第021房 2005年 パシフィック・ライフ・オープン ナスダック100オープン TV観戦記 (2005/05/06)
2005年03月14日 未完の大器
インディアナウェルズでパシフィック・ライフ・オープンが開幕した。
ティアT大会である女子は第一シードダベンポート、第二シードモーレスモ、第三シードシャラポワ、第四シードディメンティエワである。ウィリアムズ姉妹はいないが、それでもクズネツォワを第5シードにまで落としてしまう充実の顔ぶれである。クライシュテルスもノーシードながら出場だ。ベスト4あたりに進出して存在感を示したいところだろう。何よりも早くランキングを上げてシードをもらえるようにならなくてはいけない。いずれあたる相手とはいえ、一回戦でダベンポート、モーレスモ、シャラポワ、Sウィリアムズなどとあたるかも知れないという今の位置はタフだ。注目は日本の藤原里華、月曜日の時点で4回戦進出を確認した。凄い。
マスターズシリーズ第一戦である男子は第一シードフェデラー、第二シードヒューイット、第三シードロディック、第4シードサフィンのハードコート四天王揃い踏みである。順当に行けば去年末のマスターズカップ、そして今年年頭の全豪とまったく同じSFの組み合わせになる。そしてほぼ順当に行くことは間違いないだろう。注目は第7シードモヤと第3シードロディックとのQFでの対戦だが、そこ以外では波乱はおきそうにない。(
今年の全豪オープンは如空だけでなく、多くの人々が「ここ数年のグランドスラムで最高の大会」と賞賛している。特に男子は上位20位までの選手が全員出場、1回戦から好カードがあり、熱戦・接戦・死闘が繰り広げられ、地元の英雄ヒューイットがタフゲームを繰り返して決勝進出、もう一方の山では去年の後半から常勝無敗だったフェデラーをフルセットの末、サフィンが破り、3度目のチャレンジで全豪ファイナル勝利、ヒューイットを下し優勝するというとてもドラマチックな展開だった。文字通りここ数年で最高のグランドスラムであり、いろいろな面で歴史に残る大会になるだろう。
その歴史的意味を問う時、注目されるべきはサフィン・ヒューイットの活躍だけでなく、フェデラー連勝が止められたことだけでなく、最大の意義は男子トップ4シードが4人ともシードを守りSFベスト4にそろって進出したことだと思う。フェデラーが頭一つ抜けた存在であり依然として最強のNo1選手であることに代わりはないのだが、それでもハードコート上ではこの4人が4人以外の選手に負けることはほとんどなくなってきた。フェデラーの君臨する皇帝の時代であると同時にサフィン・ヒューイット・ロディックを加えた四天王の時代でもあるのだ。
サービスキープを戦略上の主目的に置き、接戦を1ブレイク、あるいはタイブレークで勝ち取る「サンプラス型」選手の筆頭はロディック。ブレイクの数で相手を上回ることを戦略上の主目的とする「アガシ型」選手の代表はヒューイット。そしてサンプラスとアガシを掛け合わせ、サービスゲームでもリターンゲームでも強い、最も理想的なテニスをするのがフェデラーとサフィンだ。しかしサフィンはベストパフォーマンスを年間通じてコンスタンスに発揮できる選手ではない。ムラがある選手だ。ゆえに4人の中でフェデラーが最高・最強の存在ということになる。サフィンが一大会でもベストパフォーマンスを持続させればフェデラーを止めうる存在になるのだが、そう上手くいかないところが面白いところでもある。4人ともエントリーランキングでNo1を経験しているが、年間最終ランキングNo1だけはサフィンが取れていない。
ここで注意すべきはヒューイットの場合、サービスゲームがやや弱いといってもそれはフェデラー・サフィン・ロディックと比較してのことであり、5位以下の選手に対しては十分に通用するサーブとサービスゲームのキープ力・戦術を持っている。それに対してロディックのリターンゲームの弱さはフェデラー・サフィン・ヒューイットとの比較だけでなく、下位の選手に対しても当てはまってしまうところが辛い。特にセカンドではフォアの回り込みで攻めているがファーストでバックからのリターンはとても危うい。ストローク戦でもフォアの強打に頼りがちで戦術面に不安がある。四天王で最も不安定なのがロディックだ。
しかし、視点を変えてみると、ロディックはビックサーブとビックフォアだけであの地位にいるのである。彼にネットプレイが、リターン力が、ストロークでの戦術が、バックハンドストロークの向上が、フットワークとディフェンス力の向上、更なるメンタルの強さが、今欠けている何かが彼に加われば、ロディックはあるいは4人の中で最も強い選手となるかもしれない。如空がアンディ・ロディックを「未完の大器」と感じる所以である。
去年まで2年間ロディックを指導したギルバートコーチはロディックの危なっかしいテニスを安定させることには成果を上げたが、新しい何かを与えることは出来なかった。本来持っている力を常に発揮できるようには出来たが新しい力を見つけ出すことは出来なかった。そう思うのは如空だけだろうか。ロディックが今後どのようなテニスを目指すのか、如空は注目している。
2005年03月17日 サフィン君またですか・・・
全豪で優勝した時、そりゃあ絶賛の嵐で「大きな壁を乗り越えた」とこのブログで如空が断言までしたのに、直後の大会で一回戦敗退をやってのけ、如空の顔を潰してくれたロシアのマラット・サフィン君がまたやってくれた。
パシフィック・ライフ・オープン男子3回戦
テイラー・デント 7-5 6-4 マラット・サフィン
今週頭に「トップ4シードが彼ら以外の相手に負けることはハードコートの上ではほとんどなくなってきた」と記事に書いた如空の立場はどうなるんですかサフィン君、如空の立場は、全く。
スコア上は二セットとも1ブレイク差ではあるが本人曰く何度目かの「最悪の試合」だったそうだ。いいかげんに安定してくれよ。勝ち進んでくれよ。最低限シードは守ってくれよ。お前が止めなきゃ誰がフェデラーを止めるんだ。
今やツアーの若手の中で唯一といいてよいネットプレーヤーの生き残り、デントは時々このような大物食いをする。しかし、コンスタントに成績を上げるところまでは行かない。ここらで一皮剥けて欲しいところである。これが良いきっかけになればよいが。
