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第008房 ディアドラのニューシューズ (2005/05/06)

 

ラケットのチューニングを変えた。土曜日の練習でそのチューニングに好印象を受けた如空はスペアのラケットを全て同じ50Pのテンションにすることにした。昨日、ストリングの張替えに出して、今日ショップにストリングを張り替えたラケットを受け取りに行った。そこで「如空さん、リバウンド・エースのニューモデル入っていますよ。」と馴染みのスタッフが声をかけてくれた。如空が待っていたディアドラのクレー・オムニ対応シューズのニューモデルである。

如空はシューズに関してはイタリアのメーカーであるディアドラを愛用している。サッカー・シューズやバイクシューズなどで有名なメーカーだ。
如空はテニスを始めた頃、バックハンドは片手打ちだった。アガシの両手打バックハンドの素晴らしさに憧れながらも上手く打点がつかめず、片手のほうが上手く打てたので、憧れとは別に片手打ちのバックハンドでテニスに励んでいた。テニスに限らず、初心者はすぐに形から入る。大好きなアガシが手本に出来ない以上、バックハンドに関しては別のお手本を探さなければならない。当時、フェデラーはまだ頭角をあらわす前であり、サンプラスは絶頂期の面影がなく、史上最強のオールラウンダーというよりの確率の高いネットプレーヤーとなっており、片手打ちバックハンドストロークで「これだ」というスイングの持ち主はハードコートの上にはいなかった。クレーコートの上にいた。グスタボ・クエルテン、ローランギャロスの赤土にもっとも愛された男。その彼、グーガが当時身に付けていたのがディアドラだった。黄ばんだシャツに黄ばんだシューズ、そして大きなバンダナ、これがグーガのトレードマークだった。黄ばんだシャツとバンダナは恥ずかしくて身に付けられなかったが、黄ばんだシューズはハードコート用に購入した。ディアドラのシューズを履いたからといってクエルテンのバックハンドが身につく訳はない。しかし、初心者というのはそうしてテニスを楽しむものだ。ベテラン達の身なりを見ても、中には「あいつ、フェデラーを意識しているな」「サフィンのまねだ」「ロディックかよ」と一目でわかる単細胞はいる。これもテニスの楽しみ方の一つだ。

初めてディアドラのシューズを履いたとき、そのフィッティングに驚いた。靴の中で隙間がない。如空の足にぴったりの締め付け感。底の部分がしっかりしているのに、シューズ自体は固くない。つま先で立ったとき、しっかりと踵の底が足の裏についてくる。皮を使っている部分もあり、底もしっかりしているので持ちもいい。デザインも個性的だ。すぐにファンになり、オムニのシューズもディアドラにした。クエルテンがディアドラとの契約を終了させ、如空のバックハンドが片手から両手に変わっても、如空の足回りはディアドラだった。如空がその良さを吹聴して回ったので、如空の回りにはディアドラ・ユーザーがあふれている。販売促進にどれだけ貢献しているか。メーカーさんに感謝してほしいくらいだ。

ディアドラのテニスシューズで日本販売されているのは「リバンドエース」と呼ばれるシリーズと「プロテクション」と呼ばれるシリーズで、当初は片方が世界販売商品、片方が日本向けに開発された商品だったらしいが、今では両方とも日本人向けのワイド設計である。
数年前にオムニ・クレー用でスカイブルーの皮を全面に使ったシューズが出た。これが素晴らしくかっこいい。如空も早速手に入れようとしたら、回りの連中が先に購入してしまっていた。人と同じモノは使いたくない、天邪鬼如空はブルーが気に入りながらもやむを得ず同じ型のホワイトを使っていた。ところが、2年後、まったく同じ型で今度は全面ワインレッドの皮のシューズが出た。今度は見つけたその日に買った。仲間に自慢してやった。ブルーを履いている仲間達は「赤は派手だろう、赤は。30過ぎのオヤジが履ける色じゃねえ、」とけちをつけたが如空はデザイン的には大変満足していた。履き心地もさすがにディアドラで大満足だったのだが・・・・

