち合い、そして勝った。素晴らしい。
今のところ彼に死角はない。だが、できればここで完調のモヤと当たって接戦をしておきたかった。準決勝と決勝で当たる相手のことを考えると調子を上げるという意味ではその方がよかった。しかし、早く試合が終わったおかげで体力の温存にはなっている。この完勝が後で吉と出るか凶と出るか、その結果はこの週末に判明する。
2005年05月30日 早くも山が来た
2005全仏、3回戦でビーナスダウン。モーレスモダウン。そして4回戦でディメンティエワダウン、そしてなんとクライシュテルスダウン!おいおいおい・・・・クライシュテルス対ダベンポートは事実上の決勝戦だかも知れない。生涯グランドスラムをかけて全仏に臨んでいるのはフェデラーだけではない。ダベンポートもまた、生涯グランドスラムを狙う。最後のGSタイトルはいまだそのコレクションに並んでいない全仏タイトルにしたいだろう。山の反対側でエナンがクズネツォワに当たる。その先にはシャラポワが待っていることだろう。こちら側も大きな山場に差し掛かっている。
男子の第一シードフェデラーはゴンザレスを突破、ついにモヤと当たる。そしてガスケを下したナダルが今度はグロージャンと当たる。そして前年覇者ガウディと今年好調フェラーがぶつかる。好ゲーム必至、どれも見てみたい。
3回戦ではフェレーロ対サフィンという豪華カードが行われた。WOWWOWの中継で見たが久しぶりにしまった内容の試合をする二人を見られてうれしかった。豪打のサフィンをもってしても押し返せないフェレーロのストローク、調子を上げたフェレーロのストロークは惚れ惚れとする。2年前の強かったフェレーロの姿を取り戻しつつある。バックのクロスの打ち合いでサフィンに負けない。あとフォアさえ戻れば完璧だ。後もう少しだ、フェレーロ、今度復活するのはフェレーロだと信じている。試合内容は76 75 16 76と接戦だったがサフィンが珍しく集中力を発揮して、要所要所で素晴しいウィナーを見せ勝ちきった。サフィン、赤土の上のダークホースとなるか。
男女のNo1が生涯グランドスラムをかけて難敵に挑んでいる。ダベンポートは難関キムを突破した。16 75 63の逆転劇だった。さあ、今度はフェデラーの番だ
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2005年05月31日 赤土が涙に濡れる
クズネツォワ、惜しい・・・エナンを後一歩まで追い詰めながらも、彼女を止められなかった。しかし、復調の兆し有り。去年の全米決勝で見せたあの素晴らしいテニスを早く取り戻して見せてくれ。一方、最終セット3-5からの4ゲーム連取の逆転劇を演じたエナン、強い。というより恐ろしい。あの強風のなか、自分を見失わず、自分を信じて、揺らがない。背中の故障を抱えているが、彼女は何かハンディキャップを背負っている時の方が強いような気がする。
さて、女子QFは
ダベンポート VS ピエルス
リホフツォワ VS カラチャンチェバ
ペトロワ VS イワノビッチ
エナン VS シャラポワ
地味―な顔ぶれの中でいやでも目立つこの顔合わせ、エナン対シャラポワ。トップハーフのクライマックスがダベンポート対キムであったとするならば、ボトムハーフのクライマックスはこのエナン対シャラポワだ。この対戦の勝者が決勝で現No1ダベンポートと当たる。そしてそれが混迷のWTAにおいて現時点での頂上にいるのは誰かを決める戦いになる。この大一番、今までの戦績を見るにシャラポワが不利だが劣勢を挽回できるかライジングサン、シャラポワ、押し切るか手負いの元女王エナン。注目である。
男子は波乱、冗談抜きで波乱、ナルバンディアンがダウン、そして前年覇者ガウディオダウン、ナルに代わってフェデラーに相対するのはハネスク、そしてガウディオの代わりにナダルと相対するのはフェラーである。フェラーがナダルの前に出てきたのは面白い。MSローマ大会準決勝で見せたあの攻撃的テニスが再現されれば、今度こそナダルを止めることができるかもしれないぞフェラー。多くのテニスファンはそれを望んではいまいが、とにかく良い試合になりそうだ。
そして、そして、本当の大波乱・・・・・コリアが負けたぁぁぁぁぁぁぁぁ。