フェデラーはサフィンとやりたかっただろうか?順当に行けばSFで全豪の対決が再現されるところだった。苦手を常に克服する王者、去年は対戦成績で負け越していたヒューイット・ヘンマン・ナルバンディアンを次々に葬り去り、この世に苦手な選手はいないことをアピールしているのがフェデラーだ。次のサフィン戦は彼を苦手にしてしまわないためにも徹底的にやっつけにかかるはずだ。サフィンはある意味命拾いをしたかも知れない。ヒューイットもロディックも去年の各大会の決勝でフェデラーに粉砕され、精神的に大きなトラウマを作ってしまったようなところがある。このインディアナウェルズでその自信を取り戻せるか。そのためにもフェデラーが待っているところまで勝ち進んで欲しいものだ。
フェデラーはこの数週間絶好調のリュビチッチとまた当たる。サフィンが消えた今、フェデラーの連覇に向けて最大の山はこのリュビチッチ戦かもしれない。
2005年03月19日 シャラポワ、串団子を喰らう
インディアンウェルズでは女子ベスト4が激突、ダベンポートとクライシュテルスが決勝進出を決めた。
この新鮮なファイナルの組み合わせを、期待した人はいても、冷静に予想した人は少なかっただろう。キムはここで復活の狼煙を高々と上げて世間にその健在振りをアピールする絶好の機会を得た。第二シードモーレスモが途中で敗退するという幸運にも恵まれたが、SFでディメンティエワを64 62 ときれいにストレートで下して実力は決して衰えていないことを示している。対するダベンポートはコート上の粘りでは文句無しにNo1であるシャラポワをなんと60 60と1ゲームも与えずに退けた。シャラポワ側に何があったかのかはまだ情報をつかめていない。しかし、東レ決勝ではダベンポートが怪我をしていたが万全のシャラポワにフルセットまで喰らいついた。そして今回万全の体制で臨んだのはダベンポートの方で、シャラポワは一ゲームも取れていなかった。シャラポワ贔屓の報道に常に接しているので少し曇りめがねで見ているところがあったのだろうか。地味なNo1ダベンポートの力というものは、実はわれわれが想像しているよりはるかに上のところにあるのかもしれない。さあ、キム・クライシュテルス、この地味なNo1を倒せるか。
男子はQFでベスト8が激突する。ボトムハーフではなんとヒューイット対アガシ、ロディック対モヤというファン垂涎の好カードがそろった。一方のトップハーフはフェデラー対キーファー、ヘンマン対カナスである。地味じゃー。サフィンがここまで勝ち上がっていないことがいかに大きいことか。ボトムハーフの4人は誰が決勝に進んでもおかしくない。決勝でフェエラーに挑戦するのは誰か。いよいよ今晩深夜〜明日早朝にかけてGAORAの中継も始まる。熱戦を期待しよう。
と記事を書いている間に地味なトップハーフのQFはフェデラーとカナスがSF進出を決めた。カナス、ハードコートでヘンマンを破るとは見事じゃないか。フェデラー戦でもいいところ見せてくれ。
2005年03月21日 使いづらいぞディーガ
昨日までハードワークが続いていたので日曜日は昼まで寝た。半日近く睡眠をとり、久しぶりにすっきりした。録画してあるマスターズシリーズ第一戦インディアナウェルズの男子SFを見ようとビデオの電源を入れると・・・・・録画に失敗たあああああ!
やむを得ず、明日の再放送を録画予約した。GAORAは再放送があって助かる。NHKBS、地上波は再放送がないから一度失敗すると二度とその映像を手に入れることは出来ない、WOWWOWのグランドスラム中継も決勝しか再放送してくれない。残念なことだ。
今年の正月に松下のディーガ(VHS・DVD・HDDのコンパチ)を購入して、録画に使用しているが、とにかく操作性が悪い。リモコンが非常に使いづらい。操作体系が統一されておらず、取扱説明書がないと操作できない。予約操作の画面もわかり辛い。
雑誌などで他社製品とスペックを比較してディーガに決めたのだが、他のVHS・DVD・HDDレコーダーも同じように使いづらいのだろうか?規格の違う3つのメディアを操作するのだから多少複雑になるのはわかるのだが、それにしても録画に失敗するなんて初歩的なミスが起こるような操作性は問題だぞ。今までのビデオは購入したその日にマニュアルを見なくても操作できたのに、何だこの使い辛さ、わかりにくさ、確実性のなさは。
失敗したのは2回目で、先週もGAORAのドバイオープンのSFを撮りそこなった。
松下のエンジニア諸君、もっと考えてくれたまえ。
というわけで、まだ映像を見られていないパシフィック・ライフ・オープンの男子SFはフェデラーがカナスをストレートで下して決勝進出を決めた。そして注目のボトムハーフはヒューイットがロディックをフルセットの末勝利した。そのスコアは76 67 76 。3セット連続のタイブレークだ。見たいぞー。録画に失敗したことが大変悔やまれる。
ヒューイットはアガシの棄権によりQFを戦わずしてSFに進出していた。対するロディックはQFで強敵モヤ相手に第一セットを落として苦戦した。その後2セットを連取して逆転勝ちしたが、ただでさえ、ロディックをお得意様とするヒューイット相手にこの蓄積する疲労の差は大きく響くだろう、ゆえにSFはヒューイットの圧勝かと予想されていた。
しかし、ロディックがんばったじゃないか。負けてしまったが苦手のヒューイットに苦しい状況で大健闘だ。どんなテニスをしたのだろう。とても気になる。再放送が待ち遠しい。
女子はクライシュテルスがフルセットでダベンポートを下した。昨日、怪我をしたわけでもないシャラポワを完封したダベンポート、その地味ながらも確実な強さに対し、堂々と打ち合いを制して見事に復活劇を演じたクライシュテルス。両者とも素晴しい。
ただ、ダベンポートはこのところ決勝で勝てていない。二週間前にようやく今季初優勝を遂げたばかりだ。クライシュテルスの戦線復帰は去年以上に混戦模様となるWTAの今年を暗示しているようだ。
さあ、男子はいよいよ決勝である。去年一度も勝てなかった相手に何度目かの挑戦をするヒューイット。策はあるのか。去年の全豪で当たった時はまだ互角だったように思うが、ウィンブルドン、全米、マスターズカップでは圧倒され完敗だった。同じテニスをすれば同じように負けてしまうだろう。皇帝フェデラーに自滅はない、いつも通りの試合をすればフェデラーが勝つ。ヒューイット次第の決勝戦の行方に注目しよう。
