テニスのお寺  電脳網庭球寺

 

山門

講堂

夢殿

僧房

経蔵

宝蔵

回廊

雑記

 

講堂

 

 

 

第095房 「役割分担と領域分担」(2006/05/13)



ダブルス強化週間の締めくくりは当然ダブルス大会への参加である。いつも参加しているレベルより1ランク上のトーナメントにエントリーした。天気予報は雨、朝6時に起きたがやはり雨、でも8時過ぎる頃には止み、オフィシャルは大会を決行した。

私のペアは左利き。センターにフォアを集めるか、ワイドにフォアを集めるか、未だに理想のポジションは見つかっていない。とりあえず如空のサーブとリターンでは雁行陣で行く方針であることを伝えると、「じゃあ、ワイドにフォアを入れましょう。クロスにフォアでストロークを打ちたいでしょう。」と相棒に言われて、とりあえず予選第一試合は如空がディースサイド(フォア)に入った。

さすがにレベルが高い。いつものダブルスとボールのスピードが違う。ボールの伸びが違う。しょぼいショットなど一つもない。相手は若い兄ちゃんと体格の良いおっちゃん。若い方はサーブとストロークは回転量が多い。積極的に前に出てくる。おっちゃんはハードヒッター。試合は如空ペアの相棒のサーブで始まった。如空はダブルス強化週間の成果を出そうと盛んにポーチに出る。オープニング・ゲームをキープ、続くリターンゲーム、おっちゃんのフラットサーブがセンターに集まる。しかし、今日の如空ペアはバックハンドの逆クロスが調子よい。しかっりとリターンを返してブレークに成功。先行で2-0。ここで如空のサービスゲームであるが、これがブレークされた。サーブは良く入っていたのだが、相手のストロークが強力でこちらが少し崩れた。だがこちらも相手の若い方のサービスゲームをブレークし返した。二回り目の相棒のサーブで、またポーチにガンガン出てキープ。4-1になった。ここで「この試合は勝った」と思ったのが甘かった。ハードヒッターのおじちゃんはフラットサーブを今度はワイドに入れてきた。あのコースは取れない。サービスポイントだけでキープされた。4-2になった。ここで如空のサーブ。3ポイント連取で40-0になった。ペアがあまりポーチに出てくれないので如空がサーブの後一回ストロークを打ってから前に出てポイントを取った。「一人舞台ですね。」と相棒が余裕の表情で言う。しかし、如空に余裕はなかった。今日の相手の二人はレベルが高い。ストロークも如空より上だ。ラリーを続けるとこちらが押される。如空が後ろの雁行陣だとポイントが取れない。だから前に出た。ゲームポイントで突然ディースコートからのサーブが入らなくなった。そこを畳み掛ける相手ペア、ダブルフォールと絡みでディースに戻された。そこから長いディース合戦が始まった。何度ディースを繰り返しただろう。殆どがディースでダブルフォールとかセカンドを叩かれアドバンテージ・レシーブ、でもアドコートからはサーブが良く入り、如空のバックハンドもさえて再びディースに戻す展開が何度も続いた。ディースサイドのサーブが入らない原因に気づいた。トスがやや手前に戻ってきているのだ。トスを前に上げてサーブ、ファーストがようやく入った。と思ったらいいリターンが来てポイントを取られた。アドバンテージ・レシーブでバックに入れた如空のサーブを相手はショートクロスにスライスリターンでエース。長いディースの末、再び如空のサービスゲームを落とした。ここで流れが相手に行ってしまった。若い方の相手が先ほどよりスピードはないが回転量が多い切れのあるスライスサーブを打ってネットに出てくる。切れを増したスライスサーブに対応しきれず、早い展開で4-4に追いつかれてしまった。それでも相棒のサービスゲーム。再び如空がポーチに出まくってキープで5-4にした。予選は6ゲーム先取、後一ゲームで勝てる。だが相手のおっちゃんも意地のフラットサーブをワイドにダブルファーストで入れてきてサービスゲームをキープした。5-5になった。次のゲームを取った方が勝つ。如空のサービスゲームだ。気合を入れてファーストを入れた。しかし、気合はあちらも入っていた。リターンエースを連続で決められ0-30、ここで痛恨のダブルフォールト。0-40で長いラリーになったが、最後に如空のフォアがネットして逆転負けを喫した。

