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2004年 テニス界10大ニュース ベスト3

サフィン復活、アガシの全豪連勝記録ストップ。

 

今年のオーストラリア・オープン男子シングルスは近年まれに見る素晴しいトーナメントになった。第一週目から好ゲームが目白押し、人気者・実力者がそれぞれ自分のテニスを展開して名勝負を繰り広げた。二週目でトップシードが勢ぞろい、その中ノーシードで勝ち上がってきたのがサフィンだ。去年を怪我で棒に振り、ランキングを大きく落とした元エントリーランキングNo1にして2000年全米チャンピオンマラット・サフィン。QFで第一シードにして去年のNo1、アンディ・ロディックとぶつかった。この試合開始直前WOWWOW実況の岩佐氏の台詞が忘れられない。

「セミファイナルで待っているのはアンドレ・アガシです。アガシが待っています。」

全豪タイトルを4つも持つ生涯グランドスラマー、アンドレ・アガシ。2002年の大会を棄権したが2000年、2001年、2003年を優勝し事実上の3連覇を成し遂げ、さらにこの2004年もSFまで勝ち上がってきた。この時点で全豪オープン26連勝中。全豪の会場はまさにアガシの庭である。そのアガシへの挑戦権をかけて去年のNo1、ロディックと対戦するサフィン。試合はお互いがセットを取り合う凄まじい打撃戦となった。特に後半の3セットはどちらに転ぶか最後まで分からない接戦だった。そしてその接戦を制したのはサフィンだった。

去年の全米覇者にして第一シードロディックを破ったサフィンは去年の全豪覇者にして第4シードアガシと準決勝で対決する。ちなみにもう一試合は去年の全英覇者にして第二シードフェデラー対去年の全仏覇者にして第3シードのフェレーロである。なんと充実したベスト4だろう。ここ数年シードダウンが目立つ大会が続いただけに「今年は面白い年になるぞ」と予感させるセミファイナルである。

そして2004年のベストマッチにして歴史に残る名勝負、アガシ対サフィン戦がナイトセッションで始まった。

誰がなんと言おうと2004年のベストマッチはこの一戦だ。当代屈指のストロークが延々と続く、信じられないような激しいラリーの応酬が続く。一歩も譲らない接戦で第一セット・第二セット共にタイブレークに至るがサフィンがビックサーブで押切った。しかし、アガシは押されているわけではない。彼もまた生涯最高のパフォーマンスを発揮している。ミスの少ない引き締まった試合を第三セット以降老獪な攻めでサフィンを崩しにかかる。第三セットを7-5で取ると第四セットは崩れたサフィンから完全に流れを奪い、6-1でセットオールに持ち込んだ。
しかし、サフィンは崩れたままで終わらなかった。この試合ダブルフォールト0という信じられないハイレベルの集中力で自滅の手前で踏みとどまっている。そしてその我慢が最終セットで報われる。ちょっとした油断で先にサーブをブレイクされたのはアガシの方だった。1ブレイクのリードを巡って二人の緊張したゲームが続く。最後にサフィンはサーブインフォーザマッチをラブゲームでキープして3時間42分の名勝負を見事に締めくくった。

疲れ果てたサフィンは決勝でフェデラーになす術もなく敗れてしまったが、素晴しい復活劇だった。2000年のUSオープン決勝で完璧なテニスを演じ切り、グランドスラム最多勝利を達成したばかりのサンプラスを破ったマラット・サフィン。彼はその後、サンプラス戦の完璧なテニスが忘れられず、「あれが自分のテニスなんだ」とその再現に固執していたという。完璧主義者ゆえに自分のイメージする完璧なテニスが出来ず、試合の最中に切れてしまっていた。2000年以降も全豪ファイナル、全米と全仏でセミファイナルまで進出しているが、その才能と期待の割には実績が伴わなかった。そして去年は怪我をしてランキングを大きく落としてしまった。しかし、その間に彼は大人になった。「100点か0点か」という完璧主義者から「完璧なテニスでなくても相手を少しだけ上回ればいいのだ」と考えられるようになったのだろうか。この全豪でフェデラーの2倍以上の時間をコートで過したサフィンにとって、決勝までの道のりのその全てが接戦だった。しかし、その苦戦が彼を成長させた。シーズン後半はマスターズシリーズのマドリッドとパリを取り、マスターズカップSFでフェデラーの前に最強の挑戦者として立ちふさがったサフィン。彼の復活はこのアガシ戦から始まったと言っていい。

一方のアガシは、いつも勝ったときにしかしない観客席4方への投げキッスとお礼のお辞儀をサフィンに負けたこの試合直後にして、笑顔でコートを立ち去った。「あれは引退の挨拶ではないのか」と言われたが結局来年も一年間ツアーにフル参戦するという。しかし、サンプラスにとってウィンブルドンが庭であったように、アガシにとって全豪は自分の庭だった。そこで完璧なテニスをしておきながらもそれを上回るテニスに対して敗れたことは大きなショックだったに違いない。アガシは今年の全米でフェデラーと対戦し、ただ一人全米でフェデラーを苦しめたもののやはり敗れ去った。

毎週行われるツアーのトーナメントでトップ選手たちは何度も対戦している。しかし、これが世代交代の変わり目だったと誰しもが感じる一試合というものがあるものだ。
フェデラーにとっては、2001年にサンプラスのウィンブルドン5連覇を阻止した試合、そして今年の全米でアガシと接戦をものにした試合がそれに当たる試合になるだろう。フェデラーはサンプラスとアガシから次世代へのバトンを受け取った形になった。しかし、バトンを受け取ったのはフェデラーだけではない。サフィンもまた2000年の決勝でサンプラスを破り、そしてこの全豪SFでアガシを破り、バトンを受け取っているのだ。
サンプラスにアガシがいたように、フェデラーにもライバルがいて欲しい。サフィンよフェデラーを止めてくれ、独走を許すな。同世代で一番可能性を秘めているのはサフィンだと如空は信じている。

この全豪セミファイナルは色々な意味で重要な試合だった。歴史に残る一戦である。


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