2005年03月21日 フェデラー、決勝戦連勝記録更新中
去年フェデラーは、出場したトーナメントで決勝まで進出した場合の勝率は100パーセント、全戦常勝無敗だった。1月の全豪オープンでサフィンに敗れ、シングルスの連勝記録は一旦止まったが、サフィン戦はSFだったので去年からの決勝戦での連勝記録はいまだに更新中である。昨日の時点で決勝戦16連勝。そして、インディアナウェルズで今日、決勝の連勝記録を一つ更新して17連勝を遂げた。
パシフィック・ライフ・オープン 男子決勝
フェデラー 62 64 64 ヒューイット
ヒューイットは一プレイ一プレイを見ると良いプレイは多々あったのだが、いい形でゲームを取ることが少ない。連続してポイントを取らせてもらっていない。フェデラーがそうさせていないのか。ヒューイットにまだ甘さがあるのか。
第二セットの第三ゲームでヒューイットは一ポイント中に二度までもトップスピンロブを使うロングラリーを制して観客席総立ちの拍手喝さいを浴びていた。フェデラーのコートカバーもヒューイット並みに素晴しいのだが、その切り返しを更に切り返し、自らもコートを縦横無尽に走りまわるヒューイットに観客は多くの声援を送った。しかし、その応援にレイトンは続けて答えることが出来なかった。
部分部分でなく試合全体を見ると、今日の決勝は去年の全米・マスターズカップの再現でしかなかった。昨日ロディックとの好試合をしただけにヒューイットは残念だ。時にチップ&チャージを見せるなど、色々な新しい試みを見せていたが、結果につながる所まで至っていない。このまま行けば、いつかフェデラーとの差は埋まるのだろうか。それともこのまま、フェデラーの王座を座して見ているだけなのか。
今日のヒューイットは右足に少し故障を抱えていたが、万全の体制であっても結果は同じだったろうと思えてしまう。そんな、決勝戦だった。
2005年03月23日 2005 MSインディアンウェルズ 雑感
セミファイナル第一セットでのフェデラーの出来はあまり良くなかった。アンフォーストエラーも多いし、ファーストサーブが入っているのにポイントが取れていなかった。風が強かったことも不安定な原因だったろう。それでもスコアを見ると余裕の勝利である。調子が悪くても使える武器を冷静に選択して、「強くて勝てる」テニスではなく、「負けない」テニスで最後に勝ちきる。相変わらず皇帝フェデラーのテニスは素晴しい。
フェデラーと対戦したカナスはいつも自信なさげな顔しているくせに、なんとなく強いというとても面白い奴だ。ネットに出てフェデラーにロブを上げられた時、「外へ出ろ」と両手で仰いでいた。去年もMSパリ大会でSFサフィンと当たるところまで進出している。そのとき試合中足を捻って転倒したサフィンを心配して、自分で試合を止めて審判に対応を求めたいい奴でもある。ハードコートでも強いアルゼンチン勢の中堅として存在感を増しているカナス。ナルバンディアン・コリアを筆頭にこのカナス、ガウディオ、チェラ、スクーラリとアルゼンチンは人材豊富だ。ガウディオ以外は皆ハードでも強い。スペインとアルゼンチン、この2大クレー強国をハードコートでデビスカップ方式の国別対抗戦を戦わせてみたい。さてどちらが勝つか。
今年全豪2回戦でフェデラーに対戦した日本の鈴木貴男はフェデラーを評して、「プレステーションでゲームをしている相手キャラのようだ」と語ったという。なかなか、言い当てて妙の表現だ。フェデラーというのは上半身の軸がほとんどぶれないまま、まるで氷上のアイスホッケーの選手みたいにすべるようにコート上を動く。そしていつも刀を振るようにラケットを鋭くスイングし、銃を撃つようにショットを打ってくる。まさにTVゲームに出てくる相手キャラのように崩れることなく、同じ姿勢で何度も何度も打ってくる。技術的にも体力的にも精神的にも崩れることのない、鉄壁のプレーである。
フェデラーは調子が悪いといいながらも素晴しいプレーも多々あった。珍しいフォアハンドのジャックナイフを見せた。カナスと素晴しいアングルショットの応酬の最後、バックのボールを大きく外側に回りこんでフォアハンドで打ち込んだとき、右足を前に出し、それを後ろに空中で蹴り上げ、その反動で肩を回して顔の高さのボールをジャンピングフォアで打った。あれはまさにフォアハンドのジャックナイフである。
私はコーチから「プロの選手は常にいい球を打とうとする。そのため、出来る限り同じ打点で打とうとして、常に同じ打点に入るべくフットワークを駆使してコート上を走り回る。常に同じ打点に入れるのがプロだ」と教わった。
しかし、フェデラーはハーフボレー並みのスーパーライジングから顔の高さまで、どんな打点でもナイスショットで打ち返す。「フェデラーのテニスはクラッシクだ」という人がいるが、むしろ打点にこだわらないという意味で、今までにない新しいテニスなのかもしれない。
またフェデラーはバックハンドが片手打ちであるにかかわらず、スピンでショートクロスを狙える。何気なく打っているがあれは凄い。両手打ちなら苦もなく打てるが片手だとあの打点は力を入れにくい。なのにスライスでなくスピンであそこに打って来る。打点だけでなくコースも自由自在のフェデラー、彼に死角はない。
SFの第二試合はナイトセッションだった。
ヒューイットはロディックから大事なところでサービスエースを取っていた。あれはロディック同様狙って取っているエースである。彼のサーブはそれほど速い訳でもないのだが、コースの厳しさとと読みにくさ、そして何より配球のよさでエースを取る。素晴しい。
ロディックは対ヒューイット戦1勝5敗、この日6敗目を喫したが内容は決して悪くなかった。ストローク戦でいいラリーが多くあった。ロディックはストロークが向上している。
第二セット第8ゲーム、ヒューイットがバックハンドからダウンザラインへエースを決め静かに「カモン」と拳を握った直後、ロディックはバックのクロスラリーからダウンザラインへ切り返し、エースを取り返した。このバックハンドダウンザラインのお返しの後、今度はフォアハンドでダウンザラインを放ち、ウィナーでブレイクポイント握るシーンがあった。ロディックのファンは見ていてさぞかし胸のすく思いだったろう。