決勝でフェデラーを、あるいはナダルを迎え撃つのはコリアの役目だと信じていたのに。もしフェデラーが生涯グランドスラムを阻止されても、それがコリアであれば許せたかもしれない。去年決勝でのあの涙。足を痙攣させまともに試合できる状態ではなくなった第4セット。それでも第4セットを捨て、必死に回復を図り、完全に回復できていない身体で第5セットに全てをかけ、チャンピオンシップポイントを掴むところまでガウディオに肉薄したコリア。だが掴みかけた勝利は彼の手をすり抜けていった。
その前年、ドーピング検査に引っかかり処分を受けたが、後に無罪と判明、この無実の疑惑に懲りたコリアはそれ以降、アスリートとしては当然取るべきサプリメントやスポーツドリンクを一切取らず、少々の風邪程度では薬も取らず、試合中は水だけで世界を転戦する。その結果がこの2004年の決勝でのケイレンを阻止できなかった原因の一つになってしまった。なんと言う皮肉。「薬なんかに頼らなくても、僕は十分トップクラスのプレーが出来ることを証明したかったんだ。」と涙ながらに語る記者会見は見ていてとても辛いものがあった。その雪辱を果たすべき大会であったのに。
コリアだけではない。ガウディオにとっても今年はまた大事だった。去年の優勝はコリアに譲ってもらったものではないことを実力で、そして結果で示すべき大会だった。しかし、QFに進めなかった。
辛い表情で一回戦敗退したアガシ、二年連続で2セットアップからの逆転を許して二回戦敗退したロディック、実力を発揮できなかったモヤ、そして去年ここに残していった課題を克服することなく去っていくコリアとガウディオ。何か悲しい今年のローランギャロスである。
2005年05月31日 地味なボトムハーフ
全仏オープン2005男子ベスト8は以下の顔ぶれ。
フェデラー VS ハネスク
ナダル VS フェラー
ダビデンコ VS ロブレド
カナス VS プエルタ
ボトムハーフが地味じゃーーーー。
もしトップハーフのSFでフェデラー対ナダルが実現しなければここ数年で最も盛り上がりに欠ける大会になるかも知れないぞ。しかし、コリアに続きサフィンまで敗退するとは・・・・・75 16 61 46 86 最終セット6-6まで行ってそこで落とした。試合自体は盛り上がったかも知れないが、ここまできたら勝ってくれよサフィン君。ジャッジでもめたときに主審の肩を抱いて親しく語りかけている場合ではないだろうに、まったく。まあ、この全仏で全豪優勝後の燃え尽き症候群からは脱する気配が見え始めただけでもよしとするか。
2005年05月31日 フェデラーのガリア戦記2005 第5幕
全仏オープン2005 QF
フェデラー 62 76 63 ハネスケ
第二セットではいいプレーをしたハネスケ、しかしTBで押切らせなかった。押し戻した。見事フェデラー。完璧、あまりにいつもどおりのフェデラーのテニスなので解説のしようもない、する必要もない。いつもどおりのテニスをしていつもどおりに勝つ皇帝。最後の覇業を完結させるまで残る関門は後二つ。SFの相手はまだ対戦中、しかし、ほぼ確定している。あの男が来る。フェデラーは彼が来るのを静かに待っている。
2005年06月01日 ああ、リンジー・・・・
ああ、リンゼイ・ダベンポート・・・・なぜここで負けてしまうのだ。ベルギーのオデブを見事な逆転劇で破っておきながら、なぜフランスのオデブには勝ちを譲ってしまうのだ。ボトムハーフから勝ちあがってくるベルギーのお局様を決勝で迎え撃ち、No1の座を今の段階ではまだ譲らず、生涯グランドスラムを達成して引退への花道を飾って終わるという美しい終わり方を期待していたのに。
年々選手の低年齢化が進むWTA、今回もベスト8に15歳の選手が進出している。実際、WTAでは若いと言えるのは10代まで、20代前半が中年、20代半ばで晩年を迎えて引退、20代後半まで現役でいるのはとても厳しい状況になってきている。ベテラン選手たちは確かに多々存在してはいるし、今回の全豪・全仏のよう突然GSのベスト4に進出したりもする。しかし、トップクラスにとどまり続けることなど相当な困難なはず。ある意味、今のリンジーは5年前の引退直前のグラフと同じ位置にいる。グラフに比べればそのNO1としての地位は圧倒的地位ではない。エナンやセリーナの方が強いだろうが彼女達は安定しない。リンジーが現女王であることに変わりない。彼女から女王の座を譲り受けるのは誰なのか。
