第031房 「ラブゲーム・キープ」(2005/10/20)
以前からボレーの時にグリップを強く握りすぎていることは自分でもわかっていたが緩く握ると勢いのあるボールに負けてしまう。程よい加減が自分でもわからずに長く悩んでいた。とある人に「自分の掌をダブルクリップに見立てて、グリップを掌ではさむように握ると良い」といわれてやってみた。確かに指の力が抜けて、拳でギューッと握る感覚はなくなり緩く握れているのだが、これでボレーができるのだろうか。
というわけでダブルスの練習で試してみた。予想とは逆で勢いのある球をボレーする時の方がこのグリップだった上手くいく。勢いのない球にはタッチで飛ばせないので自然と足を使って押すか当ててから振るか、どちらかにしなくてはならないが、当たる前に振ることはなくなるので良い感じだ。バックボレーもスイートスポットにきちんと当てればグリップが緩くても飛ぶものだとわかった。
ボレーの調子が良いのでダブルスの練習は楽しかった。雁行陣対ツートップの並行陣からのデフェンスの練習をした。相手後衛のクロスへの突き球を捌ききれず、クロスに深く返せずに相手前衛のいるストレート正面にボールが返ってしまったという想定でひたすらプレー、並行陣側はとっさにストレート正面にボールを流してしまった相棒をもう一人が追い越して後ろに下がれるかがポイントとコーチは言う。しかし、実際にはそんな迅速に陣形を変化させることなどできるわけもなく「オラー」「ウリャー」「ヨイショー」と掛け声ばかりが立派なボレー戦が応酬される。すぐにクロスの後衛にボールを戻して陣形をもとに戻す人と、そのまま2対1でボレー戦を強行するタイプの人いる。性格がでて面白いものだ。
二つ向こうのコートで初心者相手のレッスンを行っている風景が見える。コーチがサーブのデモンストレーションをしている。彼は如空より二つ年上、如空と同じ大人になってからテニスをはじめた人。あっという間にJOPのランカーにまで上り詰めた。脱サラしてコーチ業で家族を養っている。同じ大人になってからテニスをはじめた者でも天と地の差がある。彼はフォームが美しい。ゆったりしたモーションでサーブを軽く打つが、その動作が実にスムーズで自然だ。よく見るとトスアップの後、タメの時点で、右腰が右肩を追い越して前に出ている。ためのときに身体を捻っているのだ。そして捻られていた肩がゆっくりと前に引き戻され順次、肘、グリップ、ラケット面と前に振り出されていく。タメのとき前に出ていた右腰は右肩が前に出るのと引き換えに後ろに戻る。右足が後ろにけり出されているのは肩を回すために腰を逆回転させた結果なのが良くわかる。
ゲームになって、頭の中でその遠くにいるコーチのフォームをイメージしてサーブを打つ。スイングはゆっくりしているのに勢いのあるサーブが深いところに飛んでいく。4本連続でファーストが入った。4本ともあいてバックに狙って入れた。最初の3本はリターンが浮いて、前衛が豪快にスマッシュを決めてくれた。4本目、ペアのスマッシュを警戒して、ショートクロスにリターンが返球されたが、短い。如空は前に詰めて高い打点でバックハンドを強打。相手はラケットに当てるが、返球はペアの前に力なく漂い、ペアは4本目のスマッシュエースを豪快に決めた。ラブゲームでサービスキープ。なんと気分の良いテニスだろうか。良いお手本となるプレーヤーが身近にいることは幸せである。問題はこの効果が翌日には消えてしまうことである。身に付けるためにはひたすら練習が必要だ。
戻る