ロディックがストロークから攻める、あるいはウィナーをとる場面は、フォアハンドからのクロスか逆クロスの場面であって、フォアもバックもストレートで攻められる選手ではなかった。それがストレートで攻められるようになっている。この試合ではヒューイットのお株を奪うトップスピンロブも何度か見せている。地味だが大事な部分で進歩しているのかもしれない。
ロディックの負けパターンは、最初パワーで押すが途中で押切れなくなり、接戦になり、やがて自分で精神的にか技術的にかで崩れていき、最後に自滅するという内容である。それが、今回はそのパターンではなかった。崩れないロディック。後は武器が増えればブレイクするかも知れないぞ。
コートチェンジの際にロディックのベンチでの様子がアップで映し出されていた。そのとき傍らにおいてあった彼のバボラのピュアドライブもアップで映し出されていたのだが、なんと、フレームにはびっしりと鉛が貼ってあった。
ロディックほどの選手なら専用にチューニングされた特注のラケットを使用しているかと思ったが、実はロディックはノーマルのピュアドラに鉛を張ってチューニングしているのだろうか。
ちなみにヒューイットが使用しているヨネックスのラケットはジュニア時代から愛用しているタイプのものを、カラーリングだけ新商品のものに合わせている物だと言うのがネット上での評判である。
TVの映像で決勝戦を見る限り、ヒューイットの足が負傷していたという印象はほとんどない。フットワークは相変わらず素晴しかった。しかし、実際は足の爪が裂けており、全治6週間の重症であった。
フェデラーは決勝戦開始直後にヒューイットの異変に気付いていたと試合後のインタビューで語っている。長いラリーが好きなヒューイットが早めにポイントを取りに来ていることでそれと気付いたという。しかし、仕掛けが早くなっているのは去年の後半からのヒューイットのテニスの特徴であり、この決勝戦に限った話ではないと如空は感じていたのだが、それ以外に違うと思わせる何かがあったのだろうか。
フェデラーは去年一年間、ヒューイットに勝ち続け、苦手意識を払拭したと思われているが、それでも前日はヒューイットを意識してよく眠れなかったと会見で語っている。フェデラーの胸の内で最も苦手意識があるのはやはりヒューイットなのだろうか。
全豪でクーリエがフェデラーにインタビューをして「ライバルは誰だ」と問い、フェデラーは「ヒューイット・ロディック・サフィン」を上げた。しつこいクーリエは「その中で一番警戒しているのは誰だ」としつこく迫り、フェデラーが出展しているチャリティー目的のオークションのラケットを3000オーストラリア・ドルで落札することを約束して口を割らせた。そのフェデラーが最も警戒する相手の名前、それはヒューイットだった。
去年の後半からフェデラーはヒューイットに圧勝するようになったが、その試合というのが、フェデラーの気合が開始直後から満ち溢れているような凄まじいプレッシャーのかけ方だった。今思えば、ヒューイットに苦手意識があり、かつ最も警戒する相手だからこそ、試合直後からトップギアのエンジン全開プレーで勝ちに行くためにあのような一方的なスコアになっているのかもしれないと如空は想像する。
ヒューイットはストレートで何度目かの敗北をしたにもかかわらず、試合直後のフェデラーとの握手の際、そのすがすがしい笑顔が印象的だった。スコア的にも内容的にも満足行く出来はなかったろうになぜだろう。
これは如空の推測だが、ひょっとしたら、怪我をしていて棄権したかったのかもしれない。満足にプレーできず、シャラポワを上回る3ゲーム連続0-6という串団子3兄弟という世にも情けない結果になるところだったのを、意外にまともな試合が出来て安堵していたのかと。
決勝戦を棄権することはなかなか出来るものではないらしい。
もちろん優勝への執念がその動機の第一ではある。が、プロの選手は更に観客にプレーを見せて楽しませなければならないという責任もある。
2004年の東レパンパシフィックオープンSFでドキッチはダベンポートに一方的にやられて惨敗した。このとき、実はドキッチも怪我をしていて棄権をしたかったらしい。しかし、SFのもう一試合が棄権で中止になったことを知り、棄権を撤回した。「高いチケットを買って見に来てくれた観客にシングルスを一試合も見せずに帰すわけには行かない」と言ってコートに立った。
まして決勝戦は一試合だけである。TV中継も会場に押し寄せた観客にも代わりになるイベントは何もない。舞台に立つ俳優やライブの会場で演奏する音楽家の如く、プロテニスの選手は観客の目を意識する。試合を見せずに帰せるか、という責任感は何所まで本音で何所まで建前かはわからない。しかし、プロ選手の意識の中に絶えず、観客の目があることは事実だろう。選手生命を脅かすような怪我ならば棄権するだろうが、少々の怪我ならば高いラウンドでの棄権は出来ない。それが情けない試合結果になろうとも、怪我を悪化させ、その後のスケジュールに影響を与えようとも。
ヒューイットの敗戦直後の表情は責任を果たせてよかったという安堵の表情の様に如空には見えた。
2005年03月26日 ロディックまでが戦線離脱
如空が仕事でひーひー言っている間にも世間ではツアーが進行中である。USAマイアミでナスダック100オープンが開幕している。先週のインディアンウェルズ同様2週間男女同時開催の「第5のグランドスラム」と呼ばれるビックイベントである。
男子はマスターズ・シリーズの第2戦にあたるが、インディアンウェルズでヒューイットが怪我をしてしまい、この大会をキャンセルしている。結果、第一シードフェデラー、第二シードロディック、第三シードサフィン、第四シードがコリアという布陣となった。しかし、ロディックが二回戦で負傷して棄権した。本命不在のボトムハーフは第5シードであるモヤに期待しよう。強敵ブレークを接戦の末下して勝ち進んでいる。ハードコートの大きな大会で結果がほしいところだろう。ハードコートの4強のうちヒューイットとロディックが戦線を離脱、サフィンは全豪優勝後燃え尽き症候群の真っ最中、フェデラーのところまでは誰が来てもおかしくない状況になっている。つい先日、ハードコートは四天王の時代だといったばかりなのに、この変わりようは何なんだ一体。
女子は当然ティアT大会、第一シードモーレスモ、第二シードシャラポワ、第三シードSウィリアムズ、第四シードディメンティエワである。インディアンウェルズで復帰したクライシュテルスに続き、この大会ではエナン・H・アーデンが復帰した。しかもシャラポワの山にいる。この二人は順当に行けばQFであたる。どちらも真価が問われる試合になる。何か恐ろしい戦いになりそうで興味津々である。