試合が終ると雨が降り出し、止むことなく振り続け、大会は中止となった。

くそ、くそ、くそ、畜生!
如空のサービスゲーム、一つでもキープできていれば、いや、あの長い連続ディースのゲーム、あの時、ディースサイドのサーブが入らなくなったとき、トスの調整にすぐに気づいていれば・・・・ああ後悔ばかりが思い浮かぶ。バックハンドの調子は最高に良かった。バックのミスは皆無。パスをネット際に沈めて何度も相手ボレーヤーにミスさせた。逆クロスにも相手前衛に捕まることなく、いいコースに打てた。対照的にフォアのミスが多かった。スピンの掛かりが悪く、弾道が直線的になり、ネットもラインオーバーも多かった。
珍しくネットではボレーの調子が良かった。速いボールに対しては、いつもラケットを引いて食い込まれてしまうことが多いのだが、ボールの速さがいつも「速い」と思うスピードよりさらに速かったので、ラケットを引く暇すらなかったというのが現実である。だが結果として、体の前に突き出しているグリップを飛んでくるボールの下に入れるだけでボレーが返る。ああボレーってこういう風に打つのだと気づかされた。何よりポーチをいっぱい決めることが出来た。相手ペアは如空ペアより格上だったが、如空にポーチを何度も決められ少しパニックになっていた。あの混乱状況のままこちらが畳み掛けなければならなかった。しかし、あの長いディース、あそこで相手を落ち着かせしまった。落ち着かれたら実力通りの結果にしかならない。

試合後、「如空さんのサービスゲームのとき、一度もポーチに出られなかったね。」と相棒が言う。そこで初めて気がついた。雁行陣は前衛がポーチに出ることによって成立しているのだ。雁行陣で壁のようになることは出来ない。壁になるなら前に出て(あるいは後ろに下がって)並行陣にならなくてはならない。よく、「並行陣の方が攻撃的だ」という。何をもって攻撃と呼ぶかは人それぞれだろうが、攻撃的性格をより強く持たなくてはならないのは雁行陣のほうだ。前衛がポーチに出なくては雁行陣は武器を奪われた状態になる。だから、雁行陣か並行陣を選択する基準は前衛がポーチに出るかどうかで決まるのだ。前衛がポーチに出ないのなら、たとえネットプレーが苦手だろうが、ストロークが得意だろうが、その技量にかかわらず前に出て並行陣にならなくてはならない。そしてポーチに出るか出ないかは、これまたボレーが得意かどうかに関係ない。ポーチに出るかどうかは性格で決まる。「ここは僕の領域、そこはあなたの領域」と領域で分担をはっきりさせようとするタイプはボレーに自信があってもポーチに出てくれない。これは性格だ。他人の性格は変わらない。「ポーチに出てください」とお願いしても、躊躇して上手く出来ないだろう。後衛がいくらゲームメイクに長けている人でも、他人の領域を侵して、人の仕事を奪うような部分を前衛が心に秘めていないとポーチは出来ない。
こちらがボケても相方が突っ込んでくれなければ笑いは取れない。相方が突っ込んでくれなければ自分のボケに自分で突っ込みを入れて、自分でネタに落ちをつけなければならない。それが漫才だ。じゃなかった、それがダブルスだ。

相棒がポーチにガンガン出るタイプのときは後ろに下がって役割分担の雁行陣、相棒がポーチに出てこないタイプのときは前に出て領域分担の並行陣になる。如空の場合はこの方針でいったほうがよい。ポーチに出ない前衛にポーチが出やすくなるよう組み立てるのはまだまだ如空には難しい。サーブをセンターに入れるくらいが精一杯だ。前衛がポーチに出ないなら、ボレーが苦手だろうがスマシュに自信がなかろうがネットに出たほうがよい。ストロークだけ勝てる相手もいるかもしれないが、あるレベルからはストロークだけでは通用しまい。そう思った。

戻る