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第022房 2005年 MSモンテカルロ大会 TV観戦記 (2005/05/06)

 

2005年04月12日 農耕民族型女王の座、大和なでしこ女王の座

ヨーロッパクレーの開幕戦、スペインのバレンシアオープンではロシアのアンドレーフが、そしてモロッコのカサブランカではアルゼンチンのブエルタがそれぞれ今季初優勝を遂げた。この二人のことを知っているという人はかなりのテニス通だ。テニス界の一般庶民である如空もまた知らない。こういう地味な選手が突然大活躍するところがクレーの面白い所だ。

さて、今週は欧州赤土戦線の本格的幕開けを告げるマスターズシリーズ第三戦、モンテカルロ大会である。第一シードフェデラーの山はクエルテンがいる。第二シードサフィンの山にはモヤが、第三シードヘンマンの山にはコリアが、そして第四シードガウディの山にはナダルとリュビチッチがいる。なんとも豪華な顔ぶれではないか。ヒューイットは相変わらず負傷で療養中、ロディックは欠場した。彼のランキングではMSの出場はほとんど義務に近いものがあるのだがどうしたのだろう。手首のけがが長引いているのか。翌週アメリカで行われるクレーコート選手権に標的を絞ったのか。後者ならよいのだが。GAORAは今回気合を入れて決勝のみならず準決勝も生中継だ。

と思ってGAORAのWEBを見ると、なんと録画中継に変わっている。準決勝は開始時間が変更になったそうだ。まあ、録画の方がダブルスが長引いたり、雨天遅延なったりした時には編集して中継してくれるのでそちらのほうが安心は出来るのだが。

WTAでは豪華メンバーを揃えたはずのボシュロム選手権でシード勢が自分のシードをろくに守れずに敗退していった。そんな中No1ダベンポートだけがシード通り、一度も負けることなく一週間勝ち残りようやく今季二勝目を上げた。インタビューによるとダベンポートはヨーロッパのクレー大会は参加せずにスキップするらしい。ヨーロッパで一ヶ月近く転戦するとホームシックになり、いいプレイが出来ないから、などという何処まで本音で言っているのかわからない理由で欠場する。旅が嫌いな人はプロのテニス選手にはなれない。プロテニスは賞金稼ぎだ。賞金を求めて世界中を転戦する。農耕民族タイプには不向きな世界なのだが・・・・・

さて、今週はWTAでもクレー上でティアT大会ファミリーサークルカップ大会が行われる。リンジーがホームシックにかからない場所、アメリカ国内チャールストンが会場である。農耕民族型女王ダベンポートが堂々の第一シード、第二シードディメンティエワ、第三シードミスキナ、第四シードV・ウィリアムズの布陣、モリックもエナンも参戦している。

一方で日本では浅越のランキングが杉山より上になったことでちょっとした騒ぎになっている。如空としては伊達引退後8年間ものあいだ杉山を誰も日本人選手が抜けなかったことの方が驚きである。一時トップ10に入る勢いだったこともある杉山。年末のWTA最終戦で選ばれし8名の一人にもなったこともある。しかし、不調であった時期も多々あり、20位台の争いになった場合、抜くチャンスはいくらでもあったろうに。結局いつも杉山が日本のトップだった。男子に比べればはるかに充実している日本女子ではあるが、伊達引退後のこの8年間で杉山・浅越を越える人材は生まれなかったことになる。杉山・浅越ももうキャリア晩年に入っている。このまま誰にも抜かれることなく日本のエース二人は引退するのだろうか。千代の富士を破った貴乃花のごとく、サンプラスを破ったサフィン・フェデラー・ヒューイットのごとく、勝利と実績を持って引き継がれるエースの座であってほしいと願いたい。

 