生涯グランドスラムを達成したセリーナ・ウィリアムズは年齢を重ねるにつれ、それにふさわしい落ち着きと円熟味を増しつつあり、これからもグランドスラムをいくつかは取るだろう。しかし、彼女の心の奥底に昔あった牙が今は抜けてしまっている。そしてこれから先、それが蘇るとも思えない。V・ウィリアムズとカプリアティはなおのことだ。キムは大事なところで勝てない。そんな星のもとに生まれているのだ。少なくとも今のところは。そして、ハートの強さで戦うシャラポワの精神力はセリーナ同様、いつ尽きるともわからない。彼女の場合、まだ17歳ということが逆にネックだ。ドキッチを見よ。まだ先が長いだけに今の気迫・勝利への飢えがいつまでも続くのかという疑問と不安がある。
次の女王はエナンだ。既に2003年の年間最終ランキングNo1、グランドスラムを3つ取り、あとはウィンブルドンを残すのみ。去年の戦線離脱はキムやセリーナと違って、怪我によるものではなく、ウィルス性の病気によるものだ。テニスをすることで再発のリスクを負うものではないと聞いている。彼女は身体的な危機を克服した。そしてセリーナの心からは引き抜かれてしまい、シャラポワの心の中でいつ折れるとも限らない「牙」を彼女はとても強く持ち続けている。ダベンポートが退くとき、エナンはお局様から女王様に昇格する。そしてそれは長期政権になる。一時的にシャラポワやクズネツォワにランキングNo1を譲ることがあっても長期的にみればエナンが君臨する時代になるだろう。エナンを止めうる力を持つのはセリーナのみ、しかし彼女の心に牙が蘇らなければ競ったとき勝つことは難しい。そしてクライシュテルスはエナンに対する星回りの悪さを自ら克服しない限り、自らこの不の連鎖を綴る運命を断ち切らない限り、道は開けない。道が開かれているのはエナンだけである。
できれば決勝でダベンポートとエナンが当たってほしかった。その結果がダベンポートの生涯グランドスラム達成に終わったとしても、ダベンポートが敗れ、エナンへ女王の座を譲り渡す儀式になったとしても、どちらになってもそれはそれで意義のある結果になると思っていた。1999年の全仏決勝でのグラフ対ヒンギスはまさにそんな意味合いを持った試合であったのに、とても後味の悪い試合になって残念であった。エナンもまたセリーナやキムとの試合でジャッジに対するトラブルがあり、すっきりとした形でグランドスラムを取れていない。この全仏の決勝では、そんなこの5年ばかりのWTAの中で如空が感じているモヤモヤを吹き飛ばしてくれる素晴らしい決勝戦をエナン対ダベンポートで期待していた。だからとても残念である。
2005年06月02日 フェデラーのガリア戦記2005 決戦前夜
世界中がこの対戦の行方に注目している。大会のドローが発表された瞬間より、その実現がこれほど期待され、同時にこれほど確実視された試合はここ数年ではない。「事実上の決勝戦」という言葉は使い尽くされた感があるし、陳腐な感じもする。しかし、この試合を「事実上の決勝戦」と呼ばずになんとよぶのか。2005年フレンチオープン、トップハーフのセミファイナル、フェデラー対ナダル戦が明日に迫った。
去年、リトルスラムを達成した時点でフェデラーは圧倒的強者となった。去年年末のマスターズカップで、ランキングのトップ4がそのままトップ4シードになり、そのままベスト4に揃い踏みしたした時点で、フェデラーを追撃できる位置にいるのはサフィン・ヒューイット・ロディックしかいないと思われた。それがほんの数ヶ月前の状態だった。注目はされてはいてもナダルはまだフェデラーの関心の外側にいた。
始まりはマスターズシリーズの2005年第二戦マイアミ大会の決勝戦だった。圧倒的強者フェデラーを2セットダウンまで追い込むナダル。マイアミはハードコートである。クレーコートスペシャリストであるナダルがヒューイット・ロディックを圧倒するフェデラーに対して、ハードコートの上で先に2セット連続して取ったのだった。結局逆転負けを喫したが、誰もがこれがクレーの上ならば、ナダルはフェデラーを倒せると想像しただろう。
