2004年 テニス界10大ニュース ベスト10
ヒューイットの復活と破局
2004年のATPはフェデラー一色に塗りこめられていたが、もし、フェデラーがいなければ、あるいは不調であればどんな年であっただろう。それは間違いなくヒューイットがロディックと壮絶なトップ争いを繰り広げた一年になったことだろう。
2004年ATP年間最終ランキングNo2のロディックとNo3のヒューイットは共に優勝4回、準優勝4回(ヒューイットはATP世界チームチャンピオンシップスを含む)でほぼ互角。二人とも大事なところでフェデラーに阻止されている。去年のNo1ロディックは順当な成績だったといえるが、ヒューイットのこの活躍を去年の末に予想できた人はどれくらいいるだろうか。
2001年2002年と連続して年間最終ランキングNo1になったヒューイットは2001年にUSオープン、2002年にウィンブルドンを取り、最終戦マスターズカップを連覇した。80年代生まれの男たちの中で頭一つ抜け出ていた。サフィンは2000年にUSオープンを取ってからさえない時期が続いた。フェデラーもサンプラスのウィンブルドン5連覇を阻止してから芝の王者になるまでに時間がかかった。クエルテンと共にクレーの双璧となったフェレーロは中々全仏を取れずにいた。ロディックに至ってはその期待をそぐ結果でグランドスラムの度にファンを失望させていた。ヒューイットだけが安定した実績を上げていたのだった。
しかし、2003年、フェレーロがついに全仏タイトルを取ったの皮切りに、フェデラーが全英を、ロディックが全米を取り、80年生まれの主役達が漸くその実力と期待に見合った結果を出し始めた。そして年が明けた2004年初頭、無敵をほこる全豪でのアガシを破ってサフィンが全豪決勝まで進出し、復活を見事にアピールした。しかし、その間、彼らをリードしていたヒューイットはスランプに陥っていた。2003年は途中から初戦敗退が続き、ウィンブルドンでは史上初のディフェンディングチャンピオン一回戦敗退を記録してしまった。後半はデビスカップに専念するためにツアーの参加大会を減らしたため、No1どころかトップ10からも陥落してしまった。
しかし、彼はけして諦めない男だ。ストロークとサーブを強化し、攻めてきた相手をカウンターショットで仕留めるプレースタイルから、自分からも積極的に攻め込める選手に進化して帰ってきた。2004年の最初の大会を優勝でスタートすると、コンスタントに好成績を挙げ続けた。特に苦手のクレーを克服して、ストロークの長いラリー戦で自ら打ち勝てるようになったことは大きな進歩だった。クレーコートシーズンをかつてない良好な成績で過したヒューイットは全英後、北米ハードコートシーズンで一気に加速する。MSシンシナティで準優勝の後、二つの大会に連続優勝、絶好調でニューヨークに乗り込み、USオープンのSFまでセットを一つも落とさず決勝まで来た。
しかし、今年はフェデラーがいた。USオープン決勝でもマスターズカップ決勝でもフェデラーの前に敗れた。
リターンの名手であるヒューイットはビックサーバーのロディックをそれほど苦手としていない。それどころか得意としている。それだけに、フェデラーがいなければロディックと争った上で3度目のNo1を手に入れることが出来たかもしれない。しかし、歴史に「もし」はない。フェデラーは蓋然と存在しており、来年以降も巨大な壁として立ちふさがるだろう。才能という面でヒューイットはフェデラーやサフィン・ロディックに少し見劣りする部分もあるかもしれない。しかし、彼は常にハンディキャップを克服するために努力と工夫を重ねてここまで来た。右足の踵を相手に向けるサービスフォームも、一度コースにセットしてからスイングするバックハンドも、振り遅れるのではないかと心配するくらい大きなテイクバックをするフォアハンドも、伝家の宝刀トップスピンロブも、アガシと双璧をなすといわれるリターンも、コートで誰よりも速く動くフットワークも、全ては彼が幼い頃から年長者の大会に出て、自分より大きくて速くて上手くて強い奴に勝つために、彼自身が工夫して編み出したテニスなのだ。今もなお、打倒フェデラーの工夫を重ねているに違いない。その成果を見てみたものだ。
ラフターの仲立ちで知り合い、婚約までして結婚直前だったクライシュテルスと破局したニュースは驚きの点では今年のテニス界最大のサプライズだったといえる。ゴルビンとの噂が公のニュースになる前に別れ様としたクラシュテルスがヒューイットを振った形になっている。ヒューイットの受けたショックは全米決勝敗退を上回るものであったらしく、マスターズシリーズ第8戦マドリッド大会を「プライベートな理由」で欠場してしまうほどだった。グランドスラムでは、お互いが早いラウンドで敗退しても相手が勝ち進んでいれば大会会場にとどまり、ファミリーボックスで見守り声援を送り続けた二人。アガシとグラフに匹敵する素晴しいカップルになるだろう期待していただけに残念だ。願わくば、この破局が来年以降のテニスに影響が出ないことを祈ろう。