2005年04月15日 充実のモンテカルロ

モロッコで行われているマスターズシリーズ第三戦モンテカルロ大会は充実のベスト8がそろった。
ゴンザレスに梃子摺りながらも勝ち進むフェデラーはガスケの挑戦を受ける。スペインのナダルと並ぶ若手クレーコーター期待の星、フランスのガスケ、一度映像で試合を見てみたいものだ。そしてガスケとよく比較されるナダルは共に南米クレーコートシーズンで活躍したガウディオとぶつかる。今年の欧州クレーシーズンを征するのはどちらだ、おそらく今年高いラウンドで何度か行われるだろうクレーの強者同士の対決が早くも実現する。去年のクレーを沸かせたコリアは好調フェラーと対決、そしてなんと第二シードサフィンを破ってあの男、ファン・カルロス・フェレーロが勝ちあがってきている。ボランドーリ相手に好調を維持できるかモスキート。どれも見たいぞー。
もし、SFがフェデラー対ナダル、コリア対フェレーロなどという組み合わせが実現すれば大いに盛り上がることだろう。熱き赤土の上の戦いに期待しよう。

アメリカ・チャールストンのファミリーサークルカップではQFでNo1ダベンポートがエナンと激突する。ビーナスもミスキナも途中でダウンし、盛り上がりに欠けるティアT大会である。このQFは事実上の決勝戦になる可能性大だ。忘れられがちな第二シードディメンティエワも勝ち上がっている。決勝もそれなりに盛り上がるかもしれない。

この週末はかなり楽しめそうである。

 

2005年04月16日 2005 MSモンテカルロSF

青い海に面した白い高台の上にある赤土のコート、マスターズシリーズ第3戦モンテカルロ大会の会場のロケーションは最高である。高い位置の客席からはレッドクーのコートとコバルトブルーの地中海が同時に見られる。コートを囲んで普通客席は4方向に配列されるが、この会場は3方向だけ客席を配して、海の見える方向は客席を外してある。海に向かって会場が開かれているのだ。実に美しい会場だ。この美しいコートの中で今年のヨーロッパクレーの鍵を握る4人が激突した。

第一試合は2004年のチャンピオン・コリア対2002・2003年のチャンピオン・フェレーロの対決である。共に去年に苦しいスランプを経験したもの同士、全仏決勝で敗退を経験した同士、復活をかけて、そして今年のヨーロッパクレーの王者の座をかけて、二人はぶつかる。

第一セット、いきなりラブゲームでフェレーロのサービスゲームをブレークしたコリアは第6ゲームもブレークして、一気に6-2でセットを決めた。
第二セットはフェレーロが先にコリアのサービスをブレークした。次のコリアのサービスゲームもブレークされた。フェレーロの4-0。このまま第二セットはフェレーロのモノかと思われた第5ゲームで今度はコリアが連続ブレークバックで4-4、そして第8ゲームフェレーロのサービスゲームで0-40までフェレーロを追い詰めるコリア。このまま決まるかと思えばフェレーロが6ポイント連取で取り返す。
お互いの好不調の波が行ったり来たりするこの試合。その間隔は試合が進むにつれ短くなっていく。まるでシーソーの動きが徐々に激しくなっていくようだ。
5-5になったところで最後の波はコリアに来た。最後に2ゲームを連取し、コリアが決勝進出を決めた。

この試合の鍵は技術面よりメンタルだったろう。共にスランプ明けでの得意のクレーである。早くポイントを決めたいという場面で集中力を切らさず粘れたのがコリア、長いラリーで先にミスしてしまったのがフェレーロであったと思う。第二セットは接戦であり、セットオールにするチャンスも多々あった試合であるが、やはりコリアに対してフェレーロはまだ本調子になっていない。早く本来の彼のプレーを見たいものだ。

準決勝は雨で進行が遅れた。そのため結局GAORAはSFをライブ中継することになった。日本時間で午後9時からといういい時間帯での好カード、結構視聴率も良かったのではないだろうか。

ところで、ラケットをプリンスから今年ヘッドに代えたフェレーロ君、アガシと同じヘッドのニューラケットを使っているが、使い心地はいかがですか?フェレーロにはプリンスの緑のラケットをクルクル回しながらぴょんぴょん跳ねて相手のサーブを待つリターン直前のしぐさが非常に印象的だった。それがヘッドの赤になると少しイメージが違う。フェレーロには赤より緑のほうが良く似合う。ついでに前から感じているのだがタッキーニのウェアもフェレーロには似合わない。特にこのモンテカルロ大会で頭に巻いていた黒(あるいは白)のバンダナも似合わない。ラケットメーカーを代えたついでに今年はウェアも替えてみたどうだ。