ヨーロッパクレーシーズンに入り、フェデラーはガスケに不覚を取りスタートダッシュに失敗、失速しているうちにナダルは連勝を重ね、MSモンテカルロ、ローマ大会を連覇した。マイアミでフェデラーから自信と強さを貰い受けたかのような活躍である。指を負傷しているナダルはMSハンブルグ大会をスキップした。その大会でフェデラーはクレーでの優勝を上げ、全仏への準備を終えた。二人ともマスターズシリーズの優勝への過程で去年モヤと共にクレー最強だったコリアを下している。今年のクレーの双璧はフェデラーとナダルであることを世間に知らしめた。この二人が全仏のタイトルを競い合う。それも激しく、そして強く。誰もがそう信じているはずだ。そして、その通りになった。
ナダルは5年前のロディック同様、先にメディアで注目を浴びており、話題ばかり先行していた。実際にそのプレーを見たのは今年の全豪オープンになってからである。TVが地上波のみの人は未だに見ていない人もいるだろう。さて、その話題のナダル、ハードヒッターかと思っていたが、実はスピンボールを主体にした組み立てでポイントを取る老獪な戦術家だった。そして、フェデラーのように攻撃的テニスでガンガン攻めてくる相手に対しては、守りに守り、最後にカウンターショットで切り返す。まるで活躍し始めた頃のヒューイットのようだ。赤土の上のヒューイット。しかし、彼もまたヒューイット同様熱い男だが、その熱さは種類が違う。けして精神的に切れることもなければさめることもない。クレバーに、静かに燃える。若々しい激しい炎ではなく、何があっても決して消えることのない炉の中の炭火のような熱さを持つ男である。
フェデラーは2003年まではヒューイットやナルバンディアンといった守りに固く、カウンターショットを得意とした相手を苦手にしていた。攻めて、攻めて、攻めきろうとしたときカウンターで切り返される。フェデラーが徐々にネットに出る機会が減ってきているのは、ストロークが強くなっただけでなく、カウンターショット対策の一環でもあるのだろう。去年は見事にヒューイットやナルバンディアンを圧倒した。しかし、クレーの上での今のナダルはヒューイットやナルバンディアンの上を行く。
QFでの対フェラー戦はそれをよくあらわしていた。第一セット、攻めているのは明らかにフェラーである。しかし、ナダルの防御は崩れない。ボールを返す。これでもかとハードヒットを繰り返し押切ろうとするフェラーだが、ナダルの前に攻めきれず、先にミスをしてしまう。そして、ここぞという時にカウンターショットの餌食になる。競り合いの上、第一セットを取ったのはナダルであった。そして、フェラーはその鉄壁の防御と鋭いカウンターの前に戦意を失っていき、最後は自滅の形で試合を終えた。
SFでのフェデラーはQFでのフェラー同様、ナダルを圧倒しようと猛攻を仕掛けるだろう。マイアミでの苦戦の記憶を振り払うように。果たしてフェデラーの攻撃はナダルの防御を突き崩すことが出来るだろうか。もしも攻めきれずに試合が長引けば、それはナダルのペースである。そして、マイアミの二の舞はナダルの方も決してしまいと心に誓っているはずだ。一度リードを奪えば、今度こそそのリードを守りきる。お互いに勝利の鍵を握るのは第一セットだ。
期待と興奮が徐々に高まっていく。この試合の行方は今年の全仏男子シングルスの優勝の行方だけでなく、今後数年間のATPにおけるトップ選手達の力関係に大きく影響を与えることになるだろう。皇帝フェデラーの覇業、生涯グランドスラムへの最大の難関、準決勝ナダル戦。ナダルはいつもどおりの試合をするだけ。天に試されているのはフェデラー、挑んでいるのはフェデラー、その覇権、磐石のものに出来るか。
決戦の時は来た。いよいよ明日、男子シングルス準決勝である。
2005年06月03日 石ころたちの青春
「駆け上る階段を 時には転げ落ち
胸弾む道の国へ 夢中で飛び込んだ」