GAORAも当然男子SFと決勝戦を中継してくれる。今度は録画を失敗しないぞ。
2005年03月28日 ため息のマイアミ
MS第2戦マイアミ大会、ナスダック100オープン開催中。
しかし・・・・・
サフィン、3回戦敗退。
全豪の優勝劇は幻だったのか・・・・
モヤ、3回戦敗退。
去年のあの強さは何処へ行った・・・・
ロディック・ヒューイット負傷により戦線離脱。
一体誰がフェデラーを止めるのだ・・・・・
フェデラー、再び連勝中。
去年のオリンピック以降、ただの一度しか負けていない。
これだけ長期にわたって好調を維持するあの強さは一体何なんだ・・・・・
ため息ばかりの初春の暮れである・・・・・
2005年04月01日 マイアミに集う役者達
ヒューイットを欠き、ロディックも離れ、サフィンとモヤが途中で敗退していっても、それなりに役者をそろえてMS第二戦マイアミ大会、ナスダック100オープンは盛り上がりを見せている。
SFはフェデラー対アガシ、フェレル対ナダル。
全豪の時「フェデラーがあなたと違っているところは何所ですか」と記者会見で聞かれて、「すね毛は彼の方が多いよ」と答えていたアガシ。最近、テニスがマンネリ化しているような気がする。フェデラーと違うところはすね毛の多さ以外にも多々あることを示してくれ。
スペインのフェレル?きいたことないぞ、フェレーロに似ている名だが、そのフェレーロを破り、更にスペインの新星ナダルに挑む。フェレルとは如何なるテニスを展開する男なのか。SFまで来ればGAORAで試合の中継が見られる。さあ、フェレル君、とくとそのテニスを見せてもらおうじゃないか。
女子はクライシュテルスがモーレスモを 61 60 と串団子の一歩手前まで追い詰めて圧勝。世界ランクNo2相手に強い強い。
一方、エナンHアーデンを破ったシャラポワと妹セリーナを破ったビーナスの対決はシャラポワに軍配が上がった。
これで決勝はシャラポワ対クライシュテルス、恐ろしい戦いが予想される。もし、シャラポワが勝てば彼女はこの大会でウィリアムズ姉妹とベルギー勢を撃破することになる。セリーナは直接対決していないが、彼女に勝ったビーナスに勝ったのだから同じことだ。2002〜2003年にかけての4強に「もうあなた達の戻る場所はないのよ」と言わんばかりのこの勢い。キム、止めて見せろよ、シャラポワを。ここで負ければセリーナの如く後々引きずるぞ。
2005年04月02日 爺臭き若人、ナダル
フェデラーをフェデレと呼び、フェレーロをフェレロと呼ぶ人はフェラーをフェレルと呼ぶのだろう。伸ばす語感が好きな如空としてはフェレルでなくGAORAの中継の発音通りフェラーと呼ぶことにしよう。
そのややこしい発音のフェラーのテニスはクレーコート王国スペイン出身の23歳とは思えない、フラット系のテニスだった。解説によるとデビュー当初のヒューイットのように相手に攻めさせてカウンターショットで仕留めるスタイルなのだそうだ。しかし、今日のMS2005第二戦マイアミ大会・ナスダック100オープンSF男子第一試合の対ナダル戦ではその得意のカウンターショットを使うことなく敗れていった。
フェラーを一方的に退けた18歳のナダルのテニスは相変わらずジジ臭いテニスだった。深い球の連続の後のドロップショット、相手の逆を突くストロークの配球、何があっても動じることのなく程よい熱さを持続させ続けるメンタル、精神年齢は明らかに還暦を超えている。そういえば全豪の時もヒューイットの挑発的ガッツポーズにこいつだけは全く乗ってこなかった。
派手なスイングの割にはそれほどスピードがあるように見えない彼のストローク、それは彼の豪快なスイングの威力の多くが回転につぎ込まされているからだ。弾道が高い、バウンドが高い、アウトになりそうなボールがライン際で何故か落ちる、コートに入る。なんというか「ボールが深い」とか、ストレートに打つ」「クロスに打つ」という感覚でなく、「コートのコーナー(角)にボールを上から突き刺している」という感じだ。これぞトップスピンというところか。
ナダルはボールを打つ前に独特のタメがあるのでコースが読みにくい。その上フォアハンドが独特の手首の返し方をするので打点が前なのに逆クロスに打てる。そして相手の予想の裏をかくのが上手い。
フェラーにしてみれば、ナダルのショットを予測した方向に重心をかけたときには、逆方向に頭の上からボールが降ってきて、ラインを超えるかと思ってみていたらぎりぎりでストンと落ちてウィナーを取られた、そんな感じのシーンがいくつも見られた。
まだ中継を見ていないがもう一方のSFはフェデラーがまたアガシを一蹴したらしい。ナダルは去年フェデラーに勝利した数少ない選手の一人だ。その貴重な一勝を挙げたのが去年のこの大会、ナスダック100だった。しかし、今年はそうはうまく行くまい。どうなるか楽しみな一戦である。
2005 MSマイアミSFナイトセッション
MS第二戦マイアミ大会 SF
フェデラー 64 63 アガシ
第一セットも第二セットもサービスゲームのキープ合戦でフェデラーが共に1ブレイクでモノにしたという、しまった内容の試合だった。しかし、アガシがとても静かというか淡白だったと如空は感じるのだが・・・・
アガシはフォアもバックもあまりスピンをかけず、ライジングからパンとあわせるフラットをフェデラーのバックハンドに集めた。GAORA解説の丸山氏はフェデラーがバックハンドに来た球をフォアに回り込んで強打するのを防ぐためにタイミングの早いライジングで、しかもボールを跳ねさせないためにアガシはフラットで打っているのだろうと解説していた。しかも今日のアガシはスライスも多用していたし、ネットにもアガシにしては多く出ていた。
一方のフェデラーはスライスもネットも昔より極端に減っている。しかし、時々使う、それも効果的に。バックハンドのスピンも強力だ。しかし、あくまで主力武器はフォアだ。フォアだけでもアガシに勝てる。そんな感想さえ出てしまうほどに素晴しいフォアハンドのストローク力である。
短くなったボールを叩いてアプローチする時、普通はベースライン深く打つものだが、フェデラーのフォアはアプローチでショートクロスを狙ってウィナーを取る。何でそこに打てるんのだと思わずきいてみたくなる。