第二試合はフェデラーを破ったガスケとガウディオを破ったナダルの対決である。

フェデラーは25で連勝がストップした。全豪でサフィンに負けたときが26連勝中だった。もし、全豪でサフィンに負けず、決勝でも勝っていれば、50連勝を超えていたことになる。恐ろしい男だ。その恐ろしい男の連勝記録をこの大会のQFで止めたのは、現時点でATPツアーポイント0のフランスの少年、ガスケである。そしてその彼の前に立ちふさがるのがスペインの少年ナダル。誕生日が15日違うだけの18歳同士である。ナダルもまた、二週間前のマイアミでフェデラー相手に2セットダウンまで追い詰めた。フェデラーが支配する今のATPに乱を起こすべく名乗りを上げる二人がぶつかった。

第一セット、先にブレークしたのはナダル、しかしセットを取ったのはガスケ。第10ゲームでガスケがブレークバック、その直後のゲームをナダルにブレークされナダルの6-5、ナダルのサーブインフォーザマッチで再びブレークポイントを握るガスケ、最後に見事なバックハンドの逆クロスを決めてタイブレークに持ち込んだ。攻めるガスケに守るナダル。TBもナダルがリードするも逆転でガスケが取った。

ナダルも話題ばかりが先行して映像を見たのは今年になってからだったが、ガスケも今回始めてそのテニスをみた。ナダルもハードヒッターかと思いきやトップスピンで相手を動かし、試合を作るコリアのような老獪な戦術家で意外な印象を受けた。同じように、ガスケも想像していたイメージとは違っていた。ガスケはその振り抜きのよい大きなスイングの片手打ちバックハンドばかり話題になっていたが、ガスケのテニスはストロークからのハードヒット一遍倒でなく、ネットにも良く出るし、サーブ&ボレーも混ぜる。チップ&チャージも見せる。とにかくコート中走り回り何所からでもエースを狙ってくる。そのテニスはアメリカのジェームズ・ブレークや同じフランスの先輩グロージャンに似ている。若いくせに意外と曲者なのがガスケである。
しかし、フォアとバックのストロークがブレークやグロージャンよりも強力である。第一セット、ナダルもストローク戦でよく対抗したが、クロスに打たれるコースの角度が明らかに厳しいのはガスケのほうである。特にあの大きなスイングのバックハンドにはよほど自信があるのか、短くなった球をたたく時、普通はフォアに回りこむ場面でガスケはバックハンドに回り込んで叩き、バックハンドウィナーを量産した。ナダルはガスケのバックを恐れてサーブもストロークも彼のバックにボールを入れられず、フォアにボールを集めていた。攻めが多彩な上に、攻撃の基本となるストロークが強力とあってはその攻撃をしのぐことは容易ではない。第二セットも中盤まではガスケがナダルを押していた。

第二セットの前半、二ゲームをガスケが連取した後、ナダルが5ゲームを連取した。この辺りから試合の流れが変わり始めた。ストロークで押して、一気にネットに詰めるガスケをナダルのバックハンドパスが抜き返す。コートの外からポールを巻き込むショットにトップスピンロブ。まるでヒューイットの如く、攻めるガスケをカウンターショットで抜き返すナダル。ガスケはそれでも崩れず、ブレークバックし果敢に攻め続けるが、結局ナダルが辛抱のテニスで取り返し、6-4でセットオールとした。

ファイナルセットも攻めているのはガスケである。ガスケのボールは深く勢いがある。ナダルのボールはガスケに押されて浅くなり、サービスライン辺りに落ちてガスケに叩かれる。しかし、最後の詰めのところでナダルに切り返されてポイントでは互角である。2-2になったところで長いジュースがあった。どちらも決定的な場面で攻めきれずダラダラとジュースが続く。最後に粘りきったのはナダルだった。その後も何度もピンチを向けるが、粘り、守り、耐え、ナダルが勝ちきった。