フェデラーとナダルが順当にQFを突破し、SFで当たることが決まった時点で、翌日の残り二つのQFは世間の目から完全に消え去り、人々はナダル対フェデラーの試合の行方のみに視線が注がれていることだったろう。如空の目にもそう映る。だが、当事者達はそんなことなど関係ない。彼らもまた選ばれし8人の一人、少年時代テニスのエリートとして育ち、グランドスラムのタイトルを取ることを期待され、また自身も夢に見たことだろう。このブログで「地味じゃー」といわれても、本人たちには関係ない。ついに掴んだグランドスラムのSF進出のチャンス。彼らは夢中でその人生最大のイベントに挑む。
「無限大のプライドで 夢を膨らませて
何度でもドジを踏む 石ころ達がいた。」
ダビデンコ、ロブレド、プエルタ、カナス。この4人を4人とも知っている、テニスを見たことがある。どんなテニスをするかを知っている。そんな人がどれほど日本にいるだろう。ほとんどいないはずだ。如空はテニス雑誌を通じてロブレドの存在だけは知っていたが他の3人は一年前まで知らなかった。去年ケーブルTVに加入してWOWOWとGAORAのテニス中継を見られるようになり、ロブレドの他にダビデンコとカナスの試合を見る機会があった。しかし、プエルタにいたってはこの全仏が始まるまで、その存在自体を知らなかった。テニス雑誌も読まず、CSを見る機会のない人にとってはこの4人は4人とも知らない、道端に転がる石ころのような存在だろう。
「振り向けば 悲しいくらい無様な未熟者
旅はまだ始まり チャンスはまだ来ない」
彼らは決して若くない。これまでチャンスに恵まれなった。そしてこの先、グランドスラムを取るチャンスに恵まれる保障もない。ナダルが18歳で光り輝き、恵まれたチャンスをことごとくモノにしていく人生とは大きく違っている。やはり彼らにはナダルやフェデラーなどのトップ選手にあって自らが持たない何かがあるのだ。しかし、世界のトップの100人の打ちに入るほどの選ばれし存在であるにもかかわらず、それでもTVの中のテニスの世界では石ころのような存在でしかないとはなんと厳しい世界なのか。
「誰よりも自惚れで 誰よりも臆病
傷ついて 倒されて 奮い立つライオン。」
それでもここまで来た。来たからには負けたくない。そんなお互いの思いが赤土のコート上で衝突し、互いに引かない。
ダビデンコ 36 61 62 46 64 ロブレド
プエルタ 62 36 16 63 64 カナス
白熱するQFは共にフルセットに持ち込まれる。戦術や技術やパワーなどは最後には関係なくなっていた。後半はメンタルの勝負だった。WOWWOWの中継で見ることが出来たのはダビデンコ対ロブレド戦のみだったが、ファイナル・セットの攻防はまさに両者の心理をはっきりと映し出していた。
テニスの内容そのものはダビデンコの方が上である。オーソドックスできれいなテニスをする。まるでテニスの教科書のようだ。相手を左右に振り、オープンコートに鋭くボールを入れてポイントを取る。しかし、リードして大事な場面になると何故かショットにキレがなくなる。ボールの角度が甘くなる。ボールがセンターに集まる。明らかに勝利を意識して臆病になっているのだ。そしてロブレドは逆に追い詰められると開き直り、神懸り的なスーパーショットを連発し、ピンチをしのぎ、チャンスを掴んで追い上げる。ダビデンコはロブレドを仕留めるのにかなりの時間を費やした。それでも最後は心を奮い立たせて素晴しいテニスを展開し、勝ちきった。
「柵を越え ゴールを越え レールを踏み外し
何所までも止まらない 石ころたちがいた」
S・ウィリアムズ不在、反対側の山でクライシュテルスとダベンポートが敗退し、自らもクズネツォワとシャラポワを連覇した時点でエナンの優勝はほぼ確定的になった。SFも決勝も消化試合と見ている人が多いだろう。如空もそう見ている。ロシア勢の中堅ペトロアも26 36で敗退した。エナンの決めのショットの角度・コース・スピードの厳しさ、そしてあの身長からなぜ打てると驚くばかりの強力サーブ、エナン強い。ペトロワは完全に引き立て役だった。