このマイアミ大会のカメラの視線はいつものTV中継より低かった。コートに立っている選手の視線にかなり近いアングルのカメラの映像を多用してくれた。それなのでよく判る。フェデラーのストロークは弾道の高いスピンと弾道の低いフラットをとても上手く使っている。フォアもバックもだ。ストロークの淡々とした打ち合いの中でも緩急、コース・バウンド・深さを変えて相手を揺さぶる。一方のアガシはスライスを使ったりネットに出たり、彼らしくない奇襲を対フェデラーに活用したが、肝心のストロークの打ち合いでボールが単調だった。
第二セット3−3でアガシに0-40のブレイクチャンスがあった。そのとき、ストローク戦で打ち勝って後はオープンコートにボールを入れるだけという状態になった。が、彼のバックハンドストロークはわずかにラインを超えた。そこからフェデラーは得意の連続サービスエースでジュースに戻してしまった。このあたりに格の差を感じてしまう。その後、長いジュースにはなるが結局フェデラーがキープ。直後のアガシのサービスゲームをブレイクし、次のサーブをキープして理想的な展開で試合を締めくくった。
アガシはこれで対フェデラー戦7連敗。辛いところだ。フェデラーを倒さない限り大きな大会での優勝はありえない。アガシに引退の二文字が大きく圧し掛かり始めている気がしてならない。
女子はクライシュテルスがシャラポワに打ち勝ち、ストレートで二大会連続優勝を決めた。粘りが身上のシャラポワに粘り返して、さらに打撃戦で負けなかったらしい。見事、これで今年のWTAが面白くなってきた。
さあ、あと数時間で男子決勝が始まる。ナダル、ハードコートでフェデラーを倒せるか。ここで勝てば赤土の上では更に有利になる。早めに芽を摘んでおきたいフェデラーはどうでるか。熱戦を期待しよう。
2005年04月05日 デジャブーのマイアミ決勝
2005年マスターズシリーズ(MS)第2戦マイアミ大会 決勝
フェデラー 26 67 (4) 76 (5) 63 61ナダル
第一セットにコートに立っていた男はいつものフェデラーではなかった。サウスポーから繰出される弾道もバウンドも高いトップスピンに対してアジャストするのに時間がかかったことを差し引いても第一セットのフェデラーは酷かった。
ストロークが明らかにふけていた。ベースラインに放たれたボールが10個分近くラインオーバーしていた。サイドへもボールがネットを越える瞬間に「アウトだ」とわかるほどはっきりとしたエラーをしていた。いつものフェデラーだってミスはする。しかし、ボールが落ちる瞬間までインかアウトかわからない、そんなきわどいエラーがほとんどだ。しかし、この日のフェデラーは、まるでいきなりストリングのテンションを10P〜20P緩めて飛びすぎるラケットを与えられた人みたいにボールをコントロールできていなかった。
ストロークがだめだと判断した皇帝はすぐさまネットプレーに切り替える。最近ではアガシやヒューイット相手でもストローク戦だけで勝ってしまうのでめったに出なくなったサービスラインの内側へラッシュを掛けるフェデラー。しかし、ナダルのパスはそのフェデラーを嘲笑うかのように抜いていく。
ナダルはバックハンドにおいてワイドに振られたときにオープンスタンスで切り返す珍しい選手だ。バックが両手うちの選手はリターンや自分の手の届く範囲で来たバックへの強打に対してはオープンで打つが、それ以外はスクエアで踏み込むか、クローズドでワイドに取りいくかで、基本のフォームがオープンスタンスという両手打ちバックハンドは珍しい。
そのオープンスタンスから放たれるバックハンドのパスが、これまたストレートでなくショートクロスに放たれ、フェデラーの眼前を通り過ぎていく。何度も抜かれて、ネットにつくのも自信なさげな態度になり、抜かれるたびに落ち込み俯いて帰って行く後ろ姿。まるでいつかどこかで見たような光景だ・・・・・そう、サンプラスだ。2000年2001年のUSオープン決勝でのサンプラスの姿にそっくりだ。史上最強のオールラウンドプレーヤーと言われたサンプラスもこの時期になるとストローク力が衰え、台頭してきた若手のグランドストロークにベースラインから対抗できなくなっていた。そのため、サーブ&ボレー、チップ&チャージでネットラッシュを掛けるしかなくなっていた。そのネットにラッシュを掛けるサンプラスを2000年はサフィンが、2001年はヒューイットがリターン&パスで抜きまくり、サンプラスの自信を根こそぎ砕いてしまった。
デジャブー(既視感)だ。自信なさげにネットにつくあのときのサンプラスの姿にフェデラーがダブって見える。2-6などという一方的なスコアで第一セットは終えた。
第二セット以降、若干プレーは持ち直したものの、不調であることに変わりないフェデラー。先にブレイクしてリードしているにもかかわらず、5-2からナダルに追い上げを許しタイブレークに持ち込まれる。TBではナダルに先行されなすすべもなく第二セットも落とした。
第三セット、依然フェデラーは不調である。ベースラインからのストロークはようやく入るようになったが、今度はミドルコートのアプローチとネットでのボレーでネットに引っ掛けることが多くなった。ネットを越さなければ何も始まらない。今度は先にブレイクを許してしまった皇帝、2セットダウンで1-4、絶体絶命のピンチである。デジャブーそのままに、あの日のサンプラスのごとくこのまま敗れてしまうのかフェデラー。
あのクレバーなフェデラーがまるでサフィンのようにミスしてラケットをコートに叩きつける。こんな光景を見る日が来るとは予想だにしなかった。しかし、このことが少しフェデラーの雰囲気を変えた。自身を失った男でなく、上手く出来ない自分自身に怒りをぶつけている男になっている。体の底からエネルギーが湧き上がっている。サフィンならこのまま自滅だろうが、フェデラーなら持ち直すかもしれない。
そして持ち直した。
ブレイクバックに成功すると、6-6で迎えたTBも先行されながら逆転して逃げ切った。セットカウント1-2、まだまだ油断できない。フェデラーは持ち直したとはいえストロークもネットプレーも依然普段の力を発揮できていない。しかし、第4セットが始まって、再びTV中継を見ている如空にまたデジャブーが襲う。しかし、フェデラーの姿にダブって見えたのは自信を失ったサンプラスではない。アガシだ。あの1999年全仏決勝、メドベデフ相手に2セットダウンからの大逆転劇で初優勝を決め生涯グランドスラムを達成したあの日のアガシに姿が似ている。ポイントを取った後、足早に自分のポジションに戻るあの後ろ姿、それがアガシにダブる、デジャブーだ。
あの日のアガシも前半はけがをしている訳でも体調が悪い訳でもないのに絶不調でエラーを連発していた。ストロークが全然コートに入らなかった。誰もがあきらめかけた第3セットでアガシは不調ながらもひたすらストロークを打ちつづけ、我慢のラリーを繰り返し、リターン力にも助けられてセットを奪取。そのままセットを3連取し、見事な逆転劇を演じて見せた。
フェデラーが第4セットを取り、セットオールになった時点で如空はフェデラーの勝利を確信した。根拠はない。ただあの日のアガシにその姿がよく似ているというそれだけのことだ。しかし、サンプラスのデジャブーは途中で消えたが、アガシのデジャブーは最後まで消えなかった。
最終セットは6-1。ナダルが力尽きたとはいえ、見事な勝利だった。
不調でありながらも試合を捨てず、自分を見失わず、我慢をし、建て直し、自分の出来る範囲内でベストを尽くし、智謀の限りを駆使して勝利を呼び込む。強い。プレー自体はレベルがいつもより落ちているのだが、それゆえに試合内容はフェデラーの偉大さを再確認することになった。
敗れたとはいえ、ナダルはこれでかなり自信をつけたことだろう。ハードでこれだけやれるのだ、得意のクレーなら決して負けない、そう思ったに違いない。フェデラーの不調を差し引いてもだ。
去年の年末のマスターズカップSFでサフィンは同じように敗れながらも接戦を演じて「フェデラーは手の届くところにいる」と実感し、直後の全豪SFでついにフェデラーを倒した。あの日のサフィンと同じようにナダルがなるかもしれない。
いよいよヨーロッパクレーコートシーズンが開幕する。全仏タイトルを狙うフェデラーとしては全仏が始まる前に一度ナダルと再戦しておきたいところだろう。そして、そこで完膚なきまでに叩きのめして自分の中の苦手意識とナダルの中の自信を取り除いておきたいだろう。
そうしておかないと全豪のサフィンのごとく全仏でナダルがフェデラーの覇業を阻止してしまうかもしれない。それこそデジャブーである。
2005年04月11日 復活のキム
GAORAで週末にパシフィックライフオープン女子の準決勝と決勝の録画が中継された。忙しい合間を縫って見た。
久々にその姿を見せたキム・クラシュテルスはSFでディメンティエワと対戦。ディメンティエワが特別調子が悪かったわけでもなく、クライシュテルスが特別調子が良かったわけでもない。なんとなくしまりのない試合でいつの間にかクライシュテルスが勝っていた。
さて噂の串団子、英訳するとダブルベーグルと呼ばれる60 60のパーフェクト・マッチをしたダベンポートは絶好調。シャラポワは特別調子が悪かったわけではないが、いつも全身から発せられている覇気がなかった。体力的にも連戦続きで疲れていたろうが、それ以上に精神的に疲れ果てていた様子だ。強いハートが最強の武器であるシャラポワにとってその精神力が衰えているということはガソリンの切れた車と同じだ。そこに「シャラポワとは長いラリーをしてはいけない。サーブとリターンで圧倒すればよいのだ」ということに気付き始めているNo1リンジーの強打が襲う。本当になす術のない試合だった。
そして決勝、クライシュテルスのクライシュテルスらしいテニスが戻ってきたのは第一セット4ゲームをダベンポートに連取されてからの6ゲーム連取による逆転劇からだ。
その容姿の好みは別にして、ヒンギス引退後のWTAにおいて如空が最もそのテニスを愛しているのはベルギーのキム・クライシュテルスのテニスである。あの小気味の良いぶんぶん回るバックハンド、薄いグリップから脇を開けて高い打点を強打する独特のフォアハンド。体操選手のように開脚してスライスで返球するあの体の柔らかさ。勝負どころで見せる凄まじいファイティングスピット。サーブもリターンもとにかくぽんぽんボールを入れてきて試合のテンポが良い。見ていて本当に気持ちが良い。如空的な視点で最も理想的なテニスをする女子選手であるキム・クライシュテルスが帰ってきた。
相手が絶好調のダベンポートであったことがますます、彼女の素晴しさを際立たせる。すきあらば引き付けてどかーんと来る大砲でエースを取るベテラン、ダベンポート。第一セットを6ゲーム連取されたくらいでは崩れない。温厚な彼女が審判に噛み付くほどのミスジャッジが続く不利な状況にもめげずに、第二セットを6-4で取り返す。
が、崩れないのはクライシュテルスも同じだ。テンポの良い強打のみが注目されるが、キムは相手を振り回してオープンコートを作るのが上手い。ボールが左右のベースラインとサイドラインのコーナーに丁寧に落とされて相手はコートの外に追い出される。そしてボールの出所がわからないフォアとバックのストローク、クロスと思えば逆クロス、逆クロスと思えばクロスと薄いグリップで強打できることの最大の利点、引き付けてコースを隠しての角度をつけたショットでウィナーを取る。これはダベンポートや男子のフェデラーの武器でもあり、相手は逆を突かれて動けない。ストロークウィナーが最も美しく決まる攻撃でもある。
最終セットは62、好調ダベンポートに対してストローク戦で打ち勝っての堂々の優勝である。素晴しい。久しぶりにWTAを見てみようという気にさせるテニスだ。この次の週のナスダック100オープンでもシャラポワを下して連続ティアT優勝を飾るキム・クライシュテルス。無冠の女王の肩書きを返上するべく、悲願のグランドスラムタイトル奪取を目指して進め、キム・クラシュテルス。応援しているぞ。
しかし、かわいそうなのは地味なNo1リンゼイ・ダベンポート、GAORAの中継でも彼女がセットを取った第二セットはほんの数分のダイジェスト、キムの取った第一、第三セットのみ完全中継だった。おい、GAORAまで、そんな扱い方をするのか、この偉大なるNo1に。現女王に対してもう少し敬意を払べきじゃないか。
2005年04月24日 来たぞ、来た来たガンと来た
マイアミ大会(GAORAの録画中継)女子SF
シャラポワ 64 63 V・ウィリアムズ
クライシュテルス 61 60 モーレスモ
ティアTでベスト4に進出できるところまでビーナスが来た。ビーナスはかつてのハードヒット一辺倒のテニスだけでなく、力を抜いてボールの配球でポイントを取るテニスも出来るようになっている。第二セットの最後のゲームはディースが延々と続く激しい内容になった。角度のあるクロスの激しい打ち合いが続く。どちらもなかなかストレートに切り返せない。最後はメンタルの勝負になった。最後にはビーナスのショットがラインを割り、疲れ果てたシャラポワ心からの叫び声を放つとコートに膝をついてへたり込んだ。シャラポワは相変わらずハートが強い。シャラポワのテニスはあまり好きではないが、あの勝利への飢え、ボールに対する執着心には深く尊敬する。
グランドスラムタイトルを取れていないNo1経験者、モーレスモとクライシュテルスの無冠の女王同士の対決はキムの9ゲーム連取を含む圧勝で終わっている。こちらは一方的な試合内容だが、キムの小気味よいテニスを堪能できてなかなか見ていて楽しかった。GAORA中継の解説は数日後に披露宴を控えている沢松奈生子だったが、沢松氏はクライシュテルスを「ドイツ車のようなテニス」と評していた。アウトバーンで100キロオーバーの高速走行でもほとんどぶれを感じず、静かに安定しているベンツやBMWの重厚堅実なイメージと重なるのだそうだ。
実は如空も同じような感想を持っている。フットワークが良いにもかかわらず、腰が落ちていて、肩と腰がぶんぶん回ってハードヒットを左右に打ち分ける。ドイツ車という表現もよいが、第二次世界大戦時のドイツの重戦車のイメージにも似ている。
ちなみにGAORAの中継中、沢松氏がしていた小話を一つ。
大会に参加する選手たちはそれぞれ自分の最後の試合が終わると賞金を小切手でもらう。このときホテルに払う宿泊費を現金化して残りを小切手でもらい、その現金でホテルの宿泊費を清算してチェックアウト、次の大会の待つ地に向かうのだそうだ。何でホテルの清算をカードでしないのだろう。あまり海外旅行をしない如空にはよく理解できない話だった。
2005年04月25日 来た人、来なかった人
GAORAで1ヶ月前のナスダック100オープン女子決勝の録画中継をしていた。あのシャラポワがラリーでキム・クライシュテルスの攻撃を防ぎきれずに敗れていく様が放送されていた。
「あの娘とは長いラリーをしてはいけない」とは対シャラポワ戦略を語る現No1ダベンポートの弁である。パワーサーブ・パワーリターンで圧倒して、早め早めに大砲を撃ってシャラポワのディフェンスを無効にしていしまう、という作戦でシャラポワに対する勝ち方をダベンポートは覚え始めている。ウィリアムズ姉妹はシャラポワに対して、圧倒できる大砲を持ちながらも長いラリーに付き合わされ、いつも最後に神がかり的なシャラポワのコートカバーとカウンターショットの前に大事なポイントを落とし、流れを彼女につかまれて敗北していく。ストローク戦で長いラリーをしてシャラポワに勝つことはダベンポートでもウィリアムズでも難しいのだ。その長いラリーで、キム・クライシュテルスはシャラポワからウィナーを取る。シャラポワのコートカバーを振り切りストロークでエースを取る。ショットの威力はリンジーや姉妹の方が上だろうが、コントロールと角度、ライジングでの切り返しの速さ、何よりその配球の見事さでクライシュテルスはリンジーや姉妹が勝てないストローク戦でのシャラポワに勝った。試合全体を見てもクライシュテルスは余裕の勝利であった。
キムは、この前の週にダベンポートを下し、この大会ではモーレスモを下した。そしてシャラポワをも倒す。みな特に調子が悪かった訳ではない。クライシュテルスが強いのだ。結果だけでは事実上のWTANo1といいたいところだ。しかし、エナンがいる。エナンもキムと同じこの時期に復活してきた。絶頂期のウィリアムズすら止めうる力の持ち主クライシュテルス、その唯一の天敵がエナン。二人の直接対決はそう遠くない頃に行われるだろう。その行方は大きく今後のWTA勢力地図を左右することになる。
2005年04月20日 宿命の二人、再び
先週のWTAチャールストンの大会ではエナンが優勝した。QFでダベンポート、SFでゴルビン、決勝でディメンティエワと難敵を下しての価値ある勝利である。これでキム・クライシュテルスに続きジャスティーヌ・エナンも復活を遂げた。クライシュテルスとエナン、ベルギー勢として何かと一括りにされる二人だが、プライベートでは世間で言われているほど仲がよい訳でもなく、かといって悪い訳でもなく、ただの同じ国籍の選手としてお互いをとらえているだけらしい。しかし、この二人には国籍だけではない繋がりというか因縁のようなものを感じる。
同じ時期にベルギーでジュニアの強化選手となり、ツアーで台頭してきたのも同じ頃、グランドスラムの決勝まで進出したときも同じ時期、その後3回も続けてグランドスラムの決勝で対戦し、共にNo1を経験し、同じ時期にスランプに陥り、そして今年、同じ時期に復活を果たした。面白いのはそれぞれのイベントで時期が重なってもまったく同時に二人が活躍する訳でなく、タイミングが少しずつ、ずれていることである。
スポーツライターの記事などでよく「月と太陽」と比喩されるこの二人。そのもって生まれた性格や生い立ちはキムが太陽でエナンが月であろう。しかし、後から上ってきた太陽の輝きが夜の女王である月の明かりを霞めて消し去ってしまうように、常に先をいく年下のキムはいまだにグランドスラムのタイトルに恵まれず、後を追う年上のエナンは常に最後にキムを越える。少し遅れて片方の光がもう片方の輝きを奪ってしまう。そのテニス選手としてのキャリアではキムが月でエナンが太陽になってしまっている。お互いがどれだけ相手のことを意識しているかはわからないが、意識の有無にかかわらず、天は二人にそういう宿命を与えたようだ。
キムの復活の光をエナンの輝きが再び打ち消すのか。最後の勝者は一人だ。そこにウィリアムズもロシア勢もダベンポートとモーレスモも絡んでくるはずだが、なぜかベルギーの二人はいつも他の強者の存在はかかわりなく、お互いを最大のライバルとして頂上を競い合うことになる。そういう宿命にあるのならば、今年もまた一昨年のごとくキムとエナンの年になるのかもしれない。
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