この試合、勝ったのはナダルだが、試合の一つ一つのポイントを見れば攻めていたのはガスケであり、ミスが減っていればガスケが勝ったであろう試合内容だった。ウィナーは間違いなくガスケの方が多い。後半、体力と気力が若干衰えたところが惜しかった。ガスケのウィナーの中身はストロークだけでなくボレーウィナーとスマッシュウィナーが半分であるし、ストロークウィナーはそのほとんどがバックハンドである。フォアハンドのストロークを主体にしたストローカーがクレーコートスペシャリストの本領とするならば、ガスケの存在はクレーコートの上でも如何に特異かということがわかる。むしろクレーの王道を進んでいるのはナダルのほうだろう。高い弾道と高いバウンドのフォアハンドトップピンからの攻めはまさにクレーコートスペシャリストの王道だ。これから何度も対戦するであろうこの二人、しかし、潜在能力でガスケの方に魅力を感じてしまう如空であった。

さあ、決勝はコリア対ナダル。今年のヨーロッパクレーを占う上で大きな意味を持つ。その行方に注目しよう。

 

2005年04月19日 2005 MSモンテカルロ大会 決勝

ナダル 63 61 06 75 コリア

コリアがナダルに負けた。クレーの大きな大会の決勝で負けた。相手はモヤでもガウディオでも他の歴代全仏チャンピオンでもない、フェデラーでもない。18歳のナダルに負けた。この事実はガスケがフェデラーの連勝を止めたことよりも大きい。フェレーロの復活にはまだ遠く、クエルテンにいたっては諦めムードが漂う中、現在クレー最強の男だったはずのコリアが負けた。スランプ明けとはいえ、全仏の大本命であるはずのコリアがクレーで負けた。

第一セット初頭はコリアが主導権を握っていた。サウスポーからの高いバウンドのトップスピンになんら動じることなくナダルを左右に振り回し、ストローク戦を制していた。しかし、サービスがピリッとしないコリアはプレイ全体もしまりがなくなっていく。ナダルのサーブをブレークしてスタートしたにもかかわらず、ブレークバックを途中で許し、更にゲームを連取され、3-6で第一セットを落とす。
小雨の降る中、流れを変えるために一度中断したそうなコリアに対して、主審は何度もそのアピールを退け試合を続行、中途半端な気持ちでプレイするコリアは第二セットでは明らかに集中できず、ナダルに楽にセットを取らせてしまう。
開き直ったコリアは雨が上がると徐々に元気になり、ナダルのディフェンスを振り切り攻め勝つシーンが増える。第三セットはなんと6-0でセットを取り返す。

試合が期待通りの接戦になったのはようやく第4セットになってからだ。お互い1ブレークずつ取り合い、長いラリーと長いジュースを交互に取り合う。しかし、ナダルの6-5になった時点でコリアは力尽きた。タイブレークに持ち込めずに18歳のマスターズカップチャンピオンの誕生を許してしまった。

コリアはベストでなかったにしろ最悪の状況でもない、好不調の波が小さく行ったりきたりする、ごく普通の状況だった。それはナダルも同じだ。第三セットいきなりの0-6の団子劇において両者に特別何かが起こったわけでなく、ただ波がコリアに6ゲーム連続でよせただけのことである。

この大会でモヤが初戦敗退していたことがせめてもの幸いだったというべきだろうか。ナダルは去年の全仏覇者にして今年の南米クレーシーズンで2勝を上げているガウディを破り、フェデラーを止めたガスケを倒し、復活の兆しを見せ始めている元赤土の王フェレーロを挫いた去年のクレーの覇者コリアを葬り去った。このナダルの優勝の軌跡の中に、去年コリアと双璧をなす活躍をしたモヤがQF以上で絡んでいたとすれば、直接対決がなかったとしてもナダルは2005年欧州赤土戦線での最強の称号を開幕戦で手に入れてしまうところだった。

全仏までに再戦して一度ナダルをやっつけておきたい奴のリストにコリアが加わった。ナダルはこの一ヶ月の間にさらにモヤをリストに加えたいところだ。そうなればナダルは全仏の大本命になる。それを簡単に許すのか先輩達よ。

予想を上回るナダルの主役ぶりに観客達は戸惑いながらも拍手を送り始めている。そんなヨーロッパクレーの開幕である。


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