リホヘツォワは更に厳しい現実が待っていた。ピエルス好調とはいえ、ウィリアムズ・シスターズ、ベルギー勢、同じロシア勢、あるいは現No1ダベンポート、それ以外の選手に16 16と圧倒されるなどと思いもよらなかっただろう。リホフツワは29歳、ツアーではもうかなりの高齢になる。最後の晴れ舞台かも知れないこの全仏準決勝でこんな惨めな試合になるとは。ピエルスにフォアを打たせすぎた。ピエルスはクロスの打ち合いからストレースに切り返すのが上手い。ウィナーを量産していた。しかし、敗れたロシアの二人はキャリア最高の位置まで駆け上がったのだ、そこにいること自体が自らの限界を破っているのだ。それはそれで素晴しい。
「もぎたてのリンゴほど きれいじゃないけれど
蹴飛ばされてもくじけない 石ころたちがいた。」
アルゼンチンのマリアーノ・プエルタは数年前にこの全仏で活躍したフランコ・スクーラリにテニスが似ている。先にラケットを担いでからトスを上げる独特のサーブ・フォーム、豪快なフォアハンド、鋭い片手打ちのバックハンド、何より追い詰められてからの集中力が素晴しい。ノーシードながらもここまで勝ち上がってきたのはまぐれではない。SFでもダビデンコに終始、主導権を握られそうになりながらも果敢に反撃し、最後にまで喰らい付いた。雨で試合の開始が1時間半遅れた。後に控えているのは世紀の対戦、ナダル対フェデラーである。見ている人たちは「とっとと終われ、いつまでも待たせるな、早くナダルとフェデラーを見せろ」と思っているに違いない。如空もまたそう思ってTVを見ている。しかし、ダビデンコが勝って終わりそうな雰囲気のなか、プエルタはくじけず、気持ちを切らさず、運命に逆らい、ついに流れを変えた。63
57 26 64 64と壮絶な打ち合いのすえ、プエルタは決勝進出の切符を手に入れた。
ナダルとフェデラー、あるいはエナンのように光輝くトップオブトップの選手達に比べれば石ころのように一般人に思われてしまっている知名度の低い選手達。年齢を重ね、20代にして「ベテラン」「キャリア終盤」と言われる彼、彼女達。しかし、本人達は何物にも代えがたい素晴しく充実したときを過しているに違いない。そのことに気付くのは、それが過ぎ去ってからだろうが。プロスポーツの選手にとってそのスポーツは青春の全てにはなっても人生の全てにはならない。現役を終えてからの人生の方が長いのだ。長い人生の中で見れば彼らは、彼女達はまさに青春の真っ只中である。ナダル・フェデラー・エナンの光の影で、我々一般人の関心の外側で、石ころたちの青春が光り輝く。
「何所にでもころがっている でも何所にも見つからない
今は誰も気付かない 石ころたちの青春・・・・・・・」
※「石ころたちの青春」作詞・作曲:加藤登紀子
2005年06月04日 フェデラーのガリア戦記2005 終幕
フェデラーが鋭い逆クロスからネットに出る。そこへ追いついただけでも信じられないのにそこから更に鋭いパスを外側からコーナーに切り返し、ナダルが最初のポイントを取った。次にフェデラーはナダルをコートとの外に追い出すとセンターに戻ろうとするところの逆を突き、鮮やかなファハンド・ウィナーを決めた。素晴しいウィナーの応酬で始また。期待通りの好勝負を予感させる出だしである。しかし、その後の試合内容はあらゆる予想を裏切る内容となった。
2005年全仏オープン男子シングルス準決勝第二試合
ナダル 63 46 64 63 フェデラー
第一セット、フェデラーは対ナダルの意識が過剰であることが明らかだった。MSハンブルグ大会決勝対ガスケ戦同様、フォアを強打しようとしすぎてエラーを連発していた。しかし、それ以上に意外だったのは、ナダルが攻めていることである。いつもよりトップスピンの弾道が低い。低く、鋭く、そして速い。ガンガン攻めるナダルに対してエラーを連発するフェデラー。フェデラーもリスクをとって攻めているのでナダルのサービスゲームをブレークするが何よりナダルが攻めてフェデラーのサーブを破りまくる。試合は荒れた。女子の選手の試合のようなブレーク合戦の末、ナダルが取る。
第二セット、ナダルの攻めが甘くなった。ボールの弾道がいつものスピンボールになっていた。そしてフェデラーのプレーからはミスが減っていく。クレーの上でも地力に優るのはフェデラーだ。それを証明するかの様な内容でフェデラーが取る。
このままフェデラーのペースになるだろう。そう思った。だが、そうはならなかった。