実はオムニでのグリップ性能に少し疑問をもっていた。
テニスシューズは大きくハード用とクレー用に分けて作られている。「オールコート」用と表記されているシューズは事実上ハードコート用である。オムニ・クレーでは不向きだ。また「オムニ・クレー」用と表記されいるシューズは事実上クレー用である。同じ砂の上でもアンツーカーやクレーの土と人工芝に砂を仕込んだオムニではグリップの原理が違う。

クレー用はある程度大き目の薄い輪の溝がついている。これはオムニの人工芝には引っかかりにくい。オムニ専用シューズは小さくで長い円筒状の突起が密集してついている。この小さく長い突起が人工芝の中に砂を押し分けて入り込みグリップを生むのだ。
オムニコートは日本ダンロップの親会社住友ゴムの特許商品だ。メンテナンスフリーの柔らかいコートとして日本では広く普及しているが、海外ではほとんど存在していないサーフェイスである。それゆえに海外メーカーのシューズはクレー用であり、オムニを意識した作りは国内メーカーのシューズにしか見られなかった。ダンロップ・アシックスがオムニ専用を出している。しかし、日本市場は大きいからか、海外メーカーもオムニ専用シューズを出し始めた。ニューバランスはかなり以前からオムニ専用があるらしい。ナイキも数年前にオムニ専用シューズを出した。しかし、ディアドラはクレー用しかなかった。薄い輪を使わず半球形の突起がイボのようについていてオムニでもなかなかよい性能ではあるのだが、年間のテニスの約7割をオムニの上で過ごす如空としてはオムニ専用シューズがほしかった。

ディアドラのワインレッドがヘタってきて、買い替え時期がきていた。今度は履き心地とデザインだけでなく、オムニでのグリップも重視しようと思い、アシックスに乗り換えようと思っていた。アシックスのオムニテレインを候補に上げていた。
JOPやジュニアの大会に行くと気づかされるのだが、ウェアはヨネックス・ダンロップ・アディダスを筆頭にさ様々なメーカーが乱立しているが、特に成人男性の大会で目立つのはシューズがアシックスである選手が多いということだ。ハードでもオムニでも。JOP現役ランカーであるコーチによると「シューズだけはアシックス」という選手が多いのだそうだ。日本人の足型にもっともフィットし、かつグリップ機能も万全というアシックスのシューズに皆ほれ込んでいるという。地味なデザインもむしろプロユースのギアとしてそのらしさを演出しているとも言える。そんな訳でアシックスのオムニ専用シューズ、オムニテレインを試してみようと考えていた。

しかし、小物の買い物のついでにテニス専門店のスタッフにそのことを告げると、スタッフいわく「今度のディアドラのリバンドエースは日本のオムニを意識した底になっているそうですよ」と悪魔のささやき。
新しいリバンドエースを見るまでシューズの買い替えを待ってみるかと待ちつづけて今日が来た。

新しいリバンドエースはスタッフの悪魔のささやき通り、オムニ用に細かい円筒状の突起が密集したアウターソールになっていた。デザインは地味だがアシックスのオムニステインよりかは如空の好み近い。出来ればイタリア本国で販売されいる全面シルバーにブルーのラインのハードコート用シューズのデザインでこのシューズを作ってほしかったが、贅沢は言うまい。なんと言っても足のフィット感が向上している。足の甲の部分にあたる「アッパー」がそのまま土踏まずと外側の側面まで繋がっていて靴下を履くように靴のインナーが足にフィットする。設計をかなり変えてきている。しかも良い方向に。思わずその場で一足買ってしまった。

おニューのシューズを身につけて上機嫌でコートに向かい、さあ、シングルスの練習だ、と意気揚揚としていたら突然大粒の雪が強風と共にやってきて大阪の街を包み込んだ。あっという間に白く覆われ尽くしたコートを見て呆然と立ち尽くす、コーチと如空と仲間達。結局、新しいシューズのお試しは来週末に持ち越されたのだった。


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