第019房 2005年 東レ・パンパシフィック・オープン TV観戦記 (2005/05/06)
2005年02月01日 注目を浴びる理由
知らなかった。GAORAって東レ・パンパシフィック・オープンの放送権を持っていたんだ。なんと初日からQFまで一日最長連続9時間(11:00〜20:00)の生放送である。去年までならばそんなものを見る人はよほどコアなテニスファンでしかなかったろう。しかし、今年はシャラポワがいる。テニス関連マスコミ業界の救世主にして最大のドル箱、マリア・シャラポワ。先週までオーストラリアでテニスの4大大会の一つが開催されていたことなどほとんど伝えていなかった各マスコミ媒体が、今朝は一転して「マリア様来日」を報じている。韓流の次は露流かい。グランドスラムに次ぐ規模であるティアTクラスのWTAツアーの大会が東京で開催されていることは知らなくても、「マリア様」がピンク色の上着をきて来日なさっていることは、新聞やTVを見ている日本人ならかなり知っているわけだ。まあヨン様を知っている人が皆「冬のソナタ」を見ている訳ではないのだから、これも同じことなのだが。
ちなみにGAORAが土日のSFと決勝を生中継しないのは地上波のTBSが生中継をするためだろう。高校野球のように二局でそれぞれ独自色を出しながら中継すればいいのに。
TBSとしては何が何でもシャラポワに決勝まで残ってもらいたい所だ。何よりファンがそれを強く望んでいる。今のシャラポワならその期待にはほぼ確実にこたえられるだろう。全豪のお疲れが出ませんように。順当にいった場合、ダベンポート対クズネツォワ、ディメンティエワ対シャラポワのSFになる。グランドスラムの準決勝と言ってもおかしくないほどの豪華な組み合わせだ。やはりティアTならばこうでなくては。去年のように途中でシードがコケまくることがないことを祈ろう。ファンのためにも、マスコミのためにも、何より日本のテニスのためにも。
アジアのタイではボルボ・オープンが開催されている。同じWTAツアーでもティアWではティアTの東京と比べるのも気の毒な地味な顔ぶれになるはずだった。第一シードのズボナレワ以外に知っている顔などいないはずが、今回はなぜかマルチナ・ヒンギスが出場しているのである。慈善事業目的の限定的出場で、事前に報道されていたためティアWにしては異常なまでの注目を世界から浴びている。久しぶりのヒンギス、出場するなら存分にテニスを楽しんでおくれ。ランキング急降下中のドキッチもひっそりと出場している。如空としては東京よりこちらの方が気になってしまう。
2005年02月02日 ヒンギスの居場所
ボルボ・オープン1R
ワインガートナー 16 62 62 ヒンギス
ヒンギスの3年ぶりWTAツアー参戦は初戦敗退で終わった。内容はよくわからないが、1セットを取ったところで終わってよかった。下手に勝つとシングルス完全復帰の欲が出て、また苦しいツアーの日々に戻ると言い出しかねない。それよりマルチナさん、ダブルスに出てみませんか。ダブルスは楽しい。シングルスのような悲壮感を漂わせてプレイしている選手はダブルスにはいない。たとえそれがグランドスラムの本戦であっても。みんな真剣勝負の中にも楽しみを求める余裕がある。なぜかウィリアムズ姉妹がダブルスに出なくなってしまったが、王者スワレス・ルワノパスカルペアを筆頭にナブラチロワ・ハンチェコワペア、杉山・ディメンティエワペア、その他雲霞のごとくいるスラブ系美女軍団、そして復活したダベンポート・モラリューペアなど、タレントと話題性に事欠かない。ヒンギスは杉山と同じ司令塔タイプで大砲タイプのハードヒッターと組んでダブルスをさせるとうまい。美人でパワーのある10代の大型選手なんかと組んでこの中に参戦したら面白かろうと思う。悲壮感を漂わせたテニスはヒンギスには似合わない。強くて、上手くて、小生意気で、なおかつ天真爛漫なる楽しさそうな雰囲気を漂わせてこそヒンギスだ。それはシングルでなくダブルスならば大いにこれからでも発揮できるものだろうと思うのだが。
2005年02月05日 東レSF 2005
テニスファンのみならず、日本中のメディアの関心を一手に集める東レ・パンパシフィック・オープンは順当に第一シードダベンポートと第二シードシャラポワの対決となった。波乱はその前のQFで浅越がディメンティエワを破ったことだった。しかし、さすがにティアTのSF、シャラポワは越えられなかった。第二セットをタイブレークに持ち込んだだけでも浅越は大健闘かもしれない。シャラポアはテニスが安定して来ている。バックハンドのダウンザラインが素晴しい。ビーナス・ウィリアムズ同様フォアハンドに問題があるが、そこにボールを集めさせない見事なストロークによる圧力がある。相変わらず、ボールを打つ時の声はでかいが、ガッツポーズが控えめになり、勝利の後の投げキッスもおとなしくなった。急速に大人の階段を登っている17歳。女子選手のピークは20歳直前に来ることが多い最近のWTAである。シャラポワは後3年は伸びると考えると、登りつめる先は何所まで行くのか、末恐ろしい。
トップハーフのSFでクズネツォワがダベンポートにストレートで敗れたことは残念だ。負けるにしてもセットを一つは取って欲しかった。