第三セット、サービスゲームのキープ合戦になり、試合は落ち着いたかのように思われた。攻めるフェデラーに守りカウンターで切り返すナダル、ようやく予想通りの展開になる。だがフェデラーの攻めはいつもより甘い。ミスもまた増えてきた。ナダルがブレークした。そして最後第10ゲームもブレークしてフェデラーからセットを奪った。ナダルは特別なことは何もしていない。いつも通りのテニスをして、フェデラーからセットを取った。
このセットが終わった瞬間、フェデラーから自信が失われた。第4セット、赤土の上に立っている男は常勝無敗の皇帝ではなかった。先にブレークして先行するが、それはただボールをつないで相手のミスを待った結果だ。ナダルは勝利が見え初めてやや固くなったのか、フェデラーがペースを落として戸惑ったのか、鉄壁のディフェンスにミスが目立ち始めている。フェデラーの3-1になった。スコアだけ見ていればこのまま、フェデラーが第4セットを取ってセットオールとなると予想するだろう。しかし、TVの中のフェデラーの姿にはそれを確信させるだけの覇気がなかった。そして、不安は的中し、そこから5ゲームナダルが連取し、フェデラーは今年3度目の敗北を喫した。
雨天遅延による試合開始の遅れに加え、第一試合のダビデンコ対プエルタのSFがフルセットにもつれ込む大接戦だったため、第二試合の開始は大幅に遅れた。緯度が高いパリで夏至が近い6月のことだ、日没は21時45分だがフルセットになるとそれまでに終わらないだろう。日没順延だとフェデラーが息を吹き返すかも知れない。そこまで計算したかどうかはわからないがナダルはこのセット後半、集中して気落ちしたフェデラーを一気に倒した。WOWWOWは放送予定時間の追加延長枠を使い切り、この試合をLIVEで伝え切れなかった。翌日、女子の決勝が早く終わったため、この試合の結末を録画で放送したが、その後なんら劇的な展開があったわけではない。ナダルはいつも通りのプレーを淡々として、勝ってしまった。
如空が勝手に「皇帝」という称号を与えていているロジャー・フェデラー、彼がその皇帝の座について3回目の敗北である。しかし、今回の敗北は前二回の敗北とは与える影響が違う。
全豪サフィン戦は互いにマッチポイントを取り合う白熱した接戦だった。何よりサフィンがゾーンに入っており、ゾーンに入ったサフィンは手がつけられないということは誰もがわかりきっていることである。それはモンテカルロ大会の対ガスケ戦も同じである。フェデレーといえど一年間常勝無敗というわけには行くまい。これは交通事故にあったようなものだった。
今回は違う。フェデラーの側に問題は確かにあった。対ナダルへの意識過剰、フォアハンドの回り込みの際のミス多発(これはサウスポーからのトップスピンにまだ完全にアジャストしていないためと思われる)、サービスのコースも少し甘かった。日没順延を予想して集中力を最後に切らしていたという油断もあっただろう。しかし、フェデラーはそんな状況でも今まで勝ってきたのだ。だから今の地位にいるのだ。そのフェデラーが、いつも通りのテニスをする相手に負けてしまった。ナダルの偉大さをも認めつつも、「ナダルが出来たなら俺も」と思った選手は多いはず。皇帝の権威の前にひれ伏して、戦う前から自分で作り出してしまった皇帝の圧力の前に屈していた選手達がその圧力から解放されてしまうと、さすがにスロースターターのフェデラーは苦戦してしまう。時には事故も起こるだろう。
次のウィンブルドンでフェデラーにはそのキャリアの上で大きな転換期を迎える。ここで3連覇をするだけでは駄目だ。それこそセットを一つも落とさず、7戦全てストレートで圧勝するくらいのことをしないといけない。
全仏制圧どころではなくなった。磐石と思われた皇帝の覇権は早くも試練に立たされる,
2005年06月06日 2005 全仏オープン 女子決勝
2005フレンチ・オープン 女子シングルス決勝
エナン 61 61 ピエルス
SFでリホフツォワに6161で快勝したピエルスが、同じ6161のスコアで圧倒された。エナンの側には微塵の迷いも揺らぎもない。これが一年近くツアーを離れていた者のテニスかと驚かされる磐石の強さである。ピエルスは途中から完全に戦意を喪失していた。それほどまでに凄まじい嵐のような2セットであった。
