第141房 「無意識の二度引き」 (2009/08/30)
ダブルスの新しいコーチは若いハードヒッターだった。サーブもストロークもボレーも、スイングがそれほど速くもなく大きくもないのに、ボールを潰して打つのですごい音を立てて打球が恐ろしい威力で飛ぶ。試合では強いフラットドライブでがんがん押して来るタイプなのだろう。今日は彼の初回のレッスンである。クラス全員の技量を見るという趣旨で一通りの基本レッスンをした。
「如空さん、遅い遅い、フォアの準備が遅い。」と新コーチはやはり他のコーチと同じことを指摘する。
「バウンドでタイミングを合わせてしまっていますよ。それでは遅いボールは打てても速い球を打てないでしょう。セットアンドムーブ、ラケットを準備してから動くのです。よく見ててください。如空さんのフォアを私が打ってみますから。」
とコーチが如空の真似をしてフォアのラリーをする。それを横で見ていた。そしてわかった。準備が遅いのでなく、ラケットを二度引きしているのだ。ラケットをセットしてからバウンドしたときにさらにサーキュレーションのテイクバックをしてしまっている。如空のフォアってあんなに大きなテイクバックをしていたのだ。ラケットをセットした位置からさらに背中に引いている。そして大きく回している。まるで振り遅れたヒューイットみたいだ。テイクバックをコンパクトにしようとしてラケットを前にセットしすぎていた。だからラケットを前にセットしてそこから振り出しているつもりが、セットしたところからさらに後ろに引いていたのだった。しかも無意識のうちに。自分のイメージではラケットを前にセットしたまま腰と肩が先に回って、後からラケットがついてきているつもりだった。でも実際は肩も腰も回る前にラケットを後ろに回していたのだ。これではだめだ。速い球がくれば振り遅れるはずだわ。コーチは「早くラケットを引いて、それでボールを待ってから打ってください。」と言い残すと、他のレッスン生を見るためにスタコラサッサといってしまった。違うのですよ、コーチ。如空は早くラケットを引いているつもりなのです。問題は引いたつもりの位置からラケットさらに後ろに引いてしまっていたのです。それも無意識のうちに・・・・でも気づかせてくれてありがとう。コーチが如空のフォアの真似をして如空に見せてくれたおかげで理解できた。他のコーチも「フォアのラケットの準備が遅い」と言っている如空のフォアの欠点がよくわかった。あなたはいいコーチだよ。言葉でわからないことを目で見せることで解らせてくれた。
さて、問題の解決方法は二つある。ラケットを引かずに打つ。つまりイメージとしてはリターンのように上半身を固めてテイクバックなしで打つのだ。そうすればテイクバックはショルダーターンのみになって二度引きすることがなくなる。ただこの方法だと全身がちがちになって、腕を鞭のようにしならせて打つことが出来ない。とても窮屈だ。もう一つは「大きくテイクバックをする」と割り切ってフォアで打つと決めたらすぐにラケットを背中まで回してしまうことだ。ラケットを引いてボールを待つのでなく、ラケットを背中で回しながらボールを待つのだ。ラケットのセットを早くするだけでなくスイングの開始を早くするのだ。スイングスピードが速くなるし、大きなスイングで腕を鞭のようにしならせて打てる。だがこれだとテイクバックが大きいことに変わりなく、速い球は振り遅れ、極端にバウンドが変化したボールにはタイミングを外されることになるだろう。
二つのテイクバックを臨応変に使い分けられればいいのだが、多分それは如空のレベルでは中途半端になってそれぞれの欠点が出ることになるだろう。
確率重視ならノーテイクバック打法だ、と決めて、その後のフォアは全てラケットを引かずに打った。グリップが薄い場合はひじを脇より前に出しておくようにして、その前に出したひじをさらに前に振り出そうとする。そうすると肩が自然とまわっていい球が打てる。脇を締めて、両肩の肩甲骨を下にぐっと下ろしてから振るとよい。ただこの打ち方だと、相手のボールに勢いがあるときはいいのだが、遅くて緩い球の時はこちらの打ったボールにも勢いがなくなる。やはり緩いボールにはある程度テイクバックをしてスイングに勢いをつけることが必要だ。
最後に試合をしたが、そのノーテイクバックフォアのおかげでいいパスがいっぱい打てた。ボールに勢いのあるときや打点が低いボレーを打ち返すにはこの打法はとてもあっている。だが、ストロークを深く打ち返すにはやや力不足になる。ボールが短くなって何度もピンチを招いてしまった。
今日の指摘でよくわかったのだが、如空はフォアを打つときに胸を張って打ちたいのだね。猫背になって胸を潰して背中を伸ばして打つのでなく、両側の肩甲骨を背中に寄せて胸を開いて上体を回したいのだ。そうしてスイングする方が楽だから。だから胸を閉じた状態でテイクバックしても、振り出すときに胸を開いてしまうのだ。今度のシングルスの練習ではヒューイットみたいに背中まで大きくラケットを回してサーキュレーションテイクバックを試してみよう。スイングの開始を早くすれば振り遅れないはずだ。テイクバックをコンパクトにしようとして二度引きしてしまっていては意味がない。二度引きするなら最初から引いてしまえ。そして胸を張ってスイングしよう。そうスイングをしたいのが如空の体質なのだから。ストロークのラリーならこちらのほうが上手くいくかもしれない。
シングルスの練習でヒューイットみたいに大きく背中まで回すテイクバックをしてフォアハンドを打ってみた。見事に振り遅れた。どんなにスイングの開始を早くしても、ボールの方が深く打たれると全然打てない。しかし、昨日試したノーテイクバック打法だとボールが深くに飛ばない。さて昨日のダブルスで指摘されたフォアの二度引きの癖をどう矯正するか。どうするか考えた。ラケットを大きく引くから、前に出すのが遅れるのだ。ラケットを引かずに右肘と右肩だけ引いてみよう。グリップをやや薄めのピストル型グリップで握り面を伏せ気味にして腰にすえる。ラケットは体より後ろに引かない。だからグリップもグリップを握る手も体の前に、そしてネット方向にある。右肩と右肘だけ引く。右肘は折りたたんでおけば肘を引いてもラケットは前に残る。代わりに左手はまっすぐ伸ばして打点を指差す。そしてキャッチ&スローの要領で打つ。引いてある肘はこれ以上引けないので、後は前に肘を出すだけである。右肘を前に出すためにはいやでも肩をまわさなければならない。肘を前に出す過程で折りたたんだ肘を伸ばしていく。ラケットヘッドのエッジからボールを削りに行くように横振りのスイングである。いい感じで打てるようになった。振り遅れが少なくなった。二度引きもなくなりそうだ。ちょうど大リーグの速球ピッチャーでサイドスローの投手がこんなフォームで投げている。そんな感じである。面がぶれやすいので、打点が狂うとフレームショットが多くなるが、振り遅れるよりはましだ。よし、これでフォアは何とかなりそうだ。あとはバックハンドだ。