しかしTBS、平日に番組を急遽変更して、シャラポワの特番を組むのはよいとして、SFの浅越対シャラポワ戦の放送最中のCMで、シャラポワの映像のみで決勝戦のCMを流すのはスポーツ競技番組としてはまずいんじゃないか。今の時代、インターネットで試合の結果が放送前に分かっているとはいえ、試合の最中に、さも決勝に進出しているのはロシアの妖精だと伝えるような作り方をしては、シャラポワファンはよくてもテニスの試合を観戦したいものにとってはよろしくないのだ。しかも、SFのもう一試合の内容については最後に結果を触れただけ、いきなり「明日の決勝の相手はダベンポートになりましたが・・・・」って、もう一つのSFの内容はどんな試合だったんだ。クズネツォワの「ク」の字も語られない。GAORAさん、来年はTBSに対抗して生中継をぶつけてやってくれ。
2005年02月06日 シャラポワのテニスの本質
先日の全豪オープンの女子シングルス決勝でWOWWOW中継解説者の遠藤愛氏は「ボールと喧嘩するセリーナと、ボールとお友達になるダベンポートの対決」と語っていた。速いスイングでボールをひっぱたくセリーナと、ボールをひきつけてゆったりしたスイングでいきなりドカーンとくるダベンポートを評してこう語ったのだが、なかなか言い当てて妙である。ちなみに如空は同じ表現をロディックとサフィンの比較に使っている。同じビックサーブ・ビックストロークと大砲の持ち主だが、ロディックはボールを引っ叩くスイングであるのに対して、サフィンはゆったりしたスイングで大砲を打ってくる。そういう意味で性別は違えてもセリーナとロディック、ダベンポートとサフィンは似ているかもしれない。
このタイプ別で男女間の近い選手を探すとシャラポワのテニスは2001・2002とNo1になった頃のヒューイットに似ている。もちろんシャラポワも攻めるときはよく攻めているのだが、シャラポワの強さは「負けない」こと、相手の攻撃をとにかく真っ向受け止めて、ボールを拾い捲り、一球でも多く相手コートに返す。バックハンドからのウィナーばかり目に留まるが、シャラポワの真骨頂はここだ。そして、かつてのヒューイットもそうだった。ガッツポーズが問題視されるとこまでそっくりだ。
圧倒的に優位に立てない状態での戦い、接戦にあって作戦目標として重要なのは「相手の主戦力の非戦力化」にあるという。つまり「相手の武器を封じろ」ということだ。テニスはポイントの取り合いなので相手がポイントを取れなければこちらのポイントになる。引き分けは無い。相手の武器を封じれば勝つのだ。
ビックサーブをリターンで封じ、ストローク戦でも打ち負けない。ネットに出た相手にはパス&ロブで抜き、ドロップショットもロブもオープンコートへのショットもそのフットワークで追いつき相手コートに返す。勘違いしてはいけないのはけしてこれは「ミスを待つ」という消極的な戦法ではないということだ。現実にはカウンターショットによるウィナーの取り合いということになる。ヒューイットはそうして全米と全英を取り、マスターズカップを連覇してNo1に2度上り詰めた。
その同じ道のりをシャラポワはWTAで今、歩みつつある。
今日の東レ決勝の相手、ダベンポートは第一シードであるだけなく、GSタイトルを3つ、エントリーランキングで6度、年間最終ランキングでも2度もNo1になった。近く引退をすることを正式に表明し、今その時期を模索しているが、それにも関らず、その強さはその生涯で何度目かのピークにある。
そのダベンポートに第一セット、シャラポワはストローク戦で打ち負けなかった。それゆえにダベンポートは攻め手を失い、攻撃の手段を失い、6-1でシャラポワが取る。
第二セットでダベンポートはサーブ・リターンからシャラポワを圧倒、ストローク戦になる前にポイントを取る作戦に切り替えた。ダベンポートのサーブとリターンを防げなったシャラポワは3-6でセットを失う。
最終セット、ダベンポートのサーブを相変わらず攻略できないシャラポワ、しかし、リターンからの攻撃を持ち前のコートカバーの素晴しさでかわしてストローク戦に持ち込み、サービスキープに成功。6-6タイブレークに持ち込んだ。
そしてタイブレーク、数少ないミニブレークのチャンスをものにしたシャラポワはそのリードを死守し、追い上げるダベンポートを振り切り、見事に勝利した。
何度もバックハンドから素晴しいウィナーを決めたので、勝因はそこにもあるのだろう。しかし、やはり、今日の勝因はダベンポートの武器、ストロークとリターンを封じ、サービスを崩せないながらも崩そうと揺さぶりをかけてタイブレークをモノにしたところにある。
接戦になるのでアメリカ勢やベルギー勢のような圧倒的な強さを印象付けることはないが、彼女はさらに上を目指してひた進む。恐るべき17歳だ。
しかし、シャラポワの素晴しさに比べてあこぎなのはTBS、ダベンポートがセットを取った第二セットを1プレイも放送せず、シャラポワが取った第一第三セットのみを放送しやがった。編集だらけの継ぎはぎでいいから第二セットも放送してくれよ。全く。
追記
試合後のインタビューでダベンポートは足に故障を抱えて、遠いボールを走って追うことが出来なかった状態だったと語る。第一セットが終わった時点でコーチから棄権してもよいというサインさえ出ていたという。
凄いな、リンジー、まともに走れない状況で、サーブとリターンだけで、シャラポワをあそこまで追い詰めていたのか。強い。No1の称号は伊達ではない。そしてそんなダベンポートに勝ったシャラポワ、今度はベストの状況のリンジーに勝てるまで成長しておいてくれ。それがシャラポワのためだけでなくダベンポートの名誉を守る事にもなるのだ。
地位が上がれば背負うものも多くなっていく。
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