この大会、男子はそれなりに充実している。シードダウンの末、地味な終盤戦となったが、ナダル対フェデラーという主役同士の一戦は期待通り行われたし、何よりフルセットにもつれる接戦が続出、試合の内容自体は大変充実した素晴しい大会である。
対する女子はエナン対クズネツォワ、ダベンポート対クライシュテルス以外に見ていて面白いと思える試合がなかった。QFより上の試合では近年まれに見る凡戦続きの全仏になった。
クレーでは球足が遅くなるのでラリーが長く続く、ビックサーブやウィナー級のショットが追いつかれて拾われる。それがクレーだったはず。実際、男子のテニスはそうなっている。しかし、女子はサーフェイスの違いなど全く関係ない。勝つ選手はみな、早い展開でポイントをとり、ウィナーを簡単にとってしまう。粘ることで有名なシャラポワが、全然粘れていなかった。ハードコートや芝の方がよっぽどラリーが長続きしているのではないだろうか。試合が始まって数分で結果が見えてしまう。女子はそんな試合ばかりだった。
エナンにとってはこの二度目の全仏タイトルは通過点でしかない。狙うは生涯グランドスラム、目標はウィンブルドン。二週間後、ドーバー海峡を渡って芝の上に乗り込む彼女を待ち受けるために、ウィリアムズ姉妹が、ダベンポートが、クライシュテルスが、クズネツォワが、そしてディフェンディングチャンピオンシャラポワが、エナンを阻止するために調整に入っている。今なら差を埋めることが出来る。エナンは手の届くところにいる。ここでウィンブルドンを取らせると、当分手の届かないところに行ってしまう。WTAの山場は赤土の上でなく、二週間後の芝の上に来る。
2005年06月07日 2005 全仏男子シングルス決勝
2005年フレンチオープン 男子シングルス決勝
ナダル 67 (6) 63 61 75 プエルタ
「事実上の決勝戦」を勝ったのだから、ナダルにとっては単なる優勝セレモニーにしかならないだろう。とまではさすがに楽観してはいなかった。何せサウスポー対サウスポーである。ここは経験がモノをいうだろう。それにQF・SFを見る限りプエルタは強い、そして全然地味じゃない。観客をひきつけるアグレッシブなプレーをする。プレー自体は18歳のナダルの方がよっぽど地味で爺臭い。プエルタはフルセットの試合を連続してこなしてきたので体力的には苦しい状況ではある。しかし、去年のガウディオ対コリアといい、2002年のコレチャ対フェレーロといい、1997年のクエルテンといい、ノーシードや知名度の低いほうに勝利の女神が微笑みやすいのがローランギャロスだ。ひょっとして・・・・と思っていた。
案の定、第一ゲームはTBの末、ナダルが落とした。二人とも固い、固い。WOWWOWの方は録画してあるのでTV大阪の地上波中継の方を一時間遅れで見ていたが、解説の松岡修造、伊達公子共に決勝の二人のプレーを最初は酷評。「足が全然動いていない。」「ドロップショットに足が前に出て行ない」「ボールが浅い」「ぜんぜんボールが伸びていない」とぼろくそだった。言われても仕方ないところもある。プエルタはともかく、あのクレバーなナダルさえもいつもと違っていた。確かにボールに一押しが足らなかったような気がする。先に落ち着いたのはやはりプエルタで、ブレークの数で並ぶとTBを見事に競り取った。
第二ゲームでナダルの方も落ち着く。ここで2セット連取。問題は第4セットであった。プエルタにはいくつもチャンスがあった。フルセットに持ち込めばわからない展開だった。結局ナダルに優勝を許したが、ここで一発屋で終わらず、去年の覇者ガウディオの如く、末永くそのアグレッシブなテニスを見せて欲しい。
今年の全仏男子シングルスは地味な顔ぶれながらも白熱した接戦が多かった。そしてナダル対フェデラーの大一番が実現したことは素晴しい。その結果が今後どのように他のトップ選手たちに影響を及ぼすのか、その推移を見守っていきたい。熱戦を届けてくれた選手達に感謝。
今年の赤土の上の祭典は終わった。舞台はドーバー海峡を渡り、ブリテンの芝の